デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

2章 交通
2節 鉄道
20款 九州鉄道株式会社
■綱文

第9巻 p.303-307(DK090028k) ページ画像

明治36年4月21日(1903年)

是ヨリ先、九州鉄道鉄道会社株主ノ一部ニ山陽鉄道株式会社トノ合併ヲハカリ臨時株主総会ヲ要求スルモノアリ、会社重役ハ之ニ反対シテ粉擾ヲ見ントス、是日栄一岩崎弥之助ト連名ニテ株主ニ合併反対ノ意見ヲ通告ス。後五月九日右ノ要求撤回セラレテ止ム。


■資料

九鉄二十年史 第一九頁(DK090028k-0001)
第9巻 p.303 ページ画像

九鉄二十年史 第一九頁
翌三十六年四月十二日今西林三郎外二百二十八名の株主より、九州山陽両鉄道合併の件に関し、臨時株主総会開設の請求あり、本社は之に応して同五月十二日本社に於て臨時株主総会開会の旨を各株主に通知したるに、五月九日付を以て請求書あ《(よ)》り之れか撤回を申込み来れり


東京経済雑誌 第四七巻第一一八〇号・第七五三―七五四頁〔明治三六年四月二五日〕 ○九鉄重役会の合併反対書(DK090028k-0002)
第9巻 p.303-305 ページ画像

