デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
8節 鉄鋼
3款 九州製鋼株式会社
■綱文

第53巻 p.41-46(DK530009k) ページ画像

大正14年6月5日(1925年)

是ヨリ先、当会社工場設備ハ完成シタルモ、欧洲大戦後ノ経済界不況ノタメ作業開始ニ至ラズ、漢冶萍煤鉄廠鉱有限公司ヨリ、当会社ニ於テ作業開始ノ場合ハ、最モ有利ナル条件ヲ以テ銑鉄ノ供給ヲナスベキ諒解ノ下ニ、此際一先ヅ合辦組織ヨリ脱退シタキ旨ノ申出アリ。是日、当会社取締役会会長安川敬一郎、書翰ヲ以テ右事情ヲ詳述シ、栄一ノ諒解ヲ求ム。

八月五日、当会社事務所ニ於テ臨時株主総会開カレ、右ニ伴フ定款一部変更ノ件議決セラル。


■資料

(九州製鋼株式会社)第七回営業報告書 (自大正十二年三月一日至同十三年二月廿九日) 第一―二頁刊(DK530009k-0001)
第53巻 p.41-42 ページ画像

(九州製鋼株式会社)第七回営業報告書 (自大正十二年三月一日至同十三年二月廿九日)
                        第一―二頁刊
    第七回営業報告書 (自大正十二年三月一日至同十三年二月廿九日)
○上略
      第二 事業ノ概況
前期ニ於テ報告シタル如ク当社工場ノ建設工事ハ大正十二年二月末ヲ以テ大体ノ完成ヲ告ケタルモ、財界ノ前途未タ逆睹シ難キト、原料問題ニ関スル根本ノ解決ヲ見サル為メ、当分ノ内作業開始ヲ延期スルノ方針ヲ以テ今日ニ及ヒタルハ甚タ遺憾トスル所ナルモ、爾来財界ノ不況殊ニ鉄業界ノ不振ハ益甚シク、加フルニ原料タル銑鉄ノ低廉且安全
 - 第53巻 p.42 -ページ画像 
ナル供給ノ途確立セサルヲ以テ、寧ロ現状ヲ維持シテ時機ノ到来ヲ待ツノ得策ナルヲ認メタルニヨリ、当期間ニ於テハ既設工場ニ附帯シテ将来施設スヘキ部分ニ対スル設計ノミニ従事スルコトヽシタリ、従テ職員ノ如キモ適当ニ之ヲ減員シ、能フ限リ経費ノ節約ニ努メタリ
○下略


