デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

7章 行政
2節 内務行政
3款 帝都復興審議会
■綱文

第48巻 p.468-480(DK480138k) ページ画像

大正12年11月27日(1923年)

是日栄一、当会本会議ニ出席ス。二十五・六両日ノ特別委員会ニ於テ成立シタル協定案ノ報告アリ。可決セラル。


■資料

中外商業新報 第一三五四七号大正一二年一一月二七日 協定案は政府案と大差ない 適当に修正してのちに臨議へ 後藤総裁談(DK480138k-0001)
第48巻 p.468 ページ画像

中外商業新報 第一三五四七号大正一二年一一月二七日
    協定案は政府案と大差ない
      適当に修正してのちに臨議へ
        後藤総裁談
審議会の形勢は二十六日の朝に至つて全く緩和され、特別委員協定案も多少遺憾の点の無いことはないが、兎も角も九月十二日の詔書の御主旨も充分
 尊重され、大体既定計画を遂行し得ると認められたので、閣外委員の草案に対し閣内委員は何等修正を加へずこれを承認した、但し本日の閣議の決定をまたなければ右協定案中のさ末な点に就て政府の最後の態度を示す訳に往かぬ、何れ本日午後更に開かるべき総会で伊東委員長が山本総裁に報告した上で、政府の態度が明かにされるのであらう、協定案中計画の基幹となるべき路線に対しては、従来の旧路線の復旧に止めよとの閣外委員の議論は、主要二大幹線の幅員廿四間を
 適当に収縮する他、なるべく旧道路を利用せよといふに改められた結果、廿四間を廿二間位にすることはさまで困難なことでもなく、その他路線は今度の計画で大体旧道路を利用することになつてゐるのだから、計画に大きな変化を来すやうなことはないし、これがため経費二千万円位を軽減し得ると思ふから、これを協定案第二の東京の上下水道や地下埋設物整理の方面に振あてれば、予算の上に大きな増減はなからう、東京築港及び京浜運河の施設の要否に就ては、閣外委員に完全な意見の一致がなく、協定案に復興事業と
 切離つといふのだが、復興材料を運搬するためにも急速に施設を要することは何人も異論のある筈もなく、例へ臨時議会に復興予算として提出することが出来ずとも、通常議会で内務予算として提出し何うでも二ケ年間には事業を遂行しなければならぬ、復興法についても復興院官制や審議会の権限等に不満のある外はその内容は認めて呉れた以上の如く協定案は、当初の三四委員の反対意見あつたにも拘らず伊藤・高橋・加藤・江木・青木・渋沢の六氏から成る閣外委員によつて
 自発的に大体既定計画遂行の必要を認められた訳で、政府はこの審議会の意向を充分尊重して適当に計画の修正を行ひ、評議会を経ずとも直に臨時議会に提出することゝならうと


中外商業新報 第一三五四七号大正一二年一一月二七日 協定案を尊重して 適当に修正する 政府の態度決定(DK480138k-0002)
第48巻 p.468-469 ページ画像

中外商業新報 第一三五四七号大正一二年一一月二七日
    協定案を尊重して
      適当に修正する
        政府の態度決定
 - 第48巻 p.469 -ページ画像 
政府の復興計画案に対する帝都復興審議会特別委員会の閣外委員の態度は、既に別項の如く決定しいよいよ廿七日審議会総会を開いて
 正式決定をなす段取りとなつたので、政府側の閣僚委員も、二十六日の特別委員会では閣外委員作製の妥協案に賛否を明示せず、態度未定のまゝ散会したが、総会には政府として正式に何れかの方針を決定して臨まなければならぬから、政府は二十六日の特別委員会の散会後
 閣僚委員のみ居残りこれに山本首相も参加して、右妥協案に対する政府の態度に付種々意見の交換をして大体の方針を内定したが、それに依れば今回の妥協案は政府としては甚だ不本意ではあるが、然し全体を通じて多少融通の道が付いてゐるので、その根本精神に副ふ様には努めるが、これを左程窮屈なものとして
 取扱はず、大体政府が適当と信ずる程度のものに計画案を修正する心算である、即ち道路の如きも、主として旧道路を利用せよとあるが止むを得ざるものに限り、適当の拡張を認めてゐるし、東京築港・京浜運河の施設を復興事業中から切り離すべしとの事なども、実際は閣外委員中にも両意見があつて、渋沢子はこれを
 必要とし、江木氏の如きは憲法上から見て臨時議会に提出する事の不可なる事、及びこれは府で行ふべきもので国家事業としては不必要であるとしたものであるが、これ等両意見を融合したのがこの妥協案となつたのであつて、即ちこれを復興計画から切り離せば、政府は他の形式においてこの計画を樹てるは敢て差支ないとの意味である、またこれ等の計画の変更や計画
 完成期間の五年間に短縮した事業に依つて予算に多大の変動を来すことゝなるが、これ等は大体から見て最も多額を要する道路が多大に減少する事となるから、一方府の施設になりしものが国家施設となつたものもあるが、全体の上から見て約三億位は減少すべく、その結果総予算四億円位の復興予算となるであらう、その他
 希望条件の建築資金融通の如きは政府もまた大に主義に賛成して居る所で、何れ何分の方策を樹てる考へであり、火災保険の事はたゞこれが制度の創設を希望してゐるのみで、速かに解決しろとのことでないから、政府は今後とも慎重に考慮する外ない、かくの如く見来れば政府はこの妥協案はこれを承認するも、決して復興事業そのものに
 支障を来すものと信じないといふ意見に各大臣の意見一致したから尚ほ二十七日午前中開会の閣議において正式にこれを決定して、当日午後の審議会総会に臨む事となつた


