デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2021.9.1

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
1款 株式会社第一銀行
■綱文

第50巻 p.5-17(DK500001k) ページ画像

明治42年6月14日(1909年)

是ヨリ先、韓国統監伊藤博文、新ニ韓国中央銀行ヲ設立シテ、同国ニ於ケル当行ノ業務ヲ継承セシメントシ、四十年八月以来栄一ト折衝ス。是日栄一、第一銀行ヲ代表シテ韓国度支部次官荒井賢太郎ト其権利義務承継ニ関スル覚書ヲ交換シ、次イデ二十五日其細目ノ協定ヲ遂グ。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四一年(DK500001k-0001)
第50巻 p.5-6 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四一年         (渋沢子爵家所蔵)
二月二十日 晴 寒
○上略 午後一時第一銀行ニ抵リ、重役会ヲ開キ種々ノ要件ヲ議決ス、韓国支店ニ係ル重要ノ問題ヲ協議ス○下略
  ○中略。
三月三十一日 晴 軽暖
○上略 午前八時過、家ヲ出テ大井村伊藤公爵邸ヲ訪ヒ、公爵ニ面会シテ第一銀行韓国支店ニ関スル要件ヲ具陳シ、其他雑事ヲ談ス、十一時半同邸ヲ去リ○下略
  ○中略。
六月十八日 曇又雨 暑
午前七時起床入浴シ、畢テ朝飧ヲ食シ、後韓国統監ニ進達スヘキ請願書ヲ起草ス(第一銀行ノ事ニ関スルナリ)○中略後曾禰副統監ヲ麻布私邸ニ訪ヒ、第一銀行ノ事○中略等ニテ種々ノ談話ヲ為ス○中略五時第一銀行ニ抵リ、重役会ヲ開キ要件ヲ議決シ、後、七十七銀行ノ事ニ関シ要務ヲ内議ス、畢テ佐々木氏ト統監府ニ提出スヘキ文書ノ事及二十銀行ノ事ヲ内議シ、七時兜町事務所ニ抵リ、書類ヲ調査シ事務ヲ処理シ、夜九時王子ニ帰宿ス
  ○中略。
六月二十五日 曇 暑
午前七時起床入浴シ、畢テ朝飧ヲ食ス○中略客去リテ後統監府ニ進達スヘキ第一銀行ノ要書ヲ浄書ス○中略午飧後第一銀行ニ出勤シ○中略後、第一銀行重役会ヲ開キ要件ヲ議決ス○下略
  ○中略。
六月二十七日 曇雷雨 暑
午前六時起床入浴シ、畢テ朝飧ヲ食ス、曾禰子爵ニ電話ヲ通シ今日ノ往訪ヲ止メ、来ル廿九日頃ニセン事ヲ申告ス○下略
 - 第50巻 p.6 -ページ画像 
  ○中略。
七月五日 曇 冷
○上略 韓国市原盛宏・荒井賢太郎二氏ニ書送《(状)》ヲ送リ、中央銀行改正案ノ事ニ関シ詳細ニ申遣ス○下略
  ○中略。
八月四日 晴 暑
○上略 十二時第一銀行ニ於テ午飧シ、一時銀行集会所ニ抵リ、第一銀行株主総会ヲ開ク、畢テ再ヒ第一銀行ニ抵リテ、佐々木・日下・竹山氏等ト京城総支店建築ノ事ヲ談ス○下略
  ○中略。
十月一日 曇 涼
○上略 午後三時大森ニ伊藤公爵ヲ訪ヒ、第一銀行韓国支店ノ事ニ付種々ノ談話アリ、佐々木勇之助・市原盛宏二氏同行ス、鶴原・荒井二氏来会セラル、談畢テ夜飧ヲ共ニシ、公爵ヨリ韓国政略ニ関スル談話アリ夜十時王子ニ帰宿ス
  ○中略。
十月四日 晴 冷
○上略 午後四時築地新喜楽ニ抵リ、第一銀行ニ於テ伊藤統監其他鶴原・荒井・木内・児玉・池田其他ノ諸氏ヲ招宴ス○下略
  ○中略。
十月十一日 晴 冷
○上略 佐々木勇之助・市原盛宏二氏来リ、韓国支店ニ関シ種々ノ協議アリ○下略
  ○中略。
十一月十二日 半晴 寒
○上略 十二時十分新橋発ノ汽車ニテ大磯ニ抵リ伊藤公爵ヲ訪フ、第一銀行ニ関スル事○中略等ヲ詳話ス、午後三時半大磯発ノ汽車ニテ帰京○下略
  ○中略。
十二月三日 晴 寒
午前七時起床入浴シ、畢テ朝飧ヲ食シ、後書状数通ヲ裁ス、韓国荒井市原二氏ヘノ書状モ其中ニ在リ○下略
  ○中略。
十二月三十一日 晴 寒
○上略 十二時第一銀行ニ於テ午飧シ、後兜町事務所ニ抵リ、要務ヲ処理シ且諸方ヘ書状ヲ送付ス、京城市原氏ヘ一書ヲ以テ種々ノ要件ヲ書送ス○下略


