デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.7

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

2章 交通・通信
4節 通信
1款 日本無線電信株式会社
■綱文

第52巻 p.71-100(DK520009k) ページ画像

大正14年6月22日(1925年)

是日栄一、設立委員長トシテ当会社第一回設立委
 - 第52巻 p.72 -ページ画像 
員総会ヲ、日本工業倶楽部ニ招集ス。


■資料

日本無線電信会社創立書類(DK520009k-0001)
第52巻 p.72 ページ画像

日本無線電信会社創立書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
敬啓 時下益御清穆奉賀候、然者近日日本無線電信株式会社設立委員総会開催致度、右準備ノ為御協議可仕、来ル六月六日(土曜日)特別委員会相開キ候ニ付、同日正午麹町区丸ノ内銀行倶楽部ヘ御来会被成下度右御案内迄得貴意候 拝具
  大正十四年六月三日  日本無線電信株式会社
          設立委員長 子爵 渋沢栄一
 猶御来否トモ別紙御回答相煩度奉存候


日本無線電信会社創立書類(DK520009k-0002)
第52巻 p.72-73 ページ画像

日本無線電信会社創立書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
拝啓 愈々御清適奉慶賀候、陳者予テ御案内申上候通リ六月二十二日東京市丸ノ内日本工業倶楽部ニ於テ、日本無線電信株式会社第一回設立委員総会開催、左記諸項別紙原案○次掲ト同ジノ通決定相成候
  一 設立委員会規則
  二 設立趣意書
  三 起業目論見書
  四 定款
  五 収支計算書
  六 特別委員ニ左記事項委任ノ件
    (一)定款認可申請ノ件
    (二)株主募集及株式割当ノ実行ニ関スル件
    (三)株式申込証ヲ主務大臣ニ提出シ検査ヲ受クル件
    (四)各株式ニ付第一回ノ払込ヲ為サシムル件
    (五)創立総会招集ノ件
    (六)取締役ニ事務引渡ノ件
    (七)復代理人選任ノ件
    (八)其他設立ニ関シ必要ナル事項
尚別紙株主募集及株式割当方法ニ付テハ、其ノ第一項ヲ除キ全部原案通リ決定シ、第一項ニ関シテハ特別委員会ノ詮議ニ譲ルコトトナリ、同月廿五日丸ノ内銀行集会所ニ於ケル特別委員会ニテ、左記ノ如ク修正決定相成候
 一、株式総数四拾万株中、政府ノ現物出資ニ対シテ四万六千株ヲ提供シ、設立委員ニ於テ拾万四千株ヲ引受ケ、残余ノ弐拾五万株ヲ一般公衆ヨリ募集スルコト
又同日ノ特別委員会ニ於テハ、株主募集ノ実行方法ニ関シ左記ノ通リ決定致候
 一、募集公表期ハ、設立委員引受株数ニ関シ委員間ノ了解成立後協議ノ上適当ノ時期ヲ決定スルコト
 二、募集期間ヲ約二週間トスルコト
 三、申込取扱銀行ハ左記ノ通リトスルコト
 - 第52巻 p.73 -ページ画像 
    第一銀行・安田銀行・三井銀行・三菱銀行・第十五銀行及住友銀行ノ各本支店及出張所
 四、募集公告及勧誘状ハ別紙案ノ通リトスルコト
右御報告旁々得貴意候
 追テ前記ノ特別委員ニ委任ノ件ニ付テハ、設立委員各位ノ御委任状ヲ要スル儀ニ付、別紙委任状用紙○略ス壱葉同封仕候間乍御手数御記名御捺印ノ上折返シ御回送相煩度奉願上候 敬具
  大正十四年六月卅日   日本無線電信株式会社
          設立委員長 子爵 渋沢栄一
              (宛名手書)
         設立委員  子爵渋沢栄一殿
  ○栄一、病気引籠中ニ付キ右設立委員総会ニ出席セルヤ否不明ナリ。


日本無線電信会社創立書類(DK520009k-0003)
第52巻 p.73-79 ページ画像

日本無線電信会社創立書類       (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
(表紙)

   日本無線電信株式会社
    第一回設立委員総会附議事項

    第一回設立委員総会附議事項
一、設立委員会規則
二、会社定款作成ノ件
三、設立趣意書・起業目論見書及収支計算書作成ノコト
四、募集株式割当及株主募集方法ノ件
五、特別委員ニ左記事項委任ノ件
 (一)定款認可申請ノ件
 (二)株主募集及株式割当ノ実行ニ関スル件
 (三)株式申込証ヲ主務大臣ニ提出シ検査ヲ受クル件
 (四)各株式ニ付第一回ノ払込ヲ為サシムル件
 (五)創立総会招集ノ件
 (六)取締役ニ事務引渡ノ件

    日本無線電信株式会社設立委員会規則案
第一条 日本無線電信株式会社設立委員会ハ日本無線電信株式会社設立委員ヲ以テ組織シ、会社ノ設立ニ関シ必要ナル事項ヲ調査審議スルモノトス
第二条 委員会ハ委員長之ヲ招集ス
第三条 委員会ノ議長ハ委員長之ニ当ル
第四条 議事ハ出席シタル委員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決シ、可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
第五条 議事及議案ハ総テ秘密トス、新聞紙其他ニ発表スヘキ事項ハ委員長之ヲ定ム
第六条 議長ハ必要アリト認ムルトキハ、委員ニ非サル者ヲ議場ニ出席セシメ其ノ意見ヲ聴取スルコトヲ得
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第七条 委員補助ハ会議ノ顛末ヲ記録シ、議長及出席委員二名以上ノ署名捺印ヲ経テ之ヲ保存スヘシ
第八条 委員長ハ必要アリト認ムルトキハ、特別委員ヲシテ会社設立ニ関シ必要ナル事項ヲ調査審議セシムルコトヲ得
第九条 委員会ニ関スル規定ハ特別委員会ニ之ヲ準用ス
第十条 本規則ニ依リ委員長ノ行フヘキ職務ハ委員長事故アルトキハ副委員長之ヲ行フ
 委員長・副委員長共ニ事故アルトキハ、委員長ノ指命シタル委員其ノ職務ヲ行フ
第十一条 本規則ニ明文ナキ事項ハ委員長ノ定ムル所ニ依ル

    日本無線電信株式会社定款案○略ス

    日本無線電信株式会社設立趣意書案
帝国ノ対外電信体系ハ、其ノ大部分第三国ノ電信事業ニ依リテ支配セラルルノ現状ニ在リ、之カ為ニ往々其ノ通過電報ニ対シテ不利益ナル取扱ヲ受ケ易ク政治上経済上洵ニ忍フヘカラサルモノアリ、而シテ第三国ノ覊絆ヲ脱シ対外通信上ニ於ケル帝国ノ自主的地位ヲ確保センカ為ニハ、経費其他ノ関係ヨリ無線電信ノ増設ニ依ルヲ以テ最モ捷径ト為ササルヘカラス、且夫レ海外電報ノ数量ハ各方面共ニ年々累増ノ勢ニ在リ、殊ニ対米通信ニ於テ然リトスルカ故ニ、向後久シキヲ出テスシテ必然現在ノ設備ヲ以テシテハ不十分ナリトスルニ至ルヘク、無線局ノ増設ハ今日ニ於テ最モ適切ナル帝国ノ経済的方策ナリト信ス
現今国際電信ニ使用シ得ヘキ電波長八千メートル内至三万メートルノモノ、其数百三十箇内外ニシテ、通信上能率最モ高キ一万メートル乃至二万メートルノモノハ僅ニ六十九個ニ過キス、而シテ之ニ対スル各国ノ要求未タ容易ニ其ノ一致ヲ見ルコト能ハス、更ニ近ク開催セラルヘキ国際無線電信本会議ニ於テ、討議セラルヘキコトニ決定シアリ、而シテ海外ノ諸国年来競ヒテ国際通信用大無線局ノ建設ヲ急キツツアルノ実情ニ対シ、帝国亦速ニ大無線局ノ施設ニ着手スルニ非サレハ、遂ニ或ハ国際無線通信上ノ権利ヲ喪失シテ、優良ナル電波長ノ獲得ニ対シテ亦一指ヲモ染ムヘカラサルニ至ルナキヲ保スヘカラス、然ルニ帝国政府財政ノ現状ハ、遽ニ大無線局建設ノ為ニ巨額ノ費用ヲ許シ難キモノアリ、政府ハ此ノ内外ノ事局ニ対シテ深ク察スル所アリ、即チ民設事業ノ設立ニ依リテ、速ニ我カ無線電信設備ノ完成ヲ期スル方針ヲ定メ、玆ニ日本無線電信株式会社設立ノ計画ヲ見ルニ至レリ
無線電信ノ発明以来未タ僅ニ三十年ニ過キサルモ、其技術上ニ於ケル進歩ニ伴フテ、之カ利用ノ範囲ハ次第ニ拡大セラレ、啻ニ海上ニ於ケル無線通信ノミナラス、今ヤ陸上相互間ニ於ケル通信ニ於テモ、各国相競ヒテ其ノ固有ノ世界無線電信網ヲ創設セントシ、近キ将来ニ於テ列国相互ノ間ニ、尽ク直通ノ無線電信ヲ有セサルナキニ至ラントス、而シテ世界ニ於ケル長距離無線通信ノ技術ハ、累年改良ニ改良ヲ加ヘラレ、進歩ニ進歩ヲ来シ、従来無線電信ニ於ケル技術的欠陥トシテ認メラレタル所ノモノ、既ニ其ノ大半ハ除去セラレントシ、随テ旧来ノ
 - 第52巻 p.75 -ページ画像 
海底線ハ今ヤ殆ト低廉ナル無線電信ノ競争ニ耐ヘス、著々其地位ヲ侵蝕セラルルノ状況ニシテ、現ニ四・五年前大西洋横断ノ国際通信ニ於テ、僅ニ其ノ五パーセントニモ達セサリシ無線電信ハ、今日殆ト其ノ一半ヲ制セントスルノ進境ヲ示スニ至レリ
欧米諸国ニ於テモ概ネ亦既ニ無線電信事業ノ民営ヲ特許シ其成績頗ル看ルヘキモノアリ、随テ向後各国間ノ折衝ニ於テ大ニ民営ヲ便宜ナリトスル所以ノモノ蓋シ自ラ明ナリ、冀クハ大方ノ士政府ノ意ノ存スル所ヲ諒トセラレ、別冊定款・起業目論見書・収支計算書及参考資料等参照ノ上、幸ニ本会社ノ創立ニ対シテ格別ノ賛助ヲ与ヘラレンコトヲ

