デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
11節 瓦斯
1款 東京瓦斯株式会社
■綱文

第53巻 p.205-216(DK530039k) ページ画像

明治44年9月13日(1911年)

是ヨリ先、千代田瓦斯株式会社設立セラレ、当会社トノ間ニ激烈ナル競争ヲ惹起ス。岡崎邦輔等三名ハ、両会社ヲ合併セシメントシ、栄一ニ交渉方ヲ依頼ス。栄一、之ヲ諾シテ種種尽力シ、八月二十一日、両会社合併仮契約ノ締結ヲ見ルニ至ル。

是日、上野精養軒ニ於テ、当会社大株主会開カル。栄一出席シ、合併ノ緊要ナル所以ヲ力説ス。該合併仮契約ハ、九月十八日東京商業会議所ニテ開カレタル当会社臨時株主総会ニ於テ承認セラル。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四三年(DK530039k-0001)
第53巻 p.206 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治四三年      (渋沢子爵家所蔵)
二月十五日 晴 軽寒
○上略 二時半上野精養軒ニ抵リ、東京瓦斯会社ノ大株主会ニ出席シテ、千代田瓦斯会社新創ニ付之ニ対スル経営ヲ協議ス、各株主ヨリ会社ノ現況ニ付種々ノ質問アリ、高松氏及平松・福島二氏ヨリ説明ヲ為ス○下略
   ○中略。
八月二十三日 晴 暑
午前七時半起床入浴シテ後朝飧ヲ食ス、福島甲子三氏来リテ東京瓦斯会社ノ事ヲ談ス○中略 十二時半東京瓦斯会社ニ抵リ、重役会ニ向テ一ノ意見ヲ陳述ス、蓋シ瓦斯代引下ケノ事ナリ○下略
   ○中略。
九月二十六日 曇 冷
○上略 午飧後事務所ニ抵リ、事務ヲ処理ス、中野武営氏東京瓦斯会社ノ事ヲ来話ス○下略
   ○当会社ノ瓦斯料金ハ一千立方呎金二円四十銭ナリシヲ、其後金一円九十二銭ニ引下ゲラレタリ。


銀行通信録 第五〇巻第三〇〇号・第八五頁明治四三年一〇月 ○東京・千代田両瓦斯会社の紛争(DK530039k-0002)
第53巻 p.206 ページ画像

銀行通信録 第五〇巻第三〇〇号・第八五頁明治四三年一〇月
    ○東京・千代田両瓦斯会社の紛争
本年五月千代田瓦斯会社は創立後間もなく都下各新聞に広告して、来年八月工事落成の暁は、瓦斯代千立法呎を一円八十銭にて供給し、尚一定の額以上の需要者には更に五分引きを為すべき条件を以て盛んに引用の予約を募集せり、然るに当時東京瓦斯会社の瓦斯代は千立法呎二円四十銭なりしかば、勢ひ両会社の間に営業上競争を生ずるに至りしが、玆に東京瓦斯器具販売組合長井出百太郎氏は、組合の名を以て九月上旬以来連日熱心に東京瓦斯会社の瓦斯引用を勧誘すると同時に一方に於ては千代田瓦斯会社に対し中傷的意味の広告を為し、其文辞稍々過激に亘りしより、千代田瓦斯会社は井出氏に対し名誉毀損の訴を起したり、然るに該広告文は表面上組合の名を以てするも、暗に東京瓦斯会社の関係する所なりとの説さえ伝はりて、問題極めて紛糾し延いて両会社の確執とならんとするの形勢を呈するに至りぬ、此に於てか、中野武営氏は此の如き中傷的不正競争は独り両会社の不利のみならず、経済界全体に悪風習を貽すものなれば、此際両会社を妥協せしめ、正義の営業に復せしめんと、渋沢男爵を介して其調停を試みたるに、千代田瓦斯会社は直に之を承諾したるも、東京瓦斯会社は重役間の意見一致せずして、妥協に応じ難き旨を渋沢男爵に回答したるが其後未だ何等の発展を見ず、今後の成行未だ知る可からざる模様なり


竜門雑誌 第二七一号・第五七頁明治四三年一二月 瓦斯会社同好会(DK530039k-0003)
第53巻 p.206 ページ画像

竜門雑誌 第二七一号・第五七頁明治四三年一二月
○瓦斯会社同好会 東京瓦斯株式会社内の同好会は十二月二十日松本楼に於て開会せられ、青淵先生にも出席せられたりといふ

