デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

8章 政府諸会
1節 諮問会議
1款 生産調査会
■綱文

第56巻 p.400-417(DK560114k) ページ画像

明治43年6月24日(1910年)

是日栄一、農商務省ニ於テ開カレタル当会特別委員会及ビ本会議ニ出席シ、翌二十五日モ、同特別委員会ニ出席ス。当会ニ対スル諮問事項「蚕糸業ノ発達及改善ニ関スル件」及ビ「不正競争ノ取締ニ関スル件」ニツイテハ、七月二十八日、農商務大臣小松原英太郎ニ答申セラル。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四三年(DK560114k-0001)
第56巻 p.400 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四三年     (渋沢子爵家所蔵)
六月二十四日 晴 暑
○上略 午前十時生産調査会ノ特別委員会ヲ農商務省内ニ開キ要項ヲ議ス十二時午飧ヲ食シ、委員会ヲ閉会ス、後本会ニ列席ス、午後五時会ヲ辞シ ○下略
六月二十五日 曇 冷
○上略 午前九時農商務省ニ抵リ、生産調査会ノ特別委員会ヲ開キ、調査要項ヲ議了シ、正午ニ至リテ閉会ス ○下略


生産調査会録事(第壱回) 第二三七―二八〇頁 明治四三年九月刊(DK560114k-0002)
第56巻 p.400-414 ページ画像

生産調査会録事(第壱回)  第二三七―二八〇頁 明治四三年九月刊
    明治四十三年六月二十四日午後一時二十五分開議
 - 第56巻 p.401 -ページ画像 
○議長(小松原英太郎君) 是カラ開会ヲ致シマス、今日ハ蚕糸業ノ発達及改善ニ関スル件ヲ先ヅ議題ト致シマス、委員長ノ報告ヲ願ヒマス
  (子爵加納久宜君登壇)
○四十一番(子爵加納久宜君) 蚕糸業ノ発達及改善ニ関スル特別委員会ニ於キマシテハ、不肖ノ私ガ委員長ニ推サレマシタガ為メニ、不束ナガラ此委員会ノ経過及結果ニ付キマシテ簡短ニ御報告ヲ致シマス、此委員会ハ去ル二十一日、二日、三日間ニ亘リマシテ審議ヲ尽シマシタ結果、昨日諸君ノ御手許ニ差上ゲテ置キマシタル如ク決議ヲ致シマシタノデゴザイマス
    蚕糸業ノ改善及発達ニ関スル特別委員会決議
 一、農商務省中ニ蚕糸局ヲ新設シ蚕業ノ改良発達ヲ図ルコト
 二、養蚕業ハ主トシテ農家ノ副業トシテ経営セシムル方針ニ依リ飼育戸数ノ増加ヲ図ルコト
 三、桑園ノ改良増殖ニ関シテハ既往ノ施設ヲ続行シ、殊ニ既設桑園ノ改良ニ留意スルコト
 四、蚕種ノ統一改良ヲ期スルガ為メ左ノ施設ヲ行フコト
  (一)国立原蚕種製造場ヲ中央ニ本場一ケ所、地方ニ支場数ケ所ヲ設置シテ、先ヅ少クトモ全国所要原種ノ十分ノ一ニ該当スル原蚕種ヲ道府県ニ配付シ、漸次製造高ヲ増加シ、結局強制的ニ全国ノ統一ヲ行フモノトス、且ツ此機関ニ依リ蚕糸業ニ関スル技術的試験研究ヲ行ハシムルコト
  (二)国立原蚕種製造場ニ官民合同ノ評議員若干名ヲ置キ、蚕種ノ選定其他重要ノ事項ヲ議セシムルコト
  (三)道府県ニ於テ政府ヨリ配付シタル原蚕種ヲ基礎トシ、且ツ政府配付原蚕種ノ普及ニ到ル迄地方在来種中優良ノモノヲ撰択セシメテ、其管内ニ於ケル蚕種統一ニ関スル施設ヲ行ハシムルコト
 五、飼育及製糸ノ改良ヲ期スルガ為左ノ施設ヲ行フコト
  (一)地方蚕業講習所ノ設置ヲ奨励スルコト
  (二)道府県ニ国費支弁ノ技術者ヲ増置シ、且ツ道府県ヲシテ可成郡市ニ適当ノ技術者ヲ配置セシムルコト
  (三)稚蚕飼育・乾繭・生糸ノ揚返及荷造、繭糸ノ販売等ニ関シ、共同的経営ヲ奨励スルコト
  (四)製糸工女ノ養成及保護ニ付適当ノ方法ヲ講ズルコト
 六、蚕病予防法ヲ改正シテ蚕種製造者ノ資格ヲ限定シ、且ツ蚕種検査手数料ヲ徴収シテ道府県蚕病予防費ノ軽減ヲ図リ、其他蚕病予防ニ関シ必要ナル改正ヲ行フコト
 七、蚕業講習所ニ於テ製糸技術者ノ養成方ヲ拡張シ、且ツ夏秋蚕ノ講習ヲ開始スルコト
 八、生糸試織ニ関スル設備ヲ新設スルコト
 九、蚕糸業ニ関スル研究調査上必要ナル施設ヲナスコト
 十、蚕種・繭糸・桑葉ノ運搬ニ付テハ特ニ政府ニ於テ注意ヲ為シ、特別ノ便宜ヲ図ルベキコト
 十一、繭ノ売買ニ関スル弊害ヲ矯正スルノ方法ヲ講ズルコト
右ノ通リ決議致候ニ付及報告候也
 - 第56巻 p.402 -ページ画像 
  明治四十三年六月二十三日
                委員長 子爵 加納久宜
    生産調査会長 小松原英太郎殿
本問題ニ対シマシテハ、曩キニ当局者ノ説明ガ多少程度ニ於キマシテ吾々ノ考ト稍々異リタル点ガアルカノ如キ考モアリマシタノデ、委員会ハ当局者ニ向ヒマシテ数回ノ質問及意見等ノ交換ヲ致シマシタル末当局者ニ於キマシテモ、蚕種ノ統一ト云フ点ニ付テハ出来得ル限リノ設備及準備ヲ整ヘテ、本目的ヲ達スルニ努メルニアルト云フ点ニ於キマシテハ、其全ク程度ノ問題ノ間隔ガアルト云フコトニ付キマシテハ吾々ノ考ト略ホ一致シタト云フコトノ点ハ明カトナリマシタノデ、従テ先キニ御手許ニ上ゲテ置キマシタ決議案ハ、亦当局者ニ於キマシテモ勿論異議ノナイ所デアリマス、最モ此問題ハ頗ル重大ナ案件デゴザイマスノデ、委員会ニ於キマシテモ大体ノ上ニ於テハ多少意見ノ異ナル所モアリマシタガ、ソレハ即チ蚕種ノ統一ハ絶対ニ不可能デアル、又斯ノ如キコトヲスレバ寧ロ蚕業上ノ進歩発達ヲ妨ゲルト云フノガ即チ大体ノ意見ト異ナル所ノ要点デアリマシテ、詰マリ多額ノ金ヲ掛ケテ不可能ト認ムル統一ヲ図ランヨリハ、絶エス発達ヲ図ルト云フコトニシテ足ルノデアル、斯ウ云フ大体ノ考ノ異ナル点モアツタノデアリマス、併シ固ト此蚕業ハ極メテ本邦重要ノ物産デアツテ、殊ニ外国ノ貿易ニ於テ斯業ノ盛衰ハ至大ノ関係ヲ有シテ居ルモノデアルカラ、蚕種ノ統一ハ国家ノ事業トシテ是非共遂行シナケレバナラヌト云フノガ委員諸君ノ多数ノ一致シタル意見ノ要点デアリマシタ、特別委員会ノ会議ノ決議ノ事項ニ付キマシテハ、予テ諸君ノ御手許ニ上ガツテ居リマスル「蚕糸業ノ発達及改善ニ関スル件、方針及施設要項」
    蚕糸業ノ発達及改善ニ関スル件
      方針及施設要項
 一、本邦ノ蚕糸業ハ特殊ノ変態ヲ生セザル限リハ今後十年間毎年平均概算繭十五万石ノ増収ヲ図ルヲ以テ発展ノ適度ト認ムルコト
 二、養蚕業ハ農家ノ副業トシテ経営セシムルノ方針ヲ失ハズ小規模ノ飼育戸数ノ増加ヲ図ルコト
 三、桑園ノ改良増殖ニ関シテハ既往ノ施設ヲ続行シ、殊ニ将来既設桑図《(園)》ノ改良ニ留意スルコト
 四、蚕種ノ統一改良ヲ期スルガ為左ノ施設ヲ行フコト
