デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治39年（1906年）

日露平和克復後是年企業大ニ勃興シタルモ、翌四十年ニ至リ経済界ソノ反動ヲ受ケテ恐慌状態ヲ呈シ、以後沈衰期ニ入ル。此間同行ハ健実ナル経営下ニ毎期利益ヲ増加ス。栄一頭取トシテ之ガ指導ニ任ズ。

第一銀行五十年史稿　巻六・第七七―七九頁
　　　　日露戦後の企業勃興と其反動
記者は更に日露戦後における経済界の情勢と本行の営業とを回顧せんとす、抑々ポーツマスの条約は国民の意に満たずして一時の紛擾を見たれども、朝鮮は確実に我が保護国となり、南満洲もまた日本の勢力範囲に入り、商工業者の経済的発展は俄に活躍の機会を得たれば、戦後の企業熱は日清戦後の比にあらず、既設会社にも増資拡張を企つるもの多かりしが、特に注意すべきは、その企業計画の殆んど総てが動力応用の大規模なる機械工業なりし事なり、是れ我国が産業革命の時代に入れる現象といふべし、かくて新設及既設拡張の総計画資本は、三十九年の下半季には十一億余円、四十年の上半季には五億四千五百余万円、同下半季には一億三千八百余万円、四十一年の上半季には六千余万円なりしが、事業濫興に伴へる反動の襲来は、四十年一月の株式暴落に其端緒を開き、終に投機者間の恐慌となり、商工業者の破綻となり、更に各地銀行の預金取付の厄に逢へるもの、東京外一府十八県四十行の多きに及び、整理の為に支払を停止し、或は臨時休業せるもの、東京外一府八県二十六行に達したるが、四十一年の上半季に至ては金融の梗塞商工業の沈衰其極に達したり、是に於て本行は他の同業者と共に鰻会なる名称の下に、時々集会を催して、救済の方法を講じ、多大の効果を市場に与へたり、而して四十一年の春一時各地の金融繁忙を極むることあるや、本行の各支店は本店の為替尻を使用すること尠からず、これが為に本店の金繰に逼迫を来せしかば、一月廿八日各支店出張所に対し、予て定めたる為替尻の予算額を厳守し、成る
 - 第4巻 p.648 -ページ画像 
べく限額外の借り越を為さゞる事、若し其額を超過する場合には、仮令確実なる担保ありとも、大阪・横浜・神戸・京都・名古屋の各支店は一口三万円以上、其他の支店出張所は一口二万円以上の貸出を為すべからざる旨を通達して之を警戒せり。
　　○鰻会ニツキテハ第七巻金融諸団体鰻会ヲ参照。

株式会社第一銀行第二十期営業報告書〔明治三九年上期〕
　　　　営業景況
当半季ハ戦後ノ第一期ニ属スルニ拘ラス、一般ノ商工業者ハ概ネ慎重ノ態度ヲ持シタルカ為メニ、平和克復以来閑散ヲ極メタル金融市場ハ季初ヨリ猶ホ依然其状況ヲ持続シ、弐億円ノ公債募集及ヒ前後数回ニ発行セラレタル大蔵省証券、其他製茶製糸等ノ資金ニ対スル需要多大ナルモ此ノ沈睡セル金融市場ニ対シテ更ニ刺撃ヲ与ヘタルヲ見ス、且戦時中異常ノ輸入超過ヲ示セル外国貿易ハ本季ニ入リテ漸次平調ニ復スルヲ得タリ、又各種ノ事業ニ対シテ外資ノ輸入セラレタルモノ少ナカラス、此等ノ原因相綜合シテ金融市場ハ常ニ緩慢ノ状ヲ呈シ、金利ハ日ヲ逐フテ低落シ、日本銀行ノ如キモ当半季中ニ二回ノ利子引下ヲ断行スルニ至レリ、此ノ如ク金融ハ閑散ヲ極メタリト雖モ当銀行ノ営業ハ各科目ニ渉リテ頗ル良好ナル成績ヲ得タリ、即チ預金ハ四千四百万円余ニ達シ前季ニ比シテ七百七十万円余ノ増進ヲ示シ、貸出金ハ参千九百万円余ニ上リ前季ニ比シテ弐百参拾万円余ノ増加ヲ来シ、有価証券ハ壱千百五拾万円余トナリ、前季ニ比シテ参百八拾万円余ヲ増加スルニ至レリ
当半季間ニ於ケル韓国ノ経済状態ハ略々内地ト其状況ヲ同フセリト雖モ商工業ハ其各方面ニ渉リテ拡張振興セラレ、殊ニ日韓貿易ハ長足ノ進歩ヲナシ従テ内地ノ諸銀行ニシテ同国トノ取引ヲ開始セルモノ著シク増加セルノミナラス新ニ支店ノ設置又ハ増設ヲ企図セルモノアリ、其他韓人ノ経営ニ係ル農工銀行独立銀行及韓一銀行ノ設立セラルヽアリテ同国ニ於ケル金融組織ハ当半季ニ於テ著シク発展ノ実ヲ示セリ、此ノ時ニ際シ当銀行モ亦益々其業務ノ進捗ヲ計ル為メ営業方針ヲ拡張シ京城総支店ノ組織ヲ設ケ、且ツ頭取自身彼ノ地ヘ出張シ親シク各支店ノ事務ヲ視察訓示スル等同国ニ於ケル中央銀行トシテノ職責ヲ尽スニ於テ寸毫ノ遺算ナキヲ期セリ
当銀行ノ韓国ニ於ケル重要ノ任務タル貨幣整理事務ハ事業着手以来僅僅一ケ年ヲ経過セルニ過キスト雖モ、旧白銅貨ハ大半其引上ヲ結了シ目下残部ノ旧貨幣引上ト新貨幣ノ流通ニ尽力シツヽアリ、又国庫金取扱事務ニ就テハ従来歳入ノ不足セル為メ巨額ノ立替ヲナシ来リシカ、当季ニ入リテ是等ノ立替金ハ尽ク還済セラレ反対ニ相当ノ預金勘定ヲ有スルニ至リタルハ同国ノ財政上大ニ祝スヘキ現象ナリト謂フヘシ、次ニ銀行券ノ発行ニ関シテハ我軍隊ノ引上ト共ニ其流通高一時大ニ減少セリト雖モ之レ単ニ平時ノ常態ニ復シタルニ過キスシテ、近来産業ノ発達ト共ニ其流通額亦漸次増進ノ傾向ヲ呈シ、其他預金勘定ノ如キモ当半季ニ於テ壱千弐百万円有余ノ巨額ニ達シタルヲ見ルハ又以テ当銀行ノ韓国ニ於ケル地歩ノ益々鞏固ナルヲ知ルヘキナリ
 - 第4巻 p.649 -ページ画像 
内地及ヒ韓国ニ於ケル経済界ノ状態及当銀行業務ノ概況ハ上記ノ如クニシテ、而シテ其決算ニ於テ別項記載ノ利益ヲ収ムルコトヲ得タルハ株主諸君ト共ニ当銀行ノ為ニ慶賀スル所ナリ

株式会社第一銀行第二十期定時及臨時株主総会決議録
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〔明治三九年八月〕
明治参拾九年八月四日午後壱時ヨリ当銀行定時及臨時株主総会ヲ東京市日本橋区坂本町東京銀行集会所ニ開ク、株主総数千九百六名此株数弐拾万株ノ内、出席株主八十七名此株数弐万八千九百四拾株、委任状ヲ以テ代理ヲ委託シタルモノ九名此株数千九拾六株、合計株主九十六名此株数参万参拾六株ナリ
頭取渋沢栄一ハ議長席ニ就キ、明治参拾九年上半季営業ノ景況ヲ報告シ、次ニ書記ヲシテ第二十期貸借対照表・財産目録・営業報告書・損益計算書ヲ朗読セシメ、監査役日下義雄ハ前記各書類ノ調査ヲ遂ケタルニ皆正確ナル旨ヲ証言ス、依テ議長ハ之レカ承認ヲ得タキ旨ヲ告ケ一同異議ナク之ヲ承認ス、依テ左ノ利益分配案ヲ提議シ満場一致原案ヲ可決ス
　　　　利益分配
一金七拾四万千百八拾八円九銭　　　　　当半季純益金
一金参拾万五千弐百弐拾参円八拾四銭　　前季繰越金
　合計金百四万六千四百拾壱円九拾参銭
　　内
　金参万七千五拾円　　　　　　　　　　役員賞与金及行員恩給基金
　金武拾五万円　　　　　　　　　　　　積立金
　金五万円　　　　　　　　　　　　　　韓国支店積立金
　金参万円　　　　　　　　　　　　　　同新築費積立金
　金弐拾五万円　　　　　　　　　　　　旧株配当金壱株ニ付金弐円五拾銭即年壱割
　金七万円　　　　　　　　　　　　　　新株配当金壱株ニ付金七拾銭即年壱割
　金参拾五万九千参百六拾壱円九拾参銭　後半季繰込金
右終テ臨時株主総会ヲ開キ、議長ハ取締役壱名増員ニ付其選挙及監査役日下義雄・尾高次郎満期ニ付キ其ノ改選ヲ行フヘキ旨ヲ述ヘタルニ株主秋山長次郎ノ発議ニヨリ監査役弐名ハ留任、取締役壱名ハ議長ノ指名ニ一任センコトヲ希望スル旨ヲ述ベ、満場異議ナク右ノ動議ヲ賛成シ、取締役ニハ市原盛宏就任シ、監査役ニハ日下義雄・尾高次郎重任セリ
右之通リ決議候処相違無之候也
　　明治三十九年八月四日
　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　取締役頭取　渋沢栄一(印)
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　三井八郎次郎
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　佐々木勇之助
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　熊谷辰太郎
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　土岐僙
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　日下義雄
 - 第4巻 p.650 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　尾高次郎

株式会社第一銀行第二十一期営業報告書〔明治三九年下期〕
　　　　営業景況
当半季ハ前季以来引続ケル金融ノ緩慢ト戦後発展セル国民ノ実力ト相待テ漸次新事業ノ勃興ヲ促シ、諸種ノ企業続々計劃セラレ、既設会社モ亦相率ヒテ増資拡張ヲ企テ、其新設及増資額ヲ通算スルトキハ総計実ニ拾壱億円ニ上レリ、然レトモ此新設会社タル多クハ建設期ニ属シ未タ資金ヲ使用スル実行期ニ入ラサルヲ以テ其払込金モ大部分ハ銀行ニ預托セラレ、為メニ金融業者ノ手許ヲシテ益潤沢ナラシメタルト、一方ニ海外貿易ハ頗ル順調ニシテ殊ニ生糸市場ノ如キ近年稀有ノ好況ヲ呈シ、十月ヨリ実施セラレタル関税改正ニヨリ見越輸入ノ商品ハ相当ノ巨額ニ上リシニモ拘ハラス尚全体ニ於テ著シキ輸出超過ヲ見タルノ事実トハ、相俟テ益金融ノ前途ニ楽観ヲ抱カシメ、一般ノ商業ハ比較的ニ活動ヲ見サルモ、諸株ノ相場ハ日ヲ追テ昇騰シ、加フルニ投機者流ノ其勢ヲ助長スルヲ以テ、各種株式ノ価格ハ未タ曾テ見サルノ高価ヲ現ハシ、欧米金融市場緊縮ノ事実アルモ毫モ関係セサルモノヽ如ク、取引所定期売買ノ如キハ実ニ空前ノ盛況ヲ呈シ、随テ企業熱ハ益其度ヲ高メ或ハ実力ノ之ニ伴フヤヲ疑ハシムルモノアルニ至レリ、而シテ金融市場ハ歳末決済資金及株式受渡等ノ為メ季末ニ及ヒ一時稍々活気ヲ帯ヒタルノ外常ニ資金潤沢ノ姿ヲ以テ当季ヲ了レリ、当銀行ハ此間ニ処シ現在ノ状態ト将来ノ趨勢トニ考ヘ極メテ慎重ノ態度ヲ以テ業務ヲ経営シタルモ、幸ニ営業ノ各項ハ著シク増進シ、頗ル良好ノ成果ヲ収メ、預金ノ総計約五千万円ニ達シ、前季ニ比シテ六百万円ヲ増加シ、貸出金亦四千六百余万円ニ上リ、前季ニ比シテ七百余万円ノ増加ヲ見ルヲ得タリ
当半季ニ於ケル韓国ノ経済状態ハ前半季ニ比シ更ニ一段ノ発展ヲ為シ諸般制度ノ確立ト共ニ商工業ハ各方面ニ渉リテ益拡張セラレ、金融機関モ内地ノ銀行ニシテ其支店ノ増設ヲ為シタルモノアリ、殊ニ韓人ノ経営ニ係ル普通銀行農工銀行及其他ノ会社組合等カ漸次ニ其地歩ヲ進メ面目ヲ一新シタルノ観アルハ喜フヘキコトナリトス、而シテ当銀行モ亦益其事務ヲ拡張シ、特ニ取締役一名ヲ増員シテ京城総支店ニ在勤セシメ、以テ韓国各支店出張所ノ統一ヲ計リ中央銀行トシテノ職責ヲ全フスルコトヲ期セリ
又韓国貨幣整理ノ事務ハ着々トシテ予期ノ進行ヲ継続シ、本季末迄ニ引上ケタル旧白銅貨ハ壱千参百参拾弐万余元、旧銀貨葉銭及銅銭ハ八拾七万余元ニ達セリ、而シテ此内切断済白銅貨約弐拾五万貫ハ韓国政府ノ旨ヲ受ケ当季ニ於テ競争入札ニ附シ、其全部ヲ売却シ旧貨整理ノ一段落ヲ為セリ、尚ホ各地方ニ残存流通セル旧貨幣ハ未タ少ナカラサルモ是等ハ銀行券及新補助貨ノ弘通ニ伴ヒ漸次引替ヲナシツヽアリ、殊ニ新貨ハ銀行券ト共ニ流通頗ル良好ニシテ本季末迄ニ発行シタル額ハ弐百拾参万余円ニ上リ、尚其発行額ヲ増加シツヽアルハ喜フヘキ現象ト云フヘシ
国庫金事務ノ取扱モ創始ノ際ニハ幾分ノ不備ヲ免レサリシモ其後法令
 - 第4巻 p.651 -ページ画像 
及手続ノ改善ト金庫所在地外ノ郵便官署ニ於ケル国庫金取扱ノ開始トハ大ニ事務進捗ヲ助ケタリ、本年度韓国政府ノ支出入カ其予算ニ対シテ不足ヲ告ケサリシカ如キモ亦以テ其一端ヲ見ルニ足ルヘシ
銀行券ハ当季ニ入リ韓国ニ於ケル各種産業ノ発達ト共ニ其発行高ヲ増加シ、本季末ノ流通高八百参拾万円ニ達シ、前季ニ比シ弐百八拾六万余円ノ増加ヲ見ルニ至レリ
内地及韓国ニ於ケル経済界ノ状態及当銀行業務ノ状況ハ要略右ノ如シ而シテ当銀行カ其決算ニ於テ別項記載ノ利益ヲ収ムルコトヲ得タルハ株主各位ノ満足セラルヘキ所ナリト信ス

株式会社第一銀行第二十一期定時及臨時株主総会決議録
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〔明治四〇年二月〕
明治四拾年弐月六日午後一時ヨリ当銀行定時及臨時株主総会ヲ東京市日本橋区阪本町東京銀行集会所ニ開ク、株主総数千九百弐拾六名此株数弐拾万株ノ内、出席株主百参拾壱名此株数参万五千参百参株、委任状ヲ以テ代理ヲ委任シタルモノ九百九拾七名此株数拾万四千五百四拾五株、合計千百弐拾八名此株数拾三万九千八百四拾八株ナリ
頭取渋沢栄一ハ議長席就キ、明治参拾九年下半季営業ノ景況ヲ報告シ次ニ書記ヲシテ第廿一期貸借対照表・財産目録・営業報告書・損益計算書ヲ朗読セシメ、監査役日下義雄ハ前記各書類ノ調査ヲ遂ゲ、其正確ナル旨ヲ証言ス、依テ議長ハ之レガ承認ヲ得タキ旨ヲ告ゲ、一同異議ナク之ヲ承認ス、乃チ左ノ利益分配案ヲ提議シ、満場一致原案ヲ可決ス
　　　　利益金分配
一金七拾参万四千四百四拾弐円六拾八銭　当半季純益金
一金参拾五万九千参百六拾壱円九拾参銭　前半季繰越金
　合計金百九万参千八百四円六拾壱銭
　　内
　金参万六千七百弐拾円　　　　　　　　役員賞与金及行員恩給基金
　金弐拾五万円　　　　　　　　　　　　積立金
　金五万円　　　　　　　　　　　　　　韓国支店積立金
　金四万円　　　　　　　　　　　　　　韓国支店新築費積立金
　金弐拾五万円　　　　　　　　　　　　旧株配当金壱株ニツキ金弐円五拾銭即年壱割
　金拾万円　　　　　　　　　　　　　　新株配当金壱株ニツキ金壱円即チ年壱割
　金参拾六万七千八拾四円六拾壱銭　　　後半期繰越金
右終テ臨時株主総会ヲ開キ、議長ハ書記ヲシテ韓国鏡城ニ出張所ヲ設置スルコト、其理由ハ中央金庫ノ内訓ニヨリ国庫金ノ事務取扱ヲナス為メナルコト、及ヒ右ノ結果定款第五条出張所々在地中咸興安東県ノ間ニ鏡城ノ二字ヲ加フルコトヲ朗読セシメ、其賛成ヲ求メタルニ満場異議ナク之ヲ可決セリ
右之通決議候処相違無之候也
　　明治四拾年二月六日
　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　取締役頭取　渋沢栄一
 - 第4巻 p.652 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　三井八郎次郎
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　佐々木勇之助
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　熊谷辰太郎
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　土岐僙
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　市原盛宏
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　日下義雄
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　尾高次郎

株式会社第一銀行第二十二期営業報告書〔明治四〇年上期〕
　　　　営業景況
例ニヨリテ此季間ニ於ケル当銀行ノ営業景況ヲ略叙センニ、前季以来経済界ニ勃興セル企業熱ハ季初ニ入リテモ尚ホ旺盛ヲ極メ、株式ノ時価ハ昇天ノ勢ヲ以テ騰上シ、為メニ一部ノ人心ヲシテ益投機ニ狂奔セシメ、事業ノ成否ヲ問ハスシテ相率ヒテ射倖之レ事トシ勢ノ赴ク所殆ント底止スル所ヲ知ラス、識者ヲシテ其反動ノ来ル蓋シ遠キニアラサルヘキヲ虞レシメシカ、果然一月下旬ニ至リ一旦株式ノ価位下落ニ傾クヤ、急転直下低落ニ次クニ低落ヲ以テシ、終ニ投機者間ノ恐慌トナリ、商工業者ノ破綻トナリ、小銀行ノ支払停止トナリ、其余波延ヒテ全国ニ及ホシ、人心恟々危惧ノ念ヲ生スルニ至レリ、是ニ於テカ金融業者ハ期セスシテ皆警戒ヲ加ヘタル為メ融通緊縮シテ人気銷沈シ、事業ノ進歩ニ幾分ノ阻害ヲ見タル如キ感アリ、当銀行ハ株式熱旺盛ヲ極メタル時ニ於テハ特ニ放資ニ付テ慎重ノ態度ヲ取リ、確実安全ナル方法ヲ択ミタレトモ、一旦金融ノ不円滑ヲ見ルヤ、力メテ着実ナル事業ノ発達ト商取引ノ融通ニ便センコトヲ計リ、商業手形ノ割引商品及有価証券ニ対スル貸出ヲ緩ニセシヲ以テ例年四五月ノ交貸出金ノ減少スヘキ時期ニ際シ却テ其増加ヲ示スニ至レリ、此ノ如ク当半季ハ株式ノ価位ニ非常ノ変動アリシ為メ経済界ニ一大動揺ヲ来シタル如キ観アリシモ、全体ヨリ之レヲ察スルトキハ畢竟株式界ニ於ケル一時ノ狂瀾ニ過キスシテ国力ノ発展ニ付テ何等ノ影響ヲ及ホササリシハ、輸出入ノ発達ト各種生産額ノ増加トニヨリテ之ヲ証スルヲ得ヘシ、而シテ当銀行営業ノ各項ノ如キ亦皆順調ヲ以テ増進シ、頗ル良好ノ成果ヲ収メ、預金ノ総計ハ五千五百参拾万円ヲ超ヘ、前季ニ比シテ五百万円ヲ増加シ、貸出高亦五千四百五拾万円ニ上リ、前季ニ比シテ八百万円ノ増加ヲ見ルニ至レリ
又当半季間ニ於ケル韓国ノ経済状態ハ諸機関ノ整頓ト各種制度ノ確立トニヨリテ一段ノ進歩ヲ示シ、殊ニ昨年農作物ノ佳良ナリシ為メ商工業亦一般ニ発展セリト雖モ、金融ハ前季以来閑散ノ勢ヲ馴致シテ輸出入商品ノ取引比較的活溌ナラサリキ、然リ而シテ内地ニ於ケル投機熱ハ幸ニ韓国ニハ波及セサリシヲ以テ資金ノ需要尠ナク、市場概シテ沈静ヲ持続セリ、只季末ニ及ヒ内地ニ於ケル二三銀行ノ破綻ハ韓国ニ在ル同業者中ニ多少貸出ヲ警戒セルモノアリトテ、一部ノ在留本邦人間ニ金融梗塞ノ声ヲ聞キシモ、大体ニ於テハ金融緩慢商況不振ノ姿ヲ以テ当半季ヲ了レリ
韓国貨幣整理事務ハ其経過益良好ニシテ当季間ニ引上ケタル旧白銅貨
 - 第4巻 p.653 -ページ画像 
ハ弐千弐百九拾五万千九百九拾九枚、最初ヨリノ引上高累計弐億八千九百四拾弐万四千四百八拾五枚ニ達シ、残存流通セシモノ著シク減少シタルノミナラス相場モ亦全ク一定シ、既ニ整理ノ大部分ヲ完了セリ又葉銭ノ整理モ買上価格ノ引上ト海外ニ於ケル銅相場ノ騰貴ト相俟テ着々其効ヲ奏シ、本季末迄ニ引上タル数ハ合計九千百六拾万五千参百弐拾弐枚ニ上レリ、随テ新貨幣ノ流通益円滑ニシテ其発行高モ漸次増進シ、季末ニ至リテハ金貨九万五千五百円、補助貨弐百六拾万参千弐百弐拾五円ニ達セリ
韓国々庫事務ノ取扱ハ各金庫所在地以外ノ郵便官署ニ於テ国庫金ノ出納ヲ開始セシ以来一般歳入歳出ノ取扱敏活ヲ加ヘ、殊ニ徴税制度ノ改正後ハ納税ノ状況益良好トナリ、光武十一年度ニ於ケル六月末日ノ現計ハ収入六百七拾六万円余、支出五百五拾参万円余ニシテ前年度ノ歳入不足額ヲ補塡シテ差引五拾四万円余ノ歳入超過ヲ見ルニ至レリ
銀行券ハ韓国経済状態ノ発達ト貨幣整理ノ進行トニ連レ漸次発行高ヲ増加シ、季末ノ流通高八百七拾四万四千六百七拾参円九拾銭ニ達シ、前季ニ比シ一段ノ増加ヲ見ルニ至レリ
内地及韓国ニ於ケル経済界ノ状態及当銀行業務ノ状況ハ概略右ノ如クニシテ而シテ当銀行カ其決算ニ於テ別項記載ノ如ク前季ニ優ルノ利益ヲ収ムルコトヲ得タルハ株主各位ニ於テモ亦満足セラルヘキ所ナリト信ス

株式会社第一銀行第二十二期定時及臨時株主総会決議録
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〔明治四〇年八月〕
明治四十年八月二日午後弐時ヨリ当銀行定時及臨時株主総会ヲ東京市日本橋区阪本町東京銀行集会所ニ開ク、株主総数千九百参拾三名此株数弐拾万株ノ内、出席株主七拾九名此株数弐万五千弐百八拾参株、委任状ヲ以テ代理ヲ委託シタルモノ十名此株数七千八百九拾三株、合計株主八拾九名此株数三万三千百七拾六株ナリ
頭取渋沢栄一ハ議長席ニ就キ、明治四十年上半季営業ノ景況ヲ報告シ次ニ文書課長ヲシテ第廿二期貸借対照表・財産目録・営業報告書・損益計算書ヲ朗読セシメ、監査役日下義雄ハ前記各書類ノ調査ヲ遂ゲタルニ皆正確ナル旨ヲ証言ス、依テ議長ハ之レガ承認ヲ求メ一同異議ナク之ヲ承認ス、依テ左ノ利益金分配案ヲ提出シ満場一致原案ノ通リ可決ス
　　　　利益金分配
一金八拾六万五千六百三拾五円四拾弐銭　当半季純益金
一金参拾六万七千八拾四円六拾壱銭　前半季繰越金
　合計金百弐拾三万弐千七百弐拾円参銭
　　内
　金四万参千弐百八拾円　　　　　　　役員賞与及行員恩給基金
　金参拾万円　　　　　　　　　　　　積立金
　金五万円　　　　　　　　　　　　　韓国支店積立金
　金五万円　　　　　　　　　　　　　同新築贄積立金《（費）》
　金弐拾五万円　　　　　　　　　　　旧株配当金壱株ニツキ金弐円五拾銭即年壱割
 - 第4巻 p.654 -ページ画像 
　金拾壱万円　　　　　　　　　　　　新株配当金壱株ニツキ金壱円拾銭即年壱割
　金四十二万九千四百四拾円参銭　　　後季繰込金
右終テ臨時株主総会ヲ開キ、議長ハ監査役日下義雄・尾高次郎任期満了ニ付其改選ヲ行フベキ旨ヲ述ヘタルニ、再選ノ動議出デ満場一致之レヲ賛成シ、前記両氏監査役ニ重任ス
右之通リ決議候処相違無之候也
　　明治四十年八月二日
　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　取締役頭取　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　三井八郎次郎
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　佐々木勇之助
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　熊谷辰太郎
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　土岐僙
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　市原盛宏
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　日下義雄
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　尾高次郎
右原本ト相違無之候也
　　明治四十年八月十五日　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　渋沢栄一

