デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
5款 社団法人東京銀行集会所 東京銀行倶楽部
■綱文

第50巻 p.542-544(DK500128k) ページ画像

大正4年9月23日(1915年)

是日、帝国ホテルニ於テ大蔵大臣武富時敏・菅原次官・加藤参政官ヲ招待シテ、銀行倶楽部第百十七回晩餐会ヲ開カル。栄一出席シテ演説ヲナス。


■資料

銀行通信録 第六〇巻第三六〇号・第八六頁大正四年一〇月 ○録事 銀行倶楽部晩餐会(DK500128k-0001)
第50巻 p.542 ページ画像

銀行通信録  第六〇巻第三六〇号・第八六頁大正四年一〇月
 ○録事
    ○銀行倶楽部晩餐会
銀行倶楽部にては九月二十三日午後六時より、帝国ホテルに於て第百十七回会員晩餐会を開き、武富蔵相・菅原次官及加藤参政官を招待し食後早川委員長の挨拶に引続き来賓武富蔵相の演説あり、終りて一同歓談の上午後九時散会せり


銀行通信録 第六〇巻第三六〇号・第二九―三〇頁大正四年一〇月 銀行倶楽部晩餐会演説(大正四年九月二十三日帝国ホテルに於て) 渋沢男爵の演説(DK500128k-0002)
第50巻 p.542-544 ページ画像

