デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正15年8月16日（1926年）

是ヨリ先、当協会、中華学芸社ノ学芸大学資金援助ニツキ尽力中ノトコロ、是日、上海日本商業会議所ヲ経テ、金二万五千円ヲ寄贈ス。栄一、会長トシテ之ニ与ル。

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日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
＊大正十五年五月十四日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　上海日本商業会議所
　　　　日華実業協会　御中
　　　　一、中華学芸大学援助ニ関スル件
覆啓
客年十月十九日附当方上商外第一四四一号ニ対シ、同十一月五日附及本年一月二十八日附貴翰ヲ以テ御照会相成候昨年ノ所謂五卅上海事件ニ対スル中華学芸社関係者ノ行動ニ関シ、其後周到取調候結果並ニ首題ノ件ニ対スル当方意見左ニ回答申上候
中華学芸社関係者ノ上海事件ニ対スル行動ハ、常ニ穏健ト公平ヲ持シテ始終シ、学芸社トシテハ純然タル学究団体トシテ、其経理スル学芸大学々生ニ対シテハ、近年学生風気ノ悪化セルニ鑑ミ校規ノ一トシテ一切ノ政治運動ヲ厳禁シ、学芸社々員トシテモ亦先般開催セラレタル同社第二回総会ニ於テ、永久政治運動ニ参加セザルコトヲ決議シ、同社トシテハ只管思想機関トシテ機能発揮ニ維レ努メ、東洋文化復興ノ為メ全力ヲ傾注シ居申候、従テ過般ノ上海事件ニ際シテハ、労働界方面ニ何等聯絡関係ヲ有セズ、且ツ暴徒化セル工人団及無頼ノ徒ニ対シ此種階級ニ何等ノ勢力無ク試練無キ学芸社ガ、事件ノ表面ニ立テ調停ノ労ヲ執ルガ如キハ、当時ノ状勢ニ於テ到底不可能事ナリシハ何人モ尤モノ儀ト思考シタル所ニ有之候、勿論該事件ニ際シ同社々員ガ何等日本抵制運動ニ参加シタルコト無キ而已ナラズ、従来日本ニ対シ最モ好感ヲ有スル同社々員ハ、個人トシテ邦人ノ為メ各種ノ便宜ヲ供与シタルノ実例頗ル多ク、前記上海事件ニ於テモ、邦人ハ学芸社関係者中ヨリ事前ニ諸種ノ情報ヲ受ケ、多大ノ便益ト参考ヲ得タルノ事実不尠而シテ同社同人ノ発行ニ係ル日刊紙ニシテ、当時主張常ニ公平ナリトシテ一般ニ好読セラレタル「公理日報」所載論説中、五卅事件ニ関スルモノヲ見ルモ、総テ対英ニシテ、一語トシテ排日ヲ標榜シタルモノ無之、却テ親日ノ必要ナルヲ声明シ居ル次第ニ御座候間、此際真ニ日本ヲ了解シ、且其間何等ノ私心野望ヲ抱懐セズ、専心支那教育界ノ刷新、国民思想ノ向上ヨリ、延テハ東洋文化復興ノタメ至誠ヲ尽シテ努
 - 第55巻 p.439 -ページ画像 
力セントスル此種真面目ナル純正団体ノ事業ニ対シテハ、中途蹉跌ヲ来スコト無キ様進ンデ之ヲ指導後援致度ニ付、何卒同社学芸大学設立ニ対シ、充分ノ理解ト同情ヲ有セラルヽ貴実業協会ニ於テ、一昨年来御抱持被成下候御好意ヲ以テ、卒先名実共ニ援助ノ実ヲ被挙候様御高配賜ハリ度、切望ニ不堪次第ニ御座候
　以上申上候通リ、中華学芸関係者ハ其主義上ノ立場トシテ、孰レモ親日行動ヲ執リ、純正ナル学究団体トシテ一途其機能発揮ニ維レ努メ何等不良運動ニ参加スル虞レ無キモノニ御座候間、此点篤ト御諒承被成下、且学芸大学モ既ニ昨年九月ヨリ予定通リ開校シ、目下今年度拡張計画中ノ折柄、経費予算ノ都合モ有之、至急日本側寄附金ノ給与ヲ切ニ希望致居候ニ付、此際誠ニ勝手恐縮ノ儀ニ存候得共、至急貴方御関係方面ノ寄附金取纏方特ニ御配慮賜ハリ度、此段右御回答旁及御依頼候　敬具
　追而今回日本全国商業会議所聯合会ノ招待ニヨリ、五月二十日上海発赴日ノ上海総商会ヲ主トスル民国実業団案内役トシテ、当所安原書記長同行可仕候ニ付、此際上京ノ上、併テ本件ヲモ用務トシテ派遣致候モノニ有之候条、仔細御聴取被成下候上ニテ宜敷御取計被下度、併テ御願申上候
＊（欄外記事）
　拝啓
　中華学芸大学ニ関シ左記上海商業会議所並ニ学芸社来信不取敢入貴覧候　拝具