    日本無線電信株式会社起業目論見書案
(一)当会社ハ大正十四年三月二十八日法律第三十号ヲ以テ、政府ノ発布ニ係ル日本無線電信株式会社法ニ拠リ、資本金弐千万円ヲ以テ外国無線電報ノ取扱ノ為ニスル無線電信ノ設備及其ノ附属設備ヲ為シ、之ヲ政府ノ用ニ供スルモノトス
(二)当会社ハ副業トシテ主務大臣ノ命令アルトキ、又ハ其ノ自ラ欲スル場合ニ於テハ主務大臣ノ認可ヲ受ケ、左ノ事業ヲ営ムモノトス
 一、外国ニ於ケル無線電信又ハ無線電話事業ノ経営
 二、外国ニ於ケル無線電信電話設備ノ工事請負又ハ貸付
 三、無線電信電話用品ノ製造販売
 四、前記諸事業ニ対スル投資
(三)当会社ハ政府ヨリ、其ノ所有ニ係ル福島県原ノ町及富岡町所在ノ磐城局設備、及其附属設備、並対欧洲局建設ノ為既ニ政府ニ於テ購入シタル、愛知県下及三重県下所在ノ土地ノ現物出資ヲ受ケ、右出資額ニ相当スル当会社ノ全額払込株式ヲ、政府ニ提供スルモノトス
(四)当会社ハ左表○起業費年度別表略スノ通リ、七ケ年内ニ工事完成ノ予定ヲ以テ初年度乃至第四年度ノ四箇年計画ノ下ニ、欧洲主要国ノ局ト交信ノ目的ヲ以テ対欧局ヲ建設シ、第四年度及第五年度ノ二箇年内ニ、米国「ラジオ・コーポレーシヨン」所属局ト交信ノ目的ヲ以テ対米第二局ヲ、更ニ第五年度乃至第七年度ノ三箇年内ニ、支那・濠洲・印度其他南洋諸国及西比利亜等ト交信ノ目的ヲ以テ南洋極東局ヲ建設シ、又中央受信局ニ付テハ、初年度及第二年度ノ二箇年内ニ対米通信用ノモノヲ建設シ、第五年度ニ於テ対南洋極東通信用ノモノヲ完成スルノ計画ヲ樹テタリ
(五)株金払込ノ時期及其金額ハ左ノ通リトス
  政府所有株式              仮リニ金弐百参拾万円トス

 
                       (全額払込株式四万六千株)
  創立当初       一株ニ付拾弐円五拾銭  金四百四拾弐万五千円
  創立第二年度下半期  一株ニ付拾円      金参百五拾四万円
  創立第三年度下半期  一株ニ付六円      金弐百拾弐万四千円
  創立第四年度下半期  同           金弐百拾弐万四千円
  創立第五年度上半期  一株ニ付拾円      金参百五拾四万円
  同年度下半期     一株ニ付五円五拾銭   金壱百九拾四万七千円

 但シ会社内外ノ事情ニ由リ、借入金又ハ社債ヲ以テ株金ノ払込方法ニ代ユルコトヲ得ルモノトス
 - 第52巻 p.76 -ページ画像 
(六)起業費予算ニ対スル資本金ノ不足額ハ、事業ノ進捗ニ伴ヒ増資社債又ハ借入金ノ方法ニ依リテ之ヲ支弁スルモノトス

    日本無線電信株式会社収支計算書案
      収支計算書(政府ノ原案ニ依ルモノ)

図表を画像で表示収支計算書(政府ノ原案ニ依ルモノ)

 年度    払込資本額             収入          支出           純益金        政府所有株ニモ配当ヲナス場合ノ歩合   民間所有株ニノミ配当ヲナス場合ノ歩合   次年度ヘ繰越 初年度  (政府出資 二、三〇〇、〇〇〇)   一、六二八、一三九   一、二三九、八二三     三八八、三一六                         、八〇〇               三四、三一六            四、四二五、〇〇〇 二年度  (同    二、三〇〇、〇〇〇)   一、七四五、三九七   一、一〇四、八一三     六四〇、五八四                         、八〇〇               三七、七〇〇            七、九六五、〇〇〇 三年度  (同    二、三〇〇、〇〇〇)   一、八六二、六五五   一、〇六四、五二〇     七九八、一三五                         、八〇〇               二八、七一五           一〇、〇八九、〇〇〇 四年度  (同    二、三〇〇、〇〇〇)   二、九八〇、二八七   一、七九五、七七四   一、一八四、五一三                         、八〇〇              二三六、一八八           一二、二一三、〇〇〇 



図表を画像で表示--

  第五年度以降政府、民間所有株ニ対シ一株ニ同率ノ配当ヲナス 年 度   払込資本額       収 入        支 出        純益金        社債      配当率    次年度ヘ繰越 五年度   二〇、〇〇〇、〇〇〇  三、七九八、一九七  一、九六三、〇四五  一、八三五、一五二  百万円      、八五〇  三七一、三四〇                                                    (九朱利附)                                                    八拾七万円 六年度   二〇、〇〇〇、〇〇〇  四、〇九九、五三五  二、四六三、三六七  一、六三六、一六八  計        、九〇〇  二〇七、五〇八                                                    百八拾七万円                                                    百四拾参万円 七年度   二〇、〇〇〇、〇〇〇  四、二三九、八八六  二、五二九、六九一  一、七一〇、一九五  計        、九五〇   一七、七〇三                                                    参百参拾万円 八年度   二〇、〇〇〇、〇〇〇  五、三三五、三五六  三、〇六五、〇七二  二、二七〇、二八四    〃     一、〇〇〇  二八七、九八七 九年度   二〇、〇〇〇、〇〇〇  五、四八〇、八一三  三、〇五九、五八七  二、四二一、二二六    〃     一、二〇〇  三〇九、二一三  第十年度以降政府ヘ公納金ヲナス                                           配当率    政府公納金額 十年度   二〇、〇〇〇、〇〇〇  五、六二六、二二九  三、〇五四、〇九九  二、五七二、一三〇    〃     一、三二〇  二四〇、六七〇 



  備考 起業第五年度以降公称資本金額ニ対スル不足金参百参拾万円ハ年率九朱払ノ社債ヲ以テ支弁スル計算ヲ立テタリ
 - 第52巻 p.77 -ページ画像 
  無線電報料金本邦収得分予想表

図表を画像で表示無線電報料金本邦収得分予想表

 年 度   対米第一第二局    対欧洲局       対南洋極東局       計        同上十分ノ九(会社収入) 残十分ノ一(政府収入)               円          円          円          円          円          円 初年度   一、八〇九、〇四三                        一、八〇九、〇四三  一、六二八、一三九    一八〇、九〇四 二年度   一、九三九、三三〇                        一、九三九、三三〇  一、七四五、三九七    一九三、九三三 三年度   二、〇六九、六一七                        二、〇六九、六一七  一、八六二、六五五    二〇六、九六二 四年度   二、〇七〇、三〇三  一、二四一、一二七             三、三一一、四三〇  二、九八〇、二八七    三三一、一四三 五年度   二、九七二、三七〇  一、二四七、八四九             四、二二〇、二一九  三、七九八、一九七    四二二、〇二二 六年度   三、一二〇、六三〇  一、四三四、四〇九             四、五五五、〇三九  四、〇九九、五三五    四五五、五〇四 七年度   三、二六八、八九〇  一、四四二、〇九四             四、七一〇、九八四  四、二三九、八八六    四七一、〇九八 八年度   三、四一七、一五〇  一、四四九、七七九  一、〇六一、二四四  五、九二八、一七三  五、三三五、三五六    五九二、八一七 九年度   三、五六五、四一〇  一、四五七、四六三  一、〇六六、九一九  六、〇八九、七九二  五、四八〇、八一三    六〇八、九七九 十年度   三、七一三、六七〇  一、四六五、一四九  一、〇七二、五四七  六、二五一、三六六  五、六二六、二二九    六二五、一三七 十一年度  三、八六一、八六七  一、四七二、八三五  一、一六〇、四三二  六、四九五、一三四  五、八四五、六二一    六四九、五一三 十二年度  四、〇一〇、一九〇  一、四八〇、五二〇  一、一六六、四八八  六、六五七、一九八  五、九九一、四七八    六六五、七二〇 十三年度  四、一五八、四五〇  一、四八八、二〇五  一、一七二、五四三  六、八一九、一九八  六、一三七、二七八    六八一、九二〇 十四年度  四、三〇六、七一〇  一、四九五、八九六  一、一七八、五九九  六、九八一、二〇五  六、二八三、〇八五    六九八、一二〇 十五年度  四、五一九、四九九  一、五〇三、五七六  一、一八四、六五四  七、二〇七、七二九  六、四八六、九五六    七二〇、七七三 十六年度  四、六〇三、二三〇  一、五一一、二六一  一、二七五、一六一  七、三八九、六五二  六、六五〇、六八七    七三八、九六五 十七年度  四、七五一、四九〇  一、五一八、九四六  一、二八一、六〇〇  七、五五二、〇三六  六、七九六、八三二    七五五、二〇四 十八年度  四、八九九、七五〇  一、五二六、六三一  一、二八八、〇八五  七、七一四、四六六  六、九四三、〇一九    七七一、四四七 十九年度  五、〇四八、〇一〇  一、五三五、四六〇  一、二九四、五二六  七、八七七、九九六  七、〇九〇、一九六    七八七、八〇〇 二十年度  五、一九六、二七〇  一、五四二、〇〇一  一、三〇一、〇五七  八、〇三九、三二八  七、二三五、三九五    八〇三、九三三 



