デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

5章 教育
3節 其他ノ教育関係
25款 財団法人日本国民高等学校協会
■綱文

第46巻 p.114-127(DK460030k) ページ画像

大正15年5月(1926年)

是ヨリ先、井上準之助・石黒忠篤等、農村青年ノ訓育養成ヲ目的トセル日本国民高等学校ヲ設置セントシテ当協会ノ設立ヲ企図シ、大正十四年十二月許可セラル。栄一、其趣旨ヲ賛シ、是月、名誉会員トシテ基金一口金二千五百円ヲ寄付ス。


■資料

青淵先生職任年表(未定稿) 昭和六年十二月調 竜門社編 竜門雑誌第五一九号別刷・第二二頁 昭和六年一二月(DK460030k-0001)
第46巻 p.114 ページ画像

青淵先生職任年表(未定稿)昭和六年十二月調 竜門社編
             竜門雑誌第五一九号別刷・第二二頁昭和六年一二月
    大正年代
 年 月
一四 四 ―日本国民高等学校協会名誉会員―大、一四、一二、―社団法人〃〃―昭和六、一一。
   ○後掲資料ニヨレバ、名誉会員ハ金二千五百円ノ寄付者ヲ以テス。且ツ設立発起人連署ノ寄付要請ノ書状ハ大正十五年五月付ノモノナリ。依ツテ右ニ就任ヲ十四年四月トナスモ、綱文ハ姑ク寄付要請ノ月次ニ依ル。


社団法人日本国民高等学校協会議事録 其ノ一 第二一―二六頁刊(DK460030k-0002)
第46巻 p.114-116 ページ画像

社団法人日本国民高等学校協会議事録 其ノ一 第二一―二六頁刊
  附録
    第一回通常総会議事録
一、開催日時 大正十五年二月七日午后二時
二、開催場所 東京市牛込区産業組合中央会事務所
三、協会設立ノ動機
 吾人ハ我カ邦農村ノ疲弊セル状態ヨリ見テ農村青年ノ訓育上、特殊ノ教育機関ヲ設置スルノ必要ヲ感シ、丁抹国民高等学校ノ式ニ則リ日本特有ノ精神ヲ加味セル学校ヲ設立スルハ年来ノ希望ナリキ、然ルニ此ノ計画ニ先立ツモノハ広面積ノ土地ト中心トナルヘキ人物ト多額ノ資金ナルヲ以テ、暫ク其ノ機会ヲ待チタリ、然ルニ幸ヒ一昨年農林省主管ノ茨城県友部種羊場及栃木県薬師寺所在ノ種馬所ノ廃止セラルヽアリシヲ以テ心動キ、遂ニ地ヲ友部ニ卜シ、社団法人日本国民高等学校協会ナルモノヽ設立ヲ企図セリ
四、協会設立計画ヨリ許可指令書ヲ交付セラルヽ迄ノ経過
 (イ) 右動機ニ因リ協会設立ノ計画ヲ建テ、先以テ
 一、協会設立許可申請書ヲ認メ、大正十四年五月二十五日附東京府庁経由、文部・農林両大臣宛ニ提出セリ
 二、右ト同時ニ友部種羊場跡地借入及建物払下ノ願書ヲ農林大臣宛ニ提出セリ
 (ロ) 設立許可意外ニ暇取リタリ
 昨年五月二十五日府庁ヘ提出セル申請書ハ書類ノ不備、設立関係者等多忙ノ為意外ニ時間ヲ要シタルモ、昨年十一月二十六日漸ク東京
 - 第46巻 p.115 -ページ画像 
府庁ヨリ文部省ニ廻附セラレ、十二月十七日文部省ヨリ農林省ヘ廻附セラレ、同月二十三日農林大臣決裁ノ上文部省ヘ再廻セラレ、同月二十八日附両大臣名ヲ以テ設立許可ノ指令書ヲ交付セラレタリ
 翌年一月十四日登記ノ手続ヲ了シ、玆ニ始メテ完全ナル法人トナレリ
五、土地借入及建物払下ノ件
 (イ) 建物ノ払下希望数量ハ、今回友部種羊場跡地ヘ設置セラレタル茨城県種畜場ヘ払下タル残ノ建物、及附属設備全部ノ予定ナリ即左ノ如シ
    払下希望総棟数 四十八棟(井戸塀其他附属物一切)
    坪数      千七百三十四坪
    払下希望価額  一万五千円以下ノ見込
   右交渉ニ付テハ近日中畜産局カ正式ニ之ニ当ル予定ナリ
 (ロ) 土地ハ敷地及農場用ニ供スルモノナルカ、種羊場跡地総面積百六十町ノ中二十八町歩ハ茨城県ヘ交付セラレ、他ニ同県ノ借入申込及海軍省(飛行機不時着陸場)ヨリノ申込アルモ、本会トシテハ可成多ク借入ノ予定ナリ
   土地ハ不日山林局ヘ引渡サルヽニ付、本会ハ其ノ上ニテ正式ニ交渉ヲ開始セムトス
   土地ハ差当リ借入ノ形式ト為スノ外ナク、他日開墾完成ノ上縁故払下(開墾着手当時ノ値段)ヲ乞フ予定ナリ
    総反別 一六〇町
    内茨城県ヘ既交付  二八町
    差引       一三二町
    同県ヨリ借入申込  一〇町
    差引       一二二町
    海軍省ヨリ申込   五〇町
    差引       約七〇町
六、資金ノ募集
 (イ) 根本方針 社団法人ノ趣旨ニ添フ様可成多数ノ会員ニ尽力ヲ仰クコトヽシ、尚本協会ノ趣旨ヲ充分ニ理解ノ上賛成スル者ヲ加入セシムルコトヽシ、先以テ会員ヲ左ノ三種ニ分テリ
    名誉会員 寄附金一口二千五百円宛トシ、一口以上
    特別会員 寄附二百五十円以上又ハ年額会費三十円宛
    正会員  年会費五円
  斯クシテ創立費及基金ハ主トシテ名誉会員ノ寄附ニ拠ルコトヽシ特別会員及正会員ノ会費ハ年々ノ経費ニ充ツル方針ナリ
 (ロ) 趣意書(日本国民高等学校協会設立趣旨書)及申込書ヲ印刷ニ附シテ募集ニ便セリ(会員ニハ既ニ配付セリ)
 (ハ) 郵便貯金振替口座加入ニ関シ十二月申請中ノ処、本年一月初旬加入許可アリタリ
  (東京市外落合町下落合一、三七九小平権一方、振替口座番号東京七四七三〇番)
七、開校準備
 - 第46巻 p.116 -ページ画像 
 (イ) 学校設立許可
   目下学則其ノ他諸形式ヲ整ヘ、茨城県ヘ申請準備中ナリ
 (ロ) 開校及農場開設準備
   土地及建物受渡ノ手続終了セハ直チニ校舎・畜舎・寄宿舎・作業室等ノ模様換、備品・家畜・農具等ノ買入ニ着手ノ予定ナリ
 (ハ) 開校ノ予定期限
 (ニ) 生徒募集ノ員数及方法
八、資産状態
       収入
 金参万七千参百参拾五円 会費
       支出
 金八百参拾五円 諸費用
 金参万六千五百円 差引額
 右ハ産業組合中央金庫ヘ理事小平権一名義ニテ預金ス(大正十五年五月十日現在第一通帳ノ帳尻一二、四九五円 第二通帳ノ帳尻二四、〇〇五円)
九、会員数
 名誉会員七名・特別会員二十三名・正会員四十二名、計七十二名ナリ
十、協議機関ト特別援助者
 本協会事業ノ計画、実行方法ニ付テハ専ラ発起人ニ於テ適当ノ個所ニ集合ノ上協議会ヲ開キ、尚友部ヘモ実地踏査ヲ行ヒタリ、而シテ井上準之助氏ハ計画ノ当初ヨリ其ノ趣旨ニ賛成セラレ、多大ノ好意ヲ以テ援助セラレタルコトヲ感謝スルモノナリ、又三菱ノ阪本氏、安田家ノ結城氏、西脇氏、渋沢氏ニハ夙ニ本協会設立ノ趣旨ニ賛成セラレ、去ル十二月二日多忙ナル事務ヲ排シ態々友部ニ出張実地踏査セラレタルハ感謝ニ堪ヘサルナリ
○下略


