デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
13節 土木・築港・土地会社
6款 仙石原地所株式会社 箱根温泉供給株式会社
■綱文

第53巻 p.431-443(DK530071k) ページ画像

昭和6年6月16日(1931年)

是ヨリ先、阪谷芳郎・渋沢秀雄・益田信世・佐々田彰夫・東郷直等ヲ発起人トシテ、資本金三万円
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ノ箱根温泉供給株式会社設立セラル。是日、臨時株主総会ヲ開キ、既定方針ニ基キテ資本金ヲ百五十万円ニ増加シ、其一部ハ、箱根大涌谷所在ノ宮内省御料地其他ノ現物出資ニヨルコトヲ議決ス。栄一、之ニ与ル。


■資料

箱根温泉供給株式会社株主書類(DK530071k-0001)
第53巻 p.432-437 ページ画像

箱根温泉供給株式会社株主書類      (渋沢子爵家所蔵)
    箱根温泉供給株式会社計劃に付て
一、目的 箱根大涌谷御料地の温泉を利用せんとするものである。同温泉は
  (イ)自然湧出―他の諸温泉の如く地中より湧出するもの
  (ロ)造成温泉―瓦斯及水蒸気を盛に噴騰する噴気孔に、他より冷水を注入加熱し、初めて温泉となるもの
  の二種がある。而して造成温泉量は自然湧出量に比し遥に多く、現在箱根登山鉄道株式会社・箱根土地株式会社等が宮内省より払下げて引湯しつゝある温泉の大部分は之である。然るに現に使用しつゝある噴気孔にも大に余力があり、且此等以外にも更に利用せられざる多くの噴気孔があるから、新に冷水源を求めて注入加熱すれば優に数倍の温泉量を得べき見込である。此種の顧みられざる温泉を十分能率化し、一般の需要に供し、公共の利益を増進せんとするのが本計画の目的である。
一、会社組織案の概要 神奈川県足柄下郡仙石原村、同郡元箱根村所在御料地七十九町九反九畝歩、並に箱根登山鉄道会社・箱根土地会社・石村要之助・石村喜作外二名、中野忠太郎外二名が大涌谷御料地及び其附近の土地に温泉採取の目的を以て従来設備せる総ての装置、及び採取区域並に借地の権利を相当額に見積りて現物出資せしめ、之と渋沢・三井物産・益田並に大倉四家及び其他の人々よりの現金出資を加へ、大体金弐百五拾万円乃至金参百万円の株式会社を創立せんとするのである。
一、設立の方法 現物出資と現金出資とが一緒になる関係上、先づ小規模の一会社を創立し、直ちに増資し、其増資に当り一部現物出資(宮内省其他)を以て、一部現金出資(渋沢外三家其他)を以て所期の資本金としようと云ふのである。
  最初の会社は資本金参万円、此株数六百株、一株金五拾円全額払込済とし、全部の株式を仙石原地所会社に於て引受くること、但名義は仙石原地所会社重役諸氏とし、仙石原地所会社より貸与すること、又右株式の払込金は予て宮内省に売却したる土地代の内仙石原地所会社に保管せる残金参万数千円の内より出資すること右会社を増資によりて予定の資本金の会社とすること、増資の上資本金は大体金弐百五拾万円乃至金参百万円となること。
一、株式の種別、並に出資系統 旧株六百株は仙石原地所会社の所有で、之に加はるものゝ内現物出資の分、約八千株、現物出資の評価総計約金四拾万円(宮内省分の評価マキシマムを金弐拾五万円とし大体金弐拾弐万円に協定するものと仮定し、其他の分を金拾
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八万円にて折合ふへき見込)にして、一株金五拾円払込済の計算である。かくして払込済の株式八千六百株、此払込額金四拾参万円となる。此残額即ち資本金参百万円の場合は、金弐百五拾七万円、又弐百五拾万円の場合は、金弐百七万が現金出資となる次第である。而して、渋沢・三井物産・益田及大倉以外の一般より相当多額の申込ある見込(東郷氏の観察によると金拾万円、此株数弐千株はある見込)である。之を差引いたものを四家及一般応募者の引受株とする。そして此等の第一回払込は、一株に付金拾弐円五拾銭とし、此内上記四家の分の第一回払込の総額の限度を金五拾万円と見て居る。そして其四分の一を大倉家に負担せしめる積りである。即ち第一回払込総額を金五拾万円と仮定すると、大倉組に金拾弐万五千円(壱万株)を負担せしめ、残りの参万株の内、既に払込済の即ち母体会社として設立せる資本金参万円の会社の株式六百株を差引きたる弐万九千四百株、此払込額金参拾六万七千五百円を左の割合を以て負担する予定である。