      収入計算説明書
第一、磐城局・対米第二局・対欧洲局・対極東南洋局ノ分
(一)対米電報語数ハ、大正十二年度ノ取扱実数ヲ基礎トシ、其ノ七歩(大正三年ヨリ十二年迄ノ過去十年間ノ毎年平均増加語数ハ約四
 - 第52巻 p.78 -ページ画像 
拾弐万語ナルモ、大正六年ヨリ同十年迄ハ世界大戦等特殊ノ事情ニ依リ異常ノ増加ヲ来シタルモノナルヲ以テ、之ヲ査定シ参拾五万語ト見込ミ、之ヲ将来ノ平均増加語数ト為セリ、而シテ右ノ参拾五万語ハ大正十二年ノ取扱実数ノ約七分ニ当ル)ニ相当スル語数即年約参拾五万語宛増加スルモノトシテ計算ス、尚磐城局経由対欧洲通信開始ヲ見込ミ、右ノ通信語数ヲ左ノ通リ推算シ、対欧洲局完成迄之ヲ対米語数中ニ包含セシム
  初年度    二一六、〇〇〇語
  二年度    二八八、〇〇〇語
  三年度    三六〇、〇〇〇語
 其ノ他ノ電報語数ハ大体常態ト認メラルル大正十二年度ノ取扱実語数ヲ基礎トシ、其ノ五厘五六(十二年度ノ十一年度ニ対スル増加歩合)ニ相当スル語数、即チ年約拾弐万五千語宛増加スルモノトシテ計算ス
(二)無線ニ移ル語数ハ左ノ通リ推算ス
 (1)対米        総語数ノ 三分ノ二
 (2)対欧洲
  (イ)英国      最初五年 十分ノ三
             自後   十分ノ四
  (ロ)仏独           五分ノ三
  (ハ)欧露其他         五分ノ二
 (3)対南洋
  (イ)印度      最初五年 十分ノ三
             次ノ五年 十分ノ四
             自後   十分ノ五
  (ロ)仏領印度支那       五分ノ三
  (ハ)蘭領東印度及比律賓    五分ノ三
  (ニ)濠洲及新西蘭       五分ノ三
 (4)対極東
    支那内地(上海厦門福州ヲ除ク) 二分ノ一
第二、無線料金ハ総テ海底線料金ノ八割トシテ計算ス
第三、日支間電報ニ付テハ十九年度迄ハ大北会社トノ現行合併計算ニ依ル収得額ニ依ル
第四、会社収入ハ本邦収得分ノ九割トス
  備考
   一、政府ハ受付配達事務及機上送受信事務取扱ノ為、原則トシテ電報料金ノ本邦収得分ノ一割ヲ収得シ、残リ九割ヲ会社ノ収得トス
   二、会社ハ其ノ創立初期ヨリ十箇年間、政府ノ所有スル株式ニ対シ利益配当ヲ為スコトヲ要セサルモノトス、但右期間内ト雖、毎営業期ニ於ケル配当シ得ヘキ利益金額カ、政府持株以外ノ株式ノ払込資本金額ニ対シ平均年百分ノ八ノ割合ヲ超ユルニ至リタルトキハ、政府ハ一定ノ条件ノ下ニ政府持株ニ対シテモ利益配当ヲ為サシムルコトヲ得ルモノトス
 - 第52巻 p.79 -ページ画像 
   三、毎営業期ニ於ケル配当シ得ヘキ利益金額カ、払込資本金額ニ対シ年百分ノ十二ノ割合ヲ超過スルトキハ、該超過額ノ二分ノ一ヲ政府ニ納付スルモノトス
      会社支出概算表(社債利子ヲ除ク)

図表を画像で表示会社支出概算表(社債利子ヲ除ク)

 局名     年度  初年度       二年度        三年度        四年度        五年度        六年度        七年度        八年度               円          円          円          円          円          円          円          円 対欧局                                      七一六、九九一    七一六、九九一    七一六、九九一    七一六、九九一    七一六、九九一 対米第二局                                                          五三二、四三五    五三二、四三五    五三二、四三五 磐城局     四〇九、〇三八    三九九、〇三八    三五八、三七四    三五八、三七四    三五八、三七四    三五八、三七四    三五八、三七四    三五八、三七四 南洋極東局                                                                                五四三、八五七 陸線       一〇、〇〇〇     一〇、〇〇〇    一一〇、七一六    一一〇、七一六    一一〇、七一六    一一〇、七一六    一一〇、七一六    一一〇、七一六 中央受信局    四三、〇〇〇     四三、〇〇〇     八五、〇六八     八五、〇六八     八五、〇六八     八五、〇六八     八五、〇六八     八五、〇六八 総係費     七七七、七八五    六五二、七七四    五一〇、三六二    五二四、六二五    六〇一、八九六    四九一、四八三    四二九、一〇七    四二〇、六三一  計    一、二三九、八二三  一、一〇四、八一三  一、〇六四、五二〇  一、七九五、七七四  一、八七三、〇四五  二、二九五、〇六七  二、二三二、六九一  二、七六八、〇七二 



    日本無線電信株式会社募集株式割当及株主募集方法案
一、株式総数ヨリ、現物出資ニ対シ政府ニ提供スヘキ株式数ヲ控除シタル残余ノ株ハ、之ヲ一般公衆ヨリ募集スルコト
二、株式申込ハ十株以上ニ限ルコト
三、株式ノ申込数カ募集株数ヲ超過スルトキハ、其ノ割当方法ハ設立委員ノ定ムル所ニ依ル
四、逓信・大蔵両大臣ヨリ各地方長官及各逓信局長ニ対シ、株主募集ニ付尽力方通牒スルコト
五、設立委員長ヨリ各地方長官・各逓信局長及商業会議所ニ対シ、株主募集ニ付依頼状ヲ発スルコト
六、東京・大阪・名古屋・福岡・仙台・札幌等ノ大都市ニ於ケル、適当ト認ムル新聞紙ニ募集公告ヲ掲載スルコト
七、株主募集発表ト同時ニ、設立委員長ヨリ取次銀行等ヘ募集公告・株式申込証並日本無線電信株式会社法及同法施行勅令等ノ印刷物ヲ送付シ、適当ニ配布方依頼スルコト
八、株式申込ノ取次ヲ為サシムヘキ銀行等ハ左記ノ通リトスルコト
     (銀行名列記ノコト)


日本無線電信会社創立書類(DK520009k-0004)
第52巻 p.79-82 ページ画像

日本無線電信会社創立書類        (渋沢子爵家所蔵)
 - 第52巻 p.80 -ページ画像 
(謄写版)
(表紙)

   日本無線電信株式会社設立委員(八十名)

    日本無線電信株式会社設立委員
  日本無線電信株式会社設立委員長
             正三位勲一等子爵 渋沢栄一
  日本無線電信株式会社設立副委員長
             正四位勲三等男爵 中島久万吉
  日本無線電信株式会社設立委員
                法制局長官 塚本清治
                 大蔵次官 田昌
              大蔵省主計局長 河田烈
              営繕管財局理事 太田嘉太郎
                 逓信次官 桑山鉄男
              逓信省電務局長 畠山敏行
              逓信省経理局長 最所文二
              逓信省工務局長 稲田三之助
               正四位勲一等 市来乙彦
                  勲四等 小野英二郎
               正六位勲六等 飯田新七
                  従五位 伊藤治郎左衛門
                      岩原謙三
               正六位勲三等 稲畑勝太郎
               正四位勲三等 井上準之助
                      池田成彬
               正六位勲六等 井坂孝
                  従五位 服部金太郎
               従五位勲三等 原富太郎
                      原邦造
               従五位勲四等 浜岡光哲
                      橋本万右衛門
               正六位勲三等 堀啓次郎
             従四位勲三等男爵 東郷安
               正六位勲四等 藤山雷太
                      富田重助
               従五位勲四等 大橋新太郎
                      大川平三郎
             従四位勲一等男爵 大倉喜八郎
                      貝島太市
                      門野幾之進
                  正六位 上遠野富之助
 - 第52巻 p.81 -ページ画像 
                      門野重九郎
                  正六位 川西清兵衛
                      川崎八右衛門
                      各務鎌吉
                  正六位 金子直吉
                      鹿島房次郎
                  勲六等 神戸挙一
                      神田鐳蔵
                      滝定助
               従五位勲二等 団琢磨
                  勲三等 根津嘉一郎
                  正六位 内藤久寛
                      成瀬正恭
                  正六位 永田仁助
                      南条金雄
                  従五位 中田錦吉
               従三位勲一等 内田嘉吉
                      野村徳七
                  正六位 串田万蔵
               従七位勲五等 弘世助太郎
                  正七位 矢野恒太
                  正七位 山口吉郎兵衛
                      安田善次郎
               正五位勲二等 松方幸次郎
               正七位勲四等 松本健次郎
               従五位勲四等 馬越恭平
             正五位勲三等男爵 古河虎之助
                      福沢桃介
             従四位勲二等男爵 藤田平太郎
             従四位勲三等男爵 郷誠之助
               正五位勲四等 浅野総一郎
               正六位勲三等 麻生太吉
                      朝吹常吉
                      斎藤恒三
               従五位勲四等 佐々木勇之助
                  勲三等 喜多又蔵
                      木村久寿弥太
                      菊池恭三
                      岸本兼太郎
                  勲六等 結城豊太郎
               正三位勲一等 白仁武
                      神野金之助
                      広岡恵三
                正五位男爵 森村開作
 - 第52巻 p.82 -ページ画像 
               正六位勲四等 末延道成
               正六位勲三等 鈴木摠兵衛
  日本無線電信株式会社設立委員補助
                大蔵書記官 荒井誠一郎
                逓信書記官 吉野圭三
                逓信書記官 久野茂
                 逓信技師 中上豊吉
  日本無線電信株式会社設立特別委員(イロハ順)
                      岩原謙三
              逓信省工務局長 稲田三之助
              逓信省電務局長 畠山敏行
                      原富太郎
                   男爵 東郷安
              営繕管財局理事 太田嘉太郎
              大蔵省主計局長 河田烈
                      各務鎌吉
                      門野重九郎
                      団琢磨
                      中田錦吉
                      内田嘉吉
                      串田万蔵
                      矢野恒太
                   男爵 藤田平太郎
                   男爵 郷誠之助
              逓信省経理局長 最所文二
                      佐々木勇之助
                      木村久寿弥太
                      結城豊太郎


