デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正13年5月16日（1924年）

是ヨリ先、当会ハ理事会ノ決議ニヨリ、関東大震災後ニ於ケル東京市ノ道路改良ニツキ政府ニ建議シ、是日栄一、当会会計監督山田英太郎ト共ニ大蔵大臣勝田主計ヲ訪ヒ、東京市路面改良国庫補助ノ件ヲ陳情ス。更ニ九月十五日、栄一再ビ山田ト共ニ総理大臣加藤高明、十六日大蔵大臣浜口雄幸ヲ訪ヒ、大正十四年度道路改良費ニツキ陳情ス。

道路改良会書類　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
拝啓　陳者本月二十三日開会致候理事会決定事項左記ノ通ニ有之候間此段御通知申上候
　　大正十三年四月二十五日　　　　　　　　道路改良会幹事
　　　　（宛名手書）
　　　　子爵　渋沢栄一殿
　　　　　　記
一、東京市路面改良ニ干スル建議ノ件別紙ノ通建議スルコトニ決定
○下略
（別紙、謄写版）
　　　　建議書
東京市内ニ於ケル道路ノ破壊甚シク一般交通上影響スル所極メテ大ナルモノアルヲ以テ、市ハ曩ニ政府ノ補助ヲ受ケ之カ改良ニ著手シ、漸次近代交通ノ要求ニ副ハムトスルノ秋、不幸這般ノ大震火災ニ遭遇シ事業為ニ一頓挫ヲ来スニ至リシカ、今其ノ計画ヲ変更シテ焼失区域外ニ於ケル主要街路ノ改良ニ著手セムトシ、之カ経営ニ対シテ政府ノ補助ヲ求ムル所アリシト聞ク
顧フニ東京市ニ於ケル現在ノ道路カ都市生活ノ要求ニ応スル能ハサルハ吾人ノ夙ニ痛感スル所、今ニ於テ之カ改良ニ著手セスンハ道路ノ破損ハ一層甚シキヲ加フルノミナラス、帝都復興上之カ為ニ受クルノ損害亦実ニ測リ知ルヘカラサルモノアラム、蓋シ是等ノ事業タル独リ東京市ノ施設ニ一任シテ止ムヘキニ非ス、政府亦進テ之ヲ助勢シ以テ帝都道路ノ改良ヲ完カラシムルノ責務ヲ有スルハ疑ヲ容レサルナリ、政府固ヨリ各般ノ事業ニ対シ鉅額ノ経費ヲ要スヘキハ言ヲ俟タスト雖、
 - 第48巻 p.421 -ページ画像 
東京市カ未曾有ノ震災ニ因リテ著シク其ノ資源ヲ失ヘルノ今日、其ノ窮乏セル財政ノ下ニ於テ事業ノ遂行ヲ期セムトスルハ事容易ノ業ニ非サルヲ以テ、政府ハ之ニ対シテ相当補助ヲ為シ以テ其ノ完成ヲ助ケラレムコトハ実ニ本会ノ切望シテ止マサル所ナリ、玆ニ本会理事会ノ議決ヲ経建議候也
　　大正十三年四月　日　　　　　　社団法人道路改良会
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　会長　水野錬太郎
　　　　内務大臣　水野錬太郎殿
　　　　　　　　　　　　　　　（各通）
　　　　大蔵大臣　勝田主計殿

道路改良会書類　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　　　　　　（書入レ）
　　　　　　　　　本件ニ付会ノ依頼ニヨリ渋沢子爵ハ会計監督山内英太郎氏同伴、五月十六日午後二時半大蔵省ニ勝田○主計大臣ヲ訪問シ懇談シ、大臣モ願意ヲ了解セラレ可成希望ニ副フ様考慮スヘシト答ヘラレタリ
