デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
2節 蚕糸・絹織業
1款 社団法人大日本蚕糸会
■綱文

第52巻 p.353-356(DK520034k) ページ画像

大正5年6月2日(1916年)

是日栄一、当会会頭清浦奎吾・副会頭牧野忠篤等ト共ニ、宮中御養蚕所ヲ拝観ス。


■資料

中外商業新報 第一〇八二五号 大正五年六月三日 ○坤徳洪大 蚕糸会役員の御養蚕所拝観(DK520034k-0001)
第52巻 p.354 ページ画像

中外商業新報 第一〇八二五号 大正五年六月三日
    ○坤徳洪大
      蚕糸会役員の
      御養蚕所拝観
皇后陛下が蚕糸の道を御奨励あらせらるゝは今更申すも畏き次第なるが、去ぬる大正元年宮城に移御せらるゝや、新に養蚕所を御造営相成り、同三年より年年新養蚕所にて蚕児を飼育遊ばされ、深く大御心を斯業の発達に用ひさせ給ひ、曩には地方長官に御養蚕所の拝観を差許され、更に二日は特に
  斯業御奨励の思召
を以て大日本蚕糸会々頭清浦奎吾子を始め同会役員に拝観を差し許されたり、今拝観の模様を承るに、御養蚕所は宮城内紅葉山にありて、正面玄関を中心に右に簡易養蚕室、左に普通養蚕室の二棟あり、建坪二十坪に出で何れも二階建なるが、簡易室は、陛下が往年高等蚕糸学校に成らせられし際御実見あらせられし同校の設備に則り、一般
  農家の飼育状態を
親しく臠はさんとの大御心より造らせ給ひしものとて、床は土間に筵を敷き、天井は粗き竹簀を用ひたる至極質素の御設備、拝するだに畏き極みにて、目下御飼育の蚕種は内国産にありては小石丸・東蚕一号等にて、外国種は仏国純粋種外に交配種をも含み、前者は五月一日掃立本月下旬頃上簇すべく、後者は五月三日掃立目下五齢六日目位にて
  交配種は昨今上簇
中なりと云ふ、此等は専ら全国各農学校より選抜せし学生及び卒業生が、宮内省主任技師指導の下に孜々として飼育の任に当り居り、陛下には掃立以来度度玉歩を此処に運ばせ給ふと承るも畏き次第なるが、御研究の広くして且つ深く渡らせらるゝ事専門家も遠く及ばざる程にて、常に養蚕に関する内外の書を御渉猟あらせらるゝ由拝聞す、桑葉は約六反歩の桑園に栽培せられ、桑樹は何れも一丈五六尺にも及ぶ見事なるものにて
  拝観者一同も驚嘆
し、今更ながら陛下の斯業に堪能に渡らせられ、その発達振興に意を用ひさせ給ふ事の深きに感佩恐懼せしと云ふ、尚同会は曩に御歌を給ひ、昨秋は更に御内帑金を給ひ、今復此の光栄を担ひ、幹部役員一同は感激措く所を知らず、深く聖旨の存する所を奉体して退出せりといふ、当日拝観の栄を荷ひしは清浦会頭の外左の諸氏なり
 副会頭牧野忠篤子・同益田孝・渋沢栄一男・原富太郎・吉池慶正・志村源太郎・中川望・北村七郎・渡辺文七・今西直次郎・若尾幾造・石渡繁貞・工藤善助・加藤知正・重富三男三・矢作栄蔵・森田退蔵・安達健三郎


竜門雑誌 第三三七号・第九五頁 大正五年六月 宮中御養蚕所拝観(DK520034k-0002)
第52巻 p.354-355 ページ画像

竜門雑誌 第三三七号・第九五頁 大正五年六月
○宮中御養蚕所拝観 大日本蚕糸会々頭清浦奎吾子・副会頭牧野忠篤子・同益田孝氏・顧問青淵先生其他二十余名の諸氏は、六月二日午前十時より石原宮内次官・三室戸皇后宮主事其他の案内にて、宮中紅葉
 - 第52巻 p.355 -ページ画像 
山なる皇后宮御養蚕所拝観の栄を辱ふせられたる由。



〔参考〕中外商業新報 第一二九四六号 大正一一年三月二七日 大日本蚕糸会総会 閑院総裁宮御諭旨(DK520034k-0003)
第52巻 p.355-356 ページ画像

