デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正2年7月24日（1913年）

是日栄一、東京銀行集会所ニ於テ開カレタル、当行第三十四期定時株主総会ニ出席シテ議事ヲ司宰シ、資本金一千七十五万円ヲ二千百五十万円ニ増資ノ件ヲ議決ス。次イデ十月二十一日、同所ニ於テ臨時株主総会開カレ、栄一、新株募集ノ経過ニツキ報告ス。

竜門雑誌　　第三〇三号・第五三頁大正二年八月
○第一銀行総会　第一銀行に於ては七月二十四日午後一時より、坂本町銀行集会所に於て定時株主総会を開きたり、青淵先生会長席に着き当期営業概況の報告あり、次で諸計算書及左記利益分配案共に、満場一致を以て原案通り可決し、更に臨時総会《（マヽ）》に移り、資本増加及び之に伴ふ定款変更の件を附議せしに、是れ亦異議なく可決し、監査役任期満了の件は、会長指名にて土岐僙・尾高次郎両氏重任せり、当期の利益配当案は左の如し
○下略

株式会社第一銀行第三十四期　自大正二年一月一日至大正二年六月三十日　営業報告書
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　第三―四頁刊
　　　　営業景況
例ニヨリ当半季金融ノ概況ト、当銀行営業ノ大体ヲ叙述センニ、旧臘末金融一時異常ノ逼迫ヲ来シ、兌換券ノ発行高未曾有ノ巨額ニ上リタルモ、越年後資金ノ回収順調ニ行ハレ、加フルニ当時政論沸騰シテ、政界ノ前途予測スヘカラサルモノアリタルヲ以テ、商工業ハ一般ニ手控トナリ、旧暦節季ニ際シ多少資金ノ移動ヲ見タルノ外、概シテ金融ハ緩慢ノ状態ヲ保テリ、二月下旬山本内閣成立シ、政争玆ニ一段落ヲ告ケタルモ、新内閣ノ政綱カ行政財政ノ整理緊縮ヲ標榜シタルカ為メ経済界ニ著シキ活気ヲ呈セシムルニ至ラス、三月ニ至リテ東拓社債弐千万円、短期外債参千万円ノ成立ヲ見、次テ乙号五分利公債、旧韓国事業公債参千万円ノ償還アリ、更ラニ大蔵省証券弐千万円、鉄道証券参千万円ノ借替、並ニ一部現金償還アルヤ、金融ハ一層ノ緩慢ヲ来シ資金潤沢シ金利低下シ、新ニ発行サレタル大蔵省証券及鉄道証券ノ如キ、数日間ニ全部売切レヲ見ルノ盛況ヲ呈セリ、然レトモ右ハ全ク一時的ノ現象ニ止マリ、此機ヲ利用シテ各種社債ノ募集、株式ノ払込等続々行ハレタルト、夏物仕入資金ノ需用期ニ入リタルトニヨリ、金融ハ次第ニ引締リノ傾向ヲ生シタリ、四月ニ至リテ第二回外債七千七百
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万円ノ成立アリタルモ、同時ニ政府ハ金融調節ノ目的ヲ以テ、朝鮮事業費国庫債券参千万円ノ募集ヲナシタルカ為メ、貨幣市場ニ少シモ影響ヲ与フルニ至ラス、尋テ製糸・製茶資金ノ需用起ルニ及ンテ、金融ハ益繁忙トナリ、季末ニ至リ此等ノ需用ハ、半季決済資金ノ要求ト相待ツテ、更ラニ一層ノ緊縮ヲ来シ、六月三十日鉄道証券弐千五百万円ノ償還アリタルモ、既発大蔵省証券ニ乗換ユルモノ殆ント稀レニシテ七月一日ニ繰越サレタル日本銀行帳尻ハ、兌換券発行高参億七千万円制限外発行高参千百万円ノ巨額ヲ示セリ
当銀行ハ此間ニ在リテハ、新ニ長府・札幌ノ二支店ヲ設置シテ、更ニ業務ノ拡張ヲ謀リ、一方預金ノ吸集ヲ勉ムルト共ニ、他方貸金ノ性質ヲ選択シ、資金ノ運用ニ注意ヲ怠ラサリシカ為メ、今春大阪支店ニ於ケル行員不正事件ニ基ク損失ヲ塡補シテ、尚別表○略ス示スカ如ク金九拾九万円余ノ純益ヲ挙ケ、之ヲ株主各位ニ報告スルコトヲ得タルハ、当任者ノ幸トスル所ナリ

