デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
1款 第一国立銀行 株式会社第一銀行
■綱文

第4巻 p.191-202(DK040018k) ページ画像

明治8年12月17日(1875年)

八年三月八日、同行、第二・第四・第五ノ各国立銀行ト共ニ連署シテ紙幣寮ニ正貨兌換制廃棄ノ歎願書ヲ提出ス。紙幣頭得能良介、銀行救済ノ為メ予備紙幣七拾壱万円ノ貸下ゲヲ稟議シ且ツ同行ニモ意見ヲ徴ス。七月二十二日栄一之ニ対ヘテ建策シ、其結果是日ニ至リ銀行紙幣ヲ抵当トシテ新紙幣四拾五万円ノ貸下ゲ通達セラル。


■資料

明治貨政考要 下編・第二三二―二四五頁〔明治二〇年五月〕(明治前期 財政経済史料集成 第一三巻・第四三四―四四三頁)(DK040018k-0001)
第4巻 p.191-199 ページ画像

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第一銀行五十年史稿 巻二・第九三―九七頁(DK040018k-0002)
第4巻 p.199-200 ページ画像

第一銀行五十年史稿 巻二・第九三―九七頁
    営業の困難
本行は初め銀行条例の制限額に従ひ、百五十万円の紙幣を発行し、明治八年減資後は、九十万円に減少せること、前章にいへるが如し明治七年五月には百二十四万円の流通を見たるに、其頃より金貨上騰せるが為に、紙幣を持参して金貨との引換を要求するもの相継ぎ、其引換によりて欠如せる資本金十分の四の引換準備金貨は之を補充せざる可からず、之が為に要する交換打歩の支出も亦多し、されば同年六月以降は再び紙幣を発行すること能はざりき、かくて資本金の十分の六は六分利附金札引換公債証書に変じ、十分の四は紙幣引換準備金にして之を運用するを得ざれば、今や発行紙幣の流通杜塞の結果、本行の運転資金は唯僅少なる預金あるのみ、何ぞ営業の困難を感ぜざるを得んや。是に於て明治八年三月本行は第二第四第五の三国立銀行を誘ひ、四行連署の歎願書を紙幣寮に呈出し、銀行紙幣を以て本位正貨と兌換するの制規は、政府紙幣の価格を保全し、其銷却完了の功を奏するに足らざるのみならず、却て金貨の外国に流出するを媒助し、尠からざる損失となるべきにより、寧ろ正貨兌換の制度を改め、通貨即ち政府紙幣と交換するの制となさんことを請へり。然れども通貨を以て銀行紙幣の兌換に充つることは国立銀行条
 - 第4巻 p.200 -ページ画像 
例の主旨に悖り許容すべきにあらず、さりとて銀行の困難もまた等閑視すべからず、殊には国立銀行創立後日なほ浅く之が発達を将来に期しつゝ不幸にして破産するが如きことあらば、たゞに金融界を撹乱するのみならず、銀行業の発達を阻害すること尠からざるが故に、紙幣頭得能良介は国立銀行救済の為に紙幣寮貯蔵の予備紙幣の内より七十一万円を支出し、各銀行の営業状態に従ひ相当の割合にて無利息貸下を為し、銀行紙幣は引上ぐべきことを大蔵卿に稟議し、本行にも内諭して意見を徴せしかば、同年七月廿二日頭取渋沢栄一は三策を建てゝ之に答申せり、即ち紙幣寮より新紙幣五十万円を無利息にて各銀行に貸下げ、各銀行にては便宜地金銀を購入して紙幣交換の資に供すること第一策なり、紙幣寮は各銀行に下附せし紙幣の半額を新紙幣にて各銀行に貸下げ、之と同額の紙幣を各銀行より引上げ、将来金貨との兌換に困難を感ぜざるに至るまで無利息にて据置くこと第二策なり、紙幣寮又は国債寮より各銀行において発行の目途ある分を除き現に流通の見込なき分は悉く之を抵当として同額の新紙幣を各銀行に貸下げ、其利息は金札引換公債証書の利息と同一として、貸下の際差引に上納せしめ、将来金貨流通の便を得る時まで据置くこと第三策なり、かくて大蔵省にては審議の結果大体において紙幣頭の意見と本行提議の第二策とを採用し、現在各銀行に下附せる紙幣総額の半数を限度として準備金中より新紙幣を貸下げ、其取扱は国債寮に委任するに定めたるが、而も銀行紙幣は金札引換公債証書の代りに下附せるものゆゑ、いま銀行紙幣を引上げて新紙幣を下附するにつきては、之に相当する金札引換証書の利子は下附せざることゝなし、同年十二月十七日紙幣頭より本行をはじめ四行に対して其旨を伝達せり、貸下金の割合は左の如くなりき。
  金四十五万円 銀行紙幣総額の五割  第一国立銀行
  金五万円   同上         第二国立銀行
  金六万円   同上         第四国立銀行
  金十五万円  同上         第五国立銀行
   合計七十一万円
貸下げ金は十二ケ月を以て返済の期限となし、且之と同額の銀行紙幣を国債寮へ納附せしめたり。


