デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
11節 瓦斯
1款 東京瓦斯株式会社
■綱文

第53巻 p.226-232(DK530045k) ページ画像

大正7年6月(1918年)

欧洲大戦以後、石炭其他諸材料及ビ労銀昂騰ニヨリ瓦斯製造費甚シク増嵩ス。因テ当会社瓦斯料金ヲ値上ゲセントセシガ、東京市会ニ於テ問題化シ、議事ニ上ル。是月栄一、東京市長田尻稲次郎ヲ訪問シ、当会社ノ実情視察ヲ要請ス。十月二十六日、当会社ハ田尻市長宛料金改正ヲ請願ス。


■資料

東京市会史 東京市会事務局編 第四巻・第一二一二―一二二〇頁 昭和一〇年六月刊(DK530045k-0001)
第53巻 p.226-230 ページ画像

東京市会史 東京市会事務局編 第四巻・第一二一二―一二二〇頁 昭和一〇年六月刊
 ○大正年間 第七章 大正七年
    第弐拾五節 瓦斯料金引上問題
本件ハ二月七日ノ会議以後、屡々質問ヲ繰返シ、二月二十七日ノ会議ニ於テ、東京瓦斯株式会社トノ報償契約其他ニ関スル調査委員設置ノ建議アリ、十二月十一日ノ会議ニ於テ、瓦斯料金引上承認ノ議案上程サレ、大正八年九月三十日ノ会議ニ於テ漸ク是レガ議決ヲ見タリ。因テ本件ノ経過ヲ明瞭ナラシムル為メ、最初ノ質問ヨリ序ヲ追ウテ記述スルコトヽセリ。
▽瓦斯会社トノ報償契約ニ関スル質疑応答 先ヅ二月七日ノ会議ニ於テ、左ノ質疑応答アリタリ。
 鎌田芳太郎君 東京市対東京瓦斯会社間ニ締結サレタル報償契約ハ果シテ其趣旨ニ副フガ如ク実行サレツヽアリヤ否ヤ。該契約第四条ニ依レバ、東京市ハ瓦斯会社ニ対シテ独占権ヲ認メ、会社ガ其独占権ヲ濫用シ、不法ニ市ノ公益ヲ害スル場合ニ於テハ、之ヲ取消スコトヲ得ルノ明文アリ。又第五条及第六条ニ依レバ、明白ニ瓦斯料金ヲ確定セリ。然ルニ本員ノ聞ク所ニ拠レバ、市内ノ商工
 - 第53巻 p.227 -ページ画像 
業者ガ交通ノ便宜ノ為メ、互ニ料金ヲ支出シ、期間ヲ定メテ、街灯ヲ点ジツヽアルニ拘ハラズ、会社側ニ在リテハ物価暴騰ノ為メ損失尠カラズトノ理由ニテ値上ゲヲ為シ、万一之ニ応ゼザレバ点灯ヲ取消スベシト称シツヽアル事実アリ。契約第六条ニハ炭価ノ激変其他ノ事情ニ依リ料金ノ引上ヲ必要トスル場合ニ於テハ、別ニ市会ノ承認ヲ求ムルノ要アリ。然ルニ何等東京市ノ許諾ヲ得ズシテ、斯ル独占的不当行為ニ出ヅ、東京市ハ瓦斯会社ノ公益ヲ害スル行為ニ対シ、如何ナル手段方法ニ依リテ、之ヲ除去シ需用者ヲ救済セントスルカ。
 助役高橋要治郎君 右ハ初メテ耳ニスル所ノ事実ナルガ、料金ノ如キハ、会社ニ於テ契約者所定以上ニ変更スル能ハザルモノナルニ因リ、篤ト事実ヲ調査シ、不法不当ノ行為ナカラシムルヤウ、万全ヲ期スベキナリ。
