デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2021.9.1

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
6款 択善会・東京銀行集会所
■綱文

第7巻 p.79-83(DK070011k) ページ画像

明治41年5月16日(1908年)

銀行倶楽部第六十六回晩餐会開カレ来賓トシテ大蔵大臣松田正久等出席ス。栄一一場ノ演説ヲナス。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四一年(DK070011k-0001)
第7巻 p.79 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四一年
五月十六日
四時頃ヨリ銀行集会所ニ抵リ交換所委員会ニ出席ス、畢テ此夕催フサレタル倶楽部晩餐会ニ出席ス、松田大蔵大臣其他ノ属僚来会ス、食卓上一場ノ演説ヲ為シ、午後十時浜町宅ニ立寄リ十二時王子ニ帰宿ス


銀行通信録 第四五巻第二七二号・第八三七頁〔明治四一年六月一五日〕 銀行倶楽部第六十六回晩餐会(DK070011k-0002)
第7巻 p.79-80 ページ画像

銀行通信録  第四五巻第二七二号・第八三七頁〔明治四一年六月一五日〕
    ○銀行倶楽部第六十六回晩餐会
銀行倶楽部にては全国交換所聯合調査委員会開会を機とし五月十六日午後六時より第六十六回会員晩餐会を開きたり、同日出席者は来賓松田大蔵大臣、水町同次官、橋本主計局長、勝田理財局長、塚田臨時国債整理局長、浜口専売局長及各地交換所委員以下合計百二十余名にして宴酣なる頃早川委員長の挨拶に引続き松田大蔵大臣、渋沢男爵及豊
 - 第7巻 p.80 -ページ画像 
川良平氏の演説あり、夫より席を別室に移し主客歓談の上午後十時散会せり、席上演説の筆記は本号別欄に掲ぐ


銀行通信録 第四五巻第二七二号・第八一四―八一五頁〔明治四一年六月一五日〕 銀行倶楽部晩餐会演説(五月十六日)(DK070011k-0003)
第7巻 p.80-82 ページ画像

