デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

8章 軍事関係諸事業
3節 軍事関係諸問題
5款 日英同盟更新問題
■綱文

第48巻 p.692-696(DK480189k) ページ画像

大正9年7月1日(1920年)

是日栄一、東京商業会議所ニ於テ、東京新聞記者団ニ会見ヲ求メ、日英同盟更新ニ関シテ意見ヲ述ブ。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四四年(DK480189k-0001)
第48巻 p.692 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四四年         (渋沢子爵家所蔵)
七月十五日 曇 暑
○上略 事務所ニ於テ各種ノ新聞記者ノ来訪ニ接シテ日英同盟条約ノ事ヲ談ス○下略


渋沢栄一 日記 明治四五年(DK480189k-0002)
第48巻 p.692 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四五年         (渋沢子爵家所蔵)
四月十一日 晴 軽寒
○上略 午後一時大隈伯ヲ早稲田邸ニ訪ヘ、日英同盟ニ関スル将来ノ事ヲ談ス○下略


竜門雑誌 第三八六号・第三九―四〇頁 大正九年七月 ○日英同盟に就て(DK480189k-0003)
第48巻 p.692-693 ページ画像

竜門雑誌  第三八六号・第三九―四〇頁 大正九年七月
    ○日英同盟に就て
 目下日英両国間に於て交渉中なる日英同盟問題に関し、青淵先生には七月一日東京商業会議所に於て東京新聞記者団に会見を求めて、大要左の如き談話を為したる由。
 △日英同盟継続 問題は目下我国の上下に論議されつゝあるが、想ふに廿年間、我国外交の枢軸として、東洋平和の保障たりし該同盟継続は、我国民一般の希望たるや論なし、余も亦該問題の将来に維持せられて、単り日英の親善のみならず、汎く世界の平和と人類の幸福に貢献せんことを衷心より希望して已まざるものなり、回顧すれば日英同盟の初めて締結せられたる明治卅五年、余は東京商業会議所会頭の職に在りしが、当時我が対外貿易の甚だ振はざるを遺憾とし、且つ商業会議所総会の貿易振興に関する決議もあり、微躯聊か此の目的の遂行に尽す所あらんと欲し、同年春英帝エドワード七世陛下の戴冠式挙行を機とし、米欧視察の旅行に上れり、米国に於ては桑港・紐育・市俄古其他重なる都市を訪ふて、到る処目的の宣伝に努めたる後、英国に渡り、倫敦に於ては一日倫敦商業会議所議員集会の席上に於て、我国財界の実情を極めて詳細に紹介して、大に彼我の諒解を得たることあり、敢て手前味噌を並ぶる訳には非ざるも、当時の努力は決して徒爾に終らず、其後の我
 △対外貿易発展 に資する所少からざりしと信じ居れり、翻へつて現時の我が対外貿易の状況を見るに、欧洲大戦中は其の特殊地位の関係上、非常の殷賑を極め、未曾有の大発展を遂げたりと雖も、最近の状況は果して如何、対外貿易殊に対欧貿易は著しき衰退を示し或は形勢再び逆転せんとするの徴候顕著なるものなきか、余の深憂
 - 第48巻 p.693 -ページ画像 
とする所は此点にあり、然らば我が対欧通商は悲観するの外なきやと云ふに決して然らず、現に最近羅馬尼亜皇儲カロル殿下の御来朝後、同国外交代表者たる和蘭公使は余を来訪して、日羅通商関係の開始に関し、尽力を求めたるが如きあり、又丁抹との通商関係に関しても頃日来訪して余の意見を叩きたる同国新聞記者あり、即ち従来未だ多くの通商関係を有せざる諸国にして、既に此の如き希望を有するものあるに見るときは、戦後の我対欧貿易の如き、何等の悲観を要せざるや明かなり、唯余の解する能はざるは、我商工界の有力者が此点に関し頗る冷淡なるかの観あること是なり、殊に当面の責任機関たる
 △我商業会議所 の如き、未だ十分の活動を為しつゝありと言ふを得ざるを遺憾とす、余は余の私案として、此際我が事業界の各方面を代表せる有力者を、欧米諸国に派遣せんことを提議せんと欲す、即ち此等の代表者は、各国に就き、彼我物資の供給関係を調査し、若し愈々互に有無相通ずるの必要と可能とを発見するに於ては、之が実行に伴ふ運輸・金融其他各方面に就き、若し障害ありとすれば之が排除に関し隔意なき打合を遂げ、将来の実行方法を協議するに於ては、従来既に貿易関係を有する諸国との間には、更に一層其発展を期するを得ると共に、又新たなる貿易関係を開拓するを得るに非ずや、余は明治十一年初めて東京商業会議所会頭の職に就き、同卅九年職を辞するまで、約卅年間職責上念とする所、常に叙上の点に在りき、余は我が商業会議所が此戦後財界大変動の危急に際し、大に其機能を発揮するを望むと共に、其の第一着手として実業家代表海外派遣の挙を急速に実行せんことを切望するもの也
 因に右先生の演説中、明治三十五年欧米の商工業界視察の途次、英京倫敦商業会議所議員集合の席上に於て一場の演説を試みられたりとあるは、同年七月二十五日、同会議所が先生の要求に依り臨時総会を召集し、其席上に於て来会者三十名に対し述べられたものなるが、今其全文を掲げて当時を偲ぶことゝせり。
○下略