 笠原文太郎君 余ハ瓦斯会社ノ乱暴ニ関シ、実例ヲ述ベテ質問スベシ。余ノ居住スル附近神保町ニハ、瓦斯値上ノ強請ニ応ゼザリシ故ヲ以テ、一旦設備シタル瓦斯点灯装置ヲ撤回シタル事実アリ。
  以上ノ事実ハ理事者ニ於テ、今尚ホ知ル所ナシトセバ至急調査スルノ要アルベシ。云フ迄モナク、神保町通リハ殷賑ノ中枢ニシテ瓦斯灯ナシニハ営業スル能ハザル状態ニ在リ。即チ瓦斯其モノガ商業ノ必要条件タル意味ニ於テ放任スルヲ許サズ。理事者ハ之ヲ如何ニ処置セントスルカ。
 高橋助役 速カニ希望ニ副フベク最善ノ努力ヲ為スベシ。
尋デ二月二十七日ノ会議ニ於テ、再ビ左ノ如キ問答アリタリ。
 笠原文太郎君 東京市ハ報償契約覚書ニ依リ、瓦斯会社ノ状態、営業方法、積立其他巨細ニ亘ル事実ニ関シ立入ツテ之ヲ知悉スルノ権利ト義務トヲ有ス。然ルニ瓦斯会社ハ、現今炭価暴騰ノ為メ値上ゲセザル可ラザル苦境ニ在リト称シ、横暴ニモ需用者ニ対シテ値上ノ承諾ヲ強要シツヽアリト聞ク、而カモ瓦斯会社ハ、石狩炭坑株式会社トノ間ニ契約ヲ結ビ、二十年乃至三十年間ハ優ニ使用シ得ル多量ノ石炭ヲ実費ニテ供給ヲ受クルコトヽナレリ。果シテ然ラバ、炭価暴騰ヲ口実トシテ値上ゲスルノ理由何処ニ在リヤ。加之、石炭ノ副産物「コークス」ハ、現ニ参拾円以上ノ市価ヲ維持シ、瓦斯会社ハ一噸ノ石炭ヲ使用スル毎ニ、約其半額ニ相当スル「コークス」収入アリテ、其利益タルヤ莫大ナリト謂フ可シ。更ニ聞ク所ニ拠レバ、瓦斯事業ノ副産物ハ四十種ノ多キニ上リ、其中「グリセリン」・石炭酸・染料・窒素等ノ如キハ会社ニ最モ大ナル利益ヲ与ヘツヽアリト云ヘルガ、理事者ハ親シク其内情ヲ調査シタルコトアリヤ。次ニ予算ニ就テ見ルニ、会社ガ斯クノ如キ大ナル利益ヲ受ケツヽアリト云フニ拘ラズ、報償契約ニ依リテ会社ヨリ市ニ納付スベキ金額ハ僅ニ弐万円ニ過ギザルガ、理事者ハ会社ノ内部ニ対シ、如何ナル方法ニ依リテ調査シツヽアリヤ。若シ調査シタリトセバ、其年月日及立会ヒタル人々ノ氏名等詳細ヲ承リタシ。
 作間耕逸君 近来瓦斯ノ供給ハ、全市ニ渉リテ不充分ナリトノ批難
 - 第53巻 p.228 -ページ画像 
多シ、即チ瓦斯ノ質粗悪ニシテ、同一分量ノ瓦斯ヲ使用スルモ、其熱量頗ル微弱ニシテ、用ヲ為サズ。理事者ハ右ニ関シテ、充分ノ調査ヲ試ミタルコトアリヤ否ヤ。
 高橋助役 瓦斯会社ノ近状ニ就テハ、調査シタル事実ナシ。只第六条ノ利益計算等ニ対シテハ、会社ヨリ提出スル考課状其他ノ書類ニ依リ、必要ニ応ジテ時々会社ノ弁明ヲ聞クコトアリ、次ニ瓦斯ノ質粗悪ナリトノ世評ニ就テハ、余ノ経験ニ依ルモ尚ホ明カナル事実ナルモ、右ハ瓦斯会社ノ今日ノ生産能力・設備等ヨリ見テ、日々増加シツヽアル需要ニ応ズル能ハザルハ余儀ナキ事情ナリト認ム。併シナガラ市トシテハ放任シテ顧ミザル態度ヲ持シツヽアルニハアラズシテ、供給数量其他ニ就テハ、常ニ之ヲ調査シ、適当ニ注意ヲ与ヘツヽアルモ、今後尚ホ充分注意スル所アルベシ。