渋沢栄一 日記 明治四二年(DK500001k-0002)
第50巻 p.6-8 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四二年         (渋沢子爵家所蔵)
二月十日 晴 寒
○上略 四時第一銀行ニ於テ重役会ヲ開キ要件ヲ議決ス、畢テ晩飧ヲ食シ佐々木・市原・土岐・尾高ノ諸氏ト共ニ、事務所ニ抵リテ活動写真ヲ見ル、畢テ韓国ニ於ル第一銀行総支店ノ事ニ関シ、佐々木・市原ト内話シ、十一時王子ニ帰宿ス○下略
  ○中略。
 - 第50巻 p.7 -ページ画像 
三月四日 半晴 寒
○上略 三時築地ニ韓国特使ヲ訪ヒ名刺ヲ通ス、午後四時王子ニ帰ル、五時ヨリ伊藤統監・韓国特使及其一行来会ス、蓋シ第一銀行ニ於テ招宴セシナリ、来賓二十七名許リ、種々余興アリ、来賓皆歓ヲ尽シ、夜十時散会ス
○下略
  ○中略。
五月二十一日 晴 暖
○上略 午後一時○中略畢テ曾禰副統監ヲ訪問シ要務ヲ談シ、後麻布ニ井上侯爵ヲ訪ヒ、又霊南阪ニ伊藤統監ヲ訪ヒ、同シク要務ヲ談シ○下略
  ○中略。
五月二十五日 晴 薄暑
午前六時起床入浴シ、畢テ電話ニテ大隈伯・曾禰子ノ二氏ニ要務ヲ紹介ス○下略
五月二十六日 雨 暖
○上略 午前九時桂総理大臣ヲ三田私邸ニ訪ヒ○中略第一銀行ノ事ニ関シ要件ヲ談ス、十一時曾禰副統監ヲ麻布私邸ニ訪ヒ、第一銀行ノ事ヲ談ス
○下略
  ○中略。
六月七日 雨 暑
○上略 正午第一銀行ニ於テ午飧ス、後、佐々木・市原二氏ト要務ヲ談ス○中略午後四時大森ニテ伊藤公爵訪問ノ約アルヲ以テ、直ニ大井村ニ抵リ、伊藤公ニ面話ス、曾禰・荒井二氏来会シテ、第一銀行支店ニ関スル談アリテ、其改正ニ付テノ手続書ヲ交付セラル、依テ計算ニ属スル事ハ更ニ其掛リノ調査ヲ待テ、荒井氏ニ交渉スヘキ事ヲ答ヘテ、五時半伊藤公ヲ辞シ○下略
  ○中略。
六月十一日 雨 冷
○上略 午前九時荒井賢太郎氏ヲ訪ヒ、第一銀行韓国支店ノ事ヲ談シ○下略
六月十二日 曇 暑
○上略 正午第一銀行ニ於テ午飧シ、後伊藤公爵ヲ大井村邸ニ訪ヒ、第一銀行韓国支店ニ関スル事ヲ談ス、帰途井上侯ヲ麻布ニ訪ヒシモ不在面会ヲ得ス、午後四時第一銀行ニ抵リテ、佐々木・市原二氏ト要務ヲ談シ○下略
  ○中略。
六月十四日 曇 大風暑
○上略 朝来腹痛数回アリテ食慾ナシ、午前十時堀井医師来診ス、是ヨリ先長谷川光五郎ヲ兜町事務所ニ遣シテ、今日伊藤統監ヨリノ案内ニハ佐々木・市原二氏参向ノ事ヲ申シ遣ハス○下略
  ○中略。
六月十六日 曇 冷
○上略 八時朝飧ヲ食ス、佐々木勇之助氏来リ、第一銀行韓国支店ノ事ニ関シ、一昨日伊藤統監邸ニ協議アリシ顛末ヲ聞ク○下略
六月十七日 雨 冷
 - 第50巻 p.8 -ページ画像 
○上略 午前九時曾禰統監ヲ麻布邸ニ訪ヒ、不在ナルヲ以テ、伊藤公爵ヲ霊南坂官舎ニ訪フ、第一銀行韓国支店ノ事及京城電気鉄道ノ事ヲ談話ス、曾禰統監モ来会スルニ付、同シク前二件ヲ詳話シテ、諒諾ヲ得タリ○下略
六月十八日 晴 暑
○上略 午前八時三十分新橋停車場ニ抵リ、曾禰統監ノ韓国行ヲ送ル○中略三時第一銀行ニ抵リ、佐々木・市原・日下ノ諸氏ト韓国支店ノ処置ニ関シ熟議ス○下略
  ○中略。
六月二十五日 雨 冷
○上略 第一銀行ニ抵リテ午飧シ、後市原盛宏氏ト種々ノ要件ヲ談ス、蓋シ同氏今日韓国ニ帰任スルヲ以テ、銀行事務其他○中略ニ関スル要務ヲ談話ス○下略
  ○右ニ市原盛宏ハ「今日韓国ニ帰任」トアルモ、翌二十六日ノ日記ニ尚第一銀行ニテ行務ヲ談ジタル旨記セリ。是日帰任セザリシナラン。
  ○統監更迭ハ明治四十二年六月十四日。(明治・大正・昭和大官録ニヨル)


東京朝日新聞 第八一九三号明治四二年六月一一日 韓国中央銀行問題 渋沢男の談話(DK500001k-0003)
第50巻 p.8 ページ画像

東京朝日新聞  第八一九三号明治四二年六月一一日
    ○韓国中央銀行問題
      △渋沢男の談話
記者は昨十日渋沢男を其事務所に訪ひ、第一銀行に対する打撃程度に関し問ふ所ありしに、男爵は刻下韓国中央銀行問題に付、覚書交付の事実あるを明言し、且つ第一銀行は多年韓国幣制兌換の衝に当り来りて、今俄に其特権を失うは確かに一種の打撃たるを失はざるも、今後交渉の結果、統監府にして我々の要求を容れらるゝに於ては、左したる損害なきを得べき乎、尤も今次交付せられたる覚書通にては銀行側に於て甘諾せざるべく、左りとて第一銀行が法外の要求を為すも官辺に於て容るべきに非ず、本問題は短日月の間に円満の解決は如何あるべきか云々と、問に応じて答ふるさま稍愁色を帯びるが如く見受けられぬ