株式会社第一銀行第二十三期営業報告書〔明治四〇年下期〕
　　　　営業景況
例ニヨリテ玆ニ当半季間ノ金融概況ヲ略叙センニ、前季ニ於ケル株式価格ノ低落ハ当季ニ至ルモ尚未タ息マス、一般ノ人気銷沈セシト雖モ米作豊饒ノ予想ト国際協約ノ成立トハ幾分カ人心ヲ慰安シ金融亦随テ円滑トナリシカ、十月以降米国ニ於ケル経済界ノ恐慌ハ延テ欧洲ノ金融ヲモ緊縮セシメ大ニ我カ貿易ト金融トニ影響ヲ与ヘタリ、即九月末ニ始マレル銀価ノ低下ハ綿糸織布其他ノ対清貿易ヲ挫折シ、銅価ノ暴落ハ頓ニ海外ヘノ輸出ヲ停止シ、殊ニ米国ノ恐慌ト欧洲金融ノ逼迫トハ我カ輸出品ノ大宗タル生糸ノ売買ヲ妨ケ、季末ニ至リ横浜ニ四万余梱ノ停滞ヲ見ルニ至レリ、此ノ如ク一方ニハ海外経済界ノ変動我カ輸出貿易ヲ阻害シタルト同時ニ他方ニハ内地ニ於ケル拡張事業ノ為メ原料品及諸器械ノ輸入随テ多ク、遂ニ昨半季ノ貿易ニ於テ六千余万円ノ輸入超過トナリ、而シテ内地ニアリテハ財界不況ノ為メ新設会社ノ解散セラルヽアリ、横浜神戸等ニ於ケル外国銀行及商館ノ資金ヲ其本国ニ回送スルアリ、増設工場ノ資金ヲ要スルモ亦少ナカラサレハ一般労銀ノ騰貴ハ下層社会ヲ潤シ、米作ノ豊饒ハ農民ノ消費力ヲ増加シタルニ拘ハラス金融ハ常ニ繁忙ニシテ資金ノ需要多カリシヲ以テ各銀行ハ十一月ニ至リ多クハ貸出利率ヲ引上ケ、次テ日本銀行モ亦割引歩合ヲ変更スルノ止ムナキニ至レリ、当銀行ハ此ノ波瀾多キ金融界ニ処シテ着実ニ業務ヲ経営シ、一方ニハ注意ヲ厚フスルト同時ニ他方ニハ其疎通ヲ計ルニ力メタルヲ以テ預金及貸出ノ総高ハ前季ニ比シテ幾分ノ減少ヲ見ルニ至リタルモ仍ホ前季ニ勝ルノ利益ヲ収ムルコトヲ得タリ
更ニ韓国支店ノ営業ニ付テ一言セン、同国各種経済組織ノ漸ク整備ス
 - 第4巻 p.655 -ページ画像 
ルト日韓新協約ノ確立トニヨリテ商工業ハ順次発展シ、殊ニ農作ノ豊穣ハ一般ノ商況ニ活気ヲ呈シ一時金融ノ繁忙ヲ招致スヘキ状況ヲ呈シタルモ、八月ノ政変ニヨリ暴民各地ニ蜂起シ、為メニ南韓北韓ヲ通シ商品ノ荷捌ニ障害ヲ与ヘ、商況ニ不振ヲ来シ金融ハ概シテ緩慢ナリキ唯季末ニ至リ米穀其他輸出品ノ市場ニ集レルモノ価格不引合ノ為メ一時在荷堆積シ、之ニ対スル資金ノ需要多ク従テ金融稍々繁忙ヲ呈シタルノミニテ当半季ヲ了レリ
貨幣整理事務ハ益進捗シ已ニ前季ニ於テ大部分ノ引換ヲ了リシカハ、当季間ニ引上ケタル旧貨幣ノ代リ金ハ、僅カニ拾参万参千余円ニ過キス、而シテ旧白銅貨ノ残存流通高ハ最早僅少ナルノミナラス従来比較的流通多カリシ地方ニ於テモ漸ク其受授ヲ喜ハサルニ至リシヲ以テ全部ノ引上ヲ了スルモ蓋シ遠キニアラサルヘシト信ス、葉銭ノ流通ニツイテハ在来葉銭建値ヲ主トスル三南地方ニ於テモ新貨建値ヲ採用スルニ至リタルニヨリ、其流通高著シク減少シ従テ新貨幣ノ流通ハ益々円滑トナリ、其発行高増加シテ季末ニ於テハ金貨九万五千五百円、補助貨四百万四千六百七拾五円ニ達シ、補助貨ノ流通ハ前季ニ比シ百四拾万千四百五拾円ノ増額ヲ見ルニ至レリ、国庫金事務ノ取扱ハ度支部大臣ノ許可ヲ得テ各支金庫ニ於ケル計算証憑ノ整理事務ヲ悉ク中央金庫ニ移シ其他事務ノ改善ト整頓トヲ計リ従テ国庫金出納ノ方法モ一層ノ敏活ヲ加ヘタリシカ過般ノ政変ニ伴フ暴動ハ納税ノ障害ヲナシ加フルニ臨時ノ支出多カリシ為メ例年ニ比シ多額ノ歳入不足ヲ生シタルモ海関税金ノ繰入ト当銀行ヨリノ立替金トヲ以テ其均衡ヲ保ツヲ得タリ
銀行券ハ各地ニ設置セラレタル農工銀行ノ事務モ漸次其緒ニ就キ又一般ノ交通頻繁トナレルヲ以テ地方ニ騒擾アリタルニモ拘ハラス其流通益々円滑トナリ、季末現在ノ発行高ハ千弐百八拾万五千参百円ニ上リ前季末ノ発行高ニ比スルニ参百弐拾弐万八千四百円ヲ増加セリ
内地及韓国ニ於ケル金融状態並ニ当銀行業務ノ概況ハ前述ノ如クニシテ当銀行カ其決算ニ於テ別表記載ノ如ク前季ニ優ルノ成績ヲ見ルヲ得タルハ株主各位ニ於テモ亦満足セラルヘキ所ナリト信ス

株式会社第一銀行第二十三期定時株主総会決議録
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〔明治四一年二月〕
明治四拾壱年弐月四日午後弐時ヨリ当銀行定時株主総会ヲ東京市日本橋区阪本町東京銀行集会所ニ開ク、株主総数千九百四拾弐名此株数弐拾万株之内、出席株主百拾壱名此株数弐万九千弐拾七株、委任状ヲ以テ代理ヲ委託シタルモノ八名此株数千百参拾四株、合計株主百拾九名此株数参万六百六拾壱株ナリ
頭取渋沢栄一ハ議長席ニ就キ、明治四拾年下半季営業ノ景況ヲ報告シ次テ第廿三期貸借対照表・財産目録・営業報告書・損益計算書ニ対シ承認ヲ求メタルニ一同異議ナク之ヲ承認ス、依テ左記ノ利益金分配案ヲ提出シタルニ満場一致ヲ以テ原案ノ通リ可決ス
　　　　利益金分配案
一金九拾壱万四千弐百弐拾七円九拾弐銭　当半季純益金
一金四拾弐万九千四百四拾円参銭　　　　前半季繰越金
 - 第4巻 p.656 -ページ画像 
　合計百参拾四万参千六百六拾七円九拾五銭
　　内
　金四万五千七百拾円　　　　　　　　　役員賞与及行員恩給基金
　金参拾万円　　　　　　　　　　　　　積立金
　金拾万円　　　　　　　　　　　　　　韓国支店積立金
　金五万円　　　　　　　　　　　　　　同新築費積立金
　金弐拾五万円　　　　　　　　　　　　旧株配当金壱株ニツキ金弐円五拾銭即年一割
　金拾五万円　　　　　　　　　　　　　新株配当金壱株ニツキ金壱円五拾銭即年一割
　金四拾四万七千九百五拾七円九拾五銭　後半季繰込金
右終テ一二ノ質問出デ之ニ対シ説明ヲ与ヘタル後、渋沢頭取ハ、近来経済界ノ膨脹ニ伴ヒ資金ヲ要スル事少ナカラス殊ニ韓国ニ於テ銀行券ノ発行高ハ既ニ壱千壱百万円以上ニ昇リ尚今後増加ノ見込アルヲ以テ其基礎ヲ強固ニスルタメ当銀行新株式払込未済金壱株ニツキ金弐拾円宛ヲ来ル五月弐拾五日限リニ払込ミ、資本金壱千万円ヲ全額払込済ノモノトナサントスル旨ヲ予告シ、一同之レヲ承認ス
右之通リ決議候処相違無之候也
　　明治四拾壱年弐月四日
　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　取締役頭取　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　三井八郎次郎
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　佐々木勇之助
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　熊谷辰太郎
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　土岐僙
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　市原盛宏
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　日下義雄
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　尾高次郎
右原本ト相違無之候也
　　明治四十一年二月廿二日
　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　渋沢栄一

株式会社第一銀行第二十四期営業報告書〔明治四一年上期〕
　　　　営業景況
昨年来継続セル経済界ノ衰頽ハ当季ニ入ルモ恢復ノ兆候ナク、前季ヨリ停滞セル生糸ハ季初ニ於テ稍活気ヲ呈セシモ幾クモナクシテ沈静シ綿糸織布ハ銀貨下落ノ為メ売レ行キ亦捗々シカラズ、従ツテ公債株式等ノ市価ハ低落一方ニ傾キ人気銷沈シ金融円滑ヲ欠キ、二月以降小銀行ノ支払停止、銅鉄商ノ破綻等ノ為メニ益々財界ノ風潮ヲ嶮悪ナラシメ、信用取引ハ減退シ、手形ノ流通ハ縮少シ、各銀行ノ預金ハ漸次減少スルニ至リシヲ以テ、同業者ハ一般ニ貸出ノ回収ヲ努メタリト雖モ曩ニ新設又ハ拡張セシ事業ノ経営ニ資金ノ需要ヲ増加シ、殊ニ一月以降三月迄酒造税其他国庫ニ収納セラルヽ金額頗ル多カリシニヨリ例年閑散ヲ常態トスル四五月ノ交ニ於テモ意外ニ金融ノ緊縮ヲ告ケ、商工業者ノ困難一方ナラサリキ、是ニ於テ政府ハ第一回国庫債券ノ償還ヲ
 - 第4巻 p.657 -ページ画像 
開始シテ聊カ人心ヲ慰安スル所アリシト雖モ、其償還ノ割引法ナルト同時ニ高利ノ借替ヲ発表シタル為メ人心再ヒ萎縮シ、金融容易ニ緩和セサルヲ以テ、同業者ハ四月中旬ニ於テ終ニ預金利子ノ引上ヲ実行セシト雖モ資金ノ充実ハ意ノ如クナラサリキ
翻ツテ対外貿易ノ状況ヲ観察スルニ輸出品ノ大宗タル生糸ハ合衆国ニ於ケル恐慌ノ余波ヲ受ケテ売レ行キ捗々シカラス、又欧米ニ於ケル事業界ノ沈衰及銅価ノ低落恢復スルニ至ラサル等ニテ輸出常ニ其額ヲ減シ、又対清貿易ハ銀貨下落ニ次テ南清ノ非買同盟起リ綿布ノ売行ニ障害ヲ与ヘ、之ニ反シテ輸入貨物ニ於テハ原料品並ニ諸機械類ノ続々購入セラルヽアリ、只季末ニ於テ停滞セル生糸ノ低価ナルニ係ラス多ク売捌ケタリト雖モ当半季ヲ通観スレハ依然トシテ貿易ノ逆勢ヲ輓回スルニ至ラス、多額ノ輸入超過ヲ見ルニ至レリ
事情斯ノ如クナリシヲ以テ金融ハ常ニ逼迫ノ状態ヲ以テ当半季ヲ経過セリ、当行ハ此ノ間ニ処シテ警戒ヲ怠ラサルト同時ニ確実ナル取引先ニ対シテハ資金ノ融通ヲ為シ慎重ニ業務ヲ経営シタルヲ以テ、預金並ニ貸出共ニ前半季ニ比シテ多大ノ減少ヲ見タルノミナラス公債価格引下ノ為メニ相当ノ金ヲ控除セシト雖モ尚ホ予期以上ノ利益ヲ収ムルヲ得タリ
韓国支店ノ営業ハ同地ノ商況本邦経済界ニ伴ヒ一般ニ不振ニシテ、在留人カ商業資金ノ大部分ヲ不動産ニ固定シ金融ヲシテ益々梗塞セシメタルト、地方暴民ノ騒擾尚ホ未タ鎮定セサルトヲ以テ、金融ハ常ニ緊縮シ、季末ニ及ンテ僅カニ小康ヲ見タルニ止マレリ、各支店ハ此裡ニ在リテ業務ノ経営ニ注意尽力スル所アリシモ尚ホ多少ノ打撃ヲ免レサリシハ蓋シ已ムヲ得サル所ナリ
銀行券ハ例年上半季ハ納税季節ナルカタメ回収多ク、加之当半季ハ市場ノ不況ト地方ノ騒擾トニヨリ回収甚シク、季末ノ発行残高ハ八百九拾壱万余円ニ過キスシテ、前半季末ニ比スレハ参百八拾九万余円ノ減少ヲ見ルニ至レリ、然レトモ壱円券ハ却テ発行ノ増加セルヲ以テ見レハ、銀行券カ深ク韓国内地ニ進入シ主タル通貨トシテ韓民ニ受授セラルヽヤ明カナリト云フヘシ、従ツテ景気ノ恢復スルト共ニ其発行総額ノ増加スルハ疑ナカルヘシ
貨幣整理事務ハ前季以来故障ナク進捗シ、当半季間ニ引上ケタル旧貨幣ノ代リ金ハ実ニ五拾七万千余円ニ上レリ、是レ旧白銅貨ノ引換期限発表セラレタルタメ引上高著シク増加シタルニヨルモノナリ、韓国新貨ノ流通ハ良好ニシテ漸次各地ニ進入シ取引円滑トナリ、本季末ニ於ケル発行高ハ金貨九拾五万円、補助貨参百弐拾弐万千九百六拾五円ニ及ヘリ、補助貨ノ発行高カ前季末ニ比シテ著シク減少シタルハ是レ全ク春来一般通貨ノ減少シタルト毎年夏季ニ於テ見ル所ノ一時ノ現象ニ過キサルナリ
国庫事務ハ各農工銀行ヲ代理店トシテ九ケ所ノ支金庫ヲ増設シ、一般ノ取扱亦次第ニ整頓セシヲ以テ、近来事務ノ激増セシニ係ラス其取扱方ハ比較的敏速ヲ加ヘタリ、唯前季以来地方ニ起レル騒擾ハ租税収入ニ障害ヲ与ヘ滞納ヲ生シタルヲ以テ、季末ニ於ケル国庫ノ立替金ハ七拾四万参千余円ニ上レリ
 - 第4巻 p.658 -ページ画像 
本邦及韓国ニ於ケル金融状態並ニ当銀行業務ノ状況ハ大略前述ノ如クニシテ、当銀行カ其決算ニ於テ利益金カ前季ニ優ルノ好果ヲ収ムルヲ得タルハ株主各位ト共ニ慶賀スヘキ所ナリト信ス

株式会社第一銀行第二十四期定時及臨時株主総会決議録
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〔明治四一年八月〕
明治四拾壱年八月四日午後壱時ヨリ当銀行定時及臨時株主総会ヲ東京市日本橋区阪本町東京銀行集会所ニ開ク、株主総数弐千壱名此株数弐拾万株ノ内、出席株主九拾四名此株数弐万五千六百九拾四株、委任状ヲ以テ代理ヲ委託シタルモノ九名此株数七千五百六拾弐株、合計株主百参名此株数参万参千弐百五拾六株ナリ
頭取渋沢栄一議長席ニ就キ、明治四拾壱年上半季営業ノ景況ヲ報告シ次テ第廿四期貸借対照表・財産目録・営業報告書・損益計算書ニ対シ承認ヲ求メタルニ一同異議ナク之ヲ承認ス、依テ書記ヲシテ左記ノ利益金分配案ヲ朗読セシメ、其決議ヲ求メタルニ満場一致原案ノ通リ可決ス
　　　　利益金分配
一金九拾五万九千六百八拾七円八拾五銭　当半季純益金
一金四拾四万七千九百五拾七円九拾五銭　前半季繰越金
　合計金百四拾万七千六百四拾五円八拾銭
　　内
　金四万七千九百八拾円　　　　　　　　役員賞与及行員恩給基金
　金参拾万円　　　　　　　　　　　　　積立金
　金拾万円　　　　　　　　　　　　　　韓国支店積立金
　金弐拾五万円　　　　　　　　　　　　旧株配当金壱株ニツキ金弐円五拾銭即年壱割
　金拾七万円　　　　　　　　　　　　　新株配当金壱株ニツキ金壱円七拾銭即年壱割
　金五拾参万九千六百六拾五円八拾銭　　後半季繰込金
右終テ臨時株主総会ヲ開キ、議長ハ取締役監査役任期満了ニ付其改選ヲ行フベキ旨ヲ述ヘタルニ、株主秋山長次郎氏投票ヲ省略シテ取締役監査役トモ総テ重任セラレン事ヲ希望スル旨ヲ発議シ、満場之レニ賛成ス、依テ議長ハ幸ニ各位ノ賛成ヲ得、投票ヲ用ヒスシテ一同重任ニ決シタル上ハ喜ンデ之ヲ承諾スヘキモ、土岐僙氏ハ都合ニヨリ取締役ヲ辞シタキ旨申出アルニ付、監査役日下義雄氏ヲ取締役トシ、土岐氏ヲ監査役ニ選挙セラレン事ヲ述ヘタルニ一同之ニ同意シ、議長指名ノ通リ確定ス
右之通リ決議候処相違無之候也
　　明治四拾壱年八月四日
　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　取締役頭取　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　三井八郎次郎
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　佐々木勇之助
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　熊谷辰太郎
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　日下義雄
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　市原盛宏
 - 第4巻 p.659 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　尾高次郎
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　土岐僙
右原本ト相違無之候也
　　明治四十一年八月十日
　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　渋沢栄一

株式会社第一銀行第二十五期営業報告書〔明治四一年下期〕
　　　　営業景況
玆ニ当半季金融ノ概況ヲ略叙センニ、前半季来ノ経済界ノ沈衰ハ当季ニ入リテモ尚復興ノ運ニ向ハス、人心萎縮シテ諸会社ハ事業ノ縮少ヲ計リ或ハ其拡張ヲ見合ハセ内部ノ整理ニ力ムルト同時ニ、政府事業ノ繰延アリテ之レ等ニ使用セラルヽ材料物品及労働者ノ需要ヲ減シ、延テ一般ノ不景気ヲ招致シ、旧盆節季ニ当リテモ関西地方ニ少シク金融ノ緊縮ヲ見タル外決算資金ノ需要ハ市場ニ影響ヲ及ホサスシテ止ミタリ、其後天候順適ニシテ米作豊穣ナリシモ米価下落ノ為メ農家ハ米穀ノ売惜ヲナシタルニヨリ、廻米資金ノ需要ヲ喚起セス、従ツテ地方農民ノ購売力昂進セサルヲ以テ商況振起スルニ至ラス、十月ニ至リ第一回国庫債券ノ償還アリテ民間ノ資金潤沢トナリ、一面我国財政計画ノ確立ト日米協約ノ成立セルトニヨリ海外ニ於ケル本邦公債ノ需要ヲ増加シ、諸公債株券ノ市価ヲ漸次昇騰セシメタリト雖モ、諸銀行ノ貸付金ハ回収多クシテ放出少ナク預金ハ却テ増加スルニ至リタルヲ以テ、金融ハ頗ル緩慢ニシテ季末ニ及ヘリ、更ニ転シテ当季ニ於ケル対外貿易ノ状況ヲ見レハ、銀貨ノ低落ト日貨排斥ノ状態ハ対清貿易ヲ阻害シテ綿糸織布等ノ輸出ヲ減退シ、欧洲商工界ノ不況ハ対欧ノ輸出ヲ萎靡セシメタリト雖モ、米国ノ経済界ハ漸ク快復ノ兆候ヲ現ハシ、同国ニ対スル我生糸ノ輸出ヲ促進シタルト、一方ニハ内地経済界沈衰ノタメ輸入貿易額ヲ減少シタルヲ以テ、輸出超過ノ状態ヲ以テ当半季ヲ終レリ
事情前述ノ如クナリシヲ以テ、金融ハ季末ニ近ツクニ従ヒ漸次緩慢トナリ、歳末ニ及ヒテモ至ツテ閑散ニ当半季ヲ経過セリ、当行ハ此間ニ処シ慎重ノ態度ヲ以テ鋭意業務ノ経営ニ力メタルニヨリ、前季ニ比シ預金ハ増加シ貸出ハ減少シタリト雖、尚予期以上ノ利益ヲ収ムルヲ得タリ
韓国支店ノ営業ニツキテ一言センニ、前季ニ於ケル各地暴民ノ騒擾ト金融逼迫トニヨリ生シタル一般ノ不景気ハ今尚ホ回復セス、貸出金ノ回収意ノ如クナラス、融通概ネ円滑ヲ欠キ、殊ニ同国輸出品ノ大宗タル大豆ハ銀貨ノ低落ニヨリ支那産ニ圧倒セラレ、米穀ハ内地豊作ノタメ輸出ヲ阻止セラレシヲ以テ価格頗ル低下シ、韓国官憲ノ秩序恢復ト共ニ是レニ関連セル事業ノ発展シタルモノアリシモ、一般商況ハ不振ノ状態ヲ脱スルヲ得ス、従ツテ各支店ノ営業状態ノ思ハシカラサリシハ蓋シ止ヲ得サル所ナリトス
銀行券ハ韓国経済界ノ不況ト同国輸入貿易超過ノ為メ正貨ノ流通ヲ促シタルトニヨリ自然其発行高ヲ減少シ、季末ノ発行高壱千参拾八万五
 - 第4巻 p.660 -ページ画像 
千九百円ニシテ、昨年末ニ比シ弐百四拾壱万九千余円ノ減少ヲ来シタリ、然レトモ壱円券発行高ノ益増加セルヲ見レハ、当行銀行券カ主タル通貨トシテ信用ノ加ハレルヲ察スルニ足ルヘシ
貨幣整理事務ハ当季ニ於テ著シク進捗シ、旧白銅貨ノ交換ハ本年十一月末日限リ停止シ、以後六ケ月間公納ニ用ヰラルヽ外一般通用ヲ禁止スルニ至リ、本年末ニ於ケル引上累計代リ金ハ八百七拾壱万五百六拾九円弐拾弐銭ニシテ今ヤ殆ント白銅貨整理ノ目的ヲ達セルモノトイフヘシ、葉銭ハ新補助貨ノ普及ト本年六月葉銭壱枚ヲ弐厘ト定メ壱円以上ハ法貨トシテ通用セサルノ法令発布セラレタルニヨリ、交換請求者ヲ増加シ昨年ニ比シ約倍数ヲ引上クルヲ得タリ、本年末ニ於ケル新金貨ノ発行高ハ九拾五万円、新補助貨ノ発行高ハ参百弐拾万八千五百弐拾五円ニシテ、昨年末ニ比シテ七拾九万余円ヲ減少シタルハ一般商況ノ不振ニ基クモノトス
国庫事務ハ日韓新協約締結以来韓国政府各種ノ業務整頓シタルニヨリ前季以来漸次支金庫ヲ増設シ、本季末ニ於テハ弐拾五支金庫一派出所ニ於テ其事務ヲ取扱フコトヽナレリ、本年中取扱ヒタル国庫金ハ歳入弐千百四拾六万九千弐百弐拾六円余、歳出壱千九百八拾弐万六千八百五拾九円余ニシテ、昨年ノ取扱高ニ比シ約五割ヲ増シ、年末ニ於ケル国庫金勘定モ例年当行ノ立替トナリシモノ季末ニ於テハ拾六万百四拾参円余ノ預リ高トナルニ至レリ
本邦及韓国ニ於ケル金融状態並ニ当銀行業務ノ状況ハ大略上述ノ如クニシテ、当銀行カ当半季決算ニ於テ前半季ニ優ルノ利益ヲ収ムルヲ得タルハ株主各位ト共ニ欣賀スヘキ所ナリト信ス

