デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

1章 金融
4節 保険
9款 関東大震災火災保険金支払問題
■綱文

第51巻 p.325-336(DK510090k) ページ画像

大正12年10月4日(1923年)

是ヨリ先栄一、内務大臣後藤新平・大蔵大臣井上準之助ニ面会シテ、関東大震火災罹災者ニ対スル火災保険金支払問題ニツキ意見ヲ述ブ。是日栄一、個人ノ資格ヲ以テ、農商務省ニ農商務大臣田健治郎ヲ訪ヒ、政府ニ於テ具体案ヲ示スベキヲ要請ス。


■資料

白石喜太郎手記 大正一二年(DK510090k-0001)
第51巻 p.325 ページ画像

白石喜太郎手記  大正一二年         (白石喜義氏所蔵)
九月八日
午前九時半渋沢子爵出動、白石随行
○中略 首相官邸ニ到リ、後藤内相ニ面会シ○中略 且保険金問題ノ概略ヲ内話セラレ、次ニ大蔵大臣ニ面会シ、保険問題ニ関スル子爵ノ見込、即
  保険金ハ支払ハネバナラヌ、然シ支払フト云フコトニナレバ勝手ノコトヲ云フコトトナル、故ニ政府モ補助スルカ保険会社モ捐《(損)》ヲスル、又被保険者モ捐《(損)》ヲスルコトヽシ其程度ハ熟慮ヲ要ス、云々
ト内話セラレ、大臣モ至極同意ノ旨披攊《(瀝)》セラル
○下略
  ○中略。
九月十四日
午前十時飛鳥山邸ヲ出動、白石随行○中略 首相官邸ニ井上蔵相ヲ訪問シ保険金問題其他ニ付懇談シタル後、東京商業会議所ノ大震災善後会ニ列席ス○下略


火災保険支払ニ関スル書類(DK510090k-0002)
第51巻 p.325-326 ページ画像

火災保険支払ニ関スル書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    火災保険ニ関スル決議
今回ノ震災並ニ火災ハ実ニ未曾有ノ惨事ニシテ、其ノ損害又真ニ空前ノ巨額ニ達ス、今ヤ我ガ東京市民ハ此ノ一大災危ニ遭遇シ、而モ帝都ノ復興ニ全力ヲ傾注シツヽアリト雖モ、之カ為メニハ巨額ノ資金ヲ要シ、之ガ融通ヲ図ルコト刻下最大ノ急務ナリ
就中、火災保険金ノ支払ハ帝都復興ノ上ニ極メテ重要ナル関係ヲ有シ若シ其ノ支払ヲ受クルコト能ハズバ、独リ被保険者ハ其ノ損失ヲ償フコト能ハズ非常ニ困難ナル境遇ニ陥ルノミナラズ、延イテハ金融業者ハ勿論、一般商工業者モ亦救フコト能ハザル難境ニ沈淪シ、一般財界ヲ攪乱シテ甚大ナル悪影響ヲ及ボシ、大震災後人心ノ安定ヲシテ不可能ナラシメ、終ニハ帝都ノ復興ニ一大障害ヲ発生スルノ虞アリ、而シテ火災保険金支払ノ方法ニ関シテハ、先ヅ各保険会社ヲシテ資力ノ許ス限リヲ提供セシメ、政府ハ之ニ援助ヲ与ヘ罹災被保険者ノ救済ニ努ムベキハ勿論ナリト雖モ、具体案トシテハ(一)、保険ヲ官営トスル件、
 - 第51巻 p.326 -ページ画像 
(二)、政府ハ各保険会社ノ支払フコト能ハサル部分ニ対シ、相当ノ金額ヲ罹災被保険者ニ給付スル件、(三)、新ニ官民合同ノ再保険会社ヲ設立シ、其ノ社債ノ発行ニ因リテ罹災保険金全額ノ支払ヲ完済シ、併セテ従来再保険ノ大部分ヲ外国保険会社ニ委ネタルノ欠陥ヲ補足スルノ件ハ、既ニ各方面ニ於テ提唱セラレタル所ニ係リ、吾人モ亦同感ヲ表スル所ナリ、而シテ更ニ吾人ノ最モ適切ニシテ条理一貫スト信スル所ノモノハ、世界大戦後各国ニ行ハレツヽアル国債整理ノ趣旨ニ基キ、左記ノ方法ヲ執ラレンコトヲ望ム
一、火災保険金ヲ支払フガ為メ官民合同ノ新保険会社ヲ組織シ、其ノ出資ノ割合ハ政府十分ノ六、民間十分ノ四トスルコト
  但シ火災保険会社ニ対シテハ株式ヲ以テ買収シ、政府ハ公債ヲ以テ株式ヲ引受ルコト
一、新保険会社ハ今般大震災ニ依リテ蒙リタル損害ニ対シ、保険金ノ支払ヲナスコト
  之カ支払ノ方法ハ、新保険会社ニ於テ社債券ヲ発行シ、之ヲ被保険者ニ交附スルコト
一、社債券ハ日本銀行ニ於テ見返リ担保トシテ取扱フコト
一、社債券ハ今後年々生ズル新保険会社ノ利益ヲ以テ、一定年限間ニ之ヲ償却スルコト
右決議ス
  附帯決議
一、保険ヲ附セザル罹災者ニ対シ、此際政府ハ低利資金ヲ融通シ若クハ住宅ヲ建築シテ之ヲ貸与スルコト
以上
  大正十二年九月 日
                   東京商業会議所


