デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2017.12.19

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

1章 金融
4節 保険
1款 東洋生命保険株式会社
■綱文

第51巻 p.290-293(DK510078k) ページ画像

大正15年2月2日(1926年)

是日栄一、当会社社長木村雄次ノ来訪ニ接シ、当会社ノ近況ヲ聞ク。


■資料

渋沢栄一 日記 大正一五年(DK510078k-0001)
第51巻 p.290 ページ画像

渋沢栄一 日記  大正一五年       (渋沢子爵家所蔵)
二月二日 快晴 寒
午前七時過起床入浴朝飧ヲ畢リ、東洋生命保険会社長木村雄次氏ノ来訪ニ接シ、会社ノ状況ヲ縷述シ報告書ヲ示サレテ要点ヲ説明ス○下略


東洋生命保険会社関係(DK510078k-0002)
第51巻 p.290-293 ページ画像

東洋生命保険会社関係           (渋沢子爵家所蔵)
          (栄一鉛筆)
          本書ハ一昨日木村社長王子邸ニ来訪セラレ各項目ニ付テ逐一説明セラレタルモ、保険事業ニ知識経験少キヨリ明確ニ了解シ得サル点アルニ付、渡辺氏出
 - 第51巻 p.291 -ページ画像 
勤次第詳細ニ調査シテ完備ノ説明ヲ要スルナリ
            十五年二月三日 栄一
敬啓
時下厳寒の候に御座候処老子爵閣下には益々御建勝、相変らず壮夫を凌ぐ御意気にて邦家民生の為御尽瘁被遊候段唯々感歎の外無之、殊ニ本年元朝拝賀の節は、不肖及び社員数輩へ忍耐・努力・至誠を尽して社運の挽回興隆の為め奮闘せよとの難有御訓戒を下し置かれ、一同感激拳々服膺御厚志の万分の一を報し度固く覚悟罷在候
扨て不肖義大正十一年七月東洋生命経営の御委託を蒙りてより、既に年を閲すること四度満三ケ年余と相成候得共、未だ御所期に添ふ程の成績も無之慚愧至極の義に候、幸に大正十四年度の決算にて当社の整理事業、即ち消極的方面にては先づ先づ大体一段落と相成りしやにも被存候間、不肖就任以来の社況の概略を申述候間、御繁用中誠に恐縮の義に御座候へ共御劉覧被下、何かと御鑑戒を下し置かれ候ハヾ独り不肖の幸のみに御座なくと奉存候
 偖て当社の契約高は不肖就任の際は一億三百万円程有之候得共、其の内には事実上保険料収入無之もの多額に有之候ニ付、社会に対する会社の体面より申せば甚た面白からぬ義とは存し候得共、先づ最初に之れを整理して九千二百万円と致し候処、次年度には不肖の力足らず恢復順潮に参らざりし折柄、不幸大震災に会し、死亡と解約比較的多く、乍遺憾八千八百万円まで更に減少致し候、十三年度よりは徐々回復して、十四年度末には九千五百万円程計上致すことゝ相成候、これを他の良会社に比し尚甚だしく遜色有之候は、何とも赧顔の至りに御座候
 現在契約高は右様の次第にて一時可なり減少仕り候得共、保険料収入は十一年度の三百九十万円より本年度の四百三十九万円まで累次増加仕候、右は要するに現在契約より失効契約を正確に除去致し候為めと、保険料高き契約は自然解約も少き事に着眼して、新契約は成るべく高き保険料のものを募集するの方針に出でたる為めかとも被存候
 保険金支払高は大正十一年度百二十万円(内満期十万円)なりしも翌年度は震災の為め百四十万円(内満期十一万円)に上り、十三年度百三十万円(内満期十二万円)、十四年度は百四十万円(内満期十七万円)に達し申候
 かく保険金支払額か大体年を追うて増加致し候は、満期支払か逐年増加する為めと、以前の如く保険金の支払請求に対して保険約款を楯として会社より彼是苦情を申立てず、成るべく速に支払を致す為めかと被存候得共、大正十三年度より早期死亡は漸次減少して、正当なる死差益は漸増致し居り候次第ニ付、此点は何卒御懸念なき様希上候
 解約返還金は大正十一年度に於て十三万円なりしもの、爾後毎年増加して三十万円に相成申候、これは引続く不景気の為めか、生命保険界一般の傾向に有之候得共、殊に当社に於ては現在契約中に尚ほ過去の無理募集のたゝりも残り居候処へ、失効の期限至りて約款によれば会社が解約返還金を没収し得らるべきものへ、特に当方より督促せし
 - 第51巻 p.292 -ページ画像 
為めも有之候
