デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
11節 瓦斯
4款 東洋瓦斯試験所
■綱文

第53巻 p.288-299(DK530051k) ページ画像

昭和2年11月28日(1927年)

是ヨリ先、当試験所設立サレ、財団法人理化学研究所ノ発明ニ係ルアドソールノ工業的応用試験ヲナシ来リシガ、是日、工業倶楽部ニ於テ当試験所組合員総会ヲ開キ、栄一及ビ大河内正敏ノ通知ニ基キ、当試験所ヲ解散シテ、ソノ財産及ビ業務ヲ理化学興業株式会社ニ譲渡スベキコトヲ議決ス。


■資料

東洋瓦斯試験所 設立趣旨書 起業予算 収支予算 規約 第一―四頁刊(DK530051k-0001)
第53巻 p.288-289 ページ画像

東洋瓦斯試験所 設立趣旨書 起業予算 収支予算 規約 第一―四頁刊
    東洋瓦斯試験所設立趣旨書
千古未曾有ノ世界大戦ニ於テ嘗メ尽シタル苦キ経験ハ、吾人ニ教フルニ一国存立ノ必須条件ハ原料ノ自給自足ニアルヲ以テセリ、然リ、我国ノ如キ列強四囲ノ間ニ位シ、封鎖セラレ易キ環海ノ島帝国ニ於テ其存立ヲ確保シ、其富強ヲ維持セントスルハ実ニ之レガ解決如何ニアリ渾球地下ニ埋蔵スル石炭ノ数量漸ク欠乏ヲ告ゲ、其代品ヲ需ムル時ニ当リ、最近自動車・航空機其他石油発動機ノ異常ナル発達ハ遂ニ石炭ヲシテ過去ノ燃料タラシメントス、列強ノ石油獲得戦ニ没頭セル亦宜ナル哉
翻テ我国石油産出ノ状況ヲ顧ミルニ、一年ノ全産額ハ以テ一日ノ消費ニ充ツルニ足ラズ、盛ニ四囲ノ輸入ヲ仰ゲリ、殊ニガソリンニアリテハ独リ数量ノ不足ナルノミナラズ製法不完全ニシテ品質亦不良、以テ唯一ノ護国武器タル航空機ノ燃料トナスニ足ラズ、既ニ燃料ノ自給自足ヲ欠ク、一朝事アルノ時ニ当リ嗚呼危イカナ汲々乎タリ
上述ノ如ク我国石油ノ天恵ニ乏シト雖モ、石油瓦斯ハ北越地方到ル所ニ之レアリ、或ハ田畑庭園ヲ問ハズ杖端地ニ孔ヲ穿ツ既ニ瓦斯ノ噴出ヲ見ルガ如キ、或ハ天然ニ熾ニ噴出セルガ如キ、或ハ油井ヨリ不断発散セルガ如キ其数其量実ニ計リ知ルベカラザルナリ、然ルニ此天恵ヲ利用シテ良質無限ノガソリンヲ採取スル途アルヲ知ラズ徒ニ其散逸ニ委ス、偶々之ガ採取ヲナスモノアリト雖モ、其方法拙劣ニシテ多大ノ資本ヲ固定シ、而シテ僅ニ不良ノ品質ヲ得ルノミ、天与ノ恩恵ヲ遺棄シテ顧ミザル誠ニ悲シムベキ哉、今回理化学研究所ハ一種ノ吸収剤ヲ用ヒ、各種ノ瓦斯中ヨリ諸揮発成分又ハ水蒸気ヲ吸収スル方法ヲ発明セラレタリ、左ニ其応用ノ範囲ヲ記サン
 一、之ヲ天然瓦斯ニ応用セバ其含有スル揮発成分ノ殆ンド全部ヲ吸収シ、之ヲ液化シテ純良ナルガソリンヲ採取スル事ヲ得、殊ニ其方法装置極メテ簡単ニシテ費用亦甚ダ軽少ナルガ故ニ、亦家庭工業ノ小規模ニモ使用スル事ヲ得ルヲ以テ、広ク此方法ヲ応用シガソリンヲ採取シ得バ、啻ニ遺棄セラレタル財宝ヲ拾得スルノミナラズ亦我国現下ノ欠乏ヲ自給シ得ルモノト謂フベシ