 - 第53巻 p.207 -ページ画像 

渋沢栄一 日記 明治四四年(DK530039k-0004)
第53巻 p.207-208 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治四四年        (渋沢子爵家所蔵)
一月二十六日 晴 寒
○上略 午飧後東京瓦斯会社株主総会ヲ同所○東京商業会議所ニ開キ、監査役指令《(名)》ノ事ヲ畢リ○下略
   ○中略。
八月十三日 晴 暑
○上略 夕方岡崎邦輔氏来リ、東京瓦斯・千代田瓦斯合同ノ事ニ付内話アリ、夜福島氏来リ同様ノ談話アリ○下略
八月十四日 晴 暑
○上略 福島甲子三氏来話ス、瓦斯会社ノ事ヲ談話ス○下略
   ○中略。
八月十七日 晴 暑
○上略 午飧後上野精養軒ニ抵リ、東京瓦斯会社ノ重役会ニ出席、合併問題ニ付協議ス○下略
(欄外記事)
 角田真平氏十一時頃来リ、瓦斯合併ノ事ニ付意見ヲ述ヘラル
 午前岡崎邦輔氏来話ス、又大橋新太郎・高松豊吉・久米良作氏等来リ、瓦斯合併ノ事ヲ談ス
八月十八日 曇 暑
○上略 午前九時事務所ニ抵リ書類ヲ調査ス、千家男爵・佐竹作太郎・岡崎邦輔氏等来リ、瓦斯合併ノ件ニ付種々ノ談アリ○中略
二時学士会ニ抵リテ高松・久米其他ノ重役ニ面会シテ、朝来ノ談話顛末ヲ詳述ス、且昨日角田氏ノ来示ヲモ談話ス○下略
八月十九日 曇 暑
○上略 午前十一時兜町事務所ニ抵リ、岡崎邦輔氏其他ノ来訪ニ接ス○中略
午後二時上野精養軒ニ抵リ東京瓦斯会社重役会ニ出席ス○下略
   ○中略。
八月二十二日 晴 暑
○上略 東京瓦斯会社高松豊吉・久米良作・福島甲子三氏等ノ来訪ニ接ス
又岡崎邦輔・岡烈二氏ノ来訪アリ、同シク瓦斯会社合併ノ事ナリ○下略
八月二十三日 晴 暑
○上略 六時常盤屋ニ抵リ、両瓦斯合併ニ関シテ仲介者並両会社ノ人々ト会話ス○下略
   ○中略。
九月三日 晴 冷
○上略
東京瓦斯会社萩原源太郎氏来リ、会社ノ要務ヲ談ス○下略
   ○中略。
九月七日 晴 冷
○上略 午前十時東京市庁ニ抵リ、中野武営氏ト共ニ尾崎市長ニ面会シテ両瓦斯会社合併ニ付テノ意見ヲ述ヘ○下略
   ○中略。
九月十三日 雨 冷
○上略 午後一時上野精養軒ニ抵リ、瓦斯会社ノ株主相談会ニ出席シ、一
 - 第53巻 p.208 -ページ画像 
場ノ演説ヲ為ス○下略
   ○中略。
九月十五日 曇 冷
○上略 四時築地香雪軒ニ抵リ、千代田瓦斯会社ノ招宴ニ出席ス○下略
   ○中略。
十月十七日 晴 冷
○上略 田川大吉郎氏来リ、瓦斯会社合併問題ニ付内話アリ、後高松・福島二氏来リテ、田川氏ノ来議ヲ伝達シテ重役ノ協議ヲ為サシム○下略
   ○中略。
十月二十日 晴 冷
午前○中略 久米良作氏来リ、瓦斯会社合併問題ニ付種々ノ談話アリ○下略
十月二十一日 雨 冷
○上略 東京市ニ抵リ、田川助役ト瓦斯会社合併問題ヲ談話ス○下略
   ○中略。
十月二十四日 晴 冷
○上略 岡崎邦輔氏ノ来訪ニ接シ、瓦斯会社合併ノ事ヲ談ス○中略 午後高松・久米・渡辺・大橋四氏来リテ瓦斯会社ノ事ヲ談ス○下略

