デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
11節 瓦斯
1款 東京瓦斯株式会社
■綱文

第53巻 p.216-220(DK530040k) ページ画像

明治44年12月27日(1911年)

是月二十五日、合併成立後ノ当会社ト東京市トノ間ニ、特許契約締結セラル。栄一、之ニ与ル。二十七日、東京商業会議所ニ於テ、当会社臨時株主総会開カレ、該特許契約承認セラル。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四四年(DK530040k-0001)
第53巻 p.217 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治四四年       (渋沢子爵家所蔵)
十一月二十四日 雨 軽寒
○上略 午後二時半東京瓦斯会社ニ抵リ、重役会ニ参列シテ東京市ト契約ノ要項ヲ論議ス、高根義人等来会ス○下略


(東京瓦斯株式会社)営業報告書 第五三回明治四四年一二月 刊(DK530040k-0002)
第53巻 p.217-219 ページ画像

(東京瓦斯株式会社)営業報告書 第五三回明治四四年一二月 刊
一、臨時株主総会 十二月二十七日臨時株主総会ヲ東京商業会議所ニ開会ス、出席株主委任状共 千三百八十六人、此ノ株数三十六万八千五百六十三株ニシテ、取締役ノ提出ニ係ル明治四十四年十一月二十五日付本会社取締役ト東京市長トノ間ニ締結シタル特許契約書及覚書ヲ承認セリ
      特許契約書(写)
明治四十四年十一月廿五日東京市長(以下単ニ市ト称ス)ト東京瓦斯株式会社取締役(以下単ニ会社ト称ス)トノ間ニ左ノ契約ヲ締結ス
第一条 市ハ其ノ所有又ハ管理ニ属スル道路・橋梁・堤塘・公園其ノ他ノ土地・工作物ニ対シ、会社ノ営業上必要ナル埋管其ノ他ノ装置ヲ為スコトヲ承諾ス
第二条 会社カ前条ノ土地・工作物ヲ使用セントスルトキハ、予メ設計書ヲ提出シ、市ノ認許ヲ受ケ、其ノ命令ニ遵フヘシ、若其ノ使用ニ因リテ市ニ損害ヲ及ホシタルトキハ、会社ハ之ヲ賠償スヘシ
第三条 市ハ一般ノ市税ヲ除ク外第一条ノ使用ニ対シ何等ノ料金若ハ市税ヲ賦課徴収セス
第四条 市ハ本契約期間内ハ自ラ瓦斯事業ヲ経営セス、又新タニ生スル瓦斯供給営業者ニ対シテ第一条ノ承諾ヲ与ヘス、但シ会社カ独占権ヲ濫用シ、不法ニ市ノ公益ヲ害シタル場合ハ此ノ限リニアラス
第五条 会社ノ供給スル瓦斯料金ハ一千立方呎ニ付当分金壱円八拾銭トシ、明治四十六年七月一日以降ハ金壱円七拾壱銭トス
第六条 会社ハ其ノ払込資本額ニ対スル年率九分ノ配当ヲ標準トシ、尚ホ過剰アルトキハ其過剰額ヲ会社及需用者ニ均分スルノ主義ニ拠リ、次ノ事業年度ニ於テハ該過剰金ノ半額ニ比準スル料金ヲ引下クヘシ、若シ九分ニ達セサル場合ハ、特ニ料金壱円七拾五銭マテヲ限度トシ其ノ不足金ノ半額ニ比準スル引上ヲ為スコトヲ得
  炭価ノ激変其ノ他特別ノ事情ニ因リ更ニ料金ノ引上ヲ必要トスル場合ハ、別ニ市ノ承認ヲ求ムヘシ
第七条 会社ハ市有又ハ市ノ管理ニ属スル道路・橋梁・公園其ノ他ノ土地・営造物ニ供給スル瓦斯料ニ限リ、普通料金ヨリ弐割ヲ減スヘシ
第八条 会社ハ毎決算期ニ於ケル総益金ヨリ総損金ヲ差引キタル残額ノ百分ノ六ニ相当スル金額ヲ市ニ納附スルモノトス、但シ総損金中ニハ各種ノ積立金及賞与金其ノ他之ニ類スル支出ヲ包含セス
  前項ノ納付金ハ納付金額通知ノ日ヨリ十五日以内ニ完納スヘシ
第九条 会社ノ積立金及賞与金其ノ他之ニ類スル支出ハ、通シテ総純
 - 第53巻 p.218 -ページ画像 
益金ノ百分ノ十五ヲ超過スルコトヲ得ス
第十条 会社ハ市ノ要求アルトキハ、第六条及第八条ノ計算ヲ証明スルノ責アルモノトス
第十一条 市ハ前条ノ場合ニ於テ其ノ計算ノ当否ヲ調査スル必要アルトキハ、会社ニ対シ営業ノ報告ヲ求メ、又ハ会社ノ帳簿・財産、諸般ノ文書ヲ検査スルコトヲ得
第十二条 左ノ各号ニ付テハ会社ハ予メ市ノ承認ヲ受クヘキモノトス
  一、会社ノ資本金ヲ増加シ又ハ減少スルコト
  二、払込資本ノ四分ノ一以上ノ社債又ハ借入金ヲ為スコト
  三、会社ノ財産ヲ以テ義務履行ノ担保ニ供スルコト
  四、会社ノ営業種目ヲ変更シ又ハ本契約期間内ニ廃業スルコト
