デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

8章 軍事関係諸事業
3節 軍事関係諸問題
6款 軍備制限問題
■綱文

第48巻 p.697-699(DK480190k) ページ画像

大正10年1月21日(1921年)

是ヨリ先政府、軍備制限ニ就キ、国際聯盟総会ニ提出スベキ議案ノ作成ニ着手ス。是日、同問題ニ関スル栄一ノ談話、「中外商業新報」ニ掲載セラル。


■資料

中外商業新報 第一二三九六号 大正九年九月二三日 ○軍備制限と帝国 聯盟会議提案成る(DK480190k-0001)
第48巻 p.697 ページ画像

中外商業新報  第一二三九六号 大正九年九月二三日
    ○軍備制限と帝国
      聯盟会議提案成る
国際聯盟総会に於て重大条項の一として審議さるべき軍備制限問題に関しては、媾和条約成立以来、陸海軍・外務の各関係省に於て鋭意審議しつゝありたるが、愈具体案の作成を終了したるを以て、廿二日の某調査会に別項米国排日問題と共に政府より諮問されたるが、勿論右軍備制限に関する
 △我具体案 は厳秘され居るを以て是を窺知することを得ざるも、大体に於て陸軍・海軍・空軍の三項に大別し、陸軍に就ては常備軍の総数中歩兵○○万、特科隊○○万と云ふ大体の数字を挙げ、海軍に関しては八八艦隊を基準として総噸数○○万噸とし、潜水艇に就ては各国共通の原則に依るものゝ如し、又大艦巨砲主義に関しては帝国軍艦の最大は四万三千噸なるに対し、聯盟外の米国の如きは四万八千噸の計画あり、巨砲も同様の立場に在るを以て、詳細なる対案なきものゝ如く、空軍に対しては我国の現状は各国と其趣を異にし居れば
 △相当拡張 の余地あるものとなし居るが如し、右の如く我対案は極めて漠然たる簡単なるものにして、仔細に亘りては毫も明示せざるは軍事上当然のことなり、而して右対案は媾和条約の一般原則として作製したるものなるも、現に世界に於ける資本的軍国主義を把持し極力軍備の拡張をなしつゝある米国が聯盟外に在るを以て、加盟国が如何に制限の論議を行ふとも或意味に於て無意味なるものと云ふべく、而も欧洲各国中実戦に参加したるものは何れも最大限の拡張の現状を以て標準となすべきを以て、実際
 △聯盟会議 に於ける軍備制限問題は会議の場合波瀾曲折あるべきを以て、其実現は蓋し困難なるべきも、少くとも我国防計画の根本義に就て之を聯盟会議に提示するものなれば、其前途は特に注目するを要すと


竜門雑誌 第三九三号・第六七―六八頁 大正一〇年二月 ○海軍制限と日本(DK480190k-0002)
第48巻 p.697-699 ページ画像

竜門雑誌  第三九三号・第六七―六八頁 大正一〇年二月
○海軍制限と日本 中外商業新報が「海軍制限と日本」なる趣旨の下に朝野有力者の意見を徴したるが、左は一月廿一日発行の同紙に青淵先生談として掲載せるものなり。
 - 第48巻 p.698 -ページ画像 
国防の問題は政治以上の重大問題なれば過去の歴史を詳知せざれば或は正鵠を失すること無きを保せず、而して我国現在の国防は之を従来の関係に徴せば或は已むを得ざるの計画なりと断じ得べきが如くなるも、其権衡は果して当を得たりや否や疑問なりと謂ふべし、社会の変化、世界の進歩、限り無きに方り
△己れ一人 安全なるを得ば可なりとの感念は、之を俗に批評せば鼬ゴツコと謂はざるを得ず、即ち各自互に矯正を要すること勿論也口に正義人道を唱へ実行に横暴の振舞ありて世界の平和を無視せば是れ豈独逸の兇暴と何ぞ択ばむ、米国軍備の拡張は近時殊に著しきも、米人日本を呼ぶに軍国主義の権化を以てす、甚だ其当を得ざるを惜む、然れども米国真に国を挙げて然るやと云ふに、知識階級に在りては必ずしも然らず、素より余等の知る範囲に於ては、経済社会又は社会問題に関係を有する方面に限らるゝも、是等の人々は異口同音、国家は武力のみを以て立つべからず、武装的平和は之を排すべしと云ふに一致せり、恐らく此の言明は虚偽ならざるべし
△知識階級 の多数果して此意見なりとせば米国の国論亦之に傾くの日ありと為すべく、若し多数にして日本を恐怖し無謀なる軍備を拡張するものとせば、是影を見て刀を抜くに等しく其愚嗤ふべし、余は其行為を非難せざらんとするも能はず、次に米国に対して更に非難せんと欲するは国際聯盟に対する態度なり、凡そ一国には抜くべからざる威信を要す、曾て大正六年の事なりき、米国のブリンスメール等諸氏は、世界の戦乱を鎮定するが為に軍備の制限を要すと主張し、公開状を携へて我国を訪問せり、余は当時之を我国新聞記者の団体たる春秋会に紹介し、所謂情意を交換せしことありしが、米国の世界大戦に参加せし趣旨は全く此
△精神に出 づ、而して爾来迅速なる活動真に敬服に値するものあり、流石頑強なりし独逸も遂に屈服するの余儀なきに至り、大正七年十一月休戦条約成立せり、続いて米国は世界の平和、人類の康安を期せんが為め国際聯盟を提唱し、大統領出でて之を主唱したるが今将た何の状あるか、極論すれば寧ろ是一個の国辱なり、万一日本にして此行為に出でたりとせば、何と評するや、昨年四月二十五日ヴアンダーリツプ氏来朝するや、余は三田の家に迎へて朝餐を供したるに、ヴア氏は日本の人口過剰の結果如何、加州問題の如きは考慮の要ありと言へるより、余は国際聯盟は如何、米国は其提案者にして而も
△之に加入 せざる如きは世界の人心を迷はすものに非ずやと語れるに、ヴア氏曰く、次期の大統領は蓋し共和党のものならん、次期大統領決せば乃ち始めて相当の解決を得んと、互に理解ある日米両国人間には凡そ斯の如き意思の疏通あり、翻つて日本の現状を観察するに、大正十年度予算に於て軍事費実に八億円に近き巨額を算し軍備に国費の五割を徴せり、想起す、明治四年廃藩置県当時の軍費は国費の五割を計上したるを以て、余等之に反対抵抗し、遂に井上侯と官を辞し野に下りたりしが、日清
△日露戦役 の後も亦国費の四割乃至五割を軍事費に投ずるに至れ
 - 第48巻 p.699 -ページ画像 
り、戦後は常に此傾向を呈し来れるが如く、国費の権衡を失するや洵に大なりと謂ふべし、勿論軍人に対する待遇給与は之を厚くし其功労に酬ゆるを要すと雖も、軍費の節約は自ら別問題なり、要するに、余は米国に海軍縮少論のあるを聞きて之を喜ぶも、其国際聯盟に対する態度を不当と為すと同時に、帝国も亦自ら内に省みて大に軍事費の削減を要すと信ずるもの也。

渋沢栄一伝記資料 第四十八巻 終