(八十島親徳)日録 明治四四年(DK530039k-0005)
第53巻 p.208 ページ画像

(八十島親徳)日録 明治四四年(八十島親義氏所蔵)
八月十九日 曇時々驟雨
○上略 十時出勤、昼男爵出勤アリ、瓦斯合併問題事件ノ為仲介者タル千家・岡崎・佐竹氏等ノ出入、又東京瓦斯側トノ往復等ニテ先生モ多忙也○下略
   ○中略。
九月十三日 少雨
朝出勤、午後ハ上野精養軒ニ至ル、瓦斯会社大株主会ニシテ、社長ヨリノ召集ニ応セシ也、千代田瓦斯トノ合併問題ニ関シ、公然タル総会前ニ事情ヲ開陳シ意思ヲ通セン為、高松博士ヨリ種々説明アリ、渋沢男爵亦縁故者トシテ立テ一場ノ談話ヲ為シ、今日ノ場合枉ケテ合併ヲ可トスル旨ヲ唱ヘラル、城所某・伊藤定七・尾崎三良氏等ノ反対論又ハ尚早論等モ出テタルカ、結局ハ市ノ特権ヲ確実ニ得ルノ条件ニテ同意スルモノ多数ナリキ○下略
   ○中略。
九月十八日 晴 暑シ
○上略 一時ヨリ瓦斯会社ノ総会ニ臨ム、千代田ト合併ノ件也、高松氏議長タリ、久米・大橋二氏等恰政府委員ノ如シ、反対論続出、議場騒然高松氏温和ノ態度或ハ優柔ニ過キサルカ、大橋氏ノ音吐瞭明義理明白ノ立論ニ大勢定マリ、結局重役増俸問題ヲ撤回スル事トシ、合併ノ件ハ通過セリ、千代田ハ今日一瀉千里忽チニ決議済トノ事、去《(左)》モアルベシ、残ル所ハ市カ幾何程迄ノ特権ヲ許スカノ点ヲ以テ、合併ノ成否ヲ最後ニ決スル事トナルナリ、一旦兜町ニ帰リ、両社○猪苗代水電発起会ト当社 集会ノモヨーヲ電話ニテ復命シ、六時過帰宅


竜門雑誌 第二八○号・第七四―七五頁明治四四年九月 ○東京千代田両瓦斯合同(DK530039k-0006)
第53巻 p.208-209 ページ画像

竜門雑誌 第二八○号・第七四―七五頁明治四四年九月
 - 第53巻 p.209 -ページ画像 
    ○東京千代田 両瓦斯合同
久しく行悩みたる東京瓦斯株式会社と千代田瓦斯株式会社の合同談は青淵先生の尽力により急転直下の勢を以て進捗し、八月二十一日両社重役間に仮契約書の交換を了し、越えて九月十三日午後一時より上野精養軒に於て三百株以上の大株主を召集せり、当日出席したるは召集通知状百六十に対し七十八名の出席あり、同二時開会先づ高松社長より、今回東京・千代田両瓦斯会社の合併を企つるに至りし趣旨並に順序等に関し詳細なる報告あり、且つ合併後の利益及び合併に関し東京市に対する希望等に就て述ぶる所あり、久米副社長よりも合併に関し尚ほ精細に縷述する所ありたる後、株主として出席したる青淵先生は同会社と古き縁故を有する関係より、明治四年我国に瓦斯事業の創始されたる以来十八年、東京瓦斯会社の創立を見、其後二十余年の歴史を経て今日増大せる大会社と為りたる沿革、並に先生が瓦斯事業と関係し来れる各種の事情より説き起し、今日両瓦斯会社の状況は、両社の間に訴訟事件の起り、世間に醜態を曝露するの如何にも見苦しきのみならず、之を経済上より見るも二条の鉄管を埋設し、或は高圧低圧等両社間に於て動もすれば不正の競争を試むるは勢の免れざる所、這は決して策の得たるものにあらず、寧ろ相当の条件を備へ得れば、合併決して不可ならずと思料したるを以て、今回千代田との合併に就ては、曩に千家・佐竹・岡崎の三氏より其交渉方を依頼されたる際進んで其任に当りたる次第にて、今回の合併条件に就て少しく譲歩に過ぎたるやの感を有するものあらんかなれども、凡そ事物は八分通りにて満足するを以て適当とするが如く、此機会に於て右条件を以て合併を決するは最も適当の処置にして、殊に目前の利益のみを眼中に置くは会社として株主に対し不忠実の誹を免れざるべく、一般消費者に対し安価に供給するためには、遂に激甚の競争を以て永続すべきにあらず加ふるに会社営業の基礎を鞏固にし、永遠の利益を挙げんとせば、合併の外あるべからずとの趣旨を詳細懇切に敷衍して述べ、且つ株主の賛成を求めたるに対し、藤野房次郎・藤山雷太・若尾幾造・山中隣之助氏等の合併賛成演説ありて、合併仮契約を承認し、且つ来る十八日の株主総会に於ても賛成の申合を為し、午後五時散会せり(九月十五日記)