銀行通信録  第六〇巻第三六〇号・第二九―三〇頁大正四年一〇月
  銀行倶楽部晩餐会演説
          (大正四年九月二十三日帝国ホテルに於て)
○上略
    ○渋沢男爵の演説
大蔵大臣閣下及参政官・次官閣下、今夕の倶楽部晩餐会には、吾々に最も密接の、又営業上に深い関係を有する閣下の尊来を乞ひ得ましたのは、私共会員として深く委員長の御心配を謝し上げます
唯今、武富大蔵大臣より時局に対する事柄のみならず、現内閣の財政経済に対する御方針を充分に条理整然と御説明を戴き、且つ其中には適切なる問題、例へば在外正貨のこと、又内にある正貨のこと、此正
 - 第50巻 p.543 -ページ画像 
貨の持続は、外に債務を起してやると云ふ主義は宜しくない、其悪いことは必ず行はぬことに指定し厳に此趣意を履行して居る、恰も好し爾来の成績は財政状態に一層の安固を来したと云ふことを数字を挙げて御説明下さいました、又現在の此都会の金融の緩慢に対する現況から見て、現に海外に在る所の鉄道公債の借替を、内に集めて外に返すと云ふ方針が、或は適当であらうかと考へると云ふことまで、其御胸中にある所の御思案を斯る会合の席に御示を戴いたのは、豊川君の所謂金融調節は業に既に玆に意味されて居ると申しても宜からうかと考へるのでございます、而して其末段に、此欧羅巴の戦乱は或る方面には大に困難を与へたこともあるけれども、或る方面には利益を与へたことが尠なからぬと思はねばならぬ、又是は利益を与へしむるやうに吾々が努めねばならぬ故に、其悪く来る影響は努めて之を避け、利用すべき事柄は此機に乗じて飽までも捉へ、財政の局に当る自分等と民間金融の枢軸に居る者共と、倶に相提携して財政経済の進運と鞏固とを図りたいものだと云ふ懇切の御趣意は、洵に御尤千万と感じます、けれども現大蔵大臣の御方針は前大臣の御方針と変つたことは無いと云ふ御沙汰として見ますると、一言申上げたいと思ひます、吾々は若槻前蔵相の時分此時局に際する初めに、多分交換所の会合でございましたと思ひます、池田君の司会で此帝国「ホテル」で御会合を願つた時に、私は大蔵大臣に一口に申せば愚痴の如きことを申上げたのでございます、其時の思入は此戦乱の影響が善い方よりは悪い方が余程多いと感じたのでございます、後に善い方の影響が来るとは未だ認め得られぬために、悪い方を見る目が最も急であつたやうに考へます、殊に私共別して愚痴若くは残念と感じのは、此内閣は総理が財政経済にに有名な大隈伯爵で大蔵大臣が若槻君で、総て所謂御黒人を以て組立られて居る、従来の内閣時代に於て、日露戦役の帝国財政経済の少しく権衝を失つた歩調を、是非整理して緊縮すると云ふことが、此内閣に於て完全に遂げ得るであらうと思ふた、其期待は水泡に帰して戦争のために今日は二個師団の増設に対し、金融業者が苦情を云ふことすらも出来ぬやうになつた、但し兵備を満足にするを悪いとはしませぬけれども、より先に此生産的施設に急なるものゝあることは、共にお考へ下さらなければなるまいと思ふ、税制の整理が完全に出来たと申せぬでありませう、行政整理の緊縮が充分に行届いたとは申せぬでありませう、日露戦後の経済は或る一方には大に進んだやうでありますけれども、少し装飾的に進んで真実なる経済が増大したとは言へぬやうである、業に既に之を見破つた内閣が之を完全に整理しやうと約されたにも拘らず、事変勃発のために其事が遂げ得られぬ、其遂げられぬ内閣に、吾々苦情も申せぬと云ふ次第に至りました、蓋し吾々の経済界は始終廻り合せの悪ひものと思ひますが、併し唯憂のみを以て終るものではなからう、必ず其間に又吾々の勉強もありませう、局に当る方々の注意もございませう、其善良の注意と充分な勤勉に依つて、或は禍も転じて福と為し得ますから、況や左までの禍の無いことを之を善くせしむることは難いことではなからうと思ひます、此戦争のために充分乗ずべき機会を捉へ得べきことも必ずあらうと思ひますので
 - 第50巻 p.544 -ページ画像 
玆に至てはどうぞ官たり民たるを問はず、真に力を協せて、其処に立至りたいと思ひます、と云ふが如き愚痴を申上げたことを今尚記憶して居ります、唯今武富新大臣は此当局に対する善い事悪い事の弁別をお示し下され、殊に財政上に就いて具体的にお示を戴きましたことは洵に有難うございます、さりながら私は変に処しては左様であるけれども、常の事をもお考へ下さるとしたならば、前大臣に申述べた愚痴を、やはり当大臣にも申述べ置かざるを得ぬやうに思ひます、但し平時と云ふのが必要で唯変に処して宜しきを制するのみが事を処する完全の道とは申上げられぬのであります、況や今色々お申述の中に、或は私の聴漏しかも知れませぬが、御説明を得ませぬので、尚ほ御注意を乞ひたいと思ひますのは、此官業と民業との関係であります、従来私などは官業が悪くすると民業を圧迫する、是は努めて御注意を乞ひたいと云ふことは、各内閣を貫いて申上げて居つたのであります、幸に其事に就ては当内閣では、それそれの御調査もあつた趣には承知致しますが、風の便りのみで未だ其実は見えぬやうであります、私の近眼若くは近頃耳の遠いためか、どうも未だ拝承するの機会に接しませぬ、斯の如く在外の正貨の事柄なり、或は此金融調節の事柄なり、具体的に御示が戴ける程でありますから、更にそれらの点も、此次、又は其次に拝承し得る機会の到来することを期待致すのであります、今夕は洵に御懇切の御示を下すつて深く感謝致します、それは飽までも喜びますが、併し是で総て満足とは申上げ得られませぬことを一言陳情致度、御礼のやうなり不足のやうなり、甚だ趣意の曖昧の事を申上げる次第でございます(笑)
此機会に私は会員諸君に一言申上げますことは、私は来月チヨツと旅行を致します、其前に月初から九州の方へ参つて、それから引返して直ぐ亜米利加に二月ばかり旅行を致します、暫く御目に懸りませぬから、序ながら此席に於て御暇乞を致します(拍手)