デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2021.9.1

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

5章 教育
1節 実業教育
12款 高千穂高等商業学校
■綱文

第44巻 p.500-501(DK440112k) ページ画像

大正3年10月17日(1914年)

是日栄一、当校講演会ニ臨ミ、戦争ニ関スル感想ヲ演説ス。


■資料

集会日時通知表 大正三年(DK440112k-0001)
第44巻 p.500 ページ画像

集会日時通知表 大正三年        (渋沢子爵家所蔵)
九月廿一日 月 午後二時 川田鉄弥氏来約(兜町)
   ○中略。
十月十七日 土 午前十時 高千穂高等商業学校講演会
             戦乱に関する御感想を御演説の約(雨天ナラバ十八日)


竜門雑誌 第三一八号・第一一―一二頁大正三年一一月 時局観 青淵先生(DK440112k-0002)
第44巻 p.500-501 ページ画像

竜門雑誌 第三一八号・第一一―一二頁大正三年一一月
    時局観              青淵先生
 - 第44巻 p.501 -ページ画像 
  左の一篇は十月十七日青淵先生が高千穂小学校の講演会に於て講演せられたる要領にて、固より其詳を悉せるものに非ざる如くなれども、全編悉く金玉の文字にして、竜門社員は勿論一般国民の服膺すべきものと信ずるを以て、特に本欄に掲ぐるの栄を有す。
                        (編者識)
戦争は、実業界に、最も悪影響を与ふるものなるが、本年七・八月来局面は、いよいよ、不穏となり、遂に我国も亦戦乱の渦中に投ずるに至れり。予の立場より戦乱を説くは、甚だ難事なれども、上戸は、酒の利を知り、下戸は、酒の害を知る。予は実業界にありて、戦乱の影響を受くるものなり。富国強兵は必ずしも、国富めば兵強しといふ意にあらず。国富みて、兵却つて弱くなること甚だ多し。兵強き時も、国富むとはいふべからず。富と強兵とは取離して考ふべきものなり。而して富国と強兵とは、共に充分に発達せしめざるべからず。個人に就ても、人格と財産と、共に等しく必要なり。仏国の如き、其の富天下に冠たるの観ありしも、今現に行はるゝ戦争の実状を見れば其の兵は、必ずしも天下に冠たりといふ可からず。予は、予の立場より、平和を主張する者なれども、国に富力と武力との両立を必要とすることは、堅く信ずる所なり。諸子も亦一方に勇敢なる軍人となり、他方には、有為なる実業家とならざるべからず。明治七年以来、十年毎に、我国に兵乱起れるは、奇異なる現象なり。七年には朝鮮事件あり。十七年には、台湾征伐あり。二十七年に日清の役起り、三十七年に、日露戦争となり、四十七年に当る本年には、亦今の戦争あり。戦争毎に我国の経済界に与ふる打撃は、決して少からずと雖も、一般には、人心緊張の結果、却つて国運の発展を見たり。為めに戦争は呪ふべきものにあらずして、祝福すべきものなりとの誤解をなすものすらあり。蓋、戦時国運の発展を見るは、戦争其のものゝ利益にあらず、戦争のために、一般人民の困苦に打克つ力強くなり、協力一致して、業に当るの結果なり。戦争は、義戦たるを要す。我国、幸に義戦を重ぬること数回、今亦友邦の為めに、義戦を行ふ。宜しく直接兵事に関係なきものは、志気を緊張して、之れを善用せざるべからず。即ち、自重自愛を望む所以なり。