(東京瓦斯株式会社)営業報告書 第五三回明治四四年一二月 刊(DK530039k-0007)
第53巻 p.209-211 ページ画像

(東京瓦斯株式会社)営業報告書 第五三回明治四四年一二月 刊
    株主総会
一臨時株主総会 九月十八日○明治四四年 臨時株主総会ヲ東京商業会議所ニ開会ス、出席株主(委任状共)千百二十三人、此ノ株数二十六万八千三百四十三株ニシテ、左ノ議案ヲ議決セリ
      議案
  第一号 本会社ト千代田瓦斯株式会社ト合併ノ件
本会社取締役ト千代田瓦斯株式会社トノ間ニ明治四十四年八月廿一日付締結シタル仮契約書ヲ承認スルコト、但シ仮契約書ノ大体ノ精神ニ反セサル範囲内ニ於テ多少ノ変更ヲ為スコトヲ取締役会ニ一任スル事
      仮契約書(写)
 - 第53巻 p.210 -ページ画像 
東京瓦斯株式会社ト千代田瓦斯株式会社ト合併スル為仮契約ヲ為スコト左ノ如シ
第一条 千代田瓦斯株式会社ハ解散シ、其ノ株式ハ現在払込ノ儘東京瓦斯株式会社ノ新株トナス事
  但シ東京瓦斯株式会社ニ於テ昨年七月決議シタル増資新株ハ、合併前ニ第一回払込(金拾弐円五拾銭)ヲ為サシムル事
第二条 千代田瓦斯株式会社ノ権利義務一切ヲ東京瓦斯会社ニ於テ引受クル事
  但シ本年五月三十一日現在ノ財産目録・貸借対照表ヲ基礎トシ、爾後ノ増減ハ仮契約締結ト同時ニ計算表ヲ作成シテ、千代田瓦斯株式会社ヨリ東京瓦斯株式会社ニ交附スヘキ事
第三条 千代田瓦斯株式会社ノ重役・職員ニ対スル解散手当金額ハ、東京瓦斯株式会社ノ同意ヲ得テ之ヲ決定スル事
第四条 前条解散ノ手当金ハ第二条千代田瓦斯株式会社引継前ノ財産中ヨリ支出スル事
第五条 東京瓦斯株式会社ハ千代田瓦斯株式会社ノ従業員一切ヲ現俸ノ儘引継任用スル事、但シ新規雇入ノ手続ニ依ル事
第六条 東京瓦斯株式会社重役現在員ノ外ニ取締役四名、監査役壱名ヲ増員シ、右増員ニ対シテハ千代田瓦斯株式会社現在重役中ヨリ立会人ニ於テ候補者ヲ指名スル事
第七条 東京市ニ対シ両会社合併ノ承認ヲ求メ千代田瓦斯株式会社ハ東京市トノ明治四十三年七月一日付ノ契約ノ解除ノ承認ヲ得ヘク而テ東京瓦斯株式会社ハ、更ニ東京市ヨリ左記条件ノ許可ヲ受クル事
  一、瓦斯管税ヲ廃シ、相当率ヲ定メ会社利益中ヨリ東京市ニ報償ヲ為スヘキ契約ヲ為ス事
  二、市ノ所有又ハ管理ニ属スル道路・橋梁・堤塘・公園其ノ他ノ土地・工作物ニ対シ、会社営業上必要ナル埋管其ノ他ノ装置ヲ無償ニテ為スコトノ許可ヲ受クル事
   但シ右ノ使用ニ依リテ市ニ損害ヲ及ホシタルトキハ、会社ニ於テ之ヲ賠償スヘキハ勿論トス
  三、市ハ一般ノ市税ヲ除クノ外、前項ノ使用ニ対シ何等ノ料金又ハ市税ヲ賦課徴収セサル事
  四、市ハ自ラ新ナル瓦斯事業ヲ経営セス、又新ニ生スル営業者ニ対シ、第二項ノ承認ヲ与ヘサル事
  五、前四項ニ関スル特許有効期限ヲ東京瓦斯株式会社ノ存立期間中トスル事
第八条 仮契約カ両会社ノ株主総会ニ於テ承認セラレ、且両会社カ東京市ヨリ第七条ノ承認及許可ヲ得タルトキハ、千代田瓦斯株式会社ハ直ニ其ノ財産及営業ヲ引継クヘク、東京瓦斯株式会社ハ引継完了ノ日以後、千代田瓦斯株式会社引継ノ新株ニ対シ利益配当ヲ為スヘキ事
第九条 仮契約ハ左ノ場合ノ一又ハ二ノ発生シタルトキハ、法律上何等ノ手続ヲ要セス当然其ノ効力ヲ失却スル事
 - 第53巻 p.211 -ページ画像 
  一、東京市ヨリ第七条記載ノ承認及許可ヲ受クルコト能ハサルトキ
  二、仮契約ニ付両会社ノ双方又ハ一方ニ於テ株主総会ノ承認ヲ得ルコト能ハサルトキ
右契約書弐通ヲ作成シ、各自壱通ヲ領有ス
  明治四十四年八月二十一日
             東京瓦斯株式会社
               取締役社長 高松豊吉(印)
            千代田瓦斯株式会社
               取締役社長 安楽兼道(印)
               立会人男爵 千家尊福(印)
               立会人 佐竹作太郎(印)
               立会人 岡崎邦輔(印)
  第二号 資本金増加及役員増員ノ件
第一号議案ノ合併実行ヲ条件トシテ左ノ通議決ヲ為ス事
 一、会社現在ノ資本金三千五百万円ニ一千万円ヲ増加シテ、資本金額ヲ金四千五百万円ト為ス事
 二、増加資本金一千万円ハ之ヲ二十万株ニ分チ新株式ヲ発行スル事
 三、取締役ハ現在人員八人ノ処四人ヲ増加シテ十二人ト為シ、監査役ハ現在人員三人ノ処一人ヲ増加シテ四人ト為ス事
  第三号 定款改正ノ件
第一号議案ノ合併実行ヲ条件トシテ左ノ通議決ヲ為ス事
 一、第二条ヲ左ノ如ク改ム
  本社ノ資本金ハ四千五百万円トス
 二、第六条第一項ヲ左ノ如ク改ム
  本社ノ資本金四千五百万円ハ之ヲ九十万株ニ分チ一株ノ金額ヲ五十円トス
 三、第十九条ヲ左ノ如ク改ム
  取締役ハ十二人以内トシ、監査役ハ四人以内トス