   株主名義  株数        払込金額      割合
                      円
  渋沢同族  一三、八一八  一七二、七二五     百分ノ四十七
  三井物産   七、七九一   九七、三八七・五〇  百分ノ二十六・五
  益田家    七、七九一   九七、三八七・五〇  百分ノ二十六・五
   合計   二九、四〇〇  三六七、五〇〇     百分ノ百

以上により全部引受済になると、左表の如くなる予定である。
  但、仮に資本金総額弐百五拾万円の場合の数字である。若し資本金が参百万円となるときは、多大の変化がある筈である。

  株主氏名        旧株   新株(払込済) 新株(四分一払込)  総株数     払込総額
                                                    円
 渋沢同族        二八二          一三、八一八     一四、一〇〇  一八六、八二五
 三井物産        一五九            七、七九一     七、九五〇  一〇五、三三七・五〇
 益田家         一五九            七、七九一     七、九五〇  一〇五、三三七・五〇
 大倉組                       一〇、〇〇〇    一〇、〇〇〇  一二五、〇〇〇
 宮内省               四、四〇〇              四、四〇〇  二二〇、〇〇〇
 箱根土地其他権利者         三、六〇〇              三、六〇〇  一八〇、〇〇〇
 一般公募                       二、〇〇〇     二、〇〇〇   二五、〇〇〇
  合計         六〇〇   八、〇〇〇   四一、四〇〇    五〇、〇〇〇  九四七、五〇〇

一、経過の概要 大体上記の如き案を以て進むことゝなり、昭和三年十二月二十日第一回発起人会を開き、根本方針を定め、直ちに創立事務に着手した。前に述べたる所によつて推察せられたであらうと思はれるが、現物出資の評価と云ふ事が最面倒であつた。創立事務としても、之を適当に解決するのが第一の重要事であつた故に先づ之か解決に手を染め、爾来二年余を殆ど之が為め費した現物出資と云ふても宮内省の分は全然問題はない。石村・中野等の人々は寧ろ進んで参加を申出で、条件も大して面倒はなかつた最も困難であつたのは箱根土地会社と箱根登山鉄道会社とであつた。中でも箱根土地会社の方が最も面倒であるだらうとの見当であつた。之が為め斯くまで時日を要したとも云へる。当初は全然問題にならなかつた。堤専務の鼻息が荒く、当方の交渉を受付け
 - 第53巻 p.434 -ページ画像 
ぬばかりでなく、宮内省に対して苦情を申出、一般に対して悪宣伝を敢てし、又全然別箇で温泉の供給をせんとまでした。然し箱根土地会社単独での計画は成立せず、一方予て同社より土地の分譲を受けた人々(就中、土方久徴氏が最も強硬であつた)から、「何故に箱根温泉供給会社と協調し、潤沢に温泉の供給を受けるようにせぬか、若し此状態に於て日を送るときは相当の考がある一体温泉の来るのを条件として吾々に強羅の土地を売付けながら温泉が来ないとは何たる事であるか。立派な詐偽である。斯る怪しからぬことをした者は相当の所分をせねばならぬ。断然たる態度に出る積りであるから左様承知せよ」と最後の通牒を得て、大に驚き、百方手を尽したが結局成効しなかつた。其所で妥協を申込んで来た。それは仙石原地所会社の所有地の内約十万坪を廉価で譲つて呉れと云ふのであつた。かくて本年一月中仙石原地所会社(箱根温泉供給会社の発起人の大多数、即ち大倉組の人々、及宮内省関係の東郷氏以外の人々が重役たる旧耕牧舎より転化した会社)に於て重役会を開き、箱根温泉供給会社との問題とは全然別箇であるとの条件付で之を受諾することに決した。仍て予て懇意にして居る益田信世氏(仙石原の監査役)より堤氏に通じ、更めて佐々田彰夫氏より箱根温泉供給会社関係の交渉をし、予定の条件を以て全部の契約を了した。次は箱根登山鉄道会社であるが初めは相当円満に纏りかけたが、途中で態度を変へ、大に鼻息が荒くなつた。前記箱根土地会社との交渉を続ける一方箱根登山鉄道会社とも頻りに折衝を重ねた。そして一昨日帝室林野局長官が同社長其他重役を呼び付けて訓諭した。未だ全然解決したとは云へぬが大体の見当はついた。そこで愈会社組織の段取りとなつた次第である。
一、渋沢同族会社の関係 右の表中渋沢同族・三井物産・益田家の名義となる株式は全部仙石原地所会社に於て所有し、即ち同社の資金を出資し、所有の名義を附するものである。更に詳言すると、渋沢同族とあるのが、渋沢同族・阪谷男爵・渋沢秀雄氏・渋沢敬三氏・渡辺得男氏・白石喜太郎等に分れる。三井物産・益田家又然りで、相当数の株主に分れる筈であるが、記述の便宜上大別した所を掲げた次第である。そこで此払込に要する資金であるが、之は仙石原地所会社株式の未払込金の内を払込み、同社は之を箱根温泉供給会社株式の払込に充当するのである。第一回の払込金をかく決定したのは嘗て仙石原共有地の関係から収入した金額の内より支出するを妥当と考へた為めである。渋沢同族会社内の仙石原共有地関係の収支は左記の通りである。
      仙石原共有地関係損益計算