 - 第53巻 p.289 -ページ画像 
 一、石炭瓦斯中ニハ約一割ノベンヂンヲ含有スト雖モ、之ヲ採取スル事ナク、日常此貴重ナル成分ヲ炊事灯火ニ焼棄シツヽアリ、若シ本発明ヲ応用セバ採取後ノ瓦斯ハ熱力ニ於テ光力ニ於テ殆ンド変化ナク、而カモ生産品タルベンヂンハ高価ニ売却シ得ルガ故ニ、瓦斯事業ヲシテ更ニ甚ダ有利ナラシムル事ヲ得ベシ
 一、更ニ之ヲ乾燥ニ応用センカ、我国ノ如キ四面海ヲ環ラシ湿度高キ気候中ニ於テ重要物産タル生糸・羽二重・製茶等ヲ輸出スルニ当リ、更ニ湿気多キ熱帯地方ヲ通過シ、為ニ往々黴ヲ生ジ或ハ所謂星入羽二重トナリ、変色茶トナルヲ以テ、此荷箱中ニ本発明ノ吸収剤ヲ封入スレバ湿気ヲ吸収シテ乾燥ヲ持続シ、絶対ニ該損害ヲ防止スルヲ得ベシ、同理ニヨリテ之ヲ砲台ノ火薬庫ニ応用セバ、汐気ニヨリテ庫内ニ露ノ滴ル患ヒナク、倉庫会社ノ倉庫ニ利用セバ貴重ナル入庫品ニ黴害ヲ蒙ムル憂ヒナカルベシ、又火薬ノ製造ニ当リ之レヲ乾燥スルニハ常ニ熱気乾燥法ヲ用ヒ、為ニ爆発ノ危険アリテ到底本発明ノ冷乾燥法ノ如キ其危害ヲ保障シ得ベキモノ他ニアルナシ、其他紡績ニ製糸ニ紡織ニ将タ家庭ニ防湿ノ応用実ニ宏大ニシテ、日常諸般ノ事業ニ貢献スル所ノ利益実ニ計リ知ルベカラザルナリ
理化学研究所研究員理学博士池田菊苗氏、同理学士磯部甫氏、同所助手岡沢鶴治氏等日夜以上ノ発明ニ尽瘁セラレ、奮励努力今ヤ学術的実験上既ニ完成セリ、吾人ハ之ヲ工業的規模ニ応用シテ所期ノ如ク採算的ニ成立スベキヲ確信スレドモ、然レドモ本発明ガ世界ニ類例ナク、前例ノ範トナスベキモノナシ、是レ本試験所ヲ設立シ以テ本発明ノ工業的試験ヲナサントスル所以ナリ
果シテ本発明ガ本所ノ目的タル工業的試験ニ及第シ、大規模ノ工業トシテ計画上遺漏ナキヲ確保スル事ヲ得バ、本所ハ即チ此世界的発明ヲ国家的工業タラシムルノ嚮導ヲナシタルモノニシテ、本所ノ目的ヤ既ニ成就シタルモノト謂フベキナリ、豈敢テ本所ノ収益ヲ顧念スルモノナランヤ
然リト雖モ、苟クモ出資ニ損失ヲ招クガ如キ経営ハ素ヨリ避ケザルベカラザルヲ以テ、本所ハ先ツ収益ノ最モ見易キ天然瓦斯ヨリガソリンヲ採集スル工業的試験ヨリ着手シ、其利益金ヲ以テ大小ノ採取装置ヲ設備シ、之ヲ一定ノ収利条件ヲ以テ瓦斯鉱区権利者ニ貸用シ、以テ本所ノ利益ヲ増加シ、此利益ヲ以テ更ニ大規模ノ吸収剤製造、石炭瓦斯ヨリベンヂン採取、並ニ冷乾燥ノ各種応用等ニ付工業的実験ヲ施行セントス
本所ガ最初ニ要スル資金ハ本所ノ企図ヲ賛成援助セラルヽ有志諸君ノ醵出ニ係ルモノニシテ、吾人其厚意ヲ深謝ス、若夫レ更ニ大方諸彦ノ賛同ニヨリ此世界的発明ヲシテ国家的工業ニ成功シ得セシメンカ、即チ諸彦ハ実ニ国家存立ノ必要条件ヲ寄与セラレタルモノト謂フベシ、大方ノ諸彦希クハ吾人同志ノ微衷ヲ酌ミ後援ノ栄ヲ与ヘラレン事ヲ


