デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
1節 学術
7款 帰一協会
■綱文

第46巻 p.684-686(DK460174k) ページ画像

昭和2年9月23日(1927年)

是日及ビ十月二十六日、栄一、日本倶楽部ニ於ケル当協会例会ニ出席ス。


■資料

集会日時通知表 昭和二年(DK460174k-0001)
第46巻 p.684 ページ画像

集会日時通知表  昭和二年        (渋沢子爵家所蔵)
九月廿三日 金 午後五時半 帰一協会例会(日本クラブ)


帰一協会記事 六(DK460174k-0002)
第46巻 p.684-685 ページ画像

帰一協会記事 六             (竹園賢了氏所蔵)
    九月○昭和二年 例会 九月二十三日於日本倶楽部
 講演「教育の改善について」
              法学博士 水野錬太郎氏
 教育は明治維新以来六十年の間に、非常な進歩を遂げて来た。維新当時は、文化にも科学にも殆んど見るべきものゝない孤立の孤島であつたものが、今や諸外国にも必ずしも劣らない迄に進んで来た。これ教育の力に待つ所が多い。
 併し、今日の現状は、猶決して満足すべきものではなく、幾多改善の余地がある。
 明治の新政に於いては、凡てを新しくし、統一した制度の下に置く必要上、教育にも劃一主義をとつた。初等教育の制度をはじめとし、凡べて、その精神に従つてゐる。そして今日に及んで、漸く教育の基礎は定つた。近来、しきりに、学生が卒業後役に立たないと云ふ様な世評をきく。劃一教育に多少の変更を加ふべき時が、来たのかも知れぬ。
 今日の実状を見ると、義務教育終了後は、実業学校よりも、中学校にゆかうとする希望者が多い、中学校卒業者も同様である。小学校・中学校・高等学校・大学と云ふ系統を以て、教育の正系とする考があるらしい。入学難の原因も此処にある。現在の学校の数は
 中学校       約六〇〇
 高等学校        二五
 直轄専門学校     約三〇
に達してゐるが、猶希望者の増加が著しくて、収容能力が追ひつかぬ国民の攻学心の盛んなことは喜ぶ可きだが、若しこれが、病的のものでありとすれば、一考を要する。
 入学難緩和の早道は、学校増設にあるが、これは、地方或は国家の財政の問題を考へねばならず、さう簡単にはゆかない。今迄政府が余り顧なかつた私立学校に、財政上の補助を与へると云ふことは、私立と官立との間の区別を除いて、入学難を緩和することになる。
 官私学校の待遇を色々の点で、等しくしてゆく事は、単に入学難の
 - 第46巻 p.685 -ページ画像 
問題だけでなく重要視すべきことである。
 最近喧しく問題になつてゐる入学試験については、試験そのものは別に悪くはないが、試験の為に学問をすることが悪いと考へて、それに対する方法を研究してゐる次第である。併し、試験に代はるべき完全な方法と云ふものは、容易に見つからない。若し、今考へてゐる方法より、よりよいものがあれば、何時でもそれを採る積りである。
 最後に、今後、陪審法や、普選が行はれるにつれて、教育は単に学校に於いてするのみでなく、学校以外の公民教育がますます必要になつて来ることに注意したい。(了)
出席会員氏名(廿六名)
 麻生正蔵氏   姉崎正治氏
 井上雅二氏   今岡信一良氏
 尾高豊作氏   筧克彦氏
 川田鉄弥氏   鎌田栄吉氏
 黒田長和氏   コールマン氏
 渋沢栄一氏   滝沢吉三郎氏
 田中次郎氏   津田敬武氏
 頭本元貞氏   時枝誠之氏
 花房太郎氏   補永茂助氏
 水野錬太郎氏  宮岡恒次郎氏
 塩沢昌貞氏   友枝高彦氏
 野口日主氏   福原俊丸氏
 ボールス氏
 倉元氏(ボールス氏同伴)


集会日時通知表 昭和二年(DK460174k-0003)
第46巻 p.685 ページ画像

集会日時通知表  昭和二年       (渋沢子爵家所蔵)
十月廿六日 水 午後五時 帰一協会例会(日本クラブ)


帰一協会記事 六(DK460174k-0004)
第46巻 p.685-686 ページ画像

帰一協会記事 六            (竹園賢了氏所蔵)
    十月○昭和二年 例会  十月廿六日於日本倶楽部
 講演、東洋に於ける宣教師の功罪批判
               会員 頭本元貞氏
 東洋に於ける過去七八十年以来の宣教師の活動について、東洋国民は先づ、感謝の心を表すべきである。基督教と云ふ新らしい教へを伝へられたとともに、それに附帯して哲学・文学等を得、又、美術・病院・社会事業等で受けた利益は大きい。併し、是等の偉大なる貢献の反面には、又、見逃すべからざる害毒も潜んでゐる。その受けた害毒は、東洋のうちでも諸国により事情を異にするが、日本は利を多く得て害が少いに対し、朝鮮や支那は、利よりも害を多く受けてゐる様に思はれる。
 日・鮮・支三国の共通に持つ不平は、宣教師中相当多数が、東洋に対して誤つた心理を持つてゐることである。東洋の文化に対する誠の理解がなく、社会風俗凡て、低い程度のものと考へて仕舞つてゐる。
 内政干渉は、幸、日本に於いては殆んど、その事実がなかつたが、
 - 第46巻 p.686 -ページ画像 
朝鮮や支那に於ては、それの為に非常に困らされてゐる。又、朝鮮や支那を基督教化せん為には、勢ひ、日鮮融合を妨げたり、日支親善の邪魔になつたりしてゐる事実もある。
 多数の宣教師を、多くの金をつかつて東洋に送ることは、今日となつては、もう廃した方がよからうと思はれる。余りに収獲が少ない。既に種は蒔かれたのであるから、今後それを育てゝゆくのは、東洋人自身の力を以つてする方がよい。今後は、少数の見識・教養・人格のある宣教師だけの方が却つてよいのではないか。(了)
出席会員氏名(十七名)
 井上雅二氏 岩野直英氏
 ウォルサー氏  コールマン氏
 渋沢栄一氏   下村宏氏
 阪井徳太郎氏  田中次郎氏
 津田敬武氏   頭本元貞氏
 野口日主氏   穂積重遠氏
 諸井六郎氏   山岸慶之助氏
 矢野茂氏    船越氏(客)
 ローランド氏