日本無線電信会社創立書類(DK520009k-0005)
第52巻 p.82 ページ画像

日本無線電信会社創立書類        (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
  大正十四年六月廿三日
         日本無線電信株式会社設立事務所
            設立委員長 渋沢栄一
        (宛名手書)
    特別委員 子爵 渋沢栄一殿
      ○特別委員会開催の件
拝啓 昨廿二日設立委員総会に於て特別委員附託と相成候「株式割当及株主募集方法」其他重要事項に付至急御協議申上度存候間、御繁用中毎々恐縮至極に御座候得共
  明後二十五日正午
  丸之内 銀行クラブ
御光臨被成下度、此段御案内旁奉得貴意候 敬具

 - 第52巻 p.83 -ページ画像 

日本無線電信会社設立書類[日本無線電信会社創立書類か?](DK520009k-0006)
第52巻 p.83 ページ画像

日本無線電信会社設立書類[日本無線電信会社創立書類か?]        (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
  大正十四年七月一日
         日本無線電信株式会社
          設立委員長 子爵渋沢栄一
    特別委員
謹啓 弥御多祥奉大賀候、陳者重要事項に付御協議申上度義有之候間御多用中毎度甚恐縮の至りに奉存候得共、明二日正午丸之内銀行倶楽部へ御光来被成下度、此段奉得貴意候 敬具


日本無線電信会社創立書類(DK520009k-0007)
第52巻 p.83 ページ画像

日本無線電信会社創立書類        (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
  大正十四年七月十六日
         日本無線電信株式会社
          設立委員長 子爵渋沢栄一
    (宛名手書)
    子爵 渋沢栄一殿
時下益御清勝奉大賀候、然者当社株式に対しては先きに設立委員各位に於て夫々御引受の次第も有之候処、此度一般公募発表に際し、各地方の有力筋に対して応募勧誘方相試み居候に就ては、此上ながら公募株式に向て更に若干の御申込も可相叶者最も会社の幸甚とする所たるは勿論、猶御縁故の方面に対して御尽力を得るか如くは大に難有仕合に有之、夫等の為玆許株式申込証・印鑑用紙及募集要項等各々五名分封中差出候につき、何卒精々御配慮賜り度此儀偏に不堪希望候 頓首

(印刷物)
    日本無線電信株式会社株式募集要項
一、資本金総額    弐千万円
一、壱株ノ金額    五拾円
一、募集株数     弐拾五万株{総株数四拾万株中四万六千株ハ現物出資ニ対シ政府ニ提供シ、設立委員ニ於テ拾万四千株ヲ引受ク}
一、申込単位     拾株
一、申込証拠金    壱株ニ付弐円五拾銭(但第一回払込株金ニ充当)
一、第壱回払込金   壱株ニ付拾弐円五拾銭(申込証拠金併算)
一、第壱回払込期日  大正十四年九月二十日ヨリ二十五日迄
一、払込方法     取扱銀行ヘ払込ノコト
一、申込期間     大正十四年七月二十七日ヨリ八月十日迄
一、募入決定方法   応募株式超過ノ場合ハ設立委員ニ於テ適宜決定ス
一、申込取扱所    第一銀行・安田銀行・三井銀行・三菱銀行・十五銀行・川崎銀行・住友銀行・三十四銀行各本支店
一、株主タルヘキ者ノ資格 政府・公共団体・帝国臣民又ハ帝国法令ニ依リテ設立シタル法人ニシテ、其ノ議決権ノ過半数カ外国人又ハ外国法人ニ属セサルモノニ限リ之ヲ所有スルコトヲ得ルモノトス

 - 第52巻 p.84 -ページ画像 

日本無線電信会社創立書類(DK520009k-0008)
第52巻 p.84 ページ画像

日本無線電信会社創立書類         (渋沢子爵家所蔵)
(写)
    日本無線電信株式会社定款認可申請書
日本無線電信株式会社法第拾九条ノ規定ニ依リ、別紙ノ通リ定款作成致候ニ付御認可被成下度此段及御願候也
  大正十四年七月
          日本無線電信株式会社設立委員総代
            設立委員長  子爵 渋沢栄一
            設立副委員長 男爵 中島久万吉
            設立委員      岩原謙三
            同         稲田三之助
            同         畠山敏行
            同         原富太郎
            同      男爵 東郷安
            同         太田嘉太郎
            同         河田烈
            同         各務鎌吉
            同         門野重九郎
            同         団琢磨
            同         中田錦吉
            同         内田嘉吉
            同         串田万蔵
            同         矢野恒太
            同      男爵 藤田平太郎
            同      男爵 郷誠之助
            同         最所文二
            同         佐々木勇之助
            同         木村久寿弥太
            同         結城豊太郎
    逓信大臣 安達謙蔵殿
  ○別紙定款ヲ欠ク。尚、次掲定款ハ刊行年次ノ記載ナク、右ト同一ナリヤ否不明。