　　　　東京市路面改良費国庫補助ノ件
　　事業ノ概要
東京市路面改良事業ハ三千九百四十六万八千円ヲ以テ大正十年度ヨリ同十五年度ニ亘リ施行スル予定ニテ工事執行中、這般ノ震災ニ因リ焼失区域ノ道路ハ帝都復興事業トシテ執行スルコトヽ為リシニ依リ其ノ計画ヲ変更シテ、工事費千八百八十五万円ヲ以テ焼失区域外ニ属スル主要道路ノ路面ヲ改良セントスルニ在リ
　　経理ノ方法
右工事費ハ国庫補助金（七八六七一〇円）受益者負担金（三七七六三五七円）雑収入（一八八五〇円ニ）仰キ、尚不足スル部分ハ普通市費（六九〇四四五八円）ヲ以テ経理スルモノトス
　　国庫補助ノ状況
右当初ノ事業ニ対シテハ工事費ノ十二分五ヲ補助スルモノトシテ政府ハ助成ノ方針ヲ採リシモ、這般ノ震災ヲ動機トシテ大正十三年度道路改良費予算ハ著シク低額セラレ僅ニ三百七十五万円ニ過キスシテ、内務当局ノ説明スル所ニ依レハ本年度予算ヲ以テ漸ク前年度ヨリ別続《（引）》キ補助シタル工事ノ補助ヲ継続スルニ過キス、新規ノ事業ハ到底之ヲ容ルヽ余地ナキヲ以テ、今回東京市ノ申請シタル路面改良工事ニ対シテハ大正十三年度支出額二百万円ニ対スル十二分ノ五、即チ八十三万円ヲ追加予算トシテ要求シタルモ、大蔵省カ之ヲ容レサル場合ハ補助スルヲ得サル旨ヲ言明セル《（ラ脱）》
　　右事業ニ対スル本会ノ態度
□《（欠字）》悪ナル市内路面ヲ改良スルコトハ帝都ノ交通上又ハ市民生活上閉却《（閑）》スル能ハサル緊急事ナルヲ以テ、之カ事業ノ執行ヲ奨励スルカ為、本会ノ設立ヲ観ルニ至リタルモノトス、故ニ本会ハ之カ為ニ幾多ノ努力ヲ□《（欠字）》マス、政府ヨリ補助アラムコトヲ建言シ、時ニハ東京市道路評議会ヲシテ事業執行ヲ誤ラシメサラムコトヲ建言シ、本会ノ成立シテヨ
 - 第48巻 p.422 -ページ画像 
リ玆ニ五ケ年間専ラ之カ事業ノ為奔□《（欠字）》シ其ノ事原ヲ監視スル所アリ
市ハ従来ノ計画ヲ変更シタリト雖モ、焼失区域外ニ於ケル従来ノ計画ヲ執行セムトスルモノニ外ナラス、内務当局ハ十三年度既定予算ハ本事業ニ対スル補助ヲ容ルヽノ余地ナシト説明スルヲ以テ、親シク之カ事業ノ内容ヲ調査シタルニ、何レモ本会カ改良ヲ奨励シタル道路工事ノ継続補助ニシテ、今之カ補助ヲ廃止セムカ本会ノ建議ハ亦空文タルノミナラス、地方道路ノ改良ハ一頓挫ヲ来スニ至ルヘク、帝国路改ノ為寔ニ寒心ニ堪ヘス、依テ政府ハ何等カノ方法ヲ以テ本事業ノ達成ニ努力セラレムコトヲ望ム
　　　○右ハ標題ノ示ス書類綴込中、大正十三年ニ該当スル個所ニアリ。

中外商業新報　第一三八三七号大正一三年九月一二日
　　　　道路改良会
　　　　　　緊縮反対陳情
　　　　　　　　渋沢子が代表で