  次ニ瓦斯会社ノ利益ニ関スル件ハ、考課状ニ依リ九分ノ標準配当率ヲ維持スル外ハ、内容ノ調査ヲ必要トスルガ故ニ、充分取調ノ上、妥当ヲ欠クモノアラバ、警告ヲ発シテ、市民ノ利益ヲ保護スベク努力スベシ。
 笠原君 鎌田君並ニ余ガ、二月七日ノ会議ニ於テ質問シテ以来、二十余日ヲ経過シタル今日、理事者ハ瓦斯会社ニ就キ何等調査シタル事実ナシトノ答弁ハ心得ズ。報償契約第十条ニハ、会社ハ市ノ要求アルトキハ、同契約第二条及第八条ノ計算ヲ証明スルノ義務アル筈ナリ。聞ク所ニ拠レバ、石狩石炭会社ノ炭坑ハ、最初浅野某ノ持山ナリシヲ三井ガ買収シテ、現ニ三井物産会社経営ノ下ニ営業シ、市ト瓦斯会社トハ、瓦斯会社ガ該炭坑会社ト契約シタル当時、報償契約ヲ締結シタルモノニシテ、瓦斯対石狩炭坑トノ契約期間ハ二十箇年乃至三十箇年ナリト聞ク、果シテ然ラバ其期間内ハ、炭価ニ変更アルベキ理由ナキニ拘ラズ、横暴ナル瓦斯会社ハ、炭価暴騰ニ藉口シテ市民ニ瓦斯料金ノ値上ヲ強要シツヽアリ然ルニ斯クノ如キ事サヘ未ダ調査セザルハ、甚ダ無責任ト謂フ可シ。仍テ次回ノ会議迄ニハ相違ナク調査ノ上、本席上ニ於テ答弁サレタシ。最後ニ瓦斯街灯ニ就テモ調査ノ上、巨細ニ答弁アランコトヲ望ム。
○中略
▽報償契約ニ関スル調査委員設置ノ建議 前項記載ノ如ク瓦斯会社トノ報償契約ニ関スル質疑応答アリタル後、鎌田芳太郎君ヨリ、議長指名七名ノ委員ヲ設置シ、本市ト瓦斯会社トノ間ニ締結シタル報償契約ニ関スル調査ヲ為サシメラレンコトヲ望ムトノ建議提出アルヤ、作間君直チニ之ニ賛成シ、同時ニ該委員ノ権限ハ、会社ノ事業状態ノ検査ヲモ行フコトヽシタシト提議シタルニ、異議ナク可決シタルヲ以テ、議長ハ委員ヲ左ノ如ク選定セリ。
    坪谷善四郎 宮崎三之助 鎌田芳太郎 斯波厚
    小坂梅吉  川久保源治 橋本直一
七月一日ノ会議ニ於テ、又復左ノ如キ質疑応答アリタリ。
 渡亀造君 市ハ東京瓦斯会社ヨリ瓦斯料金値上ヲ申請シ来リタルニ対シ、既ニ承認ヲ与ヘタリトノ説アルモ事実果シテ如何。
 - 第53巻 p.229 -ページ画像 
 田尻市長 余ハ先日、渋沢栄一氏ノ来訪ヲ受ケ瓦斯会社ノ創立当時ヨリノ経過ヲ聞キ、是非トモ会社ノ実際ヲ視察サレタシトノ懇請ニ接シタルヲ以テ、一通リ視察セルニ止マリ、値上等ニ就テハ何等耳ニシタルコトナシ。
 渡君 市参事会ハ先頃街灯ノ瓦斯料金値上ヲ承認シタルガ、其際書類ニ市長ノ意見トモ認ムベキ符箋ヲ附シタリト聞クガ如何。
 田尻市長 余ハ瓦斯会社ニ関スル限リ、視察シタル以外、何事ヲモ関知セズ。
