デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
6款 択善会・東京銀行集会所
■綱文

第6巻 p.425-429(DK060125k) ページ画像

明治30年11月11日(1897年)

東京銀行集会所ヲ代表シ、近ク設定セラレントスル東京市特別税中ノ銀行税ハ商工業ノ進運ヲ阻害スルモノナル所以ヲ東京府知事子爵岡部長職ニ開申ス。


■資料

銀行通信録 第一四五号・第一二〇―一二二頁〔明治三〇年一二月〕 組合銀行臨時集会録事(DK060125k-0001)
第6巻 p.425-427 ページ画像

銀行通信録  第一四五号・第一二〇―一二二頁〔明治三〇年一二月〕
    ○組合銀行臨時集会録事
明治三十年十一月十日午後四時より東京銀行集会所組合銀行臨時集会を開き来会したるもの四十名、副会長豊川良平氏は臨時開会の理由を述へて曰く、今回東京市は会社に特別税を賦課するの規則を設定して之を市会に付し、遂に本案を調査委員に托したる趣の処、該調査委員は会社税を不当なりとして之を排斥したるに拘はらす、特に銀行税なる項目を設け其利益金に課税すべしとの説多数を占め正に市会に報告せんとすと、果して然らば該案の課税の精神たる公平を失するのみならず、背理の甚しきものたるを以て当集会所は市参事会及市会議員諸氏へ別紙意見書を送り、大に反省を求むると同時に東京商業会議所会頭にも右意見書を送り、相当の注意尽力を乞はんと欲するなりと、其意見書草案を朗読せしめ、且つ急速の際に起稿したれば大意に於て異なる事なしと雖、字句行文上修正を要すべき廉ありと述べしに、全会一致を以て本案の旨趣に賛同し、尚其字句行文の如きは総て会長に委托すべければ然る可く取計らひありたしと希望したるを以て、会長は之を諾し、速に修正の上夫れ々々取計ふべきことに決せり
 - 第6巻 p.426 -ページ画像 
右議事終りて後豊川良平氏は各員に協議して曰く、御列席の各行は大抵関東銀行会に加入せらるゝものなるが、右関東会は本年春季の集会に於て自今毎年一回の開会と改め、而して其時季は帝国議会開会の際に於てすべき事を約したるも、目下差懸りたる重要事項もなきか如し然るときは歳尾繁忙の央に於てするよりも、寧ろ来春に開きたる方然るべきかとも思惟せしが各位の意向は如何と述べしに、皆来春に開くことを希望し晩餐の後八時散会せり
特別市税廃止に関する参事会其他への書面は左の如し
一、市参事会へ上呈書写
    銀行税設定を不可とする義に付開申
今般本市に於て設定せられんとする特別税賦課規則に関し市会の調査委員は会社税の目を削除したるに、却て新たに銀行の利益に課税せんとするの法案を設定せりと、果して然らは是れ実に背理の税法なるのみならす、其結果は本市商工業の進運を阻害するに至るべしと為存候に付、玆に当集会所の決議を以て別紙意見書上呈候也
                東京銀行集会所
  明治三十年十一月十一日     会長 渋沢栄一
    東京市参事会
     東京府知事 子爵 岡部長職殿
一、東京商業会議所会頭への依頼書写
今般本市に設定せられんとする特別税賦課規則に関し貴会議所に於ては既に御決議の上市参事会へ意見書御提出相成居候処、此程市会の調査委員は会社税の目を削除したるにも拘はらす、新たに銀行の利益に課税せんとするの方案を設定致候趣に付、当銀行集会所組合銀行は去る十日臨時集会の決議を以て別紙意見書を市参事会へ提出致候に付、尚此上共御尽力相成度此段得貴意候也
                東京銀行集会所
  明治三十年十一月十一日     会長 渋沢栄一
   東京商業会議所
    会頭 渋沢栄一殿
一、特別市税賦課規則中銀行税の設定を非とするの意見書
今回市費補充の目的を以て市参事会より市会に提出せられたる特別税賦課規則案中会社税の不当なるは已に市会に於て選挙せられたる調査委員が之を削除したるを以て見るも明かなるへし、然るに此調査委員は新たに又銀行の利益金に課税するの方案を設け、之を市会に報告せんとすと、果して然らは此方案は課税の精神たる公平を失するのみならす背理の甚しきものたるを以て当集会所は左に其意見を陳述して大に反省を乞はんとす
市会の調査委員は特別税賦課規則設定案中会社税の非理なるを悟り之を削除したるに、却て市内に営業場を有する銀行に対し其利益金の割合に応して課税せんとするは如何なる理由なるや、個人と会社と其成立同しからさるも其営業を為すに於て異なる所なし、銀行と云ひ保険と云ひ、運輸と云ひ、物品の販売と云ふも、其営業に於ては均しく一なり然るに他の営業者は一般に課税を免かるゝに独り銀行のみ特別市
 - 第6巻 p.427 -ページ画像 
税を負担せざるを得すと云ふに至りては実に背理の甚しきものに非すや、且銀行の収益は保険業、運輸業と均しく各地方に設立せし支店より吸収するもの少なからず、然るに本店を本市に有するか為めに其利益金に対して課税せんとするは其目的を誤りたるものと云はさるへからす
元来銀行事業なるものは保険、運輸、交通等の業と相俟て商工業の発達を助け、国家の進歩を裨益すへき重要の経済機関にして近年日を逐ふて其数の多きを加ふるは、社会の進運に伴ふの結果なれは国家の産業を発達せしめんと欲する者は、益々機関の整備を講せさるへからす然るに此時に当り、却て前述の如き背理の課税を為さんとするは商工業の発達を阻害し、国家の大計を誤まるものと云はさるへからす
之を要するに本市の経済にして道路の修繕其他の為めに必要の経費を得んとせは、税法の原則に拠り適実公平なる方法を以て其財源を求むる豈其途なしとせんや、然るに之に拠らすして却て不公平なる銀行税を設定せんとするは当集会所の賛同する能はさる所なり
  明治三十年十一月 東京銀行集会所
  ○明治三十年十一月十日ニ開カレタル臨時集会録事ハ「明治二十六年一月集会録事」中ニモアレド「銀行通信録」ニ掲載ノモノ詳細ナルヲ以テ之ヲ採リタリ。