東洋瓦斯試験所 設立趣旨書 起業予算 収支予算 規約 第五―九頁 刊(DK530051k-0002)
第53巻 p.289-290 ページ画像

東洋瓦斯試験所 設立趣旨書 起業予算 収支予算 規約 第五―九頁 刊
    起業予算
 - 第53巻 p.290 -ページ画像 
一金拾万円也 資本金総額
  内訳
 一金四千八百円也 建設期損失金
○中略
 一金弐万五百参拾五円也 製造ヨリ売掛代金回収迄三ケ月間ノ据置運転資金
○中略
 一金四万五千円也 固定資本金
○中略
 一金弐千円也 創立費
 一金弐万七千六百六拾五円也 運転資本金
    収支予算(月額)
      収入部
一金九千円也 壱基ガソリン売上月額
 但ガソリン採取装置壱基一ケ月売上代金最上ガソリン一五〇石、一石ニ付金六〇円ノ割
      支出部
一金六千八百四拾五円也 経費月額
      内訳
 一金壱千壱百七拾円也 給料
○中略
 一金五百参拾円也 旅費
○中略
 一金七百円也 事務費
○中略
 一金四千四百四拾五円也 製造費
○中略
    損益勘定(年額)
  揮発油採取装置壱基ノ場合
一金拾万八千円也 収入総額
一金八万弐千百四拾円也 支出総額
 差引金弐万五千八百六拾円也 利益金
  揮発油採取装置弐基ノ場合
 一金六万五千五百弐拾円也 利益金
      内訳
  一金弐万五千八百六拾円也 第壱基利益金
  一金参万九千六百六拾円也 第弐基利益金
   但、第二基ニアリテハ給料五百円、事務費四百円、旅費弐百五拾円、合計月額壱千百五拾円、年額壱万参千八百円ノ経費ヲ節減セラル、即チ第一基利益金ヨリ増加スル利益金ナリ
 一金四千八百円也 第一基建設期間損金
 差引金六万七百弐拾円也 利益金総額


東洋瓦斯試験所規約 第一―五頁 刊(DK530051k-0003)
第53巻 p.290-292 ページ画像

東洋瓦斯試験所規約 第一―五頁 刊
 - 第53巻 p.291 -ページ画像 
    規約
第一条 本所ハ組合トシ東洋瓦斯試験所ト称ス
第二条 本所ハ左ノ事業ヲ為スコトヲ目的トス
 一、財団法人理化学研究所研究員理学博士池田菊苗氏・同理学士磯部甫氏・同所助手岡沢鶴治氏ノ発明ニ係ル、各種ノ瓦斯中ヨリ諸揮発成分並ニ水分ヲ吸着スル方法及其ノ吸着剤ノ製造方法ヲ専用シ、之レガ工業的応用ノ試験ヲ為スコト
 二、前号ノ試験ニ因リテ生スル成産物ヲ有利ニ処分スルコト
 三、第一号ニ掲クル各種ノ瓦斯中ヨリ諸揮発成分並ニ水分ヲ吸収スル方法ヲ応用シテ、他人ノ為ニ瓦斯吸着装置ノ設計、又ハ製作ヲ為シ、一定ノ条件ヲ以テ第一号ノ試験ヲ行ハシムルコト
 四、第一号ニ掲クル各種ノ瓦斯中ヨリ諸揮発成分並ニ水分ヲ吸着スル方法及其ノ吸着剤ノ製造法ニ付改良ノ為研究ヲ為スコト
   前項第四号ニ規定スル事項ノ施行ハ、財団法人理化学研究所ニ之レヲ委任スルモノトス
 五、其ノ他財団法人理化学研究所及監査役ノ承認ヲ経タル事項
第三条 本所ノ資金ハ金拾万円トシ、一口金千円ヲ単位トシ、本所ノ事業ヲ援助スル有志ヨリ之レヲ醵出ス
  前項ノ資金ヲ増加スル場合ニ於テハ、出資者ハ其ノ出資額ノ割合ニ応ジテ按分シタル金額ヲ引受ケ出資スル権利ヲ有ス
第四条 本所ノ業務ノ執行ハ出資者中ヨリ一人又ハ三人ノ業務執行者ヲ互選シテ、之レヲ委任スルモノトス
  出資者ハ前項ノ選挙ニ付、醵金一口ニ付一箇ノ議決権ヲ有シ、出資者ノ議決権ノ過半数ヲ以テ選挙ヲ為スモノトス
  業務執行者ノ選任ニ付テハ、財団法人理化学研究所ノ同意ヲ要スルモノトス
第五条 本所ノ業務及会計事務ヲ監査セシムル為、出資者中ヨリ監査役一人ヲ選任スルモノトス
  第四条第二項及第三項ノ規定ハ前項ノ監査役選任ニ之レヲ準用ス
第六条 本所ノ決算期ハ毎年四月三十日及十月三十一日トシ、総収入中ヨリ諸経費、賞与金及理化学研究所ノ同意ヲ得テ定メタル固定資本ニ対スル償却金ヲ控除シタル残額ヲ純益金トシ、左ノ如ク分配スルモノトス
  一、出資金額ニ対シ年一割ニ相当スル金額ヲ出資者ニ優先シテ配当ス
  二、前項ノ金額ヲ控除シタル残額ヲ二分シ、其ノ一半ヲ財団法人理化学研究所ニ寄贈シ、残余ヲ以テ出資者ニ対スル配当金ニ充ツ
  前項第二号ノ金額ハ資金ニ欠損アル場合ニ於テハ之レヲ塡補シタル後ニ非ザレバ、其ノ支出ヲ為スコトヲ得ザルモノトス
  第一項第二号ノ規定ニ依ル財団法人理化学研究所ニ対スル寄贈ハ同所ノ定ムル所ニ依リ、第二条ノ発明者ニ寄贈金ノ一部ヲ支給スベキ諒解ニ於テ之レヲ為スモノトス
第七条 本所ガ専用スル財団法人理化学研究所ノ有スル特許権ガ消滅
 - 第53巻 p.292 -ページ画像 
シタル場合ニ於テハ、前条第一項第二号ノ規定ニ依リ、財団法人理化学研究所ニ寄贈スル金額ハ出資者ノ決議ニ依リ適宜ニ之レヲ定ム
  前項ノ決議ニ付テハ第四条第二項ノ規定ヲ準用ス
第八条 財団法人理化学研究所ハ、何時ニテモ本所ノ事業上若ハ計算上ノ事項ニ付報告ヲ求メ、又ハ帳簿物件ヲ検査スルコトヲ得ルモノトス
第九条 財団法人理化学研究所ニ於テ本所ガ試験ノ目的ヲ完成シタルモノト認メタルトキハ、本所ハ出資者ノ決議ニ依リ解散シ、本所ノ出資者ハ第二条第一号ノ掲クル各種ノ瓦斯中ヨリ諸揮発成分並ニ水分ヲ吸着スル方法、及其ノ吸着剤ノ製造方法ヲ応用スル事業ヲ目的トスル株式会社ヲ設立スルモノトス
  前項解散ノ決議ニ付テハ第四条第二項ノ規定ヲ準用ス
  第一項ノ場合ニ於テハ新設株式会社ハ相当ノ価格ヲ以テ本所ノ器具・機械・設備、其ノ他ノ財産ヲ買受クルモノトス
  本所ノ解散ノ場合ニ於ケル残余財産ハ、出資者ノ出資額ヲ限度トシ各出資ノ割合ニ応ジテ分配シ、尚残余額アルトキハ其ノ処分ニ付テハ第六条第一項第二号及第三項ノ規定ヲ準用ス
  第一項ノ規定ニ依リ、株式会社ヲ設立スル場合ニ於テハ、本所ノ出資者ハ優先シテ株式ヲ引受クル権利ヲ有スルモノトス
第十条 本所ノ創立費用ハ第一計算期ノ経費トシテ支弁スルモノトス
第十一条 本所ノ出資者及其出資金額ハ別表ノ如シ
第十二条 本規約ハ財団法人理化学研究所ノ同意ヲ得ルニアラザレバ之レヲ変更スルコトヲ得ザルモノトス
      以上