渋沢子爵等の設立に係る道路改良会は十一日午後五時より日本クラブに役員会を開催し、渋沢栄一・桐島像一・中島久万吉・比田孝一・中川正左・山田英太郎・松木幹一郎の諸氏出席、近時政府が財政緊縮のために大正九年の全国道路改良計画を根本より破壊するの計画に対しこの際適当なる方策を講ずるの必要があるとて政府の政策に対して研究審議したが、国道府県道に対する補助はこれを廃止するが如きことありとせば、将来道路改良事業を難渋ならしめ、近時八ケ間敷論議せらるゝ農村の開発を阻害し、その他国民生活上受くる不利益は挙げて数ふることが出来ないと言ふのであつて、近く子爵等をして総理大臣に陳情する一方檄を地方に飛ばして改良計画維持に努むることを決議し、同夜十時散会した

竜門雑誌　第四三三号・第三七頁大正一三年一〇月
　　　　青淵先生動静大要
　　　　　　九月中
十五日　道路改良会の件に関し加藤首相と会見（同官邸）
　　　○中略。
十六日　道路改良会の件に関し浜口蔵相と会見（同官邸）○下略

道路改良会書類　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　　　　　（書入レ）
　　　　　　　　　総理大臣○加藤高明には九月十五日午後二時、大蔵大臣○浜口雄幸ハ九月十六日午前八時半、各其官邸ニ渋沢子爵・山田英太郎氏帯同懇談し、共に何とか考慮すへき旨答へたり、大蔵大臣ニ面会の後内務大臣を訪問したるも不在なりし為め、秘書官ニ言伝を依頼して引取りたる由なり
 - 第48巻 p.423 -ページ画像 
　　　　建議書
道路ハ国民生活並経済上重要ナル地位ヲ占メ、其ノ良否ハ国運ノ隆替ニ反映スル所大ナルモノアルヲ以テ、政府ハ曩ニ之カ改良計画ヲ樹立シ、国道ヲ始メ地方道路ノ改良ヲ助成セラルル所アリ、今ヤ各地ヲ挙ケテ此ノ種事業ノ計画ニ日モ亦足ラサルノ状況ニ在ルハ本会ノ深ク満足トスル所ナリ
然ルニ政府ハ財政緊縮ヲ図ルノ必要上従来ノ計画ヲ放棄シ、大正十四年度道路改良費予算ヲ削減セラルルト聞ク、政費ヲ節約シテ民力ノ涵養ニ力ムルハ現下ノ国情ニ照シ敢テ異論ナシト雖、之カ為産業ノ進展物価ノ引下ケ国民ノ能率等ニ至大ノ効果ヲ齎スヘキ事業ヲ廃止又ハ中止セシムルカ如キハ、大ニ考慮ヲ要スヘキ事案ナリト言ハサルヲ得ス今道路改良費予算ノ内容ヲ見ルニ、国道ヲ始メ其ノ他府県道街路等ノ如キ重要道路ノ改良ニ対スル補助其ノ大部ヲ占メ、今ヤ何レモ工事ノ進行中ニ在リ、而カモ本改良費額ハ既ニ屡々削除セラレ、補助金額ハ工事ノ進捗ニ応スル能ハサルノ実状ナルヲ以テ、此ノ上更ニ予算ノ廃止ヲ見ムカ、地方ハ折角着手シタル工事ヲ廃止又ハ中止セサルヘカラサルニ至リ、為ニ近時漸ク擡頭シタル道路改良ノ機運ヲ頓挫セシメ、将来ニ於ケル改良ヲ著シク難渋ナラシムルニ至ルヘク、農村ノ開発ヲ阻害シ地方財政ノ経理ヲ困憊セシメ、道路改良ト共ニ計画サレタル民間事業ヲ不能ニ陥ラシメ、沿道居住者ノ受クル損失等ハ挙ケテ数フヘカラサルモノアラム、殊ニ着手中ニ属スル事業ヲシテ半途廃止セシムルカ如キハ無益ノ国帑ヲ投シタルコトトナルヘク、軍事上ノ行動ハ勿論、都市計画事業ノ進捗ニ及ホス影響亦蓋シ尠少ナラサルヘシ、此ノ如キハ却テ政費節約ノ根本義ニ背反スルモノト認ムルヲ以テ、政府ハ従来ノ計画ヲ持続シ、以テ道路改良事業ノ促進ヲ助成セラレムコトハ実ニ本会ノ切望シテ措カサル所ナリ、玆ニ理事会ノ議決ヲ経建議候也