第十三条 市ニ於テ会社ノ営業物件ノ全部ヲ買収セントスルトキハ会社ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
  本契約期間内ニ於ケル買収価格ハ、東京市内ノ株式取引所ニ於ケル会社株式ノ既往五ケ年間平均相場ニ依ル、但シ其ノ平均相場カ右五ケ年間ノ利益配当平均年額ノ二十倍以上ナルトキハ、其ノ二十倍額ヲ以テ買収価格ト定ム
  契約期間満了後ニ於ケル買収価格ハ、会社最近ノ財産目録ニ記載シタル価格ニ依ルモノトス
第十四条 前条ノ買収価格其ノ他本契約ノ効力及履行上ニ付キ市ト会社トノ意見一致セザルトキハ、双方ヨリ協議委員各二名ヲ選定シ其ノ多数ノ決定スル所ニ依ル、若其ノ協議委員ニ於テ尚決定シ得サルトキハ、協議委員ノ選定シタル一人ノ裁決ニ依リテ之ヲ決ス
第十五条 本契約有効期間ハ満三十年トス
第十六条 左ノ場合ニ於テハ市ハ本契約ヲ解除スルコトヲ得
  一、会社カ正当ノ理由ナクシテ六ケ月以上市ノ注意ヲ無視シ、本契約ノ義務ヲ履行セサルトキ
  二、一ケ月以上休業シタルトキ
  前項契約解除ノ場合ニ於テハ、会社ハ市指定ノ期間内ニ第一条ノ埋管其ノ他ノ装置ヲ撤却シ原形ニ復スヘシ、若之ヲ履行セサルトキハ其ノ物件ハ当然市ノ所有ニ帰シ、尚ホ損害アルトキハ会社ハ之ヲ賠償スヘシ
第十七条 法令ノ結果本契約消滅ニ帰シ、又ハ其ノ条項変更ヲ及ホスコトアルモ、会社ハ市ニ対シ何等ノ要求ヲ為サヽルモノトス
第十八条 此ノ契約ハ市カ市会ノ議決ヲ得、及会社カ株主総会ノ承認ヲ得タル日ヨリ其ノ効力ヲ発生スルモノトス
  明治四十四年十一月廿五日於東京市役所
            東京瓦斯株式会社
              取締役社長 高松豊吉(印)
              東京市長  尾崎行雄
            千代田瓦斯株式会社
              取締役社長 利光鶴松(印)
      覚書(写)
明治四十四年十一月二十五日東京市長ト東京瓦斯株式会社取締役トノ
 - 第53巻 p.219 -ページ画像 
間ニ締結シタル契約ノ趣旨ヲ明ニスル為、当事者間ニ此ノ覚書ヲ為取換置クモノトス
 一本契約締結ノ日ニ於テ現ニ会社及千代田瓦斯株式会社ト需要者トノ間ニ存シタル瓦斯料金又ハ計量器使用料等ニ関スル特別契約ハ其ノ儘合併後ノ会社ニ於テ之ヲ継承シ、合併ノ結果ニ依リ需要者ノ負担ヲ増加スルヲ得サルモノトス
 二瓦斯導管・瓦斯引用装置及取付工事費ハ従前通会社ノ負担トス、但シ特別ノ設計又ハ工費ヲ要スルモノハ此ノ限ニ在ラス
 三契約第六条ノ実施ニ関スル方法ハ、市ト会社トノ協議ニ依リ別ニ規定ヲ設クルモノトス
 四前項ノ実施ニ際シテハ、会社ハ特ニ留意シテ其ノ効果ヲ挙クルニ努メ、且ツ其ノ標準年率其ノ他ニ対シテハ、他日更ニ考量ノ機会アルヘキヲ期ス
 五契約第四条ノ瓦斯事業トハ天然瓦斯ヲ含マサルモノトス
 六契約第五条ノ瓦斯料金及同第八条ノ納付金ニ関スル規定ハ、明治四十五年一月一日ヨリ実施スルモノトス
 七契約第八条ノ総損金中ニハ従前通減価償却金ヲ包含スルコトヲ得
  但シ其ノ割合ハ従前ノ比準ヲ超過スルコトヲ得サルモノトス
 八契約第九条ノ積立金及賞与金其ノ他之ニ類スル支出ハ、補塡金・償却基金其ノ他何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ハラス会社ノ配当金額ニ影響スヘキ総テノ控除金ヲ包含スルモノトス
  明治四十四年十一月廿五日於東京市役所
            東京瓦斯株式会社
              取締役社長 高松豊吉(印)
              東京市長  尾崎行雄
            千代田瓦斯株式会社
              取締役社長 利光鶴松(印)
   ○東京瓦斯・千代田瓦斯両会社ハ合併契約ノ条項ニ基キ、是年九月二十五日付ヲ以テ東京市長尾崎行雄ニ宛テ、両会社ノ合併ヲ承認シ、明治四十三年七月一日千代田瓦斯株式会社ト東京市トノ間ニ締結セシ報償契約ヲ解キテ新ニ東京瓦斯株式会社ト東京市トノ間ニ(一)独占営業ノ承認(二)瓦斯管税ヲ廃シ純益百分ノ五ヲ東京市ニ納付スベキコトヲ骨子トスル報償契約ヲ締結センコトヲ申請ス。此ノ願旨ハ市長ノ意見ト懸隔甚シク、再度却下セラルルニ至リ、交渉行悩ミタルモ、栄一及ビ千家・岡崎・佐竹等ノ仲介斡旋ニ依リ遂ニ十一月二十五日上掲契約ヲ結ブニ至レリ。(「瓦斯界」第一巻第五号明治四四年一一月ニ拠ル)


