デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

3部 身辺

9章 終焉
■綱文

第57巻 p.723-728(DK570339k) ページ画像

昭和6年11月1日(1931年)

是日、皇后陛下ヨリ栄一ノ病気御尋トシテ、野菜一籠ヲ賜フ。二日、皇太后陛下ヨリ菊花・鶉卵・果物・牛乳ヲ賜フ。


■資料

泰徳院殿御葬儀記録 一 【渋沢子爵御病中日録】(DK570339k-0001)
第57巻 p.723-724 ページ画像

泰徳院殿御葬儀記録 一        (渋沢子爵家所蔵)
渋沢子爵御病中日録
十一月一日 晴
憂慮に明けた飛鳥山邸へは、新聞によつて報せられた子爵の御容態を気使ふて来訪する見舞客が朝まだきから踵を接する有様であつた。此日の新聞記事を掲げて見よう。
   ○新聞記事略ス。
此の日の書院は、早朝から朝野の名士が入り代り立ち代り常に溢れる程で、病室から伝へられる御容態に一喜一憂の有様であつた。朝の中は体温下降の趣きにて、一同愁眉を開いたけれども、決して楽観を許さず、医師の恐れる食思不振を来し、僅かに少量のスープと番茶とが摂取されたのみ、午前十時の発表は次の通りである。
 今朝に至り体温は下降せるも、右側に気管枝肺炎の徴候を認む
     体温 三七・〇
     脈搏 八八
     呼吸 三〇
 食物摂取は依然少量なり。
午前十時入沢博士を中心に、佐藤・塩田・大滝・桜沢・佐伯・白石・林の諸国手診察の結果の発表である。
正午 皇后陛下の御見舞として皇后宮職木戸事務官来邸せられ、野菜一籠を下賜されたので、家族近親一同この優渥なる皇恩に感泣した。而してこれが御礼には子爵代理として男爵穂積重遠氏が参内した。
午后となつては愈々混雑を増し、門から内は自動車で一ぱいとなり、何れも遠くから倉皇として下車、砂利を踏んで玄関に到ると云ふ有様である。従つて新らしい容態を知らんと待つ人が多いので、更に午后四時二十分には左の如く発表された。
 気管枝炎の徴候は今朝同様に歴然たるも、蔓延の様子なし。
     体温 三七・二
     脈搏 九四
     呼吸 二五
 食思依然不十分なるも、意識明瞭なり、御容態大体に於て今朝と変りなし。
夜九時診察の後の発表は左の如くであつた。
 御容態変りなし。
     体温 三七・三
     脈搏 九四
     呼吸 三二
 注意 夜分多少悪化の傾向あるは常態とのことである。
 - 第57巻 p.724 -ページ画像 
而して当日発表の体温・脈搏・呼吸の経過を見ると次の如くである。

   午前六時 同九時  正午   午后三時 同六時     同九時
体温 三七・四 三七・〇 三七・〇 三七・二 三七・三    三七・三
脈搏 九四   八八   九二   九四   九四      九四
呼吸 三〇   二六   二六   二五   三二《(三六)》 三二

 注意 午后六時の呼吸三六は、御目覚後とて、横になるため屡々身体を動かされしためである。後二六となる。
前日定められた事務担当の外に、本日より東京市養育院幹事田中太郎氏、同院の早川氏・堀氏等を伴ひ新聞班として新聞記者係を担当され青淵文庫と表玄関の天幕との間を往復斡旋さる。
また東京市の配慮と第一銀行杉田富氏の特別の御尽力により、東京市参与として電話二本を増設した。即ち一本(小石川一〇六番)は西洋玄関の幹部室へ、他の一本(小石川一〇八番)は書生部屋たる記録室へ。
滝野川町西ケ原互親会にては、左の如き急告を発し、子爵病気平癒の祈願を七社神社で行ふた。
  本会名誉顧問渋沢子爵閣下には、先頃来より御病気の処、御重態の趣に付、今朝本会代表者御見舞に参邸致し候、幸ひ今朝は下熱し御気分も宜しき様に承り候得共、何分御老体の事にもあり、誠に憂慮に耐えさる処に御坐候、就いては之れが御病気御平癒の祈願を七社神社に於て致し度存じ候間、各位に於ても万障差繰り本日午后八時に同社前に御参集御参拝被下度、此段御通知申上候
   十一月一日               西ケ原互親会
    会員殿
本日御見舞の人々は左の通りである。
西洋玄関 ○四二名氏名略ス
日本玄関 ○三七〇名氏名略ス
電話 ○一二名氏名略ス
電報 ○二九名氏名略ス
手伝人 ○七〇名氏名略ス
此の日受けたる見舞品は左の通りである。
   ○品名五〇種、五五名氏名略ス。
○中略
尚ほ宿直に決つた人々は林先生・白石先生・渋沢敬三氏・同秀雄氏・白石喜太郎氏である。