九州製鋼株式会社株主書類(DK530009k-0002)
第53巻 p.42 ページ画像

九州製鋼株式会社株主書類         (渋沢子爵家所蔵)
                        (明六)(白石)
  大正十四年六月五日
    子爵 渋沢栄一殿          安川敬一郎
拝啓 時下益御清福之段奉慶賀候、陳者九州製鋼会社ノ現状ハ毎期ノ営業報告等ニヨリ既ニ御承知ノ通リニ御座候処、過般来漢冶萍公司ヨリ、当会社ノ事業モ戦後世界経済界ノ事情ノ大変動及鋼価ノ底落並大冶熔鉱炉ノ全操業遅延等ノ影響ニ因リ、工場ノ設備ハ既ニ完成シタルニ不拘、今日ニ至ル迄作業開始ヲ見ル能ハザルヲ遺憾トシ、且公司ガ拙者ニ対スル借款利子ハ当初ヨリ未払ノ儘停滞シ、既ニ約壱百万円ニ達セントスルノ現況ニ有之、斯クテハ将来会社ガ作業開始ヲ為ス暁ニ於テモ、相互有利ナル取引ヲ円満ニ実行シテ合弁経営ノ趣旨ヲ完ウスルコトノ頗ル困難ナルベキヲ考慮シタル結果、此際公司ノ所有スル会社株式全部ヲ拙者ニ提供シテ合弁組織ヨリ一先脱退シ、拙者ニ対スル公司ノ借款及其延滞利子ニ対スル公司ノ全責任ヲ解除セラレ度旨ノ要請ニ接シ候処、抑会社ハ本邦ニ於ケル鉄鋼ノ自給ト日華間ニ於ケル産業ノ提携ヲ唯一ノ主眼トシテ設立セラレタルモノナレバ、今直チニ合弁組織ヲ解除スルコトハ誠ニ忍ビザル所ニ有之候得共、公司申出ノ通リ、公司ノ現状ニ鑑ミル時ハ、公司所産ノ銑鉄ノ産額不足ト、其高騰ナル価格ハ、到底会社ノ事業ニ対シ将来ノ安定ヲ確保シ能ハザルヲ以テ、此儘合弁組織ヲ継続スルコトハ何等意義ナキモノト被考候条、此際公司ノ要請ニ応スルコトハ万已ヲ得ザル事情カト相考候ニ就テハ、更ニ交渉ノ結果公司ニ於テモ従来ノ沿革ニ鑑ミ、若シ会社ガ作業ヲ開始シテ銑鉄ヲ要スル場合ニ於テハ、公司ハ猶合弁経営ノ趣旨ヲ実行スヘキ機会ノ実現ヲ希望シ、且前記延滞利子免除ノ好意ニ酬ヰル為メ、公司所産ノ銑鉄ヲ其当時ニ於テ会社ニ取リ最モ有利ナル条件ヲ以テ会社ニ供給シ、尚製鉄所及公司自用ニ余裕ヲ生ズル場合ニ於テハ、更ニ鉱石ヲモ前記銑鉄同様廉価ニテ会社ニ供給シ、以テ睦誼ヲ敦ウ致度トノ誠意ヲ声明致候コトニ、公司ニ於テ決定ノ旨予報ニ接シ候条、此諒解ノ下ニ、一先公司ガ合弁ヨリ脱退スルコトヲ承諾致度候
就テハ本件ハ会社成立ノ趣旨ヨリ見ルモ重大ナル案件ナレバ、本件ニ関スル交渉完結ノ上ハ定款ノ変更等ヲ要スル義ニ有之候条、追テ臨時株主総会ヲ開催スルコトニ可致候モ、玆ニ予メ本件ノ経過ヲ報告シテ御諒解ヲ得度如斯御座候 敬具


(九州製鋼株式会社)第九回営業報告書 (自大正十四年三月一日至大正十五年二月廿八日) 第一―三頁刊(DK530009k-0003)
第53巻 p.42-43 ページ画像

(九州製鋼株式会社)第九回営業報告書 (自大正十四年三月一日至大正十五年二月廿八日)
                        第一―三頁刊
    第九回営業報告書 (自大正十四年三月一日至大正十五年二月廿八日)
 - 第53巻 p.43 -ページ画像 
○上略
      第二、臨時株主総会
大正十四年八月五日午前十時前記当社事務所ニ於テ臨時株主総会ヲ開キ、満場一致左記ノ如ク定款一部ノ変更ヲ議決シ、同日監査役一名ノ補欠選挙ヲ行ヒタリ
一、定款一部変更ノ件
 (イ)定款第三条中但書ヲ左ノ如ク改定スルコト
   「但時宜ニヨリ支店又ハ出張所ヲ設クルコトヲ得」
 (ロ)同第六条中第二項、同第十一条中第二項及第三項、同第十六条中但書及同第十七条中「副会長之ニ当リ副会長差支アルトキハ」トアルヲ削除シ、同第二十一条中「拾人」トアルヲ「五人」ト改定スルコト
 (ハ)同第二十二条中「日支両国」及「各其其半数ヲ《(衍)》」並ニ但書ヲ削除シ、同第二十五条及第二十六条ヲ左ノ如ク改定スルコト
   第二十五条 当会社ニ取締役会会長・常務取締役各一人ヲ置ク取締役会会長ハ会社ヲ代表ス、取締役会会長事故アルトキハ常務取締役之ヲ代表ス
   第二十六条 取締役会会長及常務取締役ハ取締役中ヨリ取締役会ニ於テ互選ス
 (ニ)附則ヲ全部削除スルコト
二、監査役呉錦堂辞任ニ付、選挙ノ結果小西春雄当選就任シタリ
      第三、事業概要
当期間ニ於テモ前期同様引続キ作業開始ラ為スニ至ラサルハ甚タ遺憾トスル所ナリ、而シテ当社ガ曩ニ支那上海漢冶萍煤鉄廠礦有限公司トノ間ニ締結シタル日支合弁契約ハ、同公司ノ事情ニ鑑ミ一先ツ之ヲ解除シタリ、従ツテ当社ハ将来適当ナル時機ニ於テ原料ノ供給ニ関シ確実ナル方策ヲ立テムトス
○下略


