デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

1章 金融
5節 諸金融機関
1款 復興建築助成株式会社
■綱文

第51巻 p.359-364(DK510095k) ページ画像

大正14年8月8日(1925年)

是ヨリ先、東京市長中村是公、東京市ト復興建築株式会社トノ契約書案ヲ栄一ニ寄セテ意見ヲ徴ス。是日栄一、市長ニ書ヲ送リ、ソノ修正ヲ勧ム。十日、市長栄一ヲ訪ヒテ釈明スル所アリ。


■資料

(中村是公)書翰 渋沢栄一宛大正一四年八月四日(DK510095k-0001)
第51巻 p.359 ページ画像

(中村是公)書翰  渋沢栄一宛大正一四年八月四日(渋沢子爵家所蔵)
                (別筆)
                大正十四年八月四日
                    中村是公氏来状
謹啓
予而御審議を願ひ居候復興建築株式会社契約書案修正案、別紙の通出来上り候ニ付御高覧被下度、不取敢得貴意候 拝具
  大正十四年八月四日
                      中村是公
    渋沢栄一殿
  ○別紙、後掲。


渋沢栄一書翰 控 中村是公宛大正一四年八月八日(DK510095k-0002)
第51巻 p.359-360 ページ画像

渋沢栄一書翰 控  中村是公宛大正一四年八月八日   (渋沢子爵家所蔵)
(朱書)
大正十四年八月八日付中村東京市長宛総長親書
拝啓 爾来賢台益御清適之条奉賀候、老生事宿痾未全愈、強而外出致候時ハ直ニ少々の発熱有之候為め今尚病辱に呻吟罷在候、過日ハ復興建築会社契約書案相添尊翰御恵投、御下問之趣拝承仕候、本件ニ付てハ、其後引続き容易ならさる御高配御努力之趣ハ、井上君又ハ渡辺氏等より承及、御勤労の段恐察仕候、殊に会社重役之推薦もしくは株式引受方法等に付、別而種々の御面倒有之候由、真ニ御苦心之御事と御察申上候のみに御坐候、右様之御尽力にて此契約書案にまて相進候経
 - 第51巻 p.360 -ページ画像 
緯にも頓着せす、老生も亦一之苦情に類する進言致候義ハ実ニ不本意之至ニ候へとも、頃日来別紙契約書案再三熟読の後、何分黙止難致事共有之候間、失敬も顧みす本案中に愚見認入、且委細渡辺得男ニ申含候、何卒御聞上被下度候
要するに貸附金之利率を是非とも年八分ニ引下申度ハ、老生当初よりの宿望にて、其際も縷々陳上いたし候義ニ付、此上尚一段の御尽力懇願仕候、詰り此利率之引下ハ政府貸下金之利率ニ原因致候義にて、政府ニ於て原資御貸下之利率引下を許可せさるは、老生間接なから一言之苦衷陳上仕度奉存候、苟も先般之大震火災に対し、東京市之再興を援助するには、特種之会社を組織せしめ、其貸借関係に拠りて家屋建築之進展を謀るハ当然之処置にして、其原資之御貸下も亦已むを得さる義と存候、果して然らは政府は既に金六千万円之貸下を許可しなから、其利率之低下ハ容捨せすと御主張被成候ハ、世間一般利率之見解に於て、老生之婆心毫も御採用無之様相考へ、別而歎息仕候次第ニ御坐候、右ハ直接政府当局へ陳上致候ハ聊顧慮する所有之候へとも、御職掌上可然御伝達被下、偏に願意貫徹候様御努力之程拝願仕候、将又契約書案逐条に付而も、兎角実業界を見ること単に自己之利益に而已没頭して公益を無視する如く前提して作成したる所謂偏務的之嫌有之本会社組織之趣旨と矛盾致候哉と愚考仕候間、充分御修正被下度候、右拝答旁微衷伏臓なく申上候に付、忌諱ニ触候事又ハ欠礼之行為ハ呉呉も御寛恕被下、此上之御高配奉懇願候 匆々敬具
  大正十四年八月八日
                      渋沢栄一
    中村是公様
        侍史
  ○別紙、次掲。