寄附金依頼ニ関スル来書 自昭和二年至昭和四年 【(印刷物) 拝啓、益々御清祥慶賀の至に御座候、偖私共同志相計り日本国民高等学校協会の設立を発起致し…】(DK460030k-0003)
第46巻 p.116-117 ページ画像

寄附金依頼ニ関スル来書 自昭和二年至昭和四年(渋沢子爵家所蔵)
(印刷物)
拝啓、益々御清祥慶賀の至に御座候、偖私共同志相計り日本国民高等学校協会の設立を発起致し、学校を創設して農村青年を訓育し、農村の振興、農民文明の建設に努力致度計画仕候に就ては、何卒貴殿の御賛同を得て其の目的の達成に力め度、乍略儀以書面此段奉願上候、幸に御賛同の上は左記申込書に御記入の上、折返し御回付被下度願上候
  大正十五年五月
           社団法人日本国民高等学校協会
                 設立発起人 井上準之助
                       石黒忠篤
                       橋本伝左衛門
                       那須皓
                       山崎延吉
                       小出満二
 - 第46巻 p.117 -ページ画像 
                       小平権一
           殿
            (切取線)
     ……………………………………………………
日本国民高等学校協会の趣旨に賛し左の通り入会候也
    正会員  会費年額金五円
    特別会員 会費年額金参拾円又ハ寄附金弐百五拾円以上
    名誉会員 寄附金壱口ニ付金弐千五百円 口
  大正十五年 月 日
         (住所)
         (署名印) 
    社団法人日本国民高等学校協会 御中
      (注意) 御申込以外の会員の種類は適宜抹消被下度候