        利益の部
金弐拾壱万壱千五百円     仙石原共有地持分評価益
金弐万参千五百円       宮内省に売却代の内現金受取
         (以上二口合計金弐拾参万五千円を仙石原地所会社株式九千四百株の払込に充当)
 - 第53巻 p.435 -ページ画像 
金拾五万四百円        宮内省に売却代の内現金受取
金参百七円拾弐銭       利息現金収入(宮内省に売却代の内預け置きたる分の利息)
 合計金参拾八万五千七百七円拾弐銭
        損失の部
金九千六百四拾九円九拾五銭  仙石原共有地持分元金償却
差引
 金参拾七万六千五拾七円拾七銭 利益金
      内
  金弐拾参万五千円     仙石原地所会社株式九千四百株 壱株に付金弐拾五円
  金拾四万千五拾七円拾七銭 昭和三年同四年に亘り渋沢同族会社の配当金の内其他として所分したる分
    合計如高
右に就て現金の収支を吟味すると左の如くである。
金弐万参千五百円   昭和三年七月三十一日収入、宮内省へ売却したる土地代の内
金拾五万四百円    昭和四年一月十七日収入、同右
金参百七円拾弐銭   同日収入、右代金の内預け置きたる分に対する利息
 合計金拾七万四千弐百七円拾弐銭
      内
  金弐万参千五百円 仙石原地所会社株式払込金の内現金支払の分
差引
 金拾五万七百七円拾弐銭    残額

一、結論 上記の如く箱根温泉供給会社が出来ると、渋沢同族会社としては、仙石原地所会社に約金拾七万二千余円を払込まねばならぬ。箱根温泉は大体パブリツク・ユーチリテイーを目的とする会社であるから大した利益を希望することは出来ない。予想では六分位の配当が出来るようである。六分の配当を目標としてかく多額の払込をすることは如何かと云ふ議論が出るかも知れないが、旧耕牧舎以来の沿革と前記の現金収入のことを考慮に置くと如何も辞退する訳にも行くまいと思はれる。
一、附記 目下の処箱根温泉供給会社の重役は、大体左の通りになる予定である。但増資の上は大倉組其他よりも重役が出るものと見て居る。
  資本系統      取締役          監査役
  渋沢同族  阪谷男爵(会長)  渋沢秀雄氏  白石喜太郎
  三井物産  田中文蔵氏     佐々田彰夫氏
  益田家   益田太郎氏     益田信世氏
  宮内省関係 東郷直氏
  尚佐々田氏専務に、東郷氏常務に就任せんことを希望し慫慂して居るが未だ決定せぬ。若し斯く決定すれば、益田信世氏は監査役に廻る予定である。万一専務を置かぬことになると、佐々田氏監査役に、益田信世氏取締役に就任するであらう。
                        以上
      追加記録
 - 第53巻 p.436 -ページ画像 
        ―箱根温泉供給会社計画に付て―
昭和五年二月二十四日、箱根温泉供給会社発起人会を催し、稍具体的の協議があり、前稿を多少修正する必要が出来たので之を記すことにした。
一、資本金額 金弐百五拾万円、若しくは金参百万円の内何れかにしようと云ふことで未た何れとも決定して居なかつたが、主として阪谷男爵の意見により大体金参百万円とすることに決した。之に付ては未た多少の議論があるであらうと思はれるから、確定とは云ひ難い。然し多きに従つて計算しマキシマムを定めて置く方が適当であらうと思はれるから、之に従つて記述することにする。
一、株式の種別並に出資系統 株式総数は六万株となる。内六百株は基礎会社―資本金参万円―の分で、之は既に出来て居る分であるから、増資分としては五万九千四百株である。此内現物出資の分が左の通りである。
   五千株(出資額弐拾五万円、一株に付金五拾円払込済)
                          宮内省
   参千六百七拾弐株(出資額拾八万参千六百円、一株に付同右)
                          其他
  差引五万七百弐拾八株、之が現金出資を要する分である。此内約二千株は一般から募集し得る見込であるが、仮に二千株以下とし千七百二十八株、即千株と端数たけを一般募集株とすると、残四万九千株を渋沢・三井物産・益田及び大倉で引受けねばならぬ。
  予定では此内四分の一は大倉組に於て引受けしむる筈であるから此分壱万弐千弐百五拾株を差引き三家で引受けねばならぬものが参万六千七百五拾株となる。之は仙石原地所会社で引受けるが名義が左の通りとなる。