　　年　月　日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　道路改良会長名
　　　　内閣総理大臣
　　　　内務大臣宛　各通
　　　　大蔵大臣
　　　○右ハ次掲「説明書」ト共ニ標題ノ示ス書類綴込中ニ在リ、依ツテ書入レ中ニアル「九月十五日」ノ日付ハ大正十三年ノ同日ヲ意味ス。
　　　○是年六月内閣更迭。
（表紙）
　　　　（書入レ）
　　　　大正十三年九月十五日道路改良会ヨリ受取、道路改良費予算削減ナキ様首相・蔵相・内相ニ陳述ノ為メニ参考トシテ提出シタルモノニシテ大臣ニハ差出サザルモノナリ
　　　　　　　説明書

　　　　説明書
　　大正十四年度道路改良費ノ大要
大正十四年度予算ハ道路公債法ノ内容ニ属スル既定計画額一千万円ヲ以テ経理スル計画ナリシモ、政府財政ノ関係上已ムヲ得ス之ヲ四百二
 - 第48巻 p.424 -ページ画像 
十五万円ニ減額シ、新規事業ハ一切之ヲ見合セ、前年度ヨリ引続キ補助シ土木試験ノ事業ヲ継続セムトスルニ在リ、其ノ内容ハ
　金二百五十五万九千百二十五円　　国道改良費補助
　金二十万二千五百円　　　　　　　府県道改良費補助
　金百二十六万二千五百円　　　　　六大都市街路改良費補助
　金十万円　　　　　　　　　　　　軍事国道改良費
　金十二万五千八百七十五円　　　　道路試験其ノ他費用
　計　　金四百二十五万円

　　廃止減額スル能ハサル理由
　　　　　　一、道路改良ニ頓挫ヲ来シ将来ニ於ケル改良ヲ難渋ナラシムルコト
各地ニ於ケル道路改良事業カ十分ナラストハ言ヘ、今日ノ如キ域ニ達シタルハ全ク政府カ之ヲ助成シタルノ結果ニ外ナラサルヲ以テ、若シ之ヲ変更スルニ於テハ折角擡頭シタル計画ハ一頓挫ヲ来スノミナラス現在国道ハ何レノ日ニカ之ヲ改良セサルヘカラサル運命ヲ有スルモノナルヲ以テ、此時ニ方リ改良事業ヲ計画セハ現在ヨリ工費ノ増嵩ヲ来スヘク、国道ハ全部国費支弁ニ属セシムルノ民論ニ聞カサルヘカラスシテ、国道改良事業ハ為ニ一層ノ難渋ヲ告クルニ至ルヘシ
　　　　　　二、農村ノ開発ヲ阻害スルコト
近時発達シタル自動車カ地方交通ニ偉大ナル効果ヲ齎シ地方農村生活ニ頗ル大ナル関係ヲ有スルニ至リ、之カ為地方道路ノ改良カ昔時ノ鉄道敷設運動ト相競テ要求セラルル所以ニシテ、産業ノ進展上喜フヘキ現象ヲ呈セムトスル今日、之カ事業ヲ廃止スルハ農村救済ノ政策ト矛盾シ、地方開発ヲ阻害スルコト頗ル大ナルモノアリ
　　　　　　三、地方財政ノ経理ヲ困難ナラシムルコト
道路改良費予算ハ政府財政ノ関係上、地方カ実際支出シタル工事費ニ応シテ補助スルコトヲ得スシテ、工事完成数年ニ亘リテ補助ヲ為ス実状ニ在リ、而シテ府県財政ノ経理ニ関シテハ後述スルカ如ク、土木局ヨリ補助予定額ノ通知ヲ受ケ之ヲ根拠トシテ予算ヲ編製スルカ故ニ、今之ヲ廃止セムカ地方ハ予定ノ収入ヲ得ル能ハス、為ニ歳入欠陥ヲ生スルニ至リ、又或地方ニ於テハ下級公共団体ノ寄附金若ハ受益者負担金ヲ財源ノ一部トシテ工事ヲ進行シタルモノ、或ハ後ニ述フルカ如ク軌道会社ノ負担ニ属スヘキ部分ヲ立替支出セルモノ等ハ、補助ノ廃止ニ因ル工事中止ニ依リ其ノ徴収ヲ困難ナラシメ、地方財政ヲ危殆ナラシムルノ虞アリ