竜門雑誌 第五一八号・第七―一一頁 昭和六年一一月 病状(二)(DK570339k-0002)
第57巻 p.724-728 ページ画像

竜門雑誌  第五一八号・第七―一一頁 昭和六年一一月
    病状(二)
○上略
二日
昨夜安眠せられたとの事で一同愁眉の開く思ひをした、殊にかねて食思なきを憂慮したのに、午前二時頃より八時までの間に玄米湯・白ブドー酒・ウヅラ卵・葛湯・番茶等を少量づゝ摂取されたので一般に喜色がある、しかし警戒を要すること依然、午前九時の御容態発表は左
 - 第57巻 p.725 -ページ画像 
の如くである。
 昨夜半より数時間安眠せらる、今朝は御容態稍平静なり
      体温 三六・九
      脈搏 九二
      呼吸 二四
従つて意識は明瞭にて、その後もウヅラ卵・牛乳を摂られしとの事である、午後四時の御容態は次の如くである。
 御容体は引続き平静なるも、食思未だ振はず、僅かに牛乳・スープの少量及ウヅラの卵黄数個を摂取さるゝに過ぎず
 午後三時 体温 三七・三
      脈搏 九六
      呼吸 二四
本日の体温・脈搏・呼吸は次の通り

    午前零時 同三時  同六時  同九時  正午   午後三時 同六時  同九時
 体温 三七・四 三七・四 三七・〇 三六・九 三七・二 三七・三 三七・四 三七・四
 脈搏 九六   九八   九四   九二   九〇   九六   九八   九八
 呼吸 二七   二六   二六   二四   二四   二四   三〇   二九

此の日、皇后陛下より賜つた野菜をスープとして先生にすゝめたが、先生はいとも有難く頂戴して、幾分ともに活気づかれた模様であつたまた更に皇太后宮職よりの御使あり、皇太后陛下よりとして、菊花・ウヅラ卵・果物・牛乳等を賜はつた。
三日
昨日の食物(ウヅラ卵・スープその他)摂取量八百九十グラム、排出量六百五十グラムであつて、依然食思進まず、それによる衰弱を憂慮されて居る。しかし熱は稍下降して小康状態を保つて居る、午前九時主治医の発表左の如し
 昨夜比較的安眠、御容体は大体に於て昨日と同様なり
御見舞客・御見舞品相変らず続く、中には憂慮の余り神社に参拝して御守札を送り来るものもあり、また一般市民よりの見舞状も少なからずある。尚また午後四時の容態は「御容態特別の御変化なし」と発表された。夜に入り白河町南湖神社々司より、祈祷御守その他の御見舞があつた。
本日の体温・脈搏・呼吸左の如し

    午前零時 同三時  同六時  同九時  午後零時 同三時  同六時  同九時
 体温 三七・五 三七・三 三七・一 三六・五 三六・七 三七・〇 三七・〇 三七・〇
 脈搏 九六   九二   九〇   八四   九〇   九〇   九〇   八八
 呼吸 二八   三〇   三〇   二四   三〇   三〇   二九   二八

四日
体温さして変動なきため、特に良好と云ふに非ざれども、この分にて経過し、食思出づれば稍々安心との事であるが、尚ほ未だ食思は特に出でないとのことである。
御見舞客・御見舞品依然多数である。
 - 第57巻 p.726 -ページ画像 
午後五時御容態の発表は次の如し
 気管枝肺炎の経過は順当なるも、食思不振のため御疲労未だ恢復に向はず
四日の体温・脈搏・呼吸左の如し

    午前零時 同三時  同六時  同九時  午後零時 同三時  同六時  同九時
 体温 三七・一 三六・七 三六・九 三六・六 三六・六 三七・〇 三六・九 三六・九
 脈搏 九〇   八八   七九   八二   八二   八二   八八   八四
 呼吸 二七   二八   二六   三〇   二六   二五   三〇   二六
 本日摂取量 六九五瓦
 ウヅラ卵    九個
 排尿    五九〇瓦

