デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

5章 教育
2節 女子教育
1款 日本女子大学校
■綱文

第44巻 p.660-663(DK440181k) ページ画像

大正13年10月25日(1924年)

是月二十一日ヨリ同二十七日マデ、当校ニ於テ国産品展覧会ヲ開催ス。是日皇后陛下ノ行啓アリ、栄一奉迎拝謁ス。


■資料

集会日時通知表 大正一三年(DK440181k-0001)
第44巻 p.660 ページ画像

集会日時通知表 大正一三年         (渋沢子爵家所蔵)
十月廿一日 火 午九時《(前脱)》ヨリ四時マデ 日本女子大学国産奨励会(同大学内)
   ○中略。
十月廿五日 土 午前八時四〇分マデ 日本女子大学ヘ御出向


日本女子大学校書類(一)(DK440181k-0002)
第44巻 p.660-661 ページ画像

日本女子大学校書類(一)          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
国産品奨励展覧会
一、趣意
  近年我国の貿易状態を見ますと年々輸入超過を増すのみにて、若し此の成行に任せて推移すれば、我国家経済の前途は真に憂慮に堪えないものがあります。之れはどうしても輸入を抑制し、輸出を促進する途を講じなければなりません。そして此の問題の解決は直ちに消費者殊に其の主なる婦人の覚醒に待つべきことは申すまでもありませんが、先づ優良なる国産品の生産を奨励して輸入を抑制し、進んで輸出の促進を計ることが急務だと思ひます。我が日本女子大学校に於てはかねて家政学部を始め、其他の学生に課して此の国家経済の問題に対して、婦人が消費者としての立場から輸出輸入に関する智識並に国産優良品奨励に就て調査研究中でありましたが、今日の時局に顧みまして広く世間に紹介して、一般婦人の協力に俟たねばならぬことを痛切に感ずるのであります
 即ち今秋十月を期して、左記項目に掲ぐるところの研究発表会ともいふべきものに命名して国産品奨励展覧会を開催することになりました
 - 第44巻 p.661 -ページ画像 
一、期日 大正十三年 自十月二十一日至 二十六日
一、場所 東京市小石川区高田豊川町日本女子大学校内
一、目的
 (一)本邦に於ける輸出入及生産消費に関する智識の普及
 (二)国産品の奨励
 (三)衣食住に対する将来の方針
○下略


日本女子大学校書類(一)(DK440181k-0003)
第44巻 p.661 ページ画像

日本女子大学校書類(一)         (渋沢子爵家所蔵)
拝啓、益御清穆被為渉奉慶賀候、陳者今回開催の国産品奨励展覧会に来る二十二日午前九時十五分 東伏見宮・東久邇宮・竹田宮・賀陽宮各妃殿下台臨の御沙汰を蒙り候間、不取敢御通知申上候 敬具
  大正十三年十月二十日
           日本女子大学校長 麻生正蔵
    子爵 渋沢栄一殿


日本女子大学校書類(一)(DK440181k-0004)
第44巻 p.661 ページ画像

日本女子大学校書類(一)         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
拝啓、陳者当校国産品奨励展覧会に来ル二十五日 皇后陛下行啓の御沙汰を蒙り候、当日は午前九時十五分着御の御予定に有之候間、御差支無之候ハヾ午前八時四十分までに御来校御奉迎被成下度、此段御通知申上候 敬具
  大正十三年十月二十一日
            日本女子大学校長 麻生正蔵
    (宛名手書)
    子爵 渋沢栄一殿


日本女子大学校書類(一)(DK440181k-0005)
第44巻 p.661 ページ画像

日本女子大学校書類(一)         (渋沢子爵家所蔵)
拝啓、来ル二十五日皇后陛下行啓之際御来校御奉迎送之儀に付昨日御通知申上候処、不慣之者にて同夫人之御宛名を相漏し候事本日心付申候に就ては、当日は前例の通り令夫人御同伴被成下度此段御断り旁々改めて御通知申上候 敬具
  大正十三年十月二十二日
           日本女子大学校長 麻生正蔵
    子爵 渋沢栄一殿


家庭週報 第七六六号大正一三年一一月七日 自他両得の企て 日本女子大学校評議員子爵渋沢栄一氏談(DK440181k-0006)
第44巻 p.661-662 ページ画像

