デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

2章 交通・通信
4節 通信
1款 日本無線電信株式会社
■綱文

第52巻 p.49-71(DK520007k) ページ画像

大正14年2月7日(1925年)

是ヨリ先、政府ハ無線電信事業ヲ民営トナスコトニ決シ、帝国議会ニ其法律案ヲ提出スルニ先ダチ、当会社創立常務委員ニ、民間国際無線事業計画案ヲ内示ス。是日、東京銀行倶楽部ニ於テ第一回発起人総会開カル。栄一、座長トシテ議事ヲ司宰シ、協議ノ結果、該計画案ヲ認ム。次イデ三月二十八日、日本無線電信株式会社法公布セラル。


■資料

日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0001)
第52巻 p.49 ページ画像

日本無線電信会社創立書類       (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
(朱印)
(秘)
敬啓 此度政府ニ於テ国際無線通信事業ヲ挙テ之ヲ民営ニ付スルノ方針ニ基キ、犬養逓信大臣ヨリ我々共常務委員ニ対シ、其ノ内定ニ係ル民間国際無線事業計画案ナルモノヽ内示有之、之ニ対スル日本無線電信株式会社発起人ノ意向ヲ徴セラレ申候、就テハ此際発起人トシテ本案ニ依ル会社創立ノ成否ニ就キ、政府ニ対シテ回答ヲ致スヘキ必要有之、即チ政府ニ於テハ直ニ之ニ伴フ法律案ヲ当議会ニ提出スヘキヤ如何ノ都合有之候次第ニ付、至急右御協議ノ為来ル二月七日(土曜日)午後正三時、丸ノ内銀行倶楽部ニ於テ発起人総会開会致度、右者本会社創立ニ係ル極メテ重要ナル御協議ニ有之、何卒枉而御出席相煩度謹テ及御案内候 頓首
       
  大正十四年二月一日
           日本無線電信株式会社創立常務委員
                      岩原謙三
                      東郷安
                      門野重九郎
                      中島久万吉
                      内田嘉吉
                      串田万蔵
   日本無線電信株式会社発起人
    (宛名手書)
    子爵 渋沢栄一殿

 - 第52巻 p.50 -ページ画像 

日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0002)
第52巻 p.50 ページ画像

日本無線電信会社創立書類       (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
(朱印)

敬啓 来る二月七日午後三時丸ノ内銀行倶楽部に於る発起人総会へ御出席可被成下由謹承仕候、当日は犬養逓相親しく総会に臨み、政府の方針説明旁一場の御挨拶開陳致度旨被申越候につき、御繁用中誠に恐縮の至に奉存候得共定刻御来会相煩度、重而右謹得貴意候 頓首
       
  大正十四年二月五日
           日本無線電信株式会社創立常務委員
                      岩原謙三
                      東郷安
                      門野重九郎
                      中島久万吉
                      内田嘉吉
                      串田万蔵
   日本無線電信株式会社発起人
    (宛名手書)
    子爵 渋沢栄一殿


渋沢栄一 日記 大正一四年(DK520007k-0003)
第52巻 p.50 ページ画像

渋沢栄一 日記  大正一四年      (渋沢子爵家所蔵)
二月七日 曇 軽寒
○上略
午後四過時ヨリ同所○東京銀行倶楽部階下ニ開設シタル無線電信会社創立ノ集会ニ出席ス、内田嘉吉・中島久万吉・東郷安氏等ノ斡旋スル所ナリ、来会者三十名許リニテ書類ニ付テ種々評議ノ後、会社設立ノ事ヲ決シ其創立取扱ハ従来ノ六名ニ委托スル事ト決定ス、夕六時散会○下略
  ○中略。
三月三十日 曇 軽寒
○上略 東郷安氏来リ、日米無線電信事業ニ付佐伯美津留氏ヨリ来請ノ事ヲ告ケ、其書状ヲ交付ス○下略
  ○栄一日記四月十一日ヨリ年末マデノ記事ヲ欠ク。


集会日時通知表 大正一四年(DK520007k-0004)
第52巻 p.50 ページ画像

集会日時通知表  大正一四年       (渋沢子爵家所蔵)
二月七日 土 午後三時 日本無線電信会社発起人総会(銀行クラブ)


竜門雑誌 第四三八号・第七三頁大正一四年三月 青淵先生動静大要(DK520007k-0005)
第52巻 p.50 ページ画像

竜門雑誌  第四三八号・第七三頁大正一四年三月
    青淵先生動静大要
      二月中
七日 日米関係委員会小委員会及日米無線電信会社発起人総会(東京銀行倶楽部)ヘ出席


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0006)
第52巻 p.50-51 ページ画像

日本無線電信会社創立書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
(朱印)

敬啓 本日ノ発起人総会ニ於テハ犬養逓信大臣ヨリ、国際無線事業ニ
 - 第52巻 p.51 -ページ画像 
於ル内外ノ現局ニ対シテ、政府カ官営多年ノ方針ヲ更メテ此度民設ノ国策ヲ定ムルニ至レル所以ヲ開陳シテ一場ノ挨拶有之、引続キ渋沢子爵ヲ座長トシテ協議ニ移リ、内田・中島両名ヨリ政府ノ内交渉ニ係ル民設計画案、並ニ之ニ伴フ収支概算ノ内容ニ関シテ委曲説明ヲ為シ、種々協議ノ結果、出席発起人一同ハ政府趣旨ノ在ル所ヲ諒トシテ民設計画案ヲ認メ、這次ノ内交渉ニ応スルノ議ヲ決シ、常務委員ヲシテ此ノ趣ヲ犬養逓相ニ致サシムヘキコトニ相成候ニ付、常務委員一同ハ直ニ逓相ヲ其官邸ニ往訪シ、備サニ発起人総会ノ議ヲ伝達致置キ申候、於是政府ハ速ニ民設計画ニ伴フ法律案ヲ当議会ニ提出スルノ手続ヲ執ルニ至ルヘクト被存候、右御報告旁更ニ此後一層ノ御配慮ヲ煩度如此ニ御座候 頓首
       
  大正十四年二月七日
           日本無線電信株式会社創立常務委員
            岩原謙三   東郷安   門野重九郎
            中島久万吉  内田嘉吉  串田万蔵
   日本無線電信株式会社発起人
    (宛名手書)
    子爵 渋沢栄一殿


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0007)
第52巻 p.51 ページ画像

日本無線電信会社創立書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    日本無線電信株式会社発起人総会出欠表
                 (大正十四年二月七日)
     ○稲畑勝太郎殿   ○井坂孝殿
     ○岩原謙三殿    △原富太郎殿
     △服部金太郎殿   ○堀啓次郎殿
     ○東郷安殿     代渥美育郎殿
      大谷嘉兵衛殿   ○小野英二郎殿
      金子直吉殿    △大橋新太郎殿
     ○神戸挙一殿    ○門野重九郎殿
     ○団琢磨殿     ○神田鐳蔵殿
     ○中田錦吉殿    △高田釜吉殿
      代矢島富造殿   ○中島久万吉殿
     ○久原房之助殿代  ○串田万蔵殿
     ○松方乙彦殿    △馬越恭平殿
     △山科礼蔵殿    ○南条金雄殿
     ○松方幸次郎殿   ○内田嘉吉殿
     ○藤田平太郎殿   ○小池国三殿
     ○昆田文次郎殿   ○郷誠之助殿
     ○浅野良三殿    ○木村久寿弥太殿
     ○結城豊太郎殿   ○渋沢栄一殿
     ○末延道成殿    ○白仁武殿
       ○印ハ出席 △印ハ欠席


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0008)
第52巻 p.51-52 ページ画像

日本無線電信会社創立書類    (渋沢子爵家所蔵)
 - 第52巻 p.52 -ページ画像 
(謄写版)
(表紙)