第一銀行五十年史稿 巻六・第三三―四三頁(DK500001k-0004)
第50巻 p.8-11 ページ画像

第一銀行五十年史稿  巻六・第三三―四三頁
                    (株式会社第一銀行所蔵)
 ○第二編 第六章 第一節 韓国中央金融機関の譲渡
    韓国中央銀行設立の内議
韓国銀行の設立は本行の営業に一大変革を生じたり、初め伊藤博文の統監に任ずるや、国家の権利に属する紙幣発行の特典を一私立銀行に附与し、一国金融の中枢機関たらしむるは宜しきを得ず、韓国は別に中央銀行を創設すべしとて、内閣に提議せり、此議明治四十年八月に至りて外間に洩れたれば、頭取渋沢栄一は、伊藤統監及び折しも上京中なる統監府財政監査長官目賀田種太郎を訪ひて之を質したれども、二人共に其実を告げず、蓋し廟議の未だ決せざりしが為なるべし、然るに幾もなく伊藤は頭取に対して、上述の理由により韓国中央銀行を設立する旨を語れり、頭取答へて曰く、本行が韓国に支店を置きしは
 - 第50巻 p.9 -ページ画像 
明治十一年にして、爾来三十年の久しき間拮据経営を重ねて、漸く今日の盛運に達し、且日露戦役の後には韓国中央金融機関の任務に就き銀行券発行の特権をも得たるものなれば、之を放棄するに忍びず、されども我等の最も信頼する閣下にして、韓国の統治上、現制度の改革を絶対に必要なりとせば、我銀行は一個の私利を以て国家の公益を妨ぐるの意なし、多年韓国に扶植せる信用と利益とを犠牲に供するも辞する所にあらず、然れども銀行の今日あるは、過去三十年間苦辛経営の結果なることを充分に諒恕し、且株主に損害を蒙らしめざるに於ては、謹で命を奉ずべしといへり、伊藤は嘗て頭取に対し、第一銀行の支店が韓国の中央金庫たること面白からず、寧ろ本店を韓国に移しては如何と語りしに、頭取は其不条理なるを説きて反対せるに、然らば特別の銀行を創設し、之に中央銀行としての任務を譲り渡すことゝせんも異議なきかといへるにぞ、政府の意見果して玆にあらば已むを得ざる次第なりと答へしといふ、蓋し此際の事なるべし。
    韓国中央銀行設立に関する統監府との交渉
      統監の内示案
かくて四十一年二月に至り、伊藤統監は始めて大韓銀行設立につきて其条例及び本行への命令案を内示せり、命令案の内容は左の如くなりき。
 一、新中央銀行株式総数拾万株(百円券)の内、三万株は第一銀行に優先引受の権利を与へ、且其引受株式に対し、十ケ年間配当金年八分の優先権を与ふる事
 二、新中央銀行は第一銀行に対し、金二百万円を限り、年利三分五厘、償還期限十ケ年の貸付を為す義務ある事、但相当の担保を供せしむる事
 三、新中央銀行の設立と同時に、正貨準備及び保証準備を悉皆無償にて、第一銀行より中央銀行に引渡す事
 四、第一銀行支店・出張所は、爾後普通銀行として其営業を継続する事
 五、制度変更の為に自然閉鎖すべき第一銀行支店・出張所、其他不用に帰すべき土地建物の内、新中央銀行の業務に必要なるものは相当の評価を以て中央銀行に引継ぐべき事
これによれば銀行券発行の特権回収に対する報酬としては、新中央銀行株式三万株の優先引受と、二百万円年賦借入の二途あるのみ、而も新中央銀行の株券は其営業成績も未だ明ならざれば、差当り確実なる報償と称すべきは、たゞ二百万円の低利貸下金あるのみ、かゝる些細の報償によりて前途収益増加の見込ある銀行券発行の特権を奪はんとするは不当なり、且韓国現在の経済状態にては、本行が普通銀行として従前の営業を継続する余地なきのみならず、新に設立する中央銀行もまた、紙幣の発行、国庫金の取扱以外に一般普通の銀行業務を営むにあらざれば、韓国の商工業を振興し、日韓貿易を増進する能はざるは明かなるが故に、若し本行にして強て旧態を維持せんとせば、自ら競争の弊を醸し、互に苦境に陥るの恐れなしとせず、是に於て頭取は同年六月陳述書を統監に呈して、其再考を促したり、此時本行の要求
 - 第50巻 p.10 -ページ画像 
せる所は左の諸件なりき。
      本行の修正意見
 一、新設中央銀行の成立と同時に、当銀行は嘗て経営せる支店・出張所の地所家屋及其業務の一切を挙げて之を中央銀行に譲渡し其新創に際し勉めて之に協力して、百事不便なからしむる事
   但京城及二・三の開港場に於て、当銀行の支店又は出張所を存置する時は、中央銀行と協議して、其妨害とならざる様注意すべき事
 二、右譲渡に際して、従来当銀行に於て取扱来れる預金貸付等一切の取引は、相当の手続によりて中央銀行に於て承継すべき事
 三、新設中央銀行が日本に代理店を置く時は、当銀行にて之を引受け、充分の便宜を計るべき事
 四、当銀行の発行せる銀行券の始末は、去る明治十六年我政府が全国各国立銀行に与へたる的例により、新設中央銀行に於て其引替事務を継承し、相当の年限を以て之が償却の方法を定むべき事
 五、右の方法を定むるに於ては、当銀行は前日内示せられし中央銀行株式の優先権及び年賦貸下金の特典は之を願はざる事
此陳述に対し、採否未だ決せざる時に当り、韓国度支部次官荒井賢太郎は同年八月、書を韓国総支店支配人市原盛宏に寄せて、本行支店・出張所の地所家屋、其他物件の譲渡価格の概数、韓国中央銀行設立後本行に於て存置せんとする支店・出張所、及び預金貸金の承継順序、銀行券に対する償却年限及其額に就きて、予め本行の意見を知らんことを求めしかば、市原は頭取等と協議の後、それぞれ答ふる所あり、且業務譲渡の際には、其使用人をも中央銀行に於て引続き使用ありたき旨をも附言せり。
      交渉の困難
然るに統監府は紙幣の銷却に関して、嘗て国立銀行を処分せし時と同様の措置を為すを肯んぜず、中央銀行は本行の発行に係る銀行券銷却の義務を承継すると共に、本行は正貨準備を即時に中央銀行に引渡し又保証準備発行額に付きては、十六年賦にて中央銀行に償還することを促し、又中央銀行に引継ぐべき貸金に対し、本行をして保証の責に任ぜんことを求めたり。
      本行の譲歩
此の如きは本行の忍びがたき所なりしかば、頭取は取締役兼総支配人佐々木勇之助・韓国総支店支配人市原盛宏と共に、屡々伊藤博文・荒井賢太郎と折衝したれども、意見遂に一致するに至らず、伊藤はいたく之を憂ひ、内閣総理大臣桂太郎及び井上馨に調停を依頼し、円満に解決せんことを望みしかば、本行もまた国家奉仕の為に多大の譲歩を為し、保証準備に対する銀行券の償却年限を廿ケ年に延長し、貸金の保証に就きては双方の協議に由らんことを請ひ、漸く統監の許可を得たり。
    韓国度支部との間に締結せる協定覚書及び細則
是に於て明治四十二年六月十四日、頭取渋沢栄一と度支部次官荒井賢
 - 第50巻 p.11 -ページ画像 
太郎との間に覚書を交換し、尋で六月廿五日を以て其細目の協定を遂げ、覚書に基く承継細則を作成せり、即ち韓国中央銀行は本行の発行せる銀行券銷却の義務を承継する事、本行は前項引継と同時に無償にて正貨準備を韓国中央銀行に引渡す事、保証準備発行額に就きては、二十ケ年賦にて本行より韓国中央銀行に償還する事、本行は営業上一切の権利義務を韓国中央銀行に引継ぐ事、但其引継ぎたる債権中、回収不確実のものに対しては、本行において保証の責に任ずる事、本行は営業用地所建物を韓国中央銀行に引継ぐ事、韓国中央銀行は本行における現在使用人の総てを引継ぎ使用する事、本行にて一・二の支店出張所を存置する必要あらば、韓国中央銀行の営業の妨害とならざる様努むる事の諸件なりき。