寄附金依頼ニ関スル来書 自昭和二年至昭和四年 【(謄写版) 日本国民高等学校協会役員】(DK460030k-0004)
第46巻 p.117 ページ画像

寄附金依頼ニ関スル来書 自昭和二年至昭和四年 (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    日本国民高等学校協会役員
    理事 石黒忠篤  渡辺侱治   加藤完治
       那須皓   山崎延吉   深作雄太郎
       小平権一
    監事 井上準之助 橋本伝左衛門 小出満二
  日本国民高等学校協会名誉会員寄附口数控(一口二千五百円)
                        (別筆)
 岩崎久弥氏 八口   石黒氏一族   二口 {老父一口小生一口
 住友吉左衛門氏 八口 大橋新太郎氏  二口
 安田善次郎氏 八口  井上準之助氏  一口
 勧業銀行 四口    近藤滋弥氏   一口
*渋沢氏一族 二口   鈴木梅太郎氏  一口
 西脇済三郎氏 二口  本間光弥氏   一口
 南満鉄道会社 二口  日立鉱山事務所 一口
             計    四十三口
*欄外記事
  之は子爵御名義にて曩に御寄附相受候二千五百円の外、其後渋沢元治様及治太郎様より御寄附相受候もの千円有之、橋本・那須等の二百五拾円の会員組に比し別格多額の御寄附に候まゝ、名誉会員の一口と見て、御一族二口と便宜書きたる趣に候


社団法人日本国民高等学校協会設立趣意書 第一―二〇頁刊(DK460030k-0005)
第46巻 p.117-124 ページ画像

社団法人日本国民高等学校協会設立趣意書 第一―二〇頁刊
一本邦の現状に鑑み、農村青年を訓育し農村の振興農民文明の建設に努力するか為に、特に左記要旨の如き国民高等学校を設立し、之を中心として我国農家の開発に力むること極めて緊要なるを認め(左記設立趣意書参照)、同志相計り之か為に日本国民高等学校協会なる公益社団法人を設立せむとす
二本協会の会員は左記三種とす
 - 第46巻 p.118 -ページ画像 
  名誉会員――資金を寄附して本協会の事業を賛助する者
        寄附金一口金弐千五百円とし一口又は数口とす
  特別会員――発起者其の他特に縁故深き者
        会費年参拾円又は寄附金弐百五拾円以上
  正会員 ――本協会の趣旨に同感し事業の遂行に協力する者
        会費年五円
三学校設立に要する資金は総計約金拾五万円にして、之を諸方篤志の名誉会員及特別会員の寄附に仰き、其の保管出納は発起人等を以て組織する経理委員責任を以て之に当り、学校及農場一切に付き農学士加藤完治(現山形県自治講習所長)をして、充分自由なる経営を行はしむることとせむとす
四創立資金として差当り金五万円を要するか故に、一日も早く事業に着手し得る様、各位の御賛同に依り先つ此の金額の寄附を得むことを切望す
五爾余の拾万円は将来主として借入農地購入の資金に充てんとするものなるか故に、創立を了したる上、事業の成績を挙けつゝ漸次諸方よりの寄附を仰くことゝせむとす
六目下学校建設予定地は茨城県友部駅附近元農商務省友部種羊場跡の見込なり
七入会及寄附の申込は左記宛にせられんことを希ふ
  ○東京府豊多摩郡落合村下落合千三百七十九番地小平権一方
   日本国民高等学校協会事務所
   又ハ
  ○東京市大手町 農林省農務局内 渡辺侱治宛
  大正十四年十一月
                設立発起人 井上準之助
                      石黒忠篤
                      橋本伝左衛門
                      那須皓
                      山崎延吉
                      小出満二
                      小平権一
      記
    日本国民高等学校要旨
第一 農村青年を訓育して皇国の農民たる信念を養ひ、天分を明らかならしめ其の進むへき路を示し、採るへき方法を授け、以て農村の振興、農民文明の建設に貢献せんことを期す
第二 生徒をして真剣なる農業労働に就かしめ、其の崇高なる精神を体得せしめ、常に能く農業の真意義を味はしむると同時に、労働の分配及其の能率増進に関する知識技能を習熟せしめ、我農業改善の要訣を教ふ
第三 学校を中心として組合主義に依る農場経営を行ひ、以て教育と実際との合一を計り、農民教育自営の範を示す
 - 第46巻 p.119 -ページ画像 
第四 教育計画は概ね左の如し
 (一)本科教育(期間一年約五十名)
    将来農家の戸主として立ち、農村発達の中核たるへきもの(二十歳台)に冬期間訓育を行ひ、爾余の期間は農場に於て又は各自家に於て農業労働に従事せしむ
 (二)二・三男教育(短期講習又は一年約五十名)
    農家の二・三男(二十歳台)約五十名にして、将来拓地殖民に従事するものを養成す
 (三)少年教育(一年又は二年約五十名)
    小学卒業より十七・八歳迄の農家の少年を預りて訓育を行ひ且農場内の各農家に配属せしめ農業の実務を習熟せしむ
 (四)女子教育(短期講習約五十名)
    冬期及夏期に於て之を行ひ、農家の主婦として必要なる家政及農業上の訓育をなす
 (五)学校教員短期講習 機を見て之を行ふ
 (六)隣接農村に対し教育上農業上各般の便宜方法を講す
第五 農場経営は本邦農業の発展、食糧の充実及生活の改善に寄与する目的を以て左の方針に依る
 (一)畑地の開墾及経営に力め、畑地生産物に依る生活方法を実験確立せむとす
 (二)牛・羊其の他家畜家禽の飼養、其の生産物の加工及農産製造を、従来の農業組織に加味して我国に適する混同農業を実験確立せむとす