銀行通信録  第四五巻第二七二号・第八一四―八一五頁〔明治四一年六月一五日〕
  ○銀行倶楽部晩餐会演説(五月十六日)
    ○早川委員長の挨拶
閣下、諸君、今夕当倶楽部に於て晩餐会を開くに当りまして大蔵大臣閣下を始め次官、各局長御揃で御出席を得ましたことは誠に光栄として深く感謝致す所でございます、又大阪、京都、横浜各地交換所の委員諸君の当地に御来会せられましたのを機会と致し、御招待を申上げました処、幸に皆様が御出席下さいまして誠に久し振りで種々御話を承ることを得ましたのは吾々の深く喜ぶ所でございます
今日の経済界の現状は如何であるかといふことは今更細かに申上るまでもなく昨年来概して之を申せば不振の状況にあると言はざるを得ぬ次第であります、が其原因に就ては余り論ずる必要もありませぬ、即ち種々の原因が輻輳して今日の経済界の状況を来したものであるといふことは申すまでもないことであります、或は世界全般の経済上の不景気といふやうなことも原因になつて居りませう、或は銀価下落の影響を受けて居るといふこともあるでありませう
併しながら最も直接に影響を蒙つて居るのは、財政の急激なる膨脹から起きた訳であらうと存じます、尤も此財政の膨脹といふことは国運の発展上已むを得ず起きた訳でありまして、今日之を如何に批評し或は非難攻撃致しましても既に決定したる以上は致方ない次第であらうと思ひます、して見ますると既に財政のことも確定致して居り、又今日の経済界の状況は此の如き有様であるといへば必ずや此の財政の膨脹に伴うて経済界の調和を図るといふことはどうしても必要になつて来る訳であらうと思ひます、即ち財政経済の調和といふものに就ては吾々大に力を致さんければならぬ、増税も既に決定した以上は已むを得ぬでありますが、之が財源たる所のものを大に涵養するといふことは即ち最も今日の急務であつて、財政に応じて経済の調和を図るといふことは今日にあつては益々必要を感じまする、既に今日の財政の膨脹を来したる原因を攻究するまでもなく、既に現はれたる所の事実に対して是に応ずるやうに経済界の措置をなさなければ、所謂此の調和を図ることが出来ぬと思ひまする、吾々の今後に於て最も必要と致しまする所は此調和にあるであらうと思ひます、是等の事を致すに就きましては、即ち官民共に一致協同して此経済界の発展を図るに就て互に尽す所なければならぬと思ひます、所謂国民一致、官民共に此経済界の改良発達に就て尽す所あることが最も必要であります、所謂協同一致を致すに就きましては、どう致しても官民の間に於て互に事情の疏通といふことが最も必要であります、唯事情の疏通せざるが為めに或は不安の念となり、或は疑惧心となり為めに不測の害を惹起することが往々ありまする、此間に於て互に事情を疏通するといふことは最も必要であります、此事情を疏通するといふことが出来ますれば即ち官民一致といふことが出来、従て国運の隆盛を益々期することが
 - 第7巻 p.81 -ページ画像 
出来得る訳でありませう、今夕の如く大蔵大臣、次官、各局長の幸に御臨席を得まして親しく玆に談笑の間に種々意見を交換し得られるといふ機会を得ましたことは、即ち官民の間に於て事情を疏通するに最も適当なることであらうと深く喜ぶ所でありまして、即ち今後に於ては益々協同一致の実を挙げることを期し得られると思ひます、今後財政経済の調和の上に於て殊に大蔵大臣の力を要しますことが益々多く又必要になるであらうと思ひます、玆に来賓諸君、殊に大蔵大臣の御健康を祝したいと思ひます(起立乾盃)
    ○松田大蔵大臣の演説
諸君、今夕は早川会長の御厚意に依り金融界重要の地位を有する多数の諸君と食卓を共にするを得たるは時節柄特に喜を深くする所であります、由来財政と云ひ経済と云ひ、元と其始終を一にするもの、朝にあると野に在るとの別なく事に此に当る者は皆其心を同くし其喜憂を分つべきもの、唯今早川会長の演説に於て此意味を新にせられたるは拙者の甚だ満足する所であります、拙者が現職に就きたるは恰も議会開会の際であり、殊に意外の事にてもあれば爾後政務多忙を極め為めに、諸君と親しく懇談を得るの機会を少くしたるは甚だ遺憾に存する所でありました、併し他人心あり吾之を忖度す、拙者は諸君の衷心の希望を知ると同時に諸君は亦拙者が現職に対して懐抱する所信を推察しあられたることを信じたいのであります、人各々其職務に於て各々主とする所あり、現はるゝ所の形体時に異同あるは固より免がれざる所なるも、要は互に其心とする所を察して之を信ずるに在ることゝ考へます
拙者就任の時は恰も世界各国が米国経済界動揺の影響を受けつゝある最中であり、銀価低落の影響亦之れに加はりて各国共に容易ならざる苦痛を感じましたが此影響を受くる国自身の情態に依り固より其苦痛の度を異にする訳であります、併し各国共に各々自ら必要なる自衛手段を講じ、堅忍持久以て克く自ら助け世界の市場漸次回復に向ひつゝあるは内外の同慶とする所であります、我国は亦我国特別の事情を有することは諸君御承知の通り、為に我れの受くる苦痛は或は最も深甚なるものゝ一に居ることゝ思はる、原因は今日特更《(殊)》に之を言ふを須たず、即ち止を得ざるの形勢の然らしむる所、朝野共に其憂を分つべきことゝ考へます、原因は既に明白なれば此れに処するの法亦自ら明白であります、一言すれば節制と整理、而して朝野各方面共に其の本然の能力を尽し忍耐堅固以て我財政経済発達の基礎を一層鞏固ならしむるの一事に在ることゝ信じます、固より方法には根本的なるものと一時的なるものとあるも共に忽にすべからざるは言ふまでもなく、事の行はるゝには順序を要し又機会を要するものあることは亦吾人の共に諒知すべきことゝ考へます、幸にして昨今の金融情況を察するに幾分良好に向ひつゝあるの兆候あり、此れ全く一般の自助的奮発と諸君の努力との賜にして拙者の衷心慶賀に堪えざる所であります、斯の方針を執て渝らずんば四囲の不利益なる事情亦続すべきものにあらざれば今後の事強ち憂ふるに及ばざることゝ考へます
諸君、拙者は今夕諸君と朝野同憂の言を共にするを得たるを謝し、杯
 - 第7巻 p.82 -ページ画像 
を挙げて会長並に会員諸君の健康を祝します


竜門雑誌 第二四〇号・第一―三頁〔明治四一年五月二五日〕 ○銀行倶楽部晩餐会に於ける演説(青淵先生)(DK070011k-0004)
第7巻 p.82-83 ページ画像