第一銀行五十年史稿 巻六・第五六―五八頁(DK500001k-0005)
第50巻 p.11 ページ画像

第一銀行五十年史稿 巻六・第五六―五八頁
                     (株式会社第一銀行所蔵)
 ○第二編 第六章 第一節 韓国中央金融機関の譲渡
    韓国中央金融機関譲渡に関する覚書
統監博文
 韓国中央銀行設立ニ就キ、株式会社第一銀行トノ間ニ於ケル権利義務承継ニ関スル覚書
一、韓国中央銀行ハ株式会社第一銀行発行ニ係ル銀行券銷却ノ義務ヲ承継スル事
二、株式会社第一銀行ハ正貨準備ヲ前項引継ト同時ニ、無償ニテ韓国中央銀行ニ引渡ス事
三、保証準備発行額ニ就キテハ、株式会社第一銀行ハ左ノ条件ニ依リ韓国中央銀行ヘ年賦償還スル事
   イ、年賦償還期限 弐拾箇年
   ロ、現在保証準備ニ充テタル有価証券等ハ、韓国中央銀行ヘ担保ニ提供スル事、但償還額ニ応シテ担保ヲ解除スルモノトス
四、株式会社第一銀行ハ営業上一切ノ権利義務ヲ、特別ノ事情アルモノヲ除キ、其権利ニ附随セル担保物及証憑書類等ト共ニ之ヲ韓国中央銀行ニ引継クコト、右引継ヲ受ケタル債権中、回収不確実ナルモノニ対シテハ、株式会社第一銀行ニ於テ韓国中央銀行ニ対シ保証ノ責ニ任スル事
五、株式会社第一銀行ハ営業用地所建物ヲ韓国中央銀行ヘ引継キ、韓国中央銀行ハ其代価ヲ即時ニ支払フ事
六、韓国中央銀行ハ株式会社第一銀行ニ於ケル現在使用人ヲ総ヘテ引継キ使用シ、其身元保証ニ関スル一切ノ権利義務ヲ承継スル事
七、若シ株式会社第一銀行ニ於テ、一・二ノ支店・出張所等ヲ存置スルノ必要アラハ、韓国中央銀行ノ営業ノ妨害トナラサル様努ムル事
  明治四十二年六月十四月
           度支部次官      荒井賢太郎
           株式会社第一銀行頭取 渋沢栄一