帝都復興審議会書類(DK480138k-0003)
第48巻 p.469-470 ページ画像

帝都復興審議会書類            (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
  大正十二年十一月二十六日
             帝都復興審議会幹事長
                   子爵 後藤新平
    委員殿
      通知
明二十七日(火曜)午後一時会議相開カレ候ニ付、内閣総理大臣官舎
 - 第48巻 p.470 -ページ画像 
ニ御参集相成度


渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記(DK480138k-0004)
第48巻 p.470 ページ画像

渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記
                     (財団法人竜門社所蔵)
十一月廿七日
○上略
△十一時頃事務所にて大橋新太郎氏と御会見、審議会に対する希望を聴取せられ、ついで山科礼蔵氏の訪問を受けらる
△午後一時審議会に出席せらる、廿五・六両日の特別委員会にて成立したる協定案を伊東委員長より報告して、直に其如く可決確定す
○下略


帝都復興審議会速記録 大正十二年十一月(DK480138k-0005)
第48巻 p.470-475 ページ画像

帝都復興審議会速記録 大正十二年十一月 (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    帝都復興審議会速記録 第二号
      大正十二年十一月二十七日(火曜日)
      総理大臣官邸ニ於テ開会
        午後一時二十分開議
○日程
  特別委員長報告ノ件
○出席者氏名
  伯爵 山本総裁   子爵 後藤幹事長
     岡野委員      財部委員
  男爵 田中委員   男爵 田委員
     犬養委員      山之内委員
     井上委員   男爵 伊集院委員
  子爵 高橋委員   子爵 加藤委員
  伯爵 伊東委員      江木委員
  子爵 渋沢委員      市来委員
     大石委員   子爵 青木委員
○議長(伯爵山本総裁) 開会致シマス
諮問案第一号・第二号・第三号、三案ヲ併セテ議題ト致シマス、委員長ヨリ報告ガアリマス、
○伯爵伊東委員長 去ル二十四日ノ本会ノ席上ニ於テ、総理大臣閣下ヨリ附託委員トシテ選命セラレマシタ、続イテ翌二十五日ヨリ昨二十六日ニ至リマスル迄、前後二回ノ委員会ヲ開キマシタ、各委員ノ間ニ腹蔵ナキ意見ノ交換ヲ行ヒマシテ、慎重審議ヲ尽シマシタ結果、幸ニシテ閣外委員間ノ意見ヲ帰一スルコトヲ得マシタ、玆ニ其ノ協定ヲ御報告致ス次第デゴザイマス、此意見ノ帰一ト云フコトニ付テ一言玆ニ申シマス、
 去ル二十四日ノ本会議ニ於キマシテ、又其ノ後ノ委員会ニ於キマシテ、諮問案ノ大体ニ渉ツテ各委員ノ間ニ多少ノ意見ノ相違ガゴザイマシタケレドモ、所謂小異ヲ棄テテ大同ニ就クト云フ綱領ヲ以テ、互譲ノ精神ニ依ツテ意見ヲ帰一致シタルコトデゴザイマス、固ヨリ是ハ各
 - 第48巻 p.471 -ページ画像 
人本来ノ持論ヲ束縛シナイト云フ諒解ノ下ニ成立致シタ訳デゴザイマス。
 又委員外ノ閣外委員市来・大石ノ二氏ハ前後二回ノ委員会ノ議事ヲ終始傍聴セラレマシタヨリシテ、此協定案ガ成立致シマシタ後、之ヲ吾々ガ両氏ニ諮リマシタ所、両氏モ亦幸ニ之ニ賛意ヲ表セラレマシタ次第デゴザイマスカラ、此協定案ハ閣外委員全体一致ノ――但シ和田豊治君ハ病気欠席デゴザイマスケレドモ――閣外委員全体一致ノ成案デアルト云フコトヲ玆ニ申述ベタイト存ジマス、
 唯今是ヨリ其ノ協定ノ要項ヲ朗読致シマスト共ニ、其ノ各項ニ就キマシテ簡単ニ説明ヲ加ヘタイト存ジマス、
    委員協定案
 ○第一項 路線ニ付テハ東京ノ部ニ於テ品川町ヨリ本芝一丁目・芝口一丁目・木挽町・江戸橋・和泉橋、車坂町ヲ経テ三ノ輪ニ至リ又九段坂下ヨリ神保町・両国橋ヲ経テ亀戸ニ至ル二幹線道路ノ幅員ニ適当ニ収縮ヲ加ヘ之ヲ承認スルノ外、爾余ノ各路線ハ財政上ノ見地ヨリ旧道路ヲ利用シ、必要已ムヲ得ザル箇所ニ限リテ適当ノ拡張ヲ為サシムルコト