   株主名義   株数    第一回払込金額        割合
  渋沢同族  一七、二七二   二一五、九〇〇・〇〇  百分ノ四十七
  三井物産   九、七三九   一二一、七三七・五〇  百分ノ二十六・五
  益田家    九、七三九   一二一、七三七・五〇  百分ノ二十六・五
   合計   三六、七五〇   四五九、三七五・〇〇  百分ノ百

 以上によつて全部引受済となると左表の如くなる予定である。

  株主氏名       旧株    新株(払込済) 新株(四分一払込)  総株数      払込額
                                                     円
 渋沢同族        二八二           一七、二七二     一七、五五四   二三〇、〇〇〇
 三井物産        一五九            九、七三九      九、八九八   一二九、六八七・五〇
 益田家         一五九            九、七三九      九、八九八   一二九、六八七・五〇
 大倉組                      一六、二五〇      一二、二五〇   一五三、一二五
 宮内省              五、〇〇〇                五、〇〇〇   二五〇、〇〇〇
 箱根土地其他権利者        三、六七二                三、六七二   一八三、六〇〇
 一般公募                      一、七二八       一、七二八    二一、六〇〇
  合計         六〇〇  八、六七二   五〇、七二八      六〇、〇〇〇 一、〇九七、七〇〇

  右の内三家に於て負担する分は、上記の通り仙石原地所会社で出資するのであるから、仙石原地所会社に対して払込の必要がある同社の株式の内渋沢同族会社で所有して居るものは九千四百株で
 - 第53巻 p.437 -ページ画像 
未払込金総額は金弐拾参万五千円である。此内約弐拾万円の払込を要することになる。旧耕牧舎関係で収入した現金は金拾七万四千余円で、仙石原地所会社の株式払込金の内に支出した金弐万参千五百円を差引き金拾五万七百余円がネツトの収入金であるから之に約五万円を加へて出資することになる。
一、重役 重役候補者の中佐々田彰夫氏はどうしても専務を受けず、さりとて東郷直氏を専務にしては何となく不十分なので、種々協議の末渋沢秀雄氏と益田信世氏に於て代表取締役(専務・常務の名義なく)として経営せられるように希望し、大体夫々承諾せられたが、益田氏は相談すべき人があるからとて確答は留保した。
  益田太郎氏から専務取締役を置き得ることを定款に規定しながら之を置かぬと将来問題を醸す基であるから、専務を置く方が適当であると頻りに主張したが至極尤である。又他の理由からも専務を置くことがよいと思はれるから、一層渋沢・益田両氏に専務に就任せられるようしたいと思ふて居る。若し如何しても承諾されぬ場合は、寧ろ東郷氏も常務とせず、平取締役とし、会長以外は全部単に取締役としてはとも考へて居る。
  渋沢関係からは会長として阪谷男爵、取締役として渋沢秀雄氏、監査役として白石喜太郎が出ることに大体打合をした。尚大倉組から取締役、監査役各一人位出るかも知れない。
                        以上
   ○右ハ渋沢事務所用箋ニタイプサレタル書類ニテ、執筆者ハ未詳。当時渋沢事務所内ニテ編シタルモノナリ。