  (一)国立蚕業試験場ヲ中央ニ本場一ケ所、地方ニ支場数ケ所ヲ設置シテ、全国所要原々種ノ十分ノ一ニ該当スル原蚕種ヲ道府県ニ配付シ、将来完全ナル統一ヲ行フノ段階ト為シ、且ツ此ノ機関ニ依リ蚕糸業ニ関スル技術的試験研究ヲ行ハシムルコト
  (二)道府県ニ於テ政府ヨリ配付シタル原蚕種ヲ基礎トシ、且ツ当分地方在来種中優良ノモノヲ撰択セシメテ、其ノ管内ニ於ケル蚕種統一ニ関スル施設ヲ行ハシムルコト
 五、飼育技術及製糸技術ノ統一改良ヲ期スルガ為左ノ施設ヲ行フコト
  (一)地方蚕業講習所ノ設置ヲ奨励スルコト
  (二)道府県ニ国費支弁ノ技術者ヲ増置シ且ツ道府県ヲシテ可成都市
 - 第56巻 p.403 -ページ画像 
ニ適当ノ技術者ヲ配置セシムルコト
  (三)稚蚕共同飼育、生糸ノ共同揚返、共同荷造及共同販売等ノ共同的経営ヲ奨励スルコト
  (四)製糸工女ノ養成方ニ付適当ノ方法ヲ講ズルコト
 六、蚕病予防法ヲ改正シテ蚕種製造者ノ資格ヲ限定シ、且ツ蚕種検査手数料ヲ徴収シテ道府県蚕病予防費ノ軽減ヲ図リ、其ノ他蚕病予防ニ関シ必要ナル改正ヲ行フコト
 七、蚕業講習所ニ於テ製糸技術者ノ養成方ヲ拡張シ、且ツ夏秋蚕ノ講習ヲ開始スルコト
 八、生糸試織ニ関スル設備ヲ新設スルコト
 九、蚕糸業ニ関スル研究調査上必要ナル施設ヲ為スコト
ト云フ此各項トノ御対照ヲ下サレバ、即チ此委員会ニ於ケル決議ノ事項ノ多少異ナリタル点ト、ソレカラ全然一致ニナツテ居リマスル点ト又多少此中ニ於キマシテノ事項ノ追加及ビ意味ノ附加ヘ或ハ文句ノ修正ニナリマシタヲ御了解下サル上ニ於テ大ニ御便利デアラウト存ジマス、此農商務大臣ヨリ下附セラレタル「蚕糸業ノ発達及改善ニ関スル件」ニ付テノ第一ノ箇条即チ此決議ノ事項ノ第一ニアリマスル所ノモノト異ツテ居リマスルモノガ、即チ是ガ新規ニ設ケタル案件デアリマス、此政府ノ方ノ案ニ於キマシテハ十年ヲ期シテ十五万石ヲ毎年増収スル、是等ガ即チ蚕種ノ改善ニ関スル所ノモノニ付テ適当ト認ムル、斯ウ云フヤウナ案ニ成ツテ居リマスケレドモ、此等ノ程度ナルモノハ出来ル丈ケ発達サセルトシテモ、宜シク世界ノ需要ト供給トノ間ニ権衡ヲ保ツ上ニ於テ差支ナキ限リヲ以テ、何処迄モ進歩改善ヲ図ルノガ当然デアリマスカラ、年数・程度・分量抔ハ定メヌ方ガ却テ良カラウ斯ウ云フ所カラ殊更ラ蚕糸局ヲ置クト云フコトハ、最モ此目的ヲ遂行スル上ニ必要欠クベカラザルモノデアルト云フノガ、即チ此委員会ニ於キマシテ第一ニ之ヲ掲ゲテ、之ヲ以テ蚕業奨励ノ機関トシテ設ケラルベキ必要ヲ認メタル所以デアリマス、之ニ就キマシテハ第二・第三――是ハ先キニモ申シマシタ通リ「蚕糸業ノ発達及改善ニ関スル件」ニ書イテアリマスル第二・第三ニ当ルノデアリマス、ツマリ此等ノ施設ニ付キマシテハ特別委員会ニ於テモ異議ノナキ点デアリマス、ソレナラ第四ニ於キマシテ蚕種ノ統一改良ヲ期スルガ為メニ左ノ施設ヲ行フコト、此箇条ニ付キマシテハ試験所ヲ置クト云フノヲ改メマシテ、固ヨリ統一ヲ図ルト云フコトノ基礎ノ改マラナイ以上デハ、須ラク試験所ト云フガ如キ不明瞭ナル名義ヲ以テセムヨリハ、明カニ原種製造所ト云フ名義ニシタ方ガ良カラウト云フノデ、試験所ト云フノヲ改メテ国立原種製造所ト為シタル所以デアリマス、其他ニ於テハ準備ノ整フ間ハ十分ノ一ニ該当スル原蚕種ヲ道府県ニ配付スルト云フノデアリマスガ、年々多少ノ増加ヲシテ終ニ是ガ統一ヲ期スル目的デアル以上ハ、少ナクトモ十分ノ一以上ノ原種ハ道府県ニ配付スルガ良カラウト云フ所カラ、「少クトモ」ト云フ文字ヲ加ヘテ、施行ノ点ニ一ノ修正ヲ加ヘタ訳デアリマス、ソレカラ漸次製造高ヲ増加シ強制的ニ全国ニ統一ヲ図ルト云フコトニシテ、統一ノ目的ヲ達スル上ニ於テ意味ヲ明瞭ニ致ス所カラ、斯様ナ字句ニ改メマシタノデアリマス、夫レカラ当
 - 第56巻 p.404 -ページ画像 
局者ノ差出サレタル原案ニハゴザイマセヌガ、第二「国立原蚕種製造場ニ官民合同ノ評議員若干名ヲ置キ、蚕種ノ選定其他重要ノ事項ヲ議セシムルコト」、是モ亦必要ト認メタル箇条ノ一ツデアリマシテ、是等重大ナル事業ノ遂行、及ビ是ヲ完全ニ致スト云フノ目的ヲ達セムガ為ニハ、是等蚕種ノ改良ニ関スル所ノ機関ヲ設ケテ、而シテ其道ニ精通スル人達ヲ集メテ、此当局者ノ諮問機関ト為スト云フコトハ、極メテ必要ナルコトデアルト云フノガ、即チ国立原蚕種製造所ニ此官民合同ノ評議員若干名ヲ置イテ、蚕種ノ選定其他重要ノ事項ヲ議セシムルト云フ箇条ノ必要ヲ認メテ此ニ之ヲ加エタル所以デアリマス、第三ニ於キマシテモ略々原案ト異ナル所ハゴザイマセヌガ、其中「政府ヨリ配付シタル原蚕種ヲ基礎トシ、且政府配付原蚕種ノ普及ニ到ルマデ」ト云フ文字ヲ此ニ加ヘテ下ニ「地方在来種中優良ノ物ヲ撰ンデ」サウシテ「管内ニ於ケル蚕種統一ニ関スル施設ヲ行ハシムルコト」ト云フノ必要ナル条件トシテハ、政府ノ配付シタル所ノ原蚕種ノ、普ネク一般ニ及ブト云フマデノ間ハ斯様ナコトニスルト云ウテ、是亦少シク意味ヲ明カニ致シタ主意デアリマス、ソレカラ第五ニ於キマシテハ、第一・第二ハ原案ト異ナル所ハゴザイマセヌ、第三ニ至リマシテハ、唯ダ乾繭―乾シタル所ノ繭、此一ツヲ此箇条ノ中ニ挿加ヘタノデゴザイマシテ、其他ハ唯ダ文章ガ、共同ト云フモノガ本箇条ニアル所ヲバ取ツテ、サウシテ共同経営ト云フコトデ以テ、稚蚕ノ飼育ニ於ケル共同又生糸・繭及ビ糸ノ共同販売、総テノ点ニ此共同的ノ経営ヲ奨励スルト云フコトヲ玆ニ意味イタシマシタノデ、唯ダアトハ文章ガ改マリマシタバカリ……ソレカラ此第四ニ於キマシテモ「製糸工女ノ養成及保護」、此「及保護」ノ三字ヲ此一ケ条ノ中ニ加ヘマシタバカリノコトデアリマスガ、併シ此保護ノ二字ハ極メテ製糸工女ノ養成ヲ致シマスルニハ適スル一箇条トシテ要用ナル点デアラウト云フ所デ、此ニ加ヘタ次第デアリマス、ソレカラ第六・七・八・九ハ原案ト異ナル所ハゴザイマセヌ、第十ニ至リマシテハ、蚕種、ソレカラ繭糸・桑葉、此運搬ニ付キマシテハ特ニ政府ニ於テ注意ヲ為シ、特別ノ便宜ヲ図ラレタイト云フコトハ、是ハ此業ノ発達ヲ図ルニ付イテ極メテ必要ノ事項ト云フ考ヘヨリ、此ニ第十ヲ加ヘタノデアリマス、ソレカラ繭ノ売買ニ関スル所ノ弊害ハ、各地少ナクナイト思フ訳デアリマスルデ、其弊害ヲヲ矯正スル所ノ方法ヲ講ズルト云フコトモ亦此蚕種ノ統一及ビ蚕業ノ発達、及ビ改善ヲ図ルト云フ上ニ付イテハ、極メテ重要ノ一ノ箇条デアラウト云フ考ヘヨリ、委員会ニ於キマシテハ、此箇条ヲ附加ヘタト云フ次第デアリマス、要シマスルニ以上ノ点ガ即チ委員会ニ於キマシテ、大体決議イタシタ趣旨ヲ御報道イタシマスル所以デアリマシテ、其箇条ハ既ニ御手許ヘ差上ゲテ置キマシタル通リノ次第デアリマス、是ニ付キマシテハ、其道ニ精シキ方ニモ御有リニナリ致シマスルデ、御質問等ニ付キマシテハ、宜シクドウゾソレヨリ御答ヘ下サルヤウニ相成リタイ、此段一応御報告申上ゲテ置キマス
