デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
2節 其他ノ経済団体及ビ民間諸会
1款 財界振興会
■綱文

第56巻 p.171-178(DK560050k) ページ画像

明治42年6月25日(1909年)

是ヨリ先、総理大臣兼大蔵大臣桂太郎ハ、栄一外、銀行・貿易・工業・運輸交通ノ各業界実業家ヲ官邸ニ招キ、我財界ノ振興ニ関シ懇談スルトコロアリ、是日及ビ七月三十日、実業家側ニ於テ、政府当局者ヲ日本銀行集会所ニ招キ、右ニ関シ種々意見ノ交換ヲナス。栄一、ソレゾレ出席ス。


■資料

東京経済雑誌 第五九巻第一四八五号・第二―三頁 明治四二年四月一〇日 鰻会の結果如何(DK560050k-0001)
第56巻 p.171-172 ページ画像

東京経済雑誌  第五九巻第一四八五号・第二―三頁 明治四二年四月一〇日
    鰻会の結果如何
鰻会とは何ぞや、東京市内に於ける重もなる銀行業者の集会にして、彼等は時に臨み、政府の財政当局者を招待し、経済時事に関する意見を交換し、政府をして其の意見を採択実行せしむるものゝ如し、昨年以来久しく其の会合を見ざりしが、去二日の夜、永代橋畔なる日本銀行倶楽部に於て開かれたり、当夕の来賓は桂首相・大浦農相・若槻大蔵次官・志村勧銀副総裁等にして、外に准会員として山川勇木氏を招待し、主人側は豊川良平・早川千吉郎・高橋是清・松尾臣善・三野村君平・池田謙三・木村清四郎・佐々木勇之助・佐々木慎思郎の諸氏にして、食後目下の経済問題、特に沈衰せる商工業の振興策に関して主客胸襟を披きて意見を交換したるが、昨年の今頃は資金の窮乏其絶頂に達して、国債割引償還は痛く世間の非難を受け、終に政府に迫りて抽籖償還を遂行せしめたる程なりしも、本年は市中銀行何れも巨額の遊金を抱き之が処分に窮し、其結果抽籖償還の如き漸く難有迷惑に思はるゝに至れり、然るに商工業界は如何にと云ふに、日糖の破綻の如き、東洋汽船の無配当の如き、悲しむべき現象続々発生し、今日の金融緩漫積極的に楽観すべき現象に非ず、是れ畢竟従来金融業者・工業家・外国貿易業者・運輸交通業者の四者の関係が余り単純に過ぎ、相互の事情に疎かりしに基因す、就ては此後は右四者は更に進んで密接なる聯絡を結び、以て根本的に今日の窮状を救済すると共に、将来の完全なる発展を期せざる可からず、而して民間経済には国家の財政方針と厚き関係あるを以て、政府当局者も時々斯る団体に接近して公私経済の円満なる発展を計らざる可からずといふに、来会者の意見一致せり、然れども未だ具体的の成案を得るに至らざりしも、遠からず先づ銀行・工業・外国貿易・運輸交通に関する四者の団結を見るに至るべしといふ、蓋し日糖の破綻、東洋汽船の無配当の如き、銀行に重大の関係を有するものなれば、銀行業者の集会たる鰻会に此等の問題が上りたるは固より怪むに足るべからずと雖、彼等は如何に之を処分せんとする乎、抑々又政府は之に対して如何なる施設を為さんとする乎
 - 第56巻 p.172 -ページ画像 
蓋し銀行は金融を掌るものにして、何れの事業も金融に関係を有せざるものなし、故に製造会社たると汽船会社たると、将た貿易業とを問はず、其の事情を審にせざるべからざるや固より論を俟たずと雖、姑息の手段を以て、破綻を弥縫するが如きことを為すに於ては、玉石共に砕けて諸会社の信用を恢復維持する所以にあらざるなり、故に破綻せる会社は、飽までも其の実情を暴露し、損失せる会社は其の損失の原因を明にして、犯罪は仮借なく之を処罰し、会社其自身をして存廃を決せしむるの外あるべからず、若夫れ通商貿易の不振を救済せんと欲せば、政府は人民の負担を減ずるの方法を講じ、中央銀行は金融の実況に応じて、其の利率を高低し、経済界をして速に其の常態に復せしむるの外あるべからざるなり


