デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正3年4月4日（1914年）

是日、東京帝国大学医科大学病理学教室ニ於テ、当会第七回定期総会開カル。栄一出席シテ告辞ヲ述ブ。五月、栄一当会ニ金千円ヲ寄付ス。

中外商業新報　　第一〇〇三八号大正三年四月五日
　　　　○癌研究会総会
　　　　　　各種研究を発表
癌研究会第七回総会は四日午後一時より医科大学病理学教室に於て開会し、会頭青山胤通博士の開会の辞に次で副会頭本多忠夫博士の社団法人設立顛末報告、副総裁渋沢男の告辞及び理事長志賀潔博士の会務報告等ありて後、懸賞論文審査報告並に授賞式を行ひて式を終り、直に第六回学術集談会を開き、大阪緒方正清博士の子宮癌に対する深達放射に就て、吉本清太郎・富樫倉之丞両博士のエキス光線及びラジユーム・エマナチオンの癌腫に及ぼす影響に関する実験的研究、其の他各専門に研究したる学術上の発見並に一般研究の結果を発表せる十数名の講演あり、何れも有益にして癌研究上に資する所少からざりき。

癌　　第八年第一冊・第一〇六―一一二頁大正三年七月
　　　　社団法人癌研究会第七回定期総会
　　　　並第六回学術集談会記事
満都ノ桜花今ヤ爛漫トシテ馥郁ノ香芬ヲ漲ラシ、黄鳥豊カニ鳴テ春陽ノ酣ナルヲ告グルノ好季ヲ卜シ、医界ノ明星相集リテ第四回日本医学会総会ヲ此地ニ開会セラルヽニ方リ、四月四日午後一時、本会第七回定期総会並第六回学術集談会ヲ東京帝国大学医科大学病理学教室ニ於テ開催シタリ、此日恰カモ爛漫タル桜花ノ落花セルカト疑フ計リ霏々トシテ来レル降雪ノ頻々ナルニモ不拘、定刻前場内已ニ会員並来聴者ヲ以テ充サル、軈テ開会ヲ報ズルヤ青山会頭先ヅ立テ開会ノ辞（別項参照）ヲ述ベ、次デ本多副会頭本会社団法人設立ノ顛末報告（別項参照）ヲナシ、次ギニ渋沢副総裁ハ真摯ナル演説ヲ以テ告辞（別項参照）ニ代ヘ○中略学術集談会ニ移リ○中略約二十ノ演説ヲ了ヘ、長与理事ノ閉会ノ辞ト共ニ散会シタルハ正ニ午後六時半、当日ノ出席者ハ渋沢男爵、青山・本多・山極・緒方（正清）・藤波・佐多・志賀・岡田（和一郎）・桂田・栗本・木村・速水・長与・今・吉本・緒方（鷺雄）・角田・川村・林等ノ各博士、朝吹・富士川・北村・細野・鈴木等ノ諸士無慮三百有余名ニシテ頗ル盛会ナリキ
○中略
　　　　社団法人癌研究会第七回定期総会速記録
　　　　　　　　　　大正三年四月四日午後一時四十分開会
　　　　　　開会之辞
　　　　　　　　　　　　　　　会頭　医学博士　青山胤通君
今日癌研究会第七回総会ヲ兼ネテ第六回学術集談会開会ノ初ニ於キマシテ、悲ムベキコトヲ諸君ニ御報告ヲ致シマス、昨年ノ十月十一日ニ此癌研究会総裁公爵桂公ガ薨去セラレマシテゴザイマス、哀悼ノ意ヲ
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表スルタメニ、ドウゾ諸君ノ御起立ヲ願ヒマス
　　（総員起立）
続イテ又此会員デアリマシタ時重初熊君、杉山源作君、笠原光興君、吉田貞準君、此四名ガ昨年死亡致サレマシタ、哀悼ノ意ヲ表スル為メニ諸君ノ御起立ヲ願ヒマス
　　（総員起立）
尚ホ諸君ニ御報告ヲ致シマスルノハ、癌研究会ノ定款ヲ改メマシテ社団法人ト致シマシタコトデアリマス、サウシテ広ク寄附金ヲ募リ、本会ノ資本ヲ造リマシテ、種々ノ設備ヲ整ヘテ益々研究ノ方針ニ進ム考デアリマス、此社団法人設立ノ顛末ハ副会頭本多君カラ詳シク御報告致シマス
　　　　　　社団法人設立顛末報告