○六番(農学博士横井時敬君) 少数意見トシテ反対ヲ持出サウト思ヒマス、今ガ宜シウゴザイマスカ、何時ガ宜シウゴザイマス
○議長(小松原英太郎君) 唯今宜シウゴザイマス
 - 第56巻 p.405 -ページ画像 
○六番(農学博士横井時敬君) 然ラバ御許シヲ蒙ムリマス、私ハ少数而カモ私ニ賛成ノ者ニ僅カニ一人デアリマス、極々少数デアリマスケレドモ、大々的反対ノ意見ヲ有シテ居ルノデ、其反対ノ要領ニ付イテ申上ゲタイト思ヒマス
  〔「登壇ヲ願ヒマス」ト呼フ者アリ〕
○議長(小松原英太郎君) コチラヘ登壇ヲ……
  〔農学博士横井時敬君登壇〕
○六番(農学博士横井時敬君) ソレデハ御命令ニ依リマシテ此所ニ登壇イタシマシテ、一応極簡短ニ申上ゲマス、昨日ハ大分長ウゴザイマシマタ、ソレデモマダ私ハ満足イタシマセヌ、可ナリ長イガ、今日ハ極々簡単ニ申上ゲマス、抑々此案ノ骨子トスル所ハ、蚕種ノ統一ト云フニアツテ、アトハ枝葉ニ止マリマス、其点ヲ主トシテ私共ノ反対ナル所ヲ申上ゲタイト思ヒマス、抑々蚕種統一ナドト云フコトハ、随分古クカラ是ハ其蚕糸家ノ間ノ話題ニ上ボツテ居ツタト言ウテ宜シイ、随分何トカ会ノ大会ノ決議トカ云フモノニモ持出サレモ致シマシタ、詰ル所此問題ハ極々軽ルイ問題デ、之ヲ大キクヱライ問題トシテ取扱ハレルノガ実ハ不思議デ堪ラヌ、抑々此問題ノ因テ起ル所以ハ、製糸家、而カモ無力ナル製糸家、金モ無ケレバ力モ無イ製糸家ガ、ドウモ誠ニ是ハ繭ガ不揃ニナツテ厄介ダ、一ツ揃ツタモノニシタイ、サウスルニハ種ヲ良イ物ニシタラ出来ヤウト云フノデ、其実ハ悪ルイ製糸家デ、良イ製糸家ニ掛レバ中々良イ物ガ出来ル、マアソレ位ノ実ハ問題デアル、所デ昨年アタリデスカ一昨年、生糸ガ非常ニ下ガリマシタ、殊ニ良イ糸ト悪ルイ糸ノ間ニ非常ナル差ガ付イタ、ソコデ是ハ一ツ良イ糸ヲ造ラナケレバナラヌ、今ハ余ホド減ツテ居リマスガ、其時ハ余ホド莫大ノ差デアツタ、ソコデ良イ糸ヲ造ラナケレバナラヌ、良イ糸ヲ造ルニハドウシタラ宜カラウ、繭ヲ一定シナケレバ、是ハ到底良イ糸ハ出来ヌ、斯ウ云フ話ガ本デアツテ、ソレ程考ヘハ無クシテ、大方ソレガ宜カラウ、ソレニハドウスル、蚕種ノ統一、斯ウ云フコトニナツタ ○中略 蚕種ヲ如何ニシテ統一ヲナサルカ、統一スルト云フコトハ実ハ出来ナイ、名ノミノ統一デ其実ハ統一ガ出来ナイ、現在蚕種ハ二十種モ五十種モアル所デ、到底一ニスルコトハドウシテ出来得ベキコトデナイ、サウ云フコトハ知ラヌ養蚕家達ノ言フコトデ、サウ云フコトガ出来ベキモノデハナイ、ソコデ数ヲ減ジテ往ク、数ヲ減ジテ往ツタ所ガ、ソレハ名ノミ減ツタノデ、実際ハ何ニモ減リヤアセヌノデス、ソレデ方々デ飼ハレテ居ル、北海道カラ九州マデ飼ハレテ居ル、所デ各地方ノ事情ニ由リマシテ、色々ノ人ガ色々ノ飼ヒ方ヲヤツテ来レバ矢張リ相モ変ハラズ名ノミ統一デ、繭ノ区々ト云フコトハ到底免カレルコトハ出来ナイ、之ヲヤツテ見タ所デ矢張製糸家ノ下手ナ奴ハ良イ繭ト糸ハ決シテ出来ヌト云フコトニ結局ナツテ、アヽコンナコトデアツタカト云フコトニ終ルト云フコトハ鏡ニ懸ケテ見ルガ如ク、サウ云フ愚ナコトヲ今更国家多事ノ際百万円ヲ費シテヤラウト云フコトハ私ハ到底詰ラヌ問題デアル、有力ナ製糸家ノ論モ屡々聞キマシタガ、ソンナコトハ詰ラヌコトデアル、或ル製糸家ノ如キ現ニ公言シテ居ル、サウ云フコトハ下手ナ製糸家、詰ラヌ製糸家ガ言フコトデ、何モ不都
 - 第56巻 p.406 -ページ画像 
合ノナイコトデアル、繭ガ揃ハナケレバ良イ糸ガ出来ヌト云フ、ソンナ馬鹿気タコトヲ云フモノデナイ、是ハ極端デアリマス、揃ツタ方ガ良イ糸ガ出来ルニ相違アリマスマイ、然ラバ必要ガアルデナイカト云フ御尋ガアリマセウガ、抑々揃ヒツヽアル、今日唯今俄ニ斯ウ云フ問題ガ出ル筈ガナイ、段々変ツテ来タ、私ハズツト前カライロイロ共進会・博覧会ノ審査ニ往ツテ、斯ウ云フ繭ニハ良イ点ヲ与ヘヌト云フコトカラ、既ニ段々揃ツテ往ツタ、揃ツタ証拠ハ昔ハ黄繭ト云ツテ黄色ナ繭ガアツタ、ソレガスツカリナクナリマシタ、鬼シボト云フ一時非常ナ流行ノモノガアリマシタガ、是ガスツカリナクナリマシタ、ソレカラ赤引ト唱ヘル、是モ大抵無クナツタト思ヒマス、各地方デハ必要ニ応ジテ大キナ製糸家ガ或ル所デ斯ウ云フ繭ヲ造ツテ呉レ、斯ウ云フ繭デナケレバ厭ヤダト云フ様ナコトガアツテ、既ニ京都府ノ如キ殆ンド一定シタノデアリマス、各地方農商務省カラ御廻シニナツタ参考材料ヲ能ク御覧ニナレバ、各地方四種、五種位迄一定シテ居ル、此上一定ト云フコトハドウカ、モウ既ニ六号マデ往ツテ居ル、此以上四本、三本、二本モ進ムカ、ソレニ百万円ヲ特ニ投ズルト云フコトハドウモ考ヘラレス、ソレヨリマダマダ必要ナモノガアル、是ハ極ク小サナモノデ、是ヨリ必要ナモノガ製糸業ノ改良デアル、是ノ保護デゴザイマス、是ノ発展ヲ計ルノデアル、是ニハ大々的問題ガ控ヘテ居ツテ是サヘ旨クヤツテ往ケバ蚕種統一ナドハ何ノコトハナイ、小サイ問題ニナツテ仕舞フ、此統一ハヤツタカラト云ツテ製糸家ハ困難シテ倒レントスル有様ト云フコトハ少シモ免レヌ、糸ノ改良モ是ガ為メニ進マウトハ私ハ頓ト考ヘルコトハ出来ヌト思フ、養蚕上カラ申シマスレバ良イ繭ヲ―蚕ノ種類ヲ拵ヘテ貰ヒタイト思ヒマス ○中略私ハ今日短ク御話スル御約束ヲ致シマシタカラ、極ク極ク取リ摘ンデ大要ニ就イテ少数意見ヲ述ベテ置キマス
○四十九番(男爵田健治郎君) 唯今横井博士ヨリ反対ノ御演説ガアリマシタ、チヨツト簡単ニ修正案ヲ賛成スル所以ヲ申述ベタイ
○議長(小原英太郎君) コツチヘ御登壇ヲ願ヒマス
  (男爵田健治郎君登壇)
○四十九番(男爵田健治郎君) 私ハ委員ノ一人トシテ此修正案ヲ成立シマシタ責任ノ一部ヲ担フテ居ルノデゴザイマスカラ、一応此修正案ノ維持説ヲ述ベルノデアリマス、此横井博士ノ反対論、是ハ独リ修正案ニ御反対ノミナラズ原案―原案ト云フテハ可笑シイカ知リマセヌガ農商務省ノ御調ベノ案ニモ無論御反対ト云フ訳ト了解シテ居リマスト云フモノハ大体横井博士ハ蚕種統一ノ必要ナシト云フノヲ論拠ニセラレテ居ルヤウデアリマス、詰リ云ヘバ製糸業サヘ改善スレバ其材料タル所ノ繭ハ何物デアツテモ同ジコトデアル、製糸業改善セヌト云フナラバドンナ良イ繭ヲ持ツテ往ツテモ一向効能ガナイモノデアルト云フノガ御意見ノ重モナル要点デアツタヤウデス、所ガソレハ誠ニ私共素人デ一向分リマセヌガ、常識ヲ以テ考ヘテモドウシテモサウハ思ヘナイ、成程製糸業ノ改善発達ト云フコトハ是ハ無論必要デゴザイマセウ、其点ニ至ツテハ私ハ全ク御同感デアリマスケレドモ、此製糸業ノ改善発達ヲ催ス方法ヲ斯クシテ付ケタガ宜イト云フ横井博士ノ御議論