株式会社第一銀行第二十五期定時株主総会決議録
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〔明治四二年二月〕
明治四拾弐年弐月四日午後弐時ヨリ当銀行定時株主総会ヲ東京市日本橋区阪本町東京銀行集会所ニ開ク、株主総数弐千五拾弐名此株数弐拾万株ノ内、出席株主百拾壱名此株数参万八百八拾九株、委任状ヲ以テ代理ヲ委託シタルモノ九名此株数七千参百九拾株、合計株主百弐拾名此株数参万八千弐百七拾九株ナリ
頭取渋沢栄一ハ議長席ニ就キ、明治四拾壱年下半季営業ノ景況ヲ報告シ、次テ第廿五期貸借対照表・財産目録・営業報告書・損益計算書ニ対シ承認ヲ求メタルニ一同異議ナク之ヲ承認ス、依而文書課長ヲシテ左記ノ利益金分配案ヲ朗読セシメ其決議ヲ求メタルニ満場一致原案ノ通リ可決ス
　　　　利益金分配
一金百四万八千八百四拾九円七拾弐銭　　　当半季純益金
一金五拾参万九千六百六拾五円八拾銭　　　前半季繰越金
　合計金百五拾八万八千五百拾五円五拾弐銭
　　内
　金五万弐千四百四拾円　　　　　　　　　役員賞与及行員恩給基金
　金四拾万円　　　　　　　　　　　　　　積立金
　金拾万円　　　　　　　　　　　　　　　韓国支店積立金
 - 第4巻 p.661 -ページ画像 
　金五拾万円　　　　　　　　　　　　　　配当金壱株ニツキ金弐円五拾銭即年壱割
　金五拾参万六千七拾五円五拾弐銭　　　　後半季繰込金
右之通リ決議候処相違無之候也
　　明治四拾弐年弐月四日
　　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役頭取
　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　三井八郎次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　佐々木勇之助
　　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　熊谷辰太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　日下義雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　市原盛宏
　　　　　　　　　　　　　　　　　　監査役　土岐僙
　　　　　　　　　　　　　　　　　　監査役　尾高次郎
右原本ト相違無之候也
　　明治四拾弐年弐月六日
　　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役頭取
　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　渋沢栄一

株式会社第一銀行第二十六期営業報告書〔明治四二年上期〕
　　　　営業景況
例ニヨリ本年上半季金融ノ概況ト当銀行営業ノ大体ヲ略叙センニ、前年来引続ケル事業界ノ沈衰ハ当季ニ入ルモ未タ回復ノ機運ニ向ハス、年末ノ決済資金ハ新春早々回収セラレ旧暦ノ歳末モサノミ資金ノ需要ヲ喚起セス市場至テ閑散ナリシカ、当季ニ於ケル諸般ノ事情ハ更ニ金融ヲシテ益々緩慢ニ赴カシメタリ、即チ当季ノ初期一二会社銀行カ窮状ヲ暴露シテ株式界ニ打撃ヲ与ヘ一般ノ人気ヲ不安ナラシメタルカ如キ、国際貿易カ依然振ハスシテ海運業ノ益々萎微セルカ如キ、南清ニ於ケル排貨ノ勢尚未タ熄マスシテ対清貿易ヲ障害セルカ如キ、米国関税問題未決ノ為メ同国ニ対スル輸出ノ方針ヲ確定スル能ハサリシカ如キ、何レモ我商工業ノ振作ヲ妨ケ消極的ニ金融ヲ緩慢ナラシメタルノミナラス、欧洲ニ於ケル金利ノ低落ハ我政府ノ公債政策ト相俟テ国債証券ノ需要ヲ進メ海外ニ売往キタル高尠少ナラサルニ、地方公共団体其他諸会社等カ相率ヰテ外資ヲ輸入シ同時ニ国内ニアリテハ国庫債券及鉄道社債ノ一部償還等アリテ積極的ニ正貨ノ金融市場ニ流入セルモノ夥多ナリシヲ以テ資金ハ益々潤沢トナリ、各地ノ銀行ハ相次テ預金利子ノ引下ヲ行ヒ中央銀行亦利子歩合ヲ低下セシト雖未タ以テ事業ノ振興ヲ促スニ至ラス、巨額ノ余資ハ常ニ銀行業者ノ庫中ニ埋蔵セラレ大蔵省証券ノ如キハ発行ノ都度割引歩合ヲ低減セラレタリシモ直チニ売切ノ姿ニテ市場貸出利率ハ近年稀ナル低落ヲ告クルニ至レリ、サレハ此ノ裡ニアリテ募集セラレタル一二市債社債ノ如キ何レモ多大ナル応募超過ノ好果ヲ収メ納税期夏物仕入製糸家等ニ要セシ資金ノ需要モ何等ノ影響ヲ与ヘスシテ銀行ノ余資ハ依然トシテ減少セス季末ニ迫リ一時稍々金融ノ引締ヲ告ケタルノミニテ当半季ヲ了タリ、然リト雖、
 - 第4巻 p.662 -ページ画像 
経済界ハ海ノ内外ヲ通シ順次回復ニ向ヘルノ兆アリ、我国貿易ノ如キモ之ヲ前年同季ニ比スレハ輸入ハ減退シタルモ輸出ハ著シク増進シテ稍々好調ヲ呈シツヽアルハ喜フヘキコトヽ云フヘシ
次ニ韓国ニアリテハ前季ニ於ケル米価ノ下落、大豆ノ安値等ノ為メニ輸出額ハ減退シテ民間ノ購買力振ハス、商況概シテ不味ニシテ経済界ハ常ニ沈衰ノ状態ニアリシヲ以テ資金ノ需要少ナク金融亦緩慢ヲ以テ当季ヲ了レリト雖、銀行券ハ白銅貨ノ引上事務整理ト葉銭ノ価格ヲ公定セラレタルト信用ノ増加等トニヨリ其流通高ヲ増加シ、季末ノ発行高ハ昨年同季ニ比シ壱割以上ノ増加ヲ見ルニ至レリ
右ノ如ク内地韓国トモ金融緩慢ニシテ資金ノ需要少ナク金利低落シテ常ニ庫中ニ余資ヲ存セシニモ狗ハラス、其決算ニ於テ九拾六万九千余円ノ純益ヲ収メ、前年同季ニ比シテ壱万余円ノ増加ヲ示セルハ相当ノ良果トシテ株主各位ニ於テモ満足セラルヘキコトヽ信ス

第一銀行五十年史稿　巻六・附表

渋沢栄一　日記
　　○明治三九年
七月九日
午前八時過ヨリ旅寓ヲ発シ第一銀行支店○下関支店ニ抵リ事務ヲ視ル、畢テ行員一同ニ訓戒ノ辞ヲ為シ、九時半発ノ汽車ニテ馬関ヲ発ス
　　　○韓国旅行ノ帰途立寄リタルモノナリ。
七月十一日
午飧後神戸ナル第一銀行支店ニ抵リ行務ヲ視、且行員ニ訓示ノ辞ヲ為ス、新築地ヲ一覧シテ後兵庫出張所ニ抵リ事務ヲ視ル
　　　○前日神戸ニ抵ル。
七月十二日
 - 第4巻 p.663 -ページ画像 
六時過帰寓、更ニ第一銀行支店ノ招宴ニ応シテ灘万楼ニ抵リ饗宴ヲ享ク、酒間余興アリ、夜十時散会帰寓ス
　　　○前日大阪ニ抵ル。
七月十三日
第一銀行支店○大阪支店ニ抵リ行務ヲ視察シ行員ニ一場ノ訓示ヲ為ス、更ニ熊谷氏及二三ノ人々韓国滞在中処務《（ト脱カ）》ノ概況ヲ談話ス
七月十四日
午前十一時第一銀行支店○京都支店ニ抵リ新築ヲ一覧シ、行務ヲ視察ス
○中略
第一銀行支店ニ於テハ行員ヲ会同シテ一場ノ訓示ヲ為ス
　　　○前日京都ニ抵ル。

　　○明治四〇年
八月二日
正午第一銀行ニ於テ午飧シ、畢テ坂本町銀行集会所ニ抵リ、第一銀行株主総会ニ出席ス、上半季ノ営業ニ関スル一場ノ演説ヲ為シ、議事畢テ来会者中二三ノ人ト会談シ○下略

　　○明治四一年
一月十六日
午後二時第一銀行ニ抵リ重役会ヲ開ク、半季決算ノ事其他要件ヲ決ス
一月二十七日
第一銀行営業報告書ニ添フヘキ金融概況筆記ノ草案ヲ修正ス
二月四日
午後一時ヨリ銀行集会所ニ抵リ第一銀行株主総会ヲ開ク
八月四日
十二時第一銀行ニ於テ午飧シ、一時銀行集会所ニ抵リ第一銀行株主総会ヲ開ク

　　○明治四二年
二月十四日
名古屋ニ帰リテ○熱田ヨリ第一銀行ノ支店ニ抵リ、行員ニ訓示シ、午後一時旅宿ニ抵リテ午飧ス
　　　○前日東京発名古屋ニ抵ル。

第一銀行五十年史稿　巻七・第一五―一七頁
　　○明治二九年―四二年上期に至る期間の重役氏名
○上略明治二十九年普通銀行として開業せるより以来の重役を表示すること左の如し。
　　第一期より第十四期まで
　　　　頭取　　　　　渋沢栄一
　　　　取締役　　　　西園寺公成
　　　　同　　　　　　三井八郎次郎
　　　　同　　　　　　佐々木勇之助
　　　　同　　　　　　熊谷辰太郎
　　　　監査役　　　　須藤時一郎
　　　　同　　　　　　日下義雄
 - 第4巻 p.664 -ページ画像 
　　第十五期より第十六期まで
　　　　頭取　　男爵　渋沢栄一
　　　　取締役　　　　西園寺公成
　　　　同　　　　　　三井八郎次郎
　　　　同　　　　　　佐々木勇之助
　　　　同　　　　　　熊谷辰太郎
　　　　監査役　　　　日下義雄
　　　　同　　　　　　土岐僙
　　第十七期
　　　　頭取　　男爵　渋沢栄一
　　　　取締役　　　　三井八郎次郎
　　　　同　　　　　　佐々木勇之助
　　　　同　　　　　　熊谷辰太郎
　　　　監査役　　　　日下義雄
　　　　同　　　　　　土岐僙
　　第十八期より第二十期まで
　　　　頭取　　男爵　渋沢栄一
　　　　取締役　　　　三井八郎次郎
　　　　同　　　　　　佐々木勇之助
　　　　同　　　　　　熊谷辰太郎
　　　　同　　　　　　土岐僙
　　　　監査役　　　　日下義雄
　　　　同　　　　　　尾高次郎
　　第二十一期より第二十六期まで
　　　　頭取　　男爵　渋沢栄一
　　　　取締役　　　　三井八郎次郎
　　　　同　　　　　　佐々木勇之助
　　　　同　　　　　　熊谷辰太郎
　　　　同　　　　　　土岐僙
　　　　同　　　　　　市原盛宏
　　　　監査役　　　　日下義雄
　　　　同　　　　　　尾高次郎
　　　○五十年史稿ニハ右ノ如ク記シタレドモ二十五期・二十六期ニハ土岐ハ監査役ニ、日下ハ取締役ニ任ゼリ。
　　　○明治四二年六月六日、栄一古稀ニ渉ルヲ以テ、第一銀行他少数ノ関係ヲ除キ事諸業ヨリ引退ス。

金融六十年史　第四五八―四七五頁〔大正一三年一二月〕
　　　　明治三十九年の企業熱勃興
　併しながら、一旦、激烈なる失望に陥れられた人心も、意外に容易に回復して、三十九年より熾盛なる企業熱の勃興を見るに至れるは、勿論相応の理由がある。
 - 第4巻 p.665 -ページ画像 
　第一に挙ぐべきは金融の緩慢化である。其事情としては、（一）第五回の国庫債券の払込が三十八年十月を以て終了し、その以前、毎月三四千万円宛払込める資金が、爾後民間に浮くことになつた。（二）既に前記せる如く、三十八年十一月二十八日に公債整理の為めの外債二千五百万磅を発行し、之を以て、高利なる第四回及五回の国庫債券二億円を償還した。尤も、四五回の国庫債券の償還と共に、第六回に当る臨時事件公債二億円を発行したから、其限り、所謂振替に過ぎぬと雖併し、二千五百万磅、二億四千四百万円の外資を輸入せることは、事実であつて、我通貨供給力を潤沢にせることは、言を待たぬ。かくて媾和成り、国庫債券の払込が結了せると共に、我財界は一転して金融緩慢期に入り、金利の低下を示した。例へば、日本銀行は三十九年三月十二日、及五月一日の両回に於て、四厘方の利下を行ひて、貸付一銭九厘、割引一銭八厘となし、市場金利（東京）も、三十九年三四月頃には、戦時の最高時なる二銭一厘（最低）より四五厘方低下して、一銭六七厘になつた。
　第二は、物価の騰貴と事業純益の増進である。前に述べた如く、日露戦時の支出、十四億六千万円足らずの中、外債に待てるもの実に十億に上る、而して又、三十七、八年中に募集せる外債は、都合五回、十億四千四百万円に上る。此外に、市及民間に於て輸入せる外資も三十九年迄に、明白に数へられるものゝみでも、六千四百四万円に上る即ち外資輸入高は通算十一億余円になる。この中直接外国に支払はれ我市場に対する購買力として現はれない部分も、勿論相当あつたであらう。だが、尚我国に流入した高の頗る巨額に上りたるは、爾後に於て現はれた兌換銀行券の激烈なる膨脹及び物価の騰貴に於て、明に伺ひ得る。

　　　（備考）兌換券は年末流通高、物価指数は東洋経済新報社の調査にして年平均を示す。

　斯くて、兌換銀行券は戦前に比して一億九百万円、四割六七の大膨脹を現はし、物価は約二割方の騰貴を示した。其結果は則ち財界の無上の繁栄にして諸業悉く方外なる純益を博するに至つた。例へば紡積業の如き、三十六年には総払込資本三千四百万円に対する年純益三百四十八万円にして一割強なりしもの、三十八年には総払込資本三千五百万円に達して年純益一千二百六十二万円に上り、実に三割六分に増加し、三十九年には更らに増加して、総払込資本三千八百万円に対して約一千五百万円の年純益を挙げ、其割合四割に垂んとした。勿論紡積業は就中其著例であるが、其他の事業も、其程度に多少の差はあれ何れも皆同様に其純益の増進を示さぬはない。
　第三は株券の暴騰である。既に事業純益の著増に斯の如きものがあ
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る以上、株券の市価の奔騰を告ぐるは固より当然と謂はねばならぬ。請ふ、事実の雄弁を仮りて其状を示す。

右の株券市価の波瀾の中には新株を孕めるもあり、新株落の場合もある。然れども如何なる事情ありとするも五十円券にして東株の七百八十円に、鐘紡の三百円に、暴騰したるに至つては、云ふ迄もなく方外である。
　第四は、大規模なる鉄道国有である。従来から鉄道国有の議は幾度か唱へられ、而かも財界沈衰期には極つて国有論が反覆せられたのである。この鉄道国有の議が、三十九年三月に於て、議会の協賛を経て愈々実施せられ、当時、京釜鉄道を合せて、被買収鉄道会社数十八に達し、その買収代金は公債を以て交附したとは云へ、払込資本の《（マヽ）》三倍以上、例へば内地買収鉄道十七会社の払込資本二億一千七百六十万円に対し、四億五千六百二十万円の巨額に上つた。かくて、鉄道国有は一方に於て当時民間の最大企業の一を奪ひ去ると同時に、他方に於て五億に近い（京釜鉄道買収を合せる時）代金の交附に接したのであるから、是又、企業熱の勃興を幇助したるは言を待たぬ。
　如何に無償金の為に一時意気沮喪したとはいへ、兎に角、大捷を博し、日英の攻守同盟は其範囲を亜細亜全体に拡張せられる、朝鮮は全く我手に帰する、南満鉄道は獲得する、償金なくとも戦勝の賜物は偉大なものがあつた。この成果の上に、上記の如き諸事情が加はり、遂に三十九年の企業熱勃興を見るに至つたのである。
　三十九年の企業熱も亦、例に依りて株価の騰貴を先駆として昂進した。株価は同年春期に於て、既に著しく騰貴したが、其頃は尚ほ左迄企業の増進を示すに至らなかつた。そして世人は寧ろ企業の振はぬのを不思議としたものさへあつた。併しながら、上半期末頃から、企業熱の漸く動き初むる時、東京市外債千五百万円の成立（七月）を見たので、続いて外資輸入の行はるべき予想と相合し、下半期から、俄然として企業の勃興を示現し来り、之を譬ふれば、恰かも長く鬱積せられて居たものが、一時に爆破した如き状を呈した。而して此爆破に機会を与へたものは、実に六月八日の勅令を以て発表せられた南満州鉄道会社の創立である。
　同社は資本金二億円、株数百万株（一株二百円）、其中政府出資に係る五十万株を除き、残五十万株の内第一回の募集株式を十万株とし、其内から更に一千株を引去り、九万九千株を一般募集数と定め、九月十日より募集を広告し、十月五日を申込期限となした、然るに、未だ定款の作成さへなきに、権利株は早くも八九円の価格を生じ、応募競
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争激烈を極め、一人九万九千株を申込めるものさへあつた、応募競争の方法として当時伝へられた所を示せば、例へば、一万株の申込を為さんとする者は、取扱銀行に対し五万円の証拠金中、その一割即ち五千円だけの担保と、四万五千円の借用証書を差入れ、証拠金受領書を以て更に其担保に供し、かくして、僅に一割即五千円の出金を以て、一万株の応募を企てたのである。其結果として、応募額非常に増加し九万九千株に対して一億六百三万一千三百五十八株、実に千七十八倍に達した。試に其応募額を主なる地方別に示せば、

になり、応募熱は名古屋最も甚だしく、応募競争は名古屋から始まつたと伝へられた。而して十株以上の応募人員総計一万一千二百五十四人、其中千七十八倍以上《（株カ）》の応募者五千五百二十七人、九万九千株申込（大倉喜八郎）を為せるに対して、割当てられたるは僅に九十一株、之に要せし証拠金四十九万五千円、割当株一株当り、五千四百余円についた。かくの如き状況なりし故、締切日にありては権利価格三十九円を唱へ、締切後は四十二円六十銭を伝ふるに至つた。
　南満鉄道の株式応募熱を中心として、企業熱は四十年上半期中は旺盛を続け、その下半期に入りては大に冷却し、四十一年には、既に一変して反動の世となつた。左に当時の企業調査を掲げる。

　四十一年上半季迄に、総計画資本約十九億を算し、而して其中成立せるもの、大体十億に上ることであらう。斯くして企業熱の熾烈なりしことは日清戦後に倍蓰せると同時に、其成立事業も又た二倍に上つた。
　斯くの如く、株券の暴騰、企業旺盛の時代は、同時に又一般消費の最も増進して、財界の最も繁栄なる時代である。而して此時代は又、株券市場に、新事業の払込に、商業上の活躍に、資金の需要も最も盛んであるが、同時に資金の流転も又、最も敏活に行はれる時である。
　かゝる時代には金融業者は其融通せる資金の回収、意の如く迅速に行はれ、曾て期待を誤らぬことに安んじて、不知不識の間に其借用を極度に膨脹せしむるを常とする。而して日清戦後の企業旺盛時代に於て然りし如く、日露戦後に於て一層甚しきものがあつた。今左に東京
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大阪、横浜、神戸、名古屋、京都の六市に於ける同盟銀行の預金貸出の状態を示す。

　これ非常なる信用の膨脹ではないか。彼の有価証券の高く、企業は全速力を以て進行し、財界の景気旺盛を継続する間は、之に依て資金益々繁忙を極むるも、融通も亦愈よ滑らかにして、金利も格別の騰貴を示すなく、東京市中の金利（最低率）は一銭七厘台を継続した。併しながら四十年一月以降株券の暴落を端緒として反動の時代に入るや、又之が為めに非常なる累を被むるに至つた。
　　　　明治四十年以後の反動
　日露戦後の企業熱は、三十九年《（八カ）》の下半期に於て、既に其端を発したのであるが、その状尚隠約の間に推移し、三十九年上半期には、既に相当活躍を始めたに拘らず、南満鉄道の創立を見る迄は、未だ刮目せしむる程には至らなかつた。只だ財界の景気は頗る振興し、万事順調の経過を告げつゝありと見做されて居た。然るに南満鉄道創立の前後よりして形勢俄かに革まり、秋末には遂に変じて兇猛なる投機熱となり、其熱度の高き、慥に日清戦後のそれを越え、僅に五六ケ月間に十有余億の新会社の興起を見るに及んでは、形勢最早や久しきを保つ能はざること、睹易き所であつた。果然、四十年初に於ける株式の瓦落を以て、こゝに反動の時期は開かれた。
　実に四十年一月に於ける株券市価の大暴落は、企業熱勃興の時代の終焉を報じたる第一の警鐘であつた。試に有価証券の市価を見るに、四十年一月以降、実に左の如く急転直下の勢を以て暴落した。

　凶兆は実に一月の二十日に顕れた。その前日は売買旺盛を極め、東京株式取引所に於ては一と場にて十四万株の取引あり、帳簿整理の為に臨時休業し、而して仲買組合の新年宴会精養軒に開かれ、仲買人の意気甚だ盛んにして、歓声堂の内外に溢れ、恰も同日憲政本党大会に於ける大隈侯の悲観演説と、奇しき対照をなした。而して翌二十日は期待に反して、東京鉄道株の先物僅か五円高と、人気至て重く、奔馬
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の勢を示した郵船株は逆に押され、八百円面に吹き出づべしと予期された東株は五十円方辷り、場面は正に転換の悪兆を顕はした。是に於て、従来「マバラ」の客に買倒されて来た仲買一派が、一方に、新規買注文を謝絶し、他方に、成行の売注文を受けて売叩いた。この所謂「客殺し」の策略成功して二十一日の暴落となり、買方総討死の惨状を呈した。而して暴落の原因は「何事」であるか、万人が万人、解することが出来なかつたのである。
　曩の騰貴の方外であつた如く、この時の下落も亦た実に突飛であつた。其結果は、暴騰の際に一朝にして巨万の富を成せる成金連の、又一朝にして没落せしに止まらず、騰貴の際に方りて、商人は言ふに及ばず、地方の農夫に至る迄、株に手を染め、株に手を出さゞる者は人にして人に非ずと云ふが如き有様なりしだけに、此暴落の打撃は、其程度に於て独り強烈であつたのみならず、其範囲も亦た広大にして、一方、株熱を冷却せしめると同時に、他方、財界の信用は一般に亘りて遺憾なく根底より震撼せられた。而して銀行は極端に其信用を膨脹せしめたる際に於て、俄かに斯の如き有価証券の激烈なる暴落に逢つたのであるから、銀行の狼狽は一通りでなく、俄に警戒を厳にして、貸出を極度に控へ、回収をこれ努めた。是に於て、人心忽ち恐慌に襲はれ、流言蜚語漸く現はれ来りて、金融業者を驚かし、遂に『鰻会』なる名称の下に東西の有力なる銀行家の会合となり、時の大臣を招待して万一の場合には互に援助するの議を決し、以て人心の不安を鎮静せしむるの道を講ずるに至つた。幸にして恐慌に陥るに至らなかつたと雖、当時、危機一髪の間に迫りたるものありたるは、蓋し疑ふべからざるものであつた。
　こゝに転じて暫く企業計画の結果を見たい。試みに三十八年以来の会社払込資本の増加を左に掲げる。
　　　　諸会社払込資本金