此の日竹田宮家より御見舞として盛花及び御菓子を頂戴した。
五日
体温その他より御容態を見れば、稍御安静かと察せられるけれども、尚ほ食慾更に振はざる由なれば、その点大いに憂慮さるゝとの事である。
即ち五日午後六時までの食餌摂取量は三百三十瓦にて尿排出量は五百八十瓦である、その内容左の如し

 午前三時   飴湯      三〇瓦
   同半   番茶      五〇
   六時半  ウヅラ卵    三個
   同    鶏スープ    二五
 午後零時四十分 ウヅラ卵   二個
   一時   オートミル   一五
   同半   スープ(餅入) 三〇
   三時   ウヅラ卵    二個
   同半   鶏スープ    五〇
   六時   ドリコノ    三〇
   八時   オートミル   三〇
   九時   葡萄果汁    二〇
   九時半  ランブラン   一〇
   同    茶       三〇
   十時   スープ     一〇

午後五時主治医の発表は左の如く、聊か悲観の思ひあらしめた。
 御経過平穏なるも御疲労稍増加の傾向あり、食思依然として振はず尚ほ当日の体温・脈搏・呼吸は左の如し

    午前零時 同三時  同六時  同九時  午後零時  同三時  同九時
 体温 三六・五 三七・一 三六・八 三六・一 三六・三  三六・五 三六・五
 脈搏 八二   九〇   八四   八〇   八〇    八六   八六
 呼吸 二六   三〇   二八   二四   二四    二六   二六

六日
御容態は相変らず意識明瞭なるも、しかし食餌量少きこと何より憂慮
 - 第57巻 p.727 -ページ画像 
さるゝのであつて、主治医始め滋養物の摂取方を種々配慮されつゝあると云ふことであつた。午後五時の発表左の如し
 肺炎は漸次快癒に向ひつゝあるも、食物摂取量充分ならず、為めに御疲労依然たり
 食餌(全摂取量四七五瓦、鶏卵八個、チヤボ卵一個、尿量六二〇瓦)

 午前三時   オコゲ重湯     四〇瓦
   四時   ドリコノ      一五
   五時半  茶         二〇
   六時   ウヅラ卵      二個
   七時半  重湯        一〇
十一時四十五分 ウヅラ卵      二個
 午後一時   トリユセンスープ  四五
 午後二時   玄米湯       三〇
   同半   オートミル     一五
   四時半  ウヅラ卵      二個
        チヤポ卵      一個
        茶         二〇
   六時   餅入スープ     三〇
        スープ       二〇
        茶         三〇
        オコゲ重湯     一五
  七時四十分 ウヅラ卵      二個
   同五十分 シルコ       二〇
   八時   スープ       三〇
   同    オートミル     二五
   十一時半 果汁        三〇
   同    シルコ       二〇
 十一時四十分 スープ       二〇
   同    番茶        三〇
   十二時  オートミル     一〇
体温・脈搏・呼吸左の如し
    午前六時  正午  午後三時 同六時
 体温 三六・五 三六・二 三六・五 三六・八
 脈搏 九〇   九〇   九〇   九二
 呼吸 二四   二六   二四   二五

七日
 御容態は連日小康を得て居るかを思はせ、特に此の日は好天気とて御気分よろしき由であつたが、夕刻に及ぶに従つて面白からぬものがあり、邸内に憂色が満ちて居た、またその報が外部に伝はり、新聞社の自動車の往来が繁くなつた。
 午前主治医の発表は左の通りである
  昨夜御安眠、幾分御元気恢復の御容子なり
 午後五時の発表は左の如くである
  昨日午後四時発表以後御病状変りなし
 - 第57巻 p.728 -ページ画像 
 本日の体温・脈搏・呼吸の経過左の如し
    午前六時 正午   午後三時 同六時  午後七時 同八時  同十時  同十一時
 体温 三六・九 三七・〇 三七・二 三七・三 三七・九 三八・四 三九・二 三九・〇
 脈搏 九二   九四   九六   一〇〇  一〇八  一〇六  一一〇  一〇四
 吸呼 二三   二四   二四   三二   三二   三〇   三六   三〇
○下略