 - 第56巻 p.407 -ページ画像 
ガアリマシタナラバ、私ハ又熱心以テ御賛成申上ゲルカ知リマセヌガ其方ノコトハナクシテ、単ニ製糸業ノ発達セヌ以上ハ蚕種ノ改良ハ無益デアルト云フニ至ツテハ、余リ極端ナ御論ノヤウニ伺フノデアリマス、ト云フモノハ凡ソ物其ノ物ニ就イテ材料ノ善悪ト云フコトガ生産物ノ良否其ノ物ニ関係セヌト云フ筈ハドウシテモナイト私共信ズル、成程製糸業ガ発達シタナラバドンナ繭ヲ持ツテ往ツテモ立派ナ製糸ガ出来ルト云フコトハソレハアリマセウケレドモ、ソレハ比較的良イ材料ヲ以テスルヨリモヨリ大キイ労力費用ヲ投ジテヤレバ出来ルノデアル、成程試験場ナリ学校ナドデ御拵ヘニナルノハ労力費用ナドハ格別御構ヒナイカ知ランカラ、ソレハドンナ贅沢ナ製糸術ヲ用ヒテドンナニ費用ガ掛ツテモ構ハヌカラ、悪イ繭カラ立派ナ糸サヘ拵ヘレバ是デ立派ナモノガ出来ルデナイカ、ドンナ材料デモ立派ナモノガ出来ルデナイカト言ハレマスガ、私ガ生産調査ト云フ上カラ言フノハ全ク国家ノ経済論デアツテ、即チ費用ノ関係デアル、成ルベク労費ヲ少クシテ成ルベク利益ヲ多クシテ、若クハ価ヲ廉クシテ外国ヘ輸出スルト云フコトヲ主眼トシテ行ク以上ハ、迚モ労費ヲ構ハズシテ技術バカリ良クナツタラ、材料ハドンナモノデモ必ズ立派ナモノガ出来ルト云フコトハ言ヘナイノデアリマス、ソコデ考ヘテ見ルト云フト、製糸ノ原料タル所ノ繭ト云フモノガ良イカ悪ルイカト云フコトハ、非常ナ労費ノ多少ト云フコトニ関係スルト云フコトハ、是ハ技術家諸君モ認メテ居ルヤウデゴザイマス、シテ見ルト云フト原蚕種ノ統一ト云フコトハ決シテ無用ドコロノコトデナイ、非常ニ必要ナコトデアル、必要ナコトデアル以上ハ、出来得ルモノナラバ是ハ統一シタイト云フノガ吾々ノ宿志デアルノデアリマス、ソコデ原案ハ之ヲ幾ラカ試験的ノ意味ヲ籠メテヤラウト云フコトニナツテ居ツタノヲ、ソレヲ成ルベク実行的ニヤツテ戴キタイト云フコトニナツタ修正ニ止マルノデアル、ケレドモ之ヲ出来ヌコトヲ急ニスルト云フ意味ハ持タナイノデアル、何年ヲ限ツテヤル、五年ヲ限ツテヤルトカ、六年ヲ限ツテヤルト云フヤウニ年期ヲ限ツテ、之ヲ良イ結果ガアラウガナカラウガ強行的ニオヤリナサレト云フコトヲ迫ル積リハナイノデアル、今日国費多端ノ場合ニ数十万円、事ニ依ツタラバ数百万円ノ国費ヲ費ス事業デゴザイマスルガ故ニ唯試験的ト云フコトデハ困ル、ドウシテモ実行的ニナラナケレバナラヌガ、其実行的ト云フニハ十分ナル安心ヲ与ヘル如クニシテヤツテ戴カナケレバナラヌト云フノデ、年期等ハ極メズシテ、結局統一ヲ期スルコトニスルト云フノガ修正案ノ趣意デゴザイマス、其他委員会ニ於キマシテハ縷々数万言ノ御意見ヲ承リマシタケレドモ、横井博士ハ今日極メテ簡単ニ御述ベニナリマシタカラ、私モ唯其簡単ノコトヲ以テ御答致シマス、ドウゾ修正案ニ御賛成ヲ願ヒマス
○六十八番(木村艮君) 議事ノ進行ニ付テ動議ガアリマス
○議長(小松原英太郎君) チヨツト御待チ下サイ
○番外(農務局長下岡忠治君) 番外カラ申シマスガ、此修正ヲセラレテ御廻シニナリマシタ特別委員会ノ決議デゴザイマス、之ニ付キマシテハ政府ハ全体ニ於テ同意ヲシテ居ルノデゴザイマス、委員長カラモチヨツト其御言葉ガアツタヤウデアリマスガ、重ネテ番外ノ方カラ申
 - 第56巻 p.408 -ページ画像 
シテ置キマス
○六十八番(木村艮君) 先程カラ伺ヒマスルト既ニ御討論ノヤウデゴザイマスガ、私ハ此際委員会ノ経過、即チ報告、ソレニ付テ数ケ条質問シタイコトガゴザイマス、如何デゴザイマセウカ、先ヅ質問ヲ致シマシテ、ソウシテ討議ニ入ル順序ニ致シタイト思ヒマス
○議長(小松原英太郎君) 斯ウ致シタイト考ヘマスガ、諸君ニ御諮リ致シマス、是カラ各項ニ付テ之ヲ議題ト致シマシテ、其事項ニ付テ質問ガゴザイマスレバ質問ニナルコトニ致シマシテ、各項逐次議シテ行クコトニ致シタイト考ヘマス
○六十八番(木村艮君) 私ハ議事ノ進行上ニ付テ議長ニ申上ゲマスガ此項目以外ニ重大問題ニ付テ委員会ノ模様ヲ伺ヒタイノデアリマス、ソウ致シマセヌト此各項ニ付テノ賛否ヲ決スル際ニ是ハ惑ヲ生ズル感ジガゴザイマスカラ、議事ノ進行上ニ付キマシテ、先ヅ全体ニ付テ質問ヲ御許シ下サイマシテ、サウシテ議長ノ御宣告ノ通リ進マレンコトヲ御希望致シマス
○議長(小松原英太郎君) ソレデハ宜シウゴザイマス
○六十八番(木村艮君) ソレデハ私ノ第一ニ伺ヒタイノハ、先程横井博士ナリ田男爵ノ御議論ノゴザイマシタ製糸ト云フ事業ニ付テハ、委員会ニ於テ如何ナル御調査ヲナサレタノデアルカト云フコトヲ第一ニ伺ヒタイノデアリマス ○中略
○番外(農務局長下岡忠治君) 製糸ノ改良ト云フコトノ蚕糸業界ニ於テ重大ナ問題デアルト云フコトハ申ス迄モナイコトデゴザイマスガ、此点ニ付キマシテハ矢張蚕糸業ノ大方針ヲ極メルト云フコトニハ一ノ重大ナ問題トシテ此案ノ中ニモ少シヅヽハ加ヘテ居リマス、併ナガラ是デ全部ヲ尽シテ居ルト云フコトハ申サレマセヌガ、今製糸業ノ現況ニ対シテソレデハドウ云フ方法ヲ具体的ニ取ルカト云フコトヲ言ハレマスルト、是ハナカナカ困難ナ問題デゴザイマス、唯矢鱈ニ金ヲ補助スル訳ニ往カズ、随分日本ノ製糸家ノ現在困難ナル状態ニ居ルト云フコトハ皆様御承知ノ通リデアル、何トカ之ニ対シテ最モ良イ救済方法ノ途ヲ講ズルコトガナイカト云フコトハ種々調ベテ居リマスガ、第一玆ニ出シテ居リマスル一ノ眼目トシテヤツテ居ルノハ製糸工女ノ養成保護、製糸業ト云フコトニ付テハ一番製糸工女ノ問題ガ重大問題ニナツテ居リマスカラ、是レノ養成方ナリ或ハ保護ト云フヤウナコトニ付テ如何ナル方法ヲ取ルカト云フノハ、矢張製糸業ノ将来ヲ発達セシムル上ニ付テノ最モ大事ナル問題トシテ之ヲヤラウト云フ考デ玆ニ掲ゲタノデアリマス、其以外ニハ例ヘバ機械ノ発明、聞ク所ニ依レバ伊太利アタリデハ既ニ八口取リヲヤツテ居ル、日本デハヤツト三口、高々四口取リト云フコトヨリヤラヌノデ、仏蘭西ヤ伊太利デハ六口取リヲヤルト云フコトハ大分前カラ聞イテ居リマシタガ、近頃伊太利デハ八口取リヲヤツテ居ルト云フマデ機械ノ技術ハ進歩シテ居リマスガ、一ハ日本ハ機械ガ悪ルイ、術ガ拙イ、一ハ蚕種統一ノ問題ニ聯関シテ原料ガ不揃デアルト云フコトガ原因デアルト思ヒマスガ、斯ウ云フ各種ノ聯関シタ問題ヲ有ツテ居ルノデアルカラ、一方ハ原料ヲ揃ヘルコトヲヤルト同時ニ、一方ハ機械ヲ成ルベク良イ発明ヲサスコトヲシ、又