報知新聞 大正一二年九月二六日 到底出来ない相談と保険会社依然強硬 自発的に犠牲的支払は望まれぬ(DK510090k-0003)
第51巻 p.326-327 ページ画像

報知新聞  大正一二年九月二六日
  到底出来ない相談と
    保険会社依然強硬
      自発的に犠牲的支払は望まれぬ
火災保険の問題は今や単なる経済問題たるのみならず、政治問題たると同時に社会問題となり、大震災善後会に於ても、府市両議会に於ても、はたまた政府部内に於てもこれが中心問題となつてゐる、而していづれに於ても
 何等の成案 なく如何ともすべき術を知らないでゐる、現に大震災善後会の委員会では、火災保険業者は法律上の義務の有無に拘はらず資力の許す限りを提供して罹災被保険者に支払ふことを決議してゐるけれども、果して火災保険業者が応諾するや否やは疑問である、要は保険業者の態度如何であるが、火災保険協会は依然支払不能を固持して動かない、其理由とするところは(一)火災保険業は保険業法によつて営業し来つたもので、定款以外の震災に応ぜなければならぬ準備も考慮もなかつたのであるから、この非常の際とはいへ、法律で定められた以外の事件に犠牲を払ふことは、会社を亡ぼすより外はない、
 - 第51巻 p.327 -ページ画像 
(二)関東の大震災のため火災保険が義務以外の犠牲を払つて
 会社を滅亡 せしめたら、関東在住以外の保険契約者並に外国に対してなせる再保険の信用を如何にするか、大震災の罹災被保険者のみに犠牲を払ひさへすれば、会社が滅亡して他の信用が破滅するも差支なしとするならば、今後の日本経済界には信用制度が認められぬことになる、(三)かりに火災保険業者が滅亡するも、震災の救済さへすれば可なりとすることが正当なりとするも、保険会社の資産現状では到底支払に応じ得るものではないといふのである、尤も火災保険業者の中でも東京海上火災の如く資産が潤沢であり、且つ海上保険を主として火災保険契約は割合に少い会社にあつては、定款を無視して犠牲的な挙に出でられるものもあるから、この際火災保険協会といふが如き保険業者の団体に一致した行動をとらしめず
 個々自由に させたら、二・三社は相当応急策を講じ得るものと見られる、しかしかくの如く危急に当つて、にはかに二・三流会社を無視するが如きは保険会社相互の関係を断絶せしめ、延いては一流会社それ自身にも危険が伴ふ事であり、かたがた政府当局に於ても火災保険業者に個々自由の行動をとらしむることを好まないらしい、事情右の如くであつて、保険業者としては自発的に犠牲的支払をするといふが如きことはあるまいと観測される


火災保険支払ニ関スル書類(DK510090k-0004)
第51巻 p.327 ページ画像

火災保険支払ニ関スル書類       (渋沢子爵家所蔵)
    決議
火災保険金全額請求ハ吾人ノ権利ナリ、帝都ノ興廃ハ其成否ニ関ス吾人ハ死力ヲ尽シ以テ目的ノ貫徹ヲ期ス
  大正十二年十月四日
               東京全市火災保険契約者各町総代会


中外商業新報 第一三四九四号 大正一二年一〇月五日 渋沢子 火保問題に就て田農相と会見(DK510090k-0005)
第51巻 p.327 ページ画像

中外商業新報  第一三四九四号 大正一二年一〇月五日
  渋沢子
    火保問題に就て
      田農相と会見
震災善後会副会長渋沢栄一子は、個人の資格を以て四日午前十一時農商務省に田農相を訪問、罹災者の窮状を縷述し
 火災保険会社が出来る丈けの犠牲を払ひ相当多額の金額を支払はざるときは、被保険者側は資金難に陥り、産業の復興帝都の復興は至難だから、政府は此際徒に保険協会側の提案を俟たず、積極的に具体案を提示、解決を促進する事としては如何
と諮つたが、之に対し田農相は
 保険金問題は一般産業問題と密接な関係があるが、会社と被保険者間には約款があるから、如何に監督官庁でも具体案を作成、命令的に支払を強制する事は出来ない、然し当局は本問題に就ては深甚の考慮を払ひ、何分の措置に出で度ひと思つて居る
と答弁し、渋沢子は之を諒として同十一時半辞去した