此一項ニ付キマシテハ既ニ去ル二十四日ノ本会議席上ニ於テ、御承知ノ通リ吾々閣外委員中、一方ニ財政上ノ見地ヨリ総テ新設道路ヲ排斥シ、必要已ムヲ得ザル箇所ニ限ツテ、適当ノ拡張ヲ加ヘテ旧道路ヲ利用スベシト云フ説ヲ為シタル者尠ナカラズシテ、又其ノ一方ニ於テハ多少新設道路ヲ認容スベシト云フ説モアリマシタガ、前後二回ノ委員会ノ席上ニ於キマシテ慎重討議ノ末、閣外委員ノ意見帰一ヲ必要トスル交譲ノ精神ヨリ致シマシテ、右二幹線路ヲ認容スルコトトナツタノデゴザイマス、
 此二幹線ヲ認容スルコトニナリマシタケレドモ、工費節約ノ為ニ其ノ幅員ハ成ルベク十八間乃至二十間ヲ希望スル次第デゴザイマスガ、縮少ノ具体的意見ハ之ヲ当局ノ専門家ニ譲ツテ、本会議ニ於キマシテハ単ニ適当ノ縮少ヲ加フベシト申シタ次第デゴザイマス、併ナガラ吾吾希望ノ存スル所ハ充分ニ御尊重ヲ願ヒタイト存ジマス、
 ○第二項 東京ノ上下水道工事及地下埋設物ハ一時国費ヲ以テ速成ヲ図ラシムルコト
上下水道ノ完備ハ市民生活ニ於キマシテ絶対的急要ニ属スルモノデアル、都市計画ヲ立ツル上ニ於テハ真先ニ工事ニ着手シテ其ノ完備ノ速成ヲ求ムベキ筈デアルガ、震災前スラ東京市ノ自治体ハ財政窮乏ノ為ニ遅々トシテ充分ニ成績ヲ挙グルコト能ハズ、依然タル旧阿蒙ト云フ有様デアツタノデアリマス、別シテ震災ニ依ツテ市ノ財政ノ窮乏ハ最モ甚シキヲ加ヘ居ルコトハ、過日詳論シタ次第デゴザイマス故ニ、今ヤ都市計画ヲ立ツルニ当リマシテ、此緊急施設ヲ挙ゲテ依然トシテ市ノ為ス儘ニ任カサントスルコトハ思ハザルノ甚シキモノデアルト認メマスガ故ニ、此際一時国費ヲ以テ其速成ヲ図ルベキコトヲ政府当局ニ勧告セムトスル趣意デゴザイマス、但シ国費ヲ以テスルト云フコトハ全然国庫ノ負担ヲ以テスルト云フノ意義デゴザイマセヌ、唯一時国庫ヨリ支出シテ之ガ経営ヲ完フシ、適当ノ期限内ニ之ヲ回収セムトスル
 - 第48巻 p.472 -ページ画像 
コトハ勿論デゴザイマス、
 是ト同時ニ地下埋設物ニモ同様一時国費ヲ以テ経営シ、相当ノ期限内ニ之ヲ回収セシムベシト云フ意味デゴザイマス、尤モ地下埋設物ハ御承知ノ通リ電信・電話・電灯其ノ他瓦斯モ其ノ鉄管若クハ暗渠内ニ収容スルモノデゴザイマスカラ、此収容ニ対シテ相当ノ収入アルベキコトハ申ス迄モナイコトデアリマス、
 又玆ニ一言致シテ置キタイコトハ下水デゴザイマス、下水ハ必ズシモ巴里ノ地下ニ埋設シテアル如キ広大ナル暗渠ヲ市内到ル所ニ施設スベシト云フ儀デゴザイマセヌ、市内各所ノ状況ニ応ジ其ノ土地相応ノ設備ヲ為スベシト云フ儀デゴザイマス、ソレカラ具体的設計案ハ当局専門家ガ財政ノ許ス範囲内ニ於テ、且ツ適当ノ期限内ニ土地相当ノ設計ヲ立テテ実行セラルルコトヲ望ム趣意デゴザイマス、但シ水道設備ノ完全、其ノ一般普及ハ一日モ早ク実行ヲ望ムノ意デアルト云フコトヲ御諒察ヲ願ヒタイノデアリマス、
 ○第三項 公園ノ配置ニ付テハ東京・横浜ノ分トモ大体賛成ヲ表シ右公園内ニ消防ニ要スル十分ノ貯水設備ヲ為サシムルコト
公園ノ配置ニ付キマシテハ大体政府当局ノ提案ニ対シテ賛意ヲ表スル次第デゴザイマスルガ、抑々公園ヲ設クルノ趣旨ハ単ニ市民ノ娯楽ニ供スルト云フノミデナク、今回ノ大震害ノ如キ場合ヲ顧念致シ、消防用ノ為ニ特ニ充分ノ貯水設備ノ必要ヲ条件ト致シタ次第デゴザイマス
 ○第四項 市場ノ配置ニ付テハ東京・横浜ノ分トモ大体賛成ヲ表スルコト
市場ノ配置ニ付キマシテハ既ニ市民ノ諒解ヲ得タルモノナリト信ズルノデゴザイマス、大体ニ於テ賛意ヲ表スル所デゴザイマス、
 ○第五項 市街宅地割ノ整理ハ東京・横浜両市ノ自治体ニ一任スベキコト
土地整理ノ事ト致シマシテハ、理論トシテハ甚ダ可ナルモノデゴザイマスルガ、実際広キ区域ニ於テ強制的ニ之ヲ一時ニ実施セムトスル場合ニ於テハ、幾多ノ紛糾ヲ来スベキ憂ナシトセヌノデゴザイマス、土地所有者ノ任意的会同協定ニ依リマシテ整理ガ実行ノ出来マスルコトハ望マシキコトデゴザイマスケレドモ、政府ノ経営スル都市計画ノ中ニ之ヲ包容セムト致シマスルトキニハ実施上ニ於テ種々困難ヲ来タシ却テ復興事業ノ遂行ヲ遅延セシムルト云フノ虞ナシトセヌノデアリマスルカラシテ、寧ロ自治体ヲシテ其ノ事ニ当ラシメ、所在土地ノ所有者トノ協定ニ委セルト云フヤウナコトガ却テ穏当デアラウト認メタ次第デゴザイマス、