 渡君 報償契約覚書中、合併後ノ会社ハ、特別契約ヲ継承シテ需用者ノ負担ヲ増加セズ、瓦斯取附工事費ハ会社ノ負担トストノ二箇条ハ、市民ノ実生活上最モ重要ナル条項ナルガ、市長ハ会社ガ現ニ該条項ヲ適正ニ実行シツヽアリト認ムルヤ否ヤ。
 田尻市長 内部各方面ニ渉リテハ、如何ナル事情アリヤヲ知ラザルモ、表面上実行シツヽアルモノト信ズ。
 渡君 余ハ全然市長ト見解ヲ異ニシ、会社ハ適正ニ報償契約ヲ実行セズト断言シテ憚ラズ。現ニ大正五年九月二十五日、会社ヨリ市ニ提出シタル陳述書ニ拠ツテ見ルモ、会社自身ガ該契約ヲ実行セザルコトヲ明言シ居ルニ非ズヤ。而モ尚ホ市長ガ、是等ノ事実ヲ認メズト云フナラバ、是レ以上ノ質問ハ必要ナキヲ以テ打切ルベシ。只最後ニ一言スベシ、市長ハ渋沢男ノ勧誘ニ依リ瓦斯会社ノ業態ヲ視察シタルトキ「瓦斯ノ値上ハ当然ニ非ラズヤ、諸物価暴騰ノ今日瓦斯ノ値上亦止ムヲ得ザルモ、会社ノ要求ナキモノヲ市ヨリ催促スル訳ニハ行カザルベシ」ト語リ又やまと新聞紙上ニモ市長ノ談トシテ「諸物価労銀ノ暴騰セル今日、瓦斯ノ値上ハ免ル可ラザル所ナルモ、会社ノ要求ナキ今日、値上ノ促進モ出来ズ」
  云々ト語リシ由掲載セリ。市長ハ果シテ斯ル意見ヲ有セリヤ。
 田尻市長 個人ノ座談トシテ語リシコトアリ。
○中略
△瓦斯料金引上承認ニ関スル件 瓦斯料金値上問題ハ、二月七日ノ会議以来幾曲折ヲ経テ約半歳ヲ経過シタルガ、十二月十一日ノ会議ニ於テ、愈々左記議案ノ提出ヲ見タリ。
  第百六十号
      瓦斯料金引上承認ニ関スル件
  東京瓦斯株式会社ヨリ、報償契約第六条第二項ニ依リ瓦斯料金ノ引上承認ヲ求メ来リタルニ付、左記要項ニ依リ之ヲ承認スルモノトス
      記
  一 会社ノ要求ハ当分ノ内瓦斯量一千立方呎ニ付料金壱円ノ引上ナルモ、之ヲ七拾五銭迄ニ止メシムルコト
  二 引上料金ハ大正八年一月一日以後ニ於テ適用セシムルコト
  三 会社ハ株主ニ対シ年率九分ヲ超過スル利益配当ヲ為シ得サルコト
  四 料金引上期間中払込資本額ニ対スル年率九分ノ配当ヲ標準トシ、過剰アル場合ハ次ノ営業期ニ於テ其過剰ノ全額ニ比準ス
 - 第53巻 p.230 -ページ画像 
ル引下ヲ為サシムルコト
  五 炭価低落ノ場合其他特別ノ事情ニ因リ市カ瓦斯料金ノ引下ヲ要求シタルトキハ、会社ハ正当ノ理由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス
○下略
   ○七月一日会議ノ条ニ、田尻市長ノ発言中「先日渋沢栄一氏ノ来訪ヲ受ケ」云々トアルハ、栄一日記(是年四月十四日以降欠)及ビ他ニ資料ナク明確ヲ欠クモ、綱文日付ハ姑ク「先日云々」ニ依リ、六月トセリ。