 - 第51巻 p.328 -ページ画像 

(渡辺得男)書翰 渋沢栄一宛大正一二年一〇月一一日(DK510090k-0006)
第51巻 p.328 ページ画像

(渡辺得男)書翰  渋沢栄一宛大正一二年一〇月一一日
                     (渋沢子爵家所蔵)
拝啓
過刻御申付けの和田氏起案の火災保険官営ニ関する建議案ニ対する卑見、別紙ニ記載御高覧ニ供し申候、保険殊ニ火災保険ニ関し何等の智識なき小生の卑見固より採るニ足らず御恥かしく存じ候も、御下命有之候儘書き列ね申候次第ニ御座候、御一覧を辱ふし候事すら恐縮ニ不堪候
不取敢要用のみ得尊慮申度如此ニ御座候 敬具
  大正十二年十月十一日
                         得男
    渋沢子爵閣下
(別紙)
    和田豊治氏提案火災保険官営
    ニ関スル建議案ニ対スル卑見
和田氏立案ニ係ル火災保険官営論ハ、現下ノ重要問題タル震災ニ基ク火災保険金支払問題ヲ実際的ニ解決シ、進ンデ地震国タル我国ニ於テ地震@基ク火災モ之ヲ保険スルノ主義ヲ根本的ニ確立スル上ニ於テ、頗ル適切穏健ナル意見ニシテ、其立案ノ基調ニ対シテハ全然同感ニシテ、同氏ノ卓見ニ対シ深甚ノ敬意ヲ表スルモノナリ、只一・二ノ点ニツキ多少ノ疑義ナキニシモ非ズ、固ヨリ火災保険ニ対シ知ル所少ナキヲ以@予ノ疑義ハ全然杞憂ナルカ、若クハ問題トナスニ足ラザルモノナルヤモ知ルベカラズ、予モ亦其然ルヲ希望スルモノナリ
即チ
 第一、該案ニヨレバ地震ニ依ル火災ニ基ク損害ヲ補償スルタメニ、従来ノ平均保険料金五円四拾銭(保険金壱千円ニツキ)ニ附加保険料五割即チ金弐円七拾銭ヲ加算シ、八円拾銭トナルヲ八円トシテ計算シ、現在日本全土ノ契約高ヲ七拾億ト定メ、初年度ニ於テ此額ノ契約アルモノトシ、爾後毎年五分増ト想定シアルモ、関東地方ニ於テコソ此高率ノ保険料ヲモ寧ロ喜ンデ支払ヒコソスレ、比較的地震ノ憂少ナキ地方ニ於テ而カモ数年ノ後ニ於テモ尚従前ノ如ク契約シ、年々五分ノ増加ヲ見ルヲ得ベキカ多少ノ懸念ナキ能ハズ
 第二、事業費ハ十五ケ年ヲ通ジテ収入保険料ノ壱割トシテ計上シアルモ、事業ノ進展ニ伴ヒ該費目ハ必ラズシモ同率ニテ増加スルニ非ルベシ、即チ契約高ノ増加ニ伴ヒ収入保険料モ従ツテ増加スルモ、之ニ対スル事業費ハ右ト同率ニ増加セザルニ非ズヤ
 第三、火災保険会社ニ対スル補償金壱億円ハ果タシテ適当ノ額ナリヤ研究ノ要アルベシ
        以上
                    渡辺得男(印)


火災保険善後ニ関スル諸意見(DK510090k-0007)
第51巻 p.328-336 ページ画像

火災保険善後ニ関スル諸意見        (渋沢子爵家所蔵)

 - 第51巻 p.329 -ページ画像 
  大正十二年十月二十七日
   火災保険金支払ニ関スル諸意見概要

    火災保険問題ニ対スル意見書ノ概要
 第一、伊東米治郎氏所説
 第二、渡辺種樹氏同上
 第三、坂本嘉治馬氏同上
 第四、原錦吾氏同上
 第五、柴崎雪次郎氏同上
 第六、瀬尾時憲氏同上
 第七、加藤定吉氏同上
 第八、和田豊治氏同上
 第九、野沢源次郎氏同上
 第十、田中不二雄氏同上

    所説ノ区分
一、官営説    伊東米治郎氏・加藤定吉氏・和田豊治氏・野沢源次郎氏
二、官民合同説  瀬尾時憲氏
三、公債ヲ発行シテ被保険人ニ貸付スベシトノ説 柴崎雪次郎氏・田中不二雄氏・渡辺種樹氏
四、極力保険会社ニ支払ハシムベシトノ説 坂本嘉治馬氏
五、会社ノ資力ニ応ジテ支払フベシトノ説 原錦吾氏

