デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治44年2月2日（1911年）

是日、当取引所ノ増築工事竣成祝賀会挙行セラレ、栄一、大隈重信・益田孝・大倉喜八郎等ト共ニ招待セラル。栄一出席シテ、回顧談ヲナス。

渋沢栄一　日記　明治四四年　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
二月二日　晴　寒
○上略　十一時半株式取引所ニ抵リ、大隈伯・益田・大倉氏等ト共ニ午飧ノ饗ヲ受ケ、立会ヲ一覧ス、蓋シ明治十一年創立ノ際、余等深ク関係セシヲ以テ小紀念会ヲ開キタルナリ○下略

中外商業新報　第八八九二号　明治四四年二月三日
　　　　大隈伯一行の東株参観
東京株式取引所の創立者たる大隈伯・渋沢男・益田孝氏・大倉喜八郎氏等は、二日取引所の招待に応じて臨場し、新築立会場に於ける後場の立会を参観し、尚場内の新設備を観覧せり、因に同取引所の創立は明治十一年にて、当時大隈伯は局にありて之れが認可を与へたるものなり

竜門雑誌　第二七三号・第六八頁　明治四四年二月
○株式取引所の増築竣工祝宴　東京株式取引所は一月中旬増築工事を竣へたるを機とし、其創立に与かりて縁故浅からざる朝野の貴顕紳士を招待して、祝宴を催したる由なるが、青淵先生にも招待に応じて出席せられたり
○中略
○株式取引所参観　東京株式取引所の創立者たりし青淵先生を始めとし、益田孝・大倉喜八郎諸氏は、二月二日同取引所の招待に応じ、新築立会場に於ける後場の立会を参観し、尚ほ場内の新設備を観覧せられたりといふ
 - 第53巻 p.445 -ページ画像 

竜門雑誌　第二七三号・第二六―二七頁　明治四四年二月
　　　　○取引所の回顧
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　青淵先生
　　本篇は青淵先生が二月二日東京株式取引所の招待に応じ、創立紀念席上に於て述べられたる意見の梗要なりとて、中外商業新報紙上に掲載せるものなり
明治七年の頃、余は我実業界発展の要素として欧米先進国に慣ひ資金集中の必要を感じ、即ち会社の株式組織を主唱したり、而して之れが奨励及助成の一方法として諸会社の株式取引の円満を図り、一方資金運転の途を開く可く、同志の士と株式取引所創設の願書を提出したるに、時の大蔵卿大隈伯は亦我等と同感にして之れが許可に意ありしも大審院長にして我法曹界のオーソリチーたりし故玉乃世履氏は、株式取引を以て全然賭博なりとなし、風教上絶対に許可す可からずと主張したる為め、大蔵卿も如何ともする能はず一両年を経過したり、其後に至り、我司法省に於て法律顧問としての法律大家ボアソナード氏を招聘するに及び、一日、玉乃氏はボ氏に語るに賭博禁止の意味に於て取引所創設願却下の顛末を以てせしに、ボ氏大笑して其説の法律上に於ても又実際上よりも甚だしき誤解なるを説き、詳細欧米先進国に於ける取引所の実状を物語れり、玆に於て玉乃氏始めて取引所なるものの真相を知り、直ちに走つて大隈伯と渋沢男を訪ひ、先の取引所禁止説の取消を求め、玆に始めて我国最初の取引所創設の許可を受けたる次第なり
　因に当時三十名内外の発企者中、今尚現存し、且つ人の記憶に存するは前記諸氏の外、中島行孝・渋沢喜作氏等僅々数名に過ぎずと也

東京株式取引所五十年史　同所編　第四〇頁　昭和三年一〇月刊
　○第二章　本所の沿革
　　　　第四節　自明治三十七年　至大正四年
○上略
　明治四十二年十月起工したる増築工事は、爾来一年二箇月を経て全部竣成を告げ、其の他、各種の通信・衛生設備も完成し、四十四年一月四日より新市場に於て定期取引を開きたり。
○下略

渋沢栄一　日記　明治四四年　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
二月十一日　晴　寒
○上略
中野武営氏来リ株式取引所ノ事其他ノ要務ヲ談ス○下略