    出資者名簿(大正十四年十月三十一日現在)
 口数   住所   氏名
○中略
  三  同○東京 渋沢同族株式会社社長
                 渋沢敬三
○下略
   ○本資料第四十七巻所収「財団法人理化学研究所」大正十一年五月二十五日及ビ同年十月十四日ノ条参照。


理化学研究所書類(一)(DK530051k-0004)
第53巻 p.292-293 ページ画像

理化学研究所書類(一)           (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
     (栄一鉛筆)
     十五年二月十六日水谷清氏持参本書ニ小印返却ス
    第五十四回理事会議事要録
一、場所及日時 大正十四年十二月十日午前十時半日本工業倶楽部ニ於テ開会、正午閉会
一、出席 渋沢・大河内・大橋・内藤・高松・青木・塩原各理事、片山研究員代表
一、報告
○中略
 - 第53巻 p.293 -ページ画像 
 (二)アドソール工業試験ヲ為ス目的ヲ以テ設立セル東洋瓦斯試験所ハ第六期(自大正十四年五月一日至十月三十一日)決算ニ於テ初メテ四万二千余円ノ収益ヲ挙ゲタルコト、但シ従来三万余円ノ欠損アリシヲ以テ、今期之ヲ補塡シ純益金九千円ヲ得タリ、仍テ規約ニ基キ組合員ニ五千円(年一割)ヲ配当シ、残額四千円ヲ二分シ、二千円ヲ当所ニ納メ二千円ヲ組合員ニ再配当シタルコト
○下略
   ○右ハ財団法人理化学研究所理事会記録ナリ。