日本無線電信株式会社定款 第一―八頁刊(DK520009k-0009)
第52巻 p.84-88 ページ画像

日本無線電信株式会社定款  第一―八頁刊
    日本無線電信株式会社定款
      第一章 総則
第一条 本会社ハ大正十四年法律第三十号日本無線電信株式会社法ニ依リ設立シ、日本無線電信株式会社ト称ス
第二条 本会社ハ日本無線電信株式会社法ニ依リ、外国無線電報ノ取扱ノ為ニスル無線電信ノ設備及其ノ附属設備ヲ為シ、之ヲ政府ノ用ニ供スルヲ以テ目的トス
 本会社ハ逓信大臣ノ命令ニ依リ、又ハ其ノ認可ヲ受ケ、前項ノ事業ノ外左ノ事業ヲ営ムコトアルヘシ
 - 第52巻 p.85 -ページ画像 
 一 外国ニ於ケル無線電信事業及無線電話事業ノ経営
 二 外国ニ於ケル無線電信又ハ無線電話ノ設備ノ貸付及工事ノ請負
 三 無線電信又ハ無線電話ノ用品ノ製造及販売
 四 前三号ニ掲クル事業ニ対スル投資
第三条 本会社ハ本店ヲ東京市ニ置ク
第四条 本会社ノ資本金ハ弐千万円トス
第五条 本会社ノ存立期間ハ設立登記ノ日ヨリ五拾年トス
第六条 本会社ノ公告ハ官報及所轄区裁判所ノ登記事項ヲ公告スル新聞紙ニ掲載ス
第七条 本会社ノ定款ノ変更、社債ノ募集、合併及解散ノ決議ハ逓信大臣ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ効力ヲ生セサルモノトス
 本会社ハ逓信大臣ノ認可ヲ受クルニ非サレハ、其ノ所有スル無線電信ノ設備又ハ其ノ附属設備ニ属スル物件ヲ譲渡シ、又ハ担保ニ供スルコトヲ得サルモノトス
      第二章 株式
第八条 本会社ノ株式ハ記名式トシ、政府・公共団体・帝国臣民又ハ帝国法令ニ依リテ設立シタル法人ニシテ其ノ議決権ノ過半数カ外国人又ハ外国法人ニ属セサルモノニ限リ之ヲ所有スルコトヲ得
第九条 株主タル帝国法人ニシテ、議決権ノ過半数カ外国人又ハ外国法人ニ属スルニ至ルヘキトキハ、該法人ハ遅滞ナク其ノ旨本会社ニ通知シ、且其ノ所有スル本会社ノ株式ヲ他ニ譲渡スルコトヲ要ス
 前項ノ場合ニ於テ株式ヲ譲渡セサルトキハ本会社之ヲ売却ス、売却ニ依リテ得タル金額ハ売却費用ヲ控除シ、其ノ残額ヲ当該法人ニ交付ス
 前二項ノ規定ニ依リ譲渡セラレタル株式ニ付テハ、名義書換停止期間中ト雖名義ノ書換ヲ為スコトヲ得
第十条 政府ハ左ノ財産ヲ出資シ、本会社ハ其ノ財産価格弐百参拾万円ニ対シ、全額払込ノ株式四万六千株ヲ政府ニ提供スルモノトス
 一 磐城無線電信局設備及其ノ附属設備 価格弐百拾壱万円
 一 対欧洲局用敷地トシテ政府ノ購入シタル土地
   愛知県碧海郡依佐美村所在 坪数四万五千参百六拾六坪弐合
                価格 拾六万五千五百五拾円
   三重県三重郡海蔵村所在  坪数壱万七百弐拾六坪
                価格 弐万四千四百五拾円
第十一条 本会社ノ株式ハ四拾万株トシ、壱株ノ金額ヲ五拾円トス
第十二条 本会社ノ株券ハ壱株券・拾株券・五拾株券・百株券及千株券ノ五種トス
第十三条 株金払込ハ壱株ニ付第壱回ヲ拾弐円五拾銭トシ、第弐回以後ハ事業ノ必要ニ応シ取締役会ノ決議ヲ以テ其ノ払込金額及期限ヲ定メ、少クトモ参拾日前ニ各株主ニ之カ通知ヲ発スヘシ
第十四条 株主払込ノ期日ニ株金ノ払込ヲ為ササルトキハ其ノ払込ムヘキ金額ニ対シ百円ニ付壱日四銭ノ割合ヲ以テ遅延利息ヲ徴スヘシ
第十五条 株式ノ譲渡ニ依リ株券ノ名義書換ヲ為サムトスルトキハ本会社所定ノ書式ニ依リ当事者連署ノ書面ヲ作成シ之ニ株券及本会社
 - 第52巻 p.86 -ページ画像 
ニ於テ必要ト認ムル証拠書類ヲ添ヘ本会社ニ其ノ請求ヲ為スヘシ
 改氏名又ハ相続等ニ依リ株券ノ名義書換ヲ為サムトスルトキハ戸籍抄本若ハ本会社ニ於テ必要ト認ムル証拠書類ヲ添付スルコトヲ要ス
第十六条 株券ノ種類ノ変更ヲ為サムトスル株主、又ハ汚損若ハ毀損シタル株券ノ引換ヲ為サムトスル株主ハ、株券引換請求書ニ株券ヲ添ヘ本会社ニ提出スヘシ
 株券ヲ亡失シタル株主ハ其ノ事由ヲ詳記シタル書面ヲ作成シ保証人弐名以上ノ連署ヲ以テ本会社ニ新株券交付ノ請求ヲ為スコトヲ得
 前項ノ請求アリタルトキハ本会社ハ直ニ其ノ旨公告シ、参拾日ヲ経ルモ株券ヲ発見セサルトキハ、新株券ヲ交付スルモノトス
第十七条 前二条ノ場合ニ於テハ株券壱枚ニ付左ノ手数料ヲ徴スヘシ
  一 株券名義書換 拾銭
  一 株券引換及新株券交付 五拾銭
 新株券交付ニ関シ公告ヲ要スル場合ハ、前記手数料ノ外公告料ノ実費ヲ徴スヘシ
第十八条 株主ハ株式取得ノトキ其ノ氏名・住所及印鑑ヲ本会社ニ届出ツヘシ、其ノ変更アリタルトキ亦同シ
第十九条 本会社ハ定時総会前参拾日ヲ超ヱサル期間、株式ノ譲渡ニ因ル名義書換ヲ停止スルコトアルヘシ
      第三章 役員及取締役会
第二十条 本会社ニ左ノ役員ヲ置ク
    取締役 拾名以内
    監査役 参名以内
第二十一条 取締役及監査役ハ、株主総会ニ於テ参百株以上ヲ所有スル株主中ヨリ之ヲ選任
 取締役及監査役ノ選任及解任ノ決議ハ、逓信大臣ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ効力ヲ生セサルモノトス
第二十二条 取締役在任中ハ其ノ所有ノ株式参百株ヲ監査役ニ供託スヘシ、但シ其ノ株式ハ退任スルモ株主総会ニ於テ其ノ在任中取扱ヒタル事務ノ承認アリタル後ニ非サレハ之ヲ還付セス
第二十三条 取締役中ヨリ社長壱名・常務取締役弐名ヲ互選シ、逓信大臣ノ認可ヲ受クルモノトス
第二十四条 社長ハ本会社ヲ代表シ、取締役会ノ議長トナリ、会社一切ノ業務ヲ総理ス
 常務取締役ハ社長ヲ補佐シテ会社ノ業務ヲ掌理シ、社長事故アルトキハ之ヲ代理ス
第二十五条 取締役ノ任期ハ就任後第六回、監査役ノ任期ハ就任後第四回ノ定時株主総会終結ノ時ヲ以テ終了ス、但シ取締役ノ一部又ハ監査役ノ一部ノミ選任スルトキハ、其ノ任期ハ他ノ在任取締役又ハ監査役ノ残任期ニ同シ
第二十六条 取締役又ハ監査役ニ欠員ヲ生シタルトキハ、臨時株主総会ヲ開キ補欠選挙ヲ行フ、但シ法定ノ員数ヲ欠カサル限リハ次回ノ改選期迄之ヲ延期スルコトヲ得
第二十七条 取締役及監査役ノ報酬ハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
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第二十八条 取締役会ハ取締役ヲ以テ組織シ、本会社事務中事体ノ重大ナルモノヲ議決スルモノトス
 取締役会ハ社長之ヲ招集シ、議事ハ出席取締役ノ過半数ヲ以テ決ス可否同数ナルトキハ議長之ヲ決ス
      第四章 株主総会
第二十九条 定時株主総会ハ毎年五月及十一月之ヲ開ク
第三十条 株主総会ノ議長ハ社長之ニ当ル
 社長事故アルトキハ常務取締役其ノ職務ヲ行ヒ、常務取締役事故アルトキハ取締役中壱人其ノ職務ヲ行フ
第三十一条 株主ハ本会社ノ他ノ株主ヲ代理人トシテ其ノ議決権ヲ行フコトヲ得
第三十二条 株主総会ノ議事及決議ハ議事録ニ記載シ、議長及議長ノ指名シタル出席株主弐名以上之ニ署名捺印スヘシ
      第五章 計算
第三十三条 本会社ノ営業期ハ毎年四月一日ヨリ九月三十日迄、及十月一日ヨリ翌年三月三十一日迄トス
第三十四条 本会社ハ本会社ノ設備ヲ使用シ、政府ノ取扱ヒタル電報ノ料金中、本邦収得分ニ当ルモノノ百分ノ九拾ヲ壱月分毎ニ政府ヨリ交付ヲ受クルモノトス
第三十五条 本会社ハ逓信大臣ノ命令ニ依リ、又ハ其ノ認可ヲ受ケ、特別積立金ヲ積立ツルコトアルヘシ
第三十六条 本会社ノ毎営業期ニ於ケル総収入金額中ヨリ、営業上ノ諸経費・損失及機械建物償却金・職員以下恩給扶助基金及法定積立金ヲ控除シタル残額ヲ配当シ得ヘキ利益金ト定ム
第三十七条 本会社ハ其ノ創立初期ヨリ第弐拾営業期ニ至ル迄、政府持株ニ対シ、利益配当ヲ為スコトヲ要セサルモノトス
 毎営業期ニ於テ配当シ得ヘキ利益金額カ、政府持株以外ノ株式ノ払込資本金額ニ対シ年八分ノ割合ヲ超過スルトキハ、該超過額ニ付テハ前項ノ規定ニ拘ラス次条ニ定ムル所ニ依リ、政府持株ニ対シ利益配当ヲ為スモノトス、但シ創立初期ヨリノ配当シ得ヘキ利益金額ヲ通算シ、政府持株以外ノ株式ノ払込資本金額ニ対シ年八分ノ割合ニ達セサルトキハ此ノ限ニ在ラス
 前項但書ニ規定スル利益金額中政府持株ニ対シ配当シタル金額アルトキハ之ヲ控除シテ計算スルモノトス
第三十八条 前条第二項ノ規定ニ依リ、政府持株ニ対シ配当スヘキ利益金ハ、毎営業期ニ於ケル政府持株以外ノ株式ニ対スル配当ノ割合ニ達スル迄之ヲ政府持株ニ配当シ、尚残余アルトキハ平等ニ配当スルモノトス
 政府持株以外ノ株式ニ対スル利益配当ヲ平均セシムル為、又ハ政府ノ使用ニ供スル無線電信ノ設備及其ノ附属設備ノ改良若ハ研究ノ経費ニ充ツル為積立ヲ為ス場合ニ於テハ、逓信大臣ノ認可ヲ受ケ、必要ノ限度ニ於テ政府持株ニ対スル配当ニ充ツヘキ利益金ヲ、該積立金ニ組入ルルコトヲ得ルモノトス
第三十九条 本会社ノ毎営業期ニ於ケル配当シ得ヘキ利益金額カ、払
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込資本金額ニ対シ年壱割弐分ノ割合ヲ超過スルトキハ、該超過額ノ弐分ノ壱ヲ政府ニ納付スルモノトス
第四十条 本会社ノ利益金ノ処分ノ決議ニ付テハ、逓信大臣ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ効力ヲ生セサルモノトス
第四十一条 株主配当金ハ、当該営業期ノ最終日ニ於テ株主名簿ニ登録セラレタル株主ニ支払フモノトス
      附則
第四十二条 本会社ノ負担ニ帰スヘキ設立費用ハ拾万円ヲ限度トス
 前項金額中政府ノ立替ニ係ルモノハ之ヲ政府ニ返納スルモノトス


集会日時通知表 大正一四年(DK520009k-0010)
第52巻 p.88 ページ画像

集会日時通知表  大正一四年       (渋沢子爵家所蔵)
八月廿六日 水 午後二半三時 桑山逓信次官ト御会見(あすか山)
八月廿七日 木 午前八時 中島久万吉氏来約(王子邸)
八月廿八日 金 午前九時 安達逓相ヲ御訪問(同官舎)
八月廿九日 土 午前九時 中島久万吉男来約王子
  ○中略。
九月三日 木 午前十一半時 中島久万吉ト御会見(事務所)
  ○中略。
九月七日 月 午前十時 桑山逓信次官ト御会談約(飛鳥山邸)
  ○中略。
九月十四日 月 午前十半時 中島久万吉来約(事務所)
  ○中略。
九月廿五日 金 午前十一時 中島男爵来邸(アスカ山)
九月廿六日 土 午前九時 桑山逓信次官来約(王子邸)
九月廿七日 日 午前八時 内田嘉吉氏来約(飛鳥山)
  ○中略。
九月廿九日 火 午前十半時 中島久万吉男来約(事務所)



〔参考〕日本無線電信株式会社事業計画及収支計算の内容に就て 第一―一八頁刊 【日本無線電信株式会社事業計画及収支計算の内容に就て 設立副委員長 男爵 中島久万吉 演説速記】(DK520009k-0011)
第52巻 p.88-97 ページ画像

日本無線電信株式会社事業計画及収支計算の内容に就て  第一―一八頁刊
                     (渋沢子爵家所蔵)
(表紙)