 - 第50巻 p.12 -ページ画像 

第一銀行五十年史稿 巻六・第五八―六七頁(DK500001k-0006)
第50巻 p.12-14 ページ画像

第一銀行五十年史稿  巻六・第五八―六七頁
                    (株式会社第一銀行所蔵)
 ○第二編 第六章 第一節 韓国中央金融機関の譲渡
    韓国中央金融機関譲渡に関する細則
 韓国中央銀行ト株式会社第一銀行トノ間ニ於ケル権利義務承継ニ関スル覚書ニ基ク承継細則
一、韓国中央銀行成立シタルトキハ、第一銀行ハ遅滞ナク銀行券発行ノ権利義務、国庫金出納ノ事務、貨幣整理事務、一般ノ営業、其他土地・建物・使用人等ヲ韓国中央銀行ニ引継クヘシ
二、前項ノ引継ハ一定ノ期日ヲ特定シ、凡テ其日ノ現在ヲ以テ之ヲ行フ、但シ右期日ハ予シメ第一銀行ト打合セノ上決定スヘシ
三、引継ノ目的物ヨリ発生スル権利義務ハ、引継ノ日迄ハ凡テ第一銀行ニ属シ、引継ノ翌日ヨリ韓国中央銀行ニ属スルモノトス
四、引継ハ右韓国第一銀行各支店・出張所ニ於テ、韓国中央銀行監理官又ハ其代表者立会ノ上之ヲ執行ス
五、第一銀行発行銀行券銷却ノ義務ハ、引継ノ日ニ於ケル発行高ニヨリ韓国中央銀行之ヲ引継ク、但右発行中ニハ第一銀行手許有高ヲ包含セサルモノトス
  右引継後第一銀行ハ銀行券ニ関シ、何等特別ノ権利義務ナキモノトス
六、前項ニ依ル銀行券引継高ノ三分ノ一ニ当ル正貨準備ハ、其儘之ヲ韓国中央銀行ニ引渡スヘシ
七、銀行券引継高ノ三分ノ二ニ当ル保証準備発行高ハ、中央銀行ヨリ第一銀行ヘ無利息年賦償還ノ方法ヲ以テ貸付クヘキニヨリ、第一銀行ハ適法ノ準備価格ヲ有スル有価証券ヲ担保トシテ、韓国中央銀行ニ供託スヘシ
八、銀行券年賦償還ニ関スル方法等ハ別ニ契約ヲ以テ之ヲ定メ、前項ノ担保品ハ第一銀行ヨリノ償還額ニ応シテ之ヲ解除スルモノトス而シテ韓国政府ハ該担保証券ノ返付ニ付、其契約書ニ保証スヘシ
九、国庫金ノ出納事務及貨幣整理事務ハ、凡テ引継ノ日ニ於ケル現在ニヨリ、関係帳簿・証憑書類並ニ什器等ト共ニ、一切ノ権利義務ヲ、挙ケテ韓国中央銀行ニ引継クヘシ
十、預金ハ其種類ノ如何ニ拘ハラス、凡テ引継ノ日ニ於ケル現在額ヲ以テ引継クヘキモノトス
  韓国中央銀行ハ第一銀行ト連名ヲ以テ、債務更改ノ旨ヲ預金者ニ通知シ、預金者ノ承諾書ヲ取リ第一銀行ニ交付スヘシ、若シ預金者ノ承諾書ヲ取ル能ハサルトキハ、韓国中央銀行ヨリ第一銀行ヘ譲渡ノ証書ヲ交付スヘシ
十一、貸付金・割引手形及当座貸越等ハ、其種類ノ如何ニ拘ハラス、凡テ引継ノ日ニ於ケル現在高ニヨリ引継クモノトス
  第一銀行ハ債権譲渡ノ手続ニヨリ、債務者ノ承諾書ヲ取リ、韓国中央銀行ニ譲渡スヘシ、若シ債務者ノ承諾書ヲ取ルコト能ハサルトキハ、確定日付ノ通知書ニヨリ、其譲渡ヲ証明スヘシ
十二、前項ノ債権ハ、引継後一定ノ期間内ニ、韓国中央銀行ニ於テ之
 - 第50巻 p.13 -ページ画像 
カ調査ヲ為シ、担保不足又ハ回収不確定ナルモノニ限リ、第一銀行之カ保証ノ責ニ任スルモノトス
十三、前項ノ債権ニ付テハ、韓国中央銀行ニ於テ充分其取立ニ尽力スヘキハ勿論、左ノ通リ履行スヘシ
  一、利子ノ延滞ヲ元金ニ組入レントスルトキハ、予シメ第一銀行ニ協議スル事
  二、第一銀行ノ承諾ナクシテ、書替又ハ延期ヲ為サヽル事
  三、債権ノ全部又ハ一部ノ弁済ヲ受ケタルトキハ、直チニ第一銀行ニ報告スヘキ事
十四、前諸項ノ引継ト共ニ、之ヲ附随セル担保物並ニ証憑書類ハ、凡テ之ヲ引継クモノトス
十五、前諸項ノ引継ニ於テハ、現金計算ト凡テ之ヲ合一差引シ、過不足アル場合ニハ一方ヨリ他方ニ即時支払ヲ為スモノトス
十六、前諸項ノ引継ヲ了シタルトキハ、関係帳簿ハ其日ヲ以テ一応閉鎖シ、第一銀行ハ閉鎖後二ケ年間隠レタル瑕疵ニ付キ、其責ニ任スルモノトス
十七、営業用ノ土地・建物・倉庫・社宅等ハ、明治四十年以前ニ取得又ハ建築シタルモノハ、引継ノ時ニ於ケル時価ニヨリ、明治四十年一月以後ニ取得又ハ建築シタルモノハ、現ニ支払ヒタル実費ニヨリ、韓国中央銀行之ヲ引受ルモノトス
  若シ右ノ価格ニ付不明又ハ争議アルトキハ、双方合議ノ上鑑定評価人ヲ定メ評価セシム
十八、什器其他雑品ハ合議評価ノ上、韓国中央銀行之ヲ引受クヘシ
十九、金庫事務及貨幣整理事務ノ為メ、韓国政府ヨリ第一銀行ニ派遣セル職員ハ勿論、第一銀行現在使用人ハ凡テ引継ノ日ヨリ之ヲ韓国中央銀行ニ引継キタルモノト看做ス、但シ異議アルモノハ直チニ申出ルコトヲ要ス
  使用人ト共ニ其身元保証ニ関スル権利義務、及一切ノ関係書類ヲ引継クヘシ
二十、第一銀行ニ於テ京城及釜山ノ両支店ヲ存置セントスル場合ニハ該店ニ関シテハ左ノ如ク引継ヲ為スモノトス
  一、京城支店ハ、営業所其他一切ヲ韓国中央銀行ニ引継キ、第一銀行ハ他ニ営業所ヲ設ケ、単ニ営業事務ノミヲ取扱フ、従テ普通ノ預金及貸出金等ハ之ヲ第一銀行ニ留保スト雖、左ニ列記スルモノハ韓国中央銀行ニ於テ之ヲ引継クヘシ
  イ、国庫金其他韓国政府及統監府等ニ属スル預金
  ロ、韓国政府其他官庁ノ勧誘ニヨリ貸出シタルモノ
  ハ、中央金融機関タルカ為メニ、公共団体其他ヘ特ニ貸出シタルモノ
  二、釜山支店ハ、営業所其他一切引継ヲ為サス、単ニ前号「イロハ」ニ該当スルモノノミヲ引継クモノトス
二十一、第一銀行カ株主総会ヲ経テ支店廃止ノ登記ヲ終了スル迄、韓国中央銀行ハ、事務引継後ト雖モ、同一店舗ニ第一銀行ノ招牌ヲ掲クルコトヲ承認スヘシ
 - 第50巻 p.14 -ページ画像 
二十二、其他引継ノ細目ハ其都度双方之ヲ協定スルモノトス