  大正拾四年弐月七日

     計画案ニ依ル各局設備概要

        日本無線電信株式会社創立事務所

    計画案ニ依ル各局設備概要
一、対欧洲局
   送信所
    位置  名古屋附近(既ニ政府ノ決定セルモノ)
    設計  七五〇「キロ」高周波電動発電機式
    対手局 仏独ノ無線会社ト政府ニ於テ予約済
   受信所
    位置  四日市附近(既ニ政府ノ決定セルモノ)
     備考 送受信所共名古屋郵便局内通信所ト陸線ニヨリ連絡ス
一、対米第二局
    位置  未定(原ノ町ノ予定)
    設計  五〇〇「キロ」高周波電動発電機式
    対手局 米国「ラヂオコーポレーシヨン」所属局「現ニ逓信省所属磐城局ノ対手局」ト交信ノ予定
一、対南洋極東局
    位置  未定(関東地方ノ予定)
    設計  三〇〇「キロ」高周波電動発電機式(南洋通信用)
        一〇〇「キロ」同        (極東通信用)
    対手局 政府ニ於テ目下仏領印度支那西貢局・爪哇「バンドン」局ト交信交渉中
        支那方面ハ北京双橋局ト交信ノ予定
一、磐城局
    位置  福島県原ノ町
    設計  四〇〇「キロ」高周波電動発電機式
    対手局 現在米国「ラヂオ」社所属ノ布哇局ト交信シ日米間通信ヲ取扱ヒ居レリ、第二局完成後ハ加奈太・南米方面ノ通信ニ充当シ得ル見込ナリ
一、中央受信局
   対米第二局、南洋極東局及磐城局ニ対スル受信所
    位置   未定(東京附近)
   此等ノ送信局及受信局ハ凡テ東京中央電信局ト陸線ニヨリ連絡セラルヽモノニシテ、此処ヨリ直接操縦セラル


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0009)
第52巻 p.52-54 ページ画像

日本無線電信会社創立書類        (渋沢子爵家所蔵)
    日本無線電信株式会社設立要項
一、設立
 - 第52巻 p.53 -ページ画像 
  日本無線電信株式会社法ノ制定ニ依リ之ヲ設立ス
一、目的
  日本無線電信株式会社ハ国際無線電信ノ取扱ヲ為ス固定局設備ノ施設・維持・改良及機械ノ運転ヲ為スヲ目的トシ、政府ノ指示ニ従ヒ対欧無線局・対米第二無線局・対極東南洋無線局ヲ新設シ、政府ヨリ既設ノ磐城無線局及対欧無線局建設ノ為既ニ購入シタル土地ノ現物出資ヲ受クルモノトス
  前記諸局ニ依リ取扱ハルヘキ電報ノ受付・配達及機械上ノ送受信ノ事務一切ハ政府ニ於テ之ヲ行フモノトス
一、副業
  会社ハ主務大臣ノ認可ヲ受ケ左ノ事業ヲ営ムコトヲ得ルモノトス
   (一)外国ニ於ケル無線電信電話事業ノ施設経営並ニ此等事業ニ対スル投資
   (二)無線電信電話用品ノ製造販売及此等事業ニ対スル投資
一、存立期間
  五十年トス、但シ主務大臣ノ認可ヲ受ケ延長スルコトヲ得ルモノトス
一、資本金
一、株主
  会社ノ株式ハ凡テ記名式トシ、政府・帝国臣民ノミヲ社員又ハ株主トスル法人ニ限リ之ヲ所有スルコトヲ得ルモノトス
一、役員
  役員ハ株主総会ニ於テ之ヲ選任シ、政府ノ認可ヲ受クルモノトス
一、政府ノ保障
  会社ハ其ノ創立初期ヨリ十年間、政府ノ所有スル株式ニ対シ利益配当ヲ為スコトヲ要セサルモノトス、但シ右期間内ト雖モ政府所有ノ株式以外ノ株式ニ対スル創立初期ヨリノ平均配当率ガ八分ヲ超ユルニ至リタルトキハ、右ノ八分ノ配当ノ下ラサル限度ニ於テ政府所有ノ株式ニ対シ利益配当ヲ為スコトヲ要スルモノトス
一、報効金
  会社創立初期ヨリ十年ヲ経過シ、又ハ前項ノ平均配当率ガ八分ヲ超ユルニ至リタル後ハ、会社ノ配当シ得ヘキ利益金ガ其払込株式金額ニ対シ年百分ノ十ノ割合ヲ超過スルトキニ限リ、政府所有ノ株式ニ対スル利益配当金ノ外ニ該超過額ノ半額ヲ政府ニ納付スルモノトス
一、収入
  会社ハ政府カ会社局ニ依リ取扱ヒタル電報ノ料金ノ本邦収得分ノ九割ヲ、政府ハ一割ヲ収得スルモノトス
一、政府ノ監督
  会社ノ事業ハ政府ノ監督ヲ受クルモノトス
一、政府ノ買収
  政府ノ要求アルトキハ何時ニテモ相当価格ヲ以テ前掲諸局ノ買収ニ応スルモノトス
一、設立委員
 - 第52巻 p.54 -ページ画像 
  政府ノ任命シタル設立委員ニ於テ、会社設立ニ関スル一切ノ事務ヲ処理スルモノトス


竜門雑誌 第四三七号・第七―八頁大正一四年二月 国際的平和と其他二問題 青淵先生(DK520007k-0010)
第52巻 p.54 ページ画像

竜門雑誌  第四三七号・第七―八頁大正一四年二月
    国際的平和と其他二問題       青淵先生
○上略
      三、日本無線電信会社に就て
 四日(二月七日)の午後三時頃から日本無線電信会社の設立に就て犬養逓相其他財界の有力者と協議したが、大阪・横浜の方も見えて居た。この会社が問題となつたのは六年前で、種々の変遷はあつたが、始め内田嘉吉氏が逓信出身の人として電信事業に詳しい処から創立の望みを起されたものである。何分日本としては最も緊要な米国との通信費が割合に高く、その上今のやうでは遅れ勝ちで、故障も屡々起るので、之を完全にしやうとするのが此の会社の主意であつて、当初はケーブルの積りであつたが無線になつたのである。米国との関係は云ふまでもなく親善であるべきであるのに、兎角通信の甘く行かぬのは遺憾で、深く心配する、そこでこの会社の如き米人と組合つて会社を組織すると云ふことになれば、種々の点から真に結構であると云ふ所で、米人を仲間に引入れる為め私も最初から相談に預つて居たので別に渋沢が大株主として働く意味ではないが、国運進展の為め仲間の一人として努力して来た訳である。処がその後形勢に変化もあり、今日に及んだのである。そして先づ斯かる通信事業は我が国では官業であるから、政府が果して許可するかどうか疑問であつた。実際に此事業は官業のみでは発達しないのであつて、外国では殆んど民業である。其処で民設が必要となれば、政府から助成を求め、従つてまた幾分は政府の制肘を受けることになるのである。
 兎に角斯様な訳で人文発達及び通商上に欠くべからざるものとして内田嘉吉氏・門野重九郎氏・中島久万吉氏・串田万蔵氏・東郷安氏・岩原謙三氏の六名が常務委員として調査研究を為し来つたが、中にも内田・中島両氏は主として事に当つたのである。
 其処で昨日は東京・大阪・横浜の有力実業家が二十数名集つたのであつて、是非会社を設立せねばならない、政府との関係は従来の委員で調査し、利益よりも危険のないやうに努め、これならと云ふ具体案を作つて政府に提出したらよからうと決定した。従つて政府の方針も民営として通信事業の或る部分を特に民間の有力な人々にやらせやうと云ふ意向になつて来たものであると思はれる。
 私は前にも述べたやうに、この事業の事務に詳しいとか、主たる株主になつて関係するとか云ふのでなく、相談に預つて居るのであつて此の会社も世の中の為めに漸く地歩が固つて来つゝあることを話して置く次第である。(大正十四年二月八日談話)


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0011)
第52巻 p.54-55 ページ画像

日本無線電信会社創立書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
敬啓 先般第一回発起人総会ニ於テ御委嘱ヲ蒙リ候以後、下名共常務
 - 第52巻 p.55 -ページ画像 
委員ハ数々逓信省ヲ初メ関係当局ト交渉ヲ重ネ候結果、政府ハ最近ニ到リ漸ク日本無線電信株式会社法案ヲ脱稿シ、近ク閣議ヲ経テ愈議会ニ提出ノ運ビト相成候
就而ハ今日迄ノ経過並ニ法案ノ内容等親シク御報告申上度存候間、御繁用中誠ニ恐縮ノ至ニ御座候得共
    来る三月六日午後四時
    丸之内東京銀行倶楽部へ
御来会相煩度右奉得貴意候 頓首
       
  大正十四年二月廿八日
           日本無線電信株式会社創立常務委員
                      岩原謙三
                      東郷安
                      門野重九郎
                      中島久万吉
                      内田嘉吉
                      串田万蔵
   日本無線電信株式会社発起人
    (宛名手書)
    子爵 渋沢栄一殿
  ○栄一、三月二日ヨリ大磯ヘ赴キ六日ハ喘息ノ発作ニテ出席セズ。