中外商業新報 第一二九四六号 大正一一年三月二七日
    大日本蚕糸会総会
      閑院総裁宮御諭旨
大日本蚕糸会では二十六日午後二時から丸の内東京府商工奨励館に総裁閑院宮載仁親王殿下の台臨を仰ぎ、第十七回総会を挙行した、定刻会頭牧野忠篤子、副会頭志村源太郎・加賀山辰四郎・本多岩次郎、理事原富太郎・今井五介・北村七郎・芳賀権四郎・渡辺文七、顧問清浦奎吾子・渋沢栄一子・益田孝男の諸氏及主事・評議員其他役員・来賓全国一般会員千数百名式場に着席するや、会頭の御先導にて総裁宮殿下式場に臨御、牧野会頭の開会の辞に次で、総裁宮殿下には諸員起立敬礼中に優渥なる御諭旨を賜はる
      諭旨
 大日本蚕糸会第十七回総会を開き、蚕糸業に貢献せる諸員の功績を表彰するに方り会員諸氏に告ぐ
 蚕糸は本邦枢要の貿易品にして国民経済の消長に関する極めて大なるものあり、会員諸氏協力一致斯業の堅実なる発達を期し、以て富国の増進に資せむことを望む
             大日本蚕糸会総裁元帥
             陸軍大将大勲位功二級
                    載仁親王
之に対し牧野会頭は恭しく左の奉答をなし
      奉答
 本日大日本蚕糸会第十七回総会を開くに方り、総裁殿下台臨あらせられ、多年蚕糸業上に貢献せるものを表彰せさせ給ひ、且つ賜ふに優渥なる御諭旨を以てせらる、是れ洵に本会の光栄にして会員一同の感激措く能はざる処なり
 惟ふに本邦蚕糸業は、世界絹業の発展に伴ひ長足の進歩を示せるは邦家の為欣喜に禁へざる処なり、然りと雖も尚其施設経営上改善を加ふべきもの尠からず、忠篤等不敏と雖も克く御諭旨の在る処を奉戴し、会員一同と共に内は優良品を低廉に生産するの途を講じ、外には益々販路拡張の方策を講ずるに勗め、協心戮力誓て台諭に副ひ奉らんことを期す、玆に会員一同に代り謹て答辞を奉る
             大日本蚕糸会々頭
                      牧野忠篤
             従三位勲三等子爵
本多副会頭の大正十年度業務成績の報告に次で、牧野会頭から前号所報の功績表彰者に対し恩賜賞以下第一種功績章・第二種功績章・第三種功績章及賞状を授与した後、山本農商務大臣の告詞あり
      農相告辞
 大日本蚕糸会は本日を卜し、特に総裁宮殿下の台臨を仰ぎ以て第十七回総会を開き、併せて斯業功労者を表彰するに方り、一言会員諸君に告ぐることを得るは洵に欣幸とする所なり、惟ふに我蚕糸業は近年長足の進歩を為し、生糸の輸出数量は欧米に於ける消費数量の
 - 第52巻 p.356 -ページ画像 
過半を占むるの盛況に在るは大に人意を強うするが如しと雖も、其内容を顧るに基礎安定を欠き、経営に困難を感ずるの嫌ひあり、加之今や列国互に自国産業の振興に全力を傾倒し、日々経済的競争の激甚を加へむとす、殊に蚕糸の生産消費諸国の状態と人造絹糸工業の勃興とは、一時も我当業者の苟安を容さゞるものあり、此時に際し当業者は更に一段の策励を加へ、内製品の改良と生産費の節約を図り、外需要地に於ける信用の保持と販路の拡張とに努め、以て斯業の堅実なる発達を期せざるべからす、冀くば会員諸君時勢の進運に鑑み協心戮力益々斯業の改善発達に尽瘁し、誓つて台旨に副ひ奉らむことを、一言以て告辞とす
更に宇佐見東京府知事の祝詞代読、表彰者総代網野豊次郎氏(埼玉)の奉答があつて二時四十分閉会



〔参考〕渋沢栄一書翰 吉池慶正宛 (大正一三年)八月一九日(DK520034k-0004)
第52巻 p.356 ページ画像

渋沢栄一書翰 吉池慶正宛 (大正一三年)八月一九日 (西条峰三郎氏所蔵)
貴翰拝読、爾来益御清適奉賀候、然者過日開催之本会委員会聯合会ニハ特に御斡旋被下、好都合ニ提出案審議相成候ハ御同慶此事ニ御坐候右ニ付各県地方長官又ハ本会出席之委員等へ挨拶之書状案及協議案之原稿、又ハ官憲其他へ進達すへき書面之案共種々御取調御廻し被下一覧仕候処、少々字句に修正を要し候処も有之、其上是等之意見書漠然提出致候とも、単ニ官庁之束閣と相成候のミニ候間、此上機会を得て当局ニ対し篤と意見交換之必要有之候、依而右等之手続ハ尚御協議もいたし、東京委員とハ今一応会同打合も致度と存候、右ニ付御遣之原稿ハ暫時手許ニ留置、本月末帰京之上御相談可致と存候、右不取敢貴酬如此御座候 敬具
  八月十九日               渋沢栄一
    吉池賢契
         拝復