九州製鋼株式会社定款 第一―七頁刊(DK530009k-0004)
第53巻 p.43-45 ページ画像

九州製鋼株式会社定款 第一―七頁刊
    九州製鋼株式会社定款(大正十四年八月五日改定)
      第一章 総則
第一条 当会社ハ九州製鋼株式会社ト称ス
第二条 当会社ハ鋼鉄ノ製造販売並ニ之ニ附帯スル事業ヲ為スヲ以テ目的トス
第三条 当会社ハ本店ヲ福岡県八幡市ニ置ク
 但時宜ニヨリ支店又ハ出張所ヲ設クルコトヲ得
第四条 当会社ノ資本総額ハ金壱千万円トス
第五条 法令及定款ノ規定ニ依ル当会社ノ公告ハ福岡市ニ於テ発行スル福岡日日新聞ニ之ヲ為ス
      第二章 株式
第六条 当会社ノ株式ハ拾万株トシ、壱株ノ金額ヲ金壱百円トス
第七条 当会社ノ株式ハ総テ記名式トシ、取締役会ノ承認ヲ得ルニアラサレハ之ヲ他人ニ移転スルコトヲ得ス
 - 第53巻 p.44 -ページ画像 
  但相続遺贈其他法律上ノ原因ニ依リ当然移転スヘキトキハ此限リニアラス
第八条 当会社ノ株券ハ壱株券・拾株券・百株券ノ三種トス
第九条 第七条ニ依ル株式ノ名義書換又ハ株券ノ損傷分合ニ因ル株券ノ引換ニ就テハ、当会社所定ノ請求書ニ株券並ニ手数料ヲ添ヘ差出スヘシ
 前項ニ定ムル名義書換手数料ハ株券一枚ニ付金拾銭、株券引換手数料ハ新株券一枚ニ付金弐拾銭トス
第十条 紛失其他ノ事由ニ依リ株券ノ再交付ヲ請求スル株主ハ、当会社ノ適当ト認ムル保証人二人以上連署ノ書面ニ事由ヲ具シ差出スヘシ、此場合ニ於テハ請求株主ノ費用ヲ以テ引続キ三日以上公告シ、其最終ノ日ヨリ二個月ヲ経ルモ尚発見セス、且他ヨリ何等ノ故障ヲ申立ツルモノナキトキハ新株券ヲ交付スヘシ
 前項ニ定ムル新株券交付ノ手数料ハ株券一枚ニ付金弐拾銭トス
第十一条 株主又ハ其法定代理人ハ住所氏名及印鑑ヲ当会社ニ届出ツヘシ、住所氏名変更ノ場合亦同シ
第十二条 第十一条ニ違反シタルカ為生シタル結果ニ就テハ当会社ハ一切其責ニ任セス
第十三条 当会社ハ株主総会開会ノ日以前十四日以内又ハ必要ト認メタル場合ハ、同一期間内株式名義書換ヲ停止スルコトヲ得、但株式名義書換ノ停止ハ之ヲ公告スルニアラサレハ其効ナシ前項ノ規定ハ当会社ノ解散後ニ於ケル清算人ニ之ヲ準用ス
第十四条 株金ノ払込期日及金額ハ取締役会ノ決議ヲ以テ之ヲ定メ、少クトモ三十日前ニ株主ニ通知スヘシ
第十五条 株金ノ払込ヲ延滞シタル株主ハ延滞金壱百円ニ付一日金四銭ノ延滞利子ヲ支払フヘシ
      第三章 株主総会
第十六条 当会社ノ定時株主総会ハ毎年四月、臨時株主総会ハ必要アル毎ニ之ヲ開クモノトス
第十七条 株主総会ノ議長ハ取締役会会長之ニ任シ、取締役会会長差支アルトキハ出席取締役之ニ当リ、取締役差支アルトキハ株主中ヨリ之ヲ選挙ス
第十八条 株主ハ当会社ノ株主ニ限リ之ヲ代理人トシテ議決権ノ行使ヲ委任スルコトヲ得
第十九条 株主総会ノ決議ニ付可否同数ナルトキハ議長之ヲ決ス
第二十条 株主総会ノ決議ハ之ヲ議事録ニ記載シ、議長及出席シタル取締役・監査役及株主一人署名又ハ記名調印シテ之ヲ保存ス
      第四章 取締役及監査役
第二十一条 当会社ノ役員ハ取締役五人及監査役二人トス
第二十二条 取締役及監査役ハ孰レモ株主総会ニ於テ当会社ノ株式壱百株以上ヲ所有スル株主中ヨリ選任ス
第二十三条 取締役ノ任期ヲ三年、監査役ノ任期ヲ二年トシ、再選重任スルコトヲ妨ケス
  但其任期カ任期中ノ最終ノ決算期ニ関スル定時株主総会ノ終結前
 - 第53巻 p.45 -ページ画像 
ニ終了スルトキハ該株主総会ノ終結ニ至ル迄之ヲ伸長ス
第二十四条 取締役又ハ監査役ニ欠員ヲ生シタルトキハ第二十二条ノ規定ニ依リ補欠選挙ヲ行フ、此場合ニ於ケル補欠当選者ノ任期ハ前任者ノ残期間トス
  但法定数ヲ欠カス且事務ニ支障ヲ生セサル場合ニ於テハ、現役員ノ協議ヲ以テ次ノ改選期迄選挙ヲ行ハサルコトヲ得
第二十五条 当会社ニ取締役会会長・常務取締役各一人ヲ置ク
 取締役会会長ハ会社ヲ代表ス、取締役会会長事故アルトキハ常務取締役之ヲ代表ス
第二十六条 取締役会会長及常務取締役ハ取締役中ヨリ取締役会ニ於テ互選ス
第二十七条 取締役ハ其在任中自己所有ノ当会社株券壱百株ヲ監査役ニ供託スヘシ
第二十八条 取締役及監査役ノ報酬ハ株主総会ニ於テ之ヲ定ム
      第五章 計算
第二十九条 当会社ハ毎年二月末日ヲ以テ営業年度ノ最終日ト定メ決算ヲ行フモノトス
第三十条 当会社ノ毎決算期ニ於ケル営業純益金ヨリ左記金額ヲ控除シタル残額ハ株主総会ノ決議ニ依リ之ヲ株主ニ配当シ、又ハ次期ニ繰越スコトヲ得
  一積立金   壱百分ノ五以上
  一別途積立金 壱百分ノ五以上
  一役員賞与金 壱百分ノ五以上
第卅一条 株主配当金ハ毎年二月末日ニ於ケル株主ニ支払フモノトス


