デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治21年4月15日（1888年）

是ヨリ先、公債証書条例改正ノ件ニ付建議ス。是日栄一、春季懇親会開宴ニ先立チ、右ノ件ハ受理セラレザリシモ早晩我同業者ノ望ハ達セラルヲ得可キ旨ノ報告ヲナス。後本条令ハ改正セラレタリ。

銀行通信録　第二八号・第五―七頁〔明治二一年三月二八日〕
　　　　○第八十二回定式集会録事　○明治二一年三月一五日
次ニ無記名諸公債証書ノ内、起業金札引換中山道鉄道等ノ三種ニ係ル条例改正ノ件ヲ大蔵大臣ヘ稟請スヘキ議案ヲ提出シテ全員ノ賛成ヲ得タルニ因リ、尚字句ヲ修正シ、同盟銀行連署ヲ以テ速カニ稟請スヘキ事ニ議決セリ、其要旨ハ公償証書《（債）》ハ銀行営業上大関係ヲ有スルモノニ付、其性質ノ如何取扱ノ便否等ハ同業者毎ニ之レヲ研究シ、其得失ヲ計較セシガ起業金札引換中山道鉄道等ノ公債ハ其条例ニ拠レハ紛失盗難又ハ流焼失ニ罹リタル分ハ夫々ノ手続ヲ以テ大蔵省ヘ上申ノ後償還年限ノ末期ニ至ル迄終ニ現出セス全ク消滅シタルコト判明セシニ於テハ、其元利金ヲ交付セラルヽノコトナリシカ、整理公債証書ハ其証書又ハ利札等ヲ亡失シタルトキハ二名以上ノ保証人ヲ立テ、日本銀行本支店若クハ代理店ヲ経テ大蔵省ニ上申シ、同省ニ於テ其消滅ノ証跡判明ナリト認メラルヽトキハ其代リ証書、若シクハ代利札等ヲ下付セラルヽコトナリ、又海軍公債証書ハ当初中山道鉄道公債ト同様ノ手続ナリシカ、昨年二月勅令第一号ヲ以テ此条例外ノ事項ハ総テ明治十九年勅命第六十六号整理公債証書条例ニ可準事ニ改正セラレ、実際取扱上大ニ便利ヲ得タリ、然ルニ上記起業公債証書等ノ三種ハ、其条例未タ改正セラレサルニヨリ、此種類ヲ所有スル者ハ不便感覚モ亦尠ナカラサルニ付、其手続ノ得失ヲ取調、稟請スヘキ事ヲ協議セシ折柄去月二十三日江戸橋郵便局失火ノ際大分第二十三国立銀行ヨリ預金局抵当トシテ日本銀行ヘ交致スヘキ公債証書若干入書留郵便一封焼失ニ罹リ、右ノ内若干ハ起業公債証書ナルヲ以テ其条例ニ拠レハ則同銀行営業満期ノ後ニアラサレハ其元利金ヲ収領スルコト能ハサルノミナラス、其間該証書使用ノ効ヲ欠キ、及利息金額ヲモ運用スルヲ得スシテ其損失モ亦少ナカラス、同行ノ難儀容易ナラサル趣ニ聞及ヘリ、此一事ヲ以テ尚将来ノ災害ヲ想惻スレハ、実ニ寒心ニ耐ヘサルモノアリ、抑公債証書ハ其性質及発行セラレタル情由ニ於テハ殊別アリト雖トモ、之レヲ人民ニ所有セシムルノ旨意ニ至テハ固ヨリ庭径ナカルヘシ、然ルニ甲ハ取扱上便利ニシテ乙ハ不便利ナリトスルノ理由ハ万有之間敷シテ今日ニ至ル迄斯ノ如クナラサルモノハ要スルニ其条例皆同時ニ発行セラレサルカ故ニ最近ノ条例程最モ便利ニ至リタルコトニテ、既ニ海軍公債証書条例ノ如キ後ニ至リ整理公債証書条例ト同一ニ改正セラレタルヲ以テモ其御旨意ノ所在ヲ領躰スヘケレハ起業外二種ノ如キモ早晩
 - 第6巻 p.157 -ページ画像 
改正セラルヘキモノナルヘシト雖ヘトモ、既ニ焼失ノ事モアリシヲ以テ一日モ早ク該条例ヲ改正セラレ、公債証書ニ大関係アル同業者ヲシテ危惧ノ念ヲ除カシメラレンコトヲ祈望スルニ在リトノ意ナリ