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
(写)
謹啓
　　　　上海中華学芸社ヘ寄附金ノ件
益御清栄ノ段奉欣賀候、陳者上海中華学芸社ヘ出金ノ儀、引続キ随分尽力ハ仕居候得共、御承知ノ通リ各方面共時節柄醵金思フ様ニ相運ヒ不申、サレバトテ時節到来ヲ待居候テハ何時纏リ候ヤモ見込相立チ不申候ニ付、不取敢事情ヲ諒解致居候四・五ノ関係方面ニ特別ノ依頼ヲ致シ、甚ダ以テ乍些少金弐万五千円也取纏メ御送附申上候間、御査収ノ上可然御取計被下度、此段御通知旁御願ヒ迄如斯ニ御座候　敬具
　　大正十五年八月十六日
　　　　　　　　　　　　　　　東京
　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　　　　　　　　　　　　　　　副会長　児玉謙次
　　　上海日本商業会議所
　　　　会頭　田辺輝雄殿
追敬　右弐万五千円ノ内五千円ハ日華学会ヨリノ寄附金ニ有之候処、同会ヨリ中華学芸社ニ対スル別紙立替金四百拾六円也引キ去リ寄附ヲ受ケ候間、今回ノ送附金額ハ弐万四千五百八拾四円也ト相成リ候右ハ鄭貞文氏ヨリノ依頼ニ依リ同会ニ於テ立替ヘタル趣ニ付此段申添度

 - 第55巻 p.440 -ページ画像 

日華実業協会往復（一）　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　寄附先　　　　　金額
横浜正金銀行　児玉氏　　五千円也
三井物産会社　　　　　　五千円也
三菱合資会社　　　　　　五千円也
日本郵船会社　　　　　　五千円也
日清汽船会社　　　　　　弐千円也
　右ノ内　横浜正金銀行・三井物産会社・三菱合資会社・日本郵船会社ハ何レモ壱万円宛ノ予約ノ処、差当リ五千円寄附ノ事ト決定
　　　　　日清汽船会社ハ五千円予約ノ処、先ニ漢口ニ於ケル華顎会（日本留学出身者会）ヘ壱千円也寄附、残額四千円也ノ半額ヲ寄附セラル、当時協会ニ於テ漢口華鄂会ニ対シ一時立替寄附シタル弐千円也ヲ今回ノ寄附額ヨリ控除セルニ由リ総計弐万円也ヲ今回上海学芸社宛送金ス
　一、外ニ日華学会ノ寄附金壱万円也予約ノ処、今回五千円也寄附セラル　　　　　　以上

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
(写)
　　　　中華学芸大学揺助ニ関スル上海日本商業会議所来翰
　上商外第一七四四号
拝啓　盛夏ノ候愈御清穆奉賀候
陳者過般当会議所書記長安原美佐雄儀、中華民国実業団ト倶ニ上京ノ際ハ諸般特ニ御懇篤ナル御高配ニ預リ奉深謝候、殊ニ数年来種々御尽力賜ハリ候首題ノ件ニ関シ、同書記長ヨリ御依頼申候処、御繁忙中ニモ不拘急速実行方御取運被下候趣、以御蔭本人滞リ無ク使命ヲ果シ、客月二十五日無事帰任仕リ仔細報告有之、是ニテ独リ当所ノ面目相立候而已ナラズ、該大学関係者ニ於テモ計画実行上多大ノ便宜ヲ得候次第ニテ、両者斉シク貴会ノ御誠意御尽力ニ対シ衷心感謝在罷候、就テハ重テ御手数誠ニ恐縮ニ存候得共、金額ノ多少ニ係ラズ此際至急先方ニ引渡シノ上、日本側誠意ノ在ル所ヲ表示致度希望ニ付、右様御取計被下度切望仕候、尚御送附被下候寄附金ハ一時預金ノ上、先方要求ノ使途内容取確メ至当ト認メタル後、小生ノ名（会議所会頭トシテ）ヲ
以テ受払可仕ニ付之ニテ御了承賜ハリ度、此段御礼旁及御依頼候　　　　　　　　　敬具
　　大正十五年八月五日　　　　　　上海日本商業会議所
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　会頭　田辺輝雄
　　　日華実業協会
　　　　会長　子爵渋沢栄一殿
　　　（右寄附金総額弐万五千円也八月十六日《（加筆）》横浜正金銀行経由送金ヲ了シ候）

 - 第55巻 p.441 -ページ画像 

日華実業協会第六回会務報告書　　第六頁　大正一五年一二月刊
　　　　第六回重要会務報告　大正十五年一月以降
○上略
　　　　　　一、上海中華学芸社ニ対スル援助
　中華学芸社ハ日本留学ノ専門学校以上ノ出身者壱千余名ノ会員ヨリナル民国ニ於ケル有力ナル学術団体テアリマシテ、単ニ学術上ノミナラス、政治経済其他ノ方面ニ対シテモ直接間接相当ノ実力ヲ有スル団体テアリマスカ、之ノ団体カ大正十三年上海ニ学芸大学設立ヲ計画シ其ノ資金ヲ広ク各方面ニ求メ来マシタノデ、当協会ハ全国商業会議所聯合会ト協力シテ相当ノ援助ヲ為ス事ニ決定シタルモ、時期熟セサル為メ遷延シテ居リマシタカ、先方ニ於テハ着々計画ヲ進メ、昨年夏已ニ大学ノ設立ヲ見マシタノテ、種々ノ事情ニ鑑ミマシテ、差当リ五・六ノ協会関係方面ニ特別ノ依頼ヲ為シ、弐万五千円ヲ本年夏上海日本商業会議所ヲ経テ先方ニ寄贈致シマシタ次第テアリマス