デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正3年7月23日（1914年）

是日栄一、東京銀行集会所ニ於テ開カレタル、当行第三十六期定時株主総会ニ出席シ、議事ヲ司宰ス。

竜門雑誌　　第三一五号・第七六―七七頁大正三年八月
○第一銀行総会　第一銀行は七月二十三日午後二時、銀行集会所に定時株主総会開会、青淵先生会長席に着きて当期営業概況を報告○中略
次で諸計算書及び左記配当案○略スは満場一致可決し、又取締役青淵先生・三井八郎次郎・佐々木勇之助・熊谷辰太郎・日下義雄諸氏任期満了に付改選を行ひ、何れも再選重任となり、午後二時半散会せり○下略

株式会社第一銀行第三十六期自大正三年一月一日至大正三年六月卅日営業報告書
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　第二―四頁刊
　　　　営業景況
例ニヨリ当半季金融ノ概況ト、当銀行営業ノ大体ヲ叙述センニ、当季ノ初メニ当リテハ、前年末ニ放出サレタル資金ノ回収順調ニ行ハレタルノミナラス、欧米ノ金融緩和シテ、各国ノ中央銀行金利ノ引下ヲ発表シタルニヨリ、政治界並ニ経済界ハ頗ル平穏ナルヘシト予想セラレタルニ、不図第三十一回帝国議会ニ於テ海軍収賄ノ事実暴露シ、政論為メニ沸騰シテ、遂ニ予算ノ不成立ヲ来シ、山本内閣ハ責ヲ負テ総辞職ヲナスニ至リ、而モ後継内閣ハ容易ニ成立セス、政界ノ前途転タ暗澹タリキ、斯ノ如キ政治上ノ変動ハ自然経済界ニモ其影響ヲ及シ、新規ノ事業ハ何レモ手控トナリテ資金ノ需要起ラス、諸商品ノ売行亦一般ニ渋滞シテ、独リ生糸ノ売レ行ニ好況ヲ呈シタル外、綿糸・織物・
 - 第50巻 p.86 -ページ画像 
砂糖・肥料等皆不況ニ陥リ、殊ニ鉄物類ハ価格ノ低落甚シク、当業者ノ破産シタルモノ続出セリ、加フルニ春来米価ノ下落ハ地方農民ノ購買力ヲ減少シ、一般経済界ノ不景気ヲ助長シタルコト少ナカラサリキ是レヨリ先キ政府ハ国庫剰余金ヲ以テ大蔵省証券ノ回収ニ力メ、期限毎ニ現金償還ヲ行ヒタルカ為メ、本年二月ニハ全ク其跡ヲ絶ツニ至リ銀行業者ハ投資ノ好目的物ヲ失ヒタルノミナラス、同月英貨弐百五拾万磅ノ短期鉄道外債成立シ、次テ三月臨時事件公債壱千万円ノ償還セラルルアリ、此等ノ事情ハ前記ノ商況ト相俟テ、金融ノ緩漫トナリ、金利ノ低落トナリテ、一部ノ銀行ハ頗ル苦境ニ沈淪セリ、此際畏クモ昭憲皇太后崩御ノ事アリ、国民ノ哀悼甚シク市場ノ人気一層衰頽ノ状ヲ呈セリ、幾何モナク大隈内閣成立シ、政界ハ聊カ生気ヲ見ルニ至リシモ、新内閣ノ政綱カ消極非募債主義ヲ標榜シタルカ為メ、経済界ニ活気ヲ生スルヲ得ス、銀行業者モ亦容易ニ警戒ヲ解カサリシヲ以テ、資金ノ融通円滑ナラサリキ、其後棉花輸入及夏物仕入資金ノ需要期ニ入リテハ金融次第ニ引締リ、五月特別五分利公債壱千万円ノ償還アリタルモ金融緩和ノ効ナク、製糸資金ノ需要起ルニ及テ一層ノ繁忙ヲ来シ、季末ニ至リテハ半季決済資金ノ為メニ、金融更ニ緊縮ノ度ヲ増シ七月一日ニ繰越サレタル日本銀行帳尻ニヨレハ、兌換券ノ制限外発行高弐千百万円ヲ示スニ至レリ
当銀行ハ此間ニ処シ、常ニ慎重ノ注意ヲ以テ業務ノ経営ニ力メタルニヨリ、別表○略ス示スカ如ク百拾九万参千余円ノ純益ヲ挙クルコトヲ得タルハ、之ヲ前季ニ比スレハ多少成績ノ劣ルアルモ、上半季トシテハ寧ロ良好ノ結果トシテ、株主諸君ニ対シテ祝福セサルヲ得ス

第三十六期定時株主総会決議録　　　　　　　（株式会社第一銀行所蔵）
　　　　第三十六期定時株主総会決議録
大正三年七月廿三日午後二時、当銀行定時株主総会ヲ東京市日本橋区阪本町東京銀行集会所ニ開ク、株主総数弐千七百拾九名、此株数四拾参万株ノ内出席株主百参拾弐名、此株数四万弐千四百九株、委任状ヲ以テ代理ヲ委托シタルモノ千参百七拾五名、此株数弐拾参万九千六百参拾七株、合計株主千五百七名、此株数弐拾八万弐千四拾六株ナリ
頭取渋沢栄一議長席ニ就キ、大正三年上半季金融ノ概況ト当銀行営業ノ要項トヲ叙述シ、次テ第三十六期貸借対照表及損益計算書ノ承認ヲ求メタルニ、一同異議ナク之ヲ承認ス、仍テ更ニ文書課長ヲシテ左記利益分配案ヲ朗読セシメテ、其決議ヲ求メタルニ、満場一致原案ヲ可決ス
　　　　　　利益金分配案
一金百拾九万参千六百五拾円七拾四銭　　　　当半季純益金
一金六拾八万七百四拾六円　　　　　　　　　前半季繰越金
合計金百八拾七万四千参百九拾六円七拾四銭
　　内
　一金五万九千六百八拾円　　　　　　　役員賞与金
　一金弐万参千八百七拾円　　　　　　　行員恩給及退職給与基金
　一金四拾万円　　　　　　　　　　　　積立金
 - 第50巻 p.87 -ページ画像 
　一金五拾参万七千五百円　　　　　　　旧株配当金壱株ニ付金弐円五十銭即年壱割
　一金拾参万四千参百七拾五円　　　　　新株配当金壱株ニ付金六拾弐銭五厘即年壱割
　一金七拾壱万八千九百七拾壱円七拾四銭
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　後半季繰越金
右終ルヤ、議長ハ取締役渋沢栄一・三井八郎次郎・佐々木勇之助・熊谷辰太郎・日下義雄任期満了ニ付、改選ヲ行フベキ旨ヲ述ベタルニ、株主中総テ重任ヲ希望スル旨ヲ発議スルモノアリ、一同之ニ賛成シタルヲ以テ、投票ヲ省略シテ全部重任ニ決ス
右総会ノ決議ヲ録シ、左ニ署名調印スルモノ也
　　大正参年七月弐拾参日
　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　取締役頭取　男爵渋沢栄一印
　　　　　　　　　　　　取締役　　　男爵三井八郎次郎(印)
　　　　　　　　　　　　取締役　　　　　佐々木勇之助印
　　　　　　　　　　　　取締役　　　　　熊谷辰太郎(印)
　　　　　　　　　　　　取締役　　　　　日下義雄印
　　　　　　　　　　　　取締役　　　　　佐々木慎思郎印
　　　　　　　　　　　　監査役　　　　　土岐僙印
　　　　　　　　　　　　監査役　　　　　尾高次郎(印)