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0012)
第52巻 p.55-56 ページ画像

日本無線電信会社創立書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
          日本無線電信株式会社創立事務所
別紙は今回政府より帝国議会へ日本無線電信株式会社法案提出に際し政府計画の趣旨を新聞を通じて公表する為、逓信省に於て特に準備せられたるものに御座候間、御参考迄に供高閲候
  再白(御注意)
 右の次第に付政府より不日直接新聞通信社へ発表相成る迄は「秘」の御取扱被成下度希上候 以上
(別紙、謄写版)
    国際無線電信政策ノ確立計画
輓近長距離無線通信技術ノ跳躍的進歩ヲ遂クルヤ、従来殆ト全部海底線若クハ陸線ニ依リタル国際電信界ニ一大変革ヲ来シ、国際間ノ通信ハ翕然トシテ無線電信ニ集中セラルヽノ観ヲ呈シ来リ、玆ニ世界各国ノ国際電信政策モ更始一新ノ要ヲ見ルニ至レリ、然ルニ長距離無線電信ニ使用セラルヘキ電波長ハ八千米突乃至三万米突ノ長サヲ有スルモノヲ必要トシ、然カモ各局相互ノ混信ヲ避クルノ要アルヲ以テ、之ヲ適当ニ按配スルニ於テハ、其ノ使用シ得ヘキ波長数ハ百三十個内外ナルノミナラス、通信上能率最モ高キモノハ一万米突乃至二万米突ノ間ニアリテ、其ノ数僅ニ六十九箇ニ過キスシテ到底世界各国ノ要求ヲ充スニ足ラサルナリ、玆ニ於テカ先年来国際電気通信予備会議及無線技術委員会等ニ於テ、電波長分配問題ヲ協議セルモ、各国ノ要求容易ニ一致セスシテ遂ニ決定ヲ見ルニ至ラス、将ニ来ルヘキ国際無線電信本
 - 第52巻 p.56 -ページ画像 
会議ニ於テ更ニ討議セラルルコトトナリ居レリ、然ルニ一面世界各国ハ数年来国際無線局ノ増設ヲ急キツヽアルヲ以テ、遠カラス適当ナル電波長ハ事実上此等諸国ニ依リ全部先占セラルルニ至ル惧アリ、即チ現ニ英米仏独ヲ始メ和蘭・瑞典・波蘭・伊太利・墺地利・西班牙・丁抹・葡萄牙及露西亜等ノ諸国ニ於テモ或ハ既ニ大無線局ノ建設ノ完成シ、或ハ現ニ建設シツツアルノ実況ニ在リ、而シテ今如上ノ世界無線電信界ノ大勢ヲ通観シ、翻テ本邦ニ於ケル対外電信連絡関係ニ一瞥ヲ加ヘンニ、外国トノ連絡系統ノ大部分ハ第三国電信事業ニ依テ掌握セラレ居リ、従テ我国ニトリ政治上将又経済上其不利忍フヘカラサルモノアリ、而シテ此窮境ヲ脱シ国家及国民ノ正当ナル権利利益ヲ擁護センカ為ニハ、大無線局ヲ増設シ、対手国ト直接通信ノ途ヲ開拓スル外ナキナリ、又一面海外電報ノ数量モ各方面共年々増加シ、特ニ対米通信ノ如キハ其傾向著シキモノアルヲ以テ、今後数年ヲ出テスシテ現在設備ヲ以テ消化シ能ハサルニ至ルヘシ、而シテ之カ対応策トシテハ経費其他ノ点ヨリ見ルモ、無線局ノ増設ヲ為スヲ以テ最モ得策トセサルヘカラス、然ルニ世界無線界ノ大勢ハ前記ノ如ク電波長ノ獲得容易ナラサル事情ニ在ルヲ以テ、帝国ニ於テモ速ニ国際無線電信拡張ニ関スル政策ヲ確立シ、大無線局ノ増設ヲ急施シ、適当ノ電波長ヲ把握シ置クニ非ラサレハ所期ノ目的ヲ達スルコト頗ル困難ナリ、然モ之カ為メニハ数千万円ノ巨額ノ資金ヲ要シ、政府財政ノ現状ヨリ推セハ、近キ将来ニ於テ所要ノ無線電信設備ノ増設ヲ実施スルコト殆ント不可能ト云フヘク、一面大無線電信局ノ建設ハ一日モ緩ウスヘカラサルモノアルヲ以テ、機宜ノ方法トシテハ民間ノ資金ニ依リ之カ増設ヲ計ルノ外ナシ、如之通信ニ関スル事務一切ヲ政府ニテ行フニ於テハ、無線電信設備ノ建設・維持等ヲ民設事業ニ行ハシムルモ別段支障ナキノミナラス、却テ便宜多キコトアルヘク、且外国ニ於テモ其事例ニ乏シカラサルヲ以テ、此度国際無線電信局民設ヲ認ムルノ方針ヲ樹テ、民間企業家トモ協議ヲ遂ケ、特別法ヲ制定シテ特殊会社ヲ設立スルコトヽシ、議会ニ法律案ヲ提出スルコトヽナレリ、而シテ右ノ民設国際無線電信事業ハ株式会社組織トシテ、政府之ヲ監督シ、政府ハ現ニ其有スル磐城無線電信局及欧洲局建設ノ為既ニ購入シタル敷地ヲ現物出資シ、会社ハ今後数年間ニ対欧洲局・対米第二局及対極東南洋局等ヲ新設シ、以テ此等諸局ノ維持・改良及機械ノ運転ヲ行ヒ、政府ハ通信事業専掌ノ精神ニ基キ、会社局ニ依リ取扱フ電報ノ受付・配達及機械上ノ送受信等通信ニ関スル一切ノ事務ヲ行ハムトスルモノナリ。

 老生発起人之中ニ加名せしハ米国関係より此に至りしも一会社を組織するニ付てハ将来ハ同族会社ニ継続せさるへからさるニ付其辺篤と考慮有之度事 三月六日 栄一

  ○右栄一ノ文ハ前掲書類ヲ収メタル封筒ノ裏面ニ墨書シタルモノニシテ、大正拾四年参月弐日並ニ日本無線電信株式会社創立事務所ノゴム印アリ。


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0013)
第52巻 p.56-57 ページ画像

日本無線電信会社創立書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
拝啓 昨六日於東京銀行倶楽部第二回発起人総会開催、常務委員より
 - 第52巻 p.57 -ページ画像 
去二月七日の第一回総会以後に於ける、政府当局との内交渉に関する経過を御報告申上げ、別封○略ス拝送の法案中
 一、第三条資本金は政府の希望により金弐千万円と定めたること
 二、前案第二十二条第一回取締役選任は政府之を行ふべき旨の規定を撤回せしめたること
 三、第九条将来利益配当歩合か一割二分を超ゆるに至りたる場合の規定は、政府原案一割説を一割二分に改訂したること
 四、第十条配当利率年八朱に関する件は、追而法案成立後別に定むる命令を以て、特に事業改良費積立金を豊富に計算する方法により、会社の基礎を一層鞏固になし得べき諒解を政府当局との間に獲たること
 五、第五条株式所有者は外国人が重役たる法人にても差支なきこと
以上諸点に付詳細に御説明申上げ、出席発起人諸氏御一同より何等の異議無く全部の御承認を得申候
 次に創立事務も愈進捗致候に付ては、創立事務費として去大正十二年七月加藤友三郎内閣当時新に発起人に御加入相成候方々より、金五百円宛御拠出相願度旨御協議致候処、是亦異議なく決議相成候
 尚政府の法案は多分七日衆議院に上程可相成予定の旨報告致置候
先は右不取敢御報告迄如斯に御座候 敬具
  大正十四年三月七日 日本無線電信株式会社創立常務委員
                     岩原謙三
                     東郷安
                     門野重九郎
                     中島久万吉
                     内田嘉吉
                     串田万蔵
   日本無線電信株式会社発起人
    (宛名手書)
    子爵 渋沢栄一殿


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0014)
第52巻 p.57 ページ画像

日本無線電信会社創立書類        (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
  大正拾四年参月拾弐日午后参時半
          日本無線電信株式会社創立事務所
    発起人
      御中
当会社法案は只今衆議院を通過致し、直ちに貴族院に回附され候右不取敢御内報申上候 以上


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0015)
第52巻 p.57-58 ページ画像

日本無線電信会社創立書類        (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
  大正十四年三月十八日
          日本無線電信株式会社創立事務所
    発起人
      御中
 - 第52巻 p.58 -ページ画像 
    ○貴族院に於ける会社法案の形勢
前便(三月十二日附)御報告申上候以後、当会社法案は去十六日貴族院本会議に上程、直に特別委員に附託せられ、本日迄前後二回の委員会に於て審議を重ね候結果、唯今政府原案可決確定せられ申候、此分にては無論近日本会議に於て無事通過致すべく存ぜられ候間、此段御内報旁不取敢奉得貴意候 敬具
 追而
  前記本会議の結果は、特別の事情無之限り重ねて御報告申上げざる予定に御座候間、此義何卒御了承奉願上候 以上