東洋瓦斯試験所出資書類(DK530051k-0005)
第53巻 p.293 ページ画像

東洋瓦斯試験所出資書類           (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
謹啓
時下寒冷之候ニ御座候処愈々御清栄之段奉賀候、陳者曩ニ各位ノ御賛同ヲ得テ当試験所ヲ設立致シ、爾来一意専心目的ノ遂行ニ努力シ来リ其結果ハ毎期御報告申上置候通ニ有之候
御承知ノ如ク「アドソール」ノ発明ハ実ニ世界ニ類例ナキ偉大ナル発明ニ有之、研究ノ進ムニ従テ其応用範囲モ次第ニ広汎ト相成、殆ド際限ナク利用ノ途発見サレ、当所設立当時ノ予想以外ニ尚頗ル多方面ニ渉リ、試験ヲ行ハザル可ラザル事ト相成候
今日迄ニ実験ヲ終了シタルモノハ室内ノ湿度調節、地下室ノ乾燥、倉庫内物品乾燥、地下火薬庫ノ乾燥、魚類ノ乾燥、丸薬ノ乾燥、線香ノ乾燥、及ビ冷房、煖房装置等空気乾燥応用ノ一部分ニ過ギズシテ、本所ノ主要目的タル各種瓦斯中ヨリ揮発油類ノ採収試験ハ未ダ実行ノ運ビニ到ラザリシモ、機運漸ク熟シテ今般実行ノ事トナリ、目下機械ノ設計製作中ニ有之候
過般第六回事業報告書ニ於テ委敷御報告申上候通リ、各種乾燥並ニ冷房煖房装置等工事ノ現在引受額数拾万円ノ巨額ニ達シ、相当利益ヲ挙ゲ得ル見込ニ御座候得共、従来ノ如ク借入金ニ依リテ之ヲ処弁致候テハ経営上ノ不利益不便不尠候ニ付キ、此際資金ノ円滑ヲ謀リ以テ各方面ニ渉リ速ニ試験ノ目的ヲ達成セシムル為増資致度候間、何卒御賛同被下度偏ニ希望仕候 敬白
  大正拾四年拾弐月弐拾参日  東洋瓦斯試験所
                 所長理事 山本栄男
                 理事   内山弥左衛門
                 理事   磯部甫
  出資者
          殿


東洋瓦斯試験所出資書類(DK530051k-0006)
第53巻 p.293-294 ページ画像

東洋瓦斯試験所出資書類         (渋沢子爵家所蔵)
(写)
(印)        一、印鑑ハ予テ当所ヘ御提出ノ分ト同一ノモノ御押捺被下度キ事
      御注意 二、数字ハ壱・弐・参・拾等ヲ用ヒラレ度キ事
印紙 三、申込期限、大正拾五年壱月参拾壱日限リ

 - 第53巻 p.294 -ページ画像 
    第壱回増資出資引受申込証
 一、東洋瓦斯試験所第壱回増資出資参口
    此出資金総額金参千円也(但シ壱口ニ付金壱千円也)
 右貴所規約承認ノ上前記増資出資引受申度此段申込候也
  大正十五年壱月  日
        住所    東京市日本橋区兜町弐番地
         出資申込人  渋沢同族株式会社
                 社長 渋沢敬三(印)
    東洋瓦斯試験所 御中
    (御注意、申込期限、大正拾五年壱月参拾壱日限リ)


理化学研究所書類(一)(DK530051k-0007)
第53巻 p.294 ページ画像

理化学研究所書類(一)          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
             (栄一鉛筆)
             十五年二月十六日水谷清氏持参
                 本書ニ小印シテ返却ス
    大正十五年一月定期評議員会議事要録
一、日時及場所 大正十五年一月二十七日(水曜)午前十一時日本工業倶楽部ニ於テ開会、〇時三十分閉会
一、出席  渋沢子・大河内子・大橋・小野・高松・団・日本人造肥料株式会社・植村・青木・森村男各評議員、古市男顧問此外他ノ評議員ヲ以テ代理人ト為ス旨通知セシ評議員三十一名
一、報告事項
○中略
 (二)アドソール工業試験ヲ為ス為設立セル東洋瓦斯試験所ハ創立以来損失打続キタリシカ、大正十四年十一月第六期決算(満三年)ニ於テ四万余円ノ利益ヲ収メタルヲ以テ、従来ノ損失金ヲ補塡シ、尚規約ニ依ル銷却金・配当金ヲ控除シ、当期二千円ヲ当所ニ納付セルコト
  本品ハ冷房及煖房用ノミナラス揮発油採集用トシテ今後需用多カルベキ見込ナルコト
○中略
 (ト)当所内ニ設立セル試験工場ニ於テ研究セル結果
  アドソール乾燥繭ヲ用フル製糸ハ在来ノ方法ニ比シ生産費一割ヲ減シ収量百分ノ二増加シタルコト
○下略