東京経済雑誌 第五九巻第一四八七号・第三五―三六頁 明治四二年四月二四日 ○実業振興に関する蔵相の諮問(DK560050k-0002)
第56巻 p.172-173 ページ画像

東京経済雑誌  第五九巻第一四八七号・第三五―三六頁 明治四二年四月二四日
    ○実業振興に関する蔵相の諮問
桂大蔵大臣は去る二十日午後六時より実業家の重立ちたる人々を官邸に招きて晩餐会を開きたり、招きに応して出席したるは銀行業者として渋沢栄一・豊川良平・早川千吉郎・池田謙三・佐々木勇之助・三村君平・高橋是清・佐々木慎思郎・松尾臣善・添田寿一・高橋新吉・木村清四郎・山川勇木、外国貿易業者としては益田孝・森村市左衛門・原富太郎・野沢源次郎、製造業者としては武藤山治・朝吹英二・荘田平五郎・日比谷平左衛門・和田豊治、運輸交通業者としては大倉喜八郎・近藤廉平・浅野総一郎等商工業各方面の諸氏にして、食後桂蔵相は経済界の発展を期するの上に於て各実業家間の連絡疏通を計るの必要なる旨を述べて、左の十四箇条の質問を提供したり、
 一、輸出重要品に対する将来の見込、又た将来相当の方法を以て輸出額を増加するの見込ある貨物如何
 二、近来直輸出漸次に拡張さるゝの傾あり、右に関し尚将来の見込如何
 三、貨物輸出上荷為替其他資金利用上の便否如何
 四、輸出貨物に対する嗜好の変化其他外国市場に於ける需要の変遷に関しては如何なる手段に依り調査しつゝありや
 五、内地生産者と貿易業者との現下の関係如何、及び此等の関係にして大に改良を加ふべきものなきや
 六、輸出貨物製造に関係ある事業界最近の実況如何
 七、実業経営上著しく不便又は不利益なりとする事情なきや
 八、事業資金供給の実況如何
 九、工場抵当法及軌道抵当法の実効如何
 十、貨物輸送上改良を要する点如何
 十一、商業貿易に関し倉庫の設備及び倉荷証券等の流通等に付き遺憾なきや
 十二、同業者間に於て一致団結を欠く為め商業貿易等に於て不利益を被むるが如き事は之れなきや
 十三、商業に従事する徒弟の養成等に付き研究を要すべき点なきや
 十四、事業の計画を為すに当り需要供給の確実なるの基礎を欠くが
 - 第56巻 p.173 -ページ画像 
為めに失敗を招くの弊なきや
右に対しては即答し得る所にあらざれば、充分調査研究の上不日意見を述ふることとし、次で実業家各自の業務上に於ける状況に就き希望の存する処を述べて散会したり、


竜門雑誌 第二五三号・第四〇頁 明治四二年六月 ○実業家と当局者との会合(DK560050k-0003)
第56巻 p.173 ページ画像

竜門雑誌  第二五三号・第四〇頁 明治四二年六月
○実業家と当局者との会合 去る四月二日開会せる銀行家の会合鰻会に於ける協議に基き、桂大蔵大臣は同月廿日鰻会員たる松尾臣善・高橋是清・木村清四郎・豊川良平・三村君平・早川千吉郎・波多野承五郎・佐々木慎思郎・佐々木勇之助・池田謙三・山川勇木十一氏及銀行家より青淵先生・添田寿一・高橋新吉、外国貿易家より益田孝・森村市左衛門・野沢源次郎・原富太郎・大倉喜八郎、運輸交通業者より近藤廉平・浅野総一郎、工業家より荘田平五郎・朝吹英二・日比谷平左衛門・和田豊治・武藤山治・浜口吉左衛門の十六氏を永田町の官舎に招待して晩餐を饗し、実業界各部の連絡流通を図らんとし、十四ケ条の質問を発したるが、右等諸氏は青淵先生を始め松尾・益田・近藤・豊川・早川の六氏を総代とし、本月四日永代橋畔なる日本銀行舎宅に桂侯・平田・後藤の三大臣及柴田内閣書記官長・若槻大蔵次官・長島秘書官を招待し、午後六時より十一時まで互に意見の交換を為したるが、猶二十五日も同所に於て会合を催し、前回に引続き意見の交換を為したり。