家庭週報 第七六六号大正一三年一一月七日
    自他両得の企て
            日本女子大学校評議員子爵 渋沢栄一氏談
 国産品展覧会につきまして、私にはその道の事はわかりませんから御批評する事は出来ませんが、私が女子大学の事につきまして、従来微力を捧げて居る関係上、一言感想をのべてみやうと思ひます。
 元来、私は女子大学の事につきましては、教務とか教育の方面は教育家でないので御相談にのつては居りませんが、大勢の方針に意見を加へたり、殊に経営、維持といふ方面につきましては、物質上充分な
 - 第44巻 p.662 -ページ画像 
事は出来ませんでしたが、前成瀬校長の在世の時から、森村男其他各方面の力を俟つていさゝか尽す所あつて今日に到つたのであります。勿論女子大学をして、今日の様に進歩せしめたのは前校長及現校長の熱心な御丹精によるのであります。かやうに森村男爵と私とは創立当初から財務委員として微力を捧げて参りましたので、私は今回のお催しの事を、麻生校長から聞きました時、女子大学はさなきだに財政は豊かではないのに、金がかゝりすぎる様な事があつてはと懸念したのでありますが、校長から「その様な御心配はなさらないでもよろしいでありませうから」といふ事を聞いたのでありました。
 開会第一日には雨の降つた折柄非常にせわしかつたので、ゆつくり見ることが出来ませんでしたが、一見した所によると、設備が非常に宏大でかつ完備して居りましたので、経済上の予算に変改のない様にと、心ひそかに案じたのでありましたが、殆んど自給自足の形で成し得られるといふ事をきゝまして大いに安心したのでありました。
 さて、このお企ては大変面白い事であると思ふのであります。それは経済とか家庭とかの方面に関する展覧会を女学校で催す事は、学生は一つには世間へ教へ、一つには自らの為に学ぶことゝなるからであります。
 展覧会の内容につきましては、さきにも申す通り、私には素養がありませんから、よくはわかりませんが、又一々の数字を吟味しこまかい説明に注意する暇もありませんでしたが、食物の部に於ても、衣服の部に於ても、いづれに於ても一目にして又深く心を労しなくてもよく解る様に、その上見る者をして興味あらしむる為趣味の加へられてゐた事はなかなかの御手際であつたと思ひます。
 終りに申し述べるのも恐れ多い次第でありますが、特に廿五日には皇后陛下の行啓を仰ぎ、私もその御供を致しましたが、陛下には総てを御丁寧に御覧遊ばされ、校長及び其の向々の人達から申し上げる御説明を快よく御聞きとりあそばされたといふ事は、まことにありがたい次第で、感泣に堪へないところであります。(文責在記者)


家庭週報 第七六六号大正一三年一一月七日 皇后の宮の行啓と 六宮妃殿下の台臨とを仰ぎ奉りて 日本女子大学校長 麻生正蔵(DK440181k-0007)
第44巻 p.662-663 ページ画像

家庭週報 第七六六号大正一三年一一月七日
    皇后の宮の行啓と
      六宮妃殿下の台臨とを仰ぎ奉りて
                  日本女子大学校長 麻生正蔵
  一、六宮妃殿下の台臨を迎へ奉りて
 愛国の祈りと熱誠と汗とを以て研究準備された、神愛実現の一形式である我校国産品奨励展覧会は、二十一日午前九時、招待日として開会された。
○中略
越えて二十二日は、忝くなくも東伏見宮・竹田宮・東久邇宮・伏見若宮・賀陽宮・昌徳若宮の六妃殿下を御迎へ申し上ぐるさちよき日であつて、天気は皇族日和と急変し、雨は殆んど止んだ。
○中略
  二、国母陛下の行啓を仰ぎ奉りて
 - 第44巻 p.663 -ページ画像 
 二十五日は畏れ多くも国母陛下の行啓あり、私共教職員学生及び本校評議員並に桜楓会員は校内の御途筋の両側に堵列して陛下を送迎し奉るの特恩に接した。御着は午前約九時半、直ちに便殿へ御案内申し上げ御小憩の後、御座所に於て学校代表者として、私及び渋沢子爵へ拝謁を賜はり、他の教職員一同へは、廊下に於て一々親しく拝謁を賜はり、感泣に堪へなかつたのである。特に拝謁を賜はつた際に忝けなくも『有益なる企である』といふ御言葉を拝し奉り、私は誠に恐懼措く所を知らなかつたのであると同時に、感恩の情で胸が一杯となつたそれのみでなく、学校へは金一千円を賜はり、展覧会関係者へは酒肴料として金五百円と菓子あまた賜はり、加ふるに渋沢子爵、私及び塘幹事長・井上部長へは御菓子を賜はり、特に私には立派なる袴地一反を賜はり、重ねがさねの聖恩に沐浴し、感極つて泣かざるを得なかつた併しそればかりでなく聖恩は尚成瀬校長の枯骨にも及んだのである。陛下は故成瀬校長の宅と墓とに女官を御遣はし遊ばされ、御苑の菊花一対を成瀬校長の霊に御下賜あらせられた。何といふ有り難い、尊い意味深長の御思召であらう。故成瀬校長の霊も私達と共に感泣して居るに相違ないのである。
 陛下は大森大夫以下供奉員を従へさせ給ふて午前九時四十五分から燃料、食物、衣服の三館を順次御廻覧あらせられ、最後に御手植の松を御覧ありて便殿へ御帰還、御昼餐後、零時四十五分より、住居館及び参考館を御巡覧あらせられ、二時十分御発輦、還御あらせられた。
○下略


家庭週報 第七六六号 大正一三年一一月七日 □日本女子大学校国産奨励展覧会(DK440181k-0008)
第44巻 p.663 ページ画像

家庭週報 第七六六号 大正一三年一一月七日
    □日本女子大学校国産奨励展覧会
 別項の通り日本女子大学校では、十月廿一日から同廿七日迄(予定は廿六日迄であつたが、開会の初めに雨天多く、また一般情況により諸方面より延期をすゝられしにより、廿七日迄日延)国産奨励展覧会が開かれた。開会当時より廿二日には、六宮妃殿下の台臨を仰ぎ、越えて廿四日には東伏見宮妃殿下の再御台臨あり、廿五日には畏くも 皇后の行啓を仰ぎ、又開期中を通じて諸方面の有識者の来覧多く特に文部・大蔵・農商務の三大臣来観ありて多大の奨励を与へられ非常な盛会であつた。展覧会開催中入場者は三万を超えたのであつた。