デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
1節 学術
7款 帰一協会
■綱文

第46巻 p.492-495(DK460127k) ページ画像

大正2年11月29日(1913年)

是日栄一、イギリス国帰一協会マッケンジー宛ニ、同協会第一回会合ニ対シ祝意ヲ表シ、今後ノ協力ヲ希望スル書翰ヲ、当協会幹事連名ニテ発送ス。次イデ十二月二十日、上野精養軒ニ於ケル当協会例会ニ出席ス。


■資料

帰一協会会報 第四・第一六〇―一六三頁大正三年七月 英国マツケンジー博士への書簡(DK460127k-0001)
第46巻 p.492-493 ページ画像

帰一協会会報 第四・第一六〇―一六三頁大正三年七月
    英国マツケンジー博士への書簡
謹啓
 本年九月九日附の貴翰拝読仕候、小生等は日本帰一協会員一同を代表して、貴下が親密有効なる援助を本会に寄せられたる事を鳴謝し、併て貴国帰一協会第一回会合の御開催に対して深厚なる祝意を表し申候。小生等は此機会に於て、当協会の事業の性質並びに貴会の協力を仰ぎ度き点に就ても申述度候。
 当帰一協会は、昨年十月以来毎月開催の例会に於て、宗教問題並びに社会問題等種々の方面より討議致し居候。本会々員には、各種宗教に属する有力者を網羅致居り、又数名の基督教宣教師、知名の実業家教育家、哲学者、政治家、著述家等も有之候。此等討議の問題は絶えず相違致居候得ども、各種の宗教信仰及び道徳主義の真正なる意義と其が日本国民の社会的道徳的生命に及ぼす影響とを闡明するの目的を以て一貫致し居候。但し其論議の結果に至ては、未だ格別申述ぶ可き程のものも無之候得共、兎も角宗教、地位、傾向を異にする人士が相互間には和親の実を挙げ、一般社会に対しては一層親善の関係を結ぶの目的を以て、親しく一堂の中に会同せるは事実に御座候。併しながら、本会の討議は、決して各種宗教道徳の特異点を軽小視致候訳には御座なく、唯常に其の相異点の根柢に存する根本的一致を高調致候次第に御座候。小生等の希望は如斯にして単に軋轢を排除するのみならず、濶大なる立脚地に立つて、各種の思想及び文化の会流より生じ来る複雑なる諸問題の解決に資する事に有之候。而して現代日本の遭遇せる社会上並びに精神上の問題は、啻に我が国の問題たるのみならず正に全世界の逢着せる問題の一部、若しくは表現なりと確信罷在候。従つて、小生等は常に西洋諸国民と協力一致せん事を熱望罷在候。即ち小生等は東洋諸国民の有する最上の思想と最高の理想とを西洋に紹介し、之に対して西洋諸国民は西洋文明の精華を東洋に紹介せん事を切望仕候。而して吾人は英国に於ける吾帰一協会姉妹会の設立に於て燦然たる希望の曙光を認むる者に有之歓喜此事に御座候。現在我が帰一協会の報告書は日英両文を以て刊行致し居候。日本文には本会に於ける講演並びに報告の詳細を掲げ、英文には英語の講演及びメービー博士・ピーボデイー博士等の如き来賓の演説を蒐め居り候。而して英文報告は将来世界的性質を帯べる季刊雑誌と致し、世界各国間に宗教
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道徳、政治、社会等の各方面に於ける徹底的理解を促進せん事を期待罷在候。日本帰一協会は此の点に於て特に貴会の御尽力を切望する者に御座候。東西両洋をして互に徹底的に理解せしめんが為めには、両洋に於ける有力なる思想家の所説を併載するの必要有之候。就ては貴国会員諸氏が論文若くは書簡を本会に寄せて精神上、社会上、政治上の諸問題、就中我が国民に関聯せるものにつきて忌憚なき所思を発表せらるゝ様、貴下の御尽力を希望致候。異国民間に、理解を生ぜしむる者は、意見と思想との公明なる交換のみと信じ候。而して政治的の同盟により結合せる日英両国に於て斯種の理解は特に重要に御座候。
 更に本会は目下国際的研究所の設置を計画罷在候。其の目的の綱要は万国博物館・図書館並びに考古学的研究の機関を整備し、世界各民族の風俗、習慣、宗教及び特質等に対する比較研究の便宜を東西両洋の人士に提供するに有之候。
 過般ハアーヴアード大学教授ピーボデイー博士は、米国帰一協会代表者として我国に派遣せられ、本会の運動につきて協議せられ候。又日本帰一協会を代表せる姉崎博士は、目下米国に在りて同国帰一協会に本会代表者として出席致し居候。如上の交際は両国の意志を疏通せしむるに於て最も有力なる者に御座候。小生等は貴国と我国との間にも同様の協定を為し得ば幸甚の至りと存じ候。
 当国に於ける本会事業の進捗に関しては絶えず貴下に報告を怠らざる可く候間、帰一運動の世界的発展に関して貴下の御協力を仰ぎ度希望の至に御座候。敬白。
                      服部宇之吉
  一九一三年十一月二十九日        森村市左衛門
                      成瀬仁蔵
                      渋沢栄一
                      浮田和民
                      井上哲次郎
                      中島力造
    マッケンジー博士閣下
 附記。今年一月廿六日附右マッケンジー博士よりの来状によれば、同月十七日帰一協会英国支会開催せられたる由也。