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0016)
第52巻 p.58 ページ画像

日本無線電信会社創立書類        (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
  大正十四年三月三十日
          日本無線電信株式会社創立事務所
   日本無線電信株式会社
    発起人
      御中
拝啓 今次帝国議会に於て両院を通過致候当会社法案は、愈本日の官報を以て公布せられ候に付、右為念御報告申上候 敬具


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0017)
第52巻 p.58-60 ページ画像

日本無線電信会社創立書類        (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
(表紙)
                大正十四年三月

  日本無線電信株式会社法制定理由及法案大要

                逓信省

    日本無線電信株式会社法制定理由
本邦ニ於ケル対外電信連絡系統ノ大部分ハ、第三国電信事業ニ依テ掌握セラレ居レリ、即欧洲諸国及極東南洋方面トノ通信ハ、殆ト全部英国系ノ大北・大東両電信会社ノ海底線又ハ陸線ヲ経由スルヲ要シ、南米及加奈陀方面トノ通信ハ、北米合衆国電信事業者ノ海底線又ハ無線ヲ経由スルヲ要スルモノニシテ、直接通信ヲ交換シ得ルハ北米合衆国支那ノ一部及其他ノ極東ノ一小部分ニ限ラレ居レル実況ニ在リ、斯ク第三国ノ仲介ニ依ル場合ニ於テハ、之カ為其ノ通過電報ニ対シ種々不利益ナル取扱ヲ受ケ易ク、政治上・経済上其ノ不利忍フヘカラサルモノアリ、依テ速ニ之カ覊絆ヲ脱シ対外通信ノ独立ヲ確保スル必要アリ而シテ之カ手段トシテハ、経費其他実行上ノ点ヨリ見テ無線電信ノ増設ニ依ルヲ以テ最モ捷径トス、又一面海外電報ノ数量ハ各方面共年々増加ノ大勢ニ在リテ、特ニ対米通信ノ如キハ其ノ傾向著シキモノアルヲ以テ、今後数年ヲ出テスシテ現在設備ヲ以テ消化シ能ハサルニ至ルヘク、無線局ノ増設ハ最モ適切ナル経済的方策ナリト信ス、然ルニ国
 - 第52巻 p.59 -ページ画像 
際無線電信ニ使用シ得ヘキ電波長八千「メートル」乃至三万「メートル」ノモノハ、其数百三十箇内外ナルノミナラス、通信上能率最モ高キ一万「メートル」乃至「二万メートル」ハ僅々六十九箇ニ過キス、而シテ大正九年華府国際電気通信予備会議ノ際、日英米仏伊ノ五大国ニテ要求セルモノノミニテモ百十一箇ニ達シ、其他諸国ノ要求ヲ加フルトキハ余ス所極メテ僅少ナリ、又前記優良波長数六十九箇ハ其ノ内既設局ノ実際使用セルモノ四十六箇ニ達シ、又現在計画中ノ局ニ要スヘキモノ相当多数ニ上ルヲ以テ、到底今後世界各国ノ要求全部ヲ容ルル余地ナキナリ
而シテ前記国際通信予備会議ノ後巴里ニ開カレタル国際無線技術委員会ニ於テ、各国ノ要求容易ニ一致セス、結局近ク開催セラルヘキ国際無線電信本会議(本年秋米国華府ニ開催ノ準備中ナル旨最近外務省ヲ経テ情報アリタリ)ニ於テ、更ニ討議スルコトニ決定シ居レリ、而シテ一面世界各国ハ、数年来競テ国際通信用大無線局ノ建設ヲ急キツツアル実況ナルヲ以テ、帝国ニ於テモ速ニ大無線局ノ増設ヲ実施シ、優良ナル電波長ヲ獲得シ国際無線通信上ノ権利ヲ確保スルニ非サレハ、所期ノ目的ヲ達スルコト頗ル困難ナリ、然レトモ政府財政ノ現状ハ遽ニ所要ノ大無線局ノ増設ヲ許ササルヲ以テ、機宜ノ方法トシテハ民間ノ資金ニ依リ之カ増設ヲ図ルノ外ナシ、加之通信ニ関スル事務一切ヲ政府ニテ行フニ於テハ、無線電信設備ノ建設・維持等ヲ民設事業ニ行ハシムルモ別段支障ナキノミナラス、却テ外国トノ折衝上便宜多キコトアルヘク、且外国ニ於テモ其ノ事例ニ乏シカラサルヲ以テ、今回別紙法律案ノ通、特殊会社ヲ設立シテ之カ増設及維持等ニ衝ラシメ、以テ国策遂行上遺憾ナキヲ期セムトスル次第ナリ
(別紙)
    日本無線電信株式会社法案大要
一、会社ノ目的
   本事業ハ株式会社組織トシ、外国無線電報ノ取扱ノ為ニスル無線電信ノ設備及其ノ附属設備ノ建設・維持・改良及機械運転(通信事務ノ範囲ニ属セサルモノ)ヲ行ヒ、以テ其設備ヲ政府ノ通信取扱ノ用ニ供スルコトヲ目的トスルモノトス、従テ会社ノ設備ニ依リテ取扱ハルヘキ電報ノ受付・配達及機械上ノ送受信等通信ニ関スル事務ハ、一切政府ニテ行フモノトス
一、副業
   会社ハ主務大臣ノ命令アルトキ又ハ其ノ自ラ欲スル場合ハ、主務大臣ノ認可ヲ受ケ、(一)外国ニ於ケル無線電信又ハ無線電話事業ノ経営、(二)外国ニ於ケル無線電信電話設備ノ工事請負又ハ貸付、(三)或ハ無線電信電話用品ノ製造販売、(四)或ハ前記諸事業ニ対スル投資等ヲ営ムコトヲ得ルモノトス
一、資本金
   二千万円トス
一、存立期間
   五十年トス
一、株主
 - 第52巻 p.60 -ページ画像 
   株式ハ記名式トシ、(一)政府、(二)公共団体、(三)帝国臣民、(四)又ハ帝国法令ニ依リテ設立シタル法人ニシテ其ノ議決権ノ過半数カ外国人又ハ外国法人ニ属セサルモノニ限リ、之ヲ所有スルコトヲ得ルモノトス
一、政府ノ現物出資
   政府ハ其ノ所有スル現存ノ国際無線局及国際無線局建設敷地ヲ現物出資シ得ルモノトス
一、会社交付金
   政府ハ会社設備ヲ使用シテ通信ヲ取扱フモノナルヲ以テ、政府ノ収得シタル電報収入ノ一部ヲ会社ニ交付スルモノトス
一、政府持株ニ対スル配当免除
   創立初年ヨリ十年間ハ政府ノ持株ニ対シ配当ヲ免除スルモノトス、但シ右期間ト雖毎営業期ニ於テ配当シ得ヘキ利益金額カ、政府持株以外ノ株式ノ払込資本金ニ対シ平均百分ノ八ノ割合ヲ超ユルニ至リタルトキハ、一定条件ノ下ニ政府持株ニ対シテモ配当ヲ為サシムルコトヲ得ルモノトス
一、報効金
   会社ハ毎営業期ニ於テ其ノ配当シ得ヘキ利益金額カ、払込資本金額ニ対シ年一割二分ノ割合ヲ超過スルトキハ、一定ノ割合ノ報効金ヲ政府ニ納付スルモノトス
一、政府ノ監督
   主務大臣ハ会社ノ業務ニ関シ監督上必要ナル命令ヲ為シ、又ハ必要ナル無線電信設備ノ施設ヲ為スコトヲ命スルコトヲ得ルモノトス
   若シ会社カ命令ニ依リ施設スヘキ設備ヲ為スコトヲ怠リタルトキハ、交付金ヲ減額スルコトヲ得ルモノトス
   其ノ他重役ノ選任解任、利益金ノ処分等重要ナル事項ニ関スル会社ノ決議ハ主務大臣ノ認可ヲ受ケシメ、又一定ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ重役ヲ解職スルコトヲ得、尚会社ノ設備ニ属スル物件ノ譲渡又ハ担保ハ認可ヲ受ケシムルモノトス
一、会社設備ノ買収
   政府ハ相当価格ヲ以テ会社設備ノ買収ヲ為スコトヲ得ルモノトス
一、罰則
   一定ノ場合ニ於ケル重役ニ対スル過料ヲ定ム
一、会社設立委員
   政府ハ設立委員ヲ任命シテ設立事務一切ヲ処理セシムルモノトス
一、本法施行期日
   別ニ勅令ヲ以テ之ヲ定ムルモノトス