中外商業新報 昭和五年三月一六日 箱根大涌谷で温泉製造(DK530071k-0002)
第53巻 p.437 ページ画像

中外商業新報 昭和五年三月一六日
    箱根大涌谷で
      温泉製造
世界の箱根として施設完成を急いでゐる箱根に、温泉の大涌谷周囲一里余の熱湯を
 利用し 一大温泉会社を計画し、箱根仙石原土地株式会社長阪谷男、渋沢同族、三井物産、大倉・益田両男その他財界巨頭によつて昨冬来進めて来たが、最近具体化し、既得温泉業者との折衝も纏まり、今月廿八日頃までに三万円で基礎会社を設立の上、宮内省の箱根御用林八十町歩の現物
 出資を 待つて資本金三百万円(四分の一払込)の箱根温泉供給株式会社を組織することゝなつた
 計画の内容は六十万円で宮城野村板里にある涌出量二十五個の涌水池から、動力で大涌谷台ケ岳に引水し、立ちこめる噴煙の上から熱湯に水をそゝぎ、日本では初めての大仕掛な人工的温泉製造をやり一日優に二千石を供給する計画で、既得温泉業者に一石五厘、普通株主に一石一銭で供給し、大体に於て年六十円の使用料でふんだんに温泉が使へることになる、工事完成と同時に大倉組の仙石原大ホテル、三井系の貸別荘建設計画等もある (小田原電話)
 - 第53巻 p.438 -ページ画像 

箱根温泉供給株式会社書類(DK530071k-0003)
第53巻 p.438 ページ画像

箱根温泉供給株式会社書類        (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    御願
昭和三年三月二十八日渋沢同族株式会社・三井物産株式会社及男爵益田孝ノ三者名義ヲ以テ、箱根温泉供給株式会社設立ニ付大湧谷御料地現物御出資方ノ義ニ付御願申上候ニ対シ、同年五月二十二日付御指令書ヲ以テ御承認ヲ仰キ候ニ付、同社創立ノ為メ右三者代表トシテ発起人ヲ定メ、更ニ男爵大倉喜七郎ニ於テモ此ノ挙ニ賛シ、代表発起人三名ヲ出シ、合同シテ創立ヲ計画致シ、爾来温泉払下ヲ受ケ居ル現関係者ト専ラ交渉致候処、別紙ノ通リ当方ノ趣旨ニ同意シ全部協議相纏リ候ニ付テハ、別紙目論見書ノ如ク第一次ニ於テ、現物出資者ヲ除キ資本金参万円全額払込済ノ会社ヲ設立シタル後、直ニ増資ノ手続ヲ行ヒ第二次ニ於テ宮内省及他ノ現物出資者ヲ加ヘ、尚外ニ四分ノ一現金払込ノ株式ヲ募集スル方法ニ拠リ増資ヲ決行シ、事業経営資金ヲ得テ当社其ノ目的トスル温泉並水利権等ノ取得・利用・売買・貸借並之ニ附帯スル事業ヲ営ミ度ト存候ニ付テハ、何卒左記御料地ヲ評価額金弐拾万円トシテ現物御出資ノ上、当社ノ株式ニ御応募被成下度奉願上候
而シテ新設会社ハ、曩ニ願書記述ノ通リ裏箱根一帯ノ土地開発ヲ目的トスル公益的事業ヲ営ムモノニ有之候得共、猶別紙目論見書記載ノ如ク公益的施設ヲモ併ワセテ営ミ度ト存候間、何卒此辺ノ事情御諒察ノ上、本出願ノ義御承諾被成下度、各権利者ノ承諾済条件一覧表・起業目論見書・温泉供給ノ標準及収支計算書並定款写相添此段奉願上候也
  昭和五年 月 日
            箱根温泉供給株式会社設立発起人総代
                    男爵 阪谷芳郎
  帝室林野局長官
    三矢宮松殿
       記
神奈川県足柄下郡仙石原村字台ケ岳二一五一ノ一内
   一 区劃班  二九い  面積  三十七町一反二畝歩
   一 区劃班  ニ八り  面積  一町六反一畝歩
同県同郡元箱根村一一〇ノ一ノ内
   一 区劃班  二九ろ  面積  四十二町八反七畝歩
以上合計面積八十一町六反歩
   ○別紙並ニ添付書類ヲ欠ク。


箱根温泉供給株式会社 趣意書 事業費予算及収支予算 定款 目論見書 温泉供給の標準 臨時株主総会決議事項 同社編 刊(DK530071k-0004)
第53巻 p.438-443 ページ画像

