デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
1節 学術
7款 帰一協会
■綱文

第46巻 p.596-599(DK460144k) ページ画像

大正4年7月14日(1915年)

是日栄一、上野精養軒ニ於ケル当協会第四回時局問題研究委員会ニ臨ミ、従来ノ経過ヲ説明シ、宣言発表ノ希望ヲ述ブ。


■資料

集会日時通知表 大正四年(DK460144k-0001)
第46巻 p.596 ページ画像

集会日時通知表 大正四年         (渋沢子爵家所蔵)
七月十四日 水 午後五時 帰一協会委員会(上野精養軒)


渋沢栄一 日記 大正四年(DK460144k-0002)
第46巻 p.596-597 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年         (渋沢子爵家所蔵)
七月十三日 曇
午前七時起床、入浴朝飧ヲ畢リテ○中略成瀬仁蔵氏来リ、明日帰一協会開会ノ順序ヲ協議ス○下略
七月十四日 晴
○上略 五時上野精養軒ニ抵リ、帰一協会特別委員会ニ出席ス、種々ノ意見アリテ後、中島・姉崎・服部三博士ニ於テ原案作成スヘキ事ヲ托ス
 - 第46巻 p.597 -ページ画像 
夜十時過帰宿○下略


帰一協会会報 第七号・第一三頁大正五年三月 ○宣言決定に至る経過の大要(DK460144k-0003)
第46巻 p.597 ページ画像

帰一協会会報 第七号・第一三頁大正五年三月
 ○宣言決定に至る経過の大要
同年○大正四年 七月十四日第四回委員会
 先づ開会するや、渋沢氏は時局問題の大体の説明を為し、御大典を機とし本会の宣言ともいふべきものを公にするの件を謀り、次で出席会員全部逐次に其の意見を条項的に述べらる。(阪谷・添田・姉崎・高田・片山・山田・佐藤・井上・成瀬諸氏)
 尚ほ本会に於て、右に関する宣言文案を起草し、之に付いて更に研究討議を行ふ事となり、其の起草を姉崎氏に一任せらる。


帰一協会録事第二(DK460144k-0004)
第46巻 p.597-599 ページ画像

帰一協会録事第二             (竹園賢了氏所蔵)
    第四回委員会○時局問題研究
七月十四日○大正四年 午後五時開会
来会者左の如し
 渋沢栄一男   阪谷芳郎男
 中島力造氏   井上哲次郎氏
 添田寿一氏   姉崎正治氏
 服部宇之吉氏  成瀬仁蔵氏
 宮岡恒次郎氏  佐藤鉄太郎氏
 秋月左都夫氏  高田早苗氏
 山田三良氏   片山国嘉氏
 床次竹二郎氏
          (晩餐会費一円弐十銭也)
開会するや、先づ渋沢男は問題の大体の説明を為し、添田氏之に対する意見あり、次に阪谷男は大要左の意見を述へらる
 第一条 世界の平和―万国主義
 第二条 海外移民に関する事 海外に在りて其の国性を維持すべしといふは、例へは米国の如きに在りては不公平となる故に、根本問題解決しおらず
元来個人主義と家族主義との衝突は日本国民道徳を破壊するものなり故に大に家族主義と為すべし(忠孝)此の主義を明言されたし
 第三条 宗教の事をも明言あそばしたし、宗教を貶する事は徳性を養ふ所以にあらず
 第四条 教育制度に改革を加ふる事(ローマ字の件)
 第五条 憲法並自治政に付き強く警告の言を望む
        以上
 添田氏
 第一 鎖国当時の日本にあらさる事を自覚せしむる事。即ち日本の地位を知らしむる事
 第二 此の地位に在る日本将来の主義・義務を確立する事 之には東西文明の融和を国是とする事、而して日本国家の地位と個人の地位とは一致し居らず、帝国は到る所尊敬さるゝも、個人は到る所排斥さ
 - 第46巻 p.598 -ページ画像 
るるは、個人完成の足らさる故なり
 姉崎氏
個人完成は特に重要なるものなり、凡そ教育には
 Professional education & liberal education
との二者あり、現今の教育が人格完成に乏しきは前者を主とする弊なりと信ず
 高田氏
一、○○が迷信的基礎にあるにあらさるか、之れ将来の為に危険なり根幹枝葉の関係を知るべし
二、憲法・自治・立憲主義を強く国民の頭に植付くる事の必要
三、日本人は其民族を拝し過ぐ、天啓ある民族の如く思ふ風あり、軍備等にも然り
四、民族的偏見を超越する事
五、個人の完成 健全なる個人主義・国家主義・世界主義は調和すべきものなり
 片山氏
個人完成に特に賛同す、之は教育にもよるし刺戟にもよるが、天性完全ならされば人格完全を得ず、即ち生理的に健全ならさるべからす、之人種改善論盛なる所以なり、最後の勝利は之の改善に著目したる国民に在り、即ち身心の健全を第一義となす
 山田氏
一、インターナシヨナルの言は強国の地位より言ふは或は誤解を招き易きにはあらさるか
二、国際法といふも小国の論する所にして、強国は之を口にせず、列強といふ言は已に一方に国際法を否認せるものなり
三、家族主義といふも特に日本に限らず、却て世界に尊重すべき家族主義あり、瑞西の家産法の如き然り
然らば健全なる身心人格の完成を主眼とする外なし、但し如何にせは其の力を与へ得るか、現代の教育が此点に足らさるは先きに本会の決議したる所なり
 床次氏
大正聖代を記念するものなる事は至極結構なり、然し如何なる方法によるも困難な事をも切に感ず
民族的偏見を去り世界の平和を以て進む事必要なれども、国民としての自覚も必要なれば、之をも失ふべからず
 佐藤氏
諸氏の意見一見異なる如きも実ハ一なり、戦中の大典を記念する為には、戦後の覚悟に付ては強くありたし、然も雄大なるものにして論議あるものは避くべし
 井上氏
「東西文明の融和」といふも漠然たるものにて、如何にせば之を可能ならしむるを得るか、之が又国家の目的なりや否や、又元来其の要素は何物なるか、東洋にも個人主義あり、西洋にも団体主義あり、故に具体的に述ふべきなり
 - 第46巻 p.599 -ページ画像 
国家個人の干係、個人の完成――儒教は之を目的とす、然し国家に立派にせされは人は完全する事能はず
国家の一人は絶対的の己人にあらず、個人国家は双互的の働あるものなり、而るに或る一方のみを目的とする極端なる者もあり、故に調和し得べき事を教ふる必要あり
万国平和といふは学問上大に疑問なり、平和を目的とするは大に可なるも、弱き心地を与ふ、進歩主義より云へは世界の平和なし、Kampfum Dasein.実際上競争止む時なし、唯終局の理想としては平和可也
詔勅 先帝のそれと矛盾せさるものなるべし、而して多くは日本の歴史、国体を省みて渙発せられたる如し
 成瀬氏
阪谷男の意は根本にして、添田氏のは日本国民として如何に之を実現するかの点にして結局一なり
正義人道は弱国の声とは然らず、ミリタリズムをとらは国家を誤まるものなり 云々
      ×
最後に一昨十二日帰朝せられたる姉崎博士は時局に対する米国の輿論態度に付き一場の演説を試みらる
時に十時なり、今回は従来の委員会になき盛会なりき