　　　（備考）四十二年末に於ける水陸運輸会社払込資本金が三十七年に比して減少せるは鉄道国有の為である。尚京釜鉄道を合せ十八鉄道の国有前に於ける払込資本金は約二億二千万円に上る。
　国有鉄道になつた分を、三十七年末から除いて、四十二年末と対照すると、此間に於ける会社払込資本額の増加は、勿論六億円以上になる。而して当時企業熱の中心を成せるものは、右表に於て見ゆる如く工業会社であるが、其工業の中の又中心を成せるものは、電気事業であつた。従つて其投資の大部分は実に固定的のものである。是れ、当時の企業興起の金融的影響を考察するに当て、看過してはならぬ事情の一つである。
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　又、貿易は四十年に入るや滔々として輸入超過を示し、遂に同年には六千二百万円、四十一年には五千八百万円の入超を算した。併しながら、四十年には政府の財政計画上、尚外債金償金等の使用すべきものを存してゐたから、同年の正貨流出は僅に一千五百万円に過ぎず。
殊に政府事業民間事業共に、盛んに進捗しつゝあつたから、一般の消費は依然として衰へなかつた。従つて物価も亦同年の十月迄騰貴を続けた。然るに、四十年十月末に至り、紐育恐慌突如として起り、同年三月の初百九磅を示した銅価は六十磅に下落し、銀価も三十二片台より二十七片台に下落した。是に於て我支那及欧米に対する輸出は激減を余儀なくせられ、四十一年の入超の巨額に上れるは、実に主として輸出の減退に基き、この為に四十二年七月まで入超が続き、同七ケ月の入超三千七十二万円に達した。而して以上の外に、四十一年以降は政府も亦外債金の減少に迫られて、財政の緊縮を行はざるを得ざるに至つた。
　斯の如くにして、先づ有価証券の暴落に由て、信用を根柢より震撼して人心を不安に導き、更らに企業の過度の興起に伴ふ資本の固定と濫費とによつて、その欠乏に陥り、紐育恐慌の影響を受けて我輸出は大打撃を蒙り、生糸、銅、綿糸布等を始め、輸出品の市価異常の暴落を来たし、我四億余の輸出産業を暗憺たる窮境に沈淪せしめ、遂に商品の大停滞、生産の大縮少、一般消費の大減少、物価の大下落を馴致した。而して四十一年上半季は其最も困難を極めたる時期にして、信用の廃頽、人心の動揺其極に達し、金融最も険悪を示し、遂に小銀行は此圧迫に堪へ得ずして、全国各地に亘り預金の取付に逢ひ、為に銀行の支払停止をなせるもの、全国に於て実に四十行の多きに及んだ。
　尤も銀行の破綻は四十年初の株式崩落の後、間もなくして起つた。
そして四十一年上半季を終るまで継続したのである。その発端は四十年三月二十九日静岡県二俣町百三十八銀行東京支店の手形不渡に基因せる支払停止に始まり、四十一年七月信濃に於ける信濃銀行及須阪銀行の取付を以て一と先づ段落を劃した様である。誠に当時支払停止を伝へたる銀行名並に時日を掲記する。
　　　　支払停止
　　四十年三月廿九日　　百三十八銀行（静岡県二俣町）東京支店
　　同　　四月四日　　　扶桑銀行（東京市）緑銀行）甲府市）
　　同　　同　九日　　　東西銀行（東京市）信陽貯蔵銀行（東京市）
　　同　　同　十一日　　永代銀行（東京市）
　　同　　五月十五日　　中津共立銀行（大分県）中津貯金銀行（大分県）
　　同　　五月廿七日　　小栗銀行（名古屋市）
　　同　　六月十日　　　亀崎銀行（愛知県）衣浦貯金銀行（愛知県）蟹江銀行（愛知県）
　　同　　六月三日　　　六十一銀行（久留米市）久留米貯金銀行（久留米市）
　　同　　六月廿六日　　鈴木銀行（埼玉県）
　　同　　十一月二十日　九十二銀行（福井市）東京商工銀行（東京市）
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　　同　十二月三日　　　七十八銀行（八王子市）
　　四十一年二月十七日　葛飾銀行（東京）
　　同　二月十九日　　　千代田銀行及千代田貯蔵銀行（東京市）
　　同　三月五日　　　　足立銀行（東京府千住町）
　　同　三月十一日　　　四十九貯金銀行（京都市）四十九銀行（京都）
　　同　三月十二日　　　田無銀行（東京府田無町）東盛銀行（東京府下）
　　同　三月廿八日　　　神戸貯蓄銀行（神戸市）
　　同　四月廿四日　　　神奈川銀行及神奈川貯蓄銀行（横浜市）
　　同　四月廿七日　　　田沼銀行（栃木県（北海道貯蓄銀行（北海道）
　　同　五月二十日　　　伊勢銀行（津市）
　　同　五月廿一日　　　水野銀行（愛知県）
　　同　六月廿六日　　　摂河銀行（大阪府下）横須賀銀行（横須賀市）
　同じ期間に、取付に逢ひたる銀行に至ては、其数更に多く、伝へられたものゝみにても、本支店を合せ無慮七十の多きに及ぶ。
　例に由り、財界救済の声を聞くに至り、政府は同年四月第一回国庫債券一億円償還の議を決し、割引法を設けて資金の需要切迫せる方向に向て、便宜償還の道を開き、以て其救済を行ふた。併しながら、割引償還を請求したるものは二千五百万円に過ぎず、其他は悉く十月以後の抽籤償還に由つたと雖、尚ほ之が為めに金融界の人心を安泰ならしめたるの効は、蓋し尠なくなかつた。今左に反動期に入りたる四十年一月以降に於ける東京金利並に東京大阪等我六大市同盟銀行の預金貸出の上に現はれたる変動を表示する。

　東京の市中金利は日露戦後最低一銭六七厘、最高三銭三厘の間を往来し、寧ろ最低を標準としたものであつたが、四十年末より最高金利三銭五厘に、最低二銭に昇騰し、普通二銭七八厘を唱ふるに至つた。而して六大市同盟銀行の預金は四十年一月より四十一年六月末迄に、二億円を、貸出は一億五千万円を減少した。斯く預金の減少の大なることに依て、反動的沈衰の如何に激烈なりしかを証すると同時に、貸出の減少の程度遥かに預金の減少の程度よりも小なるは、曩の旺盛時代に拡張した信用の固定して、如何に回収に困難なりしかを証する者である。而して其影響は左の如く日本銀行の一般貸出の増加となり、兌換銀行券の膨脹となりて現はれた。
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　若し、四十年以降に於ける金融困難の時期に際し、日本銀行が其地位を利用して、限外券を発行し、以て危急に応ずるの伸縮力なかりせば、我金融界は更らに一層の難境に陥りたるべきや言を待たぬ。四十年末より金融界の人心一時恐慌に襲はれたと雖、預金の取付及休業は概して小銀行に起りたるに止まり、遂に大事に至らざるを得たのは、曩に一度恐慌の経験を甞め、之に処するの道に於て遥に要を得たるに由る所尠なくなく、又日清戦後銀行業の発達著しく、準備及積立金大に増加して、其基礎の鞏固を加へたるに由る所も亦大なるものがあつたであらう。だが又、我が兌換制度の伸縮力を利用して、日本銀行が機宜を制し得たるに由る所、特に大なるを看過し能はぬ。
　併しながら同時に又、日清戦後のみならず、日露戦役に於ても、我が金融を斯の如き困難に投じたる事実に徴して、我が金融制度に、重大なる欠陥の伏在せることを、当時既に看破せねばならなかつた筈であつた。しかるに朝野一人の之に想到するものなく、遂に欧洲大戦後に於て三度恐慌に襲はるゝに至れるは、実に遺憾と云はねばならぬ。

第一銀行五十年史稿　巻六・第七五―七六頁
　　　　行員の欧米派遣
行員の欧米視察は、明治七年種田誠一を米国に留学せしめたる後、久しく中絶したりしを、三十年に至りて復興し、行員西園寺亀次郎に命じ、英米二国に滞在して銀行事務取扱の摸様を調査研究せしめたり、同三十五年頭取渋沢栄一は横浜支店支配人市原盛宏、文書課長清水泰吉を随へて欧米を視察するや、清水は頭取と別れて同地に留り、業務の視察を遂げたり、かくて日露戦役に及び、三十九年には横浜支店支配人石井健吾、四十年には本店副支配人杉田富、四十三年には同野口弥三を欧米諸国に派遣して見学調査せしむ、○下略

竜門雑誌　第二一五号・第四三―四四頁〔明治三九年四月〕
本社○竜門社幹事石井健吾君の欧米漫遊　第一銀行横浜支店支配人石井健吾君は銀行業務視察の命を帯ひ、本月廿八日横浜解纜欧米漫遊の途に就かるゝ筈なり、因に記す、米国の要務を了へたる上は欧洲各国を遍歴し、多分本年末までには帰朝の予定なりといふ
横浜人士の催に係る石井健吾君送別会　別項に記するが如く石井健吾君は近々欧米漫遊の途に上らるゝにつき、横浜に於ける実業界の有力者百三十名は去る十七日午後六時より同地の千歳に於て特に同君の為めに盛大なる送別会を催されし由なるが、今同地の貿易新聞に依り
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て当日の状況を録すれば左の如し
　開会前、竹本東菊をして「十種香」を語らしめしが、当日の主賓たる石井氏、陪賓渋沢男爵、佐々木勇之助氏等は端坐していと面白く聞かれたる様なりき、やがて定刻となるや発起人の案内にて賓客は其席に就かれ、席定まりて後、来栖荘兵衛氏[来栖壮兵衛氏]は発起人を代表して
　　第一銀行が我銀行業に最も古き地位を占め、我が国経済事情の発達に与かる所多きは其の第一銀行の名によりても知るべし、第一銀行は実に我財界の重鎮として一世の重望を負へるのみにあらず近年朝鮮に経営を進めて我が保護国の中央銀行たる機能を揮へる等一種出色の特長を備へ、行運日に隆々たるを見るは快心に堪へず、特に当港には早くより支店を設けられ、我が港の金融に便せられたる所多きは殊に感荷盛称せざるを得ざる所、然るに今其支店に支配人として光輝ある成功を示せる石井君は近くに欧米に遊びて其銀行業を視察する所あられんとす、今や我国は戦勝の余光にあり、国勢往年の比にあらず、内外に築かれし溝渠は取去られて外内資本の共通漸やく盛んならんとする今日の時機に際して、第一銀行がその多士済々の中より選んで石井君を欧米に特派するもの、その時とその人とを併せ得たるものにして、我々は石井君の人格閲歴、識見より之を見て君が其任を全ふして帰られんことを疑はざると共に、杯を挙げて其の前途を慶祝する所以にして、特に男爵渋沢栄一君始め総支配人佐々木君等の臨席の栄を辱ふせしは所謂錦上花を添へたるものにして、発起人等の感喜措く能はざる所なり
　との趣意を述べ、次に石井氏は起つて
　　不肖の外遊を送らるゝに斯る盛筵を以てせらるゝは謝するの言葉なきに苦しむ、今来栖氏の言はるゝ所の如きは不肖の夢にも期し能はざる所、只謹んで諸君の盛意を謝すると共に満腔の誠意を以て諸君の健康盛昌を祈る
　との趣意を陳べたり、それより一国の命運に与かれること多き財界の巨人、商海の徳星たる男爵渋沢栄一氏はその温容を喝采声裡に会衆の前に現はして、徐々として
　　第一銀行が横浜に支店を設けてより早や三十年にもなるべし、世の進運に伴れ其の業務も大に発展したりと雖も、是れ偏に諸君眷顧の賜ならずんばあらず、石井健吾は其の支配人として諸君の厚情を辱ふし、幸に其任務を全ふして今日に至りしもの一に諸君の指導に頼るのみ、今回石井を欧米に派するに付ても我々より見れば若輩の一人として之を見るの外あらず、先きに来栖君の言へる所の如きは思も寄らざる沙汰なりと雖も、業務の実験もあれば、或は多少視察に得る所ありて、将来之を我が行務の実験に利導することもあらば、以て聊か諸君が盛顧の万一に酬ゆるにも足らんか戦後の国勢は曩年の比にあらずと雖も、国光の高きと共に国民の負担はまた重きを致したり、今後数年の実際に於て今日の国勢の示せる栄光を事実に確かむるは実に我々国民の義務にして、特に横浜の諸君の如きは最も外人に接触し第一門戸として立たること
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なれば、其の責任の自から他に異なるものあり、此間に立ちて第一銀行が些かにても多少其金融方面に貢献することを得るは渋沢の以て栄誉とする所なり
との旨を叙せり、それより宴席に移り、趣向を凝らせる数番の余興あり、宴酣なる時、左右田金作氏の動議により朝田又七氏の発声を以て第一銀行万歳、石井健吾君万歳、渋沢男爵万歳を三唱し、それより又渋沢男爵より懇篤なる挨拶あり、喝采声裡に賓客は席を辞し、会の全く散ぜるは午後十一時半なりき

株式会社第一銀行規則草案　（明治三九年？）（渋沢子爵家所蔵）
　株式会社第一銀行規則
　　第一章　総則
　　第二章　職制
　　第三章　職務規程
　　　第一節　総務部
　　　第二節　営業部
　　第四章　処務規程
　　　第一節　通達
　　　第二節　撿査
　　　第三節　印章
　　　第四節　金庫
　　　第五節　営業時間
　　　第六節　報告
　　　第七節　契約
　　　第八節　保証
　　　第九節　得意先
　　　第十節　貸出金
　　　第十一節　預金
　　　第十二節　為替
　　　第十三節　出納
　　　第十四節　現送
　　　第十五節　計算
　　　第十六節　有価証券
　　　第十七節　手形証券及証書
　　　第十八節　帳簿及書類
　　　第十九節　書信
　　　第二十節　電信
　　　第二十一節　訴事
　　　第二十二節　広告
　　　第二十三節　地所建物
　　　第二十四節　什器物品
　　　第二十五節　経費
　　　第二十六節　附則
　　第五章　取締役会
　　第六章　服務規程
　　第七章　賞罰規程
　　第八章　補則