集会録事 自明治二十六年一月(DK060125k-0002)
第6巻 p.427-429 ページ画像

集会録事 自明治二十六年一月  (東京銀行集会所所蔵)
    銀行税制定ヲ非トスル義ニ付開陳
今般制定セラレントスル特別市税中銀行税ハ啻ニ非理ノ税法ナルノミナラズ、亦課税ノ精神タル一般公平ヲ保ツノ点ヨリ見ルモ頗ル其当ヲ得ザルヲ信ズルニ依リ本集会所ノ決議ヲ以ツテ別紙意見書提出仕候也
  明治三年十一月《(十脱)》 日  東京銀行集会所
                   会長 渋沢栄一
  東京市参事会東京府知事 子爵 岡部長職殿
  特別市税賦課規則制定ノ件中銀行税ヲ不可トスルノ意見
東京市ノ市費補塡ノ目的ヲ以ツテ市参事会ヨリ市会ヘ提出セラレタル特別市税賦課規則案中銀行税ハ啻ニ背理ノ税法タルノミナラズ、亦課税ノ精神タル一般公平ヲ保ツ能ハザルノ恐レアリ、故ニ本集会所ハ左ニ其意見ヲ列挙シテ大ニ再慮ヲ煩ハサント欲ス
一特別市税賦課規則案第二条ニ依レバ銀行税ハ市内ニ於テ営業場ヲ有スル銀行ニ対シ其利益金高ノ割合ニ応ジテ課税セントスルモノナリ抑モ商業ナルモノハ一個人ニ於テ之レヲ営ムト、会社組織ヲ以ツテ之レヲ営ムト其間毫モ異ナル所ナシ、今銀行事業ナルモノヲ見ルニ概シテ会社組織ト云ハザル可カラズ、然カルニ一個人ニシテ営業ヲ為スモノハ課税ヲ免カレ、銀行ノ如キ会社組織ヲ以ツテスルモノハ其特別市税ヲ負担セザルヲ得ズト云フニ至ツテハ最モ背理ノ甚ダシキモノニアラズヤ、蓋シ租税ハ国税タリ、府県税タリ、将タ町村税タルトヲ問ハズ、総テ公平ニ賦課セザル可カラザルハ之税法ノ元理ニ於テ明白ナル道理ナルニ、一国ノ帝都タル本市ニ於テ斯クノ如キ背理ニシテ且不公平ナル徴税ヲ見ントスルニ至ツテハ其不当ナルニ
 - 第6巻 p.428 -ページ画像 
驚カザルヲ得ザルナリ、人或ハ云ハン一個人ニ課セズシテ銀行事業ニノミ課税スルノ不公平ナルハ誰カ之レヲ知ラザラン、知ツテ而シテ之レヲ為ス所以ノモノハ銀行ニ課税スルハ之ヲ個人ニ課税スルニ比シ其徴収方法簡易ニシテ、而カモ其得ル所ノ収入巨額ナレバナリト、果シテ斯クノ如クンバ之レヲ特別市税ト称センヨリ寧ロ一種ノ義金ヲ銀行ニ命令スルモノト云フモ不可ナカランヤ、其課税ノ精神ニ違反スルコト蓋シ之レヨリ甚ダシキモノアラザルナリ、況ンヤ一般会社税ハ既ニ不可ナルヲ悟リ、今ヤ将サニ之レヲ中止セントスルノ議アリト聞クニ、均シク会社事業タル銀行ニ対シテハ尚ホ之レガ課税ヲ為サントスルニ至ツテハ愈々其設理甚ダシキヲ知ルニ足ラン