日本無線電信株式会社法 第一―七頁刊(DK520007k-0018)
第52巻 p.60-62 ページ画像

日本無線電信株式会社法  第一―七頁刊
    日本無線電信株式会社法(大正十四年三月二十八日法律第三十号)
第一条 日本無線電信株式会社ハ、外国無線電報ノ取扱ノ為ニスル無
 - 第52巻 p.61 -ページ画像 
線電信ノ設備及其ノ附属設備ヲ為シ、之ヲ政府ノ用ニ供スルコトヲ目的トスル株式会社トス
第二条 日本無線電信株式会社ハ前条ニ定ムルモノノ外、主務大臣ノ命令ニ依リ、又ハ其ノ認可ヲ受ケ、左ノ事業ヲ営ムコトヲ得
 一 外国ニ於ケル無線電信事業及無線電話事業ノ経営
 二 外国ニ於ケル無線電信又ハ無線電話ノ設備ノ貸付及工事ノ請負
 三 無線電信又ハ無線電話ノ用品ノ製造及販売
 四 前三号ニ掲クル事業ニ対スル投資
第三条 日本無線電信株式会社ノ資本金ハ二千万円トス、但シ主務大臣ノ認可ヲ受ケ之ヲ増加スルコトヲ得
第四条 日本無線電信株式会社ノ存立期間ハ設立登記ノ日ヨリ五十年トス、但シ主務大臣ノ認可ヲ受ケ之ヲ延長スルコトヲ得
第五条 日本無線電信株式会社ノ株式ハ記名式トシ、政府・公共団体帝国臣民又ハ帝国法令ニ依リテ設立シタル法人ニシテ其ノ議決権ノ過半数カ外国人又ハ外国法人ニ属セサルモノニ限リ、之ヲ所有スルコトヲ得
第六条 政府ハ外国無線電報ノ取扱ノ為ニスル国有ノ無線電信局設備及其ノ附属設備並無線電信局設置ノ為購入シタル土地ヲ以テ、出資ノ目的ト為スコトヲ得
第七条 第一条ニ掲クル設備ニ依リテ取扱ハルヘキ電報ノ受付・配達及機械上ノ送受信ノ事務ハ政府之ヲ行フ
第八条 政府ハ日本無線電信株式会社ノ設備ヲ使用シ、之ニ依リテ取扱ヒタル電報ノ料金中本邦収得分ニ当ルモノノ一部ヲ、勅令ノ定ムル所ニ依リ該設備使用ニ対シ日本無線電信株式会社ニ交付ス
第九条 毎営業期ニ於テ配当シ得ヘキ利益金額カ、払込資本金額ニ対シ一年百分ノ十二ノ割合ヲ超過スルトキハ、日本無線電信株式会社ハ該超過額ノ二分ノ一ヲ政府ニ納付スヘシ
第十条 日本無線電信株式会社ハ其ノ創立初期ヨリ十年間、政府持株ニ対シ利益配当ヲ為スコトヲ要セス
 毎営業期ニ於テ配当シ得ヘキ利益金額カ政府持株以外ノ株式ノ払込資本金額ニ対シ一年百分ノ八ノ割合ヲ超過スルトキハ、該超過額ニ付テハ前項ノ規定ニ拘ラス政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ其ノ持株ニ対シ利益配当ヲ為サシムルコトヲ得、但シ創立初期ヨリノ配当シ得ヘキ利益金額ヲ通算シ、政府持株以外ノ株式ノ払込資本金額ニ対シ一年百分ノ八ノ割合ニ達セサルトキハ此ノ限ニ在ラス
 前項但書ニ規定スル利益金額中、政府持株ニ対シ配当シタル金額アルトキハ之ヲ控除シテ計算ス
第十一条 政府ハ日本無線電信株式会社ノ業務ヲ監督ス
第十二条 主務大臣ハ日本無線電信株式会社ノ業務ニ関シ、監督上必要ナル命令ヲ為シ、又ハ外国無線電報ノ取扱上必要ナル無線電信ノ設備若ハ其ノ附属設備ヲ為スヘキコトヲ命スルコトヲ得
 日本無線電信株式会社カ前項ノ規定ニ依リテ主務大臣ノ命シタル設備ヲ為スコトヲ怠リタルトキハ、第八条ノ規定ニ依ル交付金ノ一部ヲ交付セサルコトヲ得
 - 第52巻 p.62 -ページ画像 
第十三条 取締役及監査役ノ選任及解任、定款ノ変更、利益金ノ処分社債ノ募集、合併並解散ノ決議ハ主務大臣ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ効力ヲ生セス
 主務大臣ハ取締役カ法令・定款又ハ主務大臣ノ命令ニ違反シタルトキハ之ヲ解任スルコトヲ得
第十四条 日本無線電信株式会社ハ、主務大臣ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ所有スル無線電信ノ設備又ハ其ノ附属設備ニ属スル物件ヲ譲渡シ又ハ担保ニ供スルコトヲ得ス
第十五条 政府カ勅命ノ定ムル所ニ依リ、相当ノ価格ヲ以テ日本無線電信株式会社ノ所有スル無線電信ノ設備、及其ノ附属設備ノ全部又ハ一部ヲ買収セムトスルトキハ、会社ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第十六条 日本無線電信株式会社左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ、取締役又ハ其ノ職務ヲ行フ監査役ヲ百円以上千円以下ノ過料ニ処ス
 一 主務大臣ノ命令ニ依リ又ハ其ノ認可ヲ受ケタルニ非スシテ、第二条ニ掲クル事業ヲ営ミタルトキ
 二 主務大臣ノ命令ニ違反シタルトキ
 三 本法ニ規定セサル事業ヲ営ミタルトキ
 非訟事件手続法第二百六条乃至第二百八条ノ規定ハ、前項ノ過料ニ之ヲ準用ス
      附則
第十七条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十八条 政府ハ設立委員ヲ命シ、日本無線電信株式会社ノ設立ニ関スル一切ノ事務ヲ処理セシム
第十九条 設立委員ハ定款ヲ作成シ、主務大臣ノ認可ヲ受ケタル後、株式総数ヨリ政府ニ割当ツヘキ株式ヲ控除シタル残余ノ株式ニ付、株主ヲ募集スヘシ
第二十条 株式申込証ニハ定款認可ノ年月日並商法第百二十六条第二項第二号・第四号及第五号ニ規定スル事項ヲ記載スヘシ
第二十一条 設立委員ハ株主ノ募集ヲ終リタルトキハ株式申込証ヲ主務大臣ニ提出シ、其ノ検査ヲ受クヘシ
第二十二条 設立委員ハ前条ノ検査ヲ受ケタル後、遅滞ナク各株式ニ付第一回ノ払込ヲ為サシムルコトヲ要ス
 前項ノ払込アリタルトキハ設立委員ハ遅滞ナク創立総会ヲ招集スヘシ
第二十三条 創立総会終結シタルトキハ、設立委員ハ其ノ事務ヲ日本無線電信株式会社ノ取締役ニ引渡スヘシ
〔参照〕
  明治三十二年三月九日公布法律第四十八号商法抄録
第百二十六条第二項
 株式申込証ハ発起人之ヲ作リ之ニ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
 二 第百二十条及ヒ第百二十二条ニ掲ケタル事項
 四 第一回払込ノ金額
 五 一定ノ時期マテニ会社カ成立セサルトキハ、株式ノ申込ヲ取消スコトヲ得ヘキコト
 - 第52巻 p.63 -ページ画像 

日本無線電信株式会社法施行期日ノ件 日本無線電信株式会社法施行令 第一―四頁刊(DK520007k-0019)
第52巻 p.63-64 ページ画像

日本無線電信株式会社法施行期日ノ件 日本無線電信株式会社法施行令  第一―四頁刊
    日本無線電信株式会社法施行期日ノ件(大正十四年五月八日勅令第百七十七号)
日本無線電信株式会社法ハ大正十四年五月十一日ヨリ之ヲ施行ス