    日本国民高等学校設立趣意書
 国運の消長は懸つて農村の隆替にあるは、之を興国の歴史に徴し、世界経済界の風潮に察し、更に健実なる社会発達の要因に稽へ、我等の信じて疑はざる所なり。近時農村振興の声朝野の間に喧しき、蓋故なきにあらず。
 疲弊せる現下の農村に新局面を打開せむか為に採るへき手段方策は政治的・経済的・社会的各方面に於て種々あるへしと雖も、畢竟農民自身か覚醒奮励して、農業経営の発展に努め、農村生治の改善を計るにあらされば、如何なる施設対策も終に其の効果を見る能はさるや明けし。我等か今日の深憂とする所は、農村の衰退そのものよりも、寧ろ農村に於て、其の頽運の挽回に努力すへき人材の欠如せることにあり。複雑なる経済界の変動に適応して、農業の経営方法を改むる学識技能あると共に、欠陥多き農村の社会生活を革新する勇気と抱負とを有し、而も額に汗して土を耕し、以て天地の化育に参する崇高なる農の使命を了得し、其の天職を楽んて之を尊重する農民の多く存せさる事にあり。
 我か農村固より有為の青年に乏しきにはあらす、唯其の現状は彼等に自ら悟るの余裕と、教へ導くの機会とを与へさるか故に、其の従事する農業の尊重と労働の神聖とに関し信念を抱持すること能はす、進路に迷ひ暗中に摸索し、徒らに前途を悲観して意気沮喪し了るもの比
 - 第46巻 p.120 -ページ画像 
比皆然り。此等有為の青年を訓育して自覚せる農民として立たしむるは、実にあらゆる農村振興策の根柢にして、今日の急務之より先なるはなし。
 彼の北欧の小国丁抹か国運衰退の極より、僅々半世紀の間に於て農村今日の繁栄を来し、特色ある其の文明を有するに至りし事績は、実に其の国民高等学校に於ける独特なる農村青年教育に基けるものにして此の他山の石は以て我玉を磨くへく、且我等の所信の謬らさるを証すへし。
 然れとも斯の如き農村青年教育機関は、単に資金及設備の充実のみを以て完を期するを得す、其の最も主とする所は中心たるへき人物にして、実に特殊の天分を有する人格者を得ることを絶対的必要となす然らすむは徒に精神無き形骸を作るに止まらむのみ。而も青年の訓育と農業経営の実際的改善と、而して農業労働の尊厳に対する信念の鼓吹と、此の三個の事業を一身に綜合体現し得る人格に至つては、我等は多年農業界及教育界に於て幾多の人材に接すと雖も、其の中に就て之を求めて頗る得易からさるを憾む。
 独り山形県立白治講習所長農学士加藤完治君は、堅実剛毅熱誠力行の士にして、我等の斉しく認めて、以て天成無二の農村教育家となす人なり、氏は夙に丁抹国民高等学校の精神に則りて建設せられたる、本邦唯一の該講習所に青年を訓育すること玆に十年、此の間卒業生を出すこと二百七十名、短期聴講生を出すこと千二百名に及ひ、其の感化を受けたる青年は県下の農村に普ねく、氏を敬慕すること父に優り氏も亦之を念ふこと子の如く、漸く東北農村開発の大原動力となりつつあり。
 自治講習所に於ける訓育は丁抹国民高等学校の単なる模倣にあらす氏は現下稀に見る精神家にして、学生時代に於ては基督教の研究に心を潜めたるか、卒業後熱心に古神道に傾注し、今や我邦農村問題解決の根本及青年訓育の基礎は、之を皇国精神に置かさるへからすとの信念を以て、躬ら鍬を執り諸生に伍して農業労働に従事し、大学に於て修め得たる学識と其の後十数年の努力に依りて体得せる老農を凌く実地の技術とに依り、彼等を訓育して学問の真義を味はしめ、智識の活用を教へ、更に武道によりて心身を鍛へ、開墾及農場実習によりて勤労の風習を養はしめ、以て農村青年の餓うるか如く何物かを欲求しつつあるに対して、健実なる人生観と、農村改良に資すへき実際的訓練と義勇奉公の熱情とを徹底的に与ふることに努めつゝあるなり。而して其の大高根の農場の如きは、従来人の棄てゝ顧みさりし月山山系中腹の荒野なりしを、氏か毎春諸生を率ひて入山し、年の半を共に耕し共に寝ねて力行開墾せしものなるか、新作物を入れ畜産を加味し、適切なる経営を行ふ事によりて今日既に収支償ふて余りあるの状を示し附近農民に範を垂れつゝあるに至つては、亦以て氏か単に教壇の人にあらさるを知るへく、氏の熱誠と其の事業の真価とを思ふ時、我等は毎に深甚の感激に打たれすむはあらさるなり。
 曩に氏は知友の勧告に従ひ、新潟県中野財団の援助と山形県及卒業生の賛成とに依り、遠く丁抹を訪ひ、国民高等学校に止ること約一年
 - 第46巻 p.121 -ページ画像 
仔細に其の実生活を体験し、表裏長短を知悉し、諸国を巡遊して帰国したるか、昨秋は諸生を率ゐて渡鮮し、日鮮相互の真に渾一せる将来の農業発展に貢献する端緒を啓けり。
 氏は又同県新庄在の萩野原四百余町歩が軍馬補充部廃止後全く荒蕪に帰しつゝあるを遺憾とし、今春檄を県下青年に飛はし、県当局の応援を得て拓殖講習会を開き、県下の青年団員を集めて其の開墾に従事し、不屈不撓能く六十町歩を開き、二百五十名の青年を訓練し好成績を示し、十月摂政宮殿下東北行啓の際親しく其の地に臨ませられ、事業の台覧を辱うするの光栄を得たりき。
 我等は氏か山形県自治講習所の確立に尽したる十年を期とし、玆に其の間に得たる経験に基きて更に一歩を進め、別に広く全国農村青年の為に独特なる教育機関を創立し、且之に相当広大なる農場を附設し関係者を以て一の農村を建設し、多年懐抱せる理想を実現せんとするの案に参劃し、政府か昨年行政整理の結果廃止せる友部種羊場か位置地積・建物等に於て此の独特なる教育機関設立地に最好適なるを認め之を購入又は賃借して実行に進まむことを切望して止ます。
 既に此の人あり此の土地あり、而して社会は此種の機関を要求しつつあり、此の計画は既に機熟したり、然れとも唯其の欠く所は後援と事業資金なり、我等は此の挙か健全なる理想と堅実なる基礎の上に立つものなることを確信するか故に、篤志の諸賢に訴へ、其の賛助と拠金とを得て玆に社団法人を設立し、目的を遂行して邦家に貢献する所あらむことを希ふ。