    火災保険問題ニ対スル意見書概要
第一、伊東米治郎氏所説
 火災保険金問題ノ解決如何ハ啻ニ当面ノ帝都復興ニ大関《(係脱)》ヲ有スルノミナラズ、国家永遠ノ大計ヨリ見ルモ決シテ之ヲ軽視スルヲ許サズ、保険会社ヲシテ全損害ヲ塡補セシムベシトセバ勢ヒ保険料ハ高率ナラザルベカラズ、為メニ実行困難ナルベク、保険普及ノ趣旨ニモ反ス、而カモ一方地震ハ何時突発スルヤモ知レズ、加之航空機発達ノ将来ヲ思ヘバ戦時其破壊力頗ル大ナルベシ、以上ノ諸点ヲ考慮シテ国有民営説ヲ提唱ス
 即チ現在ノ火災及海上両保険会社ヲ全部国家ニ於テ買収シ、其経営ヲ在来ノ民間営業者ニ委セントスルニ在リ、即チ政府ニ於テ火災損害総額ノ二割又ハ三割ヲ塡補スル方針ヲ以テ、当該保険会社ノ現資産ヲ買収スルト同時ニ、被害者ニ交付スルタメ保険公債ヲ発行シ、自今政府管理ノ下ニ実際方面ノ智識経験ヲ網羅スル一組織ヲ作リテ専ラ事業ヲ担任セシメ、営業振ヲ民業化セントスルヲ旨トス
 以上ノ如クセバ保険会社相互間ノ競争ヲ省キ経費ノ節約ヲ見ルノミナラズ、株主配当ヲ要セザル故ニ今後毎年営業上ノ利益ヲ以テ漸次前記公債ヲ償還シ得ベシ
 - 第51巻 p.330 -ページ画像 
第二、渡辺種樹氏所説
 帝都ノ復興スルト否トハ一ニ懸リテ保険金支払ノ有無及ビ其高ナリ保険会社モ区々法理ノ末節ニ拘泥セズ、一方道義上若クハ将来ノ営業政策上幾分ノ支払ヲナスベキモノナリ、其支払方法トシテハ、各保険会社ガ見舞金トシテ保険金額ノ五分乃至二割ヲ支払ヒ、其見舞金ヲ合算シテ保険金額ノ五割以上ヲ被保険者ニ貸与シテ建築資金ニ充当セシム、此資金ハ政府ガ公債ヲ発行シテ保険会社ヲ補助ス、一方被保険者ハ其貸与金額ニ相当スル建築ヲナシ、其金額以上ノ保険契約ヲナシ、尚借入金ハ保険率ノ二倍、若クハ三倍ニ公債利子ヲ附加(註此意味不明)シテ逐次返済ニ、保険会社ハ其収入金ヲ以テ公債ノ支払ニ充ツ
第三、坂本嘉治馬氏所説
 帝都ノ復興ハ帝国ノ復興ナリ、帝都ノ復興ハ要スルニ居住ノ安定ヲ得ルヲ第一トス、罹災戸数三十万ノ中十五万戸ハ市ノ公民ニシテ市ノ中堅ナリ、此等ノ人々ヲ奮起セシムル唯一ノ良策ハ保険金ノ支払ナリ生命保険ハ支払ハレ火災保険ガ支払ハレザルハ奇怪ナル事ニシテ、多年片務的ニ多大ノ保険料ヲ支払ヒタル契約者ガ保険金ヲ支払ハレザルハ、一般社会観念上又条理上奇怪ナリ、今日ハ非常ノ時ナリ、法律論ニノミ囚ハルベキニ非ズ、各保険会社ハ資力ノ許ス限リ支払ヲナスベシ、或ハ曰ハク、右ノ要求ニ応ゼムカ保険会社ハ破産ノ外ナシト、然カレトモ翻ツテ考フルニ、株主ハ多額ノ配当ヲ受ケ重役社員モ莫大ノ賞与金ヲ受ケ、隠然銀行ヲ圧迫シ経済界ヲ左右シツヽアル保険会社ハ破産セザル程度ニ於テ五・六年間ハ無配当ヲ覚悟シ、出来得ル限リ支払フベキモノナリ、況ンヤ今回ノ火災ノ原因ハ必ラズシモ地震ニ基クモノニ非ルニ於テヲヤ
 保険会社ガ保険金ヲ支払フト云フ声ノミニテモ多大ノ活力ヲ市民ニ与フベク、会社ノ将来ハ却ツテ隆昌ナルベシ
 保険金ノ支払ハ家屋什器ヲ先キニシ、全部ヲ一時ニ支払ヒ、営業商品ニ対スルモノハ年賦其他ノ方法ニヨルベシ、政府ハ一大英断ヲ以テ其幾分ヲ補助スベシ
 天災ノ如キ巨額ノ損失塡補ノ為メニ、将来ハ保険ハ官営ニナスヲ可トス
第四、原錦吾氏所説
 我国ノ如キ地震国ニ於テハ、震災ニ基ク直接間接ノ火災損害延焼其他ノ損害ニ対シテ、何程ノ保険料ヲ受取ルベキカ統計的数字ノ計算立タザルヲ以テ、震災ニ基因スル損害ハ塡補セザル事トシ、普通ノ火災ニ基ク損害ニ対シテノミ保険料ヲ徴収スルコトトナシ、約款ニ明記シ居レリ、桑港ノ地震ノ際ハ地震ニ基ク直接ノ火災損害ハ之ヲ負担スト規定シタル会社アリ、又何トモ規定セザル会社アリ、為メニ問題ヲ生ジテ終ニ支払フ事トナリ、基礎強固ナル会社ハ支払ヲ了シ、薄弱ナルモノハ倒産セリ、此以来外国ニ於テ明文ヲ以テ地震ニ基ク火災其他ノ損害ハ一切塡補セザル事トナレリ