 ○第六項 防火設備ハ必要ナル斟酌ヲ加ヘ大体賛成ヲ表スルコト
防火設備ノ必要ハ固ヨリ之ヲ認メマスルケレドモ、其ノ実施区域ガ広大ニ失シマスルトキニハ市民ノ発奮ニ俟ツベキ所ノ復興事業ヲ、却テ沮碍スル虞ナシトセヌノデアリマス、之等ニ付キマシテハ宜シク斟酌ヲ加フベキ事デアラウト信ズル、之等ハ政府当局ノ専門家ニ於テ十分精査ヲ遂ゲラレ、其ノ措置宜シキヲ失セザルヤウニ御注意ヲ促シタイト云フ趣意デゴザイマス、
 ○第七項 東京ノ築港並ニ京浜間ノ運河施設ハ震災復旧事業中ヨリ
 - 第48巻 p.473 -ページ画像 
切離シ当局ノ措置ニ一任スルコト
東京市ノ築港並ニ京浜間ノ運河施設ノコトハ閣外委員中之ニ賛成スル者ハ甚ダ少クナイ、其ノ事態ヨリ見ルモ、此際復興事業トシテ臨時議会ニ提出スルコトハ憲法上ヨリ見テ妥当ナラント論ジタ方モゴザイマス、尤モ此項ニ付キマシテ熱心ナル賛成ヲ表シテ居ル者ハ委員ノ中ニ二名アリ、又委員外ニ於テ一名アル、総計三名アルノデゴザイマスガ兎モ角モ其ノ事態ノ可否ハ姑ク別問題ト致シマシテ、必ズシモ之ヲ臨時議会ニ提出スルコトヲ要セヌト認メマスルカラシテ、玆ニ其ノ事態ノ可否ニ付テ此上討論スルコトヲ避ケマシテ、之ヲ復興事業中ヨリ切離シ、当局ノ措置ニ一任スベキコトトシテ閣外委員ノ一致ヲ得タ次第デゴザイマス、
 ○第八項 市内ノ運河ハ大体賛成ヲ表スルコト
是ハ別段説明ヲ要セヌ次第デゴザイマス、
 ○第九項 帝都復興計画ノ事業年度及財政方針ハ完成期限ヲ五ケ年ト改メ其ノ他ハ大体賛成ヲ表スルコト
完成期限七ケ年ト原案ニアリマシタノヲ五ケ年ト改メマシタノハ、今日マデ政府ヨリ発表セラレマシタ所ノ法令トモ適合致シマス、且ツ成ルベク事業ノ速成ヲ求メテ市民ノ安定ヲ期スルト云フコトノ急ナル所以ヲ考ヘマシテ、五ケ年ト縮メマシタノデゴザイマス、デ此完成期間ヲ短縮致シマシタルガ為ニ、多少財政ノ繰合セニ影響スル所ハゴザイマセウケレドモ、既ニ路線ニ於テ四十路線ヨリ幹線路二線ヲ採用シ大ニ費額ヲ節約シタ次第デゴザイマスルカラシテ、期間ノ収縮ノ為ニ別段財政上ニ差シタル影響ハナカラウト信ズルノデゴザイマス、
 ○第十項 帝都復興法ノ制定ニ付テハ、曾テ本会ノ諮詢ヲ経ズシテ制定セラレ、而モ現行ノ市制・都市計画法・道路法等ノ諸法律ト牴触スルモノナリト認メラルル復興院官制ト関聯スルモノナルガ故ニ、本会ハ之ニ対シ意見ヲ留保スベキコト
此意見留保ノ理由ハ既ニ本項中ノ明文ニ記載シテアリマシテ其ノ意義ハ明瞭デアリマスカラ、特ニ此処ニ説明ヲ要セヌコトト信ジマス、先ヅ右ニ列挙シマシタル所ハ閣外委員ノ間ニ協定シタル条項デアリマス其ノ外ニ閣外委員ノ希望条項ト致シマシテハ
 第一、商工業復興ニ要スル資金融通ノ為、政府当局ニ於テ相当ノ設備ヲ為サレタキコト
 第二、家屋新築ノ為ニ投スル資金ノ安固ヲ図ル為、完全ナル火災保険制度ノ創設ニ尽力セラレタキコト
是等希望条件ニ付キマシテハ、本会ノ会議席上各自ヨリ披瀝致シマシタル大体ノ意見中ニ詳述シテゴザイマスルカラシテ、今又玆ニ繰返シテ叙説スル必要ハナイト信ズル次第デゴザイマス、以上叙述致シマシタル所、閣外委員全体一致ノ意見デゴザイマス、之ヲ要スルニ吾々閣外委員ハ国家ノ存立及発展ニ要スル造営物ノ復旧ト共ニ、震災地ノ復旧事業ノ急務ヨリ之ヲ財政上ノ状況ニ顧ミマシテ、誠意ノ存スル所ヲ披陳シタ次第デゴザイマス、然ラバ政府当局 於キマシテモ其事ヲ諒セラレテ、全幅ノ賛成ヲ表セラレムコトヲ望ム次第デゴザイイマス、謹ンデ報告ヲ致シマス、
 - 第48巻 p.474 -ページ画像 
○市来委員 私ハ此際特別委員ノ協定案ニ付キマシテ一言申述ベテ置キタイト考ヘマス、大震災大火災ノ後ニ於テ復興ノ事業ヲ施スニ当リマシテ、其ノ計画ガ理想ニ近ケレバ近イ程、其ノ実行ハ困難ニ陥ルモノデアルト申シマスル事ハ、桑港ニ於ケル場合其ノ他ニ於テ事例ノ既ニ明ニ証スル所デアリマス、今回ノ帝都復興ノ計画ニ付キマシテモ、恰モ是等ノ先例ノ示シテ居リマスル所ノ轍ヲ蹈ミツツアリマスルト云フコトハ、蓋シ免ルベカラザル数デアリマシテ、誠ニ已ムヲ得ザル次第デアルト考ヘマスル次第デアリマス、顧ミマスレバ一面ニ於テ罹災者ノ惨状ハ今日ニ於テ尚ホ見ルニ忍ビ得ザルモノガアルノデアリマス又商工業ノ沈衰セル状態ハ吾々ガ大ニ顧慮セネバナラヌモノガアルノデゴザイマス、是等ノ関係ヨリ致シマシテ、復興ノ事業ハ申ス迄モナク一日ヲ緩ウスルコトヲ許サナイ実状ニ在ルノデゴザイマス、又一面ニ於テハ我国ノ財政経済ハ、震災ノ以前ニ於テ既ニ所謂行詰リノ状態ニ在ツタノデゴザイマス、而モ震災ニ依リマシテ幾多ノ困難ヲ齎シタト云フ実状ニアルノデゴザイマス、承ル所ニ依レハ政府ノ目算ニ於テハ、復興ノ事業ニ関係致シマシテ凡ソ十五億円ノ公債ヲ募集セラレルト云フ事デアリマス、十五億円ノ公債ノ募集ハ数年ニ亘ツテ実行セラレルト致シマシテモ、私ハ是ハ極メテ困難ナル事業デアリマシテ、果シテ完全ニ之ヲ成功セシメ得ルヤト云フコトニ付キマシテハ、少カラズ不安ヲ感ジテ居リマスル者デアリマス、而モ政府ノ計画ニ依リマスレバ、普通ノ事業ニ属シマスル公債ハ一両年ノ後ニハ之ヲ打切ルト云フコトデアルト承知致シマシテ居リマスルガ、一両年後ニ至リマスレバ、或ハ鉄道ノ建設或ハ殖民地ノ事業等ノ為ニ再ビ公債計画ガ必ズヤ起ルデアラウト考ヘマスルノデアリマス、然ラバ政府ハ復興事業ノ公債ヲ募集致シマスルノト相並ンデ、普通事業ノ為ニ公債ノ募集ヲ致サネバナラヌ場合ヲ必ズ生ズル事デアラウト考ヘマスルノデ、多額ノ公債ヲ年々募集スルト申シマスルコトハ、申ス迄モナク我国ノ財政経済ノ上ニ大ナル打撃ヲ与ヘマスルノデ、国力ノ発展ヲ沮碍スルモノト考ヘナケレバナラヌノデアリマス、又政府ノ今日目算ヲ立テテ居ラレマスル所ノ費額ヲ以テ復興事業ノ全部ヲ完成シ得ルヤト云フ点ニ付テモ私ハ窃ニ疑惧ノ念ヲ抱ク者デアリマス、実例ヲ以テ申述ベマスレバ、罹災地ニ成ベク速カニ本建築ノ建物ヲ建築サセマスルト云フコトハ、最モ重要ナル事柄ノ一ツデアリマス、本建築ノ建物ヲ建テマスル場合ニ、其ノ金融ハ如何ナル方法ニ依リテ之ヲ行ツテ行クカ、私ハ民間ノ資金ノミニ依リテ之ニ応ジマスルコトハ到底困難デアルト考ヘマスルノデ、是亦必ズヤ政府ノ資金上ノ援助ニ俟タナケレバナラヌ関係ヲ生ズルコトデアラウト考ヘマス、其ノ他復興事業ノ進展ニ伴ヒマシテ、今日ヨリ予想シ得ザルトコロノ経費ヲ要スル関係モ少カラズ起ルコトデアラウト考ヘマスルノデ、政府ノ今日立テラレテ居ル所ノ目算ニ属シテ居ル予定額ヲ超過スル程度ニ於テ、巨額ノ不足ヲ生ズル関係ガ必ズヤ起ルデアラウト云フコトニ付テハ、殆ド疑ヲ入レマスル余地ガナイト考ヘマスルノデアリマス、右様ノ次第デアリマシテ、罹災民ノ今日ノ惨状ハ到底長ク之ヲ度外ニ置ク訳ニ参リマセヌ、又商工業ノ沈衰セル状態ハ長ク之ヲ無視シテ置ク訳ニ参リマセヌ、従来ニ於ケル国家
 - 第48巻 p.475 -ページ画像 
ノ過重ナル負担ハ、或ハ之ヲ憂ヒナケレバナラヌノデアリマス、是即チ復興事業ニ於テ理想的ニ近付ケバ近付ク程、実行ニ於テハ困難ニ陥ルコトノ已ムヲ得ナイ所以デアリマスルノデ、実ニ数ノ免レ得ザル所ト考ヘマス、尤モ私ハ政府ノ提案ニ係ル所ノ此計画案ガ必スシモ充分ナル理想的ノモノトハ考ヘマセヌ、政府ニ於テモ相当ノ緊縮ヲ加ヘラレタモノデアルト云フコトハ信ジテ疑ヒマセヌ、併ナガラ特別委員ノ協定案ナルモノガ政府提案ノ理想的ノ部分ニ対シテ、尚ホ加フベキ一層ノ緊縮ヲ加ヘ、愈々之ヲシテ実行的ニナラシメタト云フ点ニ其ノ趣意ガアルノデゴザイマス、尤モ協定案ノ内容ニ就キマシテハ尚ホ議論スベキ点ガナイデモ無イト考ヘテ居リマス、併ナガラ委員長ノ御報告ニモアリマシタ通リ、小異ヲ捨テテ大同ニ就クト云フ趣意ヲ以テ成立ツタモノデアリマシテ、私ハ此際其ノ内容ニ就テ強ヒテ論議ヲ試ミマスコトハ必要ト認メナイノデゴザイマス、
 以上申述ベマシタ所ノ理由ニ依リマシテ、私ハ大体ニ於テ此協定案ニ賛成ヲ表スル次第デゴザイマス、
○議長(伯爵山本総裁) 委員長ノ報告及説明ノ趣意ヲ以テ決議セラレマシタモノト認メテ御異議ガナイモノト考ヘマスガ、ドウデゴザイマセウカ、
  (「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼ブ者アリ)
○議長(伯爵山本総裁) ソレデハ此通リ決定致シマス、――此場合各委員連日ノ御尽力ニ依ツテ政府提議ノ趣意ヲ認メラレ、玆ニ審議ヲ了セラレタルコトヲ深ク感謝致シマス、政府ハ此決議ノ趣意ヲ尊重シ、出来得ル限リ起案ヲ遂ゲ、之ニ副フヤウ充分ニ努力スル考ヘデゴザイマス、――
今日ハ是デ散会
  午後一時五十分 散会


