デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

6章 対外事業
2節 支那・満洲
6款 日華実業協会
■綱文

第55巻 p.175-177(DK550032k) ページ画像

大正9年12月15日(1920年)

是日、日本工業倶楽部ニ於テ、当協会主催ニヨリ、新任中華民国公使胡惟徳歓迎晩餐会開カル。栄一出席シ、会長トシテ歓迎ノ辞ヲ述ブ。


■資料

集会日時通知表 大正九年(DK550032k-0001)
第55巻 p.176 ページ画像

集会日時通知表  大正九年        (渋沢子爵家所蔵)
十二月十五日 水 午後五半時 日華実業協会催 略服 胡維徳氏《(胡惟徳)》(支那公使)招待会(日本工業クラブ)


竜門雑誌 第三九二号・第七七―七八頁 大正一〇年一月 ○中華民国公使胡惟徳氏歓迎晩餐会(DK550032k-0002)
第55巻 p.176-177 ページ画像

竜門雑誌  第三九二号・第七七―七八頁 大正一〇年一月
○中華民国公使胡惟徳氏歓迎晩餐会 日華実業協会にては、旧臘十五日午後五時半より、今般新任の中華民国特命全権公使胡惟徳氏歓迎晩餐会を催したり。主賓胡公使、陪賓中華民国公使館員全部、横浜駐在領事及び埴原外務次官にして、主人側会長青淵先生を始め大倉男爵・山科礼蔵・杉原栄三郎・植村澄三郎・井上公二・白岩竜平・松木幹一郎・荒井賢太郎・馬越恭平氏等三十名の諸氏出席し、主客共四十二名席定まるや、青淵先生の歓迎辞、胡公使の答辞あり、盛会裡に午後九時散会せりと云ふ。
 因に当日の青淵先生歓迎辞及胡公使の答辞左の如し。
    青淵先生の歓迎辞
 胡公使閣下及来賓各位並に満場の閣下諸君、今夕は我が日華実業協会に於て今般閣下の御来任を歓迎の為め、此小宴を催して御招待申上げました処、御着任匆々のことゝて御繁忙であらせらるゝにも拘はらず、御賁臨下さいましたのは、会員一同光栄の至りと感謝するのであります。因つて私は一同に代りて玆に厚く御礼を申上げます貴国と我国との国交は実に古き歴史を有して居りますから、今改めて玆に喋々を要しませぬが、我国は常に貴国文化の刺戟を受けて進歩して参りましたのでありますから、今後も益親善を厚ふすることを希望するのであります。世界の大勢より見て、東洋の平和を維持し、其発展を計るは、貴我両国の責任で御座いまして、此責任を完ふするには相共に能く了解し、所謂唇歯輔車、相倚り相扶けて行かねばならぬので御座います。而して此事は私共が申上るまでもなく実に東洋全体の公論と申して差支へないと思ひます。公使閣下に於かせられても素より御同感の事と信じます。
 貴我両国の関係は人文上から見ても、地理上から察しても、密接なる間柄でありますが、就中経済上の関係は最も適切且重大であります。故に斯くの如き両国が円満なる提携をなして、共に其発展を計ると共に、東洋の平和を確保するは、真に貴我両国民の任務にして又無上の快事とする所であります。
 今夕此席に会同する者は、各商工業上貴国とは特に深厚の関係を有し、而して其関係事業の進歩を務むると共に、能く道徳と経済とを一致せしめて、貴我相互の国利民福を図らねばならぬと期念して居るのでありますから、公使閣下にも能く微衷を御諒認下さることを願ひます。
 私は数年前実業界を隠退して今日は何等商工業の関係は持ちませぬけれども、経済上から両国の親善を増進するは従来深く希望して居るを以て、頽齢にも拘はらず、推されて本協会の会長となり、常に会員一同と共に努力して居るので御座います。
 上来陳上したる事柄に関しては、或は団体として、或は個人として
 - 第55巻 p.177 -ページ画像 
将来公使閣下の御高配を煩はす事も多々あらうと存じます。言詞頗る簡単卒直なれども、平素の期念を披瀝して、以て歓迎の辞と致します。玆に会員一同と共に杯を挙げて、公使閣下及御一行の御健康を祝します。
    胡公使の答辞
 今晩は日華実業協会の盛宴に招待され、会長の明教を承り、深く幸栄となし、厚く感謝します。
 会長から示されたる両国提携親善の御趣旨は、鄙人全く同一の意見であります。之れ東亜に於ては東亜の和平を維持する所以たると同時に、之を世界に及ぼせば、即世界の平和を維持する所以たる也。蓋し欧洲戦争終結を告げたる以来、其の大勢は孤独より群衆に趨き西欧と東亜とを論ぜず、国家の一挙一動は即全世界の和平と否とに繋るを以て、国として世界に孤立する能はず、互に相提携し相親密ならざる能はず。況んや輔車の関係にある中日両国に於ては、尚更申す迄もありませぬ。
 中日両国経済関係の密接なるは到底他国と比較し能はざる所であります。故に両国の提携親善を計らんとせば、会長の御言葉の如く経済関係を以て最も重要と為すものであります。惟ふに経済の発展を計らんとせば、両国々交の益々堅固ならんことを期せざる可らず。両国々交の堅固を計らんとせば、両国人民の感情融合を計らざる可からず。両国民の感情融合を計らんとせば、両国の痛痒相関する所与に誠意確実を以てせざる可からず。斯の如くして両国経済日に益益発展し、共に利益を無窮に享くるに至るべく、其の効果著大なるべし。但し従来は之を提唱指導するの機関なきために、有識の士提携親善を唱ふるものあるも、力薄くして効果顕著ならざりしも、今貴協会立ちて此に提唱指導され、所謂高に登りて一呼すれは衆山之に応ずる如く、其の勢力雄捷にして、経済事業日益旺盛に赴くべく両国の前途に対し実に深く慶幸する所なり。
 玆に特に杯を挙げて、敬んで会長及貴協会諸君の健康を祝す。