理化学研究所書類(一)(DK530051k-0008)
第53巻 p.294-295 ページ画像

理化学研究所書類(一)          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    第五十五回理事会議事要録
一、場所及日時 大正十五年十二月二日午前十一時日本工業倶楽部ニ於テ開会、〇時半閉会
一、出席  渋沢・大河内・青木・森村・原・塩原・高松・内藤各理事、山川顧問、竹内工政課長、東会計士
 - 第53巻 p.295 -ページ画像 
一、報告
○中略
 (ロ)東洋瓦斯試験所扱ニ係ルアドソールハ需用益増加シ、去ル五月ヨリ十月ニ至ル半期ニ弐万四千余円ノ純益ヲ挙ゲ組合員ニ一割五分ノ配当ヲ為シ、当所ニ五千円ノ報酬金ヲ寄附セルコト、同試験所ガ小倉石油株式会社ト契約ノ下ニ着手シタル揮発油採集装置ハ最近完成シタルヲ以テ、不日揮発油ノ製出ヲ見ルニ至ルベキコト
○下略


理化学研究所書類(一)(DK530051k-0009)
第53巻 p.295 ページ画像

理化学研究所書類(一)          (渋沢子爵家所蔵)
拝啓 大橋新太郎殿の命により、新会社か設立と同時に着手すへき営業科目を摘記仕候間、右御参考までに高覧に供し申候 敬具
  昭和二年七月三日
                       水谷清
    渋沢子爵閣下


理化学研究所書類(一)(DK530051k-0010)
第53巻 p.295 ページ画像

理化学研究所書類(一)          (渋沢子爵家所蔵)
(朱書)
(秘)
    理化学興業株式会社設立と同時に営む事業
一、アドソールの製造並に冷房及乾燥工事の請負を為すこと
   従来東洋瓦斯試験所に委托せし本業は、宣伝良しきを得は需用増進の見込にして、初年度に於ては逓信省・海軍省其他売揚総額約八十万円を算する予定にして、之れより生する純益は約二割十六万円を下らさる見込なり
○下略
   ○本資料第四十七巻所収「財団法人理化学研究所」昭和二年六月十五日ノ条参照。


東洋瓦斯試験所出資書類(DK530051k-0011)
第53巻 p.295-296 ページ画像

東洋瓦斯試験所出資書類          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    総会開催通知書
拝啓 時下秋冷ノ候益御清祥之段奉大賀候
陳者去ル五月廿五日組合員総会ニ於ケル御決議ニ基キ、子爵渋沢栄一子爵大河内正敏両氏ヨリ当所組織変更ニ関シ別紙○後掲 ノ通条件ノ御通知有之候ニ付、来ル拾壱月廿八日(月曜日)午後弐時ヨリ丸ノ内、日本工業倶楽部ニ於テ組合員総会ヲ開催致シ候間、御出席ノ上別紙○次掲 議案ニ就キ御決議相願度候 敬具
 追而当日御出席難相成場合ハ別紙委任状御送附被成下度願上候
  昭和弐年拾壱月拾六日
                 東洋瓦斯試験所
                  所長 山本栄男(印)
    (宛名手書)
    渋沢同族株式会社
      社長 渋沢敬三殿
              (ゴム印)
              十一月二十一日委任状発送済

 - 第53巻 p.296 -ページ画像 
      (財産目録・貸借対照表等計算書類ハ一両日中ニ後送可申上候)


東洋瓦斯試験所出資書類(DK530051k-0012)
第53巻 p.296 ページ画像

東洋瓦斯試験所出資書類          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    決議案
第一議案、東洋瓦斯試験所ノ組織変更ニ関シ子爵渋沢栄一・子爵大河内正敏両氏ノ通知事項(別紙ノ通リ)承認ノ件
第二議案、東洋瓦斯試験所ヲ解散シ、昭和弐年拾月参拾壱日現在ノ貸借対照表ニ依ル財産(権利及義務)ヲ理化学興業株式会社ヘ譲渡スルニ付、理化学興業株式会社ト東洋瓦斯試験所トノ間ニ締結セル契約書承認ノ件
第三議案、本第拾期(自昭和弐年五月一日至同拾月三十一日)ノ財産目録及貸借対照表ノ承認ノ件
第四議案、理化学興業株式会社ヨリ受入ル可キ東洋瓦斯試験所ノ財産譲渡ノ代償金弐拾万円、並ニ解散及ビ退職手当金九万円処分ノ件
第五議案、契約書記載ノ金銭ノ授受ヲ終リタル日ヲ以テ東洋瓦斯試験所ハ解散シ山本栄男、及内山弥左衛門ノ二氏ヲ清算人ニ選任スルコト(以上)