復興建築会社書類(DK510095k-0003)
第51巻 p.360-363 ページ画像

復興建築会社書類             (渋沢子爵家所蔵)
復興建築会社ノ創設ニ付テハ、中村東京市長ハ本年ノ初ヨリ特ニ余ノ援助ヲ求メラレ、年初ニ湯河原転地先マデ来訪シテ委托ノ事アリシモ爾来種々ノ障碍アリテ成立ニ至ラス、其間井上準之助氏市長ノ委嘱ヲ容レテ斡旋セラレ、漸ク別紙契約書案ヲ作成スルニ至レリトテ、原稿ヲ添ヘテ余ノ意見ヲ諮ハルルニヨリ、別紙逐条中ヘ疑点ヲ挿記シ、別ニ一書ヲ添ヘ、過日渡辺得男ヲ以テ余ノ意見ヲ通シ置キタルニ、本日午前八時半市長ハ自身王子宅ヘ来訪セラレ、逐条詳細ニ弁明セラレ、且利率低下ノ点ハ今日直ニ修正シ得ルノ自信ナキモ、余ノ主旨ニ於テハ全然同意ニ付、此際ノ寛容ヲ請フトノ事ニテ、他ノ各条項ニ付テモ極メテ緻密ニ起草ノ要旨ヲ説明セラレタルニヨリ、余ハ其精神ト努力トニ賛意ヲ表スル旨ヲ答ヘテ、市長携帯ノ書類ヲハ預リ置ク事トセリ
  大正十四年八月十日            渋沢栄一
  ○右ハ栄一自書ノ覚書ナリ。
(別紙、謄写版)
    契約書案
第一条 東京市(以下単ニ市ト称ス)ハ復興建築株式会社(以下単ニ
 - 第51巻 p.361 -ページ画像 
会社ト称ス)ニ対シ、其ノ事業資金ニ充ツル為、以下定ムル所ニ従ヒ金五千万円以内ノ貸附ヲ為スヘシ
(栄一墨書書入レ)
[政府ヨリ市ニ貸付スル金額ハ六千万円ニハアラサルカ、果シテ然ラハ玆ニ五千万円ト定メタル理由如何
(欄外同右)
[千万円ハ横浜市ニ貸附スルモノトス、以下逐条中横浜関係ニテ数字ニ疑問ヲ生スルコトアリタリ
第二条 本貸附金ハ大正十四年度以降ニ於テ、政府カ復興貯蓄債券ノ発行ニ依リテ得ル資金中ヨリ、会社ニ対スル市ノ貸附資金ヲ市ニ融通スル都度、其ノ融通金額ニ応シ之ヲ交付スヘシ、但シ毎回ノ貸附時期ハ市長之ヲ定ム
(栄一墨書書入レ)
[貸借両者間ニテ協定スルヲ相当ト思惟ス
第三条 本貸附金ノ利率ハ市ニ対スル前条政府融通金ノ利率ニ同シ
第四条 本貸附金ハ、政府カ会社ニ対スル市ノ貸附資金ヲ市ニ融通スル為ニ発行スル当該復興貯蓄債券ノ償還期限内ニ於テ、政府カ毎期其ノ復興貯蓄債券ノ償還ニ要スル金額ニ応シ之ヲ返済スヘシ、但シ毎期ノ返済時期ハ市長之ヲ定ム
第五条 会社ハ大正十二年ノ大震火災ニ因ル東京市ノ焼失地区内ニ於ケル建物ノ建築ニ関シテ、左ノ業務ヲ営ムコトヲ要ス
 一、市民ノ申込ヲ受ケ、一定ノ規格ニ依ル建物(構造ハ耐火耐震ニシテ規模ハ街路ニ相応シテ有効ニ利用シ得ル建物)ヲ建築シ、二十年以内ノ返済ニ依ル割賦販売ノ方法ニ依リ之ヲ売却スルコト
 二、前号ノ建物ヲ建築スル者ニ対シ、二十年以内ノ返済ノ方法ニ依リ、建築資金ヲ貸附スルコト
第六条 会社ノ存立期間ハ設立登記ノ日ヨリ五十年トスヘシ
第七条 第五条第一号ノ規定ニ依ル割賦販売金ハ建築実費トス
 前項ノ実費ハ設計費・現場監督費・材料費・工費・請負金其ノ他一切ノ工事費、借地料・登記料、工事中ノ火災保険料、及此等ノ費用ニ対スル建物引渡ノ時ニ至ル迄ノ利息トス、但シ其ノ利息ハ右費用ノ毎月末総額ヲ基礎トシテ之ヲ算出スヘシ
 防火地区建築補助規則ニ依リ会社カ政府ヨリ受クル補助金ハ、前項ノ実費ヨリ之ヲ控除ス
第八条 前条ノ利息、第五条第一号ノ規定ニ依ル割賦販売金ニ対スル利息、及同条第二号ノ規定ニ依ル建築資金ニ対スル利息ハ、年九分ヲ超ユルコトヲ得ス
(栄一墨書書入レ)
[年九分ハ高キニ過ク、是非八分迄ニ低下セラレタシ、之ヲ要スルニ政府貸下金ノ利率ヲ引下クルコトニ請願シテ、一般貸附ノ利率ヲ八分ニ引下ケ得ル様、再応ノ御詮議アリタシ
○中略
第十二条 会社ハ市長カ必要アリト認メ請求スル場合ニ於テハ、前条ノ規定ニ依リ所有権ヲ保留スル第五条第一号ノ建物ニ付キ、市ノ為
 - 第51巻 p.362 -ページ画像 
ニ遅滞ナク抵当権ヲ設定スヘシ