株式会社第一銀行第二十六期自明治四十二年一月一日至明治四十二年六月三十日 営業報告書 第二頁刊(DK500001k-0007)
第50巻 p.14 ページ画像

株式会社第一銀行第二十六期自明治四十二年一月一日至明治四十二年六月三十日 営業報告書
                          第二頁刊
    処務要件
○上略
一、六月十四日、韓国度支部ト当銀行トノ間ニ、同国中央銀行設立ニ就キ、権利義務承継ニ関スル覚書ノ取替セヲナス
○下略


東京経済雑誌 第五九巻第一四九五号・第一―二頁明治四二年六月一九日 韓国中央銀行の設立は何を意味するか(DK500001k-0008)
第50巻 p.14-15 ページ画像

東京経済雑誌  第五九巻第一四九五号・第一―二頁明治四二年六月一九日
    韓国中央銀行の設立は何を意味するか
韓国に中央銀行設立の議あるや、随分久しきものにて、少なくとも三ケ年に亘れる問題なり、韓国果して中央銀行の設立を要するか、我が第一銀行の京城支店が、韓国の中央銀行として韓国政府と契約を締結し、韓国貨幣整理事務、韓国官金取扱事務及び銀行券発行に関する業務を執行し、我が政府特に勅令(明治三十八年勅令第七十三号)を発布して、第一銀行の韓国に於ける業務は、我が外務大臣及び大蔵大臣の監督に属せしむることと為し、紙幣発行法を規定し、第一銀行の韓国に於ける業務は、駸々として進歩せる今日に於て、別に中央銀行を設立するの必要あるべからざるを以て、余輩は韓国中央銀行設立の議は、結局斉東野人の言、信ずるに足らずと為し、殆ど一顧をも之に与へざりしが、頃日伊藤公爵が統監を辞するに際し、咄嗟の間に決定せられたるは、近来の珍事と謂はざるべからざるなり、今より之を思へば、統監の交迭が既に決定して、而して其の実行の遅延せられたるは韓国中央銀行設立問題の為なりしものゝ如し、蓋し第一銀行の韓国に於ける業務、特に銀行券発行のことは、前期の桂内閣に於て曾禰子大蔵大臣たり、阪谷男大蔵次官たりし時に決定せられたるものなれば、曾禰子が統監たるに於ては、如何に蛮勇を振ふとも、之を中止して、更に韓国中央銀行を設立するが如きことは、容易に行ふこと能はざるべきなり
伊藤公爵が韓国中央銀行の設立を必要と為したるの理由果して如何、韓国度支部次官荒井賢太郎氏が熱心に之を主張し、尽力したるの精神果して如何、抑々我が帝国が韓国に於て卓絶なる経済上の利益を有することは、列国の斉しく承認せる所にして、現行条約にも明記せられたり、我が帝国が韓国の内政に干渉し、終に我が保護国と為したるものは、要するに此の経済上の利益と、国防上の関係とに基因せるものにして、第一銀行の韓国に於ける業務の如きは、卓絶なる経済上の利益中最大なるものにあらずや、今日に於て之を韓国に回収するは、日韓の間に成立せる経済的関係を根柢より破壊するものにあらざるか、思ふに、韓国政府が、紙幣発行は国家の特権にして、此の特権は外国銀行に賦与すべきものにあらずとの理由を以て、所謂利権回収を主張するに於ては、仮令其の主張は日韓現在の関係に適合せざるにもせよ其の之を主張せる精神は諒とすべきものあるべし、然れども帝国政府
 - 第50巻 p.15 -ページ画像 
の一機関たる統監が、韓国の為に利権回収を主張し、終に之を実行するに至りては何の心ぞや、余輩は之を以て咄々大怪事と謂はざるを得ざるなり、試みに思へ、韓国独立の為に、帝国が鎮海湾其の他に有する国防上設備の撤回を主張せば、帝国は之を黙視すべきか、日韓の関係を根底より破壊するものとして、之を排斥せざるを得ざるべし、又利権回収の為に、帝国が韓国に有する鉄道の買収を主張せば、帝国は之を看過すべきか、其許容すべからざることは多弁を要せざるべし、果して然らば帝国が韓国に於て有する卓絶なる経済上の利益中に在りて、最大なる紙幣発行権、韓国貨幣整理権及び韓国官金取扱権を韓国に回収するは、是れ日韓の間に現存する経済的関係を根柢より破壊するものにして、帝国として之を黙視し許容すべからざることは何ぞ多弁を要せんや、之を要するに、第一銀行の韓国に於ける事業を韓国中央銀行に収むるは、韓国の為に利権回収を意味し、利権回収は経済的関係の破壊を意味し、経済的関係の破壊は我が対韓政策の退歩を意味し、対韓政策の退歩は、統監政治の失敗を意味するものにして、而かも最大失敗と謂はざるべからざるなり


東京経済雑誌 第五九巻第一四九五号・第三―五頁明治四二年六月一九日 韓国中央銀行対第一銀行(DK500001k-0009)
第50巻 p.15-16 ページ画像

東京経済雑誌  第五九巻第一四九五号・第三―五頁明治四二年六月一九日
    韓国中央銀行対第一銀行
第一銀行が我が政府の勧誘に基き、韓国に於て紙幣を発行したるは、去る明治三十七年頃のことにして、翌三十八年三月勅令第七十三号を以て、紙幣発行法を規定し、我が外務・大蔵両大臣に於て、第一銀行の韓国に於ける業務を監督することとなるや、当時田口鼎軒先生は病床に在り、余輩一日先生を病床に訪ふて此のことを告ぐるや、先生は大に悦ばれ、沈思稍々久しくして、左の歌を詠ぜられたり
    第一銀行の紙幣が韓国の通貨となりし由を聴きて
  韓国も我が日の本と諸ともに
      カミの国とそなりにけるかな
紙幣を以て公私一切の取引に無制限に通用せしむるが如きは、方今の世界に於ては尋常のことのみ、何ぞ深く悦ぶに足らんや、然るに鼎軒先生が之を悦ばれたるものは、我が第一銀行の発行せる紙幣が韓国に於て法貨となりしが為なり、即ち之に依りて我が邦の利権は韓国に拡張せられ、日韓の経済的関係は密接となるべければなり、然るに今や第一銀行の発行せる紙幣は、依然として流通上に存するも、其の利益特権は第一銀行より韓国中央銀行に収めらるゝこととなり、今後年と共に減少して、二十年の後には、隻影だも見ること能はざるに至るべし、第一銀行の韓国に於ける業務を韓国中央銀行に収むるの条件果して如何
本月十六日、統監府と第一銀行との間に交換を了したる覚書に拠れば其の条件の要旨左の如し
○中略
第一銀行の韓国に於ける紙幣発行の利益は、保証準備発行高約六百余万円なるを以て、其の利益を一割として六十万円、五分として三十万円なり、第一銀行は此の利益を収得すると同時に、韓国官金取扱事務
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其他の義務を負担せることなれば、差引其の利益は大に減少すべしと雖、兎も角も一財源たるや知るべきなり、右の条件に依れば、此の利益の喪失に対しては何等補償なきものゝ如し、第一銀行の之を承諾せる以上、外間より非議すべきにあらずと雖、亦以て本件利権回収の暴挙たることを知るに足らずや
韓国中央銀行の組織は、大要左の如くなるべしと云ふ
 一、韓国政府の設立する韓国中央銀行の資本は一千万円にして、新に発布せらるべき条例の下に一千万円の株式組織とし、日韓両国政府並に人民より株式を募集す
 二、中央銀行は兌換券発行並に国庫金出納の特典を有し、韓国政府より六朱の補給利子を受く
 三、統監並に韓国政府は中央銀行監督権を有す
韓国中央銀行は、第一銀行の韓国に於ける営業を継承すべきを以て、当初より相当の利益あるべしと雖、紙幣発行の利益は、一方に於ては銀行券の流通高が膨脹するに随ひて増加し、他方に於ては、第一銀行が保証準備発行紙幣を銷却するに随ひて収得せらるべきものたることを記憶せざるべからず、而して中央銀行の資金が充実して、韓国政府の財政を助け、韓国商業の発達に資するには歳月を俟たざるべからず然るに第一銀行の韓国支店に依る時は、日韓両国間の取引に対して至大の便益あるのみならず、其の資金は巨大なるを以て、韓国の如き資金の空乏せる所には、最も便益なる金融機関と謂はざるべからず、然るに特に之を打破して更に中央銀行を新設す、近時稀なる愚挙と謂ふべきなり