竜門雑誌  第二四〇号・第一―三頁〔明治四一年五月二五日〕
    ○銀行倶楽部晩餐会に於ける演説(青淵先生)
  銀行倶楽部にては本月十六日午後七時晩餐会を開き、当日は松田大蔵大臣、水町同次官以下大蔵省各局長招待に依りて出席し、且つ国債調査に関する大阪・京都及横浜各交換所の委員も上京中を幸ひ其序に列して近頃見ざる盛会なりしが、食後委員長早川千吉郎氏の挨拶に次ぎて松田大蔵大臣の演説あり、同大臣は財政と経済との調和の必要を論じて朝野其心を同うし其喜憂を別ち其運命を共にせざるべからざることを説き、米国経済界恐慌の余響も朝野各方面の尽力に依て之を処理するを得べく、又我国経済界の状況も次第に回復に向はんとする気運に向ひつゝあり、財政の鞏固も亦之を保ち得べしと論ぜしが、之に対して青淵先生は会員一同を代表して挨拶旁々左の如く演説を為されたり
大蔵大臣閣下及大蔵省の諸各位並に会員諸氏、今夕の晩餐会は鄭重の御催しで大蔵大臣・次官・各局長の尊臨を請ひましたのは時節柄最も吾々が委員長の御厚配を謝する次第であります、殊に御多忙の大臣・次官・各局長御打揃ひで此晩餐会に尊臨を下さいましたのは会員一同有難く感謝致しまする、唯今大臣より財政と経済と務て相調和し或は聯絡し、駢び走せ共に進むやうにしなければならぬ、今日此処に尊臨を賜つて吾々実際其間に従事する者と均しく会し共に語るは此上もなく喜ぶ所である、現在は勿論未来も益調和し、共に胸襟を披いて此帝国の財政経済をして堅固に発達を図るやうに致したいといふ懇切な御趣意は、吾々誠に御尤千万辱く感謝致しまする、唯其御言葉の中に頗る財政の鞏固を仰せられたことは、如何にも左様でありましたならば吾々共此上もなく喜びまするが、若し吾々共の世間の物議の如く考へますると、或は其処までにまだ言ひ得られぬことではないかと多少の懸念を持つたのでありまする(拍手喝采)
併しながら大臣がさう懸念するに及ばぬと仰せられたのは殆ど吾々共が雲霧を掃つて日光の輝くを見るやうな感がして頗る喜ばしうございますけれども、併し凡そ財界の事物は唯うわの空のみに安んずる訳にはまゐりませぬで、定めて是れから先追々に左様の事実を拝見し得ることが出来るであらうと期待致すのでございまする、けれども時節柄兎角経済界に於ては種々なる懸念説を唱へて既に大臣閣下へも或方面から頻に彼此れと陳情を致し、又求めたといふことを新聞紙其他で承知仕りまする、或る点から云へば随分困つたものだといふやうな物議なきにしもあらずでございます、併し是は決して怪しむに足らぬと思ふのでございます、古人の言葉にも凡そ物其平を得ざれば鳴るといふことがございます、即ち今日の経済界に種々なる声の多いのは多少平を失つて居ると云ふことは事実であらうかと私は考へるのでございます、故に此平を失へば必ずや其声を発する、其発する声を能く鳴らせるやうに致したいのであります、どうぞ悪く鳴らせぬようにするのが即ち為政家の御心懸又御手腕であらうと思ふのでございまする、詰り其鳴るや平調に帰したいと求めて鳴るに相違ないのでありますから、其鳴る原因を能く察し其音の出所を審にして而して其宜しきを制するやうに致したらば、其鳴りや即ち能く鳴るのであつて決して鳴り音が
 - 第7巻 p.83 -ページ画像 
世間を騒がし物を害することなく鳴りを和げることが出来るであらうと思ふのであります(拍手)唯今大臣は同喜同憂の位地に居りたいと仰せられましたが、如何にも同憂は吾々持ちまするが同喜は今日迄に十分に得られませぬ、此先吾々共が務めて此鳴りを鎮めることを尽力致しまするが亦政治上からも大臣の御手腕とし又御経営として十分に其事を御尽し下すつて而して始めて同喜同憂の位地に到りたいと希望するのであります、既に言論も開けて居り、亦上意も通じて居る聖代ではございますけれども、動もすると如何にも通ずるが如くにして疏隔するのは財政と経済の間柄でございますれば今夕の如く御互の存じ寄りは腹蔵なく談じ合ひ、又閣下の思ふ所を十分に承はるといふのが即ち最も能く上意の通ずる手段と考へますから、独り今日に止まらず此の如く向後にまで上意の通ずることを希望して止まぬのでございます果して然らば真正なる同喜同憂の位地に達するであらうと考へます、玆に尊臨を辱ふ致しましたるを陳謝すると共に一言を申上げまする