 保険会社全体ヨリ見レバ災害地ハ東京府・神奈川県ノ一局部ニ過ギズ、万一保険会社ノ立場ヲ危カラシムル事ニ立至ラバ、国家経済上重大ナル問題ナル故ニ、保険金ノ支払ハ不可能ナリ
 - 第51巻 p.331 -ページ画像 
 只今回ノ事ハ真ニ未曾有ノ出来事ナル故ニ、政府ノ指導若クハ援助ニヨリ、各保険会社ノ立場ヲ危殆ナラシメザル程度ニ於テ、各会社ノ資力ニ応ジテ剰余金ヲ提供シ、可及的救済ヲナシ円満ニ局ヲ結ブヲ希望ス
 大正十一年三月三十一日現在ニ於テ、四十五ノ内地会社ガ東京・神奈川ニ於ケル総契約高ハ十四億五千六百万円余ニシテ、全国契約高四十九億余円ノ弐割九分ニ当リ、今回ノ震災ニヨリ東京・神奈川ニ於ケル罹災ハ平均七割ト見テ十一億弐千万円ナリ、之レニ対シ保険会社ノ資産ハ一億一千七百余万円ニシテ、今回焼失シタル会社ノ建物・什器所有々価証券ノ値下リ等ヲ控除スルトキハ一億円内外トナルベシ
第五、柴崎雪次郎氏
 震災ニヨル火災其他ノ損害ニ対シ、保険金支払ノ義務アルヤ否ヤハ法理上議論ノ存スル所ナリ、東西保険聯合会ハ一部ノ支払ヲ可決シタルモ、其資力ハ果シテ能ク此尨大ナル損害ヲ塡補シ得ベキカ、政府モ何等カ施設ノ要アルベシ、聯合会ノ決議ニヨルモ只一種ノ涙金ノ性質ニテ出スニ過キズ、到底帝都復興ノ資ニ供シ得ベカラズ、是非共罹災損害金額ニ該当スル金額ヲ補償スルヲ要ス、其方法ハ罹災被保険者ノ損害自塡法ナリ、即チ政府ハ罹災被保険者ノ保証人トナリ「震火災公債」(十億円ヲ三ケ年据置キ十ケ年賦ニテ)ヲ発行シ之ヲ罹災保険契約高ニ応ジ無償ニテ各保険会社ニ貸付ケ、更ラニ保険会社ヲシテ夫々罹災被保険者ニ無償ニ交付セシメ、政府ハ特別ノ法令ヲ発布シ、保険会社ヲシテ一種ノ「シンデイゲート」ヲ組織セシムル事、カクテ罹災者ニ対シ前述ノ公債ヲ担保トシテ、法規ノ割合ニテ現金ニテ貸付ケシム、公債ニ規定シアル利子及年賦償還金ハ、借入者タル罹災被保険人ヲシテ直接其貸付者タル「シンヂゲート」ニ支払ハシムルコト、尚借入者死亡シタルトキハ其相続者ヲシテ返還義務ヲ継承セシム、借入者ハ其借入金ノ中少ナクトモ三分ノ一ニ該当スル金額ニテ家屋ヲ建築シ此家屋ヲ「シンヂゲート」ニ対シ更メテ担保スル事、借入者ニシテ失敗其他ノ事故ニヨリ貸付金ノ返済ヲナス能ハザルモノ生ジ、為メニ生ジタル貸付者ノ損失ニ対シテハ、担保家屋ノ売却代金ヲ以テ補塡シ、尚不足ヲ生ジタル場合ハ政府ハ其損失ノ幾分ヲ「シンヂゲート」ニ負担セシメ、残全部ハ政府ノ負担トス、又「シンヂゲート」ガ担保トシテ受入レタル公債並ニ家屋ヲ、更ラニ第三者タル日本銀行其他ノ援助財団ニ担保トシテ提供シタル場合ニ、最初ノ借入者タル罹災被保険人ガ元利金ノ返済ヲ怠リタルトキハ、政府ハ直接ニ第三者ニ返済シ、後ニ其幾分ヲ「シンヂゲート」ニ請求ス、尚借入者ノ怠慢ヲ取締ルタメ特別ノ法令ヲ設ケテ「シンヂゲート」ヲシテ厳重ニ監督セシム、而シテ「シンヂゲート」ノ資金ヲ潤沢ナラシムルタメ、前記ノ公債及家屋ヲ担保トシ日本銀行其他ノ援助団体ヲシテ「シンヂゲート」ニ貸付ヲナサシム、右ノ方法ト、政府ガ普通ニ公債ヲ発行シ自ラ資金ヲ募集スルト異ナル点ハ
 (イ)政府ハ原則トシテ公債ノ元利償還ノ義務ヲ負ハザルコト
 (ロ)「天災ノ損害ハ之ヲ受ケタルモノ自ラ之ヲ負フ」ノ自明ノ理ニ基キ、元利金ノ支払ハ借入者タル罹災被保険者自身ヲシテ之ニ当ラ
 - 第51巻 p.332 -ページ画像 
シムルコト
 (ハ)保険業者ヲシテ「シンヂケート」ヲ組織セシムル理由ハ、保険業者其モノノ根本主義タル互救互助ノ精神ニ基クモノナリ
 (ニ)日本銀行其他財団ヲシテ援助団ヲ組織セシムルハ、人類生存ノ天則タル共存共栄ノ趣旨ニ依ルモノトス
 (ホ)政府ヲシテ最後ノ保障者タラシムルハ、公債発行者トシテ且国難救済者トシテ当然ノ義務ヲ負ハシムルニ過ギザルコト
等ニシテ、要スルニ「罹災被保険者」「保険会社、並ニ其他ノ財団即チ社会一般」及ビ「政府」ノ三者協力シテ此国難ヲ救フモノト云フベキナリ