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工女ヲ熟練セシムルト云フ方法ヲ取ルナラバ、或ハ今日ノ二口カ三口取ツテ居ルモノガ少クトモ四口、五口位ニスルコトガ出来ルカモ知ラヌ、此事ガ一ツ出来ルカ出来ヌカト云フコトガ製糸業ノ経営上非常ナ関係ガアラウト思ヒマス、併シ今ソレハ直ニ出来ル訳デアリマセヌカラ、試験的ニ是カラ研究調査ヲ懈ラズヤリタイト云フコトガ、「研究調査ニ関シ必要ナル施設ヲ為ス」ト云フ中ニ籠ツテ居ル積デアリマスソレカラ日本ノ製糸業ノ発達ノ状態ハ、座繰、足繰ハ別トシテ、彼ノ信州ノ大規模ノ遣リ方ノ如キハ結構ノコトデ、諏訪ノ奥地デアノ通リ大発達ヲシタコトハ、アノ地方ノ気候ト土地ノ人ノ熱心トノ結果カラ出タコトデ結構デアリマスガ、大体ノ趨勢カラ申シマスルト、将来ハ寧ロ地方的ニ分散シテ発達スルト云フ状勢ハ必然已ムヲ得ナイノデアリマス、或地方ニ養蚕ガ出来テ繭ガ出来レバ、亦其地方ニ相当ナル製糸工場ガ興ルノデアリマス、信州ハ信州デアノ通リヤツテ往クトシテモ、余リ集中的ニ成ラズシテ分散的ニ発達スルダラウト云フ考ヲ持ツテ居リマス、ケレドモ今急ニ人為的ニ何ウスルトカ斯ウスルトカ云フコトハ出来マセヌカラ、大体サウ云フ趨勢トスレバ之ニ応ジテ製糸業ノ発達改善ニ就テ、政府ハ注意シテ往ケバ良カラウト思フノデアリマス、大体政府ハサウ云フ考ヲ持ツテ居ルノデアリマス
○中略
○議長(小松原英太郎君) ソレデ第一カラ第三マデヲ議題ニ供シマス
○二十三番(田川大吉郎君) 第一項ニ付キマシテ政府ノ方ノ御意見モ聊カ承リマシタガ、私ハ委員長ニ向ツテ之ヲ質問シタイノデアリマス蚕糸局ヲ新設スルヤ否ヤト云フコトハ、日本ノ現行官制ノ組織ニ向ツテ、多少ノ改廃ヲ試ミントスルノ計画ト思フノデアリマス、生産調査会ニ果シテ斯ノ如キ範囲ニ迄立入ツテ意見ヲ立ツルノ権利、若クハ義務アルカハ私ニ取ツテハ疑問デアリマス、ケレドモソレハ疑問トシテ玆ニ提供スルコトヲ避ケマシテ、蚕糸局ヲ新設スルコトヲ御希望デアリスマレバ、之ヲ希望事項トシテ考ヘテ宜シイノデアリマスカ、換言スレバ農商務省其他官制組織ニ関係アル機関ハ、此問題ニ付テ審査ノ余地アルヤ、生産調査会ハ会ノ決議トシテ之ヲ当局ニ向ツテ強ヒントスルノ意思ナルヤ、之ニ付テ委員長ノ御答ヲ煩シタイノデアリマス
○四十一番 (子爵加納久宜君) 唯今ノ御尋ニ就テハ、此生産調査会ハ立法府デハナイノデアル、要スルニ蚕種統一ノ問題ヲ決定スルニ付テ必要ナリト認ムル施設ハ、仮令是ガ官制ニ亘リマセウトモ兎ニ角ニ必要ト認メタル事項ヲ列記シテ農商務大臣ノ諮問ニ回答シテ、略ホ是レナラバ此目的ヲ達スルニ付テハ差支ナキ丈ケノ施設ニナルダラウト云フ考ヲ述ブルノガ当然ト信ジマスコトデアリマシテ、敢テ法律ノ中ニ立入ツテ此設置ヲ強ユルガ如キ意思デ答申ヲシタ訳デナイ、唯斯ノ如キ施設ヲセラルヽガ蚕種統一ヲ為スニ就テ必要ナル機関デアラウ、斯様ナル考ヲ以テ致シマシタノデアリマス
○五十二番(法学博士一木喜徳郎君) 私ハ一項ニ付テ聊カ意見ヲ述ヘタイ、是ハ別段御質問ヲ致サズトモ特別委員ニ於テ御修正ニ成ツタ趣意ハ自カラ取ルコトガ出来ルト思フ、先刻横井博士ヨリ此事ニ付テ一言セラレマシタガ、私ハ横井博士ノ如ク此蚕種統一ト云フコトニ重キ
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ヲ措カナイガ故ニ蚕糸局ヲ要シナイト云フ意味デハナイ、私ハ蚕糸統一ナルコトハ方針トシテハ極メテ良イコトトヽヘル《(考)》、其方法ニ至リマシテハ意見ヲ異ニスル所ガアルカ知リマセヌガ、大体此方針ニ賛成シヤウト思フノデアリマス、但シ此目的ヲ達スルガ為メニ敢テ蚕糸局ナル特別ノ局ヲ設置スルノ必要ガアルカ否ヤト云フコトニ付テ疑ヲ持ツテ居リマス、私ハ原蚕種ノ製造所其他実地的ニ蚕業ノ改良発達ヲ図ルベキ設備ニ向ツテ拡張ヲ加ヘ、若クハ新設スルコトニ付テハ全然同意スルモノデアリマスガ、唯其事務ノ為メニ特ニ一局ヲ設ケルコトハ私ハ必要ヲ認メナイ、私ハ此局ガ必要デアルト認メナイ計リデナク、又是レガ統一ノ事業ヲ図ルニ付テ差障リヲ来タシハシナイカ、少ナクトモ一般農業ノ発達ノ上ニ障害ヲ来シハセヌカト云フコトヲ憂ヒマス、此特別委員ノ御調ベニナリマシタモノハ、原案ニ比シマスレバ、多クノ点ニ於テ改良ヲ加ヘラレテ居ルコトヲ認メマスガ、此点ニ至リマシテハ、遺憾ナガラ特別委員ノ御調査ニ同意ヲ表スルコトハ出来ナイノデアリマス、何故必要ナキノミナラズ、却ツテ農業ノ改良発達ニ差障リヲ生ジハセヌカト云フコトヲ恐レルカト申セバ、此案ニアリマスル如ク、養蚕業ハ主トシテ農家ノ副業トシテ経営セシムルヲ以テ方針トスルト云フコトハ、原案ニ於キマシテモ、亦特別委員ノ御調ベニナツタノモ、執ツテ居ル所ノ方針デアリマス、此主業ト副業ト常ニ調和ヲ保タウトスルコトガ、最モ必要ナルモノデアル、併シ又此間ニ動モスルト衝突ヲ生ズル虞レガアルト考ヘマス、ソレデ此各種生産業ノ間ニ成ルタケ聯絡統一ヲ保ツテ、其間ニ衝突ナカラシムルト云フコトハ、調査会ニ於テ諸君ガ御心配ニナツテ居ル所デアリマシテ、現ニ特別ニ建議スラ出テ居ル次第デゴザイマス、此趣旨ヲ達スルガ為メニハ、農務局ノ今日ノ組織ニシテ尚ホ足ラザル所ガアレバ、之ヲ拡張スルト云フコトハ別段デアリマスガ、此事業ヲ発達セシムル為メニ、特ニ一局ヲ置イタナラバ、一般農業ト製糸業トノ聯絡ノ間ニ、却ツテ困難ナルコトガ動モスルト生ジハセヌカ、将来ニ対スル御意見トシテ、寧ロ諸君ノ御精神ニ牴触スル虞レヲ生ジハセヌカト思ヒマスカラ、私ハ第一項ハ削除セラレムコトヲ希望シマス
○六十七番(農学博士佐藤昌介君) 本員ハ第一項ニ付キマシテ、反対ノ意見ヲ有ツテ居リマス、唯今一木君カラ詳細御弁明ニナツテ居リマスガ、本員ハ今日蚕糸業ノ行政ヲ分割イタシマスルコトハ、農政ノ統一ヲ図ル上ニ於テ却ツテ遺憾ナル点ガアルト感ジテ居リマス、私共ハ蚕種統一ニ付キマシテハ一個ノ意見ヲ有ツテ居リマスガ、此方ノ反対ヨリシテ、此第一項ノ反対ヲ表明スル訳デハゴザイマセヌ、畜産ノ行政ニ関シテ現今ニ於テ分割イタシテ居リマスノハ、甚ダ畜産業ノ発達上ニ於キマシテ、阻礙スル所ノモノガアルト云フコトヲ認メテ居リマス、今農業ニ付キマシテモ、此農業ト、蚕糸局ガ出来マシタコトデアリマスト、桑園ニ関スルコトヽ、或ハ米麦ノ耕作ニ関スルコトヽ(聴取シ難シ)現ニ此生産調査会ニ於テ、予テ建議案等ガ出テ居リマスル所ノ、畜産業ニ関スル行政ノ統一ト矛盾ヲ致スヤウナコトモ起リマスル故ニ、私ハ強ヒテ蚕糸局ヲ此原々種製造場ヲ置クガ為メニ、特設セラルヽ必要ヲ認メテ居ル者デゴザイマセヌ、農務局ニ於テ試験・技術