  社団法人日本国民高等学校協会定款
    第一章 目的及事業
第一条 本協会ハ農村ノ中心人物タルヘキ者ノ養成指導ヲ為シ、依ツテ農民ノ精神上及物質上ノ向上発達並農村ノ改善ヲ期スルヲ以テ其ノ目的トス
第二条 本協会ハ前条ノ目的達成ノ為左ノ事業ヲ行フモノトス
  一 日本国民高等学校ヲ設立シ、之カ経営ヲ為スコト
  二 他ノ国民高等学校ノ設立ヲ助成スルコト
  三 農村ニ於ケル講習・講話・実務指導ヲ為スコト
  四 其ノ他本協会ノ目的達成上、総会ニ於テ必要ナリト認メタル事業
    第二章 名称及事務所
第三条 本協会ハ『社団法人日本国民高等学校協会』ト称ス
第四条 本協会ハ其ノ事務所ヲ東京府豊多摩郡落合村下落合千三百七十九番地小平権一方ニ置ク
    第三章 社員
第五条 本協会ノ社員ヲ会見ト称ス
 本協会ノ会員ハ本協会ノ主旨ニ賛成シ本協会ノ事業ヲ援助スル者、又ハ本協会ノ経営スル日本国民高等学校ヲ卒業シタル者ニ限ル
 会員タラムトスル者ハ会員二名以上ノ紹介ヲ以テ年齢・住所及職業ヲ具シテ本協会理事ニ申出スヘシ、但シ日本国民高等学校ヲ卒業シ
 - 第46巻 p.122 -ページ画像 
タル者ハ紹介者ヲ要セス
第六条 本協会々員ハ年額五円以上ノ会費ヲ納付スルノ義務アルモノトス
第七条 本協会々員ニシテ一時金二千五百円以上ヲ寄附スル者ヲ名誉会員トシ、年額三十円又ハ一時金二百五十円以上ヲ寄附スル者ヲ特別会員トス
 前項ノ会員ハ前条ノ会費ヲ納付スルコトヲ要セス
第八条 本協会ヲ脱退セムトスル者ハ其ノ事由ヲ具シテ本協会理事ニ申出スヘシ
第九条 会員ニシテ本協会ノ事業ヲ妨ケ又ハ本協会ノ体面ヲ毀損スルカ如キ行為アリタルトキハ、総会ノ決議ヲ以テ除名スルコトアルヘシ
第十条 会員ノ入会ハ総テ理事ノ決スル所ニ依ル
    第四章 役員及職員
第十一条 本協会ニ左ノ役員ヲ置ク
  一 理事 三名以上七名以内
  二 監事 三名
第十二条 理事ハ常任理事一名ヲ互選ス
 常任理事ハ本会ヲ代表ス
 理事ハ前項ノ常任理事ノ欠ケタルトキ、又ハ其ノ事故アルトキ、本協会ヲ代表スヘキ理事一人ヲ互選シ置クモノトス
第十三条 理事ノ任期ハ三年トシ、監事ノ任期ハ二年トス、但シ再選ヲ妨ケス
 補欠選挙ニ依リ就任シタル理事又ハ監事ノ任期ハ前任者ノ残任期間トス
 理事及監事ハ任期満了後ト雖モ、後任者ノ就職スル迄仍其職務ヲ行フ義務アルモノトス
第十四条 理事及監事ニハ俸給ヲ支給セス 但シ理事又ハ監事ニシテ日本国民高等学校ノ校長又ハ補導其ノ他ノ職員タル場合ハ此ノ限ニ在ラス
 理事及監事ニハ旅費又ハ手当ヲ支給スルコトヲ得
第十五条 理事及監事ハ正当ノ事由ナクシテハ辞職スルコトヲ得ス
第十六条 理事及監事ハ総会ニ於テ本協会々員中ヨリ之ヲ選出ス
第十七条 本協会ニ主事若干名ヲ置ク
 主事ハ理事及監事ノ指導ヲ承ケ本協会ノ事務ニ従事ス
第十八条 主事ノ任免ハ理事之ヲ決ス
第十九条 主事ニハ俸給ヲ支給スルコトヲ得
第二十条 日本国民高等学校ニ校長・補導及講師ヲ置ク、校長ハ本協会ノ理事ヲ以テ之ニ充テ、理事ノ互選ヲ以テ之ヲ定ム
 補導及講師ノ任免ハ校長之ヲ専行ス
 校長ハ予算ノ許ス範囲内ニ於テ、補導・講師以外ノ職員ヲ日本国民高等学校ニ置クコトヲ得
 校長・補導・講師其ノ他日本国民高等学校ノ職員ニハ俸給ヲ支給スルコトヲ得
 - 第46巻 p.123 -ページ画像 
第二十一条 調査研究ノ為必要アルトキハ理事ハ委員ヲ置クコトヲ得委員ニハ俸給ヲ支給セス、手当又ハ旅費ヲ支給スルコトヲ得
    第五章 常議員
第二十二条 本協会ニ常議員二十名以内ヲ置キ、総会ニ於テ本協会々員中ヨリ選挙ス
第二十三条 常議員ハ本協会ノ重要ナル事項ニ付理事ノ諮問ニ応シ、意見ヲ開陳スルモノトス
