デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

3部 身辺

6章 旅行
1節 国内旅行
■綱文

第57巻 p.627-628(DK570295k) ページ画像

大正6年9月8日(1917年)

是日栄一、東京ヲ発シ埼玉県浦和町ニ赴キ、同地武徳殿ニ開カレタル報知講演会ニ出席、講演ヲナシ、即日帰京ス。


■資料

集会日時通知表 大正六年(DK570295k-0001)
第57巻 p.627 ページ画像

集会日時通知表  大正六年        (渋沢子爵家所蔵)
九月八日 土 午前十、十六時 浦和町ヘ御出向ノ約(報知講演会)(王子駅発)
       午後六、十三時 浦和町ヨリ御帰邸 王子駅


竜門雑誌 第三五三号・第一二四頁 大正六年一〇月 ○報知講演会と青淵先生の講演(DK570295k-0002)
第57巻 p.627 ページ画像

竜門雑誌  第三五三号・第一二四頁 大正六年一〇月
○報知講演会と青淵先生の講演 九月八日報知新聞社の主催に係る埼玉県浦和町武徳殿に於ける報知講演会あり、青淵先生にも同社の懇請に依りて出席せられ「現下に於ける国民の覚悟」と題し(本誌別欄記載)一場の演説を試みられたる由。


竜門雑誌 第三五三号・第四五―四六頁 大正六年一〇月 ○現下に於ける国民の覚悟 青淵先生(DK570295k-0003)
第57巻 p.627-628 ページ画像

竜門雑誌  第三五三号・第四五―四六頁 大正六年一〇月
    ○現下に於ける国民の覚悟
                      青淵先生
 本篇は九月八日埼玉県浦和町武徳殿に於て開会せる報知講演会に於ける青淵先生の演説要旨なりとす(編者識)
 予は常に同郷の親愛なる各位と見ゆるの心ありて而も其機会なく、今日まで之を果さゞりしに、幸ひ報知講演会の挙あり、親しく此席に諸君と会するを得たるは予の歓喜措かざる所なり。却説予は玆に『現下に於ける国民の覚悟』と云へる演題に就き一言せん、只今上島君の演説を聞き、我帝国の前途が光明に輝きつゝある事目前に髣髴し、老人乍ら聊か浮れ出し度く感ぜし程なるが、然し熟々帝国の現状を観、将来を考察すれば決して楽観を許さゞるものあり、予は敢て上島君と討論するにあらず、又決して悲観論者に非ずと雖も、却々に浮れ出すべき時期にあらざるを思ふなり。抑も明治維新以来の日本は驚くべき発達膨脹の歴史に充ち、其文明の速かなる、世界をして驚倒せしめし所なるが、翻つて顧みるに、其文明は欧洲文明の模倣にして、凡ての制度文物を彼に学び、以て今日の域に進みしもの、株式会社の如き今日大に発達し其活動目覚しきものありと雖も、而も是れ明治五年頃欧米に做らうて始めて之を組織せるにて、独創的文明に至りては敢て世
 - 第57巻 p.628 -ページ画像 
に誇るに足るものなきは諸君の既に熟知する所なるが故に、将来の日本には過去の日本の如くにして満足すべからず、抑も日本が独逸に戦ひを宣せし所以如何、独逸が自己の野心を逞ふせん為め国際条約を無視し、正義人道を蹂躪し、世界に宣戦せるが為めにあらずや、世人動もすれば、我は日英同盟の誼に依りて起てりと云ふ、日英同盟の誼素より宣戦の一理由たらん、然も根本の理由は正義人道の擁護にありし事国民の特に牢記せざるべからざる処なり、夫れ然り、然らば国民は此際須らく高遠の理想を抱き、当面の変局に処するは勿論、将来に対しても大に画策する所なかるべからず、玆に於てか、予は国民に対し大なる決心覚悟を促さざるを得ざる也、想ふに文明の進歩と共に衣食住は益々改善さるべし、然も礼心衰へんか、其文明は決して尊重するに足らず、戦後の文明は恐く物質的文明と精神的文明の渾然融合されたるものなるべく、徳義の観念を閑却しては到底戦後の国際競争場裡に優者たるを得ざるべし、国民は宜敷く想を玆に致し、正義人道を基礎とせる文明の進歩に貢献するを要す、予は実業出身にして道学者にあらざるも感特に切なるものあり。故に敢て此の言を為す所以なり。観よ我が戦乱勃発後の経済状態は一時不景気に沈みたるも忽ち好景気と変じ、財界は空前の盛況を呈するに至れるも、然も其裡面の弊害は如何、彼の成金連が花柳の巷に千金を散じ、又骨董に万金を投ずるが如き、果して健実なる風潮なる乎、これ今にして反省せずんば、国家の前途寒心に堪へざるなり、予は切に地方民諸君に望む、其健全なる思想を以て覚醒を促し、反省を与へられん事を。由来埼玉県は武蔵の
平野に位し、古へより武を以て誇り、熊谷直実の如き、畠山重忠の如き豪傑を出し、武蔵の武士剣を揚ぐれば天下を震駭せしめたり、然るに今は如何、人心決して昔日の如く豪健ならず、民心亦必ずしも一致せざるが如し、予は埼玉県出身として東京に学生誘掖会なるものを組織し、埼玉気質の養成に微力を致し居れるが、予は同郷の諸君と共に有益なる事業を経営し、大にしては国家の為め、小にしては地方の為め大に貢献したく思ふなり、今や帝国は重大の使命を荷ひ、国民が高遠の理想抱負以て事に処し、確固不抜の決心覚悟を以て国家の為めに尽すを要するの秋、予は諸君に向つて、須く武蔵武士の精神を発揮し大に活躍せん事を望む、予は決して諸君と事を共にするを辞するものにあらざれば也