　　　　　　四、既往ノ工事カ不経済的支出ニ終ルコト
現ニ補助シツツアル工事ハ既ニ完成シタルモノアリト雖、着手中ノモノ其ノ大部分ヲ占ム、是等ハ進工ノ程度区々タルモ其ノ最モ遅レタルモノト雖既ニ用地ノ買収ヲ了シ、橋梁ニ在リテハ橋脚工事ニ着手スルモノアルノ状況ニシテ、補助ヲ廃止セムカ地方ハ予定ノ収入ヲ得サルヲ以テ、必スヤ工事ヲ廃止スルニ至ルヘク、斯クテハ折角買収シタル用地ハ其ノ目的ヲ達セスシテ荒廃ニ任セサルヘカラス、又橋梁ニ在リテハ河中ニ橋脚ノミ樹立スル奇観ヲ呈スヘク、隧道ニ於ケル巻立工ノ
 - 第48巻 p.425 -ページ画像 
中止等何レモ之ニ為シタル投資ハ無意味ニ終リ、経済上寒心ニ堪ヘサルモノアリ
　　　　　　五、民間事業ヲ廃止セシムルコト
道路ノ改良ヲ動機トシテ道路交通ヲ助勢スヘキ軌道ヲ敷設セシムルハ交通上得策トスル所ナルヲ以テ、道路管理者ト軌道経営者ト共同出捐ノ下ニ事業ヲ進ムルモノ尠カラス、是等ニ在リテハ道路改良事業ノ廃止ト共ニ、軌道事業ヲ廃止セサルヘカラサルコトト為リ、此種民間事業ニ一大恐慌ヲ与フヘク、又道路管理者ニ於テ既ニ軌道経営者ヨリ、其ノ負担ニ属スル費用ヲ提供セシメ用地ノ買収ヲ了シタルモノ、又ハ道路管理者ニ於テ是等費用ヲ取替支出セルモノ等アルヲ以テ、是等ハ其ノ返還又ハ請求ニ図ラサル問題ヲ惹起スルナルヘシ
　　　　　　六、沿道居住者ニ損失ヲ与フルコト
土地買収ニ当リテハ、新道附近ハ土地所有者ハ将来発展ニ依ル利益ヲ考慮シテ地方庁ノ土地買収ニ協力シ、或ハ比較的低廉ニ買収ニ応スル者尠シトセス、然ルニ事業ヲ中止セムカ此等地方民ノ国家地方団体ニ対スル信頼ヲ薄クスルノミナラス、被買収者ハ不測ノ損失ヲ蒙ルコトトナル、買収地居住者ニ付テモ同様ニシテ、将来ノ発展ヲ予期シテ低廉ノ移転料ヲ以テ新道沿線ニ移転スルハ普通ノ事例ナリ、然ルニ今新道ノ工事ヲ中止セムカ、此等ノ者ハ交通ナキ箇所或ハ荒廃セル道路敷ニ面シテ居住セサルヲ得サルノ結果ヲ生シ、商店経営者等ニ取リテハ忍フ可ラサル損失ヲ与フルコトトナルヘシ
　　　　　　七、公約ヲ無視シタル誹ヲ受クルコト
道路改良費ハ継続費ニ非サルヲ以テ、固ヨリ後年度ノ支出ニ付契約ヲ為スコトヲ得ス、又之ヲ為シタルモノニ非スト雖、当初補助ヲ為スニ方リテハ後年度ニ属スル大体ノ補助方針ヲ示スニ非サレハ、地方庁ハ事業ノ計画ヲ樹立スルコト能ハサルヲ以テ、道路会議ノ諮問ヲ経テ補助スヘキモノト決定シタル工事ニ対シテハ、其ノ大体ニ付土木局ヨリ通知スル所アリタリ、固ヨリ契約ニ非スト雖、此ノ方針ヲ指示シタル以上ハ濫ニ之ヲ廃止スルカ如キハ適当ニ非スシテ、公約違反ノ誹ヲ受クルニ至ルヘシ
　　　　　　八、軍事行動ニ不便ヲ与フルコト