東京経済雑誌 第四七巻第一一八〇号・第七五三―七五四頁〔明治三六年四月二五日〕
○九鉄重役会の合併反対書 近来経済界の呼物たる山陽九州両鉄道合併問題は其後可否の議論紛々として捕捉するに由なかりしが、過日九州鉄道重役会に於て決議せる反対理由は大勢の非合併に帰したるを見るべし、而して同会の発表せる趣意なるものは即ち左の如し
 伯爵有馬頼万外二百二十七名代理株主今西林三郎氏より九州鉄道と山陽鉄道とを合併するの件を決議する為め臨時総会の招集を請求せられたるに依り、明治三十六年四月十二日門司本社に於て社長仙石貢、取締役松本重太郎・同原六郎・同伊庭貞剛・同片岡直輝・同安川敬一郎・監査役住江常雄・同伊丹弥太郎会合して協議を為したる上、該合併案の主意を実行するは九州鉄道株主の利益の為めに未だ其時機に非らざるものと認むる旨満場一致を以て決定したるに付、其要領を左に開陳し、株主各位の御参考に供す
 - 第9巻 p.304 -ページ画像 
概して小鉄道を合併して其経営を統一するの利益あるは勿論の事にして、当会社が明治三十年以来諸多の鉄道を合同したる如きも其亦趣旨を実行したる外ならず、然れども合同を実行するには宣しく相互鉄道の真価を対比し、充分に公平なる条件を定め得るの時機に於て之を為すに非されば、一方株主の為めに偏頗なる結果を生ずるなきを保せず、是れ最も慎重に考究すべき点なりと信ず、然るに今回吾社一部株主の要望せらるゝ如く実際吾社鉄道と山陽鉄道とを合併するは決して其時機を得たるものにあらざるは明白なりとす、抑も線社《(マヽ)》が是迄幾多の小鉄道を合併買収して僅かに一段落を付けたるが如しと雖ども、其経営の統一を完成したるものにあらず、且既に線路の各方面に巨額の資本を投じたるも未だ所定工事の竣功に至らざるもの少なからず、随つて現今に在ては新設備より十分なる収利を見る能はず、又客貨輸送に対する設備の如きも公衆に対し満足を与ふる能はざるは、畢竟各種設備の未だ完成せざるか、若しくは僅かに成るも未だ果実を結ぶに至らざるに因らずんばあらず、今より数年の後是等の設備改良にして各其所期の効力を発揮するに至れば、吾社営業全体の収利上に数段進歩の実を表彰し得るに至るべきは毫も疑を容れざるなり、今其梗概を左に記せん
唐津線 は金百四十五万円にて買収したるも、未だ幹線と接続するに至らざるが為め既に投じたる資本に対する収利は僅に一ケ年三四分に過ぎざる現況なれども、本年々末迄に予定の如く幹線との連絡を開通したるときは、其利益の割合は幹線と径庭なきに至るべし
長崎線 は数年前既に竣功したるも、其終端長崎停車場は長崎市街と相距る遠きを以て海陸連絡上其不便甚しきに依り、吾社は巨額の資本を投じ、長崎市港湾改良事業に伴ひ線路を延長して同市出島に至るの計画を為しつゝあるも未だ全く竣成せず、僅に仮線に依り数日前より石炭のみの輸送を始めたりしが、普通貸物《(貨)》の輸送をも開始すべきの懇望切なる次第なれば、之に対する設備を為し、尚ほ進んで新停車場全部を完成したる暁には、長崎線全体に対する収益を著しく増加するや明なり
筑豊線 の石炭輸送は目下炭況の不振なるに拘はらず日々八千噸乃至九千噸を輸送しつつあるも、尚ほ各炭坑に対し十分送炭の便利を与ふる能はざるは、畢竟若松停車場に於ける荷卸の設備未だ完備せざるに因れり、故に吾社は此頃新たに桟橋を設備して更に一日三四千噸の送炭を増加し、其荷卸に支障なきに至りたれば、自今全線の収益を大に増加すべきは勿論なり
戸畑線 は去年十二月開通したるも、現今八幡製鉄所の事業一部休止の為め未だ予想したる営業収入を挙ぐる能はざるも、是れ一時の蹉躓に過ぎざるべし、又目下建設中にかゝる戸畑貨物停車場の如きは巨万の工費を以て計画しつゝあり、其竣功に至れば更に一日石炭一万噸の荷卸を為すは容易の事なるべし、随つて今日各炭坑主が訴へ居る荷卸の不便を除き得て益運炭額を増加せしめたらんには、筑豊・豊州両線の全体に対して著しく収益を増加すべきは瞭然たり
佐世保鎮守府 に於ては曩に其構内に鉄道を布設せられ吾社佐世保
 - 第9巻 p.305 -ページ画像 
停車場と接続して従来海路輸送せる海軍御用炭の輸送を始めたり、之れ将来吾社の為めに有望なる利源なりとす
其他未成工事 にして既に著手し数年内に竣工すべきは博多篠栗間支線、遠賀川室木間支線、方城炭坑支線、菅牟田炭坑支線、長尾線延長大分支線、第二大任炭坑支線、平山炭坑支線、中間木屋瀬間支線、川崎添田間支線等にして其送炭量は少くも合計一日約七千噸にして、之れに対する一ケ年運賃合計は金二百二十万円を下らざるべし
鹿児島官線 竣工して吾社八代駅と連絡するは今日より両三年を出でざるべし、該線は吾社線の為めに必ず顕著なる涵養を為すべきは何人も疑はざるべし
以上は教年以内《(数)》に吾社営業上新たに利源となるべき事項の概要にして、向後三ケ年間に於ける純益を計算せば左の如し
 明治三十六年度 資本金全額に対する純益八分五厘
 明治三十七年度 同上九分一厘
 明治三十八年度 同上九分一厘
是に由て之を観れば、吾社に於て目下計画しつゝある幾多重要なる設備の未だ完成せざる時なれば、九州鉄道の真価は今日何人も之を確知するを得ず、特に当半期の営業成績の如きは連年九州地方経済界不振の余を受けて、既往年間の平均額に達せざる場合なれは、此際吾鉄道と他鉄道との合併交渉を開始せんとするが如きは株主の為めに甚だ不利益なりとす、孰れの点より考ふるも今回一部株主の主唱に係る合併提案は、吾社株主の為めに之を否決せざる可らずと信ずる者なり