箱根温泉供給株式会社
     趣意書  事業費予算及収支予算 定款
     目論見書 温泉供給の標準    臨時株主総会決議事項
                          同社編 刊
    趣意書
箱根の名、海の内外に籍甚たるは風光明媚にして変化に富み大気清澄気候適順にして而も史蹟多く帝都に近邇して交通至便なるによるは素より多言を要せざる所なりと雖も、所謂箱根七湯を始め良質豊富なる温泉の湧出することも亦与つて力ありと謂はざるべからず
 - 第53巻 p.439 -ページ画像 
由来我邦山地温泉は地積、交通、眺望、気候等を深く考慮せざる傾なしとせず、従つて時の経過と共に発展すること難く、又よしや時勢の進運に順応して拡張せんとするも、地域の狭隘に妨げられて一般住宅の建築其他必要の施設を為すの余地なきこと其例に乏しからず、新に事を起すに当つては此点に深く留意し将来の発展に供へざるべからず此点より見て絶好の地域あり、即ち箱根早川上流に沿ふ宮城野・仙石原の両村之なり、早川両岸に展開せる広漠たる地域は、現に主として山林・原野なれども、住宅地に適する部分も亦実に数百町歩に及び、将来大箱根の建設は、此広野を措きて他に求むること能はざる実情なり、然るに従来温泉の供給充分ならざりしを以て殆ど顧らるゝ所なく僅かに数戸の旅館と三・四の別荘を見るのみなりしが、此大区域に充分温泉を供給し、併せて之に伴ふ公益の施設を為すに於ては、此閑却せられたる大地積開発し、邦家百年の為寄与するところ蓋し尠少ならざるべしと信ず
依て、昨秋小規模に会社の組織をなし、爾来大湧谷の所有者たる宮内省及従来引湯し来れる各権利者に交渉を遂げて賛同を得、更に附近土地所有者其他有志と協議し、其賛成を得たるを以て、過般増資を決議し、此忘れられたる早川流域一帯を温泉郷となすに適当なる資本と組織とを得、以て大箱根建設に資せんことを期し、其実行に着手したる次第なり
幸に趣旨に賛同せられ、奮つて応募せられ、此目的達成を援助せられんことを冀ふ次第なり
    目論見書
一、当会社は別紙趣意書の如く金壱百五拾万円に増資し、箱根大湧谷御料地より湧出する温泉及ひ附近の冷水源を統一し、温泉配給並に必要なる附属設備を完成し、宮城野・強羅及仙石原並に附近一帯の地方に温泉を供給せんとするものなり
二、右大湧谷御料地七拾六町壱反壱畝拾参歩、並に箱根登山鉄道株式会社、及其他従来引湯し来れる人々か温泉を採収せし区域並に借地等の権利、並に温泉採収其他の為めになせる設備一切を現物出資し当会社は之に対し左記の通り金五拾円全額払込株式を交付す
  一、四千株          宮内省
  一、弐千九百九拾弐株     其他の現物出資者
三、現物出資以外の弐万弐千四百八株中、壱万弐千四百八株は旧株主に於て引受たるにより、壱万株を一般より募集せんとす
四、当会社は冷水の集拾、混泉の造成並に供給をなすを以て目的とするものなり、猶浴場・温泉プール・休憩所・宿泊所・温泉研究所等の公益的事業をも併せて営まんことを期す
    事業費予算
一金九拾万九千八百円   増資による払込額
  此使途内訳
 金参拾八万参千六百円
   但土地、温泉造成装置並に温泉、硫黄、湯の花採収権及ひ引水
 - 第53巻 p.440 -ページ画像 
装置、水利権
金五拾万円
  但貯水池築設、揚水、集水、集湯、引湯設備並に隧道掘鑿、敷地買収、建築物、設計工事監督、公益的附属施設に要する費用一切
金弐万六千弐百円
  但運転資金
   収支予算 (六ゲ月計算)
     事業完成、予定温泉量供給後
一金拾万五千弐百五拾円也    総収入
一金六万弐千円也        総支出
  差引
   金四万参千弐百五拾円也  利益金
      利益金処分予想
金四万参千弐百五拾円也     利益金
    内訳
 金弐千弐百五拾円也      法定積立金
 金参万七千五百九拾弐円也   配当金(年八分)
 金弐千五百円也        賞与金
 金九百八円也         繰越金
                  以上
    温泉供給の標準
一、当会社の温泉供給区域は、神奈川県足柄下郡宮城野村の内、字強羅以西及仙石原村並に其附近とす
一、右区域内に於ける土地所有者、借地人・建物所有者・又は借家人にして当会社の株式五拾株以上を所有する者、若くは申込金弐千五百円を当会社に支払ひたる者に当会社所定の温泉一口を供給す公共団体・旅館営業者・温泉営業者に付きては、資格株式の数又は申込金の額は別に之を定むることを得
一、当会社の供給する温泉総量は、当分の内年量七百万石とす
一、温泉供給一口の基本量は、一ケ年五千石とす
一、当会社の敷設する給湯本管より分岐し、需用者の浴槽に至る分管及ひ其附属用具一切(以上を包括して配湯装置と称す)は、需用者の費用を以て之を為す
一、配湯装置の工事は総て当会社に於て之を為し、其工費は需用者の負担とす、当会社は其工事を会社の指定したる者をして施工せしむることを得
一、温泉使用料は一口に付年額金九拾六円とし、二月・五月・八月・十一月に各三ゲ月分を前納するものとす
 使用量か基本量を超過したる場合は、其超過量に対し超過使用料を申受くるものとす
 超過使用料は、当分の内一石に付金弐銭とす
 公共団体・旅館営業者・温泉営業者に対しては別に料金を定むる
 - 第53巻 p.441 -ページ画像 
ものとす