竜門雑誌 第二八一号・第四四頁明治四四年一〇月 ○東京瓦斯総会(DK530039k-0008)
第53巻 p.211-212 ページ画像

竜門雑誌 第二八一号・第四四頁明治四四年一〇月
○東京瓦斯総会 東京瓦斯会社は東京商業会議所にて九月十八日午後一時十分開会、高松社長議長席に着き左の議案を附議したり。
    △議案
 (第一号)本会社と千代田瓦斯株式会社と合併の件
○中略
 (第二号)資本金増加及役員増員の件
第一号議案の合併実行を条件として左の通り議決を為す事
 一、会社現在資本金三千五百万円に一千万円を増加して資本金総額を金四千五百万円と為すこと
 二、増加資本金一千万円は之を二十万株に分ち新株式を発行すること
 三、取締役は現在人員八人の処四人を増加して十二人と為し、監査役は現在人員三人の処一人を増加して四人と為すこと
 - 第53巻 p.212 -ページ画像 
 四、役員賞与金は利益金百分の二以内を百分の三以内と改むること
 五、役員報酬年額は金一万五千円以内を金二万円以内と改むること
 (第三号)定款改正の件
第一号議案の合併実行を条件として左の通り議決を為す事
 一、第二条を左の如く改む
  本社の資本金は四千五百万円とす
 二、第六条第一項を左の如く改む
  本社の資本金四千五百万円は之を九十万株に分ち一株の金額を五十円とす
 三、第十九条を左の如く改む
  取締役十二人以内とし監査役は四人以内とす
 四、第三十四条中(其百分の二以内を、役員賞与金及交際費に)を(其百分の三以内を役員賞与金及交際費に)と改む
高松社長は会社創立以来の営業状態を叙し、千代田と合併仮契約を締結するに至る迄の顛末を大要左の如く説明せり。
 本年七月千代田会社営業開始を期とし、千家男爵・佐竹作太郎・岡崎邦輔の三氏は同会社と当会社との間に仲裁の労を執られ、両会社の競争は相互の損失多大なるのみならず、同一区域内に二重鉄管を埋設するは国家の経済上非常の不利益なれば、宜しく両者合同して競争の弊害を除去し、元来瓦斯事業は独占的の性質を有するが故に此際市の保証を得て安全に本業を経営し、瓦斯料金を低減して市民の利益を図るべしとの主旨を以て合併の議を提供せられたり、是に於て余等当局者は慎重審議の末、仲裁者の主旨を賛し、尚合併案に就ては数回の交渉を重ね両社互譲の結果速に今回の仮契約を締結したる次第なれば、株主各位に於ても能く会社将来の利害を考究せられ本案に承認を与へられんこと余等当局者の切に希望する所なり。
之に対し一・二株主の質問ありしが、結局山中隣之助氏の発議に依り重役をして原案第二号第四・第五項及び第三号第四項を撤回せしめ、大多数を以て之を通過し、四時二十分散会せり。


