デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.16

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
12節 電気
3款 東京市ニ於ケル電灯電力統一問題
■綱文

第53巻 p.316-342(DK530054k) ページ画像

大正4年1月23日(1915年)

是ヨリ先、東京市内ニ電灯及ビ電力ヲ供給セル東京市電気局・東京電灯株式会社及ビ日本電灯株式会社ノ間ニ競争ヲ生ジ、漸ク之ガ激烈トナルニ及ンデ統一ノ機運促サレ、栄一及ビ森村市左衛門其仲介ヲ委嘱セラル。是日渋沢事務所ニ三者ノ代表ヲ招キテ電灯市営統一案ヲ呈示ス。然レドモ東京電灯株式会社ノ不同意ニ依リ遂ニ交渉不調ニ終ル。


■資料

東京電灯株式会社開業五十年史 同社編 第一一六―一一七頁昭和一一年八月刊(DK530054k-0001)
第53巻 p.316 ページ画像

東京電灯株式会社開業五十年史 同社編 第一一六―一一七頁昭和一一年八月刊
 ○第三期 飛躍時代(大正元年より同年末期迄)
    二 三電協定の成立
○上略
三電の競争 明治三十九年東京鉄道会社に合併された東京電気鉄道会社が、三十三年東京市内一円に電灯電力供給権を得、又同四十四年日本電灯会社が新設され、一般供給権を獲得したので、玆に東京市の電灯電力事業は当社との間に三分の形勢となつた。四十四年八月東京市が東京鉄道会社を買収し、その電灯電力事業を継承するに及んで三電の競争は益々激甚となり、遂には一需用家内に三電別々の電灯が供給される奇観をさへ呈した。かくて料金は不当に低下して採算を割り、当社の如きはこの競争のため大正三年上期から四年上期に亘る間に約五十万円の延滞料金を擁する等諸弊百出するに至つた。一部識者は夙に斯る無謀なる競争の非なる所以を指摘しつゝあつたが、玆に漸く三電の合同乃至協調を提唱する機運に向つた。
 大正二年当社は先づ日本電灯会社の合併計画を進めたが成らず、更に同年末に至り佐竹社長は時の市長阪谷芳郎氏を訪ねて、東京市に於ける電気供給事業の統一問題に就て陳情する所があつた。されば大正三年阪谷市長は三電を市営に統一せんとし、翌四年一月渋沢栄一氏・森村市左衛門男の斡旋に依り東電の電灯部を六朱の市債三千五百十万円、電力は一キロワット時一銭五厘、日電を六朱の市債六百五十万円で孰れも東京市に買収する調停案を樹て、当社及び日本電灯会社の両社に折衝した結果、買収談将に成らんとしたが、たまたま浅草発電所の譲渡に関し、市と当社との間に意見を異にし、この市営統一案は遂に不調に終つた。
○下略


中外商業新報 第一〇二四三号大正三年一〇月二七日 ○電灯料問題進一歩 協定乎統一乎三電第一回会合(DK530054k-0002)
第53巻 p.316-317 ページ画像

中外商業新報 第一〇二四三号大正三年一〇月二七日
    ○電灯料問題進一歩
      協定乎統一乎三電第一回会合
 - 第53巻 p.317 -ページ画像 
廿六日午後三時阪谷東京市長は市庁内助役室に於て松木電気局長・井上同次長列席の上、東京電灯社長佐竹作太郎・日本電灯専務島甲子二の両氏と会見、電灯問題に関し密議を凝すこと正に一時間半強、佐竹・島両氏は同四時四十五分辞去せり、会議の内容は極秘に附せられ居れるが、仄聞する処に依れば、市長は先づ去る十九日の市会の決議録を示して市電に関する経過を説明し、之に対し佐竹氏より種々質問あり殊に「市長は料金調査会が決定せし軽減案の内容を其儘実行し得べしとなすや奈何」との質問に対し、市長は「先づ困難ならん」との意味を答へたる由にて、続て愈々協定実行方法の交渉に移るや、佐竹氏も島氏も協定の事たる会社に取りての重大問題なれば熟考の余地を与へられたし、且つ若し市に於て之に関する成案あらば拝見したしと答へたれば、市長は市としての案(松木局長調査中にして一両日中に脱稿の筈)出来次第示すべき旨を約せしやにて、最後に佐竹氏は話頭を進めて
 決議にある通りの公平・均一・低廉の料金実施を理想通りに行はんとせば、協定にては間緩し、何となれば協定が果して円満に実行され得るか否かは頗る疑はしきを以て也、故に若かず、此際百尺竿頭一歩を進めて根本的解決、即ち統一を断行しては如何
と述べたるに対し、市長は「今の処は市長としては協定案を有するのみ」なりと之を避けたる由なるも、市長の持論より推究するも、必ずしも統一に反対也との意嚮を漏したることなき事は想像に難からず、而して、松木局長の手に調製中なる協定の原案なるものは三様ある模様にて、共に市財政の基礎を危うせざる程度を条件として編成されたるものなれば、料金の如きも極端なる低率にあらざることは明白にて形勢転進して統一問題実現の場合相当に算盤の取れる範囲を逸せざるものゝ如し


中外商業新報 第一〇二六二号大正三年一一月一五日 ○要は市営統一 市政講究会の意見(DK530054k-0003)
第53巻 p.317-318 ページ画像

中外商業新報 第一〇二六二号大正三年一一月一五日
    ○要は市営統一
      市政講究会の意見
市政講究会にては、青山副会長以下幹部十数名会合の上、電灯問題に関し料金協定の不可能にして結局市営統一の方法に依らざるべからざることの決議を為し、大要左の意見書を発表すると共に、其運動を開始せり
 市当局は其第一着手として二会社と協定を試みんとするものゝ如し然れども此協定は果して成立すべきか、三電は各其基礎を同ふせざるを以て、料金を一定せんとせば勢ひ三者中の最高の率に拠らざる可らずして、所謂低廉と此の均一とは両立し難き注文也、(一)市会の軽減調査会の発表したるものは単に市長の参考に止まるべしとは一応の理屈なれども、而かも兎に角議場に於て建議案に賛成したる以上、其建議案の内容たる右軽減案、即ち十燭五十銭案に対し多くの変更を為し能はざるべく、之に対し二会社が応諾するや頗る疑問也、(二)市財政の基礎に重を置く以上は建議の料金を眼中に置かず、市長は別に協定率を作成すべき也、而して二会社の同意を得市会も仮に異議なしとするも、偖て此の協定が円満に実行さるべき
 - 第53巻 p.318 -ページ画像 
や亦頗る疑問也、拙手摩胡付けば市は其需要家の大半を失ふべし、(三)区域分営を説くものあれど三電の設備は其株式を異にする関係上、強て之を実行せんか資本を膨脹せしめ、経営困難の結果料金は却て之を引上ぐるの外なかるべし、(四)一部の間には民営統一を云々するものあれど、営利会社独占の弊は今更喋々の要なし、尚合同経営を云々するものあれど、之が必須条件としては市は尠なくも総資本の半額以上を有し、之に伴ふ権利を保管せざる可らず、然らざれば民営統一と何等選ぶ処なし
 左れば電灯本来の性質と公益の見地より見るも市営統一を第一とし五分利債券七十円を以て東電の五十円払込一株と交換すべき者と想定せば、料金も市会建議の数字を変更せずして安全に経営し得べし


中外商業新報 第一〇二六八号大正三年一一月二一日 ○電灯協定案出づ 三電第二回会見(DK530054k-0004)
第53巻 p.318 ページ画像

中外商業新報 第一〇二六八号大正三年一一月二一日
    ○電灯協定案出づ
      三電第二回会見
阪谷東京市長は、既報の如く電灯問題に就き二十日午後三時、東電佐竹社長・日電島専務取締役と市役所内助役室に於て第二回の会見を為したり、市側よりは市長の外松木局長・井上次長・大橋庶務課長等列席し、市長より料金協定案を提示し、其案に対する意見を提出せられんことを求め、佐竹氏も島氏も之を承諾し、右協定案の内容は当分之を公にせざることを相互に約束したる由なるが、会社側は第一回会見当時より依然として統一意見を有し、当日も荐りに統一案につき話を持掛けたるに対し、市長も予て同意見を有し居ることゝて大に合槌を打ちたるやにて、種々意見の交換を為したる由