 一考スルニ借入者ハ政府ガ最後ノ損失負担者タルニ甘ンジ、元利ノ返却ヲ怠ル事アリ、為メニ政府ノ損失巨額ニ上ルベキガ如シト雖モ、此大難ニ際シ辛ウジテ得タル資金ヲ浪費スルガ如キモノ非ルベク、寧ロ元利返却ノ責アル故ニ努力スベク、而カモ年賦償還ト云フ如キ特典アルヲ以テ返還モ亦サシテ大ナル苦痛ニ非ルニ於テヲヤ、(次ギニ数字ニ基ク説明アリ、省略シタルモ)要スルニ右ノ方法ニヨル時ハ、被保険人ニ対シテ苦痛少ナク利益多ク、「シンヂゲート」側ニ取リテモ相当高率ノ利廻ハリ(八分五厘)ニ当ルヲ以テ有利ノ業トナシ得ベシ
 尚借入者中ニハ事業失敗等ノ為メ返却不能ノ者ヲ生スベキヲ以テ、特別ノ法令ヲ出シテ貸付者ニ厳重ナル監督権ヲ附与スベク、然カレバ貸倒レハ実際少ナカルベシ、仮ニ之アルモ三分ノ一ニ該当スル家屋ヲ担保トスル故ニ、之ヲ売却セバ其貸倒レハ補償シ得ベク、結局政府ハ単ニ貸付人ニ対シ保証人タル地位ニ立ツニ止マリ、何等ノ損失ナクシテ今次ノ震火災ニ依ル損害問題ヲ完全ニ解決スルヲ得ベシ
 最後ニ此十億ノ公債発行ガ財界ニ及ボス影響ヲ考フルニ、之レヨリ得タル罹災保険人ノ資金ハ家屋ノ建築其他ノ生産事業ニ漸次使用セラルヽヲ以テ、一時貸出シタル資金モ須臾ナラズシテ銀行ニ復帰スベシ現在日本国内ニ流通シツヽアル兌換券ハ約十四億六千万円ナル故ニ、一時十億円ノ公債ヲ発行スルモ実際ノ取引ニハ不足ヲ感ゼザルベシ、万一不足ヲ感ゼバ現行制度ノ保証準備額タル一億二千万円ヲ拡張シテ三億万円位トセバ可ナルベシ
第六、瀬尾時憲氏所説
 火災保険会社ハ地震ニヨル損害ニ対シテ、全然保険金支払ノ義務ナク、又支払不能ナル所以ヲ説キ、最後ニ自己ノ提案ヲ述ベタリ、即チ桑港ノ前例ニヨリ、保険金ヲ支払ヘトノ説ハ事実ヲ誤リ、法律上支払ノ義務アリトノ説ハ不合理ニシテ、情誼上支払フベシト云フ主張ハ、実ハ情誼論ニ非ズシテ強暴論ナリ、債権者ノ破産者ニ対スルガ如キ態度ナリ、全額支払論ノ如キハ数字ヲ無視セル暴論ナリト断ジ、尚保険学上ヨリ保険会社ガ今回ノ震災ニ対シテ保険金支払ノ義務ナク、又支払ノ能力ナキ理由ヲ力説シタリ
 次ギニ商業会議所案タル官民合同ノ一新再保険会社ヲ組織スベシトノ案ニ、大体ニ於テ賛意ヲ表シ、啻該案ガ数字ヲ示サヾル欠点アルヲ述ベ、次ニ大日本聯合保険協会ノ案ニ就テハ、実行頗ル困離ナルノミナラズ、我国ノ保険会社ノ資力衰ヘ、外国会社ノ乗ズル所ナル所以ヲ
 - 第51巻 p.333 -ページ画像 
説キ反対セリ
 氏ノ提案ハ
一、官民合同ノ新再保険会社ヲ設立スル事
一、資本金ヲ一億万円トシ、政府ガ八千万円、現在ノ元受会社ガ弐千万円ノ出資ヲナス事
一、元受会社ノ出資方法ハ、一千万円ハ各保険会社ノ払込資本金ニテ按分シ、残リ一千万円ハ資本金以外ノ積立金ノ按分ニテ支出セシムルコト
一、新再保険会社ハ現在ノ日本ノ再保険会社(十一社ニテ払込資本金九百四十弐万円也)ヲ買取リ、其ノ権利義務ヲ継承スル事
一、新再保険会社ニハ、日本内地ニ営業スル元受保険会社ノ再保険ヲ全部引受ケシムル権限ヲ与フル事
一、新保険会社ニハ、今般大震災ニ因リテ蒙リタル損害ニ対シ、其ノ二割ニ相当スル保険金ノ支払ヲナサシムル事
一、之ガ支払ノ方法ハ保険会社ニ於テ年四分利付ノ社債券ヲ発行シ、被保険者ニ之ヲ交付スル事
一、社債券ハ日本銀行ニ於テ見返担保トシテ取扱ヒ、其価格ヲ維持スル事
一、社債券ハ、今後年々ニ生ズル再保険会社ノ利益ヲ以テ、一定年限(約三十ケ年)ニ之ヲ償却スル事
 尚付帯条項トシテ左ノ件々ヲ実行セシムル事
一、現在ノ協定率ニ対シ平均三割ノ料率ノ引上ヲナス事
一、元受会社ヲシテ料率引上ニ依ル増収保険料ノ全部ヲ、社債償却資金トシテ新再保険会社ニ提供セシムル事
一、外国保険会社ノ供託金ヲ増加シテ、日本ノ火災保険会社ヲ保護スル事