帝都復興史附横浜復興記念史 復興調査協会編 第一巻・第一九九―二〇三頁昭和五年五月刊(DK480138k-0006)
第48巻 p.475-478 ページ画像

帝都復興史附横浜復興記念史 復興調査協会編 第一巻・第一九九―二〇三頁昭和五年五月刊
 ○第二編 第五章 帝都復興審議会の大修正
    第六節 審議会最後の決定
 特別委員会に続いて審議会総会はその翌十一月二十七日午後一時より首相官邸に於て開催せられた。伊東委員長は委員会に於ける経過を詳細に報告したる後
 復興計画は少くとも国家的の緊急問題なるを以て、特別委員会に於ても熟議の結果小異を捨てゝ大同を採る方針に意見が一致し、結局十ケ条の協定案及び二ケ条の希望条件を可決したのである。
と結んで、該協定案及希望条件を朗読し、右に関する施設実行は政府に一任することに決定せる旨を附加へた。次で市来乙彦氏は左の如く賛成意見を述べた。
 政府案は理想としては至極結構なれど、実行上に於ては特別委員会に於ける修正案の方が遥かに便利である。故に政府に於ても特別委会の趣旨のある所に鑑がみて此際適当の処置に出でられん事を望む
之に対して山本首相は
 特別委員会の趣旨のある所は政府も充分に之を諒承した。依つて政
 - 第48巻 p.476 -ページ画像 
府は向後復興審議会の趣旨を尊重し、熟慮の上可及的之に副ふべく最善の努力をなす考へである。
と頗る簡単明瞭に答へて政府の態度を鮮明にしたる為め、委員側に於ても別に是れ以上追求するの必要もなく、総会は僅かに四十分にして委員会可決通り修正と決して散会した。
 玆に於て政府は同日直ちに閣議を開き、一方復興院に於ても午後二時より幹部会を開いて審議会の修正に対する態度に就いて凝議したが既に委員会に於て閣外委員が挙つて政府案に反対し、総会に於ても亦異議なく之を可決したる以上、審議会の修正に従ふ外なきに至つた。一部には審議会の修正に屈従せず、飽まで原案を支持して臨時議会に臨むべしと強硬なる議論をなす者もあつたが、閣議は修正案を承認することに決定し、復興院幹部会に於ては直ちに修正案に基く計画の変更に着手するに至つた。即ち審議会修正に依る街路の幅員収縮・新築削除等に依つて東京に於て約七千九百万円を減じ、横浜に於ては約四百万円を減じ、東京湾築港及京浜運河の全部削除に依つて約四千六百万円、東京・横浜両市に於ける土地区劃整理費中より約二百七十万円等総計一億三千万円を削減し、一方に於て地下埋設物整理費二千万円を計上し、差引一億一千万円内外の大削減の余儀なきに至つた。
 如上の如く復興審議会の修正に依つて復興院当局は極度に昂奮し、審議会終了するや直ちに其対策を凝議したが、閣議に於て該修正を認めることに決したる以上如何ともなし難く、只審議会の修正意見を尊重して復興計画を根本的に立直すの外なく、十一月二十七日幹部会を開き、宮尾・松木両副総裁・直木技監以下池田・稲葉・佐野・十河・太田の各局長等出席して復興計画を如何に変更すれば審議会の修正に副ひ得るかに就て協議の結果、左の如き方針を以て計画案を立直すことに決定した。
一、幹線道路の幅員に就ては最広二十四間を原則とせるも復興審議会委員の共通意見たる四十メートル説を尊重し、二十二間を原則とする事、従つて主要幹線の幅員二十四間と計画せるものは之を二十二間に改め、二十間のものは十八間に縮少する(但し槙町線は例外とし既定計画通の二十八間となす事)
二、東京運河、及び東京築港は審議会の趣旨を重んじ復興計画より切離すも、東京及び横浜の復興に関し頗る重要なるを以て、改めて通常議会に之を提出してその復活を策する事。
三、上下水道は既に東京市に於て計画を進め国庫より補助金を交附せるを以て、之を国に於て執行するも何等差支へなく直ちに審議会の趣旨通り国の計画に移す事。
四、地下埋設物の整理は理想として復興院も当初之を計画したが単に経費の都合上削除した。故に之を復活せしめる事とするが大規模なるものとはせず、重要幹線のみに限定し而もその様式は地下溝式とし経費節約を考慮する事。
五、土地区劃整理は根本的に大修正を加へる事。即ち従来路線収用の部分のみの整理に止めたが、之を改めて焼失区域全体に亘り土地区劃整理を断行する。従つて旧計画に依る面積は約二百万坪に過ぎざ
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るも新計画に於ては約七百万坪に及び、其の方法は一定の整理区劃を設定し地主組合を組織せしめ、地主をして土地の一割を提供せしむることを原則として先づ主要道路の設定をなし、然る後に補助道を設定して区劃の整理を断行する。尚ほ地主が一割以上を提供の場合は政府に於て適当の価格を算定して之を補償する。かくて衛路費中土地収用の費用を相当に削減すると共に区劃整理費約二百七十万円を削減する。而して審議会は土地区劃整理を地方団体に移す可しとの希望なるも七百万坪の広区域に亘る大事業なるが故に、これを地方自治体に委任するが如きは徒らに事業を遷延せしむるの虞れあるを以て、原案通り国に於てこれを執行するが、審議会の趣旨は飽まで之を尊重して何等か適当なる方法を講ずる事
此の方針に基き変更の具体至《(案)》を凝議したが、時既に臨時議会を目睫の間に控え居たるを以て幹部連は殆んど徹宵の活躍をなし、且つ宮尾副総裁は事業縮少に伴ふ予算を立直して結局左の如き修正となつた。
      街路計画修正(東京の分)
一、神田区通神保町より両国橋西詰に至る路線の幅員二十四間を二十間に縮少
二、上野停車場より本所押上に至る路線の幅員二十間を十八間に縮少
三、深川黒亀橋より相生橋に至る路線の幅員二十間を十八間に縮少
四、呉服橋より深川砂町新田に至る路線の幅員二十間を十八間に縮少
五、神田岩本町より蛎殻町に至る路線の拡築を廃止
      同(横浜の分)
一、第一号国道市郡境界より程ケ谷町岩間に至る路線の幅員十間乃至十八間を十間乃至十五間に縮少
 (イ)市郡境界子安町より東神奈川駅前十番町迄の幅員十五間を、十二間に縮少
 (ロ)右終点より現横浜駅広場迄の幅員十八間を十五間に縮少
二、弁天橋より本町四丁目を経て万国橋南詰に至る路線の幅員九間乃至十五間を十五間と改め、延長千百二十一間を三百四十五間に縮少
三、浅間町より南吉田町に至る路線の延長二千百四十間を二千〇五十六間に縮少
四、石川町一丁目より中村町中村橋を経て蒔田町六丁目に至る路線を削除
五、西戸部町塩田より同町六丁目に至る路線を削除
六、横浜税関前の路線を削除
 尚ほ計画の変更に伴ふ予算の増減は、街路費に於て東京八千四百五十七万七千円、横浜六百六十五万円を削減し、港湾費三千七百五万円、京浜運河費一千三百七十五万円。土地区劃域整理費補助二千七百七十五万円其他を何れも削減したが、地下埋設物整理のため三千百七十五万円を増加するに至り、其他地方復興事業費補助・地方復興事業費利子補給等に夫々増減あり、結局原案予算七億二百九十七万七千余円より一億五百二十三万余円を削減したる五億九千七百七十四万七千余円が新規予算として編成され、直ちに此の旨を復興評議会及び審議会に提出した。
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 尚審議会に於て保留されたる帝都復興法案に就ては現行法律条文と牴触の嫌ひあるのみならず、之に復興事業に必要なる規定を加ふるに於ては余りに浩瀚なるものとなる為め、原案を捨てゝ現行都市計画法の特別法として制定するに如かずとの意見に一致し、都市計画法に不備の点を加へたる簡単なるものとして議会に提出するに至つた特別都市計画法が即ち是れである。而して議会に於ては次節に述ぶるが如く政友会議員の大反対に会つて予算に大削減を加へられ、復興計画は再び大変更の余議なきに至つた。


渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記(DK480138k-0007)
第48巻 p.478 ページ画像

渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記
                     (財団法人竜門社所蔵)
○十一月廿九日
○上略
△次に大橋新太郎氏参邸につき、廿七日の審議会の模様を告けて将来の事どもを打合はさる
○下略


中外商業新報 第一三五四九号大正一二年一一月二九日 形勢を見て 審議会廃止か 最早諮問事項も無い(DK480138k-0008)
第48巻 p.478 ページ画像

中外商業新報 第一三五四九号大正一二年一一月二九日
    形勢を見て
      審議会廃止か
        最早諮問事項も無い
帝都復興計画の審議を終へた復興審議会は今後差し当り諮問案なきため、一先づ閑散の状態となつたにつき、政府は将来尚ほ諮問事項の出来すべきを予想して、現在においては右審議会を
 存続して行く意向であると称してゐるが、しかも閣外委員中には、種々の不満を抱いて審議会存置の無意味なるを唱へ辞意を有する向きある模様であつて、現に大石正巳氏の如き、伊東伯の慰留に依つて一時辞意を翻へしたけれども、今後の政府の態度如何に依つてはあるひは再び問題となるかも知れないから、政府としてはこれ等には充分
 注意を要すべきであるが、しかし従来とても復興院官制をはじめ、手形再割引に関する件その他幾多の諮問すべき重要案件あつたに拘らず、これ等を諮問しなかつたのであるが、今後果して左様な諮問事項があるか如何は甚だ疑問であつて、若し臨時議会までに一回も審議会開催の必要起こらないとせば、議会においては必ずや審議会
 不必要の決議案の提出を見るべく、しかしてそれまでには高橋政友会総裁の如きは審議会委員を辞職するに至るは明かであるから、政府は少くも臨時議会開会前までには、四囲の事情に照らした上、その情勢不利なるに至らば該審議会を廃するに至るべしといふ


渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記(DK480138k-0009)
第48巻 p.478-479 ページ画像

渋沢子爵親話日録 第一 自大正十二年十一月至同年十二月 高田利吉筆記
                     (財団法人竜門社所蔵)
○十二月二日 (日曜)
○上略
△渡辺金三氏参邸、桑港大火の顛末を熟知せるよしにて、帝都復興院の計画せる市街区劃の事について意見を述べ、被服廠跡に於ける惨
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事ハ明暦大火のそれにも似たり、由来旋風ハ大火に際し生じ易きものなればそれらの先蹤に鑑みて計画を立てざるべからず、既に先日以来復興院の松木副総裁にも陳情しつゝあれども、尚子爵よりも開陳せられたしといへり



〔参考〕中外商業新報 第一三五四七号大正一二年一一月二七日 帝都復興審議委員の態度 政府は須く所信を貫徹せよ(DK480138k-0010)
第48巻 p.479-480 ページ画像

中外商業新報 第一三五四七号大正一二年一一月二七日
    帝都復興審議委員の態度
      政府は須く所信を貫徹せよ
帝都復興審議会における閣外の委員の、政府案に対する態度は、すこぶる険悪であつて、その言論はほとんど弾劾的であると伝へられて居るのであるが、要するに大体の空気は、極めて保守的であつて、政府提案の復興計画すら尨大に過ぐるものとなし、わが国の国力に照らし不相応なる大計画にて、財政を圧迫し、国民の負担を過大ならしむるの恐れがありといふに一致する様である。
帝都復興計画は、最初政府側から伝へられた所の極めて大げさであつたにも似ず、寧ろ小規模のものにて、この度の大震火災の大損害に鑑み、将来市民の生命財産を安全ならしむるに足るだけの計画としてはいさゝか不足であつて、最初の意気込に比較して、竜頭蛇尾の感なきを得ないのである。これは一般市民の意向であつて、復興評議会の空気もまた、大体こゝにあつたのである。
しかるに、審議会では、政府案をもつて、甚だぼう大に過ぐるとし、政府が、どさくさ紛れに、この大計画を遂行せんとするのは、あだかも酔払ひがクダを巻くが如き、無責任なる大風呂敷であると非難してゐるのである。現内閣は老人内閣にて、保守と旧思想とは老人の特徴であるが、更にこれよりも古く、ほとんど時代離れした所の審議会委員が、最も縮小せられた所の復興計画をぼう大なりと論ずるのは、何の不思議もないことであるが、この際憲法論などを持出し、公共事業に必要なる土地の収用を以て、憲法違反と云ふが如きは、実に驚き入つたる沙汰であつて、かくては、国家社会の発展も、文化の進歩に応ずる諸施設も、憲法保護の名の下に妨げられ、つひにその実現を望むことが出来なくなるであらう。
もちろん、復興計画は、国民経済の実勢力と相伴はねばならぬ、徒らに理想に走つて大計画を樹つるも財力不足のために、これが実現を期し難く、また国民に重大なる負担を強ひ、ために経済的実力の発展を妨げ、帝都の復興を長引かすが如きは甚だ採らざる所である、この見地からして、復興計画は理想に走らず、実際を重んじ、速かに堅実なる計画を樹立して、帝都の復興を促進せなければならぬ。
併しながら、審議会委員の理想とし、または現実とする所と、一般国民の理想とし、はた、現実とする所には、千里の差のあることを知らねばならぬ、われらは七億の政府案をもつて、むしろ過小となし、この大災禍に鑑み、かつ帝都の大半が烏有に帰した所の、千載一遇の不幸なる機会において、帝都百年のために、今少しく思切つたる大計画を樹て、少なくとも、歴史的に、地震および火災の危険に、さらさるる所の帝都をして、永久に安泰ならしむる丈けの、計画を確立せんこ
 - 第48巻 p.480 -ページ画像 
とを欲するものである。将来帝都がふたたび震火災に遭遇することなりと想像するのは、甚だ好ましからざることではあるが、併し、何人もこれを否認することが出来ないとすれば、われらは、こゝに人事をつくして天命を待つの覚悟を持たなければならぬ。
いづれにせよ、単なる復旧だけにて満足すべきではない、いさゝかも国民の負担を増さず、中央地方の財政を圧迫することなしに、この復興を実現し得べきではない。国民は帝都復興のために、臥薪嘗胆して相当の負担を忍ぶ丈の覚悟を必要とする。国民精神の振興のためにもわが国際的地位の確保のためにも、相当の復興計画を樹て、その実現に努力する必要がある。政府がわざわざ、復興審議会の如き、無用の機関を作り、今日自じやう自縛に陥つた観あるのは笑止千万であるが今更、老人の冷や水におびやかさるゝことなく、責任ある機関としてその所信を貫徹するの勇気がなくてはならぬ。



〔参考〕渋沢栄一書翰 野口弥三宛大正一二年一二月三一日(DK480138k-0011)
第48巻 p.480 ページ画像

渋沢栄一書翰 野口弥三宛大正一二年一二月三一日 (野口弥三氏所蔵)
拝読 爾来御疎情ニ打過候へとも賢台益御清適奉賀候、来示之如く震災後之東京ハ種々之事変続発いたし只々恐悚罷在候、復興之事も議論多くして実効少く、老生抔ハ世間ニ余り知者多きを厭ふものニ御坐候災後四月を経過候も焦土さへ満足ニ取片付出来せさる有様ニ候
○中略
  極月尽日
                      渋沢栄一
    野口賢契
      拝復