デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
2節 其他ノ経済団体及ビ民間諸会
3款 東北振興会
■綱文

第56巻 p.244-245(DK560061k) ページ画像

大正8年5月(1919年)

是ヨリ先、「食糧問題の解決」ト題シ、雑誌『東北日本』ニ寄セタル栄一ノ一文、是月発行ノ『竜門雑誌』ニ転載セラル。


■資料

竜門雑誌 第三七二号・第一二―一四頁 大正八年五月 ○食糧問題の解決 青淵先生(DK560061k-0001)
第56巻 p.244-245 ページ画像

竜門雑誌  第三七二号・第一二―一四頁 大正八年五月
    ○食糧問題の解決
                      青淵先生
 本篇は青淵先生が会長として経営せられつゝある東北振興会機関雑誌《(マヽ)》「東北日本」第三巻第三号に掲載せるものなり。(編者識)
△東北振興会の責務 余等五十有余人の京浜・阪神地方の実業家を以て組織する東北振興会は、大正二年東北地方の大凶作の際に創立せられたるものにして、其間何等為す事なしと雖も、玆に早や六年の星霜を閲するに至りたり、而して我会の実行したる事業の経過を顧れば、精神的に、物質的に其為さんとする理想の万分の一にも当らず。之れ予ねて余等の社会に対して慚愧に堪へざるが如く思ふ所以也。然れども其実行したる事業は未だ云ふに足らずと雖も、幸にして東北地方の多数人は精神的に、物質的に余等を信頼する事厚く、故に其施行する事は甚だ少なりと雖も、彼の東北銘産品陳列会の如きは、其第一回に於て予期以上の成功を為すに至り、更に地方当局並に当業者の希望に依り、其第二回を来る三月五日より二十日迄、約十六日間三越呉服店に於て開催する事となり、今回は前回に比し総てに於て勝れたるものあり、従て其成績も一層良好なるものある事は疑ひを容れざるなり。亦東北地方は余も屡々視察を為せしが、最近の東北地方は、経済的に偉大なる発達を遂ぐるに至り、今後尚ほ一層の進歩発達を為すべき事は何人も疑はざる所にして、余等も亦此際、東北地方の為め、将た国家の為め、何等か積極的に適当なる事業を起劃する必要を認むるものなり。
△工業の発達と農業の発達 我国は昔より農を本として国を治め来りたるものなるが、近世に至り其国情漸次世界的となるに当り、経済的不利の点より、多くの資本と、多くの労力とは漸次農業を離れて商工業に移り、殊に日露戦争以後最近の欧洲戦乱の勃発に際し、著しく両者の発達に径庭を生ずるに至りたり。然るに此不権衡の状態は決して永続すべきものにあらず。今日世界を挙げて食糧の問題に苦悩しつゝあるは、商工業に比し農業を閑却したる結果なり、即ち経済的に農業の不利なりしが為めなり。然るに今や食糧問題を以て国家の盛衰に係
 - 第56巻 p.245 -ページ画像 
る大問題と為し、将来此問題を如何に解決すべきかに就て、政府並に社会一般識者が論議し、尚ほ進んで具体的に之が解決方法を講ぜんとしつゝあると同時に、亦一方経済的関係より農業の盛んならんとする傾向を生ずるに至り、其反動としてさしもの隆盛なりし商工業事業界は一時沈衰の状況を呈するに至るべし。我国の食糧問題も此社会的経済事情の変調に依りて比較的良好なる、目下世人の憂慮しつゝある程度の解決を見るべきや必せり。
○下略



〔参考〕渋沢栄一書翰 吉池慶正宛 (大正八年)八月一日(DK560061k-0002)
第56巻 p.245 ページ画像

渋沢栄一書翰  吉池慶正宛 (大正八年)八月一日   (西条峰三郎氏所蔵)
拝啓 益御清適奉賀候、然者東北社浅野源吾氏此程来訪、振興会より補助を受候積ニて別紙金額賢台まて申上候得共御下付無之困難云々申出候、右ハ本人之申出のミ信用難仕義ニハ候得共、篤と事情御取調相成、早々何分之御処置相成度と存候、右ニ付而ハ尚拝眉相伺候必要も御座候ハヽ事務所又ハ拙宅へ御過訪被下度候、右可得貴意如此御座候
                            拝具
  八月一日
                      渋沢栄一
   吉池賢台



〔参考〕渋沢栄一書翰 吉池慶正宛 (大正九年)二月二日(DK560061k-0003)
第56巻 p.245 ページ画像

渋沢栄一書翰  吉池慶正宛 (大正九年)二月二日   (西条峰三郎氏所蔵)
拝啓 爾来賢台益御清適之条奉賀候、然者東北社浅野源吾氏過日来訪ニて振興会ニ関する事共種々申聞られ、且同雑誌へ援助之義も申出候ニ付其中賢台と御協議可致と答置候処、頃日別紙之通リ申越候間一応御通知申上候、右請求之金三百円といふハ一時なる哉、毎年ニ候哉、其程合も明了ニ無之、且此雑誌之現状たる本会ニ於て援助すへき価値有之候哉、其辺も分明ニ無之候ニ付、篤と御熟案被下度候
書中開墾会社云々ハ、此際設立中之中央開墾之事と存候得共、右ハ窪田氏担任之事ニて今日まて何等雑誌と関係無之ニ付如何可有之哉、判断仕兼候義ニ御坐候、右書中可得貴意早々如此御坐候 拝具
  二月二日
                      渋沢栄一
    吉池慶正様
           研北