中外商業新報 第一〇二六九号大正三年一一月二二日 ○両電重役会議 対市方針協議(DK530054k-0005)
第53巻 p.318 ページ画像

中外商業新報 第一〇二六九号大正三年一一月二二日
    ○両電重役会議
      対市方針協議
△東電重役会議 東電及び日電は二十日阪谷市長より電灯協定に関する市の提案を接手したること既報の如きが、之に対し会社側の態度を決定すべき要あり、即ち東京電灯は二十一日午前十時より帝国ホテルに重役会議を開催す、当日は根津嘉一郎・若尾幾造の両氏を除き他の重役全員列席し、佐竹社長より市との交渉顛末を報告し、夫れより会社の対市態度に就き協議せり、会議の内容は極秘に付せらるゝも、此際弥縫的協定を為すが如き姑息的方法に出でず断乎として根本的に解決せしむる方針を以て、市をして最も公平なる統一案を作らしむるを至当とすべく万一各種事情の統一を不能ならしむるに於ては、相当条件の下に一時協定するも已むを得ずと云ふに決定せし模様なり
△日電重役会議 当日日電側に於ても午後一時築地の本社に重役会議を開きたるが、川原茂輔氏を除き重役会員列席鳩首凝議の後島・安藤両氏をして充分の調査を遂げしめたる上、再び重役会議を開催し、同社の態度を決定することゝなれり


中外商業新報 第一〇二八〇号大正三年一二月三日 ○電灯問題協議 第三回三電会見(DK530054k-0006)
第53巻 p.318-319 ページ画像

中外商業新報 第一〇二八〇号大正三年一二月三日
 - 第53巻 p.319 -ページ画像 
    ○電灯問題協議
      第三回三電会見
佐竹東電社長及島日電専務は二日午後三時阪谷市長を市庁に訪ひ、松木局長以下列席の上、電灯問題に付き前回に引続き協議する処ありたるが、当日は統一案に付き具体的意見の交換を為し、私電側より水火の動力共に買上げ方を慫慂せしに対し、市長は市財政の現状は到底之を許さゞるべき旨を答へたる由にて、結局別段纏りたる事もなく次回の会見を予約して五時散会したりと


竜門雑誌 第三一九号・第四六頁大正三年一二月 電灯統一問題と青淵先生(DK530054k-0007)
第53巻 p.319 ページ画像

竜門雑誌 第三一九号・第四六頁大正三年一二月
電灯統一問題と青淵先生 目下東京市の一大問題となれる電灯統一問題に就て、青淵先生及び森村市左衛門両氏は、東京市電気局・東京電灯・日本電灯各当事者の懇嘱に応じ、経済界の紛乱を避くるの趣旨を以て斡旋の労を執ることを承諾せられ、取敢へず十二月五日滝ノ川別邸に各社代表者を招きて其の意向を聴取せられたる由、因に青淵先生は右に付時事新報記者の問に対し左の如く語られしなり
 電灯問題に対しては予は努めて関係せざる方針を採り来りたるも、今回は当事者の依頼に依りて、森村氏と共に斡旋の労を取る事に決せり、而して事の順序としては、先づ当業者双方の大凡の希望と意見とを聴取するの要あり、而して若し此両者の要求に甚しき懸隔存する時は、予等に於て調停案を提出するに至るやも計る可らず、場合に及んでは予は当事者双方と輿論の帰する所とを参酌して極めて中正の調停を試みんことを期す云々


竜門雑誌 第三一九号・第四六頁大正三年一二月 新聞記者招待会(DK530054k-0008)
第53巻 p.319-320 ページ画像

竜門雑誌 第三一九号・第四六頁大正三年一二月
○新聞記者招待会 別項記載の如く青淵先生及び森村市左衛門氏は、電灯問題解決の為め仲介の労を執ることゝなりたるより、先づ其第一着手として各新聞記者側の意向を聴取する為、十二月六日午後五時帝国ホテルに時事・朝日・日日・国民・報知・万朝・中央・都・やまと・読売・東京毎日・毎夕・新世界に中外商業の各社々長又は主筆を招待し、電灯統一問題に付種々懇談せられたり、今其の概略を記さんに、当夜青淵先生は依頼されし由来を述べて曰く
 自分は電灯会社に対し何等関係なく、全然局外者の位地に在り、従つて力こそ微弱なれ、社会公益上、公平無私の判断を下すに比較的好都合の位置に在り。唯夫れ事至難の問題にして如何なる方法に依り之を解決すべきや大に苦む所なるが、自分一己の考へには全般の利害より打算し、国家経済上並に市民の利益上、此際三電を統一し而して之を市営と為すを最も得策なりと信ず。唯之を実行するに付諸君の御意向を聴き且諸君の御尽力を待たざるべからざるものあるを以て、此点宜しく御諒察を請ふ
との趣意を述べ各自之に対し意見を開陳し、食後更に協議を重ね、結局出席者の大多数は主義として市営統一を可なりとす、唯問題は会社買収条件の如何にあるを以て其条件を聴取したる上賛否を決すべく、統一後の電灯料金は、予て市会の意向たる五十銭見当を実行し得る計
 - 第53巻 p.320 -ページ画像 
算を基礎としたる買収条件にされんことを望むとの意見多数なりしを以て、青淵先生も其意を諒し更に再会を約し九時散会せりとなり


中外商業新報 第一〇二八三号大正三年一二月六日 ○電灯買収価格 東電側の計算基礎(DK530054k-0009)
第53巻 p.320 ページ画像

中外商業新報 第一〇二八三号大正三年一二月六日
    ○電灯買収価格
      東電側の計算基礎
電灯統一の場合市営によるが得策乎、将た民営を得策とする乎に就ては、素より観方により異論あるべけれど、市営主義に統一するが得策なるべしとは多数の首肯する所として、現に実業家の宿老渋沢男並に森村市左衛門氏は此目的を以て目下斡旋の労を執りつゝあるものゝ如し、統一運動が果して如何の成行を呈するか、未だ遽かに知る可らざるが故に、市営に統一する場合東電・日電の買収価格如何を詮議立てするの早計に似たれど、今東電側の意嚮を聞くに、市営として市の買収に応ずる価格の最低は一株五十円払込に対し市債額面八十円を望み居れりとなり、蓋し買収方法に二つあり、其一は鉄道国有法に擬せる電鉄買収計算法にして(三ケ年平均益金の廿倍)此法によれば東電の買収価格は五十円払込一株九十余円に当る、更らに東京瓦斯会社対市の報償契約によれば、将来市が会社を買収する場合既往五ケ年の株式価格の平均に拠るとありて、之に従へば東電の五十円払込株は十一月より溯りて既往五ケ年の平均市価七十三円廿銭に相当す、而して既発東京市債額面百円の時価を仮りに九十円と見れば、平均七十三円二十銭の還元は約八十円となり、之を最低買収価として、電鉄買収法に至りては百円以上の計算を示す、勿論買収すべき市としては最低価格を撰ぶべく、八十円を取るの至当なるべきが、此以下にて買収せんとするは現在の時価を本位とする計算にして予め拠るべきものにあらず、仮りに八十円の買収価格とせば、電灯の資本金大略三千万円、動力千九百五十万円なるが故に、如左計算となる

                   資本金         買収価格
                         円           円
 (一)動力を切離したる場合  三〇、〇〇〇、〇〇〇  四八、〇〇〇、〇〇〇
 (二)動力を電灯を合する場合 四九、五〇〇、〇〇〇  七九、二〇〇、〇〇〇

東京市が電灯を統一する場合一の動力をも有せざるは(火力はあれど)可笑な談なれど、動力と電灯とを合せて買収すとせば鬼怒川水電をもお伴に買収せざる可らざるの羽目に立つ可く、斯くては結局一億の買収公債を発行せざる可らず、現在既に多大の債務を抱ける東京市が此上一億の市債を加重する事は、先づ政府当局の意嚮之を危むべく、許可を得るの点に心配なしと云ふ可らず、然るに電灯のみとせば日電を合せ買収すとしても五・六千万円見当なれば、政府の許可を得る必ずしも難事にあらず、市は勿論会社側に於ては予め此点に就て政府の意中を探れりとも伝へらる


中外商業新報 第一〇二九三号大正三年一二月一六日 ○電灯問題経過 交渉中市会延期(DK530054k-0010)
第53巻 p.320-321 ページ画像

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中外商業新報 第一〇三〇六号大正三年一二月二九日 ○電灯統一経過 提案は十日頃か(DK530054k-0011)
第53巻 p.321 ページ画像