　　　　　　　　　　　　　副会頭　医学博士　本多忠夫君
私ハ此社団法人ニナリマシタ顛末ノコトヲバ御報告ヲ致シマスル、併シ其大要ニ止メテ置ク考デアリマス、本会ハ純粋ノ学術ノ会デハナクシテ癌研究ノ目的ヲ遂行スル上ニ最モ必要ナル研究機関ヲ造ラウトイフノデアリマス、ソレデ設立以来屡々此研究機関ヲ造ルタメニ資金ヲ得ル手段ヲ執ラウトイフ考デ居リマシタガ、或ハ天災ニ遭遇シ、又ハ経済界ノ不振屡々起リシ為メニ、好機会ヲ得ナイノデ荏苒経過シタ次第デアリマス、併シ昨年ニ至リマシテ考ヘテ見マスルトイフト、経済界ノ不況ハ反復スルシ、又天災モ屡々起ルトイフヤウナ具合デ、ドウシテモ機会ヲ待ツトイフコトニナリマストイフト、何時ニ至ツテサウイフ好機会ヲ得ラルヽカ、殆ド先ノ目当ガ附カヌトイフ訳デアリマシタカラ、仮令其規模ハ小ナリトモ万国医界ノ趨勢ニ鑑ミマシテ研究ニ著手スル方心宜カラウトイフ幹部ノ意向デアリマシタカラ、昨年ノ六月十一日ニ此理事会ヲ開会シマシテ、研究機関ヲ造ル基金ヲ募ル為メニハ本会ヲシテ社団法人又ハ財団法人ニ改ムルノ必要ヲ感ジマシタ故ニ、協議会ヲ開イタノデアリマス、其際ニ各理事ノ意見ハ社団法人組織ニ改ムル方ガ宜カラウトイフノデ、社団法人ノ定款草稿ヲ作リマシテ、先ヅ故桂総裁・渋沢副総裁ノ承認ヲ得マシテ、ソレデ評議員会ニ之ヲ掛クルコトニナリマシタノデアリマス、併ナガラ其定款モ一応民法ニ明ルイ所ノ長島法学士、山田内務省参事官ノ手ニ依頼シマシテ、民法上支障ナキモノニ定款ヲ作製致シタ上、十月ノ一日ニ評議員会ニ掛ケマシタ所ガ、全会一致デ決議ニナリマシタ、ソレカラシテ無論之ヲ臨時総会ニ掛クル必要ガアリマスノデ、十一月ノ十五日ニ臨時総会ヲ開キマシテ、サウシテ此総会ノ決議ヲ経タノデアリマス、其際ニ若シ社団法人トスルコトニナリマスレバ、其理事長・理事・監事トイフモノガ必要デアルトイフノデ会頭ヨリ理事長トシテ志賀潔君、理事トシテ細野・長与・富士川ノ三君ヲ指名セラレ、尚ホ監事トシテハ、今日玆ニ御出席ナサレテ居ル朝吹英二君ニ御依頼スルコトニ予メ決メマシタノデアリマス、ソレカラ昨年ノ十二月一日ニ理事者ノ名ヲ以チマシテ、東京府知事ヲ経テ文部大臣ニ申請書ヲ提出イタシタノデアリマス、ソレカラ其後文部省・内務省ノ間ニ屡々交渉ガアリマシテ、本年ノ一月三十一日ニ至テ法人設立認可ガゴザイマシタノデアリマス、本
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会ニ許可書ノ到達シタノガ二月六日、ソレカラ其後直チニ二月ノ十日ニ至ツテ区裁判所ニ於テ設立登記ノ申請ヲ終ツタ次第デアリマス、是ガ大要此社団法人組織ニ改リマシタマデノ報告デアリマス
　　　　　　告辞
　　　　　　　　　　　　　　　副総裁　男爵　渋沢栄一君
本会ノ創立モ最早六年ヲ経マス、其以後トント事柄ハ心得マセヌシ、又平日多忙ノ為メニ本会ニ出テ屡々皆様ト此事務ニ就テ用談ヲ致ストイフ時機ガ少イノヲ深ク恐縮ニ存ジテ居リマス、最初発会ノ時ニ出マシテ私ハ今日ト御人ハ変リマセウガ申上ゲタヤウニ覚エテ居リマス、斯カル会ニ対シテ私ガ顔ヲ出シマスノハ殆ド奇異ナ思ヒヲ自身モシマスルガ皆サンモナサルデアラウ、資格カラ云フテモ学問カラ云フテモ……桂公爵ガ其時総裁トイフノデ、之ニ副タルヤウニトイフ御勧メデ枉ゲテ之ニ応ジマシタノハ心苦シイヤウデアルガ、唯一ツソレニ当ルベキ聊カ資格ノアルヤウニ思ヒマスノハ、己レノ身体ガ一ツノ標本デアルトイフコトデアリマス、ソレハ私ハ二十年前癌ヲ患フテ、其癌ガ幸ヒ全治ヲシテ二十年ノ歳月ヲ今尚ホ存在シテ、壜ニ詰メナイ癌ノ標本デアルカラ、是ハ聊カ皆サンニ癌モ斯ウイウヤウニ治ル、此ノ如ク立派……立派ト申スコトハ申兼ネマセウケレドモ、現ニ渋沢ハ煩ツタ男デアルケレドモ至ツテ壮健ニ、相当ナ年齢デアルガ尚ホ世ノ中ニ奔走シテ居ルトイフコトヲ御覧ニ入レラレルカラ、ソレデ姑ク此任務ヲ有チマスト、斯ウ申上ゲタノデアリマス、ソレハ唯私ガ自ラ慰スル言葉デ、共時ノ自分ノ考ハ、必ズ此会ハドウシテモ幾ラカ相当ナル資力ヲ有タナケレバナラヌ、追々ニ或種々ナル方々カラ資力ヲ添ヘテ下サルデハアラウケレドモ、学術ヲ大切ニ思フ世ノ中ハ、我々同業即チ実業界カラシテ追々ニ斯カル事柄ニ対シテ同情ヲ寄セシムルニハ、今申ス通リ一ハ見本デアリ、一ハ又其位置ニ居ル私デスカラ、幾ラカ是等ノ便宜ガ出来ルデアラウカ、果シテサウ考ヘルナラバ、身ノ不肖ヲ顧ミズ、又事ノ相応シカラザルヲ憂エズニ、姑ク任務ヲ塞イデ居タガ宜カラウ、斯ウ思ツテ御引受ヲシタノデゴザイマス、当時幸ニ総裁タル桂公爵ト方面ハ違フテ居リマシタガ、別シテ御懇親ヲ願ツテ居リマシタノデ、少シ此会ノ基礎ヲ固メル――基礎トイフノハ学術上ノ基礎デハナイ、資産上ノ基礎ヲ固メルトイフ覚悟デハ居リマシタガ、ツイ其事モ思フヤウニ行キマセヌノハ、甚ダ遺憾千万デ、唯今会頭ヨリモ副会頭ヨリモ細カイ御報道ガアリマシタ通リ、此会ノ進歩ガ遅滞シテ居ルトイフコトハ、定メシ諸君ニモ御不満足ニ思召シマセウ、併シ唯今申上ゲタ通リ、私共ハ譬ヘニアル通リ、大勢寄ツテ虎ノ話ヲスルト、其中一人ガ別シテ身慄ヒヲシタ、ナゼサウイフコトヲシタカト質シテ見ルト、其人ハ虎ニ遭ツタ人デアル、事実其地ヲ踏ミ、其場ニ臨ムト感ズルノガ強フゴザイマス、私共ハ別シテ癌トイフ煩ヒヲシテ、其煩ヒハ自身遭遇シマシタカラ深ク感ジマスノデ、追々ニ之ニ対スル同情者ガ必ズ出来ネバ止マヌモノト思ヒマス、段々ニ社会ノ学術モ進ンデ参ル毎ニ、欧米デハ斯ウイフコトニ付テ種々ナル方法ヲ以テ学問ヲ窮メツヽアルコトハ、私ガ玆ニ申上ゲマセヌデモ、御列席ノ皆様ハ御熟知ノコトデアラウト思ヒマス、其際ニ折角此会ガ組立テラレテ既ニ数
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年ノ歳月ヲ経マシタガ、其進歩ノ遅々タルハ一応我々ノ力足ラヌ所以ト、諸君ニ対シテ甚ダ赧然タラザルヲ得ヌノデゴザイマスガ、唯金ノ為メニ世ノ進ミニ副ハヌヤウデハ相成ラヌトイフノデ副会頭カラ御報告ノアツタ通リ、本会ヲ社団法人ト基礎ヲ改メ、同時ニイツノ時トイフテ必ズ斯カル学術ニ寄附スベキ年月トイフコトガ、暦ニモ何ニモ書イテナイノデスカラ、矢張リ丹精シテ、コチラノ精力ヲ以テ追々ニ同情ヲ惹ク外ナカラウトイフ訳デ、玆ニ社団法人ト組織ヲ改メ、更ニ進ンデ本会ノ力ヲモ追々ニ現サウトイフ当事者一同ノ考案デゴザイマスドウゾ其辺ハ諸君ニ於テ宜シク諒トセラレテ、尚ホ本会ノ学問上ニ付テノ御研究ニ十分御尽力アラムコトヲ希望イタシマス、甚ダ浅学ノ私デスカラ玆ニ喋々ト申上ゲマス材料ヲ有ツテ居リマセヌガ、自分ノ始終考ヘテ居ルコトヲ此機会ニ一言申述ベタニ過ギマセヌ
　　○以下各種ノ報告略ス。

昭和二年度、社団法人癌研究会庶務会計報告書　　寄付金名簿・第二頁刊
　　　　寄附金名簿

　年月　　　　　　金額　　　　　　　姓名　　　　　　摘要
○上略
（大正三・五）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（研究費中ヘ）
同　　　　　　　一、〇〇〇、〇〇　子爵渋沢栄一殿　　同
○下略