第三十四期定時株主総会決議録　　　　　　　（株式会社第一銀行所蔵）
　　　　第三十四期定時株主総会決議録
大正弐年七月弐拾四日午後一時三十分、当銀行定時株主総会ヲ東京市日本橋区阪本町東京銀行集会所ニ開ク、株主総数弐千四百弐拾四名、此株数弐拾壱万五千株之内出席株主百弐拾九名、此株数弐万六千七百弐拾六株、委任状ヲ以テ代理ヲ委托シタルモノ千参百九拾四名、此株数拾参万壱千参百九株、合計株主千五百弐拾参名、此株数拾五万八千参拾五株ナリ
渋沢頭取議長席ニ就キ、大正弐年上半季金融ノ概況ト当銀行営業ノ大体ヲ叙述セラレ、次テ当総会ノ目的事項タル左記諸件ニ付、順次承認又ハ決議ヲ求メラル
一、第三十四期貸借対照表及損益計算書承認之件
　　土岐監査役之ガ正確ヲ保証セラレ、一同異議ナク之ヲ承認ス
一、利益金分配ノ件
　　議長ハ文書課長ヲシテ左記原案ヲ朗読セシメ、之ガ決議ヲ求メラレタルニ、満場一致之ヲ可決ス
　　　　　　利益金分配案
　一金九拾九万六拾八円五拾八銭　　　　　　当半季純益金
　一金六拾六万参千百参拾九円四銭　　　　　前半季繰越金
　合計金百六拾五万参千弐百七円六拾弐銭
　　　内
　　一金四万九千五百円　　　　　　　　役員賞与及行員恩給基金
　　一金四拾万円　　　　　　　　　　　積立金
　　一金五拾参万七千五百円　　　　　　配当金壱株ニ付金弐円五拾銭即年壱割
　　一金六拾六万六千弐百七円六拾弐銭　後半季繰越金
一、資本金増加ノ件
　議長ハ文書課長ヲシテ、資本金増加額及資本金増加ノ方法、並ニ手続ニ付左記原案ヲ朗読セシメ、之ガ決議ヲ求メラレタルニ、一同異議ナク之ヲ可決ス
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　第一、当銀行ノ現在資本金ハ壱千七拾五万円ノ処、更ニ壱千七拾五万円ヲ増加シ、資本金総額ヲ弐千百五拾万円トナスコト
　第二、資本金増加ノ方法及手続
　　一、新株式壱株ノ金額ハ五拾円トシ、其総株数ヲ弐拾壱万五千株トナスコト
　　二、新株式ハ来ル七月三十一日現在ノ株主ニ対シ、其所有株壱株ニ付壱株ノ割合ヲ以テ配当スルコト
　　三、新株申込期日ハ来ル八月二十日限リトナスコト
　　四、前号期日迄ニ申込証ノ送付ナキトキハ、新株式ノ引受ヲ望マサルモノト見做シ、新株式取得ノ権利ヲ失フコト
　　五、第壱回払込金ハ壱株ニ付拾弐円五拾銭トシ、別ニ証拠金ヲ徴収セサルコト
　　六、第壱回払込期日ハ来ル九月五日限リトナスコト
　　七、引受ナキ株式、申込ノ取消サレタル株式及前号期日迄ニ第壱回払込ヲナサヽル株式ノ処分ハ、取締役ニ一任スル事
　　八、第二回以後ノ払込金及其期日ハ、取締役会ノ決議ニ一任スルコト
時ニ株主三宅弁次郎氏立テ
一、新株式第二回以後ノ払込額及時期ニ関スル重役ノ見込如何
一、増資後ノ配当率ニ関スル重役ノ見込如何
ノ二点ニ付、質問セラレタルニ、議長ハ
一、新株式第二回以後ノ払込額及時期ハ、今後ノ金融状況ノ如何ニヨリ決スベキコトニ属シ、到底今ヨリ之ヲ予測スルコトヲ得ズ、此等ニ関シテハ、総テ取締役会ノ臨機ノ処置ニ一任セラレンコトヲ望ム
二、増資後ノ配当率ハ増資後ノ利益額如何ニヨルモノニシテ、之レ亦予測スルコトヲ得ズト雖、目下ノ状態ニテハ従前ノ配当率タル一割ヲ持続スルコトハ難カラザルベシト思ハル、尚今後共多少利益ノ増加アリタレバトテ、直チニ増配当ヲ行フコトナク、可成之ヲ積立金其他ニ充分《（マヽ）》、出来得ル限リ銀行ノ基礎ノ強固ヲ謀ルニ勉メタキノ希望ヲ有ス
一、定款第三条・第六条及第廿五条改正ノ件
　　議長ハ文書課長ヲシテ、左記原案ヲ朗読セシメントシタルニ、株主秋山長次郎氏ノ発議ニヨリ之ヲ略シ、満場一致原案ヲ可決ス
　　第一、定款第三条中「壱千七十五万円」トアルヲ「弐千百五拾万円」ニ改ムルコト
　　第二、定款第六条中「弐拾壱万五千株」トアルヲ「四拾参万株」ニ改ムルコト
　　第三、定款第弐拾五条中「百分ノ五、役員賞与金」ノ次ニ「百分ノ二、行員恩給及退職給与基金」ヲ加フルコト
一、監査役任期満了ニ付改選ノ件
　議長ハ監査役土岐僙・尾高次郎二氏任期満了シタルニ付、之カ改選アリタキ旨ヲ計ラレタルニ、株主秋山長次郎氏ノ発議ニヨリ投票ヲ省略シ、満場一致ヲ以テ右両氏ノ重任ニ決ス
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右総会ノ決議ヲ録シ、左ニ署名調印スルモノ也
　　大正弐年七月弐拾四日
　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　取締役頭取　男爵渋沢栄一印
　　　　　　　　　　　取締役　　　男爵三井八郎次郎(印)
　　　　　　　　　　　取締役　　　　　佐々木勇之助印
　　　　　　　　　　　取締役　　　　　熊谷辰太郎(印)
　　　　　　　　　　　取締役　　　　　日下義雄印
　　　　　　　　　　　取締役　　　　　佐々木慎思郎印
　　　　　　　　　　　監査役　　　　　土岐僙印
　　　　　　　　　　　監査役　　　　　尾高次郎(印)