東京瓦斯五十年史 同社編 第二五―二六頁昭和一〇年一〇月刊(DK530039k-0009)
第53巻 p.212-213 ページ画像

東京瓦斯五十年史 同社編 第二五―二六頁昭和一〇年一〇月刊
 ○第壱部 第一編 第二章 第二節 千代田瓦斯の合併
    第二 対等条件で合併
 千代田瓦斯が営業を開始するや、当社は先づ瓦斯料金を一千立方呎に付一円九十二銭(二円四十銭を二割引とす)に割引して千代田瓦斯の料金一円八十銭に対応し、器具の無償貸付を以て防戦に努めたが、遂に熾烈なる需用家争奪戦を展開するに至つた。千代田瓦斯は、先づ芝区で需用家獲得の運動を起し、其の戦線全市に及び、勢の激するところ一需用家に両社が点灯し、或は掘立小屋にまで瓦斯灯を取付け、又同じ道路に両社の鉄管が埋設される等、競争は苛烈を極めた。それで瓦斯管の二重埋設の為め市内の道路は絶えず掘返されるので、交通妨害となり、或は店舗の営業妨害となる等、市民は尠らず迷惑を蒙つた。斯くて会社も亦競争の為め濫費に悩み、競争の弊害は早くも随所に散見されるに至つた。
 - 第53巻 p.213 -ページ画像 
 玆に於て、両社の合併は朝野に翕然として唱へられ、先に千代田瓦斯設立を慫慂した東京市会に於ても其の機運が濃厚となり、男爵千家尊福・佐竹作太郎・岡崎邦輔三氏が斡旋して、明治四十四年八月二十一日両社の間に左記○仮契約書前掲の通り合併仮契約を締結するに至つた。