    (栄一墨書)
    十四年八月二十四日閲了
  日本無線電信株式会社
   事業計画及収支計算の内容に就て

    日本無線電信株式会社事業計画及収支計算の内容に就て
         設立副委員長 男爵 中島久万吉 演説速記
 今回法律を以て発布致されましたる日本無線電信株式会社法並に其施行令に伴ひまして、近く設立致されんとする日本無線電信株式会社の事業計画並に収支計算の内容に関して、御説明を致して見度いと思ひます。
 我日本帝国の対外電信の体系は、其の大部分第三国の電信事業に依
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りて支配せられ居るが為め、我が政治上並に通商交易上に於て、容易ならぬ不利不便を閲みして居る事情は、皆様御承知の通りであるのであります。殊に往きに世界大戦が漸く終熄に近づかんと致しましたる大正七・八年の頃、之を内にしては財界の好景気を現出致し、之を外にしては列国間の外交が漸く頻繁を加へんとするの時機に際会致しまして、殊に世界大戦の終熄と共に、巴里に於ては列国の平和会議が開かれ、而して財界は依然として好況を持続して居りました関係から、当時海外電信の発著状態が非常に渋滞を呈しまして、或は電報の到著が却つて郵便の到著に遅るゝといふ様な事が御記憶に存して居る事かと存じますが、当時此事態に鑑みまして、内田嘉吉君等の主唱の下に太平洋に敷設されて居る亜米利加のコムマーシヤル・パシフヰツク会社の海底線に対する複線計画と致しまして、我日本帝国の自主的関係にあるべき海底電信を敷設するの案を以て、当時の政府とも合意の上米国との間に交渉を試みたのでありましたが、些細なる事情に制せられまして其の事が案外に実行可能ならざる所以を発見致しましたが為に、此問題も亦荏苒日を移して居りました間に、国際通信上に於ける無線電信技術の発達が殆ど日進月歩の有様となり、何人の目にも将来国際通信の上に於ける無線電信が、自然既存の海底電信に取つて代るべき時代が来るべきを予期せられましたのでありまして、私共此問題に微力を効して居ります上からも、将に来らんとする無線電信を採つて寧ろ去らんとする海底電信に代る事の至当なる事を発見致しましたから、従来の太平洋海底電信複線計画を一擲し去りまして、我国の支配に於ける無線電信局を設置する案に改め、累次の政府に対して陳情又は請願を持続致して参りました処に、前きの加藤内閣即ち当時の海軍大将加藤友三郎男を首班とする内閣に至りまして、問題は意外に発展進捗を見たのであります。加藤男爵は、従来私共の提唱して参りました、海外無線電信局を民設せしむるといふ案を採用致されまして、此方針の下に、民間有力筋の賛襄を求むべく、其官邸に全国各地の資産家を招集に相成りまして、此問題に就て協議せらるゝ所があつたのでありました。抑々加藤男爵が何故此問題の重大なることを感ぜられたかと云ふに、それは御案内の如く加藤男爵が内閣に首班せられましたる以前に、我日本帝国の全権使節と致されまして、所謂華盛頓会議に臨まれ、列国全権との間に樽爼折衝せられた事でありましたが、当時列国の使臣は皆各々自国専用の通信機関を支配致して居りましたが為に、本国との交信の上に於て非常な便利を得て居り、例へば明日の会議に於て協議せらるべき問題の決定を本国政府に求むる場合に於て適当の時までには必ず之に対する本国の訓電を得らるゝと云ふが如き自在なる状態に反しまして、我が国全権は其本国との通信の上に於て第三国の通信機関を経由しなければならぬと云ふが如き不自由なる状態に在つたが為に、平均一問題の往復に百十時間を要すると云ふ如き有様であつて、それが為に会議は日本全権の都合上、荏苒日を累ぬる其の間に、支那全権の反日本宣伝が盛に行はるゝ有様となり、其間に処して全権大使たる加藤男爵は頗る辛き経験を致され、我国将来の外交上通商上自主的地位を確保せんが為には、帝国の支配に属すべき対
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外通信機関を有せざるべからずとの見識の下に、殊に帝国財政の事情が此計画の大成を容れ難い関係であつたが為に、我々が年来主張して来りました対外無線電信局民設の問題を問題として、其執政中に之が解決を図らうと致されたのであります。然るに不幸にして加藤首相は殆ど右の集会を最後に、病気に罹られ、引続き御案内の如く病歿され内閣は更迭し、加ふるに関東大震災が起る等の関係から、此問題は又た遷延を来して遂に現内閣に至つたのであります。然るに現内閣に至りまして、此問題が又遽に其解決を促がさるべき事情に相成りましたのであります。即ち先年華盛頓に開かれたる国際電気通信予備会議及巴里に於ける技術委員会に於て、国際通信の問題に関する列国の委員会が開かれまして、其際に世界に於ける電波長の獲得に関して、委員の間に一の申合が出来たのであります。私は専門家でございませんから、偏に鸚鵡口に過ぎませんけれども、国際通信上に用ゐらるゝ所の電波長は、凡そ八千米乃至三万米の単位でございまして、此単位に準りて世界全体に割当てますと、丁度百三十箇内外の数と申す事であります。此百三十箇内外の電波長に対して当時五大強国の要求したる電波長の数は米国三十六・英国三十五・仏国二十・日本十五・伊太利十と云ふ割合で、而して当時の申合せと致しまして、更に再び国際通信本会議を開き、既設局及今後五箇年内に開局せらべき無線局に要する電波長を持ち寄り、之が割当を決定すべしと云ふ申合せを致したのでありますが、今春に至りまして、右の通信本会議が或は此秋に開かるべきやの噂が世界的に伝はりました為に我内閣は此の事態の出現に対して急速無線に関する計画を樹立する必要に迫られたのであります。勿論曩の華盛頓会議以来、政府は只今申す如き申合せもあることで、大無線局の建設に対して計画する所あり累次の内閣に於ける逓信当局は常に此の案を具して之を大蔵省に謀つたものでありますけれども、我帝国財政の情態は到底急速此計画の完成を期図し難いものがありました為に、計画は僅に部分的に其頭を出したといふが如き関係に止まりまして、本計画は未だ首尾一貫の状態には進まなかつたのでありますから、若し此秋に国際通信会議が開かれまして、其会議の終了と共に爾後五ケ年を期して、日本帝国無線通信上の権利を充実せしむべき大無線電信計画完成の必要が発生しますと、実は帝国の財政上之を如何とも致し難い状況にあるのでありますから、即ち私共年来の主張を採納する事に相成つたのであります。而して其方法を如何にすべきかと云ふ事に就ては、多少の案が存在したのでありますが、最初に考へられた所は保護会社の方法であつたらしく聞いて居ります。即ち会社の企業に対して若干年間一定の利益配当を保証すると云ふ保護会社の形式に於て、民設案を実現しやうと云ふ案でありましたが、第二に考へられた所は、寧ろ斯の如き事を致しますよりは、政府は現に福島県下原ノ町及富岡町に無縁電信局を経営して居りまして日々収益が挙つて居るのでありますから、寧ろ其機関を現物出資し、而して之れより生ずる利益に依つて間接に会社の創業を保護すると云ふ、即ち官民協同の下に一つの特殊会社を設けて、之に依つて対外大無線局の建設を成就すべしと云ふ事になりました結果が、日本無線電信株式会社法を
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制定することゝなり、第五十帝国議会の協賛を得て玆に法律と相成つたといふ次第であるのであります。右申しました所が此問題の由来であると御承知を頂き度いと存じます。
 次に順序と致しまして、起業目論見書の内容に関して申上げて見たいと存じます。起業目論見書に依つて御覧になります通り、此会社は法律に依つて資本金二千万円と定められてありまして、外国無線電信取扱の為にする無線電信の設備及其附属設備を為して、之を政府の用に供するといふ様な事を以て、会社の目的と致して居るのでありますが、之はどう云ふ事かといふと、今回此会社に依つて無線電信局が三ケ所に設置致されるのでありますが、其無線局は陸線に依つて内地の郵便電信局と聯結致さるゝのであります。海外に電報を御打ちになるべき人は、内地の郵便電信局に就て其取扱方を依頼すること今日と相違はありませんが、内地の電信局はそれを電線に依つて会社の局に送り、政府の吏員は更に会社の無線設備に依りて、之を指定の地に発送するといふ様な事になりますから、之か即ち政府の用に供せられるといふ仕掛になるのでございます、而して会社は更に副業と致しまして主務大臣の命令ある時又は其認可を受けたる場合に於ては、第一に外国に於ける無線電信又は無線電話事業の経営。第二に外国に於ける無線電信電話設備の工事請負又は貸附。第三に無線電信電話用品の製造販売。第四に右の諸事業に対する投資等が出来る事に相成つて居るのであります。而して曩に申しました如くに、此会社は官民の共同出資に依る株式会社でありまして、政府は現在の磐城局の資産、並に欧羅巴諸国と交信の目的を以て建設せらるべき対欧局設置の為に、名古屋市附近の地に買収致して居りまする地所とを併せて、現物出資を致さるゝのでありまして、磐城局の資産と致しましては、其評価額弐百拾壱万円。名古屋附近地所買収実費拾九万円を出資されて、結局政府の現物出資に係るもの総額弐百参拾万円になるのであります。而して会社の資本金額は弐千万円でございますから、官民出資の割合が約九と壱とになるのでありまして、他の特殊会社と比較して、民間出資の額は極めて大部分に相成つて居るといふ事であります。而して当会社は唯今申しました通り、国際会議の関係よりも、其起業計画を相当年限の間に必らず達成致さなければならぬ責任を持つて居るのでありますから、自然起業年度割も其趣皆に応じて成つて居るのでありまして、即ち最初の四ケ年計画の下に、名古屋郊外に於ける対欧局即ち欧洲諸国と交信の目的を以つて建設せらるべき対欧局を建設致す事になつて居りますが、それが未だ終りを告げざる第四年度と五年度の二ケ年内に、対米第二局といふを建設する事に相成つて居ります。対米第二局と云ふのは、何れ東京附近の地に設ける事と存じますが、現在政府は磐城局を以て、アメリカ・ラジオ・コーポレーシヨン会社所属の布哇局と交信致して居るのでありまして、現在ラジオ・コーポレーシヨン会社と帝国政府との間には協約が成立致して居りまして、其協約の下に会社は其の布哇局、日本政府は磐城局、此間に通信の交換を致して居るのであります。従つて此太平洋横断の電報料金に於ても、帝国政府の収むる処が僅に其三分の一、而して残余三分の二は米国の会社が