　株式会社第一銀行規則
　　　第一章　総則
第一条　当銀行ノ頭取取締役ハ取締役会ニ於テ重要ナル行務ヲ協定シ総支配人ヲシテ之ヲ施行セシム
第二条　本店ニ総務部ヲ置キ、本支店出張所ノ事務ヲ総轄ス、其職員
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左ノ如シ
　総支配人　課長　書記　見習
　但都合ニヨリ秘書役撿査役ヲ置クコトアルヘシ
第三条　本店ニ営業部ヲ置キ、本店ノ営業事務ヲ処理ス、其職員左ノ如シ
　営業部支配人　係長　書記　見習
　但都合ニヨリ営業部副支配人又ハ支配人代理者ヲ置クコトアルヘシ
第四条　営業部支配人副支配人支配人代理者ハ日時ニ総務部ニ列シテ総支配人ヲ補佐スルモノトス
第五条　各支店出張所ニ左ノ職員ヲ置ク
　支店
　　支配人　計算方　書記　見習　雇員
　出張所
　　主任　書記　見習　雇員
　但都合ニヨリ支店ニ副支配人、出張所ニ主任代理者ヲ置クコトアルヘシ
第六条　京城支店ニ営業部及国庫部ヲ置キ、前者ハ営業事務、韓国貨幣整理事務及銀行券発行ニ関スル事務ヲ、後者ハ韓国官金取扱ニ関スル事務ヲ処理ス
第七条　頭取取締役監査役ヲ重役トシ、其他ヲ総ヘテ行員ト称ス
第八条　行員ノ席次ハ総ヘテ俸給ル《（ニ依脱カ）》、俸給同額ナルトキハ昇級ノ年月ニ依リ、同時ニ昇給セルモノハ年齢ニ依ル
　　　第二章　職制
第九条　頭取ノ外他ノ取締役ハ取締役会ノ決議ヲ経ルニアラサレハ各別ニ当銀行ヲ代表スル事ヲ得ス
第十条　監査役ハ法令定款ニ依リ当銀行ノ業務及財産ノ状況ヲ監査ス
第十一条　総支配人ハ取締役会ノ旨ヲ受ケ、総務部ニ於テ当銀行本支店出張所ノ事務ヲ統轄ス
第十二条　営業部支配人ハ総支配人ノ事務ヲ補佐シ、総支配人不在ノトキハ其事務ヲ代理ス
第十三条　課長ハ撿査・文書　計算ノ事務ヲ分掌シ、撿査役秘書役ハ各課長ノ事務ヲ補佐ス
第十四条　営業部支配人、支店支配人、及出張所主任ハ総務部ノ指示ニ依リ其店ノ営業ニ関スル一切ノ事務ヲ処理シ其責ニ任ス
　但出張所ノ主管支店ヲ定メタルトキハ、其出張所主任ハ主管支店支配人ノ指示ニ従フヘシ
第十五条　韓国貨幣整理事務、韓国官金取扱事務、及銀行券発行ニ関スル事務ニ就テハ京城支店ハ総務所ノ指示ヲ受ケ、韓国各支店出張所ヲ統轄ス
第十六条　副支配人及計算方ハ其店支配人ノ事務ヲ補佐シ、不在ノトキハ其事務ヲ代理ス
　出張所主任代理者カ主任ニ対スル亦同シ
第十七条　本店ノ各掛長ハ営業部長ノ指示ニ依リ、部下ノ係員ヲ督励シテ担任ノ事務ヲ処理ス
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第十八条　書記以下ノ行員ハ上役ノ指示ニ依リ、各自分担ノ事務ヲ整理ス
第十九条　書記以上行員ノ任免黜陟ハ取締役会ノ決議ヲ以テ之ヲ行フ見習雇員ハ其店限リニテ任免スルヲ得ルモ、其都度之ヲ総務部ニ報告スル事ヲ要ス
第廿条　行員ノ俸給・恩給・慰労金　旅費手当等ハ別ニ定ムル所ノ規程ニヨリ之ヲ支給ス
　　　第三章　職務規程
　　　　第一節　総務部
第廿一条　総務部ニ撿査・文書・計算ノ三課ヲ置キ、各課長ヲシテ其事務ヲ担当セシム
第廿二条　撿査課ニ撿査掛・調査掛ヲ置キ、其事務ヲ分掌セシム
第廿三条　撿査掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一本支店出張所事務ノ撿査
　一本支店出張所諸貸出金回議票ノ審査
　一本支店出張所各種計表ノ審査
第廿四条　調査掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一本支店出張所取引先身元ノ調査
　一本支店出張所営業上ノ統計及調査
　一為替相場及金銀相場ノ調査
　一銀行会社報告書類ノ調査
第廿五条　文書掛《（課）》ニ文書掛　株式掛　用度掛ヲ置キ、其事務ヲ分掌セシム
第廿六条　文書掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一諸文案契約及諸規則ノ審査並立案
　一文書電信ノ発送及受付
　一重要ナル契約書証書及回議書其他図書記録ノ保管
　一銀行券ノ製造及発送ニ関スル事務
　一営業報告書ノ調製
　一登記及訴訟ニ関スル事務
　一本支店出張所土地建物什器ノ保管ニ関スル事務
　一総会及取締役会ニ於ケル議事ノ記録
　一行員ノ任免黜陟賞罰等ノ辞令及記録
　一行員ノ誓約書及身元保証ニ関スル事務
　　但秘書役ヲ置クトキハ本条中機密ノ文書電信取締役会ニ於ケル議事ノ記録及行員ノ辞令ヲ取扱ハシムルモノトス
第廿七条　株式掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一株式売買譲渡ノ登録
　一株式ニ関スル諸帳簿ノ整理
　一株主ニ対スル通知及配当金ノ計算
第廿八条　用度掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一給料旅費其他諸経費ノ支払
　一家屋什器等ノ保存及修繕
　一需要品ノ購買及供給
 - 第4巻 p.677 -ページ画像 
　一巡視及小使ノ監督
　一各支店出張所ノ依托ニヨル需要品ノ購買及供給
第廿九条　計算課ハ左ノ事務ヲ担当ス
　一本支店出張所ノ諸計算ヲ総管スル帳簿ノ記入及整理
　一営業部中特殊ノ勘定ニ属スル帳簿ノ記入及整理
　一支店及出張所ヨリ送付スル勘定書ノ照査
　一毎月及毎半季決算書類ノ調製
　　　　第二節　営業部
第十三条　本店営業部ニ割引掛・預金掛・為替掛・外国掛・収納掛・支払掛・手形掛・証券掛ヲ置キ、各掛長ヲシテ其事務ヲ合掌《（分）》セシム
第三十一条　割引掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一手形ノ割引及倉庫証券ニ対スル貸出
　一諸貸附金
　一荷為替ノ取組及取立
　一手形取立ノ委托及受托
第三十二条　預金掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一当座預金及貸越
　一定期預金・特別当坐預金及通知預金《（座）》
　一預金手形其他諸預金
　一小切手ノ支払保証
　一預金及貸越金ノ利足計算
第三十三条　為替掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一為換及電信為替ノ取組及支払
　一支店及他店ノ取引ニ関スル事務
　一他店ノ為替勘定書ノ照査
　一為替事務ニ関スル電報及書状ノ往復
第三十四条　外国掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一外国為換ノ売買取組及支払
　一旅行及商業信用状ノ発行及支払
第三十五条　収納掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一貨紙幣ノ鑑定及収納
　一貨紙幣ノ交換
　但収納シタル貨紙幣ハ毎日営業時間終了ノ際帳簿ト引合セ、其金額ヲ支払係ニ交付スヘシ
第三十六条　支払掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一手形小切手其他諸種ノ支払票ニ対スル金銭ノ支払
　一支払基金ノ管理
第三十七条　手形掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一他店切手ノ交換及取付
　一代金取立手形ノ交換及取付
　一他銀行ノ為ニスル手形小切手ノ代理交換
第三十八条　証券掛ハ左ノ事務ヲ取扱フ
　一諸会社払込金ノ領収及配当金ノ支払
　一公債及社債ノ募集及元利金ノ支払
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　一所有有価証券ノ利足又ハ配当金ノ収入
　一諸会社ノ依托ニヨル株券債券ノ交付又ハ引替
　一セーフデポジツト及保護預
第三十九条　各支店出張所ニ於テハ本店営業部ノ各掛ニ準シ其事務ヲ分掌セシムヘシ、但事務ノ分配ニツイテハ其都度総支配人ニ稟議スル事ヲ要ス
第四十条　韓国国庫金ノ取扱ニ関スル事務及本節ニ規定セサル事務ニツイテハ別ニ規定スル所ニ依ル
　　　第四章　処務規程
　　　　第一節　通達
第四十一条　総支配人ヨリ本支店出張所ニ通達シタル事項ハ必ズ命令ノ期間内ニ之ヲ実行スヘシ、若シ其期間内ニ実行スル事能ハサルトキハ、速カニ其事由ヲ総支配人ニ申立ツヘシ
第四十二条　総支配人ノ通達ハ営業上ノ成規トナスヘキモノナレハ、能ク之ヲ服膺シ、其通達文書ハ目録ヲ附シテ閲覧ノ便ニ供スヘシ
第四十三条　左ノ諸項ニ関スル文書課ノ通達ハ類別シテ目録ヲ附シ閲覧ノ便ニ供スヘシ
　一総会及之ニ関鏈スル事項
　一総支配人ノ命ニヨル通達
　一法律勅令命令ニ関スル疑義
　一定款規則及営業ニ関スル成規通達ノ疑義
　一諸取扱上ノ先例
　一契約ニ関スル疑義及契約文案
第四十四条　撿査課・文書課・計算課及本店営業部ハ、総支配人ノ指図ニ依ルニアラサレハ各支店、出張所ニ対シ直接ニ事務ノ改廃ヲ命スル事ヲ得ス
　　　　第二節　撿査
第四十五条　本支店出張所ノ各掛ハ常ニ其事務ヲ整理シ、何時撿査ヲ受クルモ差支ナキ事ヲ期スヘシ
第四十六条　取締役・監査役ハ重役会ノ決議ニヨリ随時各店ヲ巡回シテ営業上ノ状況ヲ視察スヘシ
第四十七条　頭取又ハ総支配人ハ撿査員ヲ命シ、随時本支店出張所ノ事務ヲ撿査セシムヘシ
第四十八条　撿査員ハ其店ノ支配人、又ハ主任ニ撿査辞令ヲ示シタル後事務ノ撿査ヲ行フヘシ
第四十九条　撿査員ハ撿査結了後遅滞ナク報告書ヲ調製シテ総支配人ニ差出スヘシ
　但撿査ノ結果至急報告ノ必要アルトキハ電信ヲ以テ総支配人ニ報告スル事ヲ要ス
第五拾条　撿査員ハ撿査シタル事項ニ関シ其事由ヲ推問シ得ルモ改廃ヲ命スル事ヲ得ス
第五拾一条　総支配人ヨリ支店又ハ出張所ノ主任者ニ他ノ支店ノ特別撿査ヲ命シタルトキハ、其支配人又ハ主任ハ速ニ命セラレタル部分ヲ撿査シ、其結果ヲ直ニ総支配人ニ報告スヘシ
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第五十二条　各支店支配人又ハ出張所主任ハ其店事務ノ全部又ハ一部ニ就キ時ニ撿査ヲ為シ、其情況ヲ総支配人ニ報告スヘシ
第五十三条　撿査員ハ撿査シタル事項ニツキ総支配人ニ対シ其責ニ任スヘシ
第五十四条　撿査ノ手続ハ別ニ定ムル所ニ依ル
　　　　第三節　印章
第五十五条　本支店出張所ノ店印及役印ハ総支配人ヨリ権限ヲ附与セラレタルモノニ於テ之ヲ保管シ、営業時間終了後ハ必ス金庫ニ収蔵スヘシ
第五十六条　店印及役印ハ当銀行ノ権利義務ヲ表章スル文書手形証書其他官衙ニ差出スヘキ書面ニ限リ押捺スヘシ、此場合ニハ当任者必ス認印ヲ加判スヘシ
第五十七条　総支配人ノ許可ヲ得ルニアラサレハ店印又ハ役印ヲ作リ若クハ改刻ヲ為ス事ヲ得ス
第五十八条　本支店出張所ニ於テハ所定ノ店印役印ノ外銀行ヲ代表スヘキ印章ヲ用フベカラス
　　　　第四節　金庫
第五十九条　金庫ハ現金・地金銀・有価証券・諸証書・手形及印章・帳簿等重要ナル物件ヲ収蔵シ、其以外ノ物品ヲ入ルヘカラス
第六十条　金庫ノ鍵ハ内外弐個ヲ作リ、其店ノ支配人又ハ主任ニ於テ外扉ノ鍵ヲ主席出納掛員ニ於テ内扉ノ鍵ヲ所持シ、立会ノ上金庫ヲ開閉スヘシ
　但臨時止ヲ得サル場合ハ此限ニアラス
第六十一条　金庫ノ内部ヲ数室ニ分チタルトキハ其扉ニ二個ノ鍵ヲ設ケ、開閉及鍵ノ保管ハ第六十条ニ準スヘシ
第六十二条　金庫内ニ出入セシムル人員ハ予シメ一定シ置キ、其以外ノ者ヲシテ濫リニ立入シムヘカラス
第六十三条　金庫ノ開閉ハ日中ニ於テスヘク、日出前又ハ日没後ニ開閉スヘカラス
　但事務ノ都合ニヨリ夜業スルカ、又ハ営業時間前若クハ時間後ニ於テ現送金ヲ発送又ハ受領スル場合、及非常緊急ノ場合ハ此限ニアラス
第六十四条　金庫内ニ火気ヲ入ルヽ事ヲ厳禁ス
　但止ヲ得サル場合ハ特ニ注意シテ提燭ヲ用フヘシ
第六十五条　金庫ノ内外ハ常ニ清潔ニシ、殊ニ扉ノ開閉ニ注意シ、少クトモ毎月一回担任者ハ必ス内外及鍵錠ヲ点撿スヘシ
第六十六条　金庫ノ修繕ヲ為サントスルトキハ、予メ其事由ヲ申立テ総支配人ノ許可ヲ受クル事ヲ要ス
　但臨時止ムヲ得サル場合ハ修繕ノ後報告スルヲ以テ足ル
第六十七条　文字合錠ハ其使用方法ヲ記載シテ一通ハ其店ニ、一通ハ厳封ノ上総支配人ヘ届ケ置クヘシ
　其使用方法ヲ変更シタルトキ亦同シ
第六十八条　文字合錠ノ符号ヲ秘密ニスルハ勿論、内外扉ノ鍵及其副鍵ノ保管ヲ厳ニシ、決シテ粗忽ノ取扱ヲ為スヘカラス
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　　　　第五節　営業時間
第六十九条　営業時間ハ午前九時ヨリ午後四時迄トス
　但支店出張所ニ於テ其地方ノ習慣ニ依リ営業時間ヲ伸縮セントスルトキハ、其理由ヲ総支配人ニ申立テ許可ヲ受クル事ヲ要ス
第七十条　支店出張所所在地ノ祝祭日ニ当リ、従来ノ慣例ニ依リ臨時ニ休業ヲ為ストキハ其旨ヲ総支配人ニ報告スヘシ
第七十一条　行員ハ営業時間終了後各自所管ノ事務ヲ整理シ、現金・地金銀・有価証券・手形・証書類ハ勿論、印章・諸帳簿票類等総テ必要ナル物件ヲ遺漏ナク所定ノ場所ニ収蔵シ、然ル後退出スヘシ
　　　　第六節　報告
第七十二条　支店出張所ノ支配人及主任ハ其店ノ営業ノ状態、金融ノ緩急、処務ノ要件等ニ関シ常ニ総支配人ヘ報告シ、又ハ其通達諮問ニ回報シテ気脈ヲ通スル事ヲ力ムヘシ
第七十三条　支店出張所ヨリ総務部ヘ差出スヘキ定期ノ報告書類ニハ其店支配人又ハ主任ノ認印ヲ押捺スヘシ
第七十四条　本支店出張所ニ於テ営業上特殊ノ取扱ヲ必要トスルトキハ、事由ヲ詳記シテ総支配人ヘ申立テ許可ヲ受クル事ヲ要ス
第七十五条　報告書ハ一定ノ様式ニ従ヒテ調製シ、濫リニ之ヲ変更スヘカラス、若シ新タニ之ヲ作リ、又ハ変更ヲ要スルトキハ総支配人ニ申立テ許可ヲ受クルヲ要ス
　　　　第七節　契約
第七十六条　本支店出張所ニ於テ契約ヲ為サントスル場合ニハ、其文案ヲ具シテ総支配人ノ許可ヲ受クル事ヲ要ス
第七十七条　諸契約書ニハ店印ヲ押捺シ、其店支配人又ハ主任之ニ署名捺印スル事ヲ要ス
第七十八条　特別ノ契約ニシテ公正証書ヲ必要トスル場合ニハ其手続ヲ為シ、且契約ニ附帯スル登記其他法律上ノ手続ニ遺漏ナキ事ヲ期スヘシ
第七十九条　本支店出張所ニ於テ他人ノ契約ニ参加シ、又ハ保証ヲ為サントスルトキハ、其契約文ノ騰本ヲ添ヘ総支配人ノ許可ヲ受クル事ヲ要ス
　　　　第八節　保証
第八拾条　本支店出張所ニ於テ手形ノ仕払、社債借入金又ハ代金支払ノ保証ヲ為サントスルトキハ、其支払金額、権利者及義務者、弁済ノ時期・方法、及保証ニ対スル担保並ニ保証約款、保証料等ヲ詳記シテ総支配人ニ具申シ、其許可ヲ受クル事ヲ要ス
第八十一条　信用状ノ発行、其他特殊ノ契約ニ対シ保証セントスルトキハ前条ノ規定ヲ準用ス
第八十二条　甲店ニ於テ得意先ヨリ担保品ヲ取リ、乙店ニ対シ保証ヲ為シタルトキハ、其旨ヲ総支配人ニ報告スル事ヲ要ス
第八十三条　甲店ニ於テ其得意先ノ貸出極度範囲内ニ於テ乙店ニ対シ保証ヲ為シタルトキハ、前条ノ規定ヲ準用ス、但シ其極度ヲ分割スル場合ニハ総支配人ノ許可ヲ受クルヲ要ス
　　　　第九節　得意先
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第八十四条　得意先ハ一般ニ之ヲ尊重シ、疎略ニ取扱フベカラス、而シテ平素其営業ノ盛衰、取引振、性行等ニ注意シ其撰ヲ謬ラサラン事ヲ要ス
第八十五条　新規ニ当座ノ取引又ハ貸出ヲ乞フモノアルトキハ、其身元信用ノ程度、営業ノ摸様等ヲ取調フル事ヲ要ス、而シテ之ヲ承諾シタルトキハ得意先要報二通ヲ作リ、一通ハ其店ニ保管シ、一通ハ撿査課ヲ経由シテ総支配人ニ呈出スヘシ、但当座預金ノ場合ニハ要報ヲ呈出スルニ及ハス
第八十六条　同業者ニ対シテ取引ヲ開カントスルトキハ、総支配人ノ許可ヲ受クル事ヲ要ス
第八十七条　得意先要報ハ毎年一回再調査ヲ為シ、増補訂正シテ其盛衰ノ状況ヲ総支配人ニ報告スヘシ
　得意先要報ノ形式ハ別ニ定ムル所ニ依ル
第八十八条　取引先ノ銀行又ハ会社ニ対シテハ、其営業報告書ニ依リ要点ヲ摘録シテ要報ヲ作リ、之ヲ保管スヘシ
第八十五条第二段及前条ノ規定ハ本条ノ場合ニ之レヲ準用ス
第八十九条　所在地ニ於ケル取引先又ハ著名ナル会社・商店ノ現状ニツキ警戒ヲ加フヘキ変化ヲ生シタルトキハ、直チニ其旨ヲ総支配人ニ報告スヘシ、他ノ支店出張所ニ於テモ之ガ為メ影響ヲ受クヘキ虞アルトキハ亦其店ヘ通知スヘシ
第九十条　興信所・銀行・会社又ハ個人ニ対シ信用ニ関スル取調ヲ依頼スルトキハ、一定ノ用紙ヲ用ヒ、又回答ヲ為ストキハ其報告ハ必ス秘密ニ附シ、且当銀行ハ其責ヲ負ハサル旨ヲ附記スル事ヲ要ス
第九十一条　支配人又ハ主任ハ得意先ニ関スル記録ヲ作リ、其身元信用等ニ関シ見聞シタル事実風聞及其根源ヲ摘録シ、平素ノ参考ニ供スヘシ
　　　　第十節　貸出金
第九十二条　貸付割引荷為替其他凡テ貸出金ノ請求アルトキハ、其都度回議票ヲ作リ、其店支配人又ハ主任ノ撿印ヲ受ケ、然ル後之ガ取扱ヲナスヘシ
第九十三条　総テ貸出金ハ其借主ノ身元信用ニ重キヲ置キ、担保品ヲ取ルトキハ特ニ定メタル担保品規定ニ依リ之ヲ取扱フヘシ
第九十四条　各取引先ニ対スル割引貸付ノ額ハ予ジメ其極度ヲ定メテ総支配人ノ許可ヲ受クヘシ、其極度ヲ変更セントスル場合亦同シ総支配人ヨリ特ニ極度ヲ定メ通達シタルトキハ、之レヲ超過スベカラス
第九十五条　商業手形割引依頼人ハ其店所在地ニ営業所又ハ住所ヲ有シ、当座取引アルモノニ限ル、但総支配人ノ許可ヲ得タルモノハ此限リニアラス
　前項ノ手形割引依頼人ヨリ差入シムル証書ノ形式ハ別ニ之ヲ定ム
第九十六条　他所払割引手形ハ依頼人及支払人ノ身元ガ最確実ナル場合ニアラザレバ之ガ取扱ヲ為スベカラス
第九十七条　割引依頼人ノ署名及印鑑ハ割引依頼証書ト共ニ其店ニ備ヘ置クベシ、若シ其代理署名者ヲ定メタルトキハ、其筆蹟及印鑑ニ
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　代理権限ヲ証明スル証書ヲ添付シテ差出サシムヘシ
第九十八条　手形ノ割引ヲ為ストキハ、依頼人ヲシテ拒絶証書作成ノ義務ヲ免除セシメ、其旨ヲ手形ニ記載シ捺印セシムベシ、但其依頼人カ約束手形ノ振出人ナルトキハ此限ニアラス
第九十九条　担保品規定ノ範囲内ニ於テ当座貸越契約ヲ為シタルトキハ、約定書ヲ差入シメ撿査課ヲ経由シテ其旨ヲ総支配人ヘ報告スベシ、但限額金弐千円以上ノ場合ニアリテハ総支配人ノ許可ヲ受クル事ヲ要ス
第百条　当座取引約定ハ別ニ定ムル所ノ形式ニ依ル、其署名印鑑ニ関シテハ第九十七条ノ規定ヲ準用ス
第百一条　割引貸付及当座貸越ノ利息ハ土地ノ事情金融ノ繁閑取引先信用ノ程度等ニヨリ一定スルヲ得スト雖トモ、成ルヘク一定ノ標準ニ拠リ取扱フベシ、若シ特別ノ低利ヲ以テ貸出ヲ為サントスルトキハ、総支配人ノ許可ヲ受クル事ヲ要ス
第百二条　貨物ヲ担保トスル貸出金ハ確実ナル倉庫ノ質入証券ト預証券トニ由リ之ヲ取扱ヒ、質入証券ノミニテ取扱フヘカラス
　前項ノ倉庫ハ総支配人ノ許可シタルモノニシテ、貸物《（貨）》ハ保災保険《（火）》ヲ附シタルモノニ限ル
第百三条　倉庫ノ設置ナキ地ニ於テハ担保貨物ヲ当銀行ノ倉庫又ハ借庫ニ積入ル事ヲ得、但此場合ニ於テハ貨物ノ品質数量等ヲ撿査シ、相当ノ火災保険ヲ附シテ倉庫ヲ厳重ニ鎖鑰シ、責任者ヲ定メテ其鍵ヲ保管スヘシ
第百四条　担保貨物ハ借主ノ倉庫ニ寄托スル事ヲ得ス、但止ム事ヲ得サル場合ニハ予シメ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス、此場合ニハ前条第二項ノ手続ヲ為シ、其出入ニハ必ラス責任アル行員ニ於テ立会ヲ為シ決シテ鍵ヲ借主ニ渡スベカラス
第百五条　担保貨物ハ時々倉庫ニ就テ其品質数量等ヲ点撿スヘシ
第百六条　新規ノ取引先ニ対シ倉庫証券ニ依リテ貸出ヲ為ス場合ニハ其仕入先ヲ取調ヘ、貨物ヲ撿査シ、且ツ確実ナル保証人ヲ立テシムル事ヲ要ス
第百七条　土地建物ヲ抵当トシテ貸出又ハ当座貸越ヲ為ストキハ、必ラス登記ノ手続ヲ経、且ツ建物ニ対シテハ相当ノ火災保険ヲ付セシムベシ
第百八条　貨物ニ対シ荷為替ヲ取組ムトキハ、必ス相当ノ運送保険ヲ付セシムヘシ
第百九条　市町村若クハ居留地其他公共団体ニ対シテ貸出ヲ為ス場合ニハ、総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　組合ニ対シ貸金ヲ為ス場合亦同ジ
第百十条　得意先ガ営業主ノ支店又ハ出張店ナルトキハ、其取引ニツイテハ一切責ニ任スヘキ旨ノ証書ヲ差入シメテ取引スル事ヲ要ス、但支配人ノ登記アルモノハ此限ニアラス
第百十一条　左記ノ各項ニ該当スル場合ニハ予ジメ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　一、無担保ノ貸付当座貸越又ハ融通ノ為ニスル無担保ノ約束手形ノ
 - 第4巻 p.683 -ページ画像 
割引
　二、同業者ニ対スル通知貸
　三、規定以外ノ物件ヲ担保トシテ貸付若クハ当座貸越ヲナシ、又ハ規定以外ノ貨物ニ対シ荷為替ヲ取組ム場合
　四、地所家屋船舶ヲ抵当トシテ貸付若クハ貸越ヲナス場合
　　前項ノ場合ニ於ケル貸付及貸越契約ノ書式ハ別ニ之ヲ定ム
　五、規定ノ担保ト雖トモ其評価額ヲ規定ヨリ百分五以上増加シテ貸付又ハ貸越契約ヲ為ス場合
　六、担保付貸出ニシテ二回以上延期又ハ書替ヲナシ居据リ貸トナル虞アル場合
　七、当座貸越ト雖トモ半季間居据リ貸トナリタル場合
　八、担保付ノ貸出ニ対シ内入金又ハ担保品価格騰貴ノ事由ナクシテ其担保品ノ一部又ハ全部ヲ返却スル場合
　九、有価証券ヲ担保トセル貸出ヲ商品又ハ不動産担保ノ貸出ト組替ユル場合
　十、極度以外ニ割引又ハ貸付ヲ為ス場合
　十一、三ケ月ヲ超ユル手形ノ割引又ハ六ケ月ヲ超ユル貸付ヲ為ス場合
　十二、最低ノ貸出利息以下ニテ取引ヲ為ス場合
　十三、年賦償還ノ貸付金ヲ為ス場合
　十四、延滞セル貸金ヲ年賦償還ニ変更スル場合
　十五、滞貸ノ整理又ハ処分ヲ為ス場合
　十六、滞貸ヲ損失ニ立ツル場合
　十七、会社ニ対スル貸金ヲ其会社ノ社債又ハ新株ト振替ユル場合
　十八、倉庫証券ニ依ラズシテ商品担保ノ貸出ヲ為ス場合
　十九、ビルブローカート新規ニ取引ヲ開ク場合
　二十、ビルブローカーヨリ他人名義ノ株券社債券又ハ公債ヲ担保ニ取リ貸出ヲ為ス場合
　　　　第十一節　預金
第百十二条　預金利率ハ総支配人ノ指定シタル最高率ヲ超ユルコトヲ得ス、但止ムヲ得サル事由アルトキハ其許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百十三条　本支店出張所ハ各々其預金額百分十ヲ下ラサル通貨ヲ備ヘテ預金支払準備金ニ充ツベシ、但其準備額ハ市場ノ状態営業ノ摸様等ニヨリ総支配人ノ許可ヲ得テ其割合ヲ増減スルコトヲ得
第百十四条　総支配人ノ許可ヲ受クルニアラザレバ当銀行ノ負担ヲ条件トシ又ハ担保ヲ提供シテ預金契約ヲナス事ヲ得ス
第百十五条　当座預金契約ハ其店支配人又ハ主任ノ許可ヲ得ルニアラサレハ掛員ニ於テ之ヲ約諾スル事ヲ得ス
第百十六条　一ケ年以上又ハ二ケ月以内ノ定期預金ヲ預ル事ヲ得ス、但一年毎ニ利息ノ割合ヲ定ムルモノハ長期預金ノ内約ヲ為ス事ヲ妨ケス
第百十七条　預金証書ヲ書損シタルトキハ新ニ之ヲ調製シ、決シテ金額ヲ改訂シタル証書ヲ交付スベカラス
　　　　第十二節　為替
 - 第4巻 p.684 -ページ画像 
第百十八条　他店ニ対スル為替取引ノ締約・解約又ハ変更ハ凡テ総務部ニ於テ取扱フモノトス、但預リ一方ノ取引ヲ締約シ又ハ其解約ヲ為スニハ文書課ヲ経由シテ其都度総支配人ヘ報告スルヲ以テ足ル
第百十九条　為替取引ニ対スル貸越又ハ預リノ利息ヲ変更スルトキハ総務部ヘ報告スル事ヲ要ス
第百廿条　他店ニ対シ一定ノ期間ヲ限リ極度外貸越ヲ許サントスルトキハ、総支配人ヘ申立テ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百廿一条　支店ニ於テ為替担任《（保）》ヲ保管スルトキハ、其保管報告書ヲ文書課ニ送付スヘシ、甲店ニ於テ乙店ノ為メニ為替担保ヲ保管スルトキハ、前項ノ外乙店ニモ其報告ヲ送付スヘシ、担保品ヲ変更シタルトキ亦同シ
第百廿一条《（マヽ）》　第百十七条ノ規定ハ送金手形及信用状ノ場合ニ之ヲ準用ス
　　　　第十三節　出納
第百廿二条　凡テ通貨ノ収納ハ其顧客ノ面前ニ於テ其金額数量ヲ撿スベシ
第百廿三条　受払係ノ部室ハ支配人又ハ主任其他特ニ許サレタルモノノ外、何人ト雖トモ出入スル事ヲ得ス
第百廿四条　他店手形又ハ小切手ハ其地渡リノモノニシテ得意先又ハ身元ノ判明セルモノニアラザレハ濫リニ之ヲ受入ルベカラス、且ツ不渡トナルトキハ戻入ヲ為サシム事ヲ得ルモノタルヲ要ス
第百廿五条　其店宛ノ送金手形小切手ヲ支払ヒ又ハ受入ルヽ場合ニハ送金手形ニアリテハ為換掛、小切手ニアリテハ預金係ノ撿印ヲ得タル後ニアラザレバ、支払又ハ受入ルヽコトヲ得サルモノトス
第百二十六条　一般横線引又ハ特定横線引小切手ハ銀行以外ノ所持人ニ支払フベカラス
第百二十七条　支払票ハ支配人又ハ主任ノ認印アルモノニアラザレバ支払ヲ為ス事ヲ得ザルモノトス
第百二十八条　如何ナル場合ヲ問ハズ入金票又ハ支払票ナクシテ金銭ノ受入又ハ支払ヲ為スベカラス
第百二十九条　掛員各自担当ノ現金ハ他ノ同掛員担当ノ分ト区別シ混乱セザルコトヲ努メ其責任ヲ明ニスベシ
第百三十条　出納掛ニ於テ現金ノ不足ヲ生シタルトキハ、其原因ノ如何ヲ問ハス担当掛員ニ於テ弁納ノ義務アルモノトス
　其何人ノ責ニ帰スヘキヤ明ナラザルトキハ其掛員全員ノ連帯責任トス、但事情ノ如何ニヨリテハ取締役会ニ於テ其責任ヲ免除スル事アルヘシ
第百卅一条　前条ノ場合ニ於テハ支配人又ハ主任ハ能ク其事実ヲ調査シ、掛員ノ始末書ヲ添ヘテ総支配人ヘ届出ベシ
第百卅二条　出納係ノ過剰金ニシテ一週間ヲ経過スルモ其原因ヲ発見スル事能ハサルトキハ、過剰金勘定ノ貸方ニ記入シ、不足金ハ其勘定ノ借方ニ記入シ、且ツ其日附事実及関係掛員ノ氏名ヲ記録スル事ヲ要ス、但之カ為メニ其不足金ニ伴フ支配人又ハ主任ノ責任ヲ免ルルコトヲ得ス
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第百卅三条　兌換損札ハ便宜附近ノ日本銀行本支店出張所ニ於テ交換シ、金額壱千円以上ヲ貯蔵スベカラス
第百卅四条　損傷シタル銀行券ノ引換又ハ廃棄ハ別ニ定メタル規則ニ依ル
第百卅五条　外国ノ貨幣ヲ持参シテ日本通貨ト交換ヲ乞フモノアルトキハ、其時ノ換算価格ニ百分ノ五以下ノ手数料ヲ徴シテ計算スヘシ但引換ノ便少キ外国貨幣ハ其交換ヲ謝絶スベシ、万一止ムヲ得サル必要ノ為メ引換ヲナストキハ更ニ相当ノ手数料ヲ申受クヘシ
　　　　第十四節　現送
第百三十六条　支店出張所ニ於テハ成ルベク資金ノ現送ヲ避クル事ヲ努メ、必要止ムヲ得サルトキハ前以テ其回付ヲ請フベキ店ニ申込ヲ為スヘシ
　前項ノ場合ニ於テ請求ニ応ジテ現送シタル店ハ其旨ヲ総支配人ヘ報告スルコトヲ要ス
第百卅七条　現金回送ニ当リテハ支配人又ハ主任ハ危険ノ虞ナキ様周到ノ注意ヲ為シ、左ノ諸項ヲ遵守スベシ
　一、現金護送者ハ年齢ト経験トニ於テ十分ナル行員（小使ヲ含ム）二名以上タルコトヲ要ス
　二、現金護送者ハ汽車・汽船其他途中ニ於テ十分ノ注意ヲ加ヘ、停車場・波止場・乗合場等混雑ノ場所ハ特ニ警戒シテ瞬時モ目ヲ放ツベカラス
　三、現金ヲ護送者ニ交付シ、又ハ之ヨリ受取リタルトキハ、其差立又ハ受取ノ書面ヲ交付スル外、直ニ電信又ハ電話ヲ以テ其旨ヲ相手方ヘ報告スヘシ
　四、現金護送者ハ送付先ノ支配人又ハ主任ニ対シテ其現送金ヲ引渡ス事ヲ要ス
　五、汽車汽船其他運送業者ニ対《（托）》シテ現送スルトキハ必ラス確実ナル保険ヲ附スル事ヲ要ス、其差立及受取ノ場合ニハ電信ヲ以テ相手方ヘ報告スル事ヲ要ス
　六、支店出張所ニ達シタル現送者ニシテ更ニ他ノ支店出張所ヘ送付スヘキ現送金ヲ所持スルトキハ、其現送者ガ出立スルマテ支配人又ハ主任ハ之レヲ金庫中ニ預リ保管スベシ
　七、他銀行ヘ現送金ノ送付又ハ回付ヲ托セントスルトキハ、其委托ハ其銀行ノ支配人ニ対シテ之レヲ為スヘク直接現送者ニ委托スベカラス
　　其差立及受取ノ場合ニハ第三項ニ準ジテ相手方ヘ報告スル事ヲ要ス
第百卅八条　支店出張所ニ於テ郵便ニヨリ手形又ハ小切手ヲ以テ本支店ヘ回金シタルトキハ其都度総支配人ヘ報告スル事ヲ要ス
第百三十九条　回金ノ為ニスル手形ハ記名式小切手ハ特定横線引ノモノタルコトヲ要ス
第百四十条　現送ニ関スル本節ノ規定ハ銀行券送付ノ場合ニ之ヲ準用ス
　　　　第十五節　計算
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第百四十一条　計算ハ総テ明亮正確ナルヲ要ス、想像又ハ事実ニ適合セザル記帳計算ヲ為ス可ラズ
第百四十二条　既定ノ勘定科目以外ニ新ニ科目ヲ設クル場合ニハ計算課ヲ経由シテ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百四十三条　各支店出張所ハ毎半季ノ終リニ諸計算ヲ計上シ、決算書類ヲ添テ遅滞ナク計算課ヘ発送スベシ、但韓国支店出張所ニアリテハ其決算書類ガ翌月十四日迄ニ本店ヘ到達スル能ハザルノ虞アルトキハ、特ニ定メタル暗号電信ニヨリ貸借対照表ヲ計算課ヘ報告スルコトヲ要ス
第百四十四条　毎半季ノ損益及後季繰越金ノ概算ハ其季終了ノ二週間前ニ其見込書ヲ、又決算ノ際ニハ其利益（又ハ損失）金ヲ電信ニテ総支配人ニ報告スルコトヲ要ス
第百四十五条　滞貸其他消却スベキモノアルトキハ計算書ヲ添ヘ、説明ヲ附シテ毎半季終了三週間前ニ其旨ヲ総支配人ニ申立ツルコトヲ要ス
第百四十六条　毎半季決算ニハ其店後半季繰込金、既収割引料及未払利息ノ計算ニ其明細表ヲ添テ計算課ヘ届出ツルコトヲ要ス
第百四十七条　毎半季ノ営業収支予算ハ其半季ノ初ニ於テ撿査課ヲ経由シテ総支配人ヘ提出シ、其承認ヲ受クルコトヲ要ス
第百四十八条　貸地料・貸家賃・其他物品売却代金等雑益ニ係ルモノハ毎月明細表ヲ添テ撿査課ヘ報告スベシ
　　　　第十六節　有価証券
第百四十九条　所有ノ公債・社債・株券及保護又ハ担保トシテ預リタル有価証券ハ夫々区別ヲナシ支配人又ハ主任自カラ之ヲ保管シ、且其出納ニハ行員一名ノ立会ヲ要ス
　セーフデポジツトノ取扱ニ関シテハ別ニ定ムル所ニ拠ル
第百五十条　支配人又ハ主任ガ都合ニヨリ前条ノ事務ヲ次席者ニ取扱ハシムルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス、此場合ニハ支配人又ハ主任ハ毎月一回必ス之ガ撿査ヲ為シ其旨ヲ撿査課ヘ報告スルコトヲ要ス
第百五十一条　担保品ニ附属スル委任状其他ノ書類ハ次席者又ハ其係主任者ニ於テ整理保管シ、担保品保管者ト区別スルコトヲ要ス
第百五十二条　公債・社債ノ引受若クハ買入、又ハ株式ノ応募若クハ買入ヲ為スニハ、総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百五十三条　所有ノ公債・社債・株券ヲ売却又ハ貸与スル場合ニハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　　　　第十七節　手形証券及証書
第百五十四条　割引手形、融通ノ為ニスル約束手形、荷為替手形、取立手形、倉庫証券等ハ夫々類別シテ支配人又ハ主任自ラ之ヲ保管スベシ、但他ノ行員ニ取扱ハシムル場合ニハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百五十五条　貸付金証書、当座貸越約定書其他ノ契約書類ハ支配人又ハ主任ニ於テ保管スルコトヲ要ス、但第二十三条第一項第三号《（六）》ニ拠リ文書課ニ於テ保管スルモノハ此限ニアラス
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　当座取引ニ関スル証書類ハ預金掛主任者ヲシテ保管セシムルコトヲ得
第百五十六条　前二条ニ附属セル書類ハ点撿ノ上相違ナキコトヲ認メ証印ヲ為シ本証書ニ添付シテ保管スベシ
第百五十七条　荷為替手形ニ附属スル船荷証書又ハ貨物引換証書ハ、事情ノ如何ヲ問ハス荷受主其他ヘ貸渡スコトヲ得ス、但必要止ムヲ得ザルトキハ代リ担保ヲ差入シムルカ、又ハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百五十八条　質入証券ニ対シテ貸出ヲ為ス場合ニ其一部出庫ヲ許シタルトキハ、之ヲ承諾シタル旨及之ニ対シテ供托スヘキ金額ノ割合ヲ預証券及質入証券ニ記載スルコトヲ要ス、但内出ニ関シテ倉庫会社ト其店トノ間ニ特約ヲ為シテ便法ヲ設ケントスルトキハ、総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百五十九条　質入証券ニ対シテ貸出ヲ為ストキハ、同時ニ其債権額利息及弁済期等ノ要項ヲ預証券ニ記載シテ署名スルコトヲ要ス
第百六十条　当所取立為替手形ニシテ一週間以上ノ期日ヲ存スルモノハ、支払人ニ呈示シテ其引受ヲ請フベシ
第百六十一条　当所取引立手形ニシテ支払又ハ引受ヲ拒絶セラレタルモノハ特ニ依頼アル場合ヲ除キ単ニ支払又ハ引受拒絶ノ符箋ヲ為サシメ、委托銀行ヘ返還スベシ
第百六十二条　質入証券又ハ荷為替手形ニ対シテ貸出ヲ為ストキハ、依頼人ヲシテ拒絶証書作成ノ義務ヲ免除セシムベシ
第百六十三条　手形ノ文言、裏書、支払又ハ引受ノ為ニスル呈示、拒絶証書ノ作成、償還請求ノ通知等法律上ノ手続ヲ為スベキ場合ニハ其権利保全ニ欠欠ナキ様十分ニ注意シテ違式ノ取扱ヲ為スベカラス
　　　　第十八節　帳簿及書類
第百六十四条　帳簿ノ様式ハ総務部ノ定メタル方式ヲ濫リニ変更スベカラス、若シ変更又ハ新作ノ必要アリタルトキハ計算課ヲ経由シテ其旨ヲ総支配人ヘ申立テ許可ヲ受クベシ
第百六十五条　帳簿ハ銀行ノ計算ヲ示スモノニシテ後日訴訟等ノ場合ニハ其証拠トナルベキモノナレバ最モ明亮正確ニ記載シ違式ノ記帳ヲ為スベカラズ、且ツ誤謬脱漏ナキヲ期シ左ノ諸点ヲ心得ヘシ
　一、ペンノ使用法ヲ画一ニシテ、数字書体字画等ハ成ルベク当銀行一定ノ様式ニ従フベキコト
　二、誤謬ヲ生シ又ハ改竄シ易キ記号文字ヲ記載スベカラザルコト
　三、誤記、書損ヲ為シタルトキハ二条ノ朱線ヲ以テ抹消シ、其上部ニ訂正シタル文字ヲ記入シ、決シテ護謨又ハ小刀等ニテ磨消スベカラザルコト
　四、一行ノ数字中二字以上ヲ訂正スル場合ニハ、前記ノ方法ニヨリ全部ヲ訂正スベキコト
　五、帳簿ノ繰越ヲ為ス場合ニハ必ス前葉ノ金額ヲ合計シテ繰越金額ヲ記載スベキコト
第百六十六条　当座小切手・預金証書・預証書・為替手形等ノ諸用紙ハ之ヲ取扱フ責任者ヲ定メ、其出入ヲ明ニスベシ
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第百六十七条　帳簿・諸証票・文書類ハ別ニ定メタル規程ニ拠リ分類整理シテ保存スベシ
　　　　第十九節　書信
第百六十八条　書留、小包、並状其他一切ノ書信ハ其受付発送ヲ記録シ、受授取扱者ノ責任ヲ明ニスベシ
第百六十九条　書状又ハ計表等ヲ発送スルニ際シ、担当掛員ハ其封中スベキモノヲ取調ヘ遺漏アルベカラス
第百七十条　当銀行ノ名義ニテ発送スル書面ニシテ直接権利義務ニ関係アルモノハ、支配人又ハ主任之ニ署名シ、然ラザルモノハ認印ヲ押捺スベシ
第百七十一条　本支店出張所間ニ往復スル書状ハ書留並状及別状ニ分チ、有価証券、手形、小切手等ノ発送ニハ書留状、事務上ノ報告、照会及回答ニハ並状、総支配人及支配人又ハ主任ヘ宛テタル営業上ノ事件ニハ別状ヲ用ユルモノトス
　他ノ銀行会社及個人ヘ発送スル書状ニ付テモ亦前項ノ規定ヲ準用ス
第百七十二条　発送書状ニハ総テ番号ヲ附シ、後日点撿ノ便ニ供スベシ、又本支店間ニ有価証券、手形、小切手ヲ送付シ、及諸取立済付替、受入等ノ諸報告ヲナストキハ同時ニ所定ノ送達状ヲ添付スベシ
第百七十三条　取締役会ノ評議ニ附スベキ事項ニ付テハ一定ノ用紙ヲ用ヒ、其用紙ナキモノハ支配人宛別状ヲ以テ申請スベシ
　　　　第二十節　電信
第百七十四条　電信暗号ハ重役、本支店出張所ノ支配人、主任及課長又ハ特ニ権限ヲ附与セラレタルモノニ限リ使用スルヲ得ルモノトス
第百七十五条　電信暗号帳ハ毎日営業時間終了後金庫ニ収蔵スベシ
第百七十六条　電信暗号帳ハ特別ノ必要アルニアラザレバ携帯シテ外出スベカラス
第百七十七条　暗号電信ヲ認メ又ハ訳シタルトキハ、更ニ他ノ一人ヲシテ照合ヲ為サシメ、誤謬ナキコトヲ期スベシ
第百七十八条　凡テ架電シタルトキハ、其電文ノ全部又ハ要点ヲ更ニ書面ヲ以テ再報スルコトヲ要ス
第百七十九条　総務部指定以外ノ暗号ヲ設ケ、又ハ他ノ銀行会社所定ノ暗号ヲ用フルコトヲ約セントスルトキハ、文書課ヲ経由シテ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　　　　第二十一節　訴事
第百八十条　訴訟ヲ提起シ、又ハ差押、仮差押、破産申請等訴訟ノ予備行為ヲナス場合ニハ、文書課ヲ経由シテ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス、但臨時緊急ニシテ電信又ハ電話ト雖モ申請ノ遑ナキトキハ取扱ノ上直チニ報告スベシ
第百八十一条　兌換券、銀行券、手形、小切手、有価証券等ノ偽造変造詐欺又ハ其行使支払等ニ関スル刑事上ノ事件ニ付所轄官署ニ申告ヲ為シタルトキハ、同時ニ文書課ヲ経由シテ其事情ヲ総支配人ヘ報告スルコトヲ要ス
第百八十二条　総支配人ノ許可ヲ受クルニアラザレバ仮令得意先ノ便益ヲ計ル場合ト雖モ、当銀行ノ名ニ於テ他人ノ訴訟ニ参加スルコト
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ヲ得ス
第百八十三条　支店ニ於テ法律顧問ヲ特約シ、又ハ弁護士ヲ依頼セントスルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス、但臨時緊急ノ場合ハ依頼ノ上直チニ報告スベシ
第百八十四条　証書、手形又ハ契約等ニ関シ法律上ノ疑義ヲ決シ難キ時ハ直チニ詳細ナル事情ヲ具シ、文書課ヲ経由シテ総支配人ニ申立テ指揮ヲ受クベシ
第百八十五条　商業登記ハ総務部ヨリ指定セル期間内ニ手続ヲナシ、其抄本ヲ文書課ヘ送付スベシ
第百八十六条　訴事及其附帯費用ハ一時仮払トシ、事件終了後相手方ヨリ入金セシムベシ、若シ経費又ハ損失トシテ支出スルヲ得ザルニ至リタルトキハ総支配人ノ承認ヲ経ルコトヲ要ス
　　　　第二十二節　広告
第百八十七条　広告ハ其体裁質実明晰ヲ旨トシ、当銀行ノ体面ヲ損スルガ如キ広告ヲ為スベカラス
第百八十八条　広告ノ為メ当銀行ノ営業案内其他ノ印刷物ヲ配付スル場合ニハ其見本ヲ添ヘテ文書課ヘ報告スベシ
第百八十九条　総務部指定以外ノ新聞雑誌又ハ其他ノ物ニ広告ヲ掲載セントスルトキハ、総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス、但緊急必要ノ場合ハ広告後ニ報告スルヲ以テ足ル
第百九十条　一時ニ金百円以上ヲ要スル広告ヲ為サントスルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　　　　第二十三節　地所建物
第百九十一条　営業所ハ其内外ヲ清潔ニシ、衛生ニ注意シ、且ツ夜間厳重ナル取締ヲ為シ、火災盗難其他ノ変災ヲ警戒スベシ
第百九十二条　所有ノ土地建物ハ総テ登記ヲ経ルコトヲ要ス
第百九十三条　所有ノ土地建物ノ図面ハ文書課ヘ提出シ置キ、増減又ハ改築アル毎ニ其変更ノ部分図ヲ添ヘテ報告スルコトヲ要ス
第百九十四条　土地建物ノ売買賃貸借ヲ為サントスルトキハ、其相手方・代価・賃貸借料其他ノ約款ニ図面ヲ添ヘテ総支配人ヘ申請シ其許可ヲ受クルコトヲ要ス、但一時倉庫ノ一部ヲ借入ルヽ場合ハ単ニ報告スルヲ以テ足ル
第百九十五条　新築・改築・大修繕ノ場合ニハ其設計書、仕様書、工程、工事ノ予算及図面ヲ添ヘ文書課ヲ経由シテ総支配人ヘ申請シ、許可ヲ受クルコトヲ要ス
　附属家屋又ハ外囲障壁等ノ新築・改築ノ場合亦同シ
第百九十六条　臨時緊急ノ修繕ハ着手後総支配人ヘ報告シテ承認ヲ受クベシ、但一口拾円以下ノ小修繕ニアリテハ総テ其店支配人又ハ主任ニ於テ専行スルコトヲ得
第百九十七条　社宅ニ関シテ本節ノ規定ヲ準用スルノ外別ニ定ムル所ノ規定ニ拠ル
第百九十八条　所有ノ建物ハ確実ナル保険会社ノ火災保険ヲ附スルコトヲ要ス、其保険会社、保険金額ハ総支配人ノ許可ヲ得テ決定スベシ
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第百九十九条　新築費ノ支出ヲ了リタルトキハ、其建物ノ価格ヲ評定シ、文書課ヲ経由シ、総支配人ノ許可ヲ得テ所有物勘定ニ組ミ入ルベシ
第二百条　土地建物ノ買得又ハ抵当権実行ノ結果当銀行ノ所有ニ帰シタル土地建物ハ前条ニ準シテ抵当物流込物件ノ勘定ニ組ミ入ルベシ
第二百一条　所有ノ土地建物ヲ売却シ又ハ其代価ヲ消却セントスルトキハ其評価額ヲ総支配人ヘ申立テ許可ヲ受クベシ
　　　　第二十四節　什器物品
第二百二条　消耗品又ハ毀損シ易キ器具ハ什器勘定ニ組ミ入レ計算スルコトヲ得ス
第二百三条　什器ハ目録ヲ作リテ保管スベシ、新ニ器具ヲ買入レ又ハ寄贈ヲ受ケタル場合ニ之ヲ什器勘定ニ組入レントスルトキハ、其種目評価額ヲ記載シ、文書課ヲ経由シテ総支配人ヘ届出ルコトヲ要ス
第二百四条　前条ノ規定ハ什器ノ壌廃又《（壊）》ハ毀損ニヨリ之ヲ消却セントスル場合ニ之ヲ準用ス
　大口ノ不用品払下ヲ為ス場合亦同ジ
第二百五条　行員ニ給付セル物品ハ其専用者ヲシテ各自保管ノ責ニ任セシムベシ、但用度掛又ハ其他ノ掛員ヨリ取扱主任者ヲ定メ、其出入保管ヲ取締リ、在庫品ハ其現在高ヲ明ニシ、時々支配人又ハ主任ノ撿査ヲ受クベシ
第二百六条　図書ハ別ニ目録ヲ作リ之ヲ保管スベシ
第二百七条　図書ハ其店支配人又ハ主任ノ許可ヲ得テ借覧スルコトヲ得、但其期間ハ一箇月ヲ超ユルコトヲ得ス
第二百八条　一部拾円以上ノ図書ヲ買入レントスルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　　　　第二十五節　経費
第二百九条　経費ハ毎半季総務部ノ承認ヲ得タル予算表ニ準シテ支出スルコトヲ要ス、但臨時又ハ止ムヲ得ザル事由ニヨリ其予算額ヲ超過スル場合ニハ総支配人ニ届出ツルコトヲ要ス
第二百十条　諸経費ノ支払ハ正当債主ノ領収証ト引換ニ之ヲ為スベシ
第二百十一条　支払証票ニハ支配人又ハ主任ノ認印アルヲ要ス
第二百十二条　一時ニ金五拾円以上ノ物品ヲ買入レ、又ハ一口拾円以上ノ寄附若クハ贈答ヲ為シ、又ハ金五拾円以上ヲ要スル招待宴会等ヲ為サントスルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百十三条　宿直料及弁当料ヲ制定シ、又ハ其割合ヲ変更セントスル場合ニハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百十四条　帳簿其他諸用紙印刷物ハ毎年四月、十月ノ両度ニ現在高及其次半季ノ所要高ヲ見積リ同月末日迄ニ文書課ヘ申立ツベシ、文書課ハ其其申立ニヨリ直ニ注文ヲ為シ、又ハ其店若クハ他ノ支店ニ於テ注文スベキコトヲ通達スベシ、其注文品ノ送付ト共ニ付替ヘラレタル代金ハ相当科目ニ記入スベシ
第二百十五条　社宅ノ電話・電灯其他銀行ノ費用ニテ設備シタルモノト雖モ之ヲ使用スルニ因リテ支払フベキ料目修繕費其他ノ費用ハ其使用者ノ自弁トス、但其店ノ経費ヨリ支払フベキ事情アル場合ニハ
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総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百十六条　支配人其他行員タルノ資格ヲ有スルガ為メニ特ニ課徴セラルヽ会費又ハ税金ヲ其店ニテ支払フ場合ニハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百十七条　得意先ヘノ贈物ハ成ルベク質素ヲ旨トシ、華美ニ流ルベカラス
第二百十八条　印紙切手端書代ノ割戻、其他ノ戻金、不用品ノ払下等ハ其計算ヲ明ニシ、若シ之ヲ行員ノ共同費用其他ニ充テタルトキハ撿査課ヘ報告スルコトヲ要ス
　　　　第二十六節　附則
第二百十九条　総務部ニ於テ支店出張所ノ代理署名者ヲ定メザリシトキハ其支配人又ハ主任ハ自ラ之ヲ定メ、総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス、之ヲ変更スル場合亦同シ
第二百二十条　支配人又ハ主任ハ其店ノ現金ヲ出納掛ノ基金ト準備金トニ区別シ、出納掛ノ手許有高ハ毎週一回営業終了ノ際定時撿査ヲ行ヒ、其他時々臨時撿査ヲ行ヒ、其成績ヲ現況週報ニ記載シテ総支配人ヘ報告スベシ
第二百二十一条　手形ノ保管者ハ毎週一回諸手形高ヲ帳簿ニ照合シテ撿査スベシ
第二百二十二条　所有及担保ノ有価証券ハ支配人又ハ主任ニ於テ時々前条ニ準シテ撿査スベシ
第二百二十三条　支配人又ハ主任ハ濫リニ其任地以外ニ旅行スルコトヲ得ズ、若シ任地ヲ離ルヽコト三日以上ニ及ブベキトキハ予メ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス、但臨時緊急ニシテ其遑ナキ場合ハ帰店後総支配人ニ報告シテ其承認ヲ受クベシ
第二百二十四条　行員ガ行用旅行ヲ為シ又ハ十日以上ノ私用旅行ヲ為ストキハ支配人又ハ主任ハ其旨ヲ文書課ニ報告スルコトヲ要ス
第二百二十五条　行員病気其他ノ事故ニ因リ一時欠員ヲ生シ事務渋滞ヲ来ストキハ、京都以東ノ支店出張所ハ本店、京都以西ノ支店出張所ハ大阪支店、韓国支店出張所ハ京城支店ニ申出デ、欠員ノ補充ヲ請求スルコトヲ得、此場合ニ於テハ直チニ其旨ヲ総支配人ヘ報告スルコトヲ要ス
第二百二十六条　前条ノ場合ニ於テ其請求ヲ受ケタル店ガ之ニ応スル能ハサルトキ又ハ臨時緊急ニシテ其請求ヲ為スノ遑ナキトキハ、総支配人ノ許可ヲ俟タズシテ臨時ニ月俸弐拾円以下ノ行員ヲ雇入ルヽコトヲ得、但此場合ニハ其旨ヲ総支配人ニ報告シテ事後ノ承認ヲ経ベシ
第二百二十七条　同業者ヨリ手形、小切手ノ代理交換ヲ引受クル場合ニハ之ニ対スル担保品及手数料ノ割合等ヲ定メテ総支配人ニ申出テ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百二十八条　営業上重大ナル関係ヲ及ホス契約ヲ為シ、又ハ同業者ト営業上ノ態度ニ付協定セントスルコトアルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　　　第五章　取締役会
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第二百二十九条　取締役会ハ毎週一回（木曜日）本店ニ開キ、諸報告諸計表ヲ点撿シ、左ノ事項ヲ評議決定ス、但取締役監査役又ハ総支配人ノ請求アルトキハ臨時会ヲ開クベシ
　一、株主総会ニ提出スヘキ事項ニ関スル件
　二、諸規則ノ制定改廃ニ関スル件
　三、重要ナル諸契約ニ関スル件
　四、不動産抵当ノ貸出金ニ関スル件
　五、弐千円以上無担保融通ニ関スル件
　六、公債社債株式ノ引受又ハ売買ニ関スル件
　七、契約又ハ債務ノ保証ニ関スル件
　八、滞貸処分ニ関スル件
　九、土地建物ノ売買賃貸借新築改築修繕ニ関スル件
　　　但一口弐百円以下ノ分ハ総支配人ニ於テ専行スルコトヲ得
　十、書記以上行員ノ任免黜陟異動ニ関スル件
　十一、行員ノ賞罰休職恩給金又ハ慰労金ニ関スル件
　十二、取締役監査役又ハ総支配人ニ於テ評議ノ必要アリト認メタル件
第二百三十条　取締役会ノ会長ハ頭取之ニ任シ、頭取出席セザルトキハ他ノ取締役中ノ一人之ニ任ス
第二百三十一条　監査役及総支配人ハ取締役会ニ列シテ意見ヲ陳フルコトヲ得
第二百三十二条　監査役ハ取締役会ニ出席シテ諸報告諸計表ヲ撿査ス
第二百三十三条　取締役会ノ議事ハ総テ之ヲ記録シ、次回ニ於テ各取締役ノ承認ヲ受クベキモノトス
　　　第六章　服務規程
第二百三十四条　行員ハ法律定款及其他ノ諸規則ヲ遵守スベシ
第二百三十五条　行員ハ徳義ヲ重ンジ礼譲ヲ尚ビ身心ノ強健ヲ保ツベシ
第二百三十六条　行員ハ当銀行ノ機密又ハ得意先ノ密事若クハ取引ノ模様等ヲ漏洩シ、其他当銀行ノ名誉又ハ利益ヲ毀損スル言行アルヘカラス
第二百三十七条　行員ハ勤倹貯蓄ヲ努メ自ラ弁済シ難キ借用金ヲ為スヘカラス
第二百三十八条　行員ハ如何ナル場合ト雖モ得意先ヨリ借用金ヲ為スベカラス
第二百三十九条　行員ハ自己ノ商業ヲ為シ又ハ他ノ銀行会社ノ営業ニ関係スベカラス、但已ムヲ得ザル事由アルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百四十条　行員ニ対シテ貸付金ヲナシ又ハ当座貸越ノ契約ヲ為サントスルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百四十一条　行員ニシテ商工業社交又ハ宗教上ノ諸団体ノ役員トナル場合ニハ、総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百四十二条　行員ハ政治的運動ニ関与スベカラス、但其選挙権ヲ行フコトヲ妨ケス
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第二百四十三条　事務上ニ間違ヲ生シタルトキハ、事ノ大小軽重ニ関セズ、掛員ハ直ニ支配人又ハ主任ニ申出テ、其指揮ヲ受クベシ
第二百四十四条　前条ノ申出ヲ受ケタルトキハ、支配人又ハ主任ハ其事実ヲ詳ニシ、事ノ重要ナルモノハ速ニ総支配人ニ報告スルコトヲ要ス
第二百四十五条　行員ハ特ニ其委任若シクハ指図ヲ受ケタルコトノ外自己ノ考案ヲ以テ濫リニ契約ノ申込及受諾ヲ為スベカラス
第二百四十六条　行員ハ其事務ヲ誠実ニ取扱フベキ証トシテ別ニ定ムル所ノ誓約書、及左ニ掲クル身元保証金ヲ差出スベシ、但本条ノ保証金ニ対シテハ相当ノ利子ヲ付スベシ
　一総支配人　　　　　　　　　　　　金五千円
　一営業部支配人、副支配人、支配人代理、支店支配人、課長、秘書役、撿査役、調査役
　　　　　　　　　　　　　　　　　　金四千円
　一主任、計算方、係長　　　　　　　金参千円
　一書記月俸五拾円以上　　　　　　　金弐千円
　一書記月俸参拾円以上　　　　　　　金千五百円
　一書記月俸弐拾円以上　　　　　　　金千円
　一見習　　　　　　　　　　　　　　金五百円
第二百四十七条　前条ノ身元保証金ハ公債又ハ確実ナル銀行会社ノ株券又ハ社債券ヲ以テ代用スルコトヲ得、但差入ルベキ有価証券ノ種類ニ付テハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百四十八条　前条ニ拠リ公債社債又ハ株券ヲ差入ルヽトキハ差入証ヲ添ヘテ証券ト共ニ総支配人ニ差出スベシ
　記名ノ公債社債又ハ株券ナルトキハ同時ニ委任状ヲ添付スヘシ
第二百四十九条　第二百四十六条ノ身元保証金若クハ其代用物ヲ差出スコト能ハサルトキハ、確実ナル保証人二名以上ノ連署セル身元引受証書ヲ差出スベシ
第二百五十条　已ムヲ得サル事由ニ因リ保証人ヲ変更シタルトキ、若クハ保証人ガ其住所ヲ移転シタルトキハ、遅滞ナク其旨ヲ文書課ヘ届出ツベシ
第二百五十一条　身元保証金又ハ其代用物ヲ差出サヾルモノハ第二百四十六条ノ金額ニ満ツル迄月俸百分ノ五ヨリ少ナカラサル金額ヲ積立金トシテ毎月其店ヘ預ケ入ルヽコトヲ要ス、但此積立金ニ対シテハ相当ノ利子ヲ附スヘシ
第二百五十二条　行員ハ毎月俸給百分ノ五以上ヲ行員貯蓄預金トシテ其店ニ積立ツベシ、但已ムコトヲ得スシテ之ヲ引出シ又ハ積立ヲ為サヾルコトアルトキハ支配人又ハ主任ノ承認ヲ受クルコトヲ要ス
第二百五十三条　年齢満二十五歳以下ニシテ月俸参拾円以下ノ行員結婚セントスルトキハ、其店支配人又ハ主任ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　行員ニシテ結婚シタルトキハ其旨ヲ文書課ニ報告スルコトヲ要ス
第二百五十四条　行員ハ毎日営業時間十分前迄ニ出勤スルコトヲ要ス
　若シ病気其他ノ事故ニ因リ出勤スルコト能ハザルトキハ直チニ其旨ヲ支配人又ハ主任ニ届出ツルコトヲ要ス
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第二百五十五条　行員ハ特別ノ場合ヲ除キ遅クモ午後五時迄ニ各自担任ノ事務ヲ終了シテ退出スベシ、已ムコトヲ得スシテ夜業ヲ為ストキハ支配人又ハ主任ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百五十六条　行員病気引籠七日以上ニ及フトキハ、医師ノ診断書ヲ添ヘテ其事由ヲ支配人又ハ主任ニ届出ツルコトヲ要ス
第二百五十七条　支店出張所ノ支配人又ハ主任ハ毎月末日、其月行員ノ勤隋表《（惰）》ヲ調製シテ文書課ニ報告スルコトヲ要ス
第二百五十八条　行員疾病又ハ事故ノ為メ三箇月以上執務スル能ハザルトキハ之ヲ解雇ス、但取締役会ノ決議ニヨリ休職ヲ命スルコトアルベシ
第二百五十九条　行員ハ事務ノ都合ニヨリ取締役会ノ決議ヲ以テ休職ヲ命セラルヽコトアルベシ
　休職ニ関スル規定ハ別ニ之ヲ定ム
第二百六十条　書記以下ノ行員ハ支配人又ハ主任ノ指示ニヨリ宿直及休日ノ当直ヲナスヘシ
　宿直当直ニ関スル規定ハ別ニ之ヲ定ム
第二百六十一条　近火其他非常ノ事変アルトキハ行員ハ直チニ出店シテ各自担任ノ帳簿及物件ヲ保護スベシ
第二百六十二条　行員其住所ヲ変更シタルトキハ支配人又ハ主任ヘ届出ベシ
第二百六十三条　行員ノ休暇規定ハ別ニ之ヲ定ム
第二百六十四条　巡視及小使ノ服務規律及其取締ニ関スル規則ハ別ニ之ヲ定ム
　　　第七章　賞罰規程
第二百六十五条　行員此規則ニ違反シタルトキ、又ハ取扱上ノ不注意ヨリ当銀行ニ損害ヲ蒙ラシメ、若クハ当銀行ノ体面ヲ汚シタルトキハ、支配人又ハ主任ハ其事実ヲ詳記シテ総支配人ニ具申シ指揮ヲ乞フヘシ、但緊急ニシテ其遑ナキトキハ処分ノ上直チニ報告スルコトヲ要ス
第二百六十六条　前条ノ場合ニ於テハ総支配人ハ之ヲ取締役会ノ議ニ附シ、其事ノ大小軽重ニ従ヒ免職降等罰俸譴責等ニ処スベシ、且ツ其損害金ノ全部又ハ一部ヲ弁償セシムルコトアルヘシ
第二百六十七条　行員ガ平素其事務ニ注意シタル結果左ノ場合ニ於テ著シク功労ヲ認ムヘキモノアルトキハ、支配人又ハ主任ノ具申ニヨリ、取締役会ノ評議ヲ以テ褒賞金ヲ給与シ、又ハ褒状ヲ交付シ、其他適当ナル方法ヲ以テ之ヲ褒賞スヘシ
　一詐欺其他奸計ヲ以テ金員ヲ詐取セントスルモノアルトキ之ヲ発見シテ損害ヲ未発ニ防キタル場合
　二取引先ニ危険ノ風聞アルヲ探知シ、警戒ヲ加ヘ、又ハ臨機ノ手段ヲ取リ、為メニ銀行ノ損失ヲ免ルヽニ至リシ場合
　三行員中素行修マラス又ハ他ノ誘惑ヲ受ケ若クハ其他ノ事情ノ為メ銀行ニ損害ヲ及ホス虞アルモノヲ発見シタル場合
　四水火盗難其他ノ災害ニ因リテ銀行ニ損害ヲ蒙ルヘキ際ニ之ヲ防止シ、又ハ抜群ノ働ヲ為シタル場合
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　　　第八章　補則
第二百六十八条　此規則ニ於テ支配人又ハ主任ニ関スル規定ハ総テ本店営業部支配人ニ之ヲ準用ス
第二百六十九条　此規則ハ取締役会ノ決議ニヨルニアラサレハ修正加除スルコトヲ得サルモノトス
　　　○右規則草案ニハ鉛筆ニテ訂正ヲ加ヘアレドモ玆ニハ原文ノ儘ヲ掲ゲタリ。
　　　○尚規則草案トシテハ左ノ如キ断片アリ。（何レモ渋沢子爵家所蔵）右草案ニ於ケル訂正箇所ト対照シテ、訂正ノ結果ノモノト思ハル。右草案ト比較シ同一条文ハ之ヲ省略シテ、括孤内ニ箇条ノミヲ記シタリ。