委員決議　自明治十六年至同廿六年[廿二年か?]　（東京銀行集会所所蔵）
　　明治二十一年四月十三日　(印)
　　　　委員栄一印(印)(印)(印)(印)
来ル十五日向島八百松ニ於テ同盟春季懇親会相催候ニ付、例ニ依リ松方伯外十六名ヘ委員連名ヲ以テ招待状呈上仕置候（去ル十日附）処、御差支等ヲ以テ本日迄ニ接手仕候回答之要旨ハ別紙之通ニ御座候間、為念供御一覧候也
　　先約有之旨ヲ以テ御断　　　　　　　　　松方伯
　　無余儀差支ニテ御断　　　　　　　　　　郷大蔵次官
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　加藤銀行局長
　　病気中ニ付御断　　　　　　　　　　　　上床同次長
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　三島警視総監
　　病気中ニ付御断　　　　　　　　　　　　高崎東京府知事
　　先約有之旨ニテ御断　　　　　　　　　　銀林同書記官
　　同断　　　　　　　　　　　　　　　　　渡辺同書記官
　　同断　　　　　　　　　　　　　　　　　谷大蔵大臣秘書官
　　当日来会ノ旨回答　　　　　　　　　　　富田日本銀行総裁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　三野村同理事
　　当日来会ノ旨回答　　　　　　　　　　　与倉同理事
　　先約有之旨ヲ以テ御断　　　　　　　　　池田第十五銀行頭取
　　旧主家ニテ祭典執行ニ付御断　　　　　　柏村信
　　当日来会ノ旨回答　　　　　　　　　　　間島冬道
　　当日来会ノ旨回答　　　　　　　　　　　奈良原繁
　　旅行中　　　　　　　　　　　　　　　　森岡昌純

銀行通信録
　○第二九号・第八―九頁〔明治二一年四月二八日〕
　　　　○春季懇親会録事　○明治二一年四月一五日
是日開宴ニ先タチ委員第一国立銀行頭取渋沢栄一氏ハ、前月定式集会ニ於テ議決シタル起業外二種公債証書条例改正請願ノ件ハ其二十七日大蔵大臣ヘ該請願書ヲ進達セシカ、本件ハ建白ニ属スルヲ以テ受理セラレサル旨付箋ヲ以テ其二十九日ニ於テ却下セラレタリ、因テ再ヒ同大臣ニ向ヒ建議スヘキヤ否ヲ窃カニ問候セシニ、該件ハ已ニ当路ニ於テ大ニ審議ヲ尽サルヽト云ヘハ、幸ニ請願ノ精神ヲ擯斥セラレサルモノト信スヘキヲ以テ、早晩我同業者ノ望ヲ達スルヲ得ヘク、就テハ更ニ建白ヲ為スコトハ中止スヘキ旨ヲ報道セリ

　○第三六号・第三二―七〇頁〔明治二一年一一月二八日〕
　　　　○第八十八回定式集会録事
明治廿一年十一月十五日、同盟第八十八回ノ定式集会ヲ開キ、来会スル者ニ十四名ナリ、委員三井銀行副長西邑虎四郎氏ハ書記ニ嘱シテ会務ヲ報道セシム、曰ク、本会ニ当テハ敢テ議スヘキ要件ナシ、只今般勅令第七十三号及大蔵省令第十五号ヲ以テ諸公債証書条例ヲ改正セラレタルニ因リ、従来起業金札引換中山道鉄道公債証書等ノ如キハ流焼
 - 第6巻 p.158 -ページ画像 
失乃至盗難等ニ罹リタル者ハ其償還年限末期ニ至ラサレハ元利金ヲ受取ルコト能ハサリシモノモ、今ヤ此改正ニ依リ総テ整理公債証書同様ノ取扱ニ帰シ、大分第二十三国立銀行所有起業公債焼失ノ事件、及本年三月十五日我同盟銀行ノ決議ヲ以テ大蔵大臣閣下ヘ稟請ノ事情等モ玆ニ至テ均シク其希望ヲ達シ、公私ノ為メニ喜フヘキカ故ニ特ニ此ニ一言スト、報畢テ更ニ営業上取扱ノ二三事件ニ関シ談論シ、畢テ晩餐ヲ為シ、八時下散会セリ
○中略
　　　　○雑録
○公債証書条例ノ改正　公債証書ハ銀行営業上ニ於テ大関係ヲ有スルモノナレハ其性質ノ如何取扱ノ便否等ハ久シク同業者間ニ於テ討論評議ヲ経タリ、而シテ従前七種類公債ノ内、起業公債金札引替公債中山道鉄道公債ノ三種ニ限リ其条例ニ該公債証書紛失盗難又ハ流焼失ニ罹リタル分ハ、夫々ノ手続ヲ経テ大蔵省ヘ上申ノ後、償還年限ノ末期ニ至ル迄現出セス消滅ノ跡顕然タルニ於テハ、其亡失シタル時ヨリノ利息ヲ加ヘ元金ト共ニ交付セラルヘキ手続ナリシ、然ルニ整理及海軍（最初中山道鉄道公債条例ト同シクシテ、十九年勅令第六十六号ヲ以テ整理同様ニ改正セラル）ノ如キハ、其証書利札共水火災等ニヨリ消滅シタルトキハ二名以上ノ保証人ヲ立テ、日本銀行本支店又ハ代理店ヲ経由シテ大蔵省ヘ上申シ、代リ証書ヲ請求スルヲ得ヘシ、均シク我政府発行ノ無記名公債証書ニシテ其取扱如此経庭《（径）》アルハ実際不便ナルノミナラス、之ヲ所有スル銀行其外共不慮ノ災害ニ遭逢スル時ハ云フヘカラサルノ困難ヲ被ムルカ故ニ、之ヲ改正セラレンコトヲ其筋ヘ稟申セントスルニ当リ、本年二月廿三日東京郵便局ヨリ失火ノ際大分第二十三国立銀行ヨリ預金局抵当トシテ日本銀行ヘ送致スヘキ公債証書額面五万円入書留郵便一封焼失ニ罹リ、此内一万四千円ハ起業公債ナルヲ以テ其代リ証書及利息ハ同行営業満期ノ後ニ至ラサレハ収領スルヲ得サルノミナラス、其間該公債証書ニ存スルノ効用ヲ欠キ、且其利息金額ヲモ運用スル能ハサルノ不幸ヲ来シ、同行ノ難義ハ云マテモナク将来ノ災害ヲ想測スレハ実ニ寒心ニ耐ヘサルニ付、右三種ノ公債証書モ整理公債同一ノ取扱ニ其条例改正アランコトヲ望ミ、三月十五日銀行集会所同盟銀行会同ノ議決ヲ以テ其二十七日大蔵大臣ヘ稟請セシカ、其事建白ニ属スルモノナリトシテ書面ハ之ヲ却下セラレタレトモ其願意ハ十分聴容セラレタル趣ナリシカ、果シテ本月六日勅令第七十三号及同月十四日大蔵省令第十五号ヲ以テ該条例ヲ改正セラレタリ、本件ハ特ニ同盟銀行ノ望ヲ満足シタルノミナラス一般理財上ノ便益ヲ得タル者ナレハ実ニ喜フヘキノ至リナリ

中外物価新報
　○第一九八二号〔明治二一年一一月六日〕
　　　　起業公債証書条例の改正
起業公債証書条例にハ同証書の紛失盗難又ハ流失に罹る分ハ所有主に於て其の事実を審明し、証書の記号、番号、金高、枚数及び所有となりし時の手続等詳細相認め、地方官を経て大蔵省に届出で、償年却限の
 - 第6巻 p.159 -ページ画像 
末期に至る迄発見せず全く消滅に帰したるに相違なきに於てハ、同証書に対し積りたる利息元金とも一同に之を払渡すべきことに定めあるを以て、若し紛失せば明治三十五年即ち起業公債の償却年限迄利息の払渡、元金の償却を受くるを得ざるの制なり、然るに本年二月中第二十三国立銀行（大分）より日本銀行に送付せし公債証書五万円は同月廿三日東京郵便局火災の為め焼失せしが、内一万四千円ハ起業公債証書たりしかば、同盟銀行者ハ眼前此困難に遭遇し同三月十五日銀行集会所に定式会を開き、右の条項を改正して仮令紛失したりとするも確証あるに於てハ書換の上下付することゝ為す様請願するに決し直ちに請願せしに、其の筋にても実際不便なるを知りしかば斯かる変災に遭遇したる節の処分ハ整理公債条例第二十条の例に準じて取扱ふ様に為さんとの改正案を以て此程元老院の議に附されしに就てハ、同院に於ても多分異議なく可決して其発令を見るも遠きにあらざるべしと聞けり