集会日時通知表 大正二年(DK460127k-0002)
第46巻 p.493 ページ画像

集会日時通知表 大正二年        (渋沢子爵家所蔵)
拾弐月廿日 土 午後四時半 帰一協会評議員会(上野精養軒)
        午後五時  帰一協会例会(上野精養軒)


帰一協会記事 一(DK460127k-0003)
第46巻 p.493-495 ページ画像

帰一協会記事 一            (竹園賢了氏所蔵)
十二月例会
二十日○大正二年一二月 午後五時上野精養軒に於て開会。始め左の講演あり
 神道の神観に就きて        加藤玄智氏
講演二時間に亘り、午後七時会食会にうつる。席上服部幹事送別の辞を述べて曰く『実は本夕は渋沢男爵に請うて本野大使及び新に本会に入会せられたる日米交換教授佐藤昌介氏並に綱島佳吉氏に対する送別
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の辞を呈する筈なりしが、渋沢男爵は用事ありて早退せられ、且本野大使も用事ありて既に退席せられ、又佐藤氏は既に出発渡米の途に就かれたれば、余は単に今夕綱島佳吉氏に対する送別の意を表せんとす余は綱島氏が健康にして能く日米問題解決の使命を全うせられん事を切望す云々』之に対して綱島氏は深厚なる謝意を表し、且曰く『余は在米日本人を慰問せんとするものにあらず、寧ろ米国識者に訴へんと欲するもの也、我が日本組合基督教会は去る十月其総会に於て日米問題の根本的解決を期する旨決議せり。余は実に此決議を齎らして彼地を訪はんとす。広く曰へば、余は日本の宗教家を代表して彼国に行かんと欲す。猶余は在米中帰一協会員の一人として、多少の微力を致す事を得ば幸甚と信ず。由来加州問題は人種問題の余波のみ、而して人種問題は日本人のみの問題にあらずして世界の問題なるが故に、今後益重大とならん。此は単なる外交問題にあらず、従つて外交当局者に一任して安んずべきにあらず、此は実に人道問題なるが故に、人道問題として根本的に解決せられざる可らず。直に之を解決し尽す事を得ずとするも、須らく根本的解決を企てざるべからず。余は到底其器にあらずと雖も、多少彼地の事情に通ずる上幾多の友人を彼地に有するが故に、大に彼地の識者に訴へんと欲す。云々。』
 後八時より九時に亘りて、本夕特に来会を煩はしたる横須賀機関学校教師英国人ステヴンソン氏の霊智学 Theosophy に就いての講演ありしが、大に来会者の興味を惹起せり。(講話は会報に掲載の筈につき玆には省略す)即ち成瀬氏は立つて所感を述べて曰く『余が彼地を視察したる時は生憎流行病ありて親しく接近する事を許されざりしも霊智学の教育主義は真に賞讃に値するものと信ず、而して其秘訣は只今の講演の如く各自の神性を発揮するの一事に存すと信ず』次に中島博士亦所感を述べて曰く『余も亦ポイント・ロマを往訪したる一人也其教育主義は品性教育・意志教育に重を置く事恰も日本の武士教育の如し。余彼地に於て其学校を参観するや、演説を請はれたるが故に止むを得ず三、四十分間語れり。二三歳の小児に至る迄来集せるが、一同極めて行儀正しく謹聴せり。行儀のよき事、意志の訓練の出来たる事、世界一也。次に此学校の教師は皆無給也、自己の所信に従つて児童を感化せん事を決心せる人によりてのみ教育せらる。到底月給取りの教師の企て及ぶ所にあらず。菜食の日本人は一般に肉食の西洋人よりも万事に落ち着きを有す。然るに此学校に於ては、肉食しながらも日本人以上に落ち着きを有するは感服の至り也。固よりポイント・ロマの教育主義は直に我国に於て真似る事能はずと雖も、将来大に参考に資すべき者なりと信ず。余の見る所によれば宗教と教育とは厳に区別せられざる可らず、然れども自ら信ずる所ある人は毫も其所信を教へずと雖も、必ずや其感化を及ぼすものあるが故に、成立宗教乃至帰一協会等の言論によりて、教育家に宗教的信念を鼓吹するは甚だ結構なる事也、幾分でも教育家が宗教的趣味を有するを得ば、多少ポイント・ロマに於けるが如き結果をかち得べけんか』
十時閉会、当日の来会者左の如し
 渋沢栄一氏     荘田平五郎氏
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 一戸兵衛氏     山川端夫氏
 石橋甫氏      コーツ氏
 馬場恒吾氏     中島力造氏
 成瀬仁蔵氏     福岡秀猪氏
 片山国嘉氏     吉田静致氏
 阪井徳太郎氏    加藤玄智氏
 中野武営氏     山内繁雄氏
 五代竜作氏     服部宇之吉氏
 筧克彦氏      本野一郎氏
 吉川重吉氏     マコーレー氏
 綱島佳吉氏 (来賓)ステヴンソン氏
猶閉会後評議員会を開きて、左の諸氏を本会員となす事に決定す
                    佐藤昌介氏
                    綱島佳吉氏
  (右二氏は佐藤氏渡米の期日切迫の為に評議員会の開会を待たずして本会員となす事に決定せり)
  赤坂仲町四七            宮岡直記
  同仁教会宣教師           ケルン
  慶大教授              コールマン
猶左記諸氏の推薦ありたり、次会に於て入会決定の筈
  高木壬太郎氏(成瀬・コーツ両氏紹介)
  ペツドレー氏(同上)
  山屋他人氏(服部・成瀬両氏紹介)