    日本無線電信株式会社法施行令(大正十四年五月八日勅令第百七十八号)
第一条 日本無線電信株式会社法第八条ノ規定ニ依リ、日本無線電信株式会社ニ交付スヘキ金額ハ、会社ノ設備ヲ使用シテ政府ノ取扱ヒタル電報ノ料金中本邦収得分ニ当ルモノノ百分ノ九十トシ、一月分毎ニ之ヲ計算ス
 前項ノ交付金ニ付テハ概算払ヲ為スコトヲ得
第二条 日本無線電信株式会社法第十条第二項ノ規定ニ依リ、政府持株ニ対シ配当ヲ為サシムルコトヲ得ル利益金ハ毎営業期ニ於ケル政府持株以外ノ株式ニ対スル配当ノ割合ニ達スル迄之ヲ政府持株ニ配当シ、尚残余アルトキハ平等ニ配当スヘシ
 政府持株以外ノ株式ニ対スル利益配当ヲ平均セシムル為、又ハ政府ノ使用ニ供スル無線電信ノ設備及其ノ附属設備ノ改良若ハ研究ノ経費ニ充ツル為積立ヲ為ス場合ニ於テハ、会社ハ主務大臣ノ認可ヲ受ケ、必要ノ限度ニ於テ政府持株ニ対スル配当ニ充ツヘキ利益金ヲ該積立金ニ組入ルルコトヲ得
第三条 日本無線電信株式会社法第十五条ノ規定ニ依ル買収価格ハ、政府及会社協議ノ上之ヲ定ム
 前項ノ協議調ハサル場合ニ於テハ、主務大臣ハ左ニ掲クル者ヲ以テ組織スル評価委員会ノ意見ヲ聴キ買収価格ヲ定ム
 一 政府ノ選定シタル三名ノ委員
 二 会社ノ選定シタル三名ノ委員
 三 特別ノ知識経験アル者ノ中ヨリ政府及会社ノ協議ニ依リ選定シタル三名ノ委員
      附則
本令ハ日本無線電信株式会社法施行ノ日ヨリ之ヲ施行ス
 〔参照〕
   大正十四年三月三十日公布法律第三十号 日本無線電信株式会社法抄録
 第八条 政府ハ日本無線電信株式会社ノ設備ヲ使用シ、之ニ依リテ取扱ヒタル電報ノ料金中本邦収得分ニ当ルモノノ一部ヲ、勅令ノ定ムル所ニ依リ該設備使用ニ対シ日本無線電信株式会社ニ交付ス
 第十条第一項及第二項
  日本無線電信株式会社ハ其ノ創立初期ヨリ十年間、政府持株ニ対シ利益配当ヲ為スコトヲ要セス
  毎営業期ニ於テ配当シ得ヘキ利益金額カ政府持株以外ノ株式ノ払込資本金額ニ対シ一年百分ノ八ノ割合ヲ超過スルトキハ、該超過額ニ付テハ前項ノ規定ニ拘ラス政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ其ノ持株ニ対シ利益配当ヲ為サシムルコトヲ得、但シ創立初期ヨリノ配当シ得ヘキ利益金額ヲ通算シ、政府持株以外ノ株式ノ払込資本
 - 第52巻 p.64 -ページ画像 
金額ニ対シ一年百分ノ八ノ割合ニ達セサルトキハ此ノ限ニ在ラス
 第十五条 政府カ勅令ノ定ムル所ニ依リ、相当ノ価格ヲ以テ日本無線電信株式会社ノ所有スル無線電信ノ設備、及其ノ附属設備ノ全部又ハ一部ヲ買収セントスルトキハ、会社ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス


日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0020)
第52巻 p.64 ページ画像

日本無線電信会社創立書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
敬啓 当会社設立に係る政府手続の進捗に伴ひ、此際従来の経過御報告旁御内議を得度次第有之、来る五月二日(土曜日)正午、丸ノ内銀行倶楽部に於て発起人総会開会致候に付、何卒枉而御出席被成下度得貴意候 頓首
  大正十四年四月二十九日
           日本無線電信株式会社創立常務委員
                      岩原謙三
                      東郷安
                      門野重九郎
                      中島久万吉
                      内田嘉吉
                      串田万蔵
   日本無線電信株式会社発起人
    (宛名手書)
    子爵 渋沢栄一殿
  ○右発起人会ニハ栄一出席セザルモノヽ如シ。栄一日記ヲ欠ク。


日本無線 第八六号創立拾周年記念特輯号・第五三―五六頁昭和一〇年一一月 「我社の創立されるまで」回顧座談会 三、特別法制定に至る事情 通信専掌権の解釈(DK520007k-0021)
第52巻 p.64-66 ページ画像

日本無線  第八六号創立拾周年記念特輯号・第五三―五六頁昭和一〇年一一月
 ○「我社の創立されるまで」回顧座談会
    三、特別法制定に至る事情
      通信専掌権の解釈
畠山氏 当時逓信省としましては、数年間に亘つて海外無線電信局の建設の予算を要求されたのでありますが、大蔵省は其当時の財政状態に鑑みて逓信省の予算の要求がありましてもなかなか之を容れて呉れませぬ。私が逓信本省に這入ります迄は既に二回程要求されたのですが、いづれも大蔵省の予算査定の為に実現出来なかつたのであります。
  当時の無線電信計画は国際通信用の無線電信として対米第二局・対欧局・対南洋局・対極東局の建設、国内関係に於きましては植民地通信用の無線電信局の建設と云ふ二つの計画を持ち無線電信計画であつたと記憶して居ります。従つて要求予算額も相当多かつたものでありますから、当時の財政上此予算の要求を容れることが出来なかつたものではないかと思ひます。併しながら予算が通らなかつたからと云つて、何時迄も海外通信用の無線電信局の建設を延すと云ふことは、通信の実情から申しましても出来ないことでありますし、又電波長獲得の関係から申しましても、時日を遷延することが出来なかつたものでありますから、政府の予算に拘束されない方法で此問題を解決すると云ふことが極めて必要になつて来たのであり
 - 第52巻 p.65 -ページ画像 
ます、それには結局或る形式で之を民間の事業に移すと云ふことが適当である。それと丁度内田さん等の以前から御計画になつて居られた、日米電信株式会社の出願と趣旨が合ふ訳でありますから、海外無線電信局の建設の為めに一つの会社を拵へてやつたらどうかと云ふことに、逓信省が考を決めるやうになつたのであります。
  通信事業が政府の専掌に属すると云ふことは、既に電信法に依つて決めて居りますが、其通信専掌権の解釈が通信のトラフイツク、即ち通信それ自体を指すのであつて、設備は仮令民間のものであつても、通信自体さへ政府の方に保留して居るならば、通信専掌権の趣旨に聊かも抵触せぬ、斯う云ふ法律上の解釈も取りました。又此点に付きましては法制局でも何等違つた考を持つて居りませぬ。其処で設備を民間の会社に於て実施して、其設備を利用して通信を政府自身に於てやると云ふことが、法律の方から言ひましても又当時の財政の方から言ひましても、日本の海外通信用の無線電信設備を完備するに付ての唯一の方法であつたのであります。
  其処で内田さんの出願されて居つた電信会社の計画のあるのを幸として、今申しました目的を有する会社を拵へたならば、此問題も解決出来ると云ふことになつたのであります。
      特別法を必要とする理由
畠山氏 所が其会社が新しく出来ると、対米通信用に其当時政府が使つて居つた磐城無線はどうなるか、若し政府の局として其儘残して置くならば、一方に於て民設の無線電信局があり、他の一方に於て政府の無線電信局がある。斯う云ふことになつて統一が取れないことになりますから、若し会社を拵へるならば、現在政府の設備にかかる磐城無線電信局も、新しい会社に手渡してしまつた方が宜くはないかと云ふので、結局磐城無線電信局の現物出資に依る特殊会社を拵へると云ふことになつたのであります。
  其処で政府が現物出資をやる関係上、どうしても特別の法律を要する。即ち特殊会社を拵へると云ふことに付て、現物出資と云ふ関係上特別法が必要になつたのであります。
      電信課から外国電信課へその主管を移す
畠山氏 以上の如く我々は其当時海外通信用の無線電信局建設と云ふ問題を解決するに付ては、特別法を作つて特殊会社を設立すると云ふことが、唯一の解決の途であると考へましたので、当時日米電信会社の発起人の主な御方であつた内田さん、東郷さん等と非公式に色々折衝した訳であります。さうした所が内田さん等も、自分等の会社の計画は要するに国際通信の機能を円満にすると云ふことが目的であるから、純粋の民設会社でなくても宜しい。特殊会社でも差支ない、畢竟通信の輻輳を救済すると云ふ目的を解決するならば宜からうと云ふことでありましたから、特殊会社の設立に進むと云ふことに付て御賛同を得た訳であります。
  尚其当時此問題は通信局の電信課でやつて居つたものでありますが、通信の内容が全部海外通信を目的とする仕事でありますから、其主管を外国電信課(当時課長は吉野君でありました)の方に移し
 - 第52巻 p.66 -ページ画像 
まして、吉野君に相談して、主として吉野君の手で一切の準備を進行したのであります。
      逓信省としては最初の特殊会社
畠山氏 此特殊会社を拵へると云ふことは逓信省としては今迄其例がなかつたのでありますから、他の省で設立いたしました日本銀行・正金銀行・満鉄・東拓其他の特殊会社・特殊銀行等の例を調べて、此間随分長いこと手数が掛つたやうな訳であります。逓信省としては是が一番最初の特殊会社でありまして、其後出来ました日本航空輸送株式会社・国際電話株式会社等は、日本無線電信会社の法令に型取つてやつたのであります。
  併し此特殊会社を創立すると云ふことに付きましては、是は逓信省だけではいけないのでありまして、現物出資、政府の配当制限等いづれも特別法の根本条件になる訳でありますが、此点に付きましては政府部内に於て大蔵省と協議して其同意を得ることが絶対に必要でありますので、逓信省に於きまして方針を決めましてから、大蔵省との間に此問題の進行に付て屡々協議を重ねた訳であります。幸にして大蔵省も逓信省の特殊会社を造ると云ふことに付きまして同意されたのであります。而して其実施に付きましては法律案を拵へなければならぬので、逓信省に於て法律案を拵へて大蔵省へ協議を進めたのであります。
      食事抜きで夜半まで
畠山氏 之に付て大蔵省との間に最も問題になりましたのは、交付金の割合と磐城無線電信局の評価の問題でありますが、結局国策の為に日本無線電信会社なる特殊会社を拵へると云ふことに進むのでありますから、理窟のつく範囲内に於て、出来るだけ妥当なる方針を取ることが必要であると云ふことを頻りに主張したのであります。其結果交付金の割合は国際通信の日本取得分の百分の九十に定めると云ふこと、並びに磐城無線電信局の評価は、大体建設費を基準として定めると云ふことに、大蔵省は同意することになつたのであります。此大蔵省との交渉は大正十四年の一月早々でありまして、議会が将に開かれんとする時で大蔵省当局が非常に忙しかつたものですから協議が急に片附かず、或程度時日が掛つたものでありまして議会に入つてから此協議を続けざるを得なかつたのであります。御承知の通り大蔵省は議会に於ては非常に忙がしい所であります、之が為に大蔵省との協議は昼間やらないで、議会の議事が済んでから夜になつて大蔵省の主計局に我々が参りまして協議を進めたのであります。大抵皆食事抜きにして夜半十二時頃迄掛つたやうな次第で大蔵省当局には随分御迷惑をかけたのであります。大蔵省との間に此法律案に付きましての協議が出来ましてから、設立常務委員たる内田嘉吉氏・中島男爵・東郷男爵・岩原謙三氏・門野重九郎氏・串田万蔵氏に法律案の内容を示して御了解を得たのであります。
○下略