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ヲ監督ナスツテ、綽々余裕アルモノデハナカラウカト私ハ信ズル、故ニ第一項ニ付キマシテハ遺憾ナガラ反対ノ意見ヲ表白シテ置キマス
○中略
○三十三番(大岡育造君) 此第一項ニ付キマシテハ、大分御反対ノ声ガ往々聞ヘマスヤウデゴザイマス、我々ガ此ニ之ヲ加ヘマシタ所以ヲ明カニシテ置キタイト思ウテ一言イタシマス、先刻一木君ノ御説デ、新タニ蚕糸局ヲ置クト云フガ如キハ、行政ノ統一ヲ妨ゲルト云フ御主張デアツタヤウデアリマス、私共ノ考ヘル所デハ、唯今桑田君カラ申シマシタヤウナ訳デ、農政ヲ挙グルニ一層ノ便宜ヲ得ルデアラウト考ヘテ居ル、一局ハ異ナリタル一国ノ如クニハ考ヘナイノデ、同ジク農商務省内ニ於テ事務ヲ挙グルノ方法トシテ設クルノデ、例ヘバ同ジ農政ノ中ニモ現ニ農務局ト云フモノガアリ、山林局ト云フモノガアル、是ハ広イ意味ニ於テハ同ジモノニ違ヒナイ、山林局ガ別ニ置カレタルガ為メニ、両方格別ナル主意ヲ以テ政治ノ方針ト為スト云フヤウナコトガアレバ、是ハ大イナル妨ゲヲ為スニ違ヒ無イ、併ナガラ一大臣ノ下ニ在リ、一次官ノ下ニ在リ、此統一者ノ下ニ置カルヽ局デアレバ、昔ノ各藩割拠ノヤウナコトニ考ヘルノハ少シ窮窟ノコトデハアリマセヌカ、自然ノ傾向ヲ考ヘテ見マスルノニ、昔ハ今ノ農商務省ニ属スル事務ハ、之ヲ内務省ニ於テ執ツタノデアル、併ナガラ行政ノ実ヲ挙グル為メニ、各々其専ラニスル所ヲ撰ンデ、終ニハ農商務省ト云フモノガ出来、逓信省ガ出来タ、農商務省内ノコトヲ見マシテモ今ノ水産局ナルモノハ矢張一ノ農務局ノ中ニ在ツタ、併ナガラ水産ノコトヲ多ク運バセルガ為ニハ此必要ヲ以テ水産局モ出来タト私ハ覚ヘテ居リマス然ラバ一局ヲ設ケルト云フコト必ズシモ行政ノ進行ヲ妨ゲルト云フ御見解ニハ私ハ服シ難イ ○中略 ソレカラ田川君ノ何カ行政ノ権域内ニ侵入シテ越権ラシイ嫌ガアルカノヤウナ意味ノ御演説ヲ承リマシタガ、吾吾ハ無論サウ云フ意味デハナイノデ、尤モ之ヲ除クノ外ニ幾多吾々ガ加ヘタ修正即チ政府ガ同意セラレタ所ノ修正事項ヲ殊ニ別ニシテ希望事項トスルト云フコトハ、余リニ官憲崇拝ニ過ギタ次第デハナイカト考ヘマス、是ハ左程ノ御遠慮ニモ及ビマスマイト思ヒマスカラ御賛成ヲ願ヒタイ
○七十二番(若槻礼次郎君) 私モ此削除ニ賛成デアリマスガ、蚕糸局ヲ別ニ置ク必要ノナイト云フコトハ既ニ外ノ方カラ御述ベニナツタ通リデアリマス、又物ガ外国ニ輸出セラルヽコトガ多イカラ、生産高ガ多イト云フコトデ往キマシタラ、花莚局・製茶局ガ出来タリシナケレバナラヌコトニナリマスノデ、大体農務局デヤツテ差支ナイ、局ヲ分ケテ更ニ拵ヘル必要ハ何処ニモ発見スルコトハ出来ヌト思ヒマスノデ又仮リニサウ云フコトヲシタナラバ一層宜イト云フノダカラ、大体ニ於テ蚕種ノ統一ヲ計ルニ中央ニ斯ウ云フ原種ノ製造場ヲ拵ヘテ、地方ニ斯ウ云フモノヲ拵ヘルト云フコトヲヤル為メニ、場合ニ依ツテ蚕糸局ヲ置ク必要ガアルトセラルヽナラバソレデ宜シイ、生産調査会ガ何モ官制ノ案ヲ出シテ斯ウ云フ官制ヲ設ケラレタラ宜カラウト云フコトマデ研究スル必要ハナカラウト思ヒマス ○中略 生産調査会ガ議決スルト云フコトハ如何ニモ何カ必要ガナイコトヲ言フヤウニ思ヒマスカラ、
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第一ハ削除ニナリタイト思ヒマス
  (「採決々々」ト呼ブ者アリ)
○十六番(法学博士松崎蔵之助君) 私ハ此第一項ニ就キマシテハ一応当局者ナリ委員長ニ質問致シマシテ、ソレニ依ツテ実ハ決シタイ考デアリマス、誠ニ蚕糸業ノ改良或ハ発達ト云フコトハ必要ナコトデ結構ナコトデアリマスガ、ソレモ帰スル所ハ生産費ニ関スルコトデアリマシテ、若シ之ヲ期スルコトガ出来難イ、途方モナク生産費ガ殖ヘテ、或ハ支那、或ハ伊太利・仏蘭西等ノ製糸業ト競争ガ出来ナイヤウナコトデアリマスレバ、結局之ヲ為スノモ如何カト考ヘラレマス、既ニ私ガ聞ク所ニ依リマスレバ、日本ノ蚕糸業ニ就キマシテハ或ハ最大ノ生産費ニ達シハセヌカト考ヘラレマスヤウナ節モゴザイマス、是等ノ点ハ改良或ハ発達ヲ計リマス為メニ増シマス所ノ生産費ナドニ就キマシテハ、委員会ニ於テ如何ナル御説ガゴザイマシタカ、チヨツトソレヲ伺ヒタイノデ
○番外(農務局長下岡忠治君) 日本ノ製糸業ノ生産費ノコトノ御尋ネデゴザイマスガ、日本ノ製糸業ニ関スル生産費ハ割合ニ掛ルト云フコトハ事実デゴザイマス、段々労力ガ高クナツテ賃銀ガ高クナルニ伴ツテ幾分宛費用ガ上ルト云フ風ニ見ヘテ居リマス、先刻申シマシタ伊太利アタリノ様子ヲ聞イテ見マスト、無論賃銭ハ高イケレドモ、器械等ヲ非常ニ発明シテ労力節減ニ力ヲ尽ス為メニ、生産費ヲ比較シテ見ルト或ハ日本ヨリ少シ安ク出来ル点ガアルヤウニ考ヘラレル点ガアルヤウデゴザイマス、ケレドモ幸ニ日本ニ於テハ養蚕業ソレ自カラガ農家ノ副産デアリマスト原料ガドウシテモ安ク出来ル、伊太利ニ較ベテ見テ原料ガ安ク出来ル、労力モ伊太利ヨリ安イ、非常ニ生産費ガ高イト云フ意味デナイ、サウ云フ点カラシテ今日ニ於テ生産ハズンズン殖ヘテ往クト云フ状態デ、既往十年間ノ趨勢ヲ見テモ之ヲ仏蘭西・伊太利或ハ支那、其他ノ国ニ比較シテ非常ナ勢デ進ンデ来テ居ル、将来ノコトヲ考ヘテ見マスルト、成程是ヨリ先キハ或ハ生産費モ追々ニ上ルト云フコトハアルカラシテ、サウ云フ点ニ付テ幾分ノ弱点ト云フモノハナイト云フコトハ申サレマセヌケレドモ、大体カラ考ヘテ見マスルト日本ノ蚕糸業ノ前途ト云フモノハ非常ニ有望デアルト云フコトハ、是ハ争フコトガ出来ナイ点デゴザイマシテ、恐ラク此道ニ関係シテ居ラレル方々ハ誰レモ確信シテ疑ツテ居ラレナイコトヽ信ジテ居リマス
○九番(男爵渋沢栄一君) 是ハ全体ヲ一緒ニ採決ニナリマスカ
○議長(小松原英太郎君) 第一ダケヲ採決致シマス、第一ニ付テハ修正ノ御意見ガゴザイマスナラ第一ダケ一ツ先キニ採決致シマス、第一ヲ削除シタイト云フ御意見ガゴザイマス、ソレニ付テ採決致シマス、第一ヲ削除スルト云フ論ニ賛成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
  起立者 少数
○議長(小松原英太郎君)少数ト認メマス、第一ハ原案ノ通リ決シマス第二・第三之ニ付キマシテハ別ニ御異論モ出マセヌヤウデゴザイマス
○九番(男爵渋沢栄一君) 第二ニ聊カ修正ヲ加ヘタイ意見ヲ申上ゲマス、「養蚕業ハ主トシテ農家ノ副業トシテ経営セシムル方針ニ依リ飼育戸数ノ増加ヲ図ル」ト云フコトデゴザイマス、全体カラ今チヨツト