中外商業新報 第一〇三〇六号大正三年一二月二九日
    ○電灯統一経過
      提案は十日頃か
電灯市営統一に関する市対東電及び日電間の交渉は漸次進展し来り、水力問題も二十六日を以て相互の折合附きたれば、剰す処は買収価格の争ひのみにて、渋沢男・森村翁等の媒介者側はいふまでもなく、阪谷市長も年内に仮契約の運びに至らしめんと熱心し居れるも、価格は直ちに今後実行すべき料金に影響を及ぼす次第なるを以て、市側にては努めて言値を固守すると共に、二十七日市会各派有力者の意嚮を聴取せり、旁々此の調子を以て順序よく進行するに於ては、一月十二日開会の市参事会に仮契約案の提出を見るに至るべしと観測さる、因みに其れや之れやの関係より政友会代議士たる佐竹東電社長は二十五日の本会議に欠席したり


中外商業新報 第一〇三〇七号大正三年一二月三〇日 ○電灯解決急ぐ 東電年末を期す(DK530054k-0012)
第53巻 p.321-322 ページ画像

中外商業新報 第一〇三〇七号大正三年一二月三〇日
    ○電灯解決急ぐ
      東電年末を期す
△双方の値開 電灯統一問題の交渉は、市対東日電と並に之が仲介役とも云ふ可き渋沢男と森村市左衛門氏とが引続き協議の進行を図り居れど、市側の希望する買収価格と会社側の希望する買収価格は相当の
 - 第53巻 p.322 -ページ画像 
価開きあり、為に解決を急ぎ乍らも未だ買収価格の上に於て折合ふ迄に進捗せざるは事実なるが、市の希望する買収条件は六分利市債六十円にして、之に対し東電側の希望は七十五円見当也、市側に多少譲歩の内意なきに非ざれど未だ其運びに至らず
△六十五円説 市と会社が此折衝を如何に切抜く可き乎、市は六十二円迄は譲歩し居れりとの説あり、而して東電としても亦七十五円を一厘一毛の引値なしとのみ頑張り、為に折角の統一機会を失するの非なるを覚悟せり、一部重役の語る所によれば、六分利六十五円位ならば将来の事情に稽へ此際市に買収さるゝが詰り株主の利益なるべしと、されど一方六十五円にては銀行への担保価格平均七十円以上に相当せる東電株主は、買収の為に五円以上を持出さゞる可らざるの羽目に陥るが故に、是等株主の反対あるべしと懸念し、容易に六十五円説に同せず、然れども東電側は年末迄に必ず何等かの目鼻を附けざる可らずとなし、市当局者との間に交渉を急ぎ居れば、大抵の譲歩は之を断ずべしと目するものあり
△日電の強硬 東電が結局譲歩するとして日電の態度如何と云ふに、市側の計算によれば六百万円の払込みに対して其払込以下の買収価格に折合はん事を希望し(一説に六百万円に対し五百万円と云へり)居れど、日電は其工事費の節約と云ひ、営業振りと云ひ、到底市電の夫に比すべくもあらず、市側が千二百万円の建設費を其儘に見積るとせば、日電の建設費六百万円は少くとも夫以上に見積らざる可らずとなし、容易に交渉に応ぜざる様なれど、市長の意見と云ひ、渋沢・森村両氏の意見と云ひ、東電側の意見と云ひ、此際大抵の所に折合を期しつゝあれば、年末迄に交渉纏りて仮契約を締結し得ずとするも、東日電互に相制し、市との交渉に対し大体の折合を見るやも知れずと


中外商業新報 第一〇三〇八号大正三年一二月三一日 ○統一交渉切迫 値開きと仲裁者(DK530054k-0013)
第53巻 p.322 ページ画像

中外商業新報 第一〇三〇八号大正三年一二月三一日
    ○統一交渉切迫
      値開きと仲裁者
電灯統一に関する交渉は三十日も亦市当局と会社当局との間に行はれたるが、買収価格の値開き尚広く、三者何れも譲歩せんとせず、尤も最初の言値よりは多少歩み寄りの希望なきにあらざれども、而かも市側の腹案がギリギリ六十二円搦みを以て市財政の基礎を危うせざる極度の範囲なりとせるに対し、会社側には随分の懸値あり、其の頻りに市営統一即ち買収されんことを熱望するに拘はらず採算上の応諾容易ならざるため、阪谷市長が年内に大丈夫なりとせし交渉も遂に今日の如き有様なるが、尚会社側は昨夜更に会合する処あり、市側にても松木局長は井上理事と共に市長私邸に於て鳩首協議する処ありたれば、仲裁者を介し或は急転直下の解決を見んやも知れず、而して此交渉に際し会社側の態度飽まで誠意に乏しき場合に於ては、仲裁者は市民の為に交渉顛末を発表するやも知れざる由にて、兎に角電灯統一問題は世人が歳末年始に忙殺さるゝに関係なく極めて切迫し来れり


中外商業新報 第一〇三一一号大正四年一月五日 ○電灯解決近く 解決点は何れぞ(DK530054k-0014)
第53巻 p.322-323 ページ画像

中外商業新報 第一〇三一一号大正四年一月五日
 - 第53巻 p.323 -ページ画像 
    ○電灯解決近く
      解決点は何れぞ
電灯問題は改暦と共に愈々切迫を告げ来り、仲介者たる渋沢男及森村翁に何分の回答を為すべく、市と会社側とは歳末年始に掛け夫々交渉を尽す処あり、相互の底意は大抵之を知るを得たるものゝ如く、会社側は四日年頭の重役会を開き、市側も御用始めを機とし正式の打合を為すと共に、松木局長は井上次長と共に午後三時頃より某所に更に会社側重役と会合したる由にて、渋沢男と午後六時頃まで事務所にありたるも、素より未だ決定までには至らざりしが如し


渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0015)
第53巻 p.323 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年        (渋沢子爵家所蔵)
一月七日 昨夜ヨリ天曇リテ雨ヲ催フセリ朝来聊暖気ヲ覚フ
○上略 森村氏・佐竹氏等ヘ電灯ノ件ニ付電話ヲ交換ス、午前十時兜町事務所ニ抵ル、森村市左衛門氏来会ス、共ニ東電重役佐竹・神戸二氏、日電島・安藤二氏ト会談ス、両社トモニ昨年来東京市ト交渉ノ次第ヲ縷述セラレテ東電ヨリハ覚書ヲ提出ス、依テ更ニ市ノ当事者ト会談ノ後何分ノ通告ヲスヘキ旨ヲ約シテ散会ス、午飧後松木氏来リテ二社交渉ノ顛末ヲ報告シ、書類ヲ提出ス○下略


中外商業新報 第一〇三一三号大正四年一月七日 ○電灯問題一進 渋沢男迄申出期(DK530054k-0016)
第53巻 p.323 ページ画像

中外商業新報 第一〇三一三号大正四年一月七日
    ○電灯問題一進
      渋沢男迄申出期
日本電灯会社の態度は、五日の重役会に於て(一)買収に応じ得べき価格の最低度(二)愈々買収せられたる場合会社の解散手当等の附帯条件をも内定したり、是に先だち東電に於ても亦予め買収に応ずべき場合の価格を始め、火力設備の善後処分と動力販売価格等の諸条件を内定する所ありたれば、愈々仲裁役たる渋沢男・森村市左衛門氏の許に右の希望条件を申出づる迄に進捗せり、此申出では仲裁役に差支なき限り多分七日と目せられつゝありて、仲裁役たる男と氏とは此希望条件を聞きたる上必要に応じては市の意中をも糾すべく、斯くて仲裁役の裁断を仰ぐ順序なれば無論解決の時期は近づけりとするも、尚其間多少の時日を残せりと観るを至当とせん乎となり


中外商業新報 第一〇三一四号大正四年一月八日 ○電灯問題進捗 七日両電重役訪問松木局長も亦訪問(DK530054k-0017)
第53巻 p.323-324 ページ画像