東洋瓦斯試験所出資書類(DK530051k-0013)
第53巻 p.296 ページ画像

東洋瓦斯試験所出資書類          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    覚
 一、東洋瓦斯試験所ハ第十期(昭和弐年拾月参拾壱日)決算期ヲ以テ之ヲ解散シ、其資産(権利及義務共)ヲ理化学興業株式会社ニ譲渡スルコト
 二、理化学興業株式会社ヨリ前項ノ代償トシテ金弐拾万円、並解散及退職手当トシテ金九万円ヲ支出セシムル予定ニ付、総会ノ決議ヲ経テ左ノ通リ処分スルコト
   (イ)金弐拾万円也 出資者ニ返却スルコト
   (ロ)金九万円也  全参万五阡円ヲ下ラザル額ヲ出資者ヘ出資額ニ応ジテ分配シ、残額ハ役員及職員ニ支給スルコト
    (右、渋沢・大河内両子爵ヨリノ通知書写)


東洋瓦斯試験所出資書類(DK530051k-0014)
第53巻 p.296-297 ページ画像

東洋瓦斯試験所出資書類          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
謹啓 時下益御清栄之段奉賀候
陳者曩ニ各位ヨリ御賛助ヲ得テ当東洋瓦斯試験所ヲ設立致シ、財団法人理化学研究所ノ発明ニ係ルアドソールノ工業的応用試験ニ従事致シ来リ候処、幸ニ望外ノ好成績ヲ挙ゲ候事ハ偏ニ各位御後援ノ賜ト深ク感謝罷在候
今回理化学興業株式会社新設セラレ、当所ノ事業ヲ継承シテ益アドソ
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ール工業ノ発展ヲ計ラルルコトト相成別紙御送附申上候間、御査閲ノ上御承認ノ栄ヲ得度、一々拝趨御意ヲ得可キノ処、乍略儀以書中御願旁御挨拶申上度如斯御座候 敬具
  昭和弐年拾壱月拾六日
              東洋瓦斯試験所
               理事所長 山本栄男
               理事 内山弥左衛門
               理事 磯部甫
    (宛名手書)
    渋沢同族株式会社
     渋沢敬三殿


東洋瓦斯試験所出資書類(DK530051k-0015)
第53巻 p.297 ページ画像

東洋瓦斯試験所出資書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    契約書(写)
理化学興業株式会社ヲ甲トシ、東洋瓦斯試験所ヲ乙トシ、甲乙ノ間ニ左ノ事項ヲ契約ス
 一、甲ハ乙ノ昭和弐年拾月参拾壱日現在ノ、貸借対照表ニ依ル資産(権利及義務共)ヲ譲受クルモノトス
 二、甲ハ昭和弐年拾壱月参拾日迄ニ前項譲渡ノ代償トシテ乙ニ金弐拾万円ヲ支払ヒ、外ニ解散及退職手当トシテ金九万円(内金参万五千円ヲ下ラザル額ヲ出資者ニ出資額ニ応シテ分配ス)ヲ支給スルモノトス
 三、乙ハ前項ニ依ル弐口ノ金額ヲ受領シタルトキハ直ニ組合ヲ解散シ、昭和弐年拾月参拾壱日現在ノ貸借対照表ニ依ル資産(権利及義務共)ヲ甲ニ引渡スモノトス
      附則
一、本契約ハ甲ノ取締役会又ハ乙ノ組合総会ニ於テ承認セラレサルトキハ無効トス
一、本証書ハ弐通ヲ作成シ、甲乙各其壱通ヲ保有スルモノトス
  昭和弐年拾壱月弐拾六日
          理化学興業株式会社
            取締役会長 子爵 大河内正敏(印)
          東洋瓦斯試験所
            所長 山本栄男(印)


東洋瓦斯試験所出資書類(DK530051k-0016)
第53巻 p.297-298 ページ画像

東洋瓦斯試験所出資書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
拝啓 陳者予テ御案内申上置候通リ
昨廿八日丸之内日本工業倶楽部ニ於テ当所組合員総会ヲ開催シ、別紙決議録ノ通リ夫々議決確定仕リ候間此段御報告申上候也
  昭和弐年十一月廿九日   東洋瓦斯試験所
                 所長 山本栄男(印)
    (宛名手書)
    渋沢同族株式会社
     社長 渋沢敬三殿
 - 第53巻 p.298 -ページ画像 
   ○別紙ヲ欠ク。