 常議員ハ理事之ヲ招集ス
第二十四条 常議員ノ任期ハ二年トス、但シ再選ヲ妨ケス、第十三条第二項及第三項ノ規定並第十五条ノ規定ハ常議員ニ之ヲ準用ス
    第六章 総会
第二十五条 本協会ノ通常総会ハ毎年一回一月之ヲ開ク
 臨時総会ハ左ノ場合ニ之ヲ開ク
  一 理事カ必要ナリト認メタルトキ
  二 監事カ民法第五十九条ニ依リ必要ナリト認メタルトキ
  三 会員五分ノ一以上ヨリ会議ノ目的タル事項ヲ示シテ請求シタルトキ
第二十六条 総会ノ招集状ニハ其ノ会議ノ目的タル事項・日時及場所ヲ明記シ、其ノ招集者記名捺印又ハ署名シ、且其ノ総会ノ種別ヲ明ニスヘシ
 前項ノ招集状ハ少クトモ総会ノ日ヨリ十日前ニ発送スルコトヲ要ス
第二十七条 総会ニ於テハ出席シタル会員ノ三分ノ二以上ノ同意アルトキハ、予メ通知セサル事項ニ付テモ議決ヲ為スコトヲ得
第二十八条 総会ノ議事ハ出席シタル会員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス、但シ定款ノ変更、役員ノ任免ノ議事ハ、出席シタル会員ノ三分ノ二以上ノ多数ヲ以テ之ヲ決スルコトヲ要ス
 前項ノ過半数ヲ以テ決スヘキ場合ニ可否同数ナルトキハ、議長之ヲ決ス
第二十九条 総会ニ於ケル議決権ハ書面又ハ代理人ヲ以テ之ヲ行使スルコトヲ得、但シ代理人ハ本協会ノ会員タルコトヲ要ス
 前項ニ依リ議決権ヲ行使スル者ハ之ヲ出席者ト看做ス
第三十条 総会ノ議長ハ理事ノ一人之ニ当ル、理事ノ全員ニシテ議長タルコト能ハサルトキハ、総会ニ於テ議長トナルヘキ者ヲ選出ス
第三十一条 総会ニ於テ必要アリト認ムルトキハ、常議員ヲシテ総会ニ於ケル議決事項ヲ調査審議セシムルコトヲ得
    第七草 資産
第三十二条 本協会ノ資産ハ、会員ノ会費及寄附財産ヨリ成ルモノトス
 本協会ノ資産又ハ事業ヨリ生スル収益ハ、本協会ノ資産ニ之ヲ繰入ルヽモノトス
第三十三条 本協会ノ資産ニシテ金銭ヲ以テ受ケ入レタルモノハ郵便貯金トナシ、産業組合中央金庫若ハ総会ノ承認ヲ経タル確実ナル銀行ニ預入レ、又ハ国債証券・地方債証券若ハ常議員ニ諮問シテ選択シタル確実ナル有価証券ヲ買入ルヽノ外、之ヲ他ニ運用スルコトヲ
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得ス、但シ本協会ノ事業ノ為ニスル土地又ハ建物ノ購入、俸給其ノ他ノ経費ノ支払ハ此ノ限ニ在ラス
第三十四条 本協会ノ予算及決算ハ毎年通常総会ニ提出シ、其ノ承認ヲ経ヘシ
 緊急已ムコトヲ得サル事由ノ為メ予算外ノ支出ヲ必要トスル場合ニ於テハ、理事ハ予メ常議員ニ諮問スヘシ
第三十五条 本協会ノ所有ニ属スル重要ナル動産又ハ不動産ノ処分ニ付テハ、理事ハ予メ常議員ニ諮問スルコトヲ要ス
    第八章 雑則
第三十六条 本協会ノ事業年度ハ毎年一月一日ニ始マリ十二月三十一日ニ終ルモノトス
第三十七条 本定款施行ニ関スル細則、本協会ノ会計及日本国民高等学校学則、其ノ他本協会ノ事業施行ニ関シ必要ナル細則ハ理事ニ於テ常議員ニ諮問シテ之ヲ定ム
第三十八条 本協会解散後ニ於ケル財産ハ、総会ノ決議ヲ以テ之ヲ処分ス
    附則
第三十九条 本協会設立当時ノ理事及監事ヲ定ムルコト左ノ如シ、但シ第一回ノ総会ニ於テ之ヲ改選ス
                   理事 那須皓
                   同  小平権一
                   同  小出満二
                   監事 橋本伝左衛門
                   同  石黒忠篤
                   同  山崎延吉