中外商業新報 第一〇三一四号大正四年一月八日
    ○電灯問題進捗
       七日両電重役訪問松木局長も亦訪問
佐竹東電社長・神戸同常務取締役及び日電の島専務・安藤常務取締役は相携へて七日午前十一時兜町なる事務所に仲介者たる渋沢男並に森村市左衛門氏を往訪し、市電よりの買収交渉に関する顛末を逐一報告せるが、右報告の要旨は、最初仲介者の手許まで出せし買収価格の各項目中其後に於ける折衝の結果、互譲妥協の見込あるものなきに非らざる旨を明かにしたる点にありし由にて、両仲裁者も其意を諒とすると共に、会社側の申す処果して間違なきやを確むる為前上諸氏の立去りたる後、直ちに松木市電気局長を招き之を糾したるが、局長は大体
 - 第53巻 p.324 -ページ画像 
に於て相違なく、只一・二の点に就き会社側の誤解とも見ゆべき箇所あり、其点だけに付き重ねて説明を試み引取りたる由、斯くて当日の会合は統一可能の希望を聊か濃厚ならしめたるものゝ如く、渋沢・森村両翁は近く、仲裁者案とも見るべきものを編成して両者に臨むならむ、兎に角統一問題の一進捗といふべし


渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0018)
第53巻 p.324 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年        (渋沢子爵家所蔵)
一月九日 昨夜ヨリ雪晴レテ天気少ク曇ル寒気凛〓《(冽)》タリ
○上略 午前十一時兜町事務所ニ抵リ、電灯問題ニ付和田氏・八十島氏等ト会話ス○下略
   ○中略。
一月十一日 朝来雨降リテ寒威強シ
○上略 午後事務所ニ於テ利光鶴松・川田鷹二氏来リ、鬼怒川水力電気ノ事ニ付電灯問題トノ関係ヲ縷陳セラル、午後五時ヨリ芝紅葉館ニ抵リ阪谷市長ノ招宴ニ出席ス、夜松木氏ト電灯ノ事ヲ談ス○下略
一月十二日 朝来天気稍晴レタルモ寒気強シ
○上略 午前十一時兜町事務所ニ抵リ、電灯問題ニ付森村氏、和田・八十島二氏ト協議ス
○中略 報知新聞社員須崎芳三郎氏来リ電灯問題ノ事ヲ談ス、又毎日新聞国民新聞社員等来話ス○下略
一月十三日 朝来快晴
○上略 十一時半永田丁大隈総理官舎ニ抵リ大臣ニ面シ、電灯統一ノ事ニ付経過ヲ報告シ、明日各省次官会合ノ事ヲ打合ハス○下略


中外商業新報 第一〇三二〇号大正四年一月一四日 ○電灯問題と当局(DK530054k-0019)
第53巻 p.324 ページ画像

中外商業新報 第一〇三二〇号大正四年一月一四日
    ○電灯問題と当局
阪谷市長及松木電気局長は十三日も渋沢男に招かれ説明する所ありたるが、松木局長は更に大蔵省に理財局長を訪ひ、統一案成立後の公債発行に関し、市公債の現在を報告すると共に政府当局の意嚮を糾したる由


渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0020)
第53巻 p.324 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年          (渋沢子爵家所蔵)
一月十四日 晴朝来寒気強ク庭中霜柱針ノ如シ
○上略 午前九時半事務所ニ抵リ、電灯問題ニ関シ和田氏及八十島ト談和《(話)》ス○中略 午飧後新聞紙探訪者《(記脱カ)》ト会話ス、午後二時和田豊治氏ト共ニ大隈総理官舎ニ抵リ、内務・大蔵・逓信三省ノ次官ト共ニ電灯問題ヲ陳述ス、五時頃事務所ニ抵リ、佐竹作太郎氏ノ来訪アリ、東電ヨリノ請求ヲ陳フ、森村・和田二氏ト電話ヲ交換ス、松下軍次氏ト電話ス○下略


中外商業新報 第一〇三二一号大正四年一月一五日 ○電灯統一発表近し 仲裁案は漸く成り当局と最後の打合(DK530054k-0021)
第53巻 p.324-325 ページ画像

中外商業新報 第一〇三二一号大正四年一月一五日
    ○電灯統一発表近し
      仲裁案は漸く成り当局と最後の打合
電灯統一問題に対し渋沢・森村両仲裁役は数度に亘り東電・日電当事者と東京市側の意見を徴して仲裁案の作製中なりしが、十四日愈々大
 - 第53巻 p.325 -ページ画像 
体の成案を得たるが故に、最後に尚首相始め大蔵・逓信当局者の意嚮を聞く必要ありとなし、午後三時渋沢男は和田豊治氏と共に首相官邸に首相を訪問し、浜口大蔵次官・湯河逓信次官及下岡内務次官とも会見せり、大蔵当局者には市債発行に就き、又逓信当局者には電気行政に就き、仲裁者として権威ある仲裁案を示す必要上予め当局の意嚮を聞糾したるものなれば、此会見が仲裁案の公示に到る最後の手続と観察せらる、随つて仲裁案は仲裁者により或方法を以て一両日中或方面に提示せらるゝならん乎と聞く


渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0022)
第53巻 p.325 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年          (渋沢子爵家所蔵)
一月十五日 快晴ナレトモ寒威強シ
○上略 午前十時半事務所ニ於テ八十島ト電灯問題ニ付仲介案調成ノ事ヲ協議ス○中略 四時総理大臣官舎ニテ下岡次官・江木書記官長ニ面会シテ電灯ノ事ヲ談ス○下略
一月十六日 天気朗晴ナレトモ寒威凛烈ナリ
○上略 午後○中略 総理大臣官舎ニ於テ電灯問題ニ付、江木書記官長・下岡内務次官ト会話シ、更ニ大蔵・逓信両次官ト談話ス、但和田豊治氏同伴ス、談畢テ午後六時過浜町日本橋倶楽部ニ抵リ○下略


中外商業新報 第一〇三二三号大正四年一月一七日 ○官邸の電灯密議 統一案成る(DK530054k-0023)
第53巻 p.325-326 ページ画像

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渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0024)
第53巻 p.326 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年        (渋沢子爵家所蔵)
一月十七日 朝来寒威強ク庭中堅氷ヲ見ル
○上略 午前十時事務所ニ抵リ、森村・和田・八十島氏等ト六新聞紙社主ト会談ス、電灯問題ノ仲介案ニ関スルナリ、十二時帝国ホテルニ抵リ十五社ノ新聞社員ト会談ス、後午飧ヲ共ニシ、三時散会事務所ニ来リ書類ヲ整理ス、五時銀行倶楽部ニ抵リ、中野・山口其他ノ市会議員六名ト会談ス、同ク電灯問題ノ通告ニ係ル、夜九時半帰宿○下略
一月十八日 快晴ナルモ気候寒シ
○上略 午前十時築地明石町ニ松下軍治氏ヲ訪フ、電灯統一ノ事ヲ談ス
○下略


中外商業新報 第一〇三二四号大正四年一月一八日 ○電灯統一協議 渋沢男の記者招待(DK530054k-0025)
第53巻 p.326 ページ画像

中外商業新報 第一〇三二四号大正四年一月一八日
    ○電灯統一協議
      渋沢男の記者招待
旧臘来東京市に於ける電灯事業統一の為め、仲介の労を執ることゝなりし渋沢男及森村市左衛門氏は、過般来仲介案の作製に努めつゝありしが、原案成りしを以て、予ての申合もあり旁十七日正午市内の新聞社代表者を帝国ホテルに招ぎ右成案を内示し、之に関する協議を為せり、当日は時事・日々・朝日・国民・報知・万朝・やまと・中央・都・読売・毎日・日本・毎夕・及中外商業の各代表者出席し、渋沢男より挨拶を兼ね従来の経過を報告し、原案を内示し、之に対し記者側より質問を為し、渋沢男及和田豊治氏より説明ありたる後、記者側は更に熟慮の後何分の回答を為すことゝし、午後二時半散会せり、因に記者側は来る十九日午後五時築地精養軒に会合し、意見の交換協議を為す筈也


渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0026)
第53巻 p.326 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年        (渋沢子爵家所蔵)
一月二十日 晴朝来寒気強ク堅氷到ル
○上略 午前十時事務所ニ抵リ、森村・和田二氏ト共ニ黒岩・山川・須崎三氏ト会話ス、電灯統一問題ニ関シテ各新聞社間昨夜会合ノ顛末ヲ報スル為ナリ○下略
   ○中略。
一月二十二日 半晴
○上略 午前十時事務所ニ抵リ、和田・八十島二氏ト電灯統一ニ関スル意見書ノ事ヲ協議ス○下略
 - 第53巻 p.327 -ページ画像 