中外商業新報 第一二三一三号 大正九年七月二日 ○日英同盟の更新に熱せよ 我実業家が該問題に甚だ冷淡なのは遺憾千万 =渋沢男爵の苦言(DK480189k-0004)
第48巻 p.693-694 ページ画像

中外商業新報  第一二三一三号 大正九年七月二日
    ○日英同盟の更新に熱せよ
      我実業家が該問題に甚だ
      冷淡なのは遺憾千万
        =渋沢男爵の苦言
ヴアンダーリツプ氏一行を送つて後、偶々病を得て飛鳥山の別邸に引籠つてゐた渋沢男は其後漸く快方に向つたので、病後
◇静養の 為に二日大磯の別荘に転地する、一日は久し振りで商業会議所に顔を出して、目下問題になつてゐる日英同盟更新に就いて、一般実業家の冷淡な態度を深く不満とするものゝ如く、初め日英同盟提唱の当時実業家が非常の興味と熱心を以て其促進に奔走したことなどを回想しつゝ、次の如く語つた「日英同盟更新の問題に就て余り世間の注意を惹かないのは甚だ
 - 第48巻 p.694 -ページ画像 
◇遺憾で ある、特に日本の実業家が冷淡なのは解し難い、今日では日本の商工業関係は寧ろ米国に深くなつてゐることは事実であらうが日英同盟に依つて二十年政治上特種の関係を保ち、之が我商工業の発達に資した事は測る可からざるものがあつた、今日本が此同盟を更新する事は、日本の実業を孤立せしめないと云ふ意味のみでなく、今後尚ほ之を利用する
◇余地が 充分あると思ふ、勿論政府は此点を考慮し同盟継続の方針に出づべき事は疑ひないが、夫にしても日本の実業家が何等の利害関係もないかの如く済し切つてゐるのは、一体何う云ふものであらう、東京商業会議所の如きも此問題に就て何程の希望と熱心を有するか一向分らない、それとも其必要がないと云ふのであらうか、隠居の身として
◇余計な 心配だと云ふかは知らないが、之ばかりは日本全国の商業会議所への苦言として呈したい、日本の実業界に対して未だ云ひたいことがある、夫はもう少し日本は積極的に欧洲の小国等にも商業関係を結ぶ方法を講ぜよと云ふことで、三日計り前にも或る丁抹人が日本に新しい仕事を始めたいと云つて来た、一昨日は和蘭公使が羅馬尼を代表して来て
◇日本と の商業関係を結びたいから心配して呉れと云ふことであつた、斯の如く世界の大小国は何れも日本の実力を認め、日本を隅に置くまいとしてゐる、此時肝心の日本人がボンヤリしてゐるやうでは到底目醒しい発展が出来る訳がない、少くとも今日五人でも七人でも、それぞれ専門家を欧洲各大小国に派遣して、彼地の実情を実査し、意思の疎通を計つて之からの活動に備へねばならぬと思ふ」云々