株式会社第一銀行規則　草按　（渋沢子爵家所蔵）
　　　第一章　総則
　　　第二章　職制
　　　第三章　職務規程
　　　　第一節　総務部
　　　　第二節　本店営業部
　　　　第三節　支店出張所
　　　第四章　処務規程
　　　　第一節　通達
　　　　第二節　検査
　　　　第三節　署名及印章
　　　　第四節　金庫
　　　　第五節　営業時間
　　　　第六節　報告
　　　　第七節　契約
　　　　第八節　保証
　　　　第九節　得意先
　　　　第十節　貸出金
　　　　第十一節　預金
　　　　第十二節　為替
　　　　第十三節　出納
　　　　第十四節　現送
　　　　第十五節　計算
　　　　第十六節　有価証券
　　　　第十七節　流通証券及証書
　　　　第十八節　帳簿及用紙
　　　　第十九節　書信
　　　　第二十節　電信
　　　　第二十一節　訟事
　　　　第二十二節　広告
　　　　第二十三節　地所建物
　　　　第二十四節　什器
　　　　第二十五節　経費
　　　第五章　取締役会
　　　第六章　服務規程
　　　第七章　賞罰規程
　　　第八章　補則
　株式会社第一銀行規則
　　　第一章　総則
第一条　（第一条）
第二条　当銀行ニ総務部営業部国庫部及銀行券発行部ヲ置ク
第三条　総務部ヲ本店ニ置キ各部ノ事務ヲ統轄ス其職員左ノ如シ
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　総支配人　課長　書記　見習　雇員
　但都合ニ依リ秘書役検査役調査役ヲ置クコトアルヘシ
第四条　営業部ヲ本店営業部及支店出張所ニ分チ、総務部ノ指揮ヲ受ケ銀行一般ノ営業事務ヲ処理ス
第五条　本店営業部ニ左ノ職員ヲ置ク
　　営業部支配人　営業部副支配人　係長　書記　見習　雇員
　　但都合ニヨリ計算方ヲ置クコトアルヘシ
第六条　各支店出張所ニ左ノ職員ヲ置ク
　支店
　　支配人　計算方　書記　見習　雇員
　出張所
　　主任　書記　見習　雇員
　　但都合ニヨリ支店ニ副支配人ヲ置クコトアルヘシ
第七条　国庫部ハ其本部ヲ京城支店ニ、支部ヲ韓国支部出張所《（店カ）》ニ置キ韓国国庫事務及貨幣事務ヲ処理ス
第八条　銀行券発行部ハ其本部ヲ京城支店ニ、支部ヲ韓国支店出張所ニ置キ、銀行券発行ニ関スル事務ヲ処理ス
第九条　国庫部及銀行券発行部ニ左ノ職員ヲ置ク
　　部長　係長　書記　見習　雇員
第十条　（第七条）
第十一条　（第八条）
第十二条　行員ノ俸給・恩給・慰労金・旅費及手当ニ関スル規定ハ別ニ之ヲ定ム
第十三条　書記以上行員ノ任免黜陟ハ取締役会ノ決議ヲ以テ之ヲ行フ見習、雇員ハ総支配人ノ許可ヲ得テ支配人又ハ主任ニ於テ之ヲ任免ス、但緊急ノ場合ニ於テハ其店限リニテ専行シ、事後ノ承認ヲ受クヘシ
　支配人又ハ主任ハ必要ト認メタルトキニ限リ、其店行員ニ停職ヲ命スルコトヲ得、但此場合ニ於テハ直チニ総支配人ニ報告スルコトヲ要ス
　　　第二章　職制
第十四条　頭取取締役ハ取締役会ノ決議ヲ経ルニアラサレハ、各別ニ当銀行ヲ代表スルコトヲ得ス
第十五条　（第十条）
第十六条　総支配人ハ取締役会ノ旨ヲ受ケ、総務部ニ於テ当銀行本支店出張所ノ事務ヲ統轄ス
　総支配人事故アルトキハ、取締役会ニ於テ其代理者ヲ任命ス
第十七条　課長ハ調査・文書・計算ノ事務ヲ分掌シ秘書役・検査役・調査役ハ課長ノ事務ヲ輔佐ス
第十八条　本店営業部支配人・副支配人及計算方ハ総務部ニ参与シテ総支配人ヲ輔佐スルモノトス
第十九条　本店営業部支配人　支店支配人及出張所主任ハ総務部ノ指示ニ依リ其店ノ営業ニ関スル一切ノ事務ヲ処理シ其責ニ任ス
　但出張所ノ主管支店ヲ定メタルトキハ其出張所主任ハ主管支店支配
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人ノ指示ニ従フヘシ
第廿条　京城支店支配人ハ総務部ノ指示ニ依リ国庫部及銀行券発行部ノ事務ニ就テハ韓国各支店出張所ヲ統轄ス
第廿一条　国庫部長及銀行券発行部長ハ其店支配人ノ指示ヲ受ケ其部ノ事務ヲ処理ス
第廿二条　副支配人、計算方ハ其店支配人ノ事務ヲ輔佐シ不在ノトキハ其事務ヲ代理ス
　出張所首席書記ガ主任ニ対スル亦同シ
第廿三条　本店ノ各係長ハ営業部支配人ノ指示ニ依リ部下ノ係員ヲ督励シテ担任ノ事務ヲ取扱フ
第廿四条　（第十八条）
　　○以下欠
　　　　第二部《（マヽ）》　検査
第五十三条　（第四十七条）
第五十四条　頭取又ハ総支配人ハ支店又ハ出張所ノ行員ニ他ノ店ノ特別検査ヲ命ズルコトアルベシ
第五十五条　（第四十八条）
第五十六条　（第四十九条）
第五十七条　検査員ハ検査シタル事項ニ関シ其事由ヲ推問シ、又ハ説明書ヲ徴スルコトヲ得ルモ改廃ヲ命スル事ヲ得ズ
第五十八条　支店支配人又ハ出張所主任ハ其店事務ノ全部又ハ一部ニ就キ時々検査ヲ為シ、其情況ヲ総支配人ニ報告スベシ
第五十九条　検査員ハ検査シタル事項ニ対シ其責ニ任ス
第六十条　検査ノ手続ハ別ニ之ヲ定ム
　　　　第三部《（マヽ）》　署名及印章
第六十一条　指図証券及無記名証券ノ発行又ハ裏書ハ支配人又ハ主任之ニ署名調印ス可シ
第六十二条　本支店出張所ノ店印及役印ハ其店支配人又ハ主任ニ於テ之ヲ保管シ、営業時間終了後ハ必ス金庫ニ収蔵スベシ
第六十三条　店印及役印ハ当銀行ノ権利義務ヲ表章スル文書手形証書其他官衙ニ差出スベキ書面ニ限リ押捺スベシ、此場合ニハ取扱者必ス認印ヲ加判スベシ
第六十四条　（第五十七条）
第六十五条　本支店出張所ニ於テハ総支配人ノ許可ヲ受クルニアラザレバ所定ノ店印役印ノ外銀行ヲ代表スベキ印章ヲ用フベカラズ
　　　○以下欠
第百廿三条　同業者ヨリ手形小切手ノ代理交換ヲ引受クル場合ニハ之ニ対スル担保品及手数料ノ割合等ヲ定メテ総支配人ニ申出テ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百廿四条　預金証書ニハ改竄シ易キ文字ヲ以テ其金額ヲ記載スヘカラス
　預金証書ヲ書損シタルトキハ新ニ之ヲ調製シ、決シテ金額ヲ改訂シタル証書ヲ交付スヘカラス
第百廿五条　小切手以外ノ手形ヲ以テ当座預金ヲ支払タルトキハ其手
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形ハ計算掛ニ於テ保存シ小切手ト引換スヘシ
　　　　第十二節　為替
第百廿六条　他店ニ対スル為替取引ノ締約解約又ハ変更ハ凡テ総務部ニ於テ取扱フモノトス
第百廿七条　（第百十九条）
第百廿八条　（第百廿条）
第百廿九条　（第百廿一条）
第百三十条　第　条ノ規定ハ送金手形及信用状ノ場合ニ之ヲ準用ス
　　　　第十三節　出納
第百卅一条　（第百廿二条）
第百卅二条　出納係ノ部屋ニハ支配人又ハ主任其他特ニ許サレタルモノヽ外何人ト雖モ出入スルコトヲ得ス
第百卅三条　他店手形又ハ小切手ハ其地渡リノモノニシテ得意先又ハ身元ノ判明セルモノニアラサレハ濫リニ之ヲ受入ルヘカラス
　但他所渡手形ト雖モ支配人又ハ主任ノ指定シタル地域内ノモノハ此限リニアラス
第百卅四条　（第百二十五条）
第百卅五条　（第百二十六条）
第百卅六条　（第百二十七条）
第百卅七条　如何ナル場合ヲ問ハス入金票又ハ手形小切手若クハ支払票ナクシテ金銭ノ受入又ハ支払ヲ為スヘカラス
第百卅八条　（第百二十九条）
第百卅九条　出納掛ニ於テ現金ノ不足ヲ生シタルトキハ、其原因ノ如何ヲ問ハス、担当掛員ニ於テ弁納ノ義務アルモノトス、其何人ノ責ニ帰スヘキヤ明ナラサルトキハ其掛員ノ連帯責任トス
第百四十条　前条ノ場合ニ於テハ支配人又ハ主任ハ能ク其事実ヲ調査シ、掛員ノ始末書ヲ添ヘテ総支配人ヘ届出ヘシ
　取締役会ハ事情ノ如何ニ依リテハ其賠償額ヲ軽減スルコトアルヘシ
第百四十一条　出納係ノ過剰金ニシテ其原因ヲ発見スルコト能ハサルトキハ別段預金ニ預入レ、其日付事実及関係掛員ノ氏名ヲ記録スルコトヲ要ス
第百四十二条　損傷兌換券ハ便宜附近ノ日本銀行本支店出張所ニ於テ交換シ、金額壱千円以上ヲ貯蔵スヘカラス
第百四十三条　外国ノ貨幣ヲ指参《（持）》シテ通貨ト交換ヲ乞フモノアルトキハ其時ノ換算価格ニ相当ノ手数料ヲ徴シテ取扱フヘシ
　但引換ノ便少キ外国貨幣ハ其交換ヲ謝絶スヘシ
第百四十四条　支配人又ハ主任ハ其店ノ現金ヲ出納掛ノ基金ト準備金トニ区別シ、出納掛ノ手許有高ハ少クトモ毎月一回営業終了ノ際定時検査ヲ行ヒ、其他時々臨時検査ヲ行ヒ、其成績ヲ成規報告用紙ニ記載シテ総支配人ニ報告スヘシ
　　　　第十四節　現送
第百四十五条　支店出張所ニ於テハ成ルヘク資金ノ現送ヲ避クルコトヲ努メ、必要止ムヲ得サルトキハ前以テ其回付ヲ請フヘキ店ニ申込
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為スヘシ
　前項ノ場合ニ於テハ現送金ヲ授受シタル店ハ其旨ヲ総支配人ヘ報告スルコトヲ要ス
第百四十六条　現金回送ニ当リテハ支配人又ハ主任ハ危険ノ虞ナキ様周到ノ注意ヲ為シ左ノ諸項ヲ遵守スヘシ
　一、現送金ハ支配人又ハ主任封印ノ上之ヲ護送者ニ交付スヘシ
　二、（第百卅七条　一）
　三、（同　二）
　四、（同　三）
　五、（同　四）
　六、運送業者ニ托シテ現送スルトキハ保険ヲ付スルコトヲ要ス、其差立及受取ノ場合ニハ電信ヲ以テ相手方ヘ報告スヘシ
　七、（第百卅七条　六）
　八、他銀行ヘ現送金ノ送付又ハ回付ヲ托セントスルトキハ其委托ハ其銀行ノ支配人ニ対シテ之ヲ為スヘク、直接現送者ニ対シテ之ヲ為スヘカラス
　其差立及受取ノ場合ニハ第　号ニ準シテ相手方ヘ報告スルコトヲ要ス
第百四十七条　現送金ヲ受取タルトキハ遅滞ナク之ヲ検査スヘシ
第百四十八条　支店出張所ニ於テ郵便ニヨリ手形又ハ小切手ヲ以テ本支店ヘ回金スルトキハ、其手形ハ記名式ニ、小切手ハ特定横線引トスヘシ
　此場合ニ於テハ発送店相手方ニ其旨電報シ且之ヲ総支配人ニ報告スヘシ
第百四十九条　（第百四十条）
　　　　第十五節　計算
第百五十条　計算ハ総テ支配人又ハ主任ノ承認セル成規ノ伝票及証票ニ依リ之ヲナシ明亮正確ナルヲ要ス
第百五十一条　日々ノ取引ハ必ス即日之ヲ記帳計算スルコトヲ要ス
第百五十二条　既定ノ勘定科目以外ニ新ニ科目ヲ設クル場合ニハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百五十三条　支店出張所ハ毎週末及毎半月末ニ総勘定差引表ヲ総支配人ヘ提出スヘシ
　支店出張所ハ少クトモ毎週一回本店勘定書ヲ計算課ヘ送付スヘシ
第百五十四条　各支店出張所ハ毎半季ノ終リニ諸勘定ノ決算ヲナシ、即日総勘定差引表ヲ総支配人ニ発送シ、其他ノ決算書類ヲ遅滞ナク計算課ヘ発送スヘシ
　但韓国支店出張所ニアリテハ其決算書類カ翌月十四日迄ニ本店ヘ到達スル能ハサル虞アルトキハ特ニ定メタル暗号電信ニヨリ総勘定差引残高ヲ計算課ヘ報告スルコトヲ要ス
第百五十五条　毎半季ノ損益及後半季繰越金ノ概算ハ其季終了ノ二週間前ニ其見込書ヲ、又決算ノ際ニハ其利益（又ハ損失金ヲ電信ニテ総支配人ニ報告スベシ
第百五十六条　滞貸其他消却スヘキモノアルトキハ、計算書ニ説明ヲ
 - 第4巻 p.700 -ページ画像 
附シテ、毎半季終了三週間前ニ、其旨ヲ総支配人ニ申立ツルコトヲ要ス
第百五十七条　毎半季ノ営業収支予算ハ其前季末ニ総支配人ヘ提出シ其承認ヲ受クルコトヲ要ス
　　　　第十六節　有価証券
第百五十八条　所有ノ公債社債株券及保護又ハ担保トシテ預リタル有価証券ハ夫々区別ヲナシ、支配人又ハ主任自カラ之ヲ保管シ且時々検査ヲナシ、其出納ニハ係員一名ノ立会ヲ要ス
第百五十九条　支配人又ハ主任カ都合ニヨリ前条ノ事務ヲ他ノ行員ニ取扱ハシムルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス、此場合ニハ支配人又ハ主任ハ毎月一回必ス之カ検査ヲ為シ其旨ヲ総支配人ニ報告スルコトヲ要ス
第百六十条　担保品ニ附属スル委任状其他ノ書類ハ其係主任者ニ於テ整理保管シ、担保品保管者ト区別スルコトヲ要ス
第百六十一条　公債社債又ハ株式ノ応募若クハ買入ヲ為スニハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百六十二条　（第百五十三条）
　　　　第　《（十七）》節　流通証券及証書
第百六十三条　割引手形・荷為替手形・取立手形・倉庫証券等ハ夫々類別シテ支配人又ハ主任自ラ之ヲ保管スベシ
　但他ノ行員ニ取扱ハシムル場合ニハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　（付箋）毎週一回諸手形有高ヲ帳簿ニ照合シテ検査スベシ
第百六十四条　貸付金証書、当坐貸越約定書《（座）》、其他契約書類ハ其係主任者ニ於テ保管スルコトヲ得
第百六十五条　（第百五十七条）
第百六十六条　倉庫証券ニ対シテ貸出ヲ為シタル場合ニ於テ其一部出庫ニ付キ倉庫業者ト其店トノ間ニ特約ヲ為サントスルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第百六十七条　（第百六十条）
第百六十八条　（第百六十一条）
第百六十九条　倉庫証券荷為替手形及他所取立手形ニ対シテハ依頼人ヲシテ拒絶証書作成ノ義務ヲ免除セシムヘシ
第百七十条　手形ノ裏書・支払又ハ引受ノ為ニスル呈示、拒絶証書ノ作成、償還請求ノ通知等法律上ノ手続ヲ為スヘキ場合ニハ其権利保全ニ欠点ナキ様十分ニ注意シテ違式ノ取扱ヲ為スヘカラス
　　　　第十八節　帳簿及用紙
第百七十一条　帳簿及諸用紙ノ様式ハ総務部ニ於テ之ヲ定ム、若シ之ヲ変更シ又ハ新ニ作成ノ必要アリト認メタルトキハ其旨ヲ総支配人ヘ申立テ許可ヲ受クヘシ
第百七十二条　帳簿ハ銀行ノ計算ヲ示スモノニシテ後日訴訟等ノ場合ニハ其証拠トナルベキモノナレバ、最モ明瞭正確ニ記載シ違式ノ記帳ヲ為スベカラズ、且ツ誤謬脱漏ナキヲ期シ左ノ諸点ヲ遵守スベシ
 - 第4巻 p.701 -ページ画像 
　一、ペンノ使用法ヲ画一ニシ、数字書体字画等ハ成ルベク当銀行一定ノ様式ニ従フベシ
　二、誤謬ヲ生ジ又ハ改竄シ易キ記号文字ヲ記載スベカラズ
　三、誤記書損ヲ為シタルトキハ二条ノ朱線ヲ以テ抹消シ、其上部ニ訂正シタル文字ヲ記入シ、決シテ護謨又ハ小刀等ニテ磨消スベカラズ
　四、（第百六十五条　四）
　五、繰越ヲ為ス場合ニハ必ス前葉ノ金額ヲ合計シ末項ノ日付ヲ以テ次葉ニ繰越ベシ
第百七十三条　当座小切手・預金証書・預金手形・為替手形其他重要ナル諸用紙ハ取扱ノ責任者ヲ定メ其出入ヲ明ニスベシ
第百七十四条　用済ノ帳簿・諸証票・文書類ハ別ニ定メタル規程ニ拠リ分類整理シテ保存スベシ
　　　　第十九節　書信
第百七十五条　書留、小包、並状其他一切ノ書信ハ其受付発送ヲ記帳シ、受授取扱者ノ責任ヲ明ニスベシ
第百七十六条　営業上ノ書信ハ総テ支配人又ハ主任ニ於テ之ヲ開封スベシ
　但事務ノ都合ニ依リ別ニ責任者ヲ定メ之ヲ取扱ハシムルコトヲ得
第百七十七条　当銀行ノ名義ニテ発送スル書面ニシテ重要ナルモノハ支配人又ハ主任之ニ署名捺印シ、然ラザルモノハ認印ヲ押捺スベシ
第百七十八条　本支店出張所間ニ往復スル書状ハ左ノ区別ニヨリ取扱フベシ
　一、有価証券・小切手・手形及諸証書類封入ノモノハ書留状
　　　但金高巨額ノモノハ配達証明ニ附スベシ
　一、事務上ノ報告・照会及回答ハ並状
　一、総支配人支配人又ハ主任ニ宛タルモノハ別便
　　　但シ機密ニ渡ルモノハ親展書トスベシ
　一、取締役会ノ評議ニ附スベキ事項ニ付テハ成規ノ稟議書式ニ依リ総支配人宛ノ親展状ヲ以テ申請スベシ
　他ノ銀行会社及個人ヘ発送スル書状ニ付テモ亦前項ノ規定ヲ準用ス
第百七十九条　発送書状ニハ総テ番号ヲ附シ、且ツコツピーヲ取リ、後日点検ノ便ニ供スベシ
第百八十条　本支店間ニ有価証券・手形・小切手及諸証書類ヲ送付シ及諸取立済付替・受入等ノ報告ヲナストキハ所定ノ送達状ヲ添付スベシ
　他店ニ有価証券・手形・小切手・諸証書類ヲ送付スルトキ亦同シ
　　　　第二十節　電信
第百八十一条　電信暗号ハ重役、支配人、主任及課長又ハ特ニ権限ヲ附与セラレタルモノニ限リ使用スルヲ得ルモノトス
第百八十二条　電信暗号ハ毎日営業時間終了後金庫ニ収蔵スベシ
第百八十三条　電信暗号ハ特別ノ必要アルニアラザレバ携帯シテ外出スベカラズ
第百八十四条　（第百七十七条）
 - 第4巻 p.702 -ページ画像 
第百八十五条　電文ハ凡テ其控ヲ取リ全部又ハ要点ヲ更ニ書面ニテ再報スルコトヲ要ス
第百八十六条　総務部指定以外ノ暗号ヲ設ケ又ハ他ノ銀行会社所定ノ暗号ヲ用フルコトヲ約セントスルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　　　　第二十一節　訟事
第百八十七条　訴訟ヲ提起シ、又ハ差押・仮差押・破産申請等訴訟ノ予備行為ヲナス場合ニハ、総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　但緊急ニシテ申請ノ遑ナキトキハ取扱ノ上直チニ報告スベシ
第百八十八条　兌換券・銀行券・手形・小切手・有価証券等ノ偽造・変造・詐欺又ハ其行使・支払等ニ関スル刑事上ノ事件ニ付所轄官署ニ申告ヲ為シタルトキハ、同時ニ其事情ヲ総支配人ヘ報告スルコトヲ要ス
第百八十九条　（第百八十二条）
第百九十条　支店ニ於テ法律顧問ヲ嘱托シ、又ハ弁護士ヲ依頼セントスルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　但臨時緊急ノ場合ハ依頼ノ上直チニ報告スベシ
第百九十一条　証書・手形又ハ契約等ニ関シ法律上ノ疑義ヲ決シ難キ時ハ直チニ詳細ナル事情ヲ具シ総支配人ニ申立テ指揮ヲ受クベシ
第百九十二条　（第百八十五条）
　　　　第二十二節　広告
第百九十三条　（第百八十七条）
第百九十四条　（第百八十八条）
第百九十五条　（第百九十条）
　　　　第二十三節　地所建物
第百九十六条　（第百九十一条）
第百九十七条　（第百九十二条）
第百九十八条　（第百九十三条）
第百九十九条　土地建物ノ買得・賃貸借ヲ為サントスルトキハ其相手方・代価・賃貸借料其他ノ約款ニ図面ヲ添ヘテ総支配人ヘ申請シ其許可ヲ受クルコトヲ要ス
　但一時倉庫ヲ借入ルヽ場合ハ単ニ報告スルヲ以テ足ル
第二百条　新築・改築・大修繕ノ場合ニハ其設計書・仕様書・工程・工事、予算及図面ヲ添ヘ総支配人ヘ申請シ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　小修繕ノ場合ニハ其店支配人又ハ主任ニ於テ専行スルコトヲ得
第二百一条　（第百九十七条）
第二百二条　（第百九十八条）
第二百三条　新築費ノ支出ヲ了リタルトキハ其建物ノ価格ヲ評定シ総支配人ノ許可ヲ得テ所有物勘定ニ組ミ入レ《（ル）》ベシ
第二百四条　抵当権行使ノ結果当銀行ノ所有ニ帰シタル土地建物ハ前条ニ準シテ抵当物流込物件ノ勘定ニ組ミ入ルベシ
第二百五条　（第二百一条）
　　　　第二十四節　什器
第二百六条　（第二百二条）
 - 第4巻 p.703 -ページ画像 
第二百七条　什器ハ目録ヲ作リテ保管スベシ、新ニ器具ヲ買入レタル場合ニ之ヲ什器勘定ニ組入レントスルトキハ、其種目・評価額ヲ記載シ総支配人ヘ届出ルコトヲ要ス
第二百八条　前条ノ規定ハ什器ノ毀損又ハ滅廃ニヨリ之ヲ消却セントスル場合ニ之ヲ準用ス
　大口ノ不用品払下ヲ為ス場合亦同シ
第二百九条　行員ニ給付セル物品ハ其使用者ヲシテ各自保管ノ責ニ任セシムベシ
　用度掛ハ受渡ヲ厳ニシ在庫品ハ其現在高ヲ明ニスベシ
第二百十条　図書ハ別ニ目録ヲ作リ之ヲ保管スベシ
　図書ハ支配人又ハ主任ノ許可ヲ得テ借覧スルコトヲ得
　但其期間ハ一箇月ヲ超ユルコトヲ得ス
第二百十一条　高価ノ器具又ハ図書ヲ買入レントスルトキ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　　　　第廿五節　経費
第二百十二条　経費ハ毎半季総務部ノ承認ヲ得タル予算表ニ準シテ支出スベシ
　但臨時又ハ止ムヲ得ザル事由ニヨリ其予算額ヲ超過スル場合ニハ総支配人ニ届出ツルコトヲ要ス
第二百十三条　諸経費ノ支払ハ正当債主ノ領収証ト引換ニ之ヲ為スベシ
　前項ノ領収証ニハ支配人又ハ主任之ニ検印スベシ
第二百十四条　一口拾円以上ノ寄附若クハ贈答ヲナシ、又ハ五拾円以上ヲ要スル招待宴会等ヲ為サントスルトキハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百十五条　（第二百十三条）
第二百十六条　社宅ノ電話電灯其他銀行ノ費用ニテ設備シタルモノト雖モ之ヲ使用スルニ因リテ支払フベキ料金修繕費其他ノ費用ハ其使用者ノ自弁トス
　但其店ノ経費ヨリ支払フベキ事情アル場合ニハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百十七条　支配人其他行員タルノ資格ヲ有スルガ為メニ特ニ課徴セラルヽ会費又ハ賦課金ヲ其店ニテ支払フ場合ニハ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百十八条　（第二百十七条）
　　　第五章　取締役会
第二百十九条　取締役会ハ毎週一回（木曜日）本店ニ開キ諸報告諸計表ヲ点検シ左ノ事項ヲ評議決定ス
但取締役監査役又ハ総支配人ノ請求アルトキハ臨時会ヲ開クベシ
　一、（第二百二十九条　一）
　二、（同　二）
　三、重要ナル諸契約及保証ニ関スル件
　四、不動産抵当ノ貸出ニ関スル件
　五、一人ニ対シ五千円以上無担保融通ニ関スル件
 - 第4巻 p.704 -ページ画像 
　六、公債社債株式ノ引受応募又ハ売買ニ関スル件
　七、滞貸及消却処分ニ関スル件
　八、土地建物ノ売買及新築ニ関スル件
　九、一口千円以上ヲ要スル改築修繕ニ関スル件
　十、（第二百二十九条　十）
　十一、（同　十一）
　十二、（同　十二）
第二百廿条　（第二百三十条）
第二百廿一条　（第二百三十一条）
第二百廿二条　（第二百三十三条）
　　　第六章　服務規程
第二百廿三条　（第二百三十四条）
第二百廿四条　行員ハ徳義ヲ重ンジ礼譲ヲ尚ビ行規ヲ振粛シテ身心ノ強健ヲ保ツベシ
第二百廿五条　（第二百三十六条）
第二百廿六条　行員ハ勤倹貯蓄ヲ努メ濫リニ借用金ヲ為スベカラス
第二百廿七条　（第二百三十八条）
第二百廿八条　行員ガ得意先ヨリ招待ヲ受ケタルトキ支配人又ハ主任ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百廿九条　（第二百三十九条）
第二百卅条　支配人又ハ主任ハ濫リニ其任地以外ニ旅行スルコトヲ得ズ、若シ任地ヲ離ルヽコト三日以上ニ及ブベキトキハ予メ総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　但臨時緊急ニシテ其遑ナキ場合ハ総支配人ニ報告シテ事後ノ承認ヲ受クベシ
第二百卅一条　行員ガ行用旅行ヲ為シ又ハ十日以上ノ私用旅行ヲ為ストキハ支配人又ハ主任ハ其旨ヲ文書課ニ報告スルコトヲ要ス
第二百卅二条　支配人又ハ主任ガ行員ニ対シテ貸出ヲナシ、又ハ当座貸越ノ契約ヲ為サントスルトキハ、総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第二百卅三条　（第二百四十一条）
第二百卅四条　（第二百四十二条）
第二百卅五条　（第二百四十三条）
第二百卅六条　（第二百四十四条）
第二百卅七条　行員ハ特ニ其委任若シクハ指図ヲ受ケタルコトノ外自己ノ考案ヲ以テ濫リニ事務取扱ノ手続ヲ変更シ又ハ契約ノ申込及受諾ヲ為スベカラス
第二百卅八条　行員ハ其事務ヲ誠実ニ取扱フベキ証トシテ別ニ定ムル所ノ誓約書及左ニ掲クル身元保証金ヲ差出スベシ
　但本条ノ保証金ニ対シテハ相当ノ利子ヲ付スベシ
　一　総支配人　金五千円
　一　支配人　金四千円
　一　副支配人、支配人代理者、課長、秘書役、検査役、調査役　金参千円
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　一　主任、計算方　金参千円
　一　書記月俸五拾円以上　金弐千円
　一　書記月俸参拾円以上　金千五百円
　一　書記月俸弐拾円以上　金千円
　一　見習、雇員　金五百円
第二百卅九条　（第二百四十七条）
第二百四十条　（第二百四十八条）
第二百四十一条　第　条ノ身元保証金若クハ其代用物ヲ差出スコト能ハサルトキハ確実ナル保証人二名以上ノ連署セル身元引受証書ヲ差出スベシ
第二百四十二条　已ムヲ得サル事由ニ因リ保証人ヲ変更セントスルトキハ、支配人又ハ主任ノ許可ヲ受クベシ
　前項ニ依リ保証人ヲ変更シタルトキ、又ハ保証人ガ其住所ヲ移転シタル届出アリタルトキハ遅滞ナク其旨ヲ文書課ヘ報告スルヲ要ス
第二百四十三条　身元保証金又ハ其代用物ヲ差出サヾルモノハ第　条ノ金額ニ満ツル迄月俸百分ノ五ヨリ少ナカラサル金額ヲ積立金トシテ毎月其店ヘ預ケ入ルヽコトヲ要ス
　但此積立金ニ対シテハ相当ノ利子ヲ附スベシ
　季末手当又ハ賞与金ヲ受ケタルトキハ前項ノ規定ヲ準用ス
第二百四十四条　（第二百五十二条）
第二百四十五条　（第二百五十三条）
第二百四十六条　（第二百五十四条）
第二百四十七条　行員ハ特別ノ場合ヲ除キ遅クモ午後五時迄ニ各自担任ノ事務ヲ終了シテ退出スベシ、已ムコトヲ得スシテ夜業ヲ為ストキハ支配人又ハ主任ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス、行員ハ各自担任事務ヲ終了シタルトキト雖モ金庫閉鎖前ニ退出セントスルトキハ支配人又ハ主任ノ許可ヲ受クベシ
第二百四十八条　（第二百五十六条）
第二百四十九条　（第二百五十八条）
第二百五十条　（第二百五十九条）
第二百五十一条　支配人又ハ主任ハ毎月末日其月行員ノ勤隋表《（惰）》ヲ調製シテ文書課ニ報告スルコトヲ要ス
第二百五十二条　（第二百六十条）
第二百五十三条　（第二百六十一条）
第二百五十四条　（第二百六十二条）
第二百五十五条　（第二百六十三条）
第二百五十六条　（第二百六十四条）
　　　第七章　賞罰規程
第二百五十七条　行員ガ平素其事務ニ注意シタル結果左ノ場合ニ於テ著シク功労ヲ認ムベキモノアルトキハ、支配人又ハ主任ノ具申ニヨリ、取締役会ノ評議ヲ以テ褒賞金ヲ給与シ又ハ褒状ヲ交付シ、其他適当ナル方法ヲ以テ其功労ヲ表旌スベシ
　一、事務ノ改善ヲ計リ著シク銀行ノ利益ヲ増進セシメタルモノ
　二、品行方正事務ニ忠実ニシテ特ニ他ノ模範トナルベキモノ
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　三、（第二百六十七条　一）
　四、（同　二）
　五、（同　四）
　六、（同　三）
第二百五十八条　（第二百六十五条）
第二百五十九条　前条ノ場合ニ於テハ総支配人ハ之ヲ取締役会ノ議ニ附シ、其事ノ大小軽重ニ従ヒ免職降等罰俸譴責等ニ処スベシ
　　　第八章　補則
第二百六十条　支店出張所ニ於テ行員病気其他ノ事故ニ因リ一時欠員ヲ生ジ事務渋滞ヲ来スノ虞アルトキハ、名古屋以東ハ本店、京都以西ハ大阪支店、韓国ニアリテハ京城支店ニ申出デ、欠員ノ補充ヲ請求スルコトヲ得、此場合ニ於テハ直チニ其旨ヲ総支配人ヘ報告スルコトヲ要ス
第二百六十一条　前条ノ場合ニ於テ其請求ヲ受ケタル店ガ之ニ応ズル能ハザルトキ又ハ臨時緊急ニシテ其請求ヲ為スノ遑ナキトキハ、総支配人ノ許可ヲ俟タズシテ臨時ニ月俸弐拾円以下ノモノヲ雇入ルヽコトヲ得
　但此場合ニハ其旨ヲ総支配人ニ報告シテ事後ノ承認ヲ経ベシ
第二百六十二条　同業者ト営業上ノ態度ニ付協定セントスルコトアルトキハ、総支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
　本規則ハ明治三十九年　月ヨリ之ヲ実施ス
　　　○以上諸草案ハ訂正草案最後ノ語句ヨリシテ明治三十九年ノモノト思ハル。
　　　○明治三十九年十月一日「株式会社第一銀行申合規則」及ビ「株式会社第一銀行処務規程」改正実施サル。上掲草案ハソノ基トナレル草稿ナルモノノ如シ。