ニシテ、其収支計算ハ収入合計金五千四百万円ニシテ支出合計金弐千三百八拾万円、差引金参千弐拾万円ノ利益ヲ見ルベク、今回ノ損害総額ヲ約十五億万円程度トシ、其三割ヲ支払フトスレバ約四億五千万円ニシテ、之ヲ社債券ニテ渡ストスレバ、社債ノ利子ヲ年四分トシ三十ケ年賦償却トセバ、其ノ年賦金ハ金弐千六百弐万参千五百四拾五円トナルト説明セリ
 而シテ前記新再保険会社ノ設立並ニ附帯条項ノ実行ニ依ツテ得ル利益ハ
一、外国火災保険会社ヲ駆逐シ、火災保険ノ自給自足ヲ計ル事ヲ得
二、協定料率ノ維持及其値上及値下ヲ制御シ得
三、営業費ノ節約ヲナスコトヲ得
四、元受会社ニ完全ナル再保険会社ヲ供給シ、保険事業ノ発達ヲ促進ス
五、保険事業ノ自給自足ハ国防上ノ見地ヨリ見テ必要ナリ
 即チ此制度ハ共栄共存ノ主旨ニ添ヒ、従来無意味ニ外国ヘ流出シタル遺利ヲ救済ノ資源トナス、故ニ彼ノ被保険者ノ主張スル如ク、保険会社ヲ倒ス必要ナク、又保険会社ノ案ノ如ク、政府ニ多大ノ迷惑ヲ掛ケ而モ被保険者ノ不満ヲ招クノ憂ナク、又政府当局ノ苦心スル被保険
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者以外ノ罹災者トノ救済ノ均衡問題モ起ラズ、又保険会社間ニ犠牲額ノ負担割合ニ対スル紛擾モ避ケ得ベシト論ゼリ
第七、加藤定吉氏所説
 保険会社ノ支払能力ハ頗ル微弱ナリ、故ニ本問題ノ解決ハ官営保険ノ迅速断行ニアリ、買収価格ノ決定、事務ノ引継ギ等ニツキ多少ノ困難伴フベキモ、断ジテ行ヘバ可能ナリ、保険ハ元来官営ニナスベキモノ、殊ニ火災保険ニ於テシカリ、尚我国ノ如キ地震国ニシテ之ニ基ク損害ガ保険セラレザルハ一大欠点ナレトモ、現在ノ民間火災保険会社ニ望ムハ不可能ナリ
 大正十年保険会社ノ収支計算ニヨルニ、収入ハ支出ヲ超過スル事壱千四百万円(収入合計一億一千五百万円支出合計一億百万円)ナリ、支出中営業費ハ約弐千四百万円ナレトモ、官営トスレバ五割即チ一千弐百万円ニテ足ルベク、一方震災ニヨル損害ヲ賠償スルタメニ、保険料率千分ノ六ヲ二割増ノ千分ノ七・二トナストキハ約千六百万円ヲ得前述ノ営業費節約千二百万円ト合シテ弐千八百万円ヲ得ベシ、他ノ収入増加ヲ二百万円トセバ優ニ三千万円ヲ得ベク、従ツテ五分利公債六億円ノ発行可能ナリ、其元金償却ハ保険契約ノ増加ニ伴ヒ利益増大シ優ニ元金償却ヲ行ヒ得ベキノミナラズ、保険料率ノ引上ゲモ可能トナルベシ
 六億円ハ実際損害額ニ対シテ三割位分配シ得ベシ
第八、和田豊治氏所説
 火災保険金支払問題ハ今ヤ朝野ノ一大案件トナリ、之ガ解決如何ハ帝都復興ノ上ニ深甚ノ関係ヲ有ス、会社ハ支払ノ誠意ヲ欠ケルニ非ズ然カレトモ資力少ナク、且ツ各会社ノ資力ニ非常ナル懸隔アリテ、到底平等ニ支払ヲナス事能ハズ、会社ヲ助ケンカ被保険者救ハレズ、被保険者ヲ救ハンカ保険会社倒レントシ、進退両難ニ陥リ事態容易ナラズ、尚地震国タル我国ニ於テハ、将来ハ地震ノ為メニ起リタル火災モ之ヲ保険スルノ主義ヲ根本的ニ確立ノ要アリ、之ガ為ニハ保険ヲ官営トシ、一定ノ期間一定ノ料率ヲ励行シテ其基礎ヲ鞏固ニシ、以テ万一ノ場合ニ応ズルノ準備ヲ整フベシ、殊ニ当面ノ保険金支払問題モ、官営ノ断行ニヨリ比較的有利ニ之ガ解決ノ望ナキニ非ズ、其ノ大体ノ目論見ハ、十五ケ年満期四分利公債四億円ヲ政府ニ於テ発行シ、内参億円ヲ被保険人ニ交付セシメ、残余ノ壱億円ハ保険会社ニ対シ、将来ノ営業権ヲ取得スル賠償、並ニ今後数年ニ渉リテ清算事務ヲ行フ補償トシテ之ヲ交付スルモノトス
 現在火災保険契約高ヲ七拾億円ト定メ、保険料ハ保険金千円ニツキ平均五円四拾銭、之ニ震災ニ依ル附加保険料五割、即チ弐円七拾銭ヲ加ヘテ八円十銭トナルヲ八円トシテ計算ス、其他契約高・保険料・保険金・事業費ハ毎年前年度ニ比シ五分増トシテ計算スレバ、収支差引剰余金ヲ減債基金ニ繰込メバ、十五年度ノ終ハリニ於テ減債基金四億八千六百万円ヲ得テ、公債元利ヲ償還シ得ルニ至ルベシ、而シテ官営ノ有利ナル理由ハ