〔参考〕日本無線電信会社創立書類(DK520007k-0022)
第52巻 p.66-71 ページ画像

日本無線電信会社創立書類         (渋沢子爵家所蔵)
 - 第52巻 p.67 -ページ画像 
(謄写版)
(表紙)


  国際無線電信局増設ノ急務


      目次
  一、長距離無線通信技術ノ発達
  一、電波長獲得ノ必要
  一、直接通信ノ必要
  一、海外電報増加ノ大勢
  一、民設ノ必要
  一、世界各国国際無線電信局一覧
  一、建設ヲ発表セラレタル国際無線電信局一覧

    国際無線電信局増設ノ急務
一、長距離無線通信技術ノ発達
  無線電信ノ発明ハ極メテ近年ノコトニ属ス、即チ一八九六年(明治二十九年)伊太利ノ「マルコニー」氏初メテ無線電信ニ依ル通信法ヲ発明セル以来僅カニ三十年ニ過キス、無線電信発明当初ニ在リテハ単ニ船舶ト陸地トノ間ノ通信ニ利用セラルルニ過キサリシカ、輓近無線電信技術ノ跳躍的進歩ヲ遂クルヤ、其ノ利用ノ範囲拡大セラレ、啻ニ船舶陸地間通信ニ利用セラルルノミナラス、各国ハ競フテ陸地相互間ノ長距離通信ニ之ヲ利用スルニ至レリ、其結果従来海底線若ハ陸線ニ依リタル国際電信ハ、翕然トシテ無線電信ニ集中セラルルノ観ヲ呈シ、国際電信界ニ一大変革ヲ招来シ、世界各国ハ其ノ国際電信政策ヲ更始一新スルノ要アルニ至レリ、蓋シ自然ノ勢ト謂ハサルヘカラス
一、電波長獲得ノ必要
  長距離無線電信ニ使用セラルヘキ電波長ハ、実験上八千米乃至三万米突ノ長サヲ有スルモノヲ必要トス、然カモ各局相互間ノ混信ヲ防遏スルノ為之ヲ適当ニ按配スルニ於テハ、前記八千米突乃至三万米突ノ範囲内ニ於テ使用シ得ヘキ波長数ハ百三十四箇トス、然レトモ実際通信上能率最モ良好ナル電波長ハ一万米突乃至二万米突ノ間ナルヲ以テ、此ノ範囲内ニ於テ使用シ得ヘキ波長数ハ僅カニ六十九箇ニ過キス、然リ而シテ八千米突乃至三万米突ノ範囲内ニ於テ使用シ得ヘキ波長数前記百三十四箇ノ内、華府国際電気通信予備会議ニ於テ日・英・米・仏・伊五大国ニテ要求セルモノ既ニ百十一箇ニ達シ、之ニ其ノ他諸国ノ要求ヲ加フルトキハ余ス所極メテ僅少ナリ、又優良波長数六十九箇ハ、其内既設局ノ実際使用セルモノ四十六箇ニ達シ、又現在計画中ノ局ニ要スヘキモノ甚多ク、到底今後世界各国ノ要求全部ヲ容ルル余地ナキナリ
  而シテ大正九年華府ニ開催セラレタル前記国際電気通信予備会議
 - 第52巻 p.68 -ページ画像 
ノ後、巴里ニ開カレタル国際無線技術委員会ニ於テモ、各国ノ要求容易ニ一致セス、結局近ク開催セラルヘキ国際無線電信本会議ニ於テ更ニ討議スルコトニ決定シタリ
  而シテ一面世界各国ハ最近数年来、競フテ長距離無線局ノ増設ヲ急キツツアル現況ナルヲ以テ、遠カラス適当ナル電波長ハ事実上是等諸国ニ依リ先占セラルルニ至ル惧アリ、即チ現ニ英・米・独仏ヲ始メ和蘭・瑞典・波蘭・伊太利・墺地利・西班牙・丁抹・葡萄牙及露西亜等ノ諸国ニ於テモ、或ハ既ニ大無線局ノ建設ヲ完成シ、或ハ目下建設シツツアルヲ以テ、目下計画中ノ無線局ニ使用スヘキ優良波長数ノ残数前記二十三箇ハ、各国争奪ノ姿ニ在リ、従ツテ帝国ニ於テモ大無線局ノ建設ヲ急キ、帝国ノ地理的関係上最モ適当ナル一万米突乃至二万米突ノ範囲内ノ波長ヲ獲得シ、国際無線通信上ノ権利ヲ確保スルコトハ国策上喫緊ノ急務ナリト謂フヘシ
一、直接通信ノ必要
  凡ソ二国間ニ往復スル電報ニシテ、直接通信ニ依ル場合ト第三国ノ仲介ニ依ル場合トニ依リ、電信ノ三則タル速達・正確、及秘密確保上差異アルヘキコトハ想像スルニ難カラス、即チ第三国電信事業ノ仲介ニ依ル場合ニ於テハ、第三国ノ為其通過電報ニ対シ、種々不利益ナル取扱ヲ受ケ、政治上・経済上大ナル不利ヲ蒙リタル実例ニ乏シカラス、殊ニ欧洲大戦ノ際、此ノ苦シキ経験ヲ嘗メタル各国ハ、実行上比較的容易ナル長距離無線電信ノ方法ニ依リ一日モ速カニ対手国ト直接通信ノ途ヲ開拓セント焦慮シツヽアルハ寔ニ所以アリト謂フベシ
  翻ツテ本邦ニ於ケル対外電信関係ニ一瞥ヲ加ヘンニ、米国及支那ノ一部ニ対スルモノヲ除キ、相手国ト直接通信ノ途ナク、大部分ハ第三国海底線事業ノ仲介ヲ経ルヲ要スル現状ニ在リ、即チ北米合衆国トノ間ハ、米国商業太平洋電信会社海底線ト帝国政府海底線ト、小笠原島ニ於テ接続連絡セラルル外、磐城無線局ト米国無線会社ノ布哇局及桑港局ト連絡シ、何レモ日本・合衆国間ニ直通通信ノ途アリ、然レトモ其ノ以外ノ南米及加奈陀方面トノ間ニハ直通通信ノ途ナク、何レモ米国線ヲ経由スルモノトス、支那方面ニ対シテハ、長崎上海間・大連芝罘間・佐世保青島間及台湾川石山間ニ帝国政府所属海底線(佐青線ハ日支共有)アルモ、多クハ一局部ノ通信ニ限定セラレ居リ、支那内地ト日本内地間ニ発著スル電報ハ、殆ト全部長崎上海間ノ大北電信会社所属線ヲ経由スルヲ要スルモノト謂フヲ得ヘシ、欧洲方面ハ勿論、支那以外ノ極東南洋方面ニ対シテモ多クハ直通通信ノ途ナク、前記大北電信会社及大東電信会社等ノ海底線ヲ経由セサルヲ得サルモノトス、斯クノ如キハ我カ政治上将又経済上不利不便甚大ニシテ、到底忍フ能ハサル所ナルヲ以テ、速ニ第三国電信事業ノ仲介ヲ離レテ独立不覊ノ直接通信方法ヲ講セサルヘカラサルナリ、然ルニ今俄カニ海底線ヲ増設スルコトハ線条ノ製作能力ヨリ謂フモ、将又経費及途中陸揚権獲得ノ困難ナル点等ヨリ見ルモ、実行極メテ困難ナリ、
 - 第52巻 p.69 -ページ画像 
故ニ勢ヒ之カ為ニハ無線局ヲ増設シテ、対手国ト直接通信ノ途ヲ開拓スル外ナキナリ
一、海外電報増加ノ大勢
  又一面帝国ニ発著スル海外電報ノ数量ヲ検スルニ、各方面共年々増加ノ大勢ヲ示シ、特ニ対米通信ノ如キハ其傾向顕著ナルモノアルヲ以テ、今後数年ヲ出テスシテ現在設備ヲ以テ消化シ能ハサルニ至ルヘキ実状ニ在リ
一、民設ノ必要
  以上ノ如ク、電波長ノ獲得及直接通信ノ開拓並電報数量ノ増加ニ対スル対応策トシテ、帝国ニ於テモ速カニ大無線局増設ノ必要アル所、所要ノ無線局建設ノ為ニハ数千万円ノ巨額ノ資本ヲ要シ、政府財政ノ現状ヨリ推セハ、近キ将来ニ於テ大無線電信設備ノ拡張ヲ実施スルコト殆ト不可能ト云フヘク、而モ大無線局ノ建設ハ前述ノ如ク焦眉ノ急務ニシテ、一日モ之ヲ緩フスヘカラサルモノアルヲ以テ、機宜ノ方法トシテハ民間ノ資金ニ依リ之カ増設ヲ計ルノ外ナシ