二且ツ夫レ銀行営業場ヲ本市内ニ置クノ故ヲ以ツテ其利益金額ニ課税セントスルニ至ツテハ、益々不当タルヲ免カレズ、現ニ本市ニ営業場ヲ有スル銀行ハ地方ニ多数支店ヲ有シ、之レニ依テ巨額ノ取引ヲ為スノミナラズ、従ツテ其利益金モ又是等地方ヨリ吸収セシモノ少ナカラズ、然ルニ単ニ本市ニ営業場ヲ有スルノ故ヲ以ツテ其利益金額ニ課税スルトセバ、地方ニ於テ得タル利益金ニ対シテ本市ガ課税ヲ為スノ結果ニ陥ラサル可カラズ、豈ニ斯ノ如不当ノ理アランヤ
三特ニ銀行事業ナルモノハ、商工業ノ発達国家ノ進歩ヲ裨益スベキ重要ノ経済機関ニシテ、近年日ヲ逐フテ多キヲ加フルハ将ニ社会ノ進運ニ応ズルノ結果ナリト云ハザル可ラズ、思フニ国家ノ産業ヲ奨励セシメント欲セバ、益々是等金融機関ノ振作ヲ講セザル可カラズ、然カルニ此時ニ当リ却ツテ銀行事業ノ発達ヲ阻害スベキ税法ヲ制定セントスルハ之レ国運ノ大勢ニ反スル不当ノ措置ト云ザルベカラズ
要之今回制定セラレントスル銀行税ナルモノハ、之レヲ税法ノ原則ヨリ云フモ、又実際ヨリ見ルモ、到底決行ス可カラザル者ト信スルナリ聞ク所ニ依レバ本市ガ特別税ヲ制定スル所以ハ道路修繕ノ為メニ必要ナル経費ヲ得ントスルニ有リト、勿論市中道路ノ改良ヲ計ルハ目下ノ急務タリ、之レカ為メニ巨額ノ貨幣ヲ要ス可キハ本集会所固ヨリ是レヲ認メサルニ非ス、然リト雖モ此等必要ノ収入ハ其財源ヲ得ルノ途決シテ尠カラズ、唯之レガ為メニ銀行税ノ如キ設理不公平ナルモノヲ撰ブニ至ツテハ断シテ本集会所ノ賛同スル能ハザル所ナリ
    ○第百七十七回定式集会録事
明治三十年十一月十五日午後五時ヨリ銀行集会所組合銀行定式集会ヲ開キ来会シタルモノ四十一名ナリ
副会長豊川良平氏会長席ニ着キ去ル十日臨時集会ニ於テ決議シタル特別市税賦課規則中ニ銀行税ノ設定ヲ不可トスルノ意見書案ハ修正ノ上十一日市参事会ヘ提出シ、併セテ参事会員及市会議員諸氏ヘモ送付シ置キ、尚其運動方法ニ付去ル十二日十五六日名打寄リ更ニ協議ヲ経テ市会議員諸氏ヲ訪問スヘキ事ト為シ、各自応分ノ奔走ヲ為シタレトモ尚各位ニ於テモ充分尽力アリタシト述ヘシニ皆之ヲ承諾シ、而シテ右議案愈市会ノ本議ニ上リタル節ハ組合銀行員ハ挙テ傍聴ニ出向クヘキ事ヲ約セリ
  ○東京商業会議所明治三十年十月十三日及ビ十一月二十五日ノ項参照。
   (同問題ニ関シ商業会議所ヲ代表シテ開申セルモノナリ)
 - 第6巻 p.429 -ページ画像 
  ○明治三十一年三月二十六日特別税設定ノ建議アリ、東京市会ハ三月二十八日之ヲ議題ニ供シ其ノ後曲折ヲ経テ結局特別税設定ノ件(コノ内ノ税目ニハ銀行税ナルモノナシ)ヲ可決セリ。然ルニ該件ハ遂ニ主務省ノ認可ヲ得ル能ハズ更ニ調査ノ上其筋ニ稟請センコトヲ希望スルニ止マリタリ。東京市会史第一巻・八四五頁―八五一頁。