  箱根温泉供給株式会社定款
    第一章 総則
第一条  当会社ノ商号ハ、箱根温泉供給株式会社ト称ス
第二条  当会社ハ温泉ノ販売並水利権ノ取得・利用・売買及ビ之ニ附帯スル事業ヲ営ムヲ以テ目的トス
第三条  前条ノ目的ヲ達スル為メ、公衆ノ利便ニ供スル施設ヲ為スコトヲ得
第四条  当会社ノ本店ハ之ヲ東京市ニ置ク
第五条  当会社ノ公告ハ東京市ニ於テ発行スル中外商業新報ニ掲載シテ之ヲ為ス
    第二章 株式
第六条  当会社ノ資本金ハ金参万円トシ、之ヲ六百株ニ分チ、壱株ノ金額ヲ金五拾円トス、株式ハ総テ記名式トシ、壱株券・拾株券及五拾株券ノ三種トス
第七条  株金ハ全額ヲ一時ニ払込ムモノトス
第八条  当会社ノ株式ハ取締役会ノ承認アルニアラサレハ之ヲ譲渡シ、又ハ質入スルコトヲ得ス
第九条  株式譲渡ノ場合ニハ当事者双方連署シ株券ヲ添ヘ名義書換ノ請求書ヲ提出スルコトヲ要ス、譲渡以外ノ原因ニ依リ株式ヲ移転シタル場合ニハ其事実ヲ証明スヘキ書面ヲ添ヘ、名義書換ノ請求ヲ為スコトヲ要ス
第十条  株券ノ毀損又ハ分合ニ依リ新株券ノ交付ヲ請求セントスルトキハ、旧株券ヲ添ヘテ申出ツヘシ
第十一条 株券ヲ喪失シタル者ハ、其旨ヲ書面ニ記載シ、当会社ニ於テ相当ト認ムル保証人二名以上ノ連署ヲ以テ新株券ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
     当会社ニ於テハ前項ノ事実ヲ調査シ、請求者ノ費用ヲ以テ其旨ヲ公告シ、六拾日ヲ経過スルモ尚第三者ヨリ故障ノ申立ナキトキハ、新株券ヲ交付スルモノトス
第十二条 新株券ノ交付ヲ請求スル者ハ、手数料トシテ新株券壱株ニ付金壱円、名義書換其他更正ヲ請求スル者ハ、手数料トシテ株券壱株ニ付金弐拾銭ヲ支払フヘキモノトス
第十三条 株主ハ当会社所定ノ書式ニ依リ、其氏名住所及印鑑ヲ届出ツヘキモノトス、之レカ変更ヲ為シタルトキ亦同シ
     株主ト法定代理人ハ其氏名・住所・印鑑及其資格ヲ証明スヘキ書面ヲ当会社ニ届出ツヘキモノトス
第十四条 株式名義書換ハ、毎決算期末日ノ翌日ヨリ其期定時株主総会終了迄之ヲ停止ス
     前項以外ノ時期ト雖モ取締役会ノ決議ニ依リ、公告ノ上参拾日以内ノ期間名義書換ヲ停止スルコトヲ得
   ○第三・四・五章略ス。
     附則
 - 第53巻 p.442 -ページ画像 
第三十七条 当会社ノ負担スヘキ設立費用ハ金壱万五千円以内トス
第三十八条 当会社設立発起人ノ住所氏名左ノ如シ
          東京市小石川区原町百弐拾六番地
                   男爵 阪谷芳郎
          東京府北豊島郡滝野川町大字西ケ原
          千拾弐番地       渋沢秀雄
          東京市小石川区駕籠町百弐拾九番地
                      白石喜太郎
          東京府豊多摩郡渋谷町伊達八拾四番地
                      佐々田彰夫
          神奈川県足柄下郡小田原町緑町四丁目
          六百七拾番地      益田信世
          神奈川県鎌倉郡鎌倉町千百六拾弐番地