一、民営ト異ナリ資本金ニ制限ナキヲ以テ、非常ノ時ニ於テ絶大ノ支払能力ヲ有シ、且自由競争ノ弊無キヲ以テ其基礎鞏固ナルヲ得テ、
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人心ノ信頼ヲ繋グニ足ル
二、官営ハ営利ヲ主トセズ、故ニ将来保険ヨリ生ズル利益増殖スル時ハ社会政策上料率ヲ低下シ得ル便アリ
三、被保険者ハ一割説実行ノ場合ヨリモ多額ノ金員ヲ得
四、民営ヲ続ケ、而カモ各社ニ巨額ナル保険金ノ支払ヲナサシメンカ二・三有力ナル会社ノ外或ハ倒産スベク、然ラザルモ基礎薄弱トナリ世ノ信頼ヲ繋グニ足ラズ、外国保険会社ニ侵略セラルヽ虞多シ
第九、野沢源次郎氏所説
 現今日本ノ火災保険会社ノ契約高ニ比シ、其支払能力ノ貧弱ナルコトヲ考慮スル時ハ実ニ寒心ニ堪エザルモノアリ、国民ノ財産ノ保証ハ得テ望ムベカラズ、国家ノ力ヲ以テ国民ノ財産ヲ保険シ、不時ノ災害ニ備フルノ挙ニ出ヅル事最モ肝要ナリ、即チ官営之レナリ
 民間会社ヲ買収ノ方法ハ約二億円ニテ之ヲ行ヒ、被保険者ニハ保険金ノ約一割乃至二割ヲ支払ヒ、残余ハ五ケ年据置無利子公債ヲ交付ス一方民間保険業ノ収益ハ年額約七千万円ナリ、而シテ事業費ニ於テ約三割五分ノ節減ヲ行ヒ二千四百五十万円ヲ得、保険料ヲ三割増加シテ約二千三百万円ヲ得ベク、其他保険業年々ノ拡張ニ依ル増収ヲ見積リ優ニ一億弐千万円ヲ収益トシテ計上シ得ベシ、右公債ハ五ケ年据置後毎年ノ保険料収益一億二千万円ノ中其十分ノ二ヲ利子仕払トシ、残十分ノ八ヲ抽籤ニ依リ年々償却セバ二十ケ年内外ニテ完済スルヲ得ベク然シテ政府ハ別ニ損害ヲ受クル事ナカルベシ
第十、田中不二雄氏(明治大学々生)所説
 今次ノ震災ニヨル損害ニ対シ、火災保険会社ハ保険金支払ノ法律上ノ義務ナキノミナラズ、帝都及ビ横浜ノ為メニ他ノ地方ノ被保険人ヲ犠牲ニナスハ不可ナリ、又財政上ヨリ見ルモ、政府ガ公債ヲ発行スルモ其償還ハ不可能ニシテ、財政ノ基礎ヲ危クスベシ、故ニ政府対会社会社対被保険人ノ三角関係ニヨル貸付方法ヲ以テ最善トスベシ、即チ政府ハ所要ノ金額ヲ内外債ニヨツテ得、会社ニ保険支払相当額ヲ低利ニテ貸与シ、会社ハ之ヲ被保険者ニ貸借関係ニヨリテ、左ノ条件ニヨリテ保険金相当額ヲ支給スル事
一、貸付支給スル金額ハ保険金相当額ナル事
二、貸付金ノ費途ハ必ズ被保険物ノ復旧再建ヲ出デザル事
三、右ニヨリ建築シタル家屋ハ貸付金ノ担保低当物件《(抵)》トシテ保険会社ニ提供シ、会社ハ復興院ニ提供スル事
四、建築物ハ一切監督官庁ノ監査ヲ経ルヲ要ス
五、建築物ハ監督官庁又ハ元ノ保険会社ニ貸付額又ハ其以上ニ火災保険ヲ附スル事
六、其ノ金利ハ政府一分、会社一分、残り三分ヲ被保険者ニ於テ支払フモノトス、但シ建築工事中ハ、会社ハ被保険者ニ代ハリテ支払フ(見舞金ノ意味ニテ)
七、適当ナル償還方法及年収ヲ定メテ償還ヲ容易ナラシム
八、此方法ニヨリテ生ジタル債権債務ハ、適当ノ時期迄据置ク道ヲ講ズル事
九、第一期ハ建設物ニ対スル保険目的物ノミヲ取扱ヒ、第二期事業ト
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シテ建設物以外ノ保険物ニ対スル貸付ヲ適当ノ条件ニテ取扱フ
 以上ノ如クセバ政府ハ貸付額ノ一分利息ヲ補助スルノミテ、建築物ハ全部担保物トシテ存シ、其構造ニツキテモ自由ニ制限・監督シ得ベク、会社ハ僅々一部ノ利息ヲ負担スルノミニテ、保険物件ノ増加ト金額ノ増加ニヨリ保険料ヲ多額ニ収入シ得ル利益アリ、被保険人ハ全然拒否セラレタルモノヲ僅々三分ノ低利ニテ借入ルヽヲ得テ、復活ノ途拓クルノ利益アルベシ

  附記 御命ヲ蒙リ各意見ノ概要ノ記述ヲ試ミタルモ、保険ニ関スル知識ノ乏シキト匆々ノ際ニ筆ヲ執リシ為メ甚ダシク不完全ナルハ恐懼ニ堪エザル所ナリ、切ニ御寛容ヲ奉願上候
  大正十二年十月二十七日         渡辺得男