尾崎行雄談話筆記(DK530040k-0003)
第53巻 p.219-220 ページ画像

尾崎行雄談話筆記          (財団法人竜門社所蔵)
         (欄外朱書)
                                 (土屋)
         (八月七日附訂正を乞ふため発信 八月十一日返送到着(印))
                              拝見ずみ
                                (署名)
                                 行雄
            昭和十一年七月二十四日於軽井沢尾崎氏別荘
            土屋喬雄 佐治祐吉 吉村宮男 山本勇
○上略
第二 尾崎氏の市長時代に渋沢子爵に接触された印象につき問ふ。
○中略
 も一つ瓦斯問題で感服したことがあります。瓦斯会社は元来渋沢君
 - 第53巻 p.220 -ページ画像 
が政府の依頼を受けて設立したもので、先づ官民連帯の会社でした。私の時代には私立会社で、他にも会社が出来、競争があつてうるさいから、私は予て市有にしたいと思つてゐた。水道も市有である。電車も市有にしたい。瓦斯をも合併せしめて後市有にしたがいゝと思つてゐた。私ハ合併後の新会社の法定利益を年八朱と定め、それより以上の利益かあれば料金を引下け、それより以下なれば之を引上ける、則ちスライヂング・スケールの契約を結ハせる案を立てさせた。当時の関係者ハ多くは一割といふ意見であつた。私が渋沢君にこの案を示すと、渋沢君は『八朱と云はれるのは尤だ、たゞ従来の市に貢献した点を斟酌して貰ひたい気がする』と申された。渋沢君以外の関係者ハ何れも一割を主張したから、最も久しく尽力された人たから、無論反対されるだらうと思つてゐたのに『あなたの言ふことが尤もです』といはれたのには実は驚きもし又感服も致しました。
 そこで私ハこれを土台として市と瓦斯会社との契約を結バせた。其後幾多の年月を経て疑獄が起つたのハ、市も会社も此契約を正当に履行しなかつた為めです。渋沢君は自分の利益や感情を排して、一番正しいと信ずる道を歩まれた、所謂信念の人でした。他の事にも、さうだつたらうと思ひます。
○下略