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松崎サンノ御説ガ出マシタガ、養蚕ナリ蚕糸ナリ共ニ努メテ費用ヲ節約シタイト云フコトハ、仮令番外カラノ、日本ノ蚕業ガシカク有望ニアルニセヨ、動モスルト費用ノ増シテ来ルト云フ虞レガアリマスカラ其意味ヲ種々ナル筋カラ注意シテヤラセタ方ガ宜クナイカト思ヒマス此箇条ノ下ニ何処カサウ云フ意味ヲ努メテ加ヘタイト考ヘマシタケレドモ、「副業トシテ経営セシムル方針」ニ尚附加ヘマシテ「増加ヲ図ル」ト云フ下ニ、「図リ且ツ努メテ其経費ノ節約ニ注意セシムルコト」ト云フ字句ヲ加ヘタイト云フ、即チ修正意見デゴザイマス
○中略
○四十三番(子爵曾我祐準君) 渋沢男爵ノ修正案ガ少シ分リ兼ネマシタカラ、今一応御朗読ヲ願ヒマス
○九番(男爵渋沢栄一君) 第二ノ条項ハ斯ウデゴザイマス、「養蚕業ハ主トシテ農家ノ副業トシテ経営セシムル方針ニ依リ飼育戸数ノ増加ヲ図ルコト」トゴザイマス、之ヲ「飼育戸数ノ増加ヲ図リ、且ツ努メテ其経費ノ節約ニ注意セシムルコト」、詰リ養蚕業ハ成ルベク費用ヲ節シタイ意見ヲ何レカニ加ヘタキ意見ニ過ギヌノデアリマス、ドウモ此箇条ノ中ニ加ヘマス場所ガ此所ダラウト思ツテ一字句ヲ附シタノデアリマス
○中略
○八番(益田孝君) モウ其本案ノ第二第三ハドウカ無クナツテ仕舞ヒマシタガ、私ハ渋沢男爵ノ修正案ガ第二ニ出テ居リマシタガ、其修正ノ意味ハ経費ノ節約ヲ期スト云フコトデゴザイマスルガ、即チ其意味ハ此事業ニ漸次機械ヲ用ヰテ其工費ヲ省ク工夫ヲ意味サレタコトヽ思ヒマスルカラ、是ハ矢張リ其項ヲ加ヘテ置クコトヲ賛成仕リマス、但シ其字句ハ節約ヲ為スノ方法ヲ講ズルト云フヤウナル意味ニ修正ヲシテ戴クコトヲ希望スル、即チ今ノ渋沢サンノ修正案ヲ賛成イタシマス
○中略
○議長(小松原英太郎君) ○中略 チヨツト渋沢男爵ニ申シマス「増加ヲ図リ――」モウ一度……
○九番(男爵渋沢栄一君) 「増加ヲ図リ、且努メテ其経費節約ノ方法ニ注意セシムルコト」、是ハ果シテ此字句ノ通リ屹度通ルモノデ無カラウト思ヒマス ○中略 全体ニ於テ倹約主義ヲ一言申シテ置キタイ意味デアリマス
○十六番(法学博士松崎蔵之助君) 私モ渋沢男爵ト益田委員ノ説ニ賛成デアリマスガ、ソレニ付イテチヨツト御相談イタシタイノデアリマス、字句ハ斯ウ云フコトニ致シタラ如何カト考ヘマシタノデスガ「且経費ノ節約ヲ図ル為ニ機械ノ使用ヲ奨励スルコト」ト云フヤウナ意味デハ如何デゴザイマセウカ
○九番(男爵渋沢栄一君) 器械計リデアリマセヌカラ、節約ノ方ニ注意スルト云ツタラ如何デス
○六番(農学博士横井時敬君) 今ノ渋沢男爵ノ御趣旨ハ誠ニ結構デアリマセウガ、相成ルベクハ先ノ方ニ一項ヲ御設ケ下スツテ、製糸業ノ方ニ御入レ下スツタラ誠ニ私ハ結構ダラウト思ヒマス、養蚕業ニ就イテハ経費ヲヒドク省クト云フコトヲ主トナサルノハ此案ノ全体カラ私
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ハ不同意デスガ、此案ノ全体カラ取ルト丁度反対ニナツテ経費ヲ節減スル結果繭ガ悪イト云フコトニナルノハ先ヅ当リ前ニナリマスカラ、チヨツト工合ガ悪イカラ、最モ経費ノ節減ヲ要スルノハ製糸ノ方ダラウト思ヒマスカラ、ソチラノ方ニ御加ヘニナツタラ如何カト思ヒマス
  (「採決々々」ト呼ブ者アリ)
○議長(小松原英太郎君) 採決ヲ致シマス、第二項ニ就キマシテハ渋沢男爵ノ修正ノ御意見ガゴザイマス、是ハ「飼育戸数ノ増加ヲ図リ、努メテ経費ノ節約ニ注意セシムルコト」、之ニ賛成ガゴザイマス、採決致シマス、渋沢男爵ノ修正意見ニ御同意ノ諸君ノ御起立ヲ乞ヒマス
  起立者 少数
○下略


生産調査会録事(第壱回) 第三三二―三三七頁 明治四三年九月刊(DK560114k-0003)
第56巻 p.414-415 ページ画像

生産調査会録事(第壱回)  第三三二―三三七頁 明治四三年九月刊
    明治四十三年六月二十四日午後一時二十五分開議
○上略
○十二番(伯爵寺島誠一郎君) 此際不正競争ノ取締ニ関スル件、特別委員会ノ経過並ニ結果ヲ御報告シタイト思ヒマスガ、宜シウゴザイマスカ
○議長(小松原英太郎君) 簡単デゴザイマスカラ如何デゴザイマセウ
  (「宜シイ」ト呼ブ者アリ)
    不正競争ノ取締ニ関スル件
  (伯爵寺島誠一郎君登壇)
○十二番(伯爵寺島誠一郎君) 此委員会ノ経過ノ報告ハ蒟蒻版摺ニシテ御廻シテアル通リデアルノデゴザイマス、極ク簡単ニ申上ゲルコトニ致シマス、抑々此不正競争ノ取締ニ関スル件ト申シマスノハ、営業上ニ於キマシテハ重大ナ問題デアリマシテ、競争ノ自由ヲ何処迄モ助ケテ商工業者ヲシテ健全ナ発達ヲセシメタイト云フノガ趣意ナノデゴザイマス、ソレヲ致シマス為ニハ不正競争ト云フモノハ何処迄モ十分ニ取締ルベキモノデアルト考ヘルノデアリマス、此度政府カラ不正競争トシテ取締ルベキ事項トシテ三件、玆ニ生産調査会カラ御出シニナツタ書類ニ掲ゲテアルノデゴザイマシテ、是カ三点ニ就キマシテ詳シク申上ゲレバ随分イロイロナコトモゴザイマス、第一ニ商品ノ混合ヲ防止スルコトト云フ件ニ就キマシテ、此処ニ掲ゲテゴザイマス通リ商品用ノ包装荷造リ等ニ於テモ随分不正ノ競争ト云フモノガアルノデアリマス ○中略 ドウシテモ別ニ規定ヲ設ケテ取締ルコトガ必要デアラウト考ヘルノデアリマス、又第二ノ商店表示ノ混同ヲ防止スルコトニ付テモ同様デ、矢張店頭ニアリマス特別ノ装飾デアリマストカ、目標ナルモノナドヲ同業者ガ模造シテ、其信用ヲ得テ居ルニ乗ジテ利益ヲ此方ニ争奪シテシマフト云フ場合ガアルノデ、是モ十分取締ラナケレバナラヌコトヽ認メルノデアリマス、又第三営業上ノ秘密漏泄ヲ防止スルコト、是ハ商業ニ於キマシテハ例ヘバ仕組デアルトカ組織デアルトカ云フ点ニ付テ秘密ガ往々アルモノデアリマスガ、ソレ等ノコトガ使用人カラシテ段々同業者ニ漏レテ、ソレガ為メニ意外ノ損失ヲ来スト云フコトデ、是モ取締ラナケレバナラヌノデアリマス、又工業ノ上カラ