株式会社第一銀行俸給旅費其他支給規則・行員休職規則・行員休暇規則　明治卅九年一月廿五日重役会制定
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　株式会社第一銀行俸給旅費其他支給規則
　　　　俸給
第一条　重役ノ俸給ハ株主総会ノ決議ニヨリ、総支配人以下書記ノ俸給ハ取締役会ノ定ムル所ニヨリ、見習雇員ノ俸給ハ総支配人ノ許可ヲ得テ支店支配人又ハ出張所主任ニ於テ之ヲ定ム
第二条　支配人以下書記ニ至ル行員ノ俸給ハ頭取ヨリ交付シタル辞令ニ依リ、見習雇員ノ俸給ハ支配人又ハ主任ヨリ交付シタル辞令ニヨリテ支給スヘシ
第三条　行員ノ俸給ハ毎月二十五日ニ支給ス、但休日ニ当ルトキハ其前日ニ支給スヘシ
第四条　重役ノ年俸ハ之ヲ十二分シ、毎月其一ケ月分ニ当ルモノヲ支給ス、但取締役ニシテ支配人其他ノ職務ヲ兼ヌルトキハ取締役ノ俸給ハ支給セス
第五条　新任者ノ俸給ハ日割ヲ以テ計算シ、増給降等解職等ノ場合ニハ辞令日付ノ十五日前後ニヨリ半ケ月毎ニ区別シテ支給スヘシ、但
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死亡シタル場合ニハ月俸ノ全額ヲ支給ス
第六条　月ノ二十五日前ニ転任ヲ命セラレタル者ノ俸給ハ其転任先ニ於テ支給スヘシ
　　　旅費
第七条　旅費ハ赴任・出張若クハ帰朝・休暇ノ場合ニ於テ別表ノ定ムル所ニヨリ滊車賃・滊船賃・車馬賃・日当及宿泊料ヲ支給ス
第八条　赴任又ハ帰朝　休暇ノ場合ニ於ケル旅費日程ハ事実上ノ経過日数ニヨラスシテ別表ノ定ムル所ニヨル
第九条　出張ノ場合ニ於ケル日当ハ日数ニ応シ、宿泊料ハ宿泊数ニ応シテ支給スルモノトス
第十条　本支店出張所間ノ旅行ハ暴風雨其他不時ノ支障アルニアラザレハ別表規定ノ日数ヲ超過スルコトヲ得ザルモノトス
第十一条　滊車賃・滊船賃ハ別表ニヨリ其実費ヲ支給シ、車馬賃ハ経過セシ路程ヲ通算シ其里数ニ応シテ之ヲ支給ス、但通算上ヨリ生スル一里未満ノ端数ハ之ヲ除ク
第十二条　赴任及出張ノ場合ニ於テハ、止ムヲ得サル事情又ハ特ニ命令アル場合ノ外、最モ時日ヲ要セサル順路ヲ択ムベシ
第十三条　旅行中私事ノ為メ許可ヲ得テ途中ニ滞留シ、又ハ行路ヲ迂回スルモ規定日数以外ノ旅費ヲ支給セス
　但病気其他ノ事故ニテ止ヲ得サル場合ニハ、其事由ヲ証明シテ支配人ノ承諾ヲ受ルコトヲ要ス
第十四条　行路ノ都合ニヨリ赴任又ハ帰任ノ途次支店又ハ出張所ニ立寄ラントスルトキハ、其日数ヲ定メ支配人ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
第十五条　赴任ノ場合ニハ別表所定ノ旅費ヲ給スルノ外、別ニ支度料トシテ日当及宿泊料三十日分ヲ支給ス
第十六条　赴任者家族ヲ携帯シ、又ハ後日之ヲ引纏ムル場合ニハ其父母妻子ヲ限リ本人ノ等級ニ相当セル普通旅費ヲ支給ス、但十二歳未満ノモノニハ半額ヲ給シ、四歳未満ノモノニハ支給セス
第十七条　前条ニヨリ家族ヲ引纏メタル場合ニ於テハ別表所定ノ家財運送賃ヲ支給ス、但此規則制定以前ニ本人ニ於テ旧規則ニヨル家財運送賃ヲ受ケタルモノニハ本条ノ運送賃ヲ支給セス
第十八条　赴任者ノ旅費手当ハ総テ赴任地ノ店ニ於テ支払フヘシ、但本人ノ都合ニヨリ前任地ニ於テ予算全額ノ十分ノ八以内ヲ仮リニ受取ルコトヲ得
　内地ヨリ海外ヘ赴任シ、又ハ内地ヘ転勤ヲ命セラレタル者ノ家財ニ対シ関税ヲ徴収セラルヽ場合ニハ之ヲ支給スルコトアルヘシ
第十九条　行務ニテ出張スル場合ニハ予定ノ日数以内ニ用務ヲ終ヘテ帰店スヘシ、若シ滞在日数予定以外ニ渉ルトキハ其日ヨリ日当及宿泊料ヲ支給セス、但支配人ノ認可ヲ受ケタルトキハ此限ニアラス
第二十条　甲店ニ於テ欠員ヲ生シタル為メ臨時乙店ヨリ出張シテ補欠ヲ為ス場合ニハ日当ヲ支給セス
第二十一条　海外在勤者ニシテ休暇規則第十条ニ拠リ帰朝ヲ許サレタルトキハ、本人ノ等級ニ相当セル往復旅費（任地ヨリ東京迄）ヲ支給
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ス、但滞留中ノ日当及宿泊料ハ支給セス
　本条ノ帰朝者ニシテ家族ヲ携帯スルトキハ、家族一人分ノ往復旅費ヲ支給ス
第二十二条　同市内間ニ於ケル出張又ハ転任ノ場合ニ於テハ総テ本款ニ関スル規定ヲ適用セス
　　　海外在勤手当
第二十三条　海外ノ支店出張所ニ在勤スルモノニハ別表ニ依リ毎月俸給ノ外在勤手当ヲ支給ス、但休職中ハ之ヲ支給セス
第二十四条　内地ヨリ赴任スルモノニアリテハ任地ニ到着シタル日ヨリ、又内地ニ転勤ヲ命セラレタル者ニアリテハ任地出立ノ前日迄、日割ヲ以テ前条ノ手当ヲ支給ス
第二十五条　帰朝休暇一ケ月ヲ越ユルトキハ一ケ月以後帰任ノ日迄在勤手当ヲ支給セス、但規定ノ旅行日数ハ之ヲ除ク
　　　職務手当
第二十六条　本支店支配人・出張所主任・其他重要ノ職務ニ在ル者ニハ取締役会ノ評議ヲ以テ在職中毎月手当金ヲ給与スヘシ
　但海外在勤者ニハ本条ノ手当金ヲ支給セス
第二十七条　出納掛員ニハ其勤務中ニ限リ総支配人許可ヲ得テ一ケ月金弐円以上拾五円迄ノ職務手当ヲ給与スルコトヲ得
　但本条ノ職務手当ハ可成之ヲ積立シムルコトヲ要ス
　　　季末手当
第二十八条　書記・見習・雇員ニ対シテハ本店ヨリ通達シタル割合ヲ以テ其勤惰ニヨリ毎季末ニ手当金ヲ給与スルコトヲ得
第二十九条　前条ノ手当金ヲ給与シタル場合ニ於テハ、別ニ定ムル所ノ形式ニヨリ其給与金額、氏名及勤惰日数表ヲ本店ニ報告スヘシ
　　　　　海外在勤手当支給表