渋沢栄一 日記 明治四二年(DK560050k-0004)
第56巻 p.173 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四二年     (渋沢子爵家所蔵)
六月二十五日 雨 冷
○上略 午後四時永代町日本銀行集会所ニ抵リ、桂首相以下内務・農商務逓信三省大臣・次官及実業家二十余名ノ会同ニ列席ス、種々ノ経済財政談アリ、夜十一時散会帰宿ス
○下略


東京経済雑誌 第六〇巻第一四九七号・第二七―二八頁 明治四二年七月三日 ○第三次財界振興会(DK560050k-0005)
第56巻 p.173-174 ページ画像

東京経済雑誌  第六〇巻第一四九七号・第二七―二八頁 明治四二年七月三日
    ○第三次財界振興会
民間実業家対政府当局者の会合に成る例の財界振興会は、去月廿五日午後四時より永代橋畔の日銀社宅に於て実業家側主催の下に其第三次の会合を開きたり、出席者は政府側八名、実業家廿七名都合三十五名にて、劈頭渋沢男より当日研究の題目を既定の十四項に限局するや、将た此以外に亘りて随時必要の題目に就き講究を進むるや否やに就き諮ふ処あり、一同の希望に依りて後の方法を執るに一決し、乃ち談は差詰め、
(一)監査役制度 より端を発し、即ち現在の制度に依れば監査役は取締役と等しく平素不定に執務するものにあらざれば、唯だ半期決算の時のみ会社に出席して監査の任務に服するの二途に止まるが如き、此以外真に監査役の任務を完うせしむるに於て遺憾なき良法なきや否や、之に対しては或は取締役も監査役も共に株主総会に於て選挙したるものなるに、一は他を監視するの地位に立つは謂はれなきことなれ
 - 第56巻 p.174 -ページ画像 
ば、此両者の任務を根本より区分して、取締役は専ら事業の経営に当り、監査役は会計一切の監査に当る仕組とすべしと説くものあり、又英国其他海外に行はるゝ公許監査役の制度を我国にも移植すべしとの説も出で、而して此後の場合に方つては彼の興信所の設置当時と同じく各自に於て充分奨励的努力を為すの必要論などあり、政府側も大体等しき希望を抱きて此問題を了り、次に
(二)商品に対する外国の嗜好の変遷並に市場の状況を知るの方法に就ては、従来海外博覧会開館毎に必ず内地に出品協会を設置するの例となり居れるが、若し此出品協会を今一層利用し拡充して、一の博覧会々社を設立し、之をして有事の日は博覧会出品のことに当らしめ、平素は主として海外の嗜好及び市場の変遷を調査視察せしむるに於ては一挙両得たるべし、而して此種の会社を起すには政府に於て相当の補助を与へ其存立を扶助するの方策を執るべしとの希望あり、政府側も此事今日必ずしも初耳にもあらされば猶充分講究する処あるべしと同じ、
(三)現下の研究を一層切実にする方法 財界振興会も既に第三次を重ねて尚未来にも継続せんとせる今日に方り、此研究を今よりも更に一層切実にする方法を執るは急務にして且つ肝要なり、而して日本の現情は特に工業の発達を計ること急務中の急務にして、其には何工業と限らず稍々重なる凡ての工業各別に委員を設け、其調査の結果に依りて各自切実に意見を交換せば如何との発議満場の同感を惹きたり、此時当日来会の長野県諏訪の製糸家今井五介氏を促がして現状に就き其意見を聴聞し、尚羽二重の粗製濫造に関し大浦農相の最近視察談もありたるが、今井氏の談話は要するに「近時所謂上一番格生糸の頗る声価を下したるは品位其のものの下れるよりも、原料繭の一定せざること其真因たり、依つて之が声価を回復する為めには遡りて繭の原種の改良統一を急務とし、必ずしも之を捨てゝ上等品製造にのみ偏移するに及ばずとて各地種紙の一定を望み、又羽二重に関しては(一)現時の粗製濫造の弊は一は当業者間に各種の苦情絶えざるより自から近来地方庁の監督に手心を生じたること助長に与つて力ある事、(二)は各地生糸検査所内に海外に於ける各種織機を備付けて、羽二重機業家の参考に資すること極めて有益なりとの主張出でたり、最後に園田孝吉氏の欧米視察談並に公債信用上伸策に就き二・三希望的提言あり再び雑談に時を移して散会したりと云ふ、