東京日日新聞 第一五七〇九号 大正九年七月三日 会議所奮起せよ 渋沢男爵談(DK480189k-0005)
第48巻 p.694-695 ページ画像

東京日日新聞  第一五七〇九号 大正九年七月三日
    会議所奮起せよ
                    渋沢男爵談
予は去る明治卅五年東京商業会議所会頭として全国商業会議所聯合会の決議を齎し欧米を旅行せるが、其主要目的は日本の商工業をして飽迄欧米先進国と相提携せしめ、相互共同的に取引するにありき、予は此趣意を以て英・米・仏・独・西の各先進国の実業家、主として商業会議所関係者を訪問して、之が諒解を得しが、殊に英国に対しては恰も日英同盟協定当時なりしを以て、両国親善の為殊に之を力説したるなり、云ふ迄もなく日英同盟の両国に齎したる効果が実に顕著なるものあるは、今次の欧州大戦の結果に徴しても明らかにして、大戦後の我国の商業は実に一段の進歩を示したり、聞く所に依れば日英同盟は今回再び更改せらるべしとのことなるが、之に就いては我商工業者は曩の同盟協定当時と同様充分の考慮を要すべきものありと思惟す、即ち近時英国人は忌憚なく評すれば頗る無愛想にして、彼の米国人に比し頗る奇異の感あり、而も之等は目下同国との取引が一部のものに限られ居るが為にして、今少し互に音信を通じ、親善を期せざるべからず、之が為には互に商工業者の視察団を往復し、意見を交換するも其の方法なり、更に最近聞く所に依れば、従来余り取引せざりし羅馬尼
 - 第48巻 p.695 -ページ画像 
及丁抹国よりも商取引を希望し来れりとのことなれば、此機会に於て英国に対すると同様、他の欧米諸国に対しても互に視察団を往復せられんことを希望す、而も之が実行を期するには、主として商業会議所の奮闘努力に俟たざるべからず、云々


東京日日新聞 第一五七〇九号 大正九年七月三日 丁抹と羅馬尼の代表、熱心に貿易を申込む 渋沢男、商業会議所の不振を憤慨して語る 経済界の惨憺たる今に於て活動せよ(DK480189k-0006)
第48巻 p.695 ページ画像

東京日日新聞  第一五七〇九号 大正九年七月三日
    丁抹と羅馬尼の代表、熱心に貿易を申込む
      渋沢男、商業会議所の不振を憤慨して語る
        ◇経済界の惨憺たる今に於て活動せよ
「私も何分老病だから」と、一時心細い事を云つて居た渋沢男は、昨今元気になつた、併し全然健康とは云へないので、男爵は昨日から大磯の別荘に転地静養した、一昨日男を訪ふ、男が処世上の金科玉条は直接に間接に人の気に障ることを云はないと云ふことであつたが
  ▽昨今其誡を破つて東京商業◇
会議所の為すなきを、可成り強い言葉で攻撃して居る、曰く「商業会議所は何をしてゐるのか、因循で姑息で然し恁麼強い言葉で、書いて貰ふとちよつと困りますが、兎に角困つたものぢや」と躍起になる、最近一週日中に男は、羅馬尼の代表者と丁抹公使との訪問を受けた、訪問者は共に我国と通商を開始したいと云ふ熱烈なる国民的意志を訴へ、只管尽力を請うて止まなかつた、是より先
  ▽北欧瑞典からも通商の懇願◇
を受けた事もあり、白耳義の如き恢復のために熱心に我物資を求めて止まず、バルカンの諸国は我国を慕うてゐる、顧るに日英同盟締結の以前に於て、商業会議所会頭であつた男が、私費海外漫遊の旅に出づるに当つて、会議所は全議員一致で海外宣伝を男に嘱し、特に書記長を一行に加へ、男は米・英・独・仏の各都市に於て、到処に我実業界の希望を訴へた、星霜玆に廿年、我が貿易は非常に隆盛を加へたが、最近に於て
  ▽対米貿易は著しく衰頽し我◇
経済界の今回の不況は、最初金融の梗塞に始まり、夫より英・仏に対する輸出減少輸入増加のために、恐慌の色は計り知れぬ不安の渦を巻いて居る、此時に当つて北欧及び南欧の諸国が我商品を熱望して止まざるものあるではないか、政府派遣の商務官尚充分ならず、殊にバルカン諸邦の如き未だ我公使館すらもない、政府には任されぬ、東京
  ▽商業会議所或は全国商業会◇
議所聯合会は、各国に亘つて団体的視察員を派遣し、販途の維持、新販路の開拓に充分の努力を為すと共に、諾威・瑞典両国の如き、有無融通の希望充分なるものに対しては、専門的視察員を派遣すべきであるのに、今日の有様は何事ぞ、平和の日の外交は経済的外交に尽く、経済的外交は実業団の燃ゆるが如き開拓力に存すべきに、何をしてゐるか――と云ふのにある、男は「隠居もつくづく焦れつたくなりました、此上はあなた方に先づ御同意を得まして、機運を作りたいと思ひます」と結んだ