第十三条 会社ハ市長カ必要アリト認メ請求スル場合ニ於テハ、第五条第二号ノ貸附ニ因リ取得スル債権ニ付キ、市ノ為メニ遅滞ナク質権ヲ設定スヘシ
第十四条 会社ハ市長カ必要アリト認メ請求スル場合ニ於テハ、其ノ有スル担保ヲ遅滞ナク市ニ供与シ、且ツ其ノ他ノ財産ヲ市ニ対シテ遅滞ナク担保ニ供スヘシ
○中略
第十七条 第十二条乃至第十四条ノ規定ニ依リ、会社ノ供スル担保ハ市ノ会社ニ対スル債権額ノ十二割ヲ以テ限度トス
(栄一墨書書入レ)
[二割ノ担保額ハ会社ノ株金ヨリ貸附ケタル分ヲ以テ補足スルノ意ナルヤ
第十八条 会社カ毎営業年度ニ於テ年八分ノ割合ニ依ル利益ノ配当ヲ為スコト能ハサルトキハ、市ハ其ノ配当ヲ為スニ必要ナル不足金額ノ六分ノ五ヲ補給ス、但シ会社ニ損失ヲ生シタル場合ニ於テハ、先ツ法定準備金ヲ支出シテ其ノ塡補ニ充当スルコトヲ要ス
(栄一墨書書入レ)
[六分五ト定メタル理由如何、但書会社ノ損失カ準備金ナキ時期ニ於テ生シタル場合ハ如何ニスル歟
第十九条 会社カ毎営業年度ニ於テ年八分ノ割合ニ依ル利益ノ配当ヲ為シ、剰余アルトキハ其ノ剰余額ノ六分ノ五中ヨリ前条ノ規定ニ依ル従前ノ補給金ヲ市ニ対シテ補償シ、尚剰余アルトキハ其ノ剰余カ払込資本金額ニ対シ年四分ノ割合ニ当ル金額ニ達スル迄ハ、市ニ其ノ剰余額ノ十二分ノ五ヲ納付スヘシ
 剰余カ前項ノ金額ヲ超過スルトキハ、其ノ超過額ノ三分ノ一ヲ別ニ積立テ、十八分ノ五ヲ市ニ納付スヘシ
 前二項ノ規定ニ依ル納付金ヲ生シタルトキハ、市ハ直ニ之ヲ会社ニ貸附ス、此ノ貸附金ノ返済時期ハ会社解散ノ時トス、但シ市カ之ヲ前条ノ規定ニ依ル補給金ニ充当スルコトヲ妨ケス
 前項貸附金ノ利率ハ第三条ノ規定ニ依ル最近ノ貸附金ノ利率ニ同シ
(栄一墨書書入レ)
[余リニ繁雑ニ過クルノ嫌アリ、一段簡潔ノ方法アリタシ
第二十条 前条第二項ノ規定ニ依ル積立金ハ損失ヲ塡補シ、且ツ会社カ年八分ノ割合ニ依ル利益ノ配当ヲ為スコト能ハサル場合ニ於テ、其ノ配当ヲ為スニ必要ナル不足金額ヲ支出スルノ外、之ヲ処分スルコトヲ得ス、会社カ解散シタルトキハ前項ノ積立金現存額ノ十二分ノ五ヲ市ニ納付スヘシ
(栄一墨書書入レ)
[以下逐条トモニ簡易ノ方法ニ修正セラレタシ
○中略
第二十五条 会社ハ時々事業ノ状況ヲ内務大臣及大蔵大臣ニ報告シ、其ノ命ニ依リ営業ノ状況ニ関スル報告書並財産目録及貸借対照表ヲ提出シ、且ツ内務大臣又ハ大蔵大臣ニ於テ会社ノ金庫、帳簿及諸般
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ノ文書ノ検閲ヲ求ムルトキハ之ニ応スヘシ
○中略
第二十八条 会社カ本契約ニ違背シタルトキハ、市ハ催告ヲ俟タス、将来ニ向テ直ニ本契約ヲ解除シ、且ツ既ニ貸附シタル金額ノ即時返済ヲ命スルコトアルヘシ、此ノ場合ニ於テ市ニ損害アリタルトキハ会社之ヲ賠償スヘシ
○中略
第三十三条 本契約ニ依ル貸附及保証ニ基ク会社ノ債務ニ付テハ公正証書ヲ作成シ、会社カ其ノ弁済ヲ遅滞シタルトキハ、直ニ強制執行ヲ受クヘキ旨ヲ記載スヘシ
第三十四条 本契約ハ市カ市会ノ議決ヲ経、会社カ株主総会ノ決議ヲ経タル日ヨリ其ノ効力ヲ有ス
 但シ市カ政府ヨリ会社ニ対スル貸附金ノ融通ヲ受クルコト能ハサルトキハ、本契約ハ其ノ効力ヲ生セス
(栄一墨書書入レ)
[但書ハ削除アリタシ
  大正十四年 月 日
          東京市
          市長
          復興建築株式会社
          社長取締役
(欄外栄一墨書書入レ)
[建物ノ要望多クシテ会社カ他ニ其資金ヲ借リ入ルルニ付テノ取扱方ヲ、此契約書中ニ規定シ置クノ必要ナキカ
  ○契約書案ハ八月十四日関係者会合ノ上(栄一欠席)決定シ、同日東京市会ニ於テ可決セラレ、ツイデ八月二十二日付ヲ以テ、内務大臣ノ許可ヲ得タリ。右決定案ニ於テハ存立期間ヲ三十年ト改メタル外、大綱ニ於テ原案ト異ル所ナシ。