中外商業新報 第一〇三二八号大正四年一月二二日 ○統一反対聯合会(DK530054k-0027)
第53巻 p.327 ページ画像

中外商業新報 第一〇三二八号大正四年一月二二日
    ○統一反対聯合会
電灯軽減聯合会は二十二日午後三時日本橋倶楽部に於て総会を開く由にて、東京市会に提出さるゝ電灯統一案を通過せしめざる事を目的とし、其主旨は左の如しと
 東京市は嚮きに東京鉄道買収の為に財政紊乱し、今や之れが善後策を講じ整理を必要とするの時代にして、而かも新たなる大事業拡張に着手すべき時期にあらず、況んや之れを統一したる後の電灯事業は恰も未だ競争会社の起らざる以前の東京電灯会社の如く、不経済と不親切とを以て再び東京市民の失望と不利益とを招くべき疑ひあるを以て、此の際寧ろ先決問題として過日市会決議の料金を発表するを以て得策と思料す、統一案は暫く之れを宿題として保留し、冷静に其研究を要す、前車の覆へるは後車の戒なり、二百万市民たるもの大に警戒せざれば悔を異日に遺すことあるべし云々


渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0028)
第53巻 p.327 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年        (渋沢子爵家所蔵)
一月二十三日 曇午後ヨリ小雪
○上略 今日ハ電灯問題ニ対シ市及会社ノ当事者ニ仲介者トシテ意見ヲ発表スヘク予定シアレハ、午前十時病ヲ勉メテ事務所ニ抵リ、森村・和田二氏ト共ニ市電局長松木氏ニ先ツ意見書ヲ交付シ、両氏ノ意見ヲ説明ス、後東電・日電両社ノ佐竹・島二氏ヘ同様書面ヲ交付ス、畢テ各新聞記者・雑誌記者ヘモ覚書・計算書類ヲ付与ス○下略
(欄外記事)
[下岡内務次官ニ面会シテ電灯統一ニ関スル覚書ヲ交付ス


中外商業新報 第一〇三二九号大正四年一月二三日 ○仲介案愈公示 二十三日午前(DK530054k-0029)
第53巻 p.327 ページ画像

中外商業新報 第一〇三二九号大正四年一月二三日
    ○仲介案愈公示
      二十三日午前
電灯統一に対する仲介者の成案は、事情により三電当事者に公示遅延し居たるが、愈々廿三日午前十時より十一時迄の間に於て市電側の松木局長、東電側の佐竹社長、日電側の島専務を兜町なる渋沢事務所に招致し、仲介案を公示する筈にて、二十二日此旨各当事者に通告を発したり、三電当事者は公示を受けて市側は理事会を、会社側は重役会を招集して、仲介案に対する諾否の態度を決定すべしと


中外商業新報 第一〇三二九号大正四年一月二三日 渋男首相訪問 半時余の会談(DK530054k-0030)
第53巻 p.327 ページ画像

中外商業新報 第一〇三二九号大正四年一月二三日
    ○渋男首相訪問
      半時余の会談
電灯統一問題に関し渋沢男は、曩日来数次大隈首相を官邸に訪問する処ありしが、尚何等か同問題にて首相と会談の必要ありしが如く、二十三日午後一時半大隈首相を官邸に訪問し、半時余にして退出せり


中外商業新報 第一〇三三〇号大正四年一月二四日 ○電灯統一仲介案 東日買収総額四千百十万円(DK530054k-0031)
第53巻 p.327-332 ページ画像

中外商業新報 第一〇三三〇号大正四年一月二四日
    ○電灯統一仲介案
 - 第53巻 p.328 -ページ画像 
      東日買収総額四千百十万円
  渋沢・森村両仲介者によりて作製せられたる電灯統一に関する仲介案は、愈々廿三日兜町の渋沢事務所に於て、渋沢男と森村氏は和田豊治氏立会の上、午前十時松木電気局長並に佐竹東電社長・島日電専務を招きて両氏より親しく交附せり、左の如し
    ▽意見書
電灯及電力販売事業統一問題に関し、過般来東京市、東京電灯株式会社及び日本電灯株式会社間に御交渉中に属する各個条中、御当事者間に於て未だ御協定を見るに至らざる件々に付き両生の意見相定め左に之を記載し、別紙附属覚書と共に提出致候間、各御当事者に於て其趣旨に御同意相成候上は、之に関聯する必要条項に付ては尚御協議の上適法の契約御作製相成候様致度と存候
一東京電灯株式会社の電灯電力事業、及之に関する設備、物件の全部(水力事業、火力発電所及八王子電灯事業は之を除く)及営業権を市に買収する事
 但、右買収物件の要目は別紙に記載する通たる事
一右買収代価を金三千五百十万円とする事
一右金額は五ケ年据置、四十五ケ年償還の年六分利附市公債証書額面を以て交付し、外に電灯部従業員解雇手当金二十万円を交付する事
一日本電灯株式会社の電灯電力事業及之に関する設備、物件の全部及営業権を市に買収する事
 但、右買収物件及之に附帯して市に継承すべき負債等の要目は別紙に記載する通たる事
一右買収代価を金六百万円とする事
一右金額は五ケ年据置、四十五ケ年償還の年六分利附市公債証書(但当初二ケ年間は無利足とす)額面を以て交付し、外に会社解散手当金十万円を交付する事
一市の一ケ年電力使用最少限度を左の通り定め、実際の使用量が之に達せざる場合に於ても市は最少限度の電力料金を仕払ふ事
                   キロワツト時
        初年度   一七九、五八〇、〇〇〇
 東京電灯会社 二年度   一九七、一〇〇、〇〇〇
        三年度   二一六、八一〇、〇〇〇
 桂川電力会社        三〇、五〇〇、〇〇〇
 但、当初三ケ年間に限り、市の都合に依り前記最少限度の内一割迄の減額をなすを得る事
一電力料金は会社の変電所に於ける責任の分界点に於て一キロワツト時に付金一銭五厘とする事
                           以上
  大正四年一月二十三日
              仲介者 渋沢栄一、森村市左衛門
    ▽買収物件要目
   (一)東京電灯株式会社の分
一大正三年十一月三十日現在会社の財産目録に基づき
  △営業諸機械△商品及貯蔵物品△地所家屋△什器△電灯設置未決算勘定△消耗品遺残高△第二水力市内配電設備費△千住機械
 - 第53巻 p.329 -ページ画像 
工場△仮出金
 の内左に列記するものを除きたる残余全部及び営業上の権利一切
      除くべきもの
 一駒橋発電所より早稲田変電所に至る建設物
 一八ツ橋発電所より淀橋変電所に至る建設物
 一千住及浅草火力発電所
  (但以上三項の電灯電力供給設備即前記三ケ所より附近需用家に直接供給する設備は当然買収物件中に含む者とす)
一八王子電灯電力供給設備
一商品、貯蔵物品、消耗品遺残高、及ひ仮出金中水力事業、火力発電所並に八王子電灯電力事業に属する分及仮出金中営業費に属する分
   (二)日本電灯株式会社の分
一大正三年十一月三十日現在会社の貸借対照表に基き、会社の資産負債の全部及営業上の権利一切
一前項中未払込株金勘定の内、金六百万円に限り之を除外する事
一未払込株金勘定の内、金七万三百七十五円は直に現金にて払込をなし市に引渡す事
一貯蔵品並に商品の内確実ならざるものある時、及未収入金並に仮払金の内、徴収又は回収不能の分著しく多額に上るときは会社に於て之が欠損を塡補する事
    ▽附属覚書
一別紙意見書に記載したる一ケ年電力使用最少限度の外、市は鬼怒川水力電気会社との契約に基き同社の電力を使用したる後に於て、尚電力を要するときは第一に東京電灯会社の電力一ケ年二千万キロワツト時迄を使用する事
一仲介者は前項鬼怒川水力電気会社の電力を現在の供給量と同じく一ケ年三千五十万キロワツト時と見、且其電力料金及前項東京電灯会社の電力料金を別紙意見書に記載せる最少限度の分と同じく一キロワツト時に付金一銭五厘として別紙に計算せり
一仲介者は別紙計算書を調製するに当り統一後の電灯料金を左の通りとして計算せり
  一 門灯  一ケ月  金四十銭
  一 五燭  同    金四十五銭
  一 十燭  同    金五十銭
  一 従量灯 同    金二十八銭
一東京電灯・桂川電力両会社の電灯電力供給販売に関する制限に付ては市の使用数量が一定の限度を超過する場合、及び会社が一定の報償金を市に納付する場合に於ては会社は其需用者に直接供給をなすを得る意味に於て協定せられんことを望む 以上
    ▽参考計算書
      (一)事業資本調書
 一金六千三百九十七万八千二百円 総額
   内訳
 - 第53巻 p.330 -ページ画像 
 一金千百八十七万円 五分利市公債在来の分
 一金五千二百十万八千二百円 六分利市公債
   此内訳
  一金三千五百十万円    東電の分
               (二千七百万円に対し五十円に付六十五円の割)
  一金六百万円 日電の分
  一金二百十二万八千二百円 市電資金の一部
  一金八百八十八万円    新設及改良資金
      (二)収支計算書
        収入の部
一金千二百七十七万七千八百九十八円  総収入高
  内訳
 一金九百七十九万二千六百九十円    電灯料
 一金二百七十三万五千二百八円     電力料
 一金二十五万円            雑収入
        支出の部
一金千二百七十七万七千八百九十八円  総支出高
  内訳
 一金四百四十六万八千二百六十一円   電力費
 一金八十七万三千六百五十円      電球費
 一金百六十九万六千八百円       営業費
 一金四百八万千七百二十六円 市公債元利償還金
 一金七十二万七千二百円      減損補塡金
 一金四十万円         一般会計編入金
 一金五十三万二百六十一円    雑損及準備金
但、初五ケ年間は六分利市公債に対しては元金の償還を要せす、且又初二ケ年間は日電分六百万円の利息をも仕払ふことを要せざるが故に
 初二ケ年間は毎年金六十万四千九百三十四円
 次の三ケ年間は毎年金二十四万四千九百三十四円
の支出減を見る訳なり
右五ケ年間の累計金高は金百九十四万四千六百七十円となる
尚又両会社へ交付すべき解散手当金三十万円は、右の金額中より支出すべし
      (三)元利償還年額調
一金四百八万千七百二十六円     償還年額
  内訳
一金七十一万三百円 五分利の分
                  (在来千百八十七万円 三十七年償還)
一金三百三十七万千四百二十六円 六分利の分
                  (五千二百十万八千二百円 四十五年償還)
 - 第53巻 p.331 -ページ画像 
                        以上
    ▽算定基礎(参考説明)
一、東電の買収代金を三千五百十万円としたるは、同社の帳簿価格によれば二千八百九十九万余円なるを二千七百万円と評定し、其五十円に対し六十五円の割を以て算出したるもの也
一、日電の買収代金を六百万円としたるは、同社払込資本額に拠りたるもの也
一、統一後の電灯料金は門灯は現規定に比し二銭減額、五燭は現規定の通り据置、十燭は二十二銭の減額、従量灯は一灯一ケ月一キロワツト時(最低料金)二十二銭其以上は一キロワツトに付十二銭の割とし、一灯平均量一キロ半とし算出せるもの也(現規定は一キロワツト時二十銭也)
一、収支計算書収入の部電灯料の内訳如左