 - 第48巻 p.696 -ページ画像 


〔参考〕時事新報 第一三〇三七号 大正八年一一月一六日 渋沢男の所見 日英同盟の前途 国民的親善の要(DK480189k-0007)
第48巻 p.696 ページ画像

時事新報  第一三〇三七号 大正八年一一月一六日
    渋沢男の所見
      日英同盟の前途
      国民的親善の要
世界の大局に激変を生じ、国際聯盟会議も遠からず開会せらる可き秋に当り、過去廿年間の古き歴史を有する日英同盟の運命は果して如何になる可きか、之に対する渋沢男爵の意見を叩きたるに、男爵の日英同盟に対して述べたる要旨左の如し
△切なる希望 日本と英国との関係は金融上、貿易上、将又海運上に於ても、洵に密接離る可からざる関係あり、即ち英国の大商店が我国に於て事業を営むもの多きと同様、我国の大会社に於ても亦何れも英国並に其殖民地に於て事業を営み居り、此関係は時局後益盛んとなりつゝあり、又広く東洋に於ける両国の関係を見るも、経済上其利害の一致するもの極めて多きが故に、本来両国民は一層親善を厚くし、双互の立場を了解する為め、彼我往来頻繁を来たす可き筈なるに、不幸にして日米両国の如く距離近からず、為めに未だ日英両国に於ける有力なる実業家が、団体を組織して互に往来する等の機会を作り得ざるは常に遺憾とする所にして、此点に関しては先年大隈侯在朝当時も語りたる事あり、又永年日本に駐在し日英親善に尽されたるマクドナルド大使帰朝の折にも、同様の談を交へたることを記憶し居れるが、更に最近に於ては偶近藤男爵が老体をも顧みず遠く巴里講和会議に渡航せられし際にも、此問題に触れたる程にて、吾々実業界にある者の斉しく遺憾とする所なり、之に関聯して思起さるゝは、先年米国視察団を組織し、僅々四箇月にて親しく視察を遂げて帰朝したることなり、而して当時の同行者は既に十人幽明境を異にするに至りたりと雖も、年々十二月十七日を記念して会合を為し、その模様を米国の知人に宛て夫々通じ、以て益々交情を温め居れり、斯くの如き関係を日英両国の間にも及ぼさんことは常に希望して止ざる処なり
△同盟の将来 扨斯く感じ居る気先、五年に亘る世界大戦の惨苦より人類永遠の平和を目的とする国際聯盟が生れ、其会議も遠からず開催せらるゝ今日、端なくも其規約が、日英同盟条約の条項と両立せざるものありとの事なるが、然らば直接日英同盟にも亦影響ある可き道理なりと雖も、抑も日英同盟は古き歴史を有し、東西両帝国の親善を助長したる功績は実に偉大なると同時に、又世界の平和を確保する上に於ても最も意義ありし事に就きては、何人も異論なかる可しと信ず、殊に国際聯盟の目的が世界平和にある以上、其主旨は素より一致するものなるが故に、若し英国に於て日英同盟継続に就き希望するに於ては、国際聯盟に反せざる範囲に於て、何等かの方法を発見し、将来該同盟を継続し、更に国民的に親善を増進せしめんことは切望して已まざる処なり