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収得して居るといふ様な現状にあるのでありますが、此料金分配に関する条項は尚三ケ年半の期限を残して居りますから、丁度之が期限満了の頃に於て、対米第二局を会社の手に依つて建設を致しまして、此の新なる無線電信局を通じて、今度は米国大陸と直通の交信を為すべき事に相成るのであります。従て料金の割合の如きも多分は二分の一宛折半になるであらうと思ひますから、此事は此会社にとつては極めて有利の事であり、帝国にとつても固より有利の事であるのでありますから、現行条項の満期と共に此対米第二局を完成致しまして、之れに依つて米国大陸と直通の目的を達成しようといふ計画に相成つて居るのであります。其暁に於て現在の磐城局はどういふ風な事になるかと云ふと、之は加奈陀・南米方面と交信の目的を以て依然活用される事に計画を立てゝあるのであります。而して更に第五年度乃至七年度の三ケ年計画の下に之は多分大阪附近の地に建設さるべき事と存じますが、支那・濠洲・印度其他南洋諸国及サイベリヤと交信の目的を以て、極東南洋局といふを建設する事になつて居ります。同時に中央受信局として対米通信用のものを初年度及第二年度の二ケ年内に、対極東南洋局用のものを第五年度に於て完成するの計画を立てゝ居るのでありますが、之に現在の磐城局に対する改修費及陸線費等を合算致しまして、総計約弐千参百参拾万円の資金が要る計画に相成つて居ります。其内訳は対欧局が七百五拾万円。対米第二局が五百参拾万円。対極東南洋局が同じく五百参拾万円。陸線費百弐拾六万円。中央受信局の建設費七拾参万八千円といふことになつて居りまして、結局法律に依つて定められて居る処の資本額弐千万円に対し約参百参拾万円不足致しますのでありますが、之は借入金又は社債を以て支弁すべき事に予定せられて居るのであります。株金払込の時期及順序等は、唯今の起業計画に伴ひまして之を定めて居るのでありますけれども、之は会社内外の事情に依つては、借入金又は社債を以て株金払込方法に代ゆるといふ但し書に成つて居ります。実は此計画に私が関係致して居る事を伝聞致して、此春以来米国資本家の代表者が一人ならず私の許に参りまして、此会社は自分等の経験によりますれば余程確実で将来有望なものだと思ふから、何とか之に米国の資本を入れて見たいと考へる。株式でなくとも社債を引受けて見度いと思ふが、どういふものであらうといふ相談を致すのであります。此会社の社債ならば可なりな低利を以て紐育市場に売出せると考へるが、実際問題として講究して見て呉れんかといふ様な事を云ふ。そこで私が考へるに、若し如此方法に依つて低利に社債が海外市場に募集せられ得る事であるならば、此計画の完成上、極めて有利なる関係が生ずるのでありますから、会社の計画として借入金又は社債を以て、株金払込方法に代ゆべき好機会があり得る事を想像致して差支ないと思ふて居るのでございます。右が起業目論見書の内容に関しまする御説明であります。
 次に会社の定款に関して御説明申上げ度いと存じまするが、此定款案は余程浩澣なものになつて居りまして、其内容も可成複雑を極めて居ります。之は会社が法律に依つて設立致さるべき会社でありますが為に、会社法並に施行令中に定めて居りまするものゝ中、重要なる事
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項は悉く定款の上に転記せられて居るのであります。従つて定款一部を御覧になりますと、此会社に関する法律の関係が一目に瞭然たる事を得るといふ趣意に於て、此定款が編成致されたのでございますから自然此定款を御説明申上げることにすると、同時に会社法並に施行令中の重要事項が御説明せらるゝことに成るのであります。先づ第一に第八条並に第九条であります。第八条は丁度会社法の第五条の規定を敷衍致したのでございまして、此会社の営業要素たるものは、国家の専掌権の上に基脚致して居るものでありますから、若し此会社の株式議決権の過半数が外国人又は外国法人の手に帰属するやうなことに相成ると、単に平常時に於て我帝国の外交並に通商交易の関係が大に影響を受くるのみならず、一朝重要な国際談判等が起りました場合に於ては、日本帝国の得失に関する所極めて重大なる所以のものがございますから、政府は本法の第五条に於て既に之に対する相当の用心を加へて居るが、更に定款に於ては此会社の株式が、万一議決権の過半数が外人又は外国法人に属する法人の所有と成りたる場合の対策をも定めて居るのでございます。それから政府の此会社に対する監督権の行使でございます。此定款の第二十一条と第二十三条に此会社の業務執行機関に対する政府の監督権行使の条項が載せてありますが、即ち取締役及び監査役の選任及退任の決議は、逓信大臣の認可を受くるに非れば其効力を生ぜざるものと云ふ事になつて居る。通例の特殊会社であると、重役の任命は政府の権内にあるのでありますが、此会社に在りては重役は総て株主総会に於て選任を経る。唯だ主務大臣の認可を得て始めて之れが選任及び退任の効力を生ずるといふ事に致して居るのであります。第二十三条は矢張同様の意味に於て、常務重役に対する監督権行使の場合を定めたものでありまして、外人並に外国法人に対する前述の掛念や、又国内政治上の関係等に顧念して、至当の注意であると認められるのでございます。次は第五章計算に関する点であります。日本無線電信株式会社法並に施行令中に定めてあるものにして、会社の計算に関係を有する事項中、四ケ条の最も重要なるものがあるのでございます。第一が第三十四条の規定である。即ち此会社は政府の取扱ひたる電報料金中、本邦収得分に当るものゝ百分の九十を一月分毎に政府より交付を受くるものとすといふ事に相成つて居る。之は諸外国との交信に於ける電報料金に対して日本帝国の取り勘定が生ずる。其の金額の九割を会社が収受し、残り一割は政府の収得することになる。一割は何に引当てゝ政府が収得するかといふと、此会社は其の設備並に附属設備を政府の用に供するのでありますけれども、内地に於ける外国電報事務の取扱及無線局に於ける通信事務は、依然として日本帝国政府の直管下にある内地の郵便電信局の手に存するのでありますから、此内地の郵便電信局に於ける外国電報事務に要する経費に引き当てまして、帝国の収入勘定に於ける一割を政府が収得するといふ関係になるのであります。而して列国間に於ける海外電報料金の相互勘定は、其精算の済む迄は相当時日を要するので、之を待ちますと余程日子を其間に要しなければならぬのであるから、自然金利の関係から申しても、会社の損する処が少なからざるものであります
 - 第52巻 p.94 -ページ画像 
故に、政府は会社保護の意味に於て、一ケ月分毎に概算渡をする事に成るのであります。之は施行令第一条に於て定めてあるものであります。第二と致しまして、第三十七条は政府が会社の利益配当を間接に十年間年八朱の保証をしたと云ふに当るのでありまして、即ち当会社は其創立初期から第二十営業期に至る迄政府の持株に対し利益配当を為す事を要せずとの特典を得て居るのであります。併しながら第二項に於ては、若しも会社の配当し得べき利益金が十ケ年を通じて八朱以上の計算に成る場合に於ては、政府は一定条件の下に、自分の持株に対しても亦配当を求むると云ふことになつて居るのであります。第三の点は、第三十八条の規定でございます。第三十八条第二項に於て、政府の使用に供する無線電信設備及び其附属設備の改良若くは研究の経費に充つる為め積立を為す場合に於ては、逓信大臣の認可を受け、政府持株に対する配当に充つべき利益金を該積立金に振り替へ組入るることを得と云ふ事が定められて居りますが、之は一と通りの説明を要する次第であります。此会社は大体御考へに成りましても御判りになります通り、営業成績の上に於ては少しもソツの出る会社では無いので、即ち営業の本体は国家の専掌権に属する絶対的独占事業であり其収入としては、国際勘定に於ける日本帝国政府の収得に帰すべきものゝ九割を毎月政府から受け入れる。支出関係に於ても亦少しも不測の変化は予想し得ないので、収入の増加はあるも、大体に於て支出は一定致して居るのであつて、頗る不安の乏しき営業関係であり、所謂ソツの無い会社事業でありますが、独り経営上に於て注意を要する点は、無線電信技術の進歩発達に伴ふて設備の改良を必要とする一事に在るのである。即ち今日の設備は明日に至れば或は時代遅れのものとなり、自分では独りで完全なりと極め込んで居つても、他に更に優越なものが出来れば、之と相追随せねばならぬと云ふ如き、技術上に於る新局面に善処して行くの用意を必要とするのでありまして、幸にも既往の関係から申すと云ふと、技術の研究改良が行はるゝ毎に必ず起業費が廉くなつて、而して其機関の能率が向上致して居るのでありますから、随て改良進歩の実を挙げて参ることが、当然有利に成るのであり、素より新局面に対応すべき施設を怠らざるの用意を専一と致すのでありますから、自然之に伴ふ改良資金の積立を要する事になります。そこで政府は第三十八条第二項に於て会社が其設備の改良又は研究の経費に充つる為に積立金を要する場合に於ては、主務大臣の認可を受けて、創業当初の十年間は政府持株に対する配当を為す代りに、之れを研究改良資金として会社に積立てると云ふ事が許さるゝ恩典を施行令第二条に於て定められてあるのでありまして、玆に之を移したのでありますが、是れ又政府が会社保護の意味に於る一ケ条であります。以上申上げたのは会社の恩典に属する部分でありますが、第四に会社の義務に関する方面を申すならば、第三十九条に於て、会社が一割二分以上の配当を為し得る場合に於ては、右の一割二分を超過したるものゝ半額を政府に公納すべしと云ふ事を定めてあるのでありまして、会社は国家の専掌権に属するものを営業の本体と致して居るのでありますから、つまり会社自体の力と云ふものよりも、寧ろ我が日本