支店支配人以下計算方迄ノ在勤手当ハ本店ヨリ辞令ヲ交付シテ其支給額ヲ定ム
書記ニシテ主任ノ事務ヲ取扱フモノニハ在勤俸拾円以上十五円迄ヲ加給ス
書記ニシテ功労衆ヲ超ヘタルモノハ支店支配人又ハ出張所主任ノ見込ヲ以テ本店ニ申立テ在勤俸五円迄ヲ加給スルコトヲ得、但月俸五拾円以上ノ書記ニハ特ニ拾円迄ヲ加給スルコトアルヘシ
 - 第4巻 p.709 -ページ画像 
　　　旅費支給表

　　　　　旅行日程表

 - 第4巻 p.710 -ページ画像 
　　　行員休職規則
第一条　支配人以下ノ行員ハ左ノ場合ニ限リ取締役会ノ決議ニヨリ休職ヲ命セラルヽコトアルヘシ
　一　疾病其他ノ事情ニヨリ三ケ月以上執務スルコト能ハサルトキ
　一　当行ノ都合ニヨリ其執務ヲ要セサルトキ
　一　志願兵タルト徴兵タルトヲ問ハス入営ノ為メ特ニ休職ヲ願出タルトキ
第二条　休職期限ハ勤続五ケ年以上ノモノハ六ケ月トシ、以後五ケ年ヲ加フル毎ニ六ケ月ヲ増シ、期満ツレハ解雇スヘシ、但入営者ノ休職期限ハ除隊復行迄トス
第三条　入営者以外ノ休職者ニハ期限中現俸ノ半額ヲ支給スヘシ、但休職中ハ身許保証金ヲ積立ルコトヲ要セス
第四条　休職員ハ日常ノ行務ニ従事セスト雖モ其他ハ総テノ在職行員ニ異ナルコトナシ
第五条　休職員他ノ銀行会社等ノ業務ニ従事スルトキハ期限中ト雖モ之ヲ解雇ス
第六条　休職員ハ其所属店ノ支配人ニ届出テ他ノ地方ニ住居スルコトヲ得
第七条　休職員ノ俸給ハ本人ノ望ニヨリ本支店出張所何レノ場所ニ於テモ受取ルコトヲ得ヘシ
　　　行員休暇規則
第一条　行員ハ事務ノ都合ニヨリ毎半季ニ三日以内ノ休暇ヲ受クルコトヲ得
第二条　行員赴任スル場合ニハ其発着ノ前後通計五日以内ノ休暇ヲ受クルコトヲ得
第三条　行務ニテ出張ヲ命セラレタル場合ニハ発着ノ前後合セテ二日間ノ休暇ヲ受クルコトヲ得
第四条　行員結婚スルトキハ五日以内ノ休暇ヲ受クルコトヲ得
第五条　前四条ノ規定ニヨリ休暇ヲ得ントスルトキハ、其時々支配人ノ認許ヲ受クルコトヲ要ス
第六条　行員ノ家族死亡シタルトキハ服忌令忌日ノ十分ノ一ニ当ル日数ノ外尚ホ二日間ノ休暇ヲ受クルコトヲ得
第七条　行員ノ居宅火災其他ノ変災ニ罹リタルトキハ、其翌日ヨリ三日間ノ休暇ヲ受クルコトヲ得、但近火ノ場合ハ其実況ニ応シ特ニ二日以内ノ休暇ヲ与フルコトアルヘシ
第八条　前二条ノ場合ニ於テハ支配人ニ其旨ヲ届出ルコトヲ要ス
第九条　支配人ハ事務ノ整否ヲ調査スル為メ行員ニ一週間以内ノ休暇ヲ命スルコトアルヘシ
第十条　海外ノ支店出張所ニ在勤シ満五ケ年以上帰朝セサルモノハ、支店支配人ノ許可ヲ得テ、規定ノ往復日数（任地ヨリ東京迄）ヲ除キ一ケ月以内ノ帰朝休暇ヲ受クルコトヲ得
第十一条　満三ケ年以上帰朝セサルモノハ前条ノ規定ニ準シ二週間以内ノ帰朝休暇ヲ受クルコトヲ得、結婚ノ為メ帰朝スルトキ亦同シ、
 - 第4巻 p.711 -ページ画像 
但本条ノ場合ニ於テハ旅費ヲ支給セス
第十二条　行員病気其他ノ事故ニテ出勤スルコト能ハサル旨ヲ届出テタルトキハ請暇トシ、無断ニテ出勤セサル者ヲ欠勤者トス
第十三条　徴兵検査ノ呼出又ハ点呼召集等アルトキハ、之ニ要スル日数ノ休暇ヲ受クルコトヲ得、但此場合ニ於テハ第五条ノ規定ヲ準用ス
第十四条　此規則ニ於テ支配人ニ関スル規定ハ出張所主任ニモ之ヲ適用ス
　　　○本行ハ朝鮮ニ於テ明治十一年釜山ニ支店ヲ設置シテ以来、普通銀行業務ノ外ニ海関税ノ取扱、地金銀ノ買入、貨幣ノ整理、朝鮮政府ヘノ貸上金、銀行券ノ発行、韓国国庫金ノ取扱等ノ業務ヲ営ミ、朝鮮ノ財政金融ノタメ尽瘁スル所尠カラズ。特ニ明治二十九年以後ハ朝鮮ニ於ケル国運ノ発達ニ順応シテ愈々ソノ業務ヲ発達セシメ、遂ニ明治三十八年三月勅令第七十三号ノ発布ヲ以テ韓国中央銀行トナルニ至リタルガ、明治四十二年十月韓国銀行ノ成立ヲ見ルニ及ビテソノ業務ヲ引渡シタリ。此間ノ詳細ニツキテハ第二編第一部「朝鮮ニ於ケル第一銀行」ヲ参照セヨ。

渋沢栄一伝記資料　第四巻　終