　○第一九九一号〔明治二一年一一月一六日〕
　　　　起業公債証書条例の改正
一昨十四日大蔵省令第十五号を以て起業公債証書条例中に改正を加へられしことハ載せて前号官報欄内にある如くなるが、抑我邦の公債ハ旧公債、新公債、秩禄公債、神官配当禄公債、金禄公債等の数種なれども、右ハ孰も政府より華士族平民等に扶助恩給金の下賜すべき者あるを公債証書に代へて下附したるものに止り、政府が民間より新規に公債を募集したるハ明治十一年五月の起業公債を以て嚆矢とす、然るに当時人民が公債を信ずること極めて薄く、資本家が余儀なく勧告に依りて其募集に応ずるも内実ハ恰も幕府の頃御用金を出すが如き有様なりしかば、右募集の事より其他同公債取扱上一切の事ハ挙て之を三井銀行・第一銀行の両行へ委ねたり、左れば他の公債証書の条例ハ総て太政大臣の公布を以て制定したるも、独り起業公債証書条例のみハ他の条例とハ大に異り、大蔵省令を以て定められしものなるが、其後中山道公債、金札引替公債、海軍公債、整理公債等の各条例の出るに随ひ、曩に制定したる条例中多少の欠点又ハ不都合の廉々を見出したるより遂に今度の改正を為すに至りたるものゝ由、尤も此改正の条項中にハ同盟銀行諸氏が、曾て大分第廿三国立銀行が起業公債証書を日本銀行へ逓送中火災に罹りたるに其代り証書の下付ハ明治三十五年即ち起業公債証書償還年限迄待たざるを得ざるハ実に困却此上なければ整理公債証書条例第廿条の例に準じ直に代り証書の下附ある様致度云云とて其定例を挙て曩に其筋へ請願書を差出し置しに、今回の改正にて愈よ請願通りになりたるに付銀行家一同ハ大に欣び居れりと云ふ

　○第二〇二七号〔明治二一年一二月二八日〕
　　　　紛失公債証書の取扱
本年十一月勅令第七十三号、及去月十四日大蔵省令第十五号を以て起業其他無記名公債証書条例を改正せられ、従来流焼失其他の禍害に罹り之を紛失したる証書ハ、其償還年限の末期に至らざれば之れが元利金を収領すること能はざりしも、今回の改正に由れば前条の如き不幸に出逢ひたるものも、其代り証書及利札を請求し得らるゝのみならず総ての取扱整理公債同様に改められたれば、所有者に便利安心を与へ
 - 第6巻 p.160 -ページ画像 
たること実に小少にあらざるべし、然るに本令ハ来二十二年一月一日より施行すとあれば、或は既往禍害に罹りたるものハ此類例に拠ることを得ざるべきやとの疑ひ起り、現に其後大分第二十三国立銀行にては本年二月二十七日東京郵便局が火災に罹りたる節、無記名起業公債証書額面二万七千円を焼失したることハ当時の紙上にも記載したる如くにて、又此外にも流焼紛失等に係りたるものあるに付、是等の所有者中にハ事情を具して大蔵省へ伺出し向もありと聞及び居たりしに、省にても其陳情を領察し、去る廿六日告示第百六十五号を以て本年十同二月三十一日以前に紛失消滅に係りたる無記名起業公債・中山道鉄道公債・金札引換無記名公債の証書若しくハ利札の取扱ハ来二十二年一月一日以降整理公債条例に拠る旨公布せられたれば、玆に初て右の疑団全く氷解し、銀行家其他の人々も大に安堵したる由

法令全書　明治二一年
○大蔵省令　第十五号
明治十一年五月大蔵省甲第十三号布達起業公債証書条例第一条第二節但書第二条第一節中「第六条」ヨリ「除キ」マテノ十八字「外国人ヲ除クノ外」ノ八字同但書「外国人ヲ除キ」ノ六字及第四条第五条第六条第七条ヲ削除シ、証書ノ売買譲与紛失消滅汚染毀損其他ニ係ル事項ハ総テ明治十九年十月勅令第六十六号整理公債条例並同年同月大蔵省令第三十号整理公債取扱順序ニ拠ル、但其取扱銀行ハ総テ従前ノ通トス
本令ハ明治二十二年一月一日ヨリ施行ス
　　明治二十一年十一月十四日　大蔵大臣　伯爵　松方正義