青淵先生伝初稿 第九章中・第八二―八八頁 〔大正八―一二年〕(DK040018k-0003)
第4巻 p.200-201 ページ画像

青淵先生伝初稿 第九章中・第八二―八八頁 〔大正八―一二年〕
    政府の所見と先生の建議
得能良介は之を以て銀行条例の主旨に反するものとなし、別に一時の救済策として、紙幣寮貯蔵の予備紙幣の中より七十一万円を支出し、各銀行の営業状態に従ひ、相当の割合にて無利息貸下を為し、銀行紙幣を引上ぐべきことを大蔵卿に稟議し、且つ先生の意見を徴したり。よりて先生三策を建てゝ之に答ふ、同年七月の事なり。
     第一策
  各銀行ノ発行紙幣ヲ通算セハ、弐百〇七万円余タルニ付、勉テ之ヲ流通ニ供セハ、之ヲ概算シテ毎月総高五分一ノ交換アルモノトシ、其交換金貨ノ供給ニ付テ、通常百円ニ付壱円ト看做シ、一ケ
 - 第4巻 p.201 -ページ画像 
月四千百四十円ハ各銀行ノ損耗タルヘシ。故ニ此損耗ヲ補救スル為メ紙幣寮ヨリ新札五拾万円ヲ、其下附セシ紙幣ノ高ニ応シ、各銀行ニ無利足ニテ貸渡シ、便宜金銀地金ヲ購入シ、其計算ト実物トハ、常ニ紙幣寮ヨリ検査シテ、順次本位金貨ト為サシメ、此差益ヲ以テ、通常ノ交換損毛ヲ償却セシム。若シ又同貨ノ打歩時価百円ニ付壱円五拾銭以上ニ及ハヽ、紙幣寮ハ更ニ五拾万円ノ新札ヲ出シテ便宜各銀行ノ紙幣ヲ引換上納セシメ、此引換モ固ヨリ無利足タルヘシ。 更ニ打歩低下ヲ待テ、次第ニ又紙幣ヲ発行シ、而シテ通常打歩ノ損毛ハ、常ニ前ノ五拾万円ヲ以テ地金ヲ買入レ、其利益ヲ以テ之ニ充ツヘシ。非常ノ景況ニテ、金貨打歩更ニ騰貴シ、金弐円以上ニモ至ラハ、各銀行ハ兼テ貯有スル準備金貨ヲ以テ悉ク其紙幣ヲ交換スルモ、其時ニ臨テ別ニ金貨購入ノ労ヲ免ルヽ筈ナレハ此交換ニ障碍ナカルヘシ。
     第二策
  第一策ハ只紙幣交換ニ供スル金貨ヲ購入スル為メ、地金銀ノ売買法ヲ為シ、其資本ヲ無利息ニテ紙幣寮ヨリ貸下ケ、其損耗ヲ補給セシムル迄ナレハ、此方法ヲ迂曲ノ処置トセハ、紙幣寮ハ各銀行ヘ下附セシ紙幣ノ半高丈ヲ、新札ニテ各銀行ニ貸下ケ、其同高ノ紙幣ヲ各銀行ヨリ引上ケ、追テ金貨ノ交換ニ難渋之レナキ時マテ、無利息ニテ据置カシメ、而シテ銀行ハ其新札ヲ以テ各其資本ニ加ヘ、他ノ半高ノ銀行紙幣ハ、其儘庫中ニ貯有セシム可シ。(但シ準則ノ金貨ヲ予備シテ、之ヲ発行スルハ防ケナカルヘシ。)然ル時ハ、各銀行ハ常ニ所有紙幣ノ半高ハ流通スルモノト同様ナレハ、縦令金貨打歩ノ障碍ナクシテ、悉ク其紙幣ヲ流通スルモ、固ヨリ十分四ノ金貨ヲ準備スル筈ニ付、僅ニ其発行高ニ十分一ノ減差アル迄ナレハ、聊モ困却ノ覚悟ハナカルヘシ。
     第三策
  若シ又第一・第二ノ方法ヲ不可トセハ、紙幣寮又ハ国債寮ニ於テ右銀行ノ紙幣、其発行目途アル分ヲ除キ、悉皆之ヲ望マハ総高ヲ同例ニスヘシ。 現ニ流通ノ見込ナキ分ハ、悉ク之ヲ抵当トシテ、同金員ノ新札ヲ銀行ニ貸渡シ、其利足ハ金札引換公債証書ノ利足ト同額ニシテ、其下渡ノ際、差引ニ之ヲ上納セシメ、追テ金貨流通ノ便ヲ得ル時マテ据置カシムヘシ。然ル時ハ各銀行ハ、詰リ其紙幣流通法ヲ廃シ、通常ノ通貨ヲ以テ営業スル銀行ト更正シタル訳ナレハ、固ヨリ苦情アルコトナシ。