東洋瓦斯試験所出資書類(DK530051k-0017)
第53巻 p.298 ページ画像

東洋瓦斯試験所出資書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
拝啓 益々御清祥之段奉賀上候
扨去ル廿八日ノ総会決議ニ基キ、明後拾弐月壱日ヨリ各位ノ御出資返戻金並ニ解散分配金ヲ当事務所ニ於テ夫々御支払可申上候間、別紙領収証並ニ御所有ノ出資券(旧口券及第一回増資新口券共)添附御提出ノ上御受領被成下度、此段御通知申上候 敬具
  昭和弐年十一月廿九日  東洋瓦斯試験所
                所長 山本栄男(印)
    (宛名手書)
    渋沢同族株式会社
     社長 渋沢敬三殿
  ○御注意
      支払日 昭和弐年拾弐月壱日ヨリ。 支払場所 丸之内仲通十二号館二号東洋瓦斯試験所 御印鑑ハ予テ当所ヘ御届済ノモノ御使用被成下度候。


東洋瓦斯試験所出資書類(DK530051k-0018)
第53巻 p.298 ページ画像

東洋瓦斯試験所出資書類         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
                          (朱書)
                            扣
    返戻出資金領収書
                (ゴム印)
一金六阡円也          昭和弐年十二月八日
  但、東洋瓦斯試験所出資金、参口分(壱口ニ付金壱千円也)
                       金参阡円也
  同 第一回増資出資金、参口分(壱口ニ付金壱千円也)
                       金参阡円也
右本日返戻相成正ニ領収候也
  昭和弐年拾弐月 日
           (ゴム印)
    (住所)    東京市麹町区永楽町弐丁目壱番地
    (氏名)         渋沢同族株式会社
                 社長 渋沢敬三(印)
    東洋瓦斯試験所清算人殿
   ○傍線ハ手書。



〔参考〕(理化学興業株式会社)第壱回営業報告書 自昭和二年十一月二十五日至同年十二月三十一日 第一―三頁刊(DK530051k-0019)
第53巻 p.298-299 ページ画像

(理化学興業株式会社)第壱回営業報告書
            自昭和二年十一月二十五日至同年十二月三十一日 第一―三頁刊
    第一回決算報告書
                    理化学興業株式会社
昭和二年十一月二十五日ヨリ同年十二月末日ニ至ル期間ノ当会社事業ノ概要、並ニ諸計算ヲ報告スルコト左ノ如シ
      業務概要
  一、「アドソール」工業ノ開始
理化学研究所発明ニ係ル「アドソール」を応用スル乾燥業並ニ冷房及煖房工事ハ、従来東洋瓦斯試験所ニ於テ之ヲ実施セシガ、当会社ハ設立ト同時ニ、同試験所ノ昭和二年十月三十一日現在ノ資産(権利義務
 - 第53巻 p.299 -ページ画像 
共)ヲ金弐拾九万円ニテ買収シテ同事業ヲ継承シタル外、「アドソール」ニ依ル乾繭事業ヲ全国ニ普及セシムル目的ヲ以テ設立セラレタル蚕糸工業所ノ委任ヲ受ケ、同所ノ事業ヲモ経営スルコトヽセリ
本期間契約ノ成立セル工事ハ、京都中央電話局冷房及煖房工事、愛媛県中予乾繭倉庫、東京府青梅乾繭倉庫、東京府原町田乾繭倉庫、台湾中央研究所平鎮蚕業試験所生茶乾燥装置等請負総額金拾六万八千六百五拾九円ナリ
  二、「アドソール」製造工場設置
従来東洋瓦斯試験所ニ於テハ理研構内ニ「アドソール」製造工場ヲ有セシモ、原料ノ蒐集上且ツ低廉ナル労銀及燃料ノ供給上越後地方ニ工場ヲ設置スルヲ有利ト認メタルヲ以テ、越後柏崎駅附近ニ土地九百四十七坪ヲ購入シ、木造トタン張百六十六坪ヲ建築セリ、昭和三年一月下旬ヨリ製造ヲ開始スル予定ナリ
  三、会社出張所設置
越後鎌田ニ存在セシ東洋瓦斯試験所ノ事務所木造瓦葺四拾坪ヲ柏崎ニ移転シ、当会社柏崎出張所事務所ニ当ツルコトヽセリ
  四、揮発油採集試験
東洋瓦斯試験所ヨリ継承セシ越後鎌田揮発油採集試験室約六十坪、及機械装置並ニ理化学研究所ガ越後湯入ニ設置セシ同上ノ装置ヲ柏崎ニ移転セリ、一月下旬頃ヨリ日本石油株式会社ヨリ瓦斯ノ供給ヲ受ケ試験開始ノ予定ナリ