渋沢栄一 日記 明治四二年(DK560050k-0006)
第56巻 p.174 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四二年     (渋沢子爵家所蔵)
七月三十日 晴 大暑
○上略 午後四時過日本銀行集会所ニ抵リ、桂首相其他経済界ノ人々集合スル例会ニ出席ス、夜十一時散会帰宿ス


東京経済雑誌 第六〇巻第一五〇二号・第三三―三五頁 明治四二年八月七日 ○第四次財界振興会(渡米実業家の送別を兼ねて)(DK560050k-0007)
第56巻 p.174-178 ページ画像

東京経済雑誌  第六〇巻第一五〇二号・第三三―三五頁 明治四二年八月七日
    ○第四次財界振興会
                (渡米実業家の送別を兼ねて)
財界の振興を企画せん為め鰻会を中心とし発起せられし内閣諸星及実
 - 第56巻 p.175 -ページ画像 
業家の会合は既に三回に及び、前回には特別委員を挙げ詳細なる調査を嘱し、工業振興策に関しては益田孝・豊川良平・日比谷平左衛門・和田豊治氏等、生糸問題に関しては原富太郎・今井五介氏等、監査役制度問題に関しては佐々木勇之助・波多野承五郎・山川勇木氏等其任に当り調査攻究を重ねつゝありしが、恰も渋沢男及び日比谷・原諸氏の渡米も近づき、一方調査も大に進行したれば、右の送別会を兼ね第四回目の会合を客月卅日午後五時永代橋畔日本銀行舎宅に催したり、当日は桂首相の外小村外相・大浦農相の諸氏も列席し、先づ桂首相を中心とし雑談に花を咲かせ、七時半晩餐を共にし、主客の間に挨拶の交換あり、終つて再び大広間に移り委員の報告開始せられたり、
△工業振興方策 豊川良平氏委員長として報告して曰く、近時工業の頗る不振なるは要するに企業心の萎靡振はざるに起因す、今日之を鼓舞振興せしむるは正に目下の急務に属す、顧れば日露の戦役後事業熱勃興の際計画せられし各種工業にして予期の如く設立の目的を達し得たるものは僅に指を屈するに過ぎずして、其他は或は事業を中止し或は解散し殆ど其痕跡をだも残さゞる也、凡そ一国の工業を発展せしむる所以は国富の増進を計らんが為めなり、従来我国は農業を以て国是と為したれど農業の進歩発達には自ら限りあり、今日に至つては寧ろ大に工業の進歩発展を画し、以て外国と競争するの方策に出でざるべからず、然るに今や如何、斯界は実に萎靡不振を極め殆ど生色なきに似たり、是れ吾人の頗る遺憾とする所也、見よ、伊太利・瑞典・那威の如き電気事業の隆盛なる地に於ては、何れも工業の発達速かにして欧米の状勢より推定するに今後十年を経過せば彼等は驚くべき発展をなさん、翻て本邦の現状を見るに、企業の観念全く地を払ひ、昨今に至ては殆ど企業の相談を受くるもの絶無と云ふも不可なし、斯の如きに際し之を鼓舞振興せしむるは官民を問はず大に攻究を要すべき也、然らば如何にして之が実行を企画すべきかと云ふに、
(第一)電気応用化学の普及を必要とす、然るに我国に於ては未だ我が大学に於てすら之を設けざる也、依て吾人は之が科目の設置を希望するのみならず、又之が研究の為め技術者を海外に派遣し、啻に該科教授の養成に止らず、汎く之が普及を努むることを望む、
(第二)農業に対しては未開墾地に対し鍬下年期制度の如き特典備はれるに反し、工業に於ては毫も斯る特典なく、唯僅に営業税に於て事業開始後三年間は之を免除するの特例ありと云へど、拡張増資の場合に迄之が特典を及ぼさゞる也、殊に或る地方の如き課税物件の尠少なる為め工業者に対し国税・地方税の外一種の寄附的資金をも強制的に徴収するの風ありて、一・二の富豪が工業を起さんとするや直に適当なる寄附金を強請さる、然るに若し鍬下年期制度の如き特典あらんか、斯かる寄附金の如きも之を拒絶するの口実と為すを得ん、故に工業者に対し或る特典を附与するは極て必要なるべく、之に依り人気を大に鼓舞するを得ん、又工業とても他の事業と同じく創立早々利益ありとは云ふべからず、此点よりも相当の特典を要する次第也、