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申シマスレバ技術上ノ秘密ト云フコトモゴザイマスルシ、ソレナラバ特許法ト云フモノガアルカラシテ技術上ノ秘密ハ特許ヲ受ケタラ宜カラウト申サレル御方ガアルカ知リマセヌガ、特許致シマスルニハ其秘密ヲ公表シナケレバナラヌノデアツテ、其公表スル為メニ他人ニ盗マレテ、コソコソト同ジ物ヲ造出サレル虞レガアルノデアリマス、而シテ造ルモノニ付テ特許ガナイノデアリマスカラ、一旦市場ニ出マスルト区別ノ付カヌ話デアリマスカラ、為メニ発明者ト云フモノハ其秘密ヲ出シタヽメニ当然ノ権利トシテ得ベキ利益ヲ侵害サレル次第デゴザイマス、是ハナカナカ取締ルニハ困難デアラウト存ジマスケレドモ、是ハ是非相応ノ取締スルコトハ必要デアルト認メル次第デアリマス、ソレデ此処ニゴザイマス通リ是等ノ都合カラ御諮詢ニナリマシタ全部ニ対シマシテハ、不正競争トシテ取締ルノ必要ガアルト認メタノデアリマス、尚進ンデ委員会ニ於キマシテハ此三事項以外ニ、玆ニ掲ゲテゴザイマスル所ノ二事項ヲ加ヘマシタノデアリマス、ソレハ一ツハ世人ヲ欺瞞スル不正ノ表示ヲ防止スルト云フコトデゴザイマス、聊カ之ニ対シテ説明ヲ致シマス、是ハ例ヘバ商品ノ性質デアリマストカ、或ハ製造所生産地又ハ製造方法等ニ付キマシテ誇大ノ広告ヲ致シマシタリ、又ハ客ニ表示ヲシテ世人ヲ誤ツテ同業者ノ利益ヲ損スルト云フコトデゴザイマス ○中略 其次ニアリマスルノハ競争ノ目的ヲ以テ他人ノ営業ニ関スル誹謗行為ヲ防止スルト云フノガアリマス、是ハ例ヲ申シマスレバ此頃浮石鹸ト云フノガゴザイマス、而シテ其石鹸ヲ製造シマスル者ノ申ス所ニ依リマスルト、石鹸ハ水ノ中ニ入レテ浮イタノデナケレバ本当ノ良イ石鹸デナイ、水ノ中ニ沈ムヤウナ石鹸ハ泥ガ入ツテ居ル、悪ルイモノガ入レテアルカラアヽ云フモノヲ使ツテハ往ケナイ、ソレハ競争ノ目的ヲ以テ他人ノ営業ニ関スル誹謗行為ヲスルノデアリマスカラシテ、是ハ十分防止シナケレバナラヌト委員会ハ考ヘタノデアリマス ○中略 是等ハ現行ノ法律規定ノ下ニハ多少取締ラレテ居ルノデアリマスケレドモ、総テノ場合ヲ含ンデヤルト云フ為メニハ甚ダ不十分ナモノデアリマスカラ、是等モ前ニ政府カラ諮詢サレタ三件ト共ニ追加致シマシテ、政府ハ其取締ノ項目防止ノ方法、制裁ノ範囲等ニ関シマシテ十分研究調査ヲサレテ、其概要骨子トナルベキ事項ヲ此次ノ生産調査会ニ提出サレテ、又再ビ審議ヲ此会デサレルヤウニシタイト云フ希望ヲ持チマシテ、委員会ニ於キマシテハ全会一致ヲ以テ此原案ヲ可決シタ次第デゴザイマス、マダ色々申上ゲタイコトモゴザイマスケレドモ、時間ガ切迫シテ居リマスカラ、是デ止メテ置キマスガ、ドウゾ諸君ニ於キマシテ御賛成可決アランコトヲ希望致シマス
  (「賛成」ト呼ブ者アリ)
○議長(小松原英太郎君) 委員長報告通リ御異議ゴザイマセヌカ
  (「異議ナシ」ト呼ブ者アリ)
○議長(小松原英太郎君) 其通リ決シマス


渋沢栄一 日記 明治四三年(DK560114k-0004)
第56巻 p.415-416 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四三年     (渋沢子爵家所蔵)
七月五日 曇 冷
○上略 九時農商務省ニ抵リテ、生産調査会ノ主査会ヲ開ク、十二時閉会
 - 第56巻 p.416 -ページ画像 
 ○下略
   ○中略。
七月十二日 曇 暑
○上略 午後一時農商務省ニ抵リ、生産調査会ノ特別委員会ニ出席ス、主査七名皆出席シテ製紙業《(糸)》ニ高橋・河東田二氏ノ説明アリ、羽二重・花筵等各当業者ノ企望ヲ縷述セシム、後輸出品ニ関スル金融ニ付勝田理財局長ノ説明アリ、又戻税ニ付桜井局長ノ説明アリ、更ニ逓信省及鉄道院ヨリノ出席員アリシモ、時間六時ヲ過クルヲ以テ他日ニ延引シテ散会ス ○下略
   ○中略。
七月十五日 雨 暑
○上略 一時農商務省ニ抵リ、生産調査会特別委員会ニ出席ス、管船局長電気局長、鉄道院ノ当任者来会シ、各担当ノ事務ニ付テ鄭寧懇切ニ委員ノ質問ニ答弁ス、一時半ヨリ始テ六時ニ至ル、畢テ散会ス ○下略


生産調査会録事(第壱回) 第一六―一九頁 明治四三年九月刊(DK560114k-0005)
第56巻 p.416 ページ画像

生産調査会録事(第壱回)  第一六―一九頁 明治四三年九月刊
    農商務大臣ノ諮詢ニ対スル答申書
本会ニ対スル農商務大臣ノ諮詢事項中蚕糸業ノ発達及改善ニ関スル件不正競争ノ取締ニ関スル件及公有林野開発ニ関スル件ニ付テハ左ノ通之カ答申ヲ為シタリ
○中略
      蚕糸業ノ改善及発達ニ関スル件
蚕糸業ノ改善及発達ヲ期図スル為メ左ノ方針ヲ執ルコトヲ必要ナリト認ム
   ○特別委員会決議案ト同一ナルヲ以テ略ス。
右本会ノ決議ニ依リ玆ニ答申候也
  明治四十三年七月二十八日
                     生産調査会会長
    農商務大臣宛


生産調査会録事(第壱回) 第一九―二〇頁 明治四三年九月刊(DK560114k-0006)
第56巻 p.416-417 ページ画像

生産調査会録事(第壱回)  第一九―二〇頁 明治四三年九月刊
    不正競争ノ取締ニ関スル件
不正競争トシテ左ノ事項ヲ取締ルノ必要アリト認ム
第一、商品ノ混同ヲ防止スルコト
 商標ハ商品ノ混同ヲ防止スルモノナリト雖モ、商標以外ニ在リテ商品ヲ識別スルモノ多シ、即チ商品ノ容器・包装・荷造等ガ特色ヲ有スル場合ニ於テハ、特定営業者ノ商品ノ標識トシテ関係取引者間ニ認メラルヽモノアリ、而シテ此等ノ標識中既ニ実用新案法・意匠法若ハ商標法ニ依ル保護ヲ享クルモノアリト雖、此等ノ登録ヲ受クルコト能ハスシテ慣用スルモノニ付テハ何等ノ保護ナク、之ヲ模擬シテ以テ正当営業者ノ顧客ヲ奪フノ手段ニ出ツルモノ枚挙ニ遑アラス商工業ノ発達上之ヲ取締ルノ必要アリ
第二、商店表示ノ混同ヲ防止スルコト
 営業者ノ氏名・商号・看板等ニシテ其営業者若ハ祖先ノ勤勉正直等
 - 第56巻 p.417 -ページ画像 
ノ効果ニ因リ顧客ノ目標タルモノ極メテ多シ、然ルニ同一若ハ類似ノ表示ヲ使用シ、其ノ顧客ヲ奪フノ手段ニ出ツル不正ノ競争者尠シトセス、正当営業者ノ利益ヲ保護スルノ必要上之カ取締ヲ為スノ必要アリ
第三、営業上ノ秘密漏泄ヲ防止スルコト
 営業上ノ秘密ヲ不正ナル被用人ニ依リテ漏泄セラレ、競争者ノ利用スル所ト為リ、為ニ正当営業者ニ対シ損害ヲ与ヘタル例尠シトセス不正競争トシテ之ヲ取締ルノ必要アリ
尚右ノ三事項ノ外左ノ二事項ニ関シテハ、現今ノ法律規定ノ下ニ行ハルヽノ取締方不充分ナルヲ以テ、之ニ就テモ相当取締方ヲ講スル必要アリト認ム
 一、世人ヲ欺瞞スル不正ノ表示ヲ防止スルコト
 一、競争ノ目的ヲ以テ他人ノ営業ニ関スル誹謗行為ヲ防止スルコト
而シテ政府ハ其取締ノ項目、防止ノ方法、制裁ノ範囲等ニ関シ研究調査ヲ重ネ、其ノ概要骨子ト為ルヘキ事項ヲ次回ノ生産調査会ニ提示セラレンコトヲ望ム
右本会ノ決議ニ依リ玆ニ答申候也
  明治四十三年七月二十八日
                     生産調査会会長
    農商務大臣宛