デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

9章 其他ノ公共事業
3節 碑石
14款 尾高次郎・八十島親徳墓碑
■綱文

第49巻 p.257-258(DK490085k) ページ画像

大正10年1月3日(1921年)

是日栄一、尾高次郎及ビ八十島親徳ノ墓碑題字ヲ揮毫ス。


■資料

渋沢栄一 日記 大正一〇年(DK490085k-0001)
第49巻 p.257 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正一〇年        (渋沢子爵家所蔵)
一月三日 曇 寒
○上略 午飧後各種ノ揮毫ヲ為ス○中略尾高・八十島ノ石碑題字又ハ小絹本色紙類十数枚ニ及フ
○下略


尾高次郎墓碑 (埼玉県大里郡豊里村所在)(DK490085k-0002)
第49巻 p.257-258 ページ画像

尾高次郎墓碑           (埼玉県大里郡豊里村所在)
(正面)
  義徳院刀江善処居士
(側面)
嗚呼天寿定めなきは人生の常なり、余や頽齢屡後進有為の士の為めに墓誌を撰す、老後何等の痛恨事ぞ、大正九年二月四日尾高次郎病を以て歿す、次郎は余の従兄にして恩師たる藍香翁の次子、妣は根岸氏、武州榛沢郡手計村に生る、幼にして支族尾高幸五郎に養はれて嗣子と為る、後ち東京に遊学し、明治二十四年東京高等商業学校の業を卒るや第一銀行に入り、同行の韓国経営に当り、擢でられて釜山・仁川等の支店長と為り、事業大に挙り名声日に隆し、遂に居留民に推されて商業会議所会頭となり、又民会議長に挙けらる、在韓六年にして帰朝し、尋て同行の監査役たり、次郎稟資熱誠勉励最も経営の才に長じ、或は新業を企画し、或は旧業を整理し、傍ら文筆を楽みて陰徳新論、刀江随筆の著あり、曾て第一銀行の金券を韓国に発行するや阻害荐りに起りしも、処理善く機宜に適して其流通を円満ならしめ、又朝鮮興業会社を起して同地に於ける土地開発、農事振作の事に努め、其成績大に観るべきものあり、是より先、東洋生命保険会社営業振はず、社運日に非なり、次郎推されて社長となるや拮据計画、回瀾の策を講じ期年にして傾運を挽回せり、次郎の事を処する概ね此の如し、次郎年歯五拾有五、思慮正に円熟し経齢既に練達し、事を為すの最適齢にして不幸病に罹り竟に起たず、嗚呼哀い哉、次郎資性孝慈善く養親に敬事し、家眷を愛撫し、〓家藹然として和輯団欒す、人看て之を歎賞せさるなし、余の女文子を配として六男四女あり、長子豊作嗣ぎ他の子女は或は嫁き或は他家に養はれ又或は家に在りて学び以て他日の立身を待つ、次郎以て瞑すべし、唯余と幸五郎と倶に耆耊に躋りて忽ち此人を喪ふ、文に臨ミて悵然涕涙の交下るを禁する能はず
  大正十年十月
                  青淵 渋沢栄一 撰并書
 - 第49巻 p.258 -ページ画像 
                     男 尾高豊作建石


八十島親徳墓碑 (東京都渋谷区豊分町祥雲寺境内所在)(DK490085k-0003)
第49巻 p.258 ページ画像

八十島親徳墓碑 (東京都渋谷区豊分町祥雲寺境内所在)
(正面)
  八十島親徳之墓
(側面)
嗚呼此レ八十島親徳君ノ墓ナリ、君ハ宇和島藩士八十島行蔵ノ長男、妣諱ハ長子、家祖親隆ハ伊達家ノ重臣ナリ、藩祖ノ封ヲ其子ニ分ツヤ藩封減少シ家格亦降下ス、二代ノ藩主深ク之ヲ憂ヒ親隆ヲシテ回復ヲ図ラシム、親隆命ヲ受ケテ意大ニ決スル所アリ、封土ヲ測量シテ地租ノ改正ヲ為サントス、其初ニ当リ村吏ノ之ニ抗スル者ヲ斬テ其決意ヲ示ス、衆民慴伏シ改租ノ事速ニ成ル、親隆乃チ仕ヲ致シ悉ク家財ヲ鬻キテ一切経ヲ購ヒ、経蔵ヲ菩提寺ニ建テ飄然去テ海浜ニ草廬ヲ結ヒ、曩ニ誅セル者ノ冥福ヲ祈テ世ヲ終ル、幾モ無クシテ藩封家格旧ニ復ス爾来八十島氏祀ヲ絶ツコト百五十余年、天保年間藩主親隆ノ忠勲ヲ追懐シ藩中ノ傑士土倉中ヲ択ミテ其家名ヲ襲ハシム、中天資雋邁才文武ヲ兼ネ土倉皆免許ノ称アリ、君ハ実ニ其嫡孫ナリ、先考ハ厳先妣ハ慈子ヲ教フル各方アリ、君資性忠厚穎達、節義ヲ尚ヒ最事務ノ才ニ長ス子爵渋沢栄一翁儒道ヲ以テ実業ヲ行ハントス、曾テ論語算盤説アリ、夙ニ君ノ人ト為リヲ知リテ深ク之ニ属望シ、君カ東京高等商業学校ノ業ヲ卒ルヤ用ヒテ秘書ト為シ、後チ理事ニ進メ信任倍厚ク相遇魚水ノ如シ、出テハ欧米ニ随ヒ入テハ機務ニ参ス、君明治六年四月九日ヲ以テ生レ大正九年三月十八日疾ヲ以テ歿ス、享年四十有八、法諡シテ明徳院大道是親居士ト号ス、翁其葬儀ニ臨ミ輓辞ヲ述フ、哀悼痛切嗚咽頻ニ到リ明弁断続ス、会衆欷歔仰キ視ル者無シ、翁ノ君ニ対スル信愛ノ深キ寄託ノ大ナル以テ知ルヘキナリ、噫君ハ血縁無キ家祖ノ高風ヲ感受シ、血縁有ル租考ノ英資ヲ遺伝シ、知己ノ志ヲ継キテ利義合一ノ風ヲ興サントスルニ当リ不幸天其寿ヲ奪フ、翁ヲシテ喪予之嘆アラシムル、良ニ以アル也
        子爵 渋沢栄一題 男爵 穂積陳重撰
                    高田忠周書