(第三)起業心を振興せしむる他の一方法は、興業銀行・勧業銀行若
 - 第56巻 p.176 -ページ画像 
くは日本銀行の如きも金融上相当の援助を与ふる亦必要にして、海外輸出品に対し鉄道運賃を相当軽減するが如きも亦一方法たるを失はず、
之を要するに、上下心を一にして人気の振興を期せんには、此不振なる工業界をして面目を一新せしめ、惹いて世上幾多の事業相並び起るを得べし、米国に於ける事業の隆盛を致せる跡を見るに、彼地の俄分限が競ふて事業を企図し、之を先駆として不知不識の裡に事業の発達を促し来れる也、我国に於ても先年所謂成金党の為めに事業は計画せられ、人気を鼓舞したるの実蹟を認め得らる、吾人は方今の急務として先づ人心の引立を画することは最も肝要なりと信ずるなり云々、
△工業と営業税の改正 に関しては現行営業税法は総て資本金を課税標準とし徴税しつゝあれど、工業会社中には職工の老廃・疾病保護の為め特別の積立金を為すものあり、現に鐘淵紡績会社の如き其額既に六十万円に達し、他の諸会社に於ても又之が増殖を計りつゝあり、然るに之を尚ほ課税標準に加算せらるゝは、仮令其額僅少なりと云ふも職工の幸福、手当を減少せしむる結果となる故に、斯かる種類のものは課税標準より控除せられんことを述べ、
△織物税徴収税法改正 に関し現時の課税法は頗る複雑にして当業者の困窮する所尠少にあらず、若し財政上全廃を期すること能はずとせば、先づ其徴収方法の改善を計るべし、例へば問屋税を販売税に改め即ち小売人が消費者に売渡す場合に当て其領収書に相当印紙を貼付せしむるが如き方法を採るか、又は同業者組合を設立せしめ、組合の負担に於て組合之を引受けしむる方法を採るが如き、或は毛織物の如きは海外より輸入の際に課することに改むるが如き、問屋は為めに手続の繁雑を免れ納税者亦大なる便宜を受くるに至らんと述べ、
△関税改正上の希望 として紡績業者の立場より見るに、原料糸を輸入する場合と織物を輸入する場合とは其間関税率の均衡を失するものあり、即ち原糸は一割五分を負担するに織物は僅に五分に過ぎず、斯くの如きは将来関税改正の場合には宜しく斟酌せられんことを望むと述べ、其他海外輸出品に対する為替資金の現況より将来の希望に付意見の陳述あり、
△生糸改良方法 次で生糸改良方法の問題に移り、委員原富太郎氏調査の結果を報告して曰く、生糸に付ては既に前々回より攻究されし如く、蚕卵紙の善良なるを選定するに就ては是非とも根本に於て統一を期せざるべからず、而して現在生糸に対する全世界の需要は約三千七百万斤と称せられ、内千五百万斤は実に我国の供給に待つ所なれば、本邦に採ては重要の産物にして且つ又国家経済より云ふも主要の命脈たる地位を占む、近来其製糸高逐年増進すと雖も、其品質に至ては、伊太利及び仏国産に及ばさるものあり、甚しきに至りては往々清国産にも劣るものあり、而して之が改良を計らんには原々紙統一改良を最も肝要とす、此点は特別委員調査の結果一層確信する所にして、政府当局者並に当業者の攻究を促さんと欲す、更に養蚕の改良、徒弟の養成、生糸検査所に於ける織物の実験に付ても亦委員調査の結果は切に政府当局者の注意を望むの必要を認めたり云々、
 - 第56巻 p.177 -ページ画像 