浅野総一郎 浅野泰治郎浅野良三共著 第三九五―四〇六頁大正一四年二月改訂七版刊(DK530039k-0010)
第53巻 p.213-216 ページ画像

浅野総一郎 浅野泰治郎浅野良三共著 第三九五―四〇六頁大正一四年二月改訂七版刊
 ○第七章
    一七 瓦斯(二)
○上略
 六吋当時初めて八分の配当をした、十二吋なら、一割六分の配当が可能だと云ふやうな幼稚な議論さへも出た、会社が儲かるに従つて、会社当局の専横漸く人目に着き初め、一割二分の配当が長らく続く好況に、総一郎《ちゝ》も常任の得意を誇つたが、独専事業の性質として、儲け過ぎると必らず市民の反感を買ふ。況んや、日常生活に欠く事の出来ない燃料瓦斯の事であるから、自警せねばならぬと総一郎《ちゝ》は常に左右を顧みては説いてゐた。が、幸か不幸か、総一郎の予言は着々適中し利光氏一派の実業家が、神戸の鈴木と手を握り、一方市の後援を得て資本金壱千万円の千代田瓦斯株式会社なるものゝ創設を企てた。
 此の計劃を目して、総一郎は利光一派の売込運動だと断定したので競争して互に傷を大きくするよりも此方で株の半数を引受け、此方の重役を千代田の重役に割込ませて、千代田を支配することにしたい、分店一ツを拵へたと思へば何でもない事だから……と重役会の席上で千代田株買込の意見を提出したが、独舞台の瓦斯会社は重役の何れもが『大丈夫だ、彼奴等《きやつら》に何が出来るものか』と木で鼻を括《くゝ》つてゐた。然し総一郎《ちゝ》は断言した。『市が七分配当迄千代田を補助するといふ以上は、如何に此方に得意先が多くとも、競争は互に真剣となる、何故なれば、一割六分の好配当をさへした我社は、現在の得意先を維持するためには、千代田の七分より以下の六分乃至五分配当迄、利益を低下せなければならぬ立場に陥る、此手傷は決して小さいものでない。
然かも、此競争を幾年か継続しつゝ、一方千代田は我社へ高値で売込みの運動を開始するに至る事は、火を睹《み》る如く瞭然たるものである、千代田は最初から二十二吋鉄管を埋めるであらう、将来になつて売付けられたとしたら、無益な此大工事は、会社として随分高価な固定物となる。』と。
 将来に此高価な犠牲を残すよりも、今日弐円五十銭の証拠金を払込んで、千代田の権利を獲得するに如くはないといふ主張を固執したが誰れ一人として同意しない、渋沢会頭は欠席されてゐたが、大橋新太郎・袴田喜四郎・渡辺福三郎・伊藤幹一・渡辺温・若尾幾造氏等の重役が列席してゐた。
 総一郎《ちゝ》は若尾氏を顧みて
『若尾さん、貴方のとこの逸平さんを先日御訪ねしましたら、二人の看護婦に助けられながら起きて会つて下さつた、その時逸平さんが、浅野さん、株を買ふなら何が宜いでせうと御尋ねでしたから、千代田瓦斯が証拠金の払込を始めたら、総額五十万円の証拠金の半分、二十
 - 第53巻 p.214 -ページ画像 
五万円丈けお買ひなさいと御進めしましたら、逸平さんも賛成されました。』
 と語つた、総一郎《ちゝ》の言が終るか終らぬうち列席の重役某氏は、
『なァニ、利光なんかに何が出来ますものか、打棄つて置いて、若し出来たら、追散らして遺《(遣)》るまでサ。』
 と浩然と嘯いた。結局、総一郎の意見は一人の賛成者をも得ずして此重役会を終つたが、千代田瓦斯は予定の通り進行して、時ならず第一回の払込を終へ、壱千万円の資力ある強敵となつて我が眼前に出現した。
 千代田は払込を完了するや、猛然として奮ひ起つた。都下縦横に二十二吋の鉄管を埋設し、新式機械の据付を終へて、瓦斯料金半額提供を標榜し、東京瓦斯の地盤切崩しに死力を傾注した。自社の横丁道路に延々として二十二吋の鉄管走り、千代田瓦斯マークの勧誘員が工夫を引き具して、戸毎に活躍する様を眺めた東京瓦斯の重役連は、期して『千代田瓦斯粉砕』を叫んだ、只独り総一郎《ちゝ》のみは両社対立のため二重工事の国家的不経済を人毎に口にしてゐた、両社の反目は愈々激しく、事毎に各所に衝突した、時に警察官を煩はす醜態も演ぜられ、両社融和の機会は永遠に無きものかとさへ疑はれた。
 千代田瓦斯成立して幾ケ月かを経過した時のことであつた、古河が深川所在のコークス三十万立方尺の売払をすることがあつた、安くて結構だから買つて呉れないかと云ふ相談があつたが、東京瓦斯会社はコークス屋でないから買つても矢張り自社のコークス同様に、他人の手に委ねなければならないからと顧みなかつた処が、千代田瓦斯が買ひに掛つたといふ風評が伝つて、重役会の問題となつた、一重役は
『千代田の計劃する事は片つ端から邪魔して遣らなければならぬからそのコークスは我社で買はうではないか。』
 と云ふ提議を出した、その時、
『三十五万か四十万も出せば、古河も喜んで売るでせうが、そんな意地付くは詰まらぬ。』
 と苦り切つて総一郎《ちゝ》は反対した、然し大勢は依然死を堵して千代田と戦ふにあつた。東京瓦斯からコークス買上の交渉を申込むと、古河の言分は、千代田といふ買手が出来たから、五十五万円でなければ売れないと云ひ出した、結局五十五万円といふ犠牲の巨額を払つて、漸く千代田の鼻先きを折つたとは云ふものゝ、五十五万円の犠牲は決して軽い負担ではなかつた、
次いで又二・三ケ月を経過すると、金杉の地面を千代田が買ふことになつた、市の埋立で一坪三十円で壱万坪の予約が成立し掛つた、これを耳にした東京瓦斯は、より以上の値で市に譲渡の交渉を始めたが遂に競上《せりあ》げられて、坪四十三円といふ高価で売買されることとなつた、そして千代田の計劃を邪魔してやつたと云つて、さも自慢らしく喜んでゐたが、総一郎は、会社の流動資本が高価な物に固定して行くのでそれのみを案じてゐた、そこに東京瓦斯の敗因が醸《かも》されはせぬかと、会社経営の実際に明るい丈け、それ丈け人一倍心を痛めたらしい。
 此間に於いて、千代田は全速力で市内全般にパイプを敷設し終つた