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帝国の国勢・国力・国威の進展発揚に伴ふて、自然的に会社の営業が隆盛に赴き其利益が増進致して行くのでありますから、会社の配当し得べき利益金が一割二分以上に至る場合に於ては、其の超過額の半額を政府に公納する事は、素より当然となすべき事であらうと云ふ所から、朝鮮銀行法に則りまして定められたものであります。之が会社の義務とする所として、法律に規定せられてあるのであります。以上述べた四ツの点が会社法並に其施行令中に定めてある処にして会社の計算に関係有る要点である。
 終りに収支概算の内容と之れが基礎数字に就て御説明申上度いと存じます。収支計算書の第一表を御覧に相成りますと一目御判りになるであらうと思ひますが、御覧の通り初年度乃至第四年度は、政府の所有株に配当を為さゞる限りは民間株に対し年八朱の配当を為し得べき利益を挙ることが出来る。第五年度に於ては既に政府から与へられた特典を余処にして、政府の株式に対しても一律同様に八朱五厘の配当が出来、続いて第六年度に九朱、第七年度に九朱五厘、第八年度一割第九年度一割二分、而して第十年度に至つては一割二分以上の配当が出来るのでありますから、定款第三十九条に定められてある通りに其の一割二分を超過して居る金額の半額、即ち弐拾四万円程を公納することになつて、而かも会社配当率は一割三分二厘に上る計算になつて居る、而して先に申上げましたる法定資本金額弐千万円に対する起業費の超過分、即ち参百参拾万円は計算上九朱利付社債を以て支弁すべきことになつて居るのであります。次に収入計算に於ける基礎数字に就て、御説明致して見度いと存じますが、国際通信上に於る無線電信の将来を卜すると云ふ事は固より其人に依つて自から観察を異にするものがあらうと存じます。若し夫れ私一身に関係する事実に就て申しますと、私は前年英米訪問実業団の一行に加はりまして欧米各国を歴遊致し、而して大正十一年の春、帰途再び亜米利加に立寄り、当時北大西洋に於ける欧米間の交信に於て無線電信に依る取扱電報語数が、海底電信に対して如何なる割合に在るであらうかに就て調査を致した事がございます。当時北大西洋を横断する海底電線は十六線ございまして之に対して無線電信が競争を致して居つたのでありますが、全体の取扱電報語数の上に於て無線電信に依るものは僅に五分、而して残りの九割五分は海底電信の占有する処となつて居る事実を知り得たのであります。而して今回政府が此の概算書を調製致しまするに就て、逓信当局の観る処に依ると、現に北大西洋の通信上に於ける海底電信の割合は、恰度半々になつて居つて、即ち三年前僅に五パーセントであつたものが、三年後の今日は五十パーセントに躍進し居る次第であります。と云ふ如き事実に徴しても、将来に於ける無線電信の国際通信上に於ける位置は殆ど逆睹し難いものがあるのですが、本計算書に於ては、素より穏健なる程度に数字の拠る処を定めなければならぬ為に対米電報の関係に於ては、大体大正十二年度の取扱語数たる五百万語を基礎と致して、其の七分に当る三十五万語を押へ、即ち将来に渉り毎年三十五万語づゝ増加して行く。斯ういふ収入率に相成つて居る。即ち累進率に非ずして、年々三十五万語づゝ煉瓦積に殖へて行くと云
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ふ様なことになる。此の三十五万づゝの増加とは如何なる意味の数字であるかと申しますと、大正三年から十二年に至る十年間に於て、対米電報取扱実数の上に於ける毎年の増加語数を見ると、四十二万語である。勿論当時は世界的好景気の時代も含まるゝけれども、又大戦中の商業沈滞の時期もある等に依つて、其語数の年平均を取つて見ると恰度十年間に於ける毎年の増加語数平均は約四十二万語である。其四十二万語から更に七万語尠き三十五万語を押さえたのでありますから蓋し大丈夫であらうと云ふ事に依つて、煉瓦積に三十五万語づゝ増加して行くと云ふ収入率に依つたのでございます。猶今度会社に依つて磐城局の改修が施さるゝのでありますが、欧洲局が出来る迄は、現今の磐城局を従来の如く単に対米通信の上に於てのみならず、之を対欧通信の上にも使用する事にして、対欧通信の上から生ずる語数を初年度乃至第三年度に亘り、二十万から三十万として之に加算して居るのでありますが、既に皆様も新聞に依つて御承知でもありませうが、政府は去る七月一日から磐城局を対欧通信の上にも用ふる事を公表致されました。右が対米通信の関係でありますが、其他の電報語数も大体常態と認めらるゝ処の、大正十二年度取扱実語数を基礎と致しまして大正十二年度の十一年度に対する増加歩合が恰度五厘五六になつて居ります所から、それを基準と致しまして、之に相当する語数即ち約十二万五千語宛を、将来に増加して行くものであるといふ計算の下に在るのであります。猶我国としては今後無線電信が愈々会社の手に依つて海外の通信に専用せらるゝことに成るのでありますが、無線電信が既存の海底電信の領域に対して、果して如何なる程度に於て侵蝕して行けるかと云ふ事を推算せざるを得ないのである。先きに申上げました通り、北大西洋方面に於ける有線・無線の競争に於て、僅か三ケ年にして五パーセントより五十パーセントに躍進したと云ふ、非常な事実のみを御考になれば兎に角、先づ着実な計算としては、対米関係に於て無線電信に移る割合が三分の二とし、対欧関係に在りては、第一に英吉利でございますけれども、英吉利は皆様も御承知の通り有力なる海底電信国であるのであつて、海底電信の利害関係が国家的に極めて大なる国柄であるから、相当激烈なる競争を免れぬことであらうと観察されるのであります。仍つて最初の五ケ年は十分の三、爾後十分の四と云ふ事に止めて、十分の四以上には至り得ないと云ふことに致して居る。仏蘭西・独逸に対しては、既に無線電信に関する協約が、帝国政府との間に成り立つて居るのでありまして、無線局建設と共に直ちに之れが通信を開始し得べき関係になつて居るから、五分の三は確実と云ふ事になつて居る。其他の欧洲諸国、即ち伊太利・チエツコスロヴアキヤ・波蘭・露西亜等よりは、既に我国に向つて無線電信の協約締結を促がして参つて居る状況でありますから、是れ又我無線電信局の開設と共に、直に交信が行はるゝ事と存じますけれども、之は大北電信会社の関係もありますから、五分の二に止めて在るのであります。南洋方面に関しては、印度は最初の五ケ年は十分の三、次の五ケ年は十分の四、以後は十分の五と云ふ処に推算してある。仏領印度支那・蘭領印度・比律賓・濠洲及びニユージヰランド方面に対しては
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五分の三と云ふ事に致してある。極東方面に対しては、支那内地とは二分の一と云ふことに相成つて居ります。以上は我が無線電信の有線電信の既存範囲に侵入し得べき程度を推算致したものでありまして、これ位の事は必ず出来得べきことゝ考へられます。電報料金に就きましては、海底電信に対して無線料金を八掛と計算してあります。支出に於ては殆ど考へ得べき一切の支出を計上してありまして、無論起業償却基金を始め、諸般の危険に対して自家保険を致します所から、其の自家保険料、其他法定積立迄をも支出に算入致して居る。即ち収支の差引によりて純益金として計出せられて居るものは、所謂配当し得べき利益金でありまして、只だ役員賞与金が支出の内に計上致されて居りません丈けで、謂はゞ最少限度の計算と称すべきで、非常なる不測の事変が発生せざる限り、此の計算に現はるゝ利益を動かすべきものは、先づ現在に於て想像することが能はぬのであります。
 最後に一言申上げて置き度いのは、此の会社は純然たる国家的事業を経営するのでありまして、独占事業として殆ど何者の追随をも許さぬ関係でありますから、政府は当然会社に対する利害関係を、成るべく日本国民多数の上に広く分かたしむべき考から、政府持株以外の民間所有株式の全部を、一般公募に付すると云ふ最初の方針であつたのであります。然るに一面に於ては先きに申述べた如くに、国家の専掌権を営業の本体とする会社に在りて、其株式議決権の過半数が、若し過つて外人若くは外国法人の手に帰属するが如き場合に於ては、誠に由々しき事態を想像致さるゝのでありますから、之に対する用意と致しましては、会社株式の中堅が政府と我が内地の有力筋との手に固定せらるゝ事を絶対に必要とするので、今回政府持株以外、更に十万四千株を設立委員の間に分ちまして、全部四十万株中、十五万株は政府並に設立委員の手に依つて引受けらるゝことに成り、残余二十五万株は一般公募に付するの方針で、不日之を公表する事になつて居るが、其の以前に当りて、各地の有力なる資産家に向ひ会社設立に対する賛襄を求め、出来得べき限り公募株式の多数を引受応募せらるゝ様御勧誘致さんが為に、各地に出張致しまして、会社の事業の計画並に収支計算の内容に関し御説明致し居る次第で御座います。何卒此事業の国家的なる所以に鑑みられまして、且事業夫れ自体も亦大に確実有望なる所以のものがあることを、幸に御了解戴きましたことゝ存じますから、奮て多数株式の御引受を切望致します。本日は酷暑の砌殊に一日中の最も忙しい時間を御割愛頂きまして、私の説明を御聴き下さつたことを大に多と致しますと同時に、此の会合に御尽力下さいました当商業会議所会頭並に会議所御当局の方々に対して、深甚の謝意を表する次第で御座います。(各地商業会議所に於て)



〔参考〕日本無線 第八六号創立拾周年記念特輯号・第六三―六八頁昭和一〇年一一月 「我社の創立されるまで」回顧座談会 四、議会に於ける法律案審議の状況及会社設立事務経過(DK520009k-0012)
第52巻 p.97-100 ページ画像

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