△糖業政策問題 議は更に進んで糖業問題に入り、豊川良平氏は語りて曰く、内地精製糖業は近来兎角困窮を極め或は会社の破綻となり、或は酒匂博士の自殺を見るが如きも、一には台湾と課税の均衡を得ざりしにも起因せずとは云ふべからず、見よ台湾の糖業会社は隆々として好成績を挙げ、中には四割と云ふが如き好配当を為すものあり、随つて同島の製糖事業は前途頗る有利なりとし、新会社続々として勃興するを見る、之れ一には同島の糖業が内地精製糖業に比し国家の保護厚きに起因す、左れど又一方には国家の糖業政策に対する方針確立せざるより、何時之が変更せらるゝも知るべからず、却て同事業に対する投資を躊躇するものなきにあらず、此等を顧みれば、益々本邦糖業策は今日に於て確立するの必要あるを認む、当局の所見果して如何と質せり、
亜で以上の諸問題に付き種々意見の交換を為したるが、桂首相及び若槻次官の陳べたる意見左の如し、
△織物税問題 に付き若槻大蔵次官曰く、現行織物税に関しては当局に於ても慎重に処するものなるが、世上之を以て悪税なりと為すも、兎に角其税額二千三百万円を算する以上は之に代るべきの財源は容易に見出すこと能はずして、到底国家財政上之を全廃するが如きは為し得ざる所なり、而も世上の非難は負担に堪ふべからずと云ふにあらずして、寧ろ徴収方法の複雑を極むるが為め、往々にして収税官吏と納税者の間に紛争を惹起するに起因す、依て当局に於ては行政上より当該官吏を戒飭し、努めて規定の範囲を脱せざる限り手続の簡略と事務の敏捷を期せしめつゝあり云々と、
△関税改正問題 に付て桂首相先づ曰く、四十四年を以て現行通商条約は改定せんとし、政府に於ては之が準備の為め既に着々調査を進めつゝあれど、予は総理として未だ小村委員長の報告を得ざれば、尚ほ之を諸君に開陳するの機に達せず、他日若し調査の完成を告げば当会合の席上之を語るを約せん、唯此機会を以て一言するは今回の改正を以て、直ちに各方面とも多大の保護を受くべしと為すべからず、単に税権の恢復を以て満足せられたし云々、又若槻次官は大蔵省に於ける関税調査の結果に付き詳細に説明する所ありたり
△糖業政策問題 に就ては、桂首相先づ豊川氏の意見に満腹の賛同を表し、更に若槻次官は詳言して曰く、内地精糖と台湾粗糖の間課税法公平を欠ける痕跡なきにあらず、予の任官するや即ち台湾粗糖に対する課税は厳格に施行せしむる事と為し、其後人を派遣して実査したる結果は多少其傾向を認めたり、左れど現今台湾糖業の状態より思考するに、今日未だ我が全消費額たる五億斤は、全部台湾より供給し得るの程度に達せず、自然爪哇糖の競争上相当の保護を必要とす、依つて政府に於ては、従来の如く課税の均衡を失することなからしめんが為め、現行課税法を厳行すると同時に、台湾糖業に向ひ保護を与ふる方針也、此方針は将来に於て是非台湾・沖縄・大島に産する砂糖を以て全国の需要に応ぜしめんことを期し居れば、今後容易に之を変更せざる考へなり云々
尚ほ特別委員の調査報告に付ては、追て書面として政府に提出するこ
 - 第56巻 p.178 -ページ画像 
ととせり、因に当夜は公共監査役制度に関しては、委員の研究熟せざりしを以て、別に纏りたる報告はあらざりしと、当夜の来会者諸氏左の如し
 桂侯・小村伯・大浦男、若槻・押川・仲小路各次官、柴田翰長・長島秘書官(以上来賓)渋沢男・松尾男・高橋男・益田孝・豊川良平早川千吉郎・近藤廉平・朝吹英二・添田寿一・高橋新吉・荘田平五郎・大倉喜八郎・佐々木勇之助・波多野承五郎・池田謙三・山川勇木・三村君平・日比谷平左衛門・浅野総一郎・原富太郎・野沢源次郎・和田豊治(以上実業家側)
   ○鰻会ニツイテハ、本資料第七巻所収「鰻会関係資料」及ビ第五十一巻所収「鰻会」参照。
   ○「財界振興会」ナル名称ハ正確ナルモノトハ云ヒ難キモ、姑ク之ニヨル。