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喧嘩は愈々花が咲いて、戦争なれば正に剣戟閃めく白兵戦とも見るべき物凄き修羅の巷を現出し、競争は此処に頂点に達したらしく見受けられた。白兵戦は半歳に及んだ。東京瓦斯の受けた瘡痍は大略百万円の損害を計上したことである。
 瘡痍百万両は、余程深刻に総一郎《ちゝ》の胸底に泌み込んで居たと見えて後年、渋沢さんと相対した折、
『私は慾が深いから、あの当時の百万円が仲々忘れられません。』
 と総一郎《ちゝ》が懐旧すると、
『そんな事もあつたかなあ。』
 と渋沢さんが笑つてゐられたといふ事である。
 事実当時百万円の損害は大きな手傷であつた、二十五万円の半額権利の買収を惜しんだがために、此百万円の犠牲を払ふのかと思ふて、今更の如うに総一郎《ちゝ》は残念がつた。
 東京瓦斯の強味は、一日壱千万立方尺の顧客が既にあるといふ点にあり、千代田瓦斯の強味は、市が七分配当を保証するといふ点にあつた。然し千代田瓦斯は、総一郎の予言した通り、東京瓦斯の壱千万立方尺の需要を凌駕しようといふのが設立の本旨でもなければ、市から七分の配当保証を得るといふのが目的でもない、要は、東京瓦斯に買収されて、東京瓦斯の公共化が具体的に実現されゝば、それで千代田瓦斯創成の目的は達せられたといふものである、市が公金を一私立会社に補助して、配当を保証する因由も皆端を此処に発してゐる。
 東京瓦斯が稍根気衰へて見え初めた時、果せるかな、千代田瓦斯は東京瓦斯に示談を申込んだのであつた。千代田瓦斯如何に精悍に富むとは言へ、一挙にして東京瓦斯に必適《(匹敵)》する壱千万立方尺の需要者を獲得する事は不可能であつた、千代田瓦斯が白兵戦僅に六ケ月にして、匆々予定の示談を持ち出すに至つた原因は、一に此需要難にあつたらしい。
 合併の好期は到来した。期逸すべからずと総一郎《ちゝ》は、再度の合併意見を熱心に説いて、重役の再考を促すことに忠実であつたが、千代田の示談を一概に千代田の屈従なりと即断して、更に譲る気配が無かつた。重役仲間でも、江戸ツ子肌の大橋氏の如きは、
『浅野さん、無鉄砲なことお仰やるな、喧嘩は今一腰入れなければなりませぬよ。』
 と、意気軒昂たるものであつた、千代田もさるもの、斯界の猛将智将轡並べし堅塁不落の城である。一回の示談で目的が得られようとは夢想だにしてゐない、最初の示談は斥候に過ぎぬ、第二回の戦備は既に整うてゐる、戦端は再び切り放された。斯くて幾ケ月かの接戦は、東京瓦斯に再び三十万円の手傷を与へた。此間総一郎は無関心の傍観を続け、三度、合併を説かうとするの風更になかつたといふ。
 千代田瓦斯の手答へ意外に強きを始めて悟つた東京瓦斯は、千代田の第二回の示談を機《しほ》に、此処に女々しくも、合併の協議会を極く内々に開催する事となつた。協議会開催の議成るや、招きの使者を総一郎は自宅でこれを受けたが、
『私が合併の必要を力説したのは今日此頃ではない、今更協議会でも
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ありますまい。』
 と出席を肯んぜなかつた。
 斯くて、東京瓦斯と千代田瓦斯とは遂に合併が成立した。此時重役は十二人となり、従業員総数実に千五百名を数へ、経費は一躍巨万の膨脹を来した。然かも合併後、競争中の損失を計上せしに、両社合計弐百五十万に垂んとする巨額に上つた。加ふるに、二重工事のため無益の固定百万円と、両社が互に燃料買入を競ひし結果糶上げられた此損失を見積る時は少くとも四百万以上の損害を有形無形に蒙つた勘定となる。そのため、企業資本の支障益々大となり、合併は遂に収支相償はざる至難の事業となつた。難関は整理断行の外に切り抜くるの方法無きを看破した総一郎《ちゝ》は、先づ工場の整理と重役の半数退職を主張した、ニツの工場は一ツにし、十二人の重役は五人の取締役に、二人の監査役を以て充分だとして、断乎たる一大改革を要求した、延いては、従業員をもドシドシ減じて、各人に手一杯の仕事を持たせ、経費収縮によつて、合併後の会社を救済しようとした。幾回となく熱心に此主張を繰り返して、重役一同の決心を促がしつゝあるの時、電灯といふ燭光界の強敵が出現した、電灯会社の出現は、瓦斯会社に執《と》つて確かに一大脅威であつた、瓦斯会社の此方面からの収入は、日を逐ふて漸減し、電灯に甚《いた》く脅かされので、総一郎の事業心は曝発して、瓦斯溜五ツの増設を頑強に主張し出したので、総一郎を危険視した重役達は、経費節減旁々辞職を勧告したので、総一郎は欣然として揚言した。『経費節減を主張した私は職を退きませう、瓦斯といふ事業は、燭光の点に於いて電灯を凌ぐことは難かしいが、東京は目下非常な勢ひで人間が増しつゝある、従つて戸数が多くなつて行く、瓦斯の発展は此人家の台所にある、此処に目を注けて、若い連中が熱心と忍耐とを以つて奮闘して頂けば、決して悲観すべき事業でないと確信する、八分や一割の配当はさして困難ではない、殊に結構な独専事業であるから、整理中の期間丈け無事に通過すれば、将来決して再び困難すべき事業でない。元来、瓦斯会社の利益なるものは、基本利益の有無に至大の関係が有る。基本財産から生み出される燃料山の有無が其尤《ゆう》なるものであるが、大正二年に既に当社は、最も有力なる石炭山の協定が出来てゐますから、此点は安心です。只此上は、益々経費の節減に努力して下さりさへすれば、それで会社は将来に発展すべき可能性を有するのでありますから、精力と熱誠に富む若い御連中に一任するも株主諸君は安んじて傍観なさつて宜しいと思ひます。』
 これが三十余年間の瓦斯会社重役の椅子を去るに臨んで、総会の席上総一郎が述べた別離の挨拶であつた。
○下略