デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
17節 貿易
4款 貿易関係諸資料 1. 日英貿易
■綱文

第54巻 p.22-25(DK540008k) ページ画像

明治44年2月(1911年)

是月、時事新報、日英関税問題ニ関スル栄一ノ意見ヲ掲載シ、次イデ四月、同紙ハ更ニ日英新条約ニ関スル栄一ノ意見ヲ掲載ス。


■資料

竜門雑誌 第二七三号・第二四頁明治四四年二月 ○日英関税問題に就て 青淵先生(DK540008k-0001)
第54巻 p.22 ページ画像

竜門雑誌  第二七三号・第二四頁明治四四年二月
    ○日英関税問題に就て
                      青淵先生
  本篇は時事新報記者の請ひに応じ語られたるものにて、二月初旬同紙上に掲載せるものなり
△関税問題 日英同盟の基礎益々鞏固を加へんことは、吾人の熱望して止まざる所なれども、同盟の基礎を鞏固ならしむるには両国民の感情を融和して其利害関係を密接にせざるべからず、夫の関税問題の如き、我れに多少の過失あるは事実なるも、英国民も亦新関税の及ぼす影響如何を精査せずして徒らに取越苦労に頭痛を病みたる感なきに非ず、畢竟両国民の感情尚ほ十分融和せざるの致す所なりと云ふべし
△団体交際の必要 曩に日米間に実業団の往来ありて以来、日米両国の国交は一層親密の度を加ふるに至りしが如く、日英両国間にても団体交際の機会を作り、以て互に応酬交款を重ぬるは同盟の基礎を鞏固ならしむる所以にして、我輩の衷心希望する所なり
△貿易を盛にせよ 国と国との関係を密接ならしむるに必要なる第一の要件は、国民と国民との利害関係を密接にして、両国の連鎖を固ふするに在り、両国の連鎖を固ふするには、両国間の貿易を盛ならしむるに如かず、日英両国の貿易関係を見るに、我輸出額は輸入額の半にも達せざるが如し、英国の海外貿易は駸々として日に月に進み、殖民地との貿易も亦次第に隆盛を致しつゝあるを思はゞ、日英貿易発展の余地尚ほ頗る大なるものあるを思はずんばあらず、我実業家は思ひを玆に致して、日英貿易を盛ならしむることに努力すべく、又英国側も仮令積極的便宜を与へざる迄も、殖民地に於ける第三国と日本との競争を阻害するが如きことを避けて、間接に日英貿易の助長に力を添へ相倚り相助けて両国の交誼を厚ふせしめんことを望む、日英同盟をして、単に政治上の攻守同盟たらしむるに止まらず、真に両国民の利害関係を密接にして、同盟の実を挙ぐるの心懸肝要なるべし、重ねて云ふ、日英同盟の基礎を鞏固ならしむるの最捷径は、両国民間の団体交際に在り


竜門雑誌 第二七五号・第一一―一二頁明治四四年四月 ○日英新条約に就て 青淵先生(DK540008k-0002)
第54巻 p.22-23 ページ画像

竜門雑誌  第二七五号・第一一―一二頁明治四四年四月
 - 第54巻 p.23 -ページ画像 
    ○日英新条約に就て
                      青淵先生
  日英新条約に就て時事新報記者の訪問に応じ、特に青淵先生が其所見を語られたるものなりとて、四月上旬の同紙上に掲載せるものなり。
昨年制定公布せる新関税法は、一時英国民の間に非常に不評判で、日英同盟に対する日本の誠意を疑ふものすらあつて、日英条約の締結も為めに行悩んだことに対しては、余は大に心外に思ひ其成行如何を懸念して居つたが、我政府は英国に譲歩し、即ち綿糸・綿布・毛織物・鉄等英国特産物に対する税率を引下げて新条約の締結を見るに至つたのは、先づ以て慶賀の至りである、余は元来絶対の自由貿易論者に非ず、時に関税の作用に依りて内地の産業を保護することには敢て異論なきも、内地に産出せざる鉄の如きものに過重の輸入税を課するは、徒らに内地産業の発達を阻碍するものであつて、僅少の輸入税を得んが為め産業の発達即ち国民の利益を無視するが如きは余の絶対に採らざる所である、毛織物の如きも今日我国では出来ないのである、出来ても極僅かである、而して今後斯業の発達は必ずしも関税の保護を待たなくとも之を期すべきは、従来我国の綿糸紡績業の発達に徴して明かである、故に今毛織物に課税すると云ふことは徒に物価を騰貴せしめ国民を苦しむるに過ないのである、又綿糸・綿布等にしても我国の工業は今日迄に於て既に大に発達し、輸入品の大部分を駆逐し、今や輸出の機運に向つて居る品さへもある、今後輸入税の保護抔は当業者は更に望んで居らぬのである、又輸入税の収入の点から云ふても此種の税は迚も大した金額には上らぬであらう、即ち内地消費者を苦しめ僅の収入を得んが為めに徒らに英国民の感情を害するに至つたので、政府は曩に実に愚なる挙に出でたのである、其他税率の各項に亘り精細に調べたなら沢山此種の者があるだらう、兎に角政府は条約改正に就ては最初の出発点に於て既に誤つたのである、徒に収入のみを目的として産業の発達や商工業の実情を閑却した結果、日英条約の締結に際し先づ我より譲歩するの不体裁を演ずるの已むなきに至つたのである、併し是れは政府当局者の不体裁と云ふのみで、吾々国民から云へば悪税が減ぜられ、且つ甚だ懸念して居つた所の日英関係が円満に解決されたのであるから、至極満足に思ふのである、愈々発表され充分研究せば非難すべきものもあるべきも、悪税が減ぜられた事と、行悩んだ新条約が締結の運になつたと云ふ点に対して満足なのである。