第一国立銀行半季実際考課状 ○第四回〔明治八年上期〕(DK040018k-0004)
第4巻 p.201-202 ページ画像

第一国立銀行半季実際考課状
  ○第四回〔明治八年上期〕
    発行紙幣之事
英国為替相場ノ低下セルヨリ金貨騰上シタルニ付銀行紙幣ハ再ヒ発行ス可ラサルノ件ハ、前会ニ於テ既ニ演述シタル通リ、昨明治七年六月ヨリ収入ノ紙幣ハ再出セサルニ付、第七号半季平均高報告書ノ通リ流通高漸ク減少シ、目今僅ニ拾九万六百九拾四円ト相成申候
右金貨ノ価格ハ漸次騰上シテ他ノ通貨同様ノ価位ニ復スヘキ見込無之
 - 第4巻 p.202 -ページ画像 
ニ付、発行紙幣兌換之儀ハ通貨ニ御更正有之度旨各国立銀行ヘ相談ノ上不残連署イタシ三月八日紙幣寮ヘ願出仕候


第一国立銀行半季実際考課状 ○第五回〔明治八年下期〕(DK040018k-0005)
第4巻 p.202 ページ画像

  ○第五回〔明治八年下期〕
    発行紙幣之事
銀行紙幣兌換ノ儀通貨ニ御更正アリタキ旨昨年○明治八年三月八日各銀行連署ノ上紙幣寮ヘ出願セシニ、右願之趣ハ御聞届難相成、更ニ銀行紙幣総額ノ五割ヲ新紙幣ニテ国債寮ヨリ御下附可相成旨十二月十七日御指令ニ付、発行紙幣四拾五万円即九拾万円ノ五割ヲ上納シ同額ノ新紙幣ヲ交収致シ候
  ○各国立銀行ノ資本金額其他ハ左ノ如シ。(明治貨政考要・下編)

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 国立銀行名称   開業免状下附日付     開業日       資本金高         発行紙幣高 東京第一     明治六年七月二十日   六年七月二十日   二、五〇〇、〇〇〇円   一、五〇〇、〇〇〇円 横浜第二     七年七月十八日     七年八月十五日     二五〇、〇〇〇円     一五〇、〇〇〇円 大阪第三     依願解社                                          新潟第四     六年十二月二十四日   七年三月一日      二〇〇、〇〇〇円     一二三、〇〇〇円 大阪第五     六年九月八日      六年十二月十日     五〇〇、〇〇〇円     三〇〇、〇〇〇円 合計                             三、四五〇、〇〇〇円   二、〇七〇、〇〇〇円 



  ○明治七年八月三十一日本巻七七頁ノ条ヲ参照スベシ。