目下施行中ニ属スル軍事国道ハ、陸海軍ノ改良ヲ要求スル道路中最モ改良ノ急ニ迫レルモノヲ選択起工スルニ至リシモノナルヲ以テ、之ヲ廃止スルニ至ラハ必スヤ軍事行動ニ支障ヲ生スルニ至ルヘシ
　　　　　　九、都市計画事業ノ執行ヲ難渋ナラシムルコト
都市改造ノ基本的施設ハ街路ノ改良ニ俟タサルヘカラサルヲ以テ、六大都市ノ街路改良ニ対シ補助スル所アリ、之カ為今日ノ如キ都市計画事業ノ漸進ヲ観ルニ至リタルモノトス、今之ヲ廃止セハ独リ街路ノ改良ニ止マラス、一般都市計画事業ノ促進ニ障碍ヲ与フヘキハ明カナルヲ以テ、何等カノ方法ニ依リ之ヲ助勢セサルヘカラサルコトト為リ、本費用削減ノ目的ハ徹底セサルヘシ
　　　　　　十、道路試験ヲ廃止スルコト
我国ニ於ケル道路技術ハ未タ幼稚ノ域ヲ脱スル能ハス、為ニ各地ニ於テ執行スル道路工事ニシテ、著シク不経済的築造ヲ為スモノ尠カラス
 - 第48巻 p.426 -ページ画像 
従テ各種材料殊ニ我国産材料ヲ以テ、我カ気候風土ニ適応スル工法ヲ研究スルトキハ、築造上ハ勿論維持修繕費ニ於テモ多大ノ節約ヲ為シ得ヘキ余地アリ、故ニ一般試験ヲ行ヒ、其ノ結果ヲ周知シテ完全ナル工事ヲ経済的ニ施設セシムルノ要切ナルモノアリ、依テ土木試験所ヲ設置シタルモノトス、然ルニ之ヲ廃止セムカ、僅々六万余円ノ費用ヲ節約スルニ止リ、其ノ結果ハ国庫ヨリ援助スルト否トヲ問ハス全国ニ於ケル一般道路工事ノ成績ニ波及シテ、之カ為ニ受クル損失ハ幾何ナルヤ知ルヘカラサルモノアラム

（長岡隆一郎）書翰　渋沢栄一宛大正一三年一一月一九日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　（別筆朱書）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　大正十三年十一月十九日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　道路改良会
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　長岡隆一郎氏来状
拝啓　秋冷之候益々御清穆之段奉賀候、陳者大正十四年度道路改良費予算編成に関しては、御繁忙の折柄格別之御高配相煩し候処、要求額四百二十五万円に対し三百五十万円の要求を認められ候、財政緊縮之折柄に付之に満足致すべく、是に依りて既定事業は継続施行することと相成、喜賀之至りに不堪候、是れ貴下御奔走の御蔭と喜ひ居候、何れ理事会席上に於て御挨拶可致候得共、不取敢右申述度如此御座候
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　敬具
　　大正十三年十一月十九日
　　　　　　　　　　　　　　　　　道路改良会にて
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　長岡隆一郎
　　　　渋沢子爵殿