東京興信所報 大正一四年一一月一八日 九州製鋼株式会社近況(門司)(DK530009k-0005)
第53巻 p.45-46 ページ画像

東京興信所報 大正一四年一一月一八日
    ○九州製鋼株式会社近況(門司)
財界不況の為め已むなく開業に至らずして其儘となり居れる八幡市前田の九州製鋼株式会社(資本金壱千万円内払込高五百万円)は過般片岡商工大臣の八幡製鉄所視察に依り一脈の生気を帯び、昨今頓に当会社の利用を云為さるゝが、同会社の近況を叙述せんに、当社は大正六年九月財界愈々好転せんとする際、安川敬一郎男の抱持せる日支親善の理想下に、同家と漢冶萍煤鉄廠鉱有限公司との間に、日支合弁事業として設立されたるものにて、開業の暁原料銑鉄を支那より供給する契約にて工事を進めたるも、九年財界動乱の影響を受て諸事進捗せず大正十二年二月末を以て製板・製条・加熱・圧延・平炉各工場及平炉二基築造(一基は目下中止)、荷揚岸壁築設工事の変電所引込線土工工事等大体の完成を告げたるも、前述の次第にて残工事を一先づ中止し、形勢を観望し居るものなるが、今日迄投資したる金額約千万円と註せられ居る丈規模の広大なる民間稀に見る工場との評なり、而して当社株式は前述の如く日支各半数を所有し居りたるも、支那側に於て到底払込の資力なきを以て、過般安川家に於て其株式全部を引受け総株式を安川家に纏め、同時に支那側重役は一同辞任したれば、目下当社は全然安川家の所有に帰したる次第なり、如斯民間有為の工場が政
 - 第53巻 p.46 -ページ画像 
府の援助に依り若し活用さるに至れば、独り安川家のみならず国家の為実に慶すべき事なり、目下取締役には会長安川男・松本健次郎・安川清三郎・村田素一郎・石塚信太郎の諸氏、又監査役は河上謹一氏一名なりと云ふ