寄附金依頼ニ関スル来書 自昭和二年至昭和四年 【(印刷物) 社団法人日本国民高等学校協会概要】(DK460030k-0006)
第46巻 p.124-127 ページ画像

寄附金依頼ニ関スル来書 自昭和二年至昭和四年 (渋沢子爵家所蔵)
(印刷物)
    社団法人日本国民高等学校協会概要
一 本協会は農村の中心人物たるへき者の養成指導を為し、依つて農民の精神上及物質上の向上発達並農村の改善を期するを以て其の目的とし、目的達成の為左の事業を行ふ
 1 日本国民高等学校を設立し之が経営を為すこと
 2 他の国民高等学校の設立を助成すること
 3 農村に於ける講習・講話・実務指導を為すこと
 4 其の他本協会の目的達成上、総会に於て必要なりと認めたる事業
二 本協会の会員は本協会の主旨に賛成し、本協会事業を援助する者又は本協会の経営する日本国民高等学校を卒業したる者とす
 会員を左記三種とす
 1 正会員――本協会の主旨を賛し、協力実行を期する者(主として日本国民高等学校卒業生)年額五円以上(当分五円とす)の会費を納付するものとす
 2 特別会員――協会の発起者、特別縁故ある者及資金を寄附して
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本協会の事業を賛助する者、年額三十円又は一時金二百五十円以上を寄附するものとす、会費を要せず
 3 名誉会員――主として資金を寄附し、本協会の事業を賛助する者、一時金二千五百円以上を寄附するものとす、会費を要せず
三 本協会は大正十四年十二月文部・農林両大臣より設立の許可を受け、十五年一月登記を了し、又日本国民高等学校を茨城県友部に設立し、同年五月茨城県知事の認可を受けたり
四 本協会は右国民高等学校に関し、加藤校長をして再度の丁抹及独逸見学を為さしめ、数名の職員を選任し、又建坪千余坪の建物を購入し、五十余町歩の農場を借入れ、校舎の移築増設を行ひ、諸種の設備を為し、昭和二年二月開校せしも、尚ほ各方面の好意ある了解を要する事益々多く、又学校維持資金として諸方よりの寄附金に仰がざるべからざるもの尚ほ約十万円なるを以て、篤志諸賢が本協会の主旨を賛して多数入会せられ、資金を寄附せられ、以て事業を援助せられむことを切望して止まず。資金の保管出納は理事責任を以て之に当り、学校及農場一切に付ては加藤校長をして充分自由なる経営を行はしめ、以て目的の達成に進まんことを期す
五 入会申込及寄附金払込は左記宛の何れかにせられんことを希ふ
   東京府豊多摩郡落合町下落合千三百七十九番地(小平権一方)
             社団法人日本国民高等学校協会事務所宛
  又は 東京市麹町区大手町農林省 農務局内 渡辺侱治苑
  尚ほ払込に振替口座使用の場合には左の如し
  振替口座東京七四七三〇番 日本国民高等学校協会