東京瓦斯五十年史 同社編 第三三―三六頁昭和一〇年一月刊(DK530045k-0002)
第53巻 p.230-231 ページ画像

東京瓦斯五十年史 同社編 第三三―三六頁昭和一〇年一月刊
 ○第壱部 第二編 第一章 欧洲大戦に因る受難
    第一節 経営の危機に直面す
 千代田瓦斯を合併して二年半、其の善後経営を漸く終るや、欧洲大戦が勃発して其の打撃を受け、当社は甚しき経営難に陥つた。
 欧洲大戦は大正三年七月に始つたが、同年末迄財界は非常な脅威を受けて不況であつた。然るに大正四年に入るや
 (一)欧米品の輸入が杜絶したこと
 (二)欧米品の代用として国産品の輸出が激増したこと
 (三)交戦国の軍需品として国産品の輸出が急増したこと
 (四)世界の船舶の不足に伴つて本邦の船舶及造船業が活躍したこと
是等の原因が累加して、我国の各種産業は俄然活況を呈し、新規の事業は続々と起り、各種商品は日夜生産して、尚ほ且つ供給不足を告げる有様であつた。従つて物価並に労銀は激騰して其の停止する処を知らなかつた。即ち、大正四年以降九年に至る六ケ年間に於ける各種事業の計画資本高は、実に百四十三億七千百万円の巨額に達し、之を明治以来大戦勃発の前年の、大正二年末に至る四十六年間に於ける各種産業の総投資額十九億八千三百万円に比較すると、戦時並に戦後の事業計画資本は驚くべし、実に其の七倍余に相当する。又、之れも正貨在高に就て見ると三億五千百万円(大正元年末)から二十億四千五百万円(大正八年末)に達したのである。
 然るに当社に在つては、石炭を初め、鉄管其他各種材料並に労銀の暴騰に依り、製造費は非常に増加したに拘らず、瓦斯料金は東京市の承認を得なければ値上する事が出来ず、労銀や石炭の暴騰に適応して収入の増加を計る事が出来なかつた為め、極度の経営難に陥つた。斯くて従来の需要に対する供給すらも至難となつたのに加へて、皮肉にも、戦時景気に依る瓦斯の需要は頓に増加し、販売量の増加に正比例して損害は多大となり、経営は愈々困難を加へ、一般の会社が三割、五割或は七割と言ふ好配当を続けて居るに反して、当社のみは独り八分から七分、又五分二厘と配当を低下し辛ふじて無配当を免れたが、当時に於ける当社の経営は真に惨憺たる有様であつた。
    第二節 大正八年の料金改正
 欧洲大戦に因つて炭価、鉄価及労銀が奔騰したに拘らず、瓦斯料金は依然として上らず、収支が甚だしく償はないため、事情止むなく、東京市に向つて、瓦斯料金の改正を請願した。これ大正七年十月二十
 - 第53巻 p.231 -ページ画像 
六日であつた。而して、料金改正の要点は、当時一千立方呎に付一円七十五銭であつたのを、二円七十五銭に一円方値上げする事であつて請願書に、計算書並に其の他の参考書類を添附し、別に請願の理由を詳説した左記要領の陳述書を提出した。
  一 瓦斯事業悲運の実情。
  二 石炭の暴騰と当社の瓦斯料金。
  三 薪炭の暴騰と各種工業の発展に基く瓦斯需要の増加。
  四 製造及供給の全力を尽して尚ほ需要を満たす能はず。
  五 瓦斯需要の増加は益々当社の利益を減殺す。
  六 石炭の特価契約には制限あり。
  七 需要増加に伴ふ使用人の増加と戦時手当の増額。
  八 石炭其の他諸物価騰貴に因る利益激減と大正八年度収支予算
  九 当社が所要石炭の全部を時価を以て買入れた場合の損失額。
 一〇 各瓦斯会社の料金値上。
 一一 副生物の増収は瓦斯の損失を補ふに足らず。
 一二 当社の累年配当低下の実際。
 一三 料金値上に依り年九年の配当を維持する場合の計算。
 東京市は当社の請願を調査した結果是を妥当と認め、値上額を当社が要望した一円に対して、七十五銭として市会に提出した(大正七年十二月六日)。市会では同月十一・十二の両日に亘つて質疑応答を重ねた上、十五名の調査委員に附託したが、其の審議は遅々として進捗しないので、当社は翌大正八年一月三十日及同五月二十日の両度追願書を提出した。
 玆に於て調査委員会は五月二十七日に、漸く審議を終了して、修正案(五十銭値上承認案)を決議したので、同案に関する市会は九月二十九日・三十の両日開会され、討議の結果是を可決した。斯くて当社は請願してより一ケ年、申請の半額五十銭の値上改正を、大正八年十月一日より実施する事が出来た。此の東京市の料金改正に前後して、神奈川・埼玉両県下の料金を改正して値上を実施する事が出来た。