〔参考〕銀行通信録 第五一巻・第三〇六号第七九―八〇頁明治四四年四月 日英条約の成立(DK540008k-0003)
第54巻 p.23-25 ページ画像

銀行通信録  第五一巻・第三〇六号第七九―八〇頁明治四四年四月
    ○日英条約の成立
英国政府との間に談判中なりし新通商航海条約は、四月三日倫敦に於て調印を了り、同六日之を発表せり、改正通商航海条約に付、当局者の説明せる所左の如し(全文略之)
 日英新通商条約の談判は夙に両国に開始せられ、種々の問題に関し複雑なる商議を要したるも、彼我共に和衷交譲の精神を以て之に当りたるが故に、遂に能く妥結に達するを得、本月三日倫敦に於て両
 - 第54巻 p.24 -ページ画像 
国全権委員間に新条約の調印を見るに至れり、新条約に対し両国に於て批准を了するときは、批准書交換は東京に於て行はるべく、然る上は該条約は其の明文の定むる所に従ひ、七月十七日より実施せらるべし
 新条約を以て日英現行条約と対照するに、両者相違の主なる点左の如し
 一、現行条約の税率協定は新条約の税率協定と其の趣を異にし
  (甲)現行条約に於ては帝国政府は英国品に対し、最恵国待遇を保障するの外、一定の英国品に付税率を協定して其の覊絆に束縛せらるゝに反し、英国政府は本邦品に対し単に最恵国待遇を保障するに止り、何等税権を覊束せらるゝことなし、然るに新条約に於ては、日英両国互に輸入税に関し最恵国待遇を保障すると共に相互に税率を協定し、帝国政府が一定の英国品に対し税率を約定すると同時に英国政府も亦一定の本邦品に対し其の無税制を継続することを約定せり、即ち関税に付、彼我相互に義務を負担せり
  (乙)現行条約に於て英国品の為め設けたる協定税率は、本邦新関税定率法の税表番号三十九目に渉り、織糸類・綿織物・毛織物・麻織物・鉄・鉄釘類及レールの各全部、精糖・印刷料紙・護謨製品・窓玻璃・帽子・藍・革類・ペーント及セメント等に関係せりと雖、新条約に於て英国品の為め設けたる協定税率に因り影響を受くるものは右税表番号五目に止り、即ち綿織物中フランネル及紋織を除きたる大部分、毛織物中モスリン及天鵞絨を除きたる大部分、鉄の内銑鉄・薄板葉鉄及電鍍板並にペーント及亜麻織糸のみに関係せり
  (丙)英国に対する新条約の協定品は総て現代条約協定品の範囲を出でずと雖、新協定税率を之に該当する現行協定税率に比するに、二・三の相等しきものあるの外総て高率なりとす
  (丁)現行条約に於ては、協定税率は条約の存続期間之を変更するを得ずと雖、新条約に於ては条約実施後一箇年を経過するときは、何時にても日英各締約国より之が修正の希望を通告することを得、其の通告後六箇月内に商議結了せざるときは、爾後一箇月以内に更に六箇月の予告を以て協定税率を廃棄することを得
 二、現行条約に於ては土地所有権に関し何等規定する所なしと雖、新条約に於ては一般に不動産の取得に関し、各自国内法が外国人に認むる範囲内に於て、相互の条件に依り互に最恵国待遇を許与すべきことを保障せり
 三、現行条約は沿岸貿易に関し、其の締結当時の若干の本邦開港場間に英国船舶の貨物運般に従事することを許可したるも、新条約に於ては此の如き規定を削除し、本件に付ては国内法の規定に一任し唯最恵国待遇を保障するに止めたり
 四、現行条約に於ては、永代借地権に関する規定を存するも、新条約に於ては之を削除せり、但し本件の根本的処理に関しては別に両国政府間に商議する筈なり
 五、新条約に於ては商事会社の互認、旅商の便宜並に国境貿易及漁
 - 第54巻 p.25 -ページ画像 
産に関する除外例の如き現行条約に見ざる規定を設けたり
 以上は新条約と現行条約との対照上大体の相違なるが、帝国政府は新条約が好く現時の事態に適応し、其愈本年七月より実施せらるゝに至らは、現行条約に代はりて両国の通商関係に安固を保障し、従来既に彼我の間に存在する友好親善の関係をして益密接鞏固ならしむるの効尠からさるべきを確信す