                      島岡亮太郎
          東京市麹町区中六番町弐拾六番地
                      本宿家全
          東京市麹町区中六番町弐拾六番地
                      大崎新吉
          東京府豊多摩郡淀橋町大字柏木参百
          六拾八番地       東郷直
  昭和六年六月拾六日臨時株主総会決議事項
一、資本金増加ノ件
 一、当会社ノ資本金現在金参万円ノ処、更ニ金壱百四拾七万円ヲ増加シ、金壱百五拾万円ト為スコト
 二、増加資本金壱百四拾七万円ハ之ヲ弐万九千四百株ニ分チ、壱株ノ金額ヲ五拾円トスルコト
 三、増加資本金ノ内金参拾四万九千六百円ニ付テハ、別記財産ノ現物出資者ニ対シ、左記ノ通リ壱株ニ付金五拾円払込済ノ株式ヲ交付スルコト
  一、四千株(此額面金弐拾万円)   宮内省
  一、壱千参百株(此額面金六万五千円)箱根登山鉄道株式会社
  一、壱千壱百株(此額面金五万五千円)石村喜作外二名
  一、五百五拾株(此額面金弐万七千五百円)
                    石村要之助
  一、四拾弐株(此額面金弐千壱百円) 中野忠太郎外二名
    (註)別記財産ハ株式申込書記載ノ分ト同一ニツキ略ス
 四、増加資本金ノ内、壱百拾弐万四百円ニ対スル第壱回払込金ハ、壱株ニ付金弐拾五円トスルコト、新株式募集其他増資ニ関スル手続方法ハ取締役ノ決議ニ一任スルコト
二、定款変更ノ件
   当会社定款第二条・第六条・第七条・第九条・第十二条・第二十一条・第三十条ヲ左ノ通リ変更スルコト
第二条 当会社ハ温泉ノ販売並水利権ノ取得、利用、売買、硫黄ノ
 - 第53巻 p.443 -ページ画像 
採掘及ヒ之ニ附帯スル事業ヲ営ムヲ以テ目的トス
第六条 当会社ノ資本総額ハ金壱百五拾万円トシ、之ヲ参万株ニ分チ壱株ノ金額ヲ金五拾円トス
    株式ハ総テ記名式トシ、壱株券・拾株券及ヒ百株券ノ三種トス
第七条 資本増加ニヨル新株式弐万九千四百株ノ内、現物出資者ニ交付スヘキ六千九百九拾弐株ハ全額払込済トシ、弐万弐千四百八株ニ対シテハ壱株ニ付金弐拾五円ヲ払込ムモノトス第弐回以後ノ払込ハ取締役会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
第九条 前条ノ承諾ヲ経テ株式ヲ譲渡シタルトキハ、其株券ニ当事者双方連署ノ名義書換請求書ヲ添ヘテ提出スヘシ
    相続・遺贈其他法律ノ作用ニ因リ当会社ノ株式ヲ取得シタル者ハ、其株券ニ事実ヲ証明セル書面ヲ添ヘ名義書換ヲ請求スヘシ
第十二条 新株券ノ交付ヲ請求スル者ハ、手数料トシテ新株券壱枚ニ付金壱円、名義書換其他更正ヲ請求スル者ハ、手数料トシテ株券壱枚ニ付金弐拾銭ヲ支払フヘキモノトス
第二十一条 当会社ノ役員ハ取締役七名以内、監査役五名以内トス
    役員ハ株主総会ニ於テ百株以上ヲ有スル株主中ヨリ選挙ス
第三十条 取締役カ監査役ニ供託スヘキ株券ノ員数ハ百株トス
   ○昭和五年九月、箱根温泉供給株式会社ノ成立ヲ見タリ(白石喜太郎談話ニヨル)