 種別      実点灯数   一ケ月一灯料金   一ケ年収入
                   銭            円
 門灯     二〇二、〇〇〇   四〇      九六九、六〇〇
 五燭     八〇八、〇〇〇   四五    四、三六三、二〇〇
 十燭     四〇四、〇〇〇   五〇    二、四二四、〇〇〇
 従量灯    六〇六、〇〇〇   二八    二、〇三六、一六〇
  計   二、〇二〇、〇〇〇         九、七九二、九六〇

一、前記二百二万灯を算出したる基礎如左

          現在取付数      現在実点灯数
 東電    一、四〇二、〇〇〇    一、〇二四、四〇〇
 日電      二四七、〇〇〇      二一三、四〇〇
 市電      四一九、〇〇〇      三三六、〇〇〇
  計    二、〇六八、〇〇〇    一、五七三、八〇〇
 買収後減少灯数               九三、八〇〇
 同増加灯数                五四〇、〇〇〇
  差引                二、〇二〇、〇〇〇

一、収入の部電力料の内訳左の如し

                            円
 昼間 八千百馬力   一ケ月五円     四八六、〇〇〇
 昼夜間 八千百馬力  同 十円      九七二、〇〇〇
 従量三万二千四百馬力 四千七百卅万四千キロワツト時(七厘二銭) 一、二七七、二〇八
  計                 二、七三五、二〇八

一、支出の部電力費の内訳左の如し
    ▽電灯用電力(単位キロワツト時)

  種別    実点灯数         一ケ年使用総電量
 五燭及門灯  一、〇一〇、〇〇〇   一一五、八五六、〇九〇 
 十燭       四〇四、〇〇〇    三一、二八九、八〇〇
 従量       六〇六、〇〇〇    一五、五八三、八九六
  計     二、〇二〇、〇〇〇   一六二、七二九、七八六
    ▽動力用電力(単位キロワツト)
 昼間    八千百馬力         二五、三四一、四二八
 - 第53巻 p.332 -ページ画像 
 昼夜間   八千百馬力         四二、二三五、七一四
 従量    三万二千四百馬力      六七、五七七、一四三
  計    四万八千六百馬力     一三五、一五四、二八五
 合計                 二九七、八八四、〇七一

 一キロワツト時一銭五厘として金四百四十六万八千二百六十一円也
一、支出の部電球費の内

 種別   一ケ年一灯所要数  一個代金   金額
                  銭         円
 門灯五燭 一箇半        一八   二七二、七〇〇
 十燭   四箇         三五   二八二、八〇〇
 従量   一箇半        三五   三一八、一五〇
  計                   八七三、六五〇

一、営業費は実点灯数一灯当り一ケ月七銭の割にて算出せり
一、資本金一灯当り金額

          取付灯数割      実点灯数割
            円          円
 東電       二五・〇三      三四・二六
 日電       二四・二九      二八・一二
 市電       三三・四一      四一・六六