    日本国民高等学校概要
一 本校は社団法人日本国民高等学校協会の事業として経営するものにして、茨城県西茨城郡宍戸町大沢千七百十八番地に在り(常磐線友部駅下車約十三町茨城県種畜場隣接)、大正十五年五月同県知事の認可を受く
二 本校は実業補習学校規程に拠る中等学校程度の学校なり、生徒は凡て寄宿舎に入舎せしむ
三 本校ハ農村青年子女ヲ訓育シテ農民タル信念ヲ涵養セシメ、天分ヲ明確ナラシメ其進路ヲ示シ、採ルヘキ方針ヲ授ケ以テ農村ノ発達農民文明ノ建設ニ努ムルヲ以テ目的トス
  本校ニ第一部乃至第五部ヲ置キ、各部ノ教育要旨ヲ定ムルコト左ノ如シ
 第一部(長男教育)ニアリテハ、年齢二十歳以上ノ農家子弟(主トシテ長男)ニシテ将来農家ノ戸主トシテ立チ農村ノ中核タルヘキ者ヲ養成ス、但シ十八歳以上ノ者ト雖モ入学ヲ許スコトアルヘシ
 第二部(次三男教育)ニアリテハ、年齢満二十歳以上ノ次男以下ノ農家子弟ニシテ、将来拓地植民ニ従事スル者ヲ養成ス
  (第一部及ヒ第二部ニ於テハ(各部五十名)修業期間ヲ一ケ年トシ、毎年四月入学、十二月迄学科実習及旅行ヲ行ヒ、一月ヨリ三月迄自宅ニ於テ各自農業経営ニ対スル計劃ヲ立テテ報告セシメ、
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三月末終了スルモノトス)
 第三部(少年教育)ニアリテハ、小学校卒業年齢ヨリ十八歳未満ノ農家子弟ニ訓育ヲ行ヒ、農業ニ関スル智識技能ヲ習熟セシム(五十名)修業期間二ケ年
 第四部(女子教育)ニアリテハ、年齢満十五歳以上ノ農家子女ニ訓育ヲ行ヒ、将来農家ノ主婦トシテ必要ナル家政及ヒ農業上ノ智識技能ヲ授ク 修業期間三ケ月(当分ノ中)
 第五部(短期講習)ニアリテハ、学校教員其他青年ニ対シ、皇国精神発揚ニ関スル講習会等ヲ随時随所ニ開催ス
四 国民高等学校なる名称は、丁抹に始まり今や世界的に特定の意義を有するを以て之に拠れり、世上動もすれば誤解を惹起して徒に学科の高等、設備の完全等を聯想するの嫌少しとせざるも、本校の本旨は決して此の如き所にあらず、訓育の方針は職員生徒協力の真剣なる農業労働生活による精神鍛錬にあり、学科は徒に高等煩雑たるを避け、其の真髄の会得と活用とに重きを置き、設備亦従つて整美を期せず、簡約を旨とす
五 五十余町歩の農場と寄宿舎とは(教室と相俟ち)心身錬磨の道場として左の主旨に従て之を経営す
 1 職員生徒は居常寝食を供にする一心同体の大家族として立ち、各自分担の作業を励み、真に協力して最善の経営を行ひ、以て生活及教育の自営に資すること
 2 真剣なる農業労働に依り其の崇高なる精神を体得し、常に能く農業の真意義を味ふと同時に、労力の分配、能率の増進、技術の錬磨に努め、以て我国農業改善の要諦を知り、時と処とに応じて最適切なる経営を実行し得る根本の力の養成を期すること
六 第一部及第二部の生徒は特に身体強健農業労働に耐ゆる者にして高等小学卒業程度以上の学力を有する者たることを要す(農学校卒業程度以上の者ならば一層可なり)其の募集は毎年の始に於て之を行ひ、三月より仮入学を許し、約一ケ月経過の後個々に本入学の許否を決すべし
七 第一部及第二部生徒の要する費用は総計百四十四円(一ケ月授業料二円・舎費二円・食費十二円計十六円宛九ケ月分)外に講習修了間際の内地・朝鮮・満洲修学旅行費百円乃至百五十円の見込なり、書籍代・筆紙代は自弁なるも多くを要せざるべし、衣服・寝具・洗面器等は各自持参すべし、但し蚊帳は不要、洋服あらば頗る好都合なるべし、別に仕事着及脚絆足袋を要す
八 第三部(少年部)に於ては、少年時代に於て適当なる農事の技能を修練し、労働の慣習を養はしめ、且旺盛なる記憶力によりて将来農業を以て立つに必要なる基礎的智識を修得せしめんとす、唯此の第三部は玆に始めて開講するものなるが故に不備を免れざる所あるべし
九 本校は生徒の家が地主たると、自作農たると、小作農たるとを問はず、成るべく其の生徒が夫々将来農村に於ける中心人物となり得るもの、並に内地及満鮮等に植民せんとするものを農村改善上
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先づ入学せしめんことを欲し、生徒が修了後懸命に努力発展せんとするに当り、実際に之を行ひ得る自由の余地を与へられんことを望むが故に、青年の入学を希望せらるゝ父兄・村当局・有力者等は、其修了の上は必ず之に一町歩内外の土地の経営を一任して為さしむべきことを、予め本人及本校に進んで申出らるゝ場合の多からむことを期待す
十 本校は生徒の個々の相談に応じ、成るべく実際の指導に尽力せむことを欲するが故に、生徒入学の場合には各自家の所有及耕作する土地の詳細、財産状態の大要、親族及家庭関係、居村の現状等に関する智識を具へ来らむことを望む
十一 第四部(女子教育)は小規模の裁縫塾的に行ふことゝす 期間三ケ月(当分の中)