東京経済雑誌 第五九巻第一四九六号・第二―三頁明治四二年六月二六日 第一銀行韓国支店引揚の結果如何(DK500001k-0010)
第50巻 p.16-17 ページ画像

東京経済雑誌  第五九巻第一四九六号・第二―三頁明治四二年六月二六日
    第一銀行韓国支店引揚の結果如何
韓国中央銀行にして成立せば、第一銀行は韓国に在る各支店を之に渡して、韓国より引揚くべしと云ふ、勿論一・二の支店は存置せらるべしと雖、第一銀行韓国支店引揚の結果は、今に於て充分に研究せざるべからざる所なり
第一銀行が韓国支店の元金とせる資本金は三百万円に過ぎずと雖、紙幣発行権を有して、約一千万円の銀行券を発行し、一千万円以上の預金を持して、京城・仁川・元山・平壌・鎮南浦・木浦・群山・馬山・大邱・開城・城津・咸興・鏡城の十四ケ所《(マヽ)》に支店を置き、韓廷及び統監府の為には、官金の出納を為し、商工業の為には銀行一般の業務を取扱ひ、特に日韓の貿易に関しては、本店に無限の資金を有して之れに当れるものなり、然るに一朝にして韓国より引揚ぐる時は、仮令韓国の支店は、債権債務と共に其の店舗及び行員を挙げて韓国中央銀行に引渡すにもせよ、中央銀行の資金は果して第一銀行の如く豊富なるや否や、其行員は重役を更へて果して従前の如く忠勤すべきや否や、世人の信用は果して第一銀行に対する如くなるや否や、韓国に在る我が商人は果して従来受けたるが如き便益を中央銀行より与へらるべきや否や、此等のことを思ふ時は、余輩は私かに此の変革の前途を危まざるを得ず、思ふに統監府は其の便利の為に此の変革を敢行したるも
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のなれば、中央銀行は統監府及び韓延の為めには却て便利なるや知るべからずと雖、韓国に在る我が商人は種々の点に於て不便不利を感ぜざるべからず、特に日韓の貿易には大影響大打撃を免がるべからざるべきなり
韓国にも特殊銀行としては、九個の農工銀行あり、普通銀行としては漢城銀行・韓一銀行・天一銀行ありと雖、其の資本金は農工銀行全体にて五十八万余円、普通銀行全体にて百五・六十万円に過ぎず、内地に於ける金融機関にして、外国貿易の機関たらず、外国貿易は殆ど全く第一銀行・第十八銀行及び第五十八銀行の韓国支店に依りて弁ぜらるるの景況なり、今試みに此の三銀行が明治四十年に於て、各地へ向けたる為替金額と、各地より受けたる金額とを見るに、左の如し
      各地へ向けたる分

         日本         韓国         外国        合計
                 円          円         円          円
 第一銀行   三三、四二〇、〇七二 三二、八七三、六一七 二、五三三、九四四 六八、八二七、六三四
 第十八銀行   九、五一四、四四一  四、五五〇、六七二   二六七、二五〇 一四、三五九、三六〇
 第五十八銀行  六、六四二、六七六  五、〇九八、四三四   三二一、八〇〇 一二、〇六二、九一一

      各地より受けたる分

         日本         韓国         外国        合計
                 円          円         円          円
 第一銀行   三二、二七一、二五六 四〇、〇七一、七九四 一、四一四、五三一 七三、七五七、五八〇
 第十八銀行   七、三一九、〇四〇  四、五九七、四三五   三五〇、七二一 一二、二六七、一九六
 第五十八銀行  五、九六四、七七二  四、五八五、五〇八   二四一、八六二 一〇、七九二、一四〇

是れ此の三銀行の韓国支店が、並為替手形・電信為替・割引手形・荷為替手形、及び代金取立手形を日本・韓国及び外国の各地へ向けて発し又其の各地より受けたる金額を示すものにして、第一銀行の支店は六・七千万円宛、第十八銀行の支店は一千二・三百万円宛、第五十八銀行の支店は一千一・二百万円宛を取扱ひたるものにして、之に依りて外国貿易も韓国内地の商業も営まれたるものならずや、然るに第一銀行の韓国支店が一朝にして韓国を引揚ぐるに於ては、其の影響の大なるものあるべきや敢て疑を要せざるべし
韓国中央銀行の設立は、統監政治の一大失敗を証するものなりと雖、既に決定したる以上は致方なし、要は唯第一銀行支店韓国引揚の為に及ぼすべき影響をして、成るべく寡少ならしむるの方法を講ずるに在るのみ、第一銀行が多年苦心経営して占めたる利益を韓国中央銀行に収めらるゝに際し、一言半句の抗議も反対もせずして、統監の希望を容れ、其の要求に応じたるは、頭取渋沢男爵の偉大なることを証するものにして、男爵が異議を唱へざるものは、要するに国家的の観念に重きを置きて、銀行の利益をば忍び得べきの範囲に於て国家の為に喜献したるものなり、夫れ既に然り、故に韓国支店を引揚ぐるに際しても、日韓の経済的関係特に外国貿易の消長を顧慮せられて、甚しき影響を与へざることに注意せられんこと余輩の切望に堪へざる所なり