図表を画像で表示世界各国国際無線電信局(既設ノモノ)

                    世界各国国際無線電信局(既設ノモノ)  所属国  位置          局名          供用電波長(米突)  対手局     対手局位置  英国   埃及          カイロ          一〇、〇〇〇   リーフィルド   英国オックスフォード附近                                一三、三〇〇  〃    ウヱールス       カーナーヴォン      一四、二〇〇   マリオン     米国ボストン附近  〃    オックスフォード附近  リーフィルド       一三、〇〇〇   カイロ      埃及                                一五、五〇〇  米国   パナマ         バルボア         一〇、五一〇   サンヂエゴ    北米カリフォルニア                                一七、一四五  〃    西印度ポルトリコ    ケイエイ         一〇、一一〇   バルボア     中米パナマ                                一〇、五九〇  〃    サンフランシスコ附近  メーアアイランド     一〇、五〇〇   ヘーイア     布哇ホノルル附近  〃    ニュージャーシー州   ニューブランスウィック  一三、六〇〇   カーナーボン   英国ウヱールス                                一一、五〇〇  〃    ボストン附近      マリオン         一一、六二〇   サンタシーズ   巴里附近  〃    比律賓マニラ附近    キャビテ         一三、九〇〇   パールハーバー  布哇ホノルル附近                                         グアム      大洋洲  〃    布哇ホノルル附近    パールハーバー      一二、〇九〇   キャビテ     比律賓マニラ附近                   磐城                             日本  〃    布哇ホノルル附近    カフク          一六、三〇〇   ボリナス     サンフランシスコ附近                                一六、九七五   磐城       日本  以下p.70 ページ画像   米国   ロングアイランド島   ロッキイポイント     一六、四六五   ナウエン     伯林附近                                一九、二〇〇   アイルヴェーゼ  独逸ハノーバー附近  〃    大洋洲   グァム                一一、五〇〇   キャビテ     比律賓マニラ附近                                一三、九〇〇   パールハーバー  布哇ホノルル附近  〃    ニュージャーシー州   タッカートン       一五、九〇〇   スタヴァンゲル  諾威西南端                                一六、八〇〇   カーナーヴォン  英国ウヱールス  〃    サンフランシスコ附近  ボリナス         一三、三一〇   カフク      布哇ホノルル附近  〃    メーリーランド島    アンナポリス       一七、一五〇   ?  仏国   仏国          ボルドウ         二三、四五〇   仏国殖民地    主トシテ遠距離ニアル仏国殖民地(内一ケ二万米突以上)                                一八、九四〇   其他  〃    仏国          リオン          一五、三〇〇    〃       主トシテ近距離ニアル仏国殖民地  〃    巴里附近        サンタシーズ       一九、八〇〇   マリオン     米国ボストン附近                                一四、三〇〇  〃    西部亜弗利加      バマコ          一一、五〇〇   ボルドウ     仏国  〃    仏領印度支那      サイゴン         一五、五〇〇   サンタシーズ   仏国(内一ケ二万米突以上)                                二一、四〇〇  〃    シリア         ベイルーズ        一〇、二〇〇   サンタシーズ   巴里附近  〃    マダガスカル島     タナナリーヴ       一五、七五〇   ボルドウ     仏国  伊国   伊太利         ローマ          一一、〇〇〇    ?  〃    伊太利ローマ附近    コルタノ         一四、八〇〇   米国                                一九、九七〇  独逸   伯林附近        ナウエン         一八、〇五〇   ロッキイポイント 米国ロングアイランド島                                一三、〇〇〇  〃    ハノーバー附近     アイルヴェーゼ      一四、六〇〇   コラムヒル    米国ロングアイランド島  諾威   諾威西南端       スタヴァンゲル      一二、一四〇   タッカートン   米国ニュージャーシー州  波蘭   波蘭          ワルソウ         一八、一五〇   米国  和蘭   ヘーグ附近       クートヴヰーク      一二、五〇〇   マラバール    蘭領東印度ジャヴァ島                                一六、八〇〇  〃    蘭領東印度ジャヴァ島  マラバール        一二、〇〇〇   クートヴヰーク  和蘭ヘーグ附近                                一五、〇〇〇  亜爾然丁 亜爾然丁        ヴエノスアイレス     一六、八〇〇   サンタシーズ   巴里附近                                一二、五〇〇   ロッキイポイント 米国ロングアイランド島                                         ナウエン     伯林附近  支那   支那          北京           一六、一五〇   未定  以下p.71 ページ画像   日本   日本          磐城           一四、六〇〇   カフク      布哇ホノルル附近                                一五、八〇〇   ココヘット     〃                                         パールハーバー   〃  〃    南洋群島パラオ島    パラオ          一〇、〇〇〇   東京  瑞典   瑞典          ストックホルム      不明       不明       (最近開局)  計    局数  三六       波長数 四六 



    建設ヲ発表セラレタル国際無線電信局(○印ハ建設進行中)

 国名   建設地         所在地      備考
英国  ○ラグビー        英本国      此ノ外英国本国ニ四局建設ノ予定ナリ
 〃   ブーナ         印度
 〃   シンガポール      海峡殖民地
 〃   メルボルン       濠洲
 〃   ナイロビ        中部亜弗利加
 〃   ウヰドウック      南部亜弗利加
 〃   ヴアンクーヴァー    加奈陀
 〃   クリピューヘル     南部亜弗利加
 〃   モントリオル      加奈太
仏国   サイダ         アルヂェリア
 〃  ○ブラザウイル      中部亜弗利加
 〃   ヂブーテイ       亜弗利加ソマリー
 〃   ダカール        西部亜弗利加
 〃   マルティニーク     西印度
 〃   ヌーメア        ニューカレドニア
 〃   パピーテ        南太平洋タヒチ島
独逸  ○ヘルツオクシュタンド  独逸ミュニッヒ附近
白耳義 ○ルュイスルドウ     白耳義ブラッセル附近
伯刺西爾 ペルナムビュコ     伯刺西爾
 〃   リオデジャネイロ    〃
露西亜  ホディンスク      莫斯科附近
米国   マリオン        ボストン附近    従来ノ設備ノ外ニ増設
日本  ○対欧局         名古屋附近
 計二十三局                     使用波長ノ多クハ一万乃至二万米突ノモノトス