中外商業新報 第一〇三三〇号大正四年一月二四日 ○仲介案と三電態度 諾否未だ鮮明ならず(DK530054k-0032)
第53巻 p.332-334 ページ画像

中外商業新報 第一〇三三〇号大正四年一月二四日
    ○仲介案と三電態度
      諾否未だ鮮明ならず
別項二十三日を以て提示されたる電灯統一に関する渋沢男・森村翁の仲介案に対する三電の態度大要左の如くにして、諾否未だ鮮明ならず
  △市電の態度
二十三日仲介案の提示さるゝや、松木局長は直ちに市長と市庁に会見し、市長は他の用事にて内務省に出頭せしを以て帰庁を待ち、更に電気局に於て市長・局長及次長首を鳩めて凝議する処ありたるが、右仲介案の内容は数日前より二・三新聞紙に散見する処と大差なく、従つて大凡の意見は已に決定し居れども尚詳密に審議せむとて案に対する意見は堅く秘して語らざるが、二十四日中に仲介者まで何分の回答を為すべしと、而して(一)電力料一銭五厘反対(二)東電浅草火力発電所買収等の主張は依然として変らざるものゝ如く更に(イ)雑損を無理に算上せん為に電球費を極端に減じたること(ロ)東電解散手当二十万円とあるも、其実買収代金二千七百万円は市の主張の二千六百万円に比し百万円の増加にて、結局解散手当は東電の言分通り百五十万円と見るも不可なし等の点を挙げて、要するに市の態度は仲介案に対し未だ満足を表し居らず、因に前上仲介者に回答すると共に市長は緊急市参事会を召集すべく多分月曜の廿五日ならむと也、次に参考の為仲介案と市案との計数上の相違の重なる項目を摘記すれば左の如し
 種目       仲介案         市案
                 円           円
 東電買収費  三五、一〇〇、〇〇〇  三一、二〇〇、〇〇〇
 電灯料収入   九、七九二、六九〇   九、八四一、四四〇
 電力料収入   二、七三一、二〇八   二、七三五、二〇八
 雑収入       二五〇、〇〇〇     二〇〇、〇〇〇
 - 第53巻 p.333 -ページ画像 
 電力費     四、四六八、二六一   四、一七〇、七七〇
 電球費       八七三、六五〇     八四九、四五〇
 営業費     一、六九六、八〇〇   一、六九六、八〇〇
  △東電の態度
東京電灯会社は廿三日正午佐竹社長帰社直ちに三常務を召集し、一応協議する所ありて後改めて本社に重役会を開けり、此重役会には旅行中の大倉喜八郎氏と横浜在住の若尾幾造氏のみ欠席し、他の重役は打揃つて出席の上仲介案に対し会社の態度を決定せんとしたれど、事重大の問題なれば更に廿五日午前十一時本社に於て重役会を開き、社の意嚮を決定する事とし、午後四時散会せり、随て仲介案に対する東電の纏れる意嚮としては未だ之を知るに由なきが、大凡そ左の三・四点に不満足の意を有す
一、会社被買収財産の見積価格は二千八百九十九万余円にして、而かも此約二千九百万円の財産見積価格中地価の如きは買収後の自然騰貴を見積り居らざるに対し、仲介案は買収財産の見積価格を二千七百万円としたるは其意を得ず
二、東電の使用電量は目下約二億キロワツト時(一ケ年の見積)なるに、初年度約一億八千万キロワツト時とし、第三年目に至りて二億一千六百余万キロワツト時としたるは東電の計算と約四千万キロワツト時の相違あり、而已ならず此内より更に市の都合により右各年最少限度の電量中より一割迄を減額し得る事としたるが為に、仮りに料金を一キロワツト時一銭五厘とするも之を以てしては猪苗代水電との契約もありて取残さるべき会社の水電(火力設備を含む)事業に対し、市側の承認せる年八朱の株主配当は不可能となる也
三、八朱の株主配当不可能なりとせば、一株五十円に対する市価六十五円の配当は夫丈け割引せざる可らずして、平均六十円となるや五十五円となるやも知る可らず、而して電力購入年限の保障も是なきが為に跡に残る財産は甚だ不安固也と云はざる可らず
四、日電の解散手当十万円に対し、三十年間の永きを営業して来り使用人二千名に余れる会社に対し、解散手当二十万円は権衡を失はざる乎
然らば此不満足とする点を持出し、更に仲介者の判断を待つ可きやと云ふに、会社側の意嚮は若し不満足の点を持出し修正を求むとせば仲介案の根本を覆す事となるべく、素より仲介案の之に応ずる事なかるべし、結局は仲介案に対して何分の挨拶のみを為すに至るべく、此挨拶は先づ案其物に対する諾否に止まるべしと目せられつゝあり
  △日電の態度
日本電灯会社は、廿三日正午島専務の帰社後、小野金六、安藤兼吉、雨宮亘、桜内幸雄、小倉鎮之助の五重役と共に午後一時築地同気倶楽部に会合し、公示されたる仲介案を議題として協議する所あり、同三時散会したるが、同協議に於ては未だ何とも態度決定するに至らず、更に廿五日重役会を開く筈なれど、要するに日電としては此際単独に其態度を決定するを憚かる気味あり、従来道連れとなり来れる東電の態度を見定め、独り歩きを避けて東電と同一歩調に出でん内意なるや
 - 第53巻 p.334 -ページ画像 
に察せらる
  △更に三電会合
二十四日午前十一時佐竹東電社長・島日電専務・阪谷市長及松木電気局長の四名は改めて市役所楼上に会見し、電灯統一に関し仲介案を中心に今一応の意見の交換を行ふ由


渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0033)
第53巻 p.334 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年       (渋沢子爵家所蔵)
一月廿四日 朝来快晴ナリシモ午前ヨリ曇天トナル
○上略 朝飧ス、畢テ臥床中ニ在テ新聞紙雑誌類ヲ通読ス、八十島ヨリ電灯統一ノ事ニ付電話アリ○下略
一月廿五日 晴
○上略 根津嘉一郎氏来リ、電灯統一問題ニ付談話ス、午後三時事務所ニ抵リ○下略


中外商業新報 第一〇三三三号大正四年一月二七日 ○電灯問題曲折 渋沢・中野両氏会見(DK530054k-0034)
第53巻 p.334 ページ画像

中外商業新報 第一〇三三三号大正四年一月二七日
    ○電灯問題曲折
      渋沢・中野両氏会見
電灯問題の仲介案に対する東日両電の回答未だ到らざる為め、東京市当局者は回答督促の意を両電重役に到したるが、一方廿五日の重役会後、東電会社取締役根津嘉一郎氏の渋沢男訪問ありしに、前後して東京市の松木電気局長の同じく男爵訪問あり、之と関聯して和田豊治氏の裏面に於ける運動激しく、廿六日早朝に至りて佐竹東電社長と松木電気局長は中野東商会頭を訪問し親しく事情具陳をなし、更に午後一時渋沢男は中野氏を会議所に訪ひ電灯問題に対して協議する所ありしが、此結果は廿七日の東電重役会の態度決定に重大の関係あるは云ふ迄もなけれど、問題の経過余程複雑せる丈其変化窺ひ易からずとなり


渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0035)
第53巻 p.334 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年        (渋沢子爵家所蔵)
一月廿七日 晴
○上略 帝国ホテルニ抵リ、電灯統一ノ案件ニ関シ市当局者ト両会社重役トノ間ニ在リテ種々ノ調停ヲ為シ、再三ノ協議ヲ尽セシモ東京電灯会社ノ不同意ニテ不調トナリ、後一同会食シテ善後ノ事ヲ談シ、夜九時散会○下略


中外商業新報 第一〇三三四号大正四年一月二八日 ○電灯統一協議破裂 市長引責遂に辞職せむ(DK530054k-0036)
第53巻 p.334-337 ページ画像

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東京日日新聞 第一三七三一号大正四年一月二九日 交渉不調の顛末 渋沢栄一男談(DK530054k-0037)
第53巻 p.337-338 ページ画像

東京日日新聞 第一三七三一号大正四年一月二九日
    交渉不調の顛末        渋沢栄一男談
本日(廿七日)玆に三電の会合を催したる次第は、市と会社側双方相手なるに於ては互に勝手なる事を主張し、統一案の纏るべき見込みなきため両者立会の上成敗共に決せんとの意思より特に三電代表者の来会を求め、室を別々にして熟議を遂げたる次第なるが、而も協議整はずして結局交渉不調に終りたるは誠に責任を果さゞるものとして予の甚だ遺憾とする処なり、而して交渉不調に終りたる次第は、市に於ては仲介案に示せる電力一基ワツト時一銭五厘は今後の維持経営に困難なるを以て、何等かの修正をなしたしといふにありしが、更に東電の主張を聴けば、這は市よりは頗る強固なる態度にして、第一の不平は買収価格の評価過少なること、第二浅草区に於ける東電の火力設備を除外されたること、第三電力使用料三年間一割宛を減じたること、第四鬼怒川水電供給の優先権を与へざること、第五解散手当の廿万円の少きこと、即ち以上五点に対して不同意なる旨を言明せり、尤も其内解散手当に就ては敢て固執せずと云ふにありしが、予は此両者の意見に基き兎に角解決の見込みあるものなれば、飽くまで双方互譲の上取纏めたしと信じ、両者を数回別々に引見して交渉し、先づ市に対しては譲歩の出来る限りを譲歩せしめたるに、結局市に於ては電力量の三ケ年間一割減を削除し東電の主張通りたること、電力使用料一千万基ワツト時を増加購入することの二点を譲りたるも、何分東電側は更に譲歩の意思なき為め遂に交渉不調の已むなきに至れるなり、云々
    東電側の言分
 - 第53巻 p.338 -ページ画像 
廿七日帝国ホテルに於ける三電代表者会合の顛末は別項の如くなるが右会合後東電社長室に引取りたる佐竹作太郎氏は曰く
 問題の今日に至るまでの経過は今更述ぶるまでもなく世上に知れ渡りたる通りにして、其結果関係者一同の会合となりたる次第なるが、市側の主張は仲裁案提示をうけたる後、互に原案に対し修正を乞ふの必要を認め、而して仲裁者側の注意により当事者間に於て樽爼折衝する事となりしを以て、爾来市当局と交渉を進めしに稍好望となりしを以て、本日(廿七日)の会合となりし次第なるに、当日の会合となりては全く市側の態度一変したるには一驚を喫したり、即ち会社としては仲介案に於て会社より供給すべき電力量一基一銭五厘は高きに過ぐるを以て一銭四厘にても可なり、之と同時に浅草区に於ける火力設備は市内に対する電力の一部なるを以て右に対する設備は是非とも市の買収物件中に加へられたしと求めたるに、当初より大体上之を承認せる市当局者は仲裁案発表後に於てもそは可なりとせしに拘らず右会合の席上に於ては全然之を否認し、電力料は一基一銭四厘と修正すること、之が代価として仲介案の末項に記せる電力需給は市の都合により一割減少す云々の一項を削除すること、契約外所定の市電力使用量に対する電力二千万基は第四年目に於て其内一千万基だけを確実に使用すること云々と主張せり、市側の意見として斯くの如くならんには今日の会合は殆んど必要なかりし次第なるも、阪谷・松木両氏の人格にも関する次第なれば多くを言はず、只々今後如何に成行くべきか独り大に心痛しつゝあり、云々


渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0038)
第53巻 p.338 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年        (渋沢子爵家所蔵)
一月廿八日 曇
○上略 午前十時、中野武営氏ヲ訪ヒ電灯問題ニ付爾来ノ成行ヲ談話ス、山口憲氏モ来会ス、十一時事務所ニ抵リ、和田豊治氏・根津嘉一郎氏等ニ会話ス、小野金六・由井彦太郎氏等来リ井上邸電灯ノ件ニ付種々談ス○下略
   ○中略。
一月卅一日 雨
○上略 午後二時半大隈伯ヲ早稲田邸ニ訪ヒ、電灯統一不調ノ事、其他ノ要務ヲ談ス○下略


渋沢栄一書翰 森村市左衛門宛(大正四年)一月三〇日(DK530054k-0039)
第53巻 p.338-339 ページ画像

渋沢栄一書翰 森村市左衛門宛(大正四年)一月三〇日 (森村男爵家所蔵)
拝啓 益御清適奉賀候、然者客臘来種々御高配相願候電灯統一問題も去ル廿七日帝国ホテルニ於て三当事者会合之上色々と折衝いたし候も終ニ不調ニ帰し候ハ、実ニ丹精甲斐も無之義ニて残念千万ニ御坐候、就而和田君ニ於てハ尚回復ニ尽力せられ居候得共、御同様仲介者之立場としてハ、最早調停之態度無之方と相考へ、其儘関係致不申義ニ御坐候
右等至急一書可申上之処、取込中稽延ニ相成申訳無之候
○中略
  一月三十日
 - 第53巻 p.339 -ページ画像 
                      渋沢栄一
    森村市左衛門様


中外商業新報 第一〇三三七号大正四年一月三一日 ○電灯統一絶望 盛返し運動終熄(DK530054k-0040)
第53巻 p.339-340 ページ画像

著作権保護期間中、著者没年不詳、および著作権調査中の著作物は、ウェブでの全文公開対象としておりません。
冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

渋沢栄一 日記 大正四年(DK530054k-0041)
第53巻 p.340 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正四年         (渋沢子爵家所蔵)
二月一日 晴
○上略 午前十一時内務省ニ抵リ、下岡次官ニ面会シテ電灯問題統一ノ件不調トナリタル顛末ヲ報告ス○下略


竜門雑誌 第三二七号・第二二―二五頁大正四年八月 青淵先生鶏肋談 青淵先生(DK530054k-0042)
第53巻 p.340-341 ページ画像

竜門雑誌 第三二七号・第二二―二五頁大正四年八月
      青淵先生鶏肋談         青淵先生
本篇は国民時報記者が左の如き前書を加へて七月一日発行の同誌上に掲載せるものなり(編者識)
 記者は夙に男爵の偉大を敬慕してゐるので、日常其の高風を仰ぐに足るべき揮毫をお願ひ致さんと曖依村荘に老男爵を訪ふ、男爵談論風発、膝を交へて倦まざるの風あり、元より何等話題を撰ばず談且談、枝より枝に入りて忙中の静観頗る味ふべきものあり、録して鶏肋談といふ、実に鶏肋捨つるに忍びざるものあればなり
○中略
△新市長と電灯問題 奥田市長の就任条件として、例の五十銭放棄の覚書を交付したとかせぬとか噂ですが、其の真否は兎に角詮衡委員が五十銭案を固執しなかつたのは事実でありませう。要するに余り六ケ
 - 第53巻 p.341 -ページ画像 
敷い事を云つては誰も就任する者は無いから、電灯問題は市長の調査に一任する事にして、五十銭で無ければ不可といふ条件を付なかつた畢竟流石の市会議員も我を折つたといふ事になる。前市長辞職の原因たる五十銭案が放棄されたといふ事になると其の辞職は全く無意味で謂はば寃罪?が証明されたやうなものだ。若し阪谷が五十銭で出来ぬのを後任市長が立派に五十銭で遣り抜けるといふ事であれば阪谷の不面目之に過ぎたものは無いが、誰がやつても五十銭では出来ぬとなれば阪谷は寧ろ満足すべきである。東京市としては、何うせ五十銭案を放棄し、将来相等な処で統一を図るといふ事ならば、寧ろ此春思ひ切つて話を纏めて了つた方が得策であつたかも知れぬ。あの時は日電の方は既に承諾して呉たし、東電の方は浅草の火力発電所さへ買へば纏りが着いたのであるが、市側では火力発電所を買つては五十銭で出来ぬから二の足を踏むだ。私は一時纏めてさへ了へば市会の方は亦何とか方法もあらうから、中野さんに思切つてあれを買つては何うかと勧めても見たが、強ひて勧めては阪谷を庇ふやうにも当るから一応の勧告だけで手を引いて了つた。今後市が統一を希望するにしても火力を引放しては到底東電が承知しまい。それと同時に、既に五十銭案の放棄された以上、自然火力発電所を買はぬといふ意見も放棄された事となり、玆に私共の勧告も亦無理で無かつた事が証明された訳だ。総じて世の中の事は帰着点は大抵同じであるけれど其処に到達する径路に色々六ケしい駆引や感情の暗礁が横はるのである。
○下略


竜門雑誌 第三二二号・第七一―七三頁大正四年三月 ○電灯統一問題の交渉不調(DK530054k-0043)
第53巻 p.341-342 ページ画像

竜門雑誌 第三二二号・第七一―七三頁大正四年三月
    ○電灯統一問題の交渉不調
青淵先生並ニ森村市左衛門氏ハ既報ノ如ク東京電灯・日本電灯両株式会社当事者ノ依頼ニ依リ、電灯市営統一ノ件ニ就テ仲介ノ労ヲ執ラレシガ、両氏ハ東京市ノ為メ両社ノ為メ慎重調査ノ上、愈々昨年十二月二十三日ヲ以テ阪谷市長ニ提出セラレタル仲介意見書ハ、左ノ如クナリト云フ。
   ○意見書・買収物件要目・付属覚書前掲ニツキ略ス。
右ノ仲介案ニ対シ市側ニ於テハ多少ノ異議ナキニ非ザルモ、互譲妥協ノ意味ニ於テ凡テ之ヲ忍ビ、電力料金一銭五厘ヲ金一銭四厘ト修正スルニ止メ円満ナル解決ヲ告ゲンコトヲ希望シタルニ、東電当事業者ハ仲介案ニ対シ左ノ如キ数種ノ異議ヲ申出タリ
  イ 資産勘定ニ於テ約百九十万円ノ切落ヲ恢復スルコト
  ロ 浅草ニ於ケル火力発電所ヲ市ニ買収セシムルコト
  ハ 三ケ年間電力使用量ノ最少限度ニ対シ一割ヲ減ジ得ル但書ヲ加ヘタルハ困難ニ付之ヲ刪除スルコト
  ニ 附属覚書中ニ市ノ必要ニ応ジ、電力一ケ年二千万キロワツトノ使用ニ関スル優先権ヲ規定セルモ、之ヲ最少限度中ニ追加サレタキ事
  ホ 解散手当金百五十万円ヲ二十万円ニ減ジタルハ少額ニ失スルコト
 - 第53巻 p.342 -ページ画像 
右ノ異議ニ対シ、仲介者ノ幹旋ニ依リ市側ハ左ノ如キ譲歩案ヲ提議シリタ
  一 仲介案ノ電力使用量最少限度ノ但書ナル三ケ年間一割ヲ減ズル事ヲ得ル一項削除ノコト
  二 電力使用量最少限度年度割ヘ四年目ヨリ一千万キロワツトヲ増加スルコト、但附属覚書第一項記載ノ「必要ニ依リ東電ヨリ購入スベキ二千万キロワツト時」ハ其儘存置スルコト
以上ノ如ク東電当事者ノ申出ニ対シ其ノ二点ヲ譲歩シタレドモ、東電当事者ハ右二ケ条ノミノ譲歩ニテハ到底交渉ニ応ジ難ク、要スルニ時機未ダ熟セザルモノト認ムルヲ以テ交渉ヲ断ルノ外ナシト確答シタルヨリ、青淵先生並ニ森村市左衛門氏ハ遂ニ一月二十七日交渉不調ヲ宣言シ、昨年来懸案ト為レル電灯統一問題ハ玆ニ一頓挫ヲ来タセルハ遺憾至極ト謂フベキナリ。