 右にて現在契約高保険料収入保険金並解約返還金支払等に就て大要を申述べし次第にて、其の間責任準備金は大正十一年度の千百五万円より漸次増加して、大正十四年度は千六百九十二万円に達し、諸利息収入は大正十一年度の七十万円より大正十四年度の百十六万円に至り大略責任準金の七分八厘の利廻りと相成り、諸利息の収入の改善増収が自然全体の利益増進の源泉と相成りし次第に御座候
 尚ほ当社の資産状態に就ては段々御心労の趣を拝察し、不肖も衷心憂慮措くこと能はず、就任以来一意先づその改善に肝胆を摧き、佐々木相談役殿の厚き御配慮と御指導の下に着々実行の歩武を進め、本年度末に至り、漸く資産状態を世間に公表致し候ても差支なき程度に達せし次第にて、東洋電気・千代田ゴム・南洋殖産等の株式債権、其他の有価証券の値下り、代理店に対する滞貸、未収保険料として資産に計上せられて実際未収に終りしもの、又翌年度翌年度と繰越し支払ひたる経費、其他の滞貸等を償却し、尚ほ回収困難の虞ありし貸付金ハ十四年度末にて略回収を了り候て、不肖就任以来の償却高は凡そ百十万円と相成申候
 偖て大正十四年度の決算は近く株主各位へ通知可致筈の、別紙○略ス貸借対照表及び損益計算書の如くに御座候得共、御査閲の御便宜にもと其の概要を摘記仕候、乃ち昨年度の収入は保険料四百三十九万円、諸利息百十六万円、其他合計五百五十七万円程と相成り候て、支出は保険金解約返還金其他の諸項にて百九十七万円程、別に事業費百二十三万円及び責任準備金其他約二百十九万円程有之、合計五百四十万円許にて、これを前記の収入より差引くときは十七万円程の純益と相成都合に有之候得共、別に償却未済の財産及び有価証券の評価損二十二万円を計上するを要し候為め、これが補塡として財産売却益十三万円及び有価証券評価益四十四万円有之候内十六万円程計上し、之れを以て前記の償却にあて、其の余を利益に加へて二十五万円程の純益を計上仕候、されば保険業本来の利益のみにて株主配当率は以前通り維持致し得べく候へども、乍遺憾有価証券評価益を計上せざるに於ては、到底契約者配当金を前年と同率に維持し難き為め、不已得此処置に出でたる段何とも汗顔の至りに御座候
 尚ほ事業費は百二十三万円にて、昨年度に比し減少致し居り候得共該年度の新契約高千五百万円に対しては聊か多きに失し候は不肖も充分承知致し居り候得共、事業費中には代理店手数料等削減致し難きものも有之、此上節約の余地甚だ少きのみならず、昨年度に於ては多少将来の進展に資する為め各般の新施設を致し、或は各支店支部の緊密なる統制に、或は社員教育に、或は医務の革正に、或は月掛保険・ビジネス保険の新領域開拓に従事致させ候為め、これ等新施設に投ぜし経費か、直に十四年度内に生産的なるを得さりしも亦其一理由に御座候、されば経費を之れ以上節約致し候ては消極退嬰に堕するの虞有之候ニ付、来年度は主として之等新施設の経済的運用により、多少積極的経営に移らざるを得ざる順序と相成申候
 尚ほ利益金処分に就ては、株主再配当金に於て五千円を増加し、配
 - 第51巻 p.293 -ページ画像 
当率を現在の一割一分より一割二分となすことは容易の事に御座候へ共、生命保険業の本質に鑑み株主配当を契約者配当に先んじて増加するは不穏当の嫌有之、旁々近時主務省には生命保険会社配当制限の意向も有之やにて、且つ契約者の配当金は十四万六千余円に上り候得共依然として既収保険料の元利合計に対し五厘の低率にて、他の有力会社に比し甚だしく低率にて競争上常に不利の立場に罷在候間、株主配当率を前年と同率に止め、一万一千余円は次年度へ繰越し申候
 要するに不肖は就任以来先づ何よりも内務事務を整理し、会社の社会に於ける信用を確立して、それより徐ろに新契約の増加を計らんと志し候為め、昨年度の如き恰も其の過渡期に当り候際は、内務の組織のみ徒らに大にして、新契約の生産に従事すべき外務の組織は小に失するの観を呈し候得共、これより内務の整理完了と共に整理に要せし費用・人員は移して外務に用ゐらるべく、且つ外務社員の教育も幾分目鼻もつきかけ候ニ付、当年幸ひに多少景気の恢復を見るを得ば、幾分積極的効果を生ずべきやに愚考被致候、若し幸に此の計画成就致候はゞ先づ先づ東洋生命の前途は安固なるべくと被存候
 以上は甚だ粗枝大葉に候へ共不肖就任以来の社業推移の状況に御座候、尚御不審の節も御座あらせられ候はゞ御下問に応じ逐一不肖より御説明申上度、愈々御加餐御健闘の程希上候 敬具
               東洋生命保険株式会社
                   社長 木村雄次
                         再拝
    子爵渋沢栄一殿
          閣下