竜門雑誌　　第三〇六号・第五六頁大正二年一一月
○第一銀行臨時総会　第一銀行は十月二十一日午後一時より、東京銀行集会所に於て臨時株主総会を開きたり、頭取青淵先生会長席に就き本年七月総会の決議に基き、同行資本金千七十五万円を倍加して二千百五十万円とし、九月五日限一株に付き十二円五十銭、総額二百六十八万七千五百円払込は滞りなく結了せるを以て、爰に之を報告する旨を述べ、次いで監査役の報告あり、満場一致之を承認して直ちに散会せる由。

臨時株主総会決議録　　　　　　　　　（株式会社第一銀行所蔵）
　　　　臨時株主総会決議録
大正弐年拾月弐拾壱日午後一時四拾五分ヨリ、当銀行臨時株主総会ヲ東京市日本橋区阪本町東京銀行集会所ニ開ク、株主総数弐千四百六拾五名、此株数四拾参万株ノ内出席株主弐拾六名、此株数参万参千五百八拾四株、委任状ヲ以テ代理ヲ委托シタルモノ千弐百参名、此株数弐拾弐万五千七百五拾六株、合計株主千弐百弐拾九名、此株数弐拾五万九千参百四拾株ナリ
渋沢頭取議長席ニ就キ、新株ノ募集ニ関スル事務ノ経過ヲ報告シ、次テ土岐監査役ハ
一、新株総数弐拾壱万五千株ノ引受アリタルコト
二、各新株ニ付金拾弐円五拾銭宛ノ払込アリタル事ニ付、報告ヲナシタルニ一同之ヲ承認ス
右総会ノ決議ヲ録シ、左ニ署名調印スルモノ也
　　大正弐年拾月弐拾壱日
　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　取締役頭取　男爵渋沢栄一印
　　　　　　　　　　　　取締役　　　男爵三井八郎次郎(印)
　　　　　　　　　　　　取締役　　　　　佐々木勇之助印
　　　　　　　　　　　　取締役　　　　　熊谷辰太郎(印)
　　　　　　　　　　　　取締役　　　　　日下義雄印
　　　　　　　　　　　　取締役　　　　　佐々木慎思郎印
　　　　　　　　　　　　監査役　　　　　土岐僙印
 - 第50巻 p.83 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　監査役　　　　　尾高次郎(印)