集会日時通知表 大正七年(DK530045k-0003)
第53巻 p.231 ページ画像

集会日時通知表 大正七年       (渋沢子爵家所蔵)
八月廿八日 水 午前十時 田尻市長ヲ市役所ニ御訪問
   ○中略。
十月十五日 火 午後三半時 田尻市長ヲ御訪問ノ約(市役所)
   ○中略。
十月廿五日 金 午前十時 田尻市長御訪問(市役所)
   ○中略。
十一月六日 水 午後一―二時 田尻市長ヲ御訪問ノ約(市役所)


竜門雑誌 第三六六号・第五二頁大正七年一一月 ○東京瓦斯会社値上問題(DK530045k-0004)
第53巻 p.231-232 ページ画像

竜門雑誌 第三六六号・第五二頁大正七年一一月
○東京瓦斯会社値上問題 東京瓦斯株式会社が石炭暴騰の結果、其経営を維持するに多大の苦痛を感じつゝあるより、同社は今回公式に料金値上の申請を市会に提出するやに伝へられ居るが、右に就き青淵先生の談として、十月二十六日の東京日々新聞に掲載せられたる所左の
 - 第53巻 p.232 -ページ画像 
如し。
  私は明治七年瓦斯事業開始以来其事に携はり、明治十八年東京瓦斯の成立以来四十三年迄重役を勤め、今も株主と云ふ深い因縁がある、石炭の騰貴は実に未曾有であるが
  △東京瓦斯は 幸ひ三井石炭廉売に関する特殊契約があり、一面副産物たるコールター、アニリン、クレヲソート、ベニリン等も高価に上つてゐる、久米社長から幾度か書面で事情を訴へ来り、先日も若尾幾造氏大株主二名が、其苦境を陳述されたので、田尻市長に
 「瓦斯会社の云ふ所も尤もだ、九分や八分の配当を維持するだけの利益を与へる事は当然で、見す見す
  △会社を干殺 すのは市の不体裁で市民も不利益である、宜しく吟味して欲しい」と云つた処、市長も至極尤もだと云はれた、私は賄賂を貰つた訳でもなく値上げの率を聞いた訳でもないが、瓦斯会社として充分の努力を経営に注ぎ、尚足りない処を助けてやるのは市民の利益の為にも必要である。私の主義は会社に
  △刺身を食は せるのは反対だが、干物位は与へる事が正義だと申すのである。市としては会社の経営状態を巨細に調査し、固定資本の償却其他に迄配慮して、瓦斯会社が是ならやつと生きて行けると云ふ程度にしたい。会社の要求案は高率なら削つてもよからう。 更に物価低下の日には安くすると云ふ条件付でもよからう。是が市民を苦しめるとて攻撃すれば夫は理不尽で、私は其矢表に立つても厭はない云々。