中外商業新報 大正一四年八月九日 渋沢子復興会社の利率一分方減を強硬に大蔵省に交渉する様中村市長に伝達(DK510095k-0004)
第51巻 p.363-364 ページ画像

中外商業新報  大正一四年八月九日
  渋沢子復興会社の
    利率一分方減を
      強硬に大蔵省に交渉する様
        中村市長に伝達
 帝都復興会社創立に関する世話人会は、八日午後二時から市役所において開催せられたが、それよりさき午後一時渋沢子爵の代理者は市役所に中村市長を訪ねて、会社創立に就て病床にある子爵の意思を通ずる処あつた、しかしてその内容を仄聞するに、渋沢子爵は政府よりの借受金利子が年六分五厘となりをるため、会社が市民に貸付ける利率は年九分程度とせねばならず、国家的なる復興に要する資金の利子としては高きに失し、かつは一般金利にも影響を与へるから、少くとも年八分ぐらゐに止めねばならない、したがつて八分とするには政府の資金利子を一分減の五分五厘とするを妥当とするから、市長は強硬にこの意味を大蔵当局に述べて一分減とせしめる要がある、また渋沢
 - 第51巻 p.364 -ページ画像 
子爵の意思がこゝにある旨をよく関係者に通じて、帝都の復興をして出来るだけ容易ならしむるやうにされたいとのことで相当強い言葉のある書面と伝言とであつたさうである