東京経済雑誌 第四七巻第一一八一号・第八〇二頁〔明治三六年五月二日〕 ○九鉄山陽合併反対意見(DK090028k-0003)
第9巻 p.305-306 ページ画像

東京経済雑誌 第四七巻第一一八一号・第八〇二頁〔明治三六年五月二日〕
○九鉄山陽合併反対意見 九州鉄道会社株主の一部より山陽鉄道に合併せんとして尚臨時総会を請求し目下頻に運動を試みつゝあるが、其大株主中岩崎・渋沢の両男爵は合同の時機早く、且斯る重要問題を突然提出して急速に決議せんとするが如きは其理由を知るに苦しむるのみならず株主と重役との意見衝突して紛擾を醸すは寧ろ九州鉄道会社の不利益に帰し、延て経済界の静謐を害するの虞ありとし、遂に左の如き反対の意見を縷陳して各株主に告知する所ありし由
 拝啓、益御清適可被成御座慶賀之至に候、陳は頃日山陽九州鉄道合併の企望を以て九州鉄道会社株主中の有志者より其要項を記載して株主臨時総会の事を会社の当局者に請求せられ、会社の当局者は此請求に対し審議の末時機尚早の意見を以て其趣意書を発表せられ、両説共に御同様一覧仕候義に御座候、就而愚考致候に元来各種の事業小より大に至り、分立より合同に進候は自然の順序にして尤も企望すべき次第に付、拙生等も其大躰に於ては素より同意之事に候へ共、今山陽九州両鉄道合併の如きは我邦経済界之重要事件とも可申義に付、勉而慎重之態度を以て時機の熟否を察知し、先以て両会社の当局者間に周密協商を経るにあらざれば円満の成功を期すべからざるは覩易きの道理と存候、然るに今回本問題を提出せられたる有
 - 第9巻 p.306 -ページ画像 
志者諸氏は単に一片の要旨を記載して突然一般株主に頒布し、其臨時総会を以て之を決議し、然る後他に協商致す見込と相見へ其方法何分適隠切当《(穏)》とは認め兼候義に御座候、要するに本問題に帰着する処は両鉄道の合同今日に於て其時機なるや否に有之候、此点に就て九州鉄道会社当局者より発表せられたる趣旨は拙生等の意を得たるものにて、山陽鉄道会社側の意向も亦大差なきものと相信し居候、左れば此際斯の如き重要問題を提出し急速の決議を請求するの理由は毫も無之事と存候、不幸にして此提案に付て株主と当局者との間に意見の衝突にても引起し候様之義有之候はゝ、合併之事行はれざるのみならず其極九州鉄道会社の不利益とも相成可申と杞憂之至に候、就ては幸に拙生等之愚見に御同感に候はゞ同一之方針を執られ会社当局者之趣旨に御賛同被成下度企望之至りに候、是れ独り九州鉄道会社之為めのみならず、我邦経済界之静謐を維持するものと奉存候、敢て呈一書煩御一読候 匆々敬具
  四月二十一日              渋沢栄一
                      岩崎弥之助


東京経済雑誌 第四七巻第一一八四号・第九四八―九四九頁〔明治三六年五月二三日〕 ○九鉄改善期成同志会(DK090028k-0004)
第9巻 p.306-307 ページ画像

東京経済雑誌 第四七巻第一一八四号・第九四八―九四九頁〔明治三六年五月二三日〕
    ○九鉄改善期成同志会
過般来世上の一問題たりし九鉄山陽合併不調の結果、九鉄株主有志者は此際大奮発を為し改善の実を挙げんとし、九鉄改善期成同志会なるものを組織して趣旨書を発表せり、今其重なる条項を掲記せんに
営利会社の利益を増す方法三あり(一)は収入の増加(二)は経費の減少(三)は資本の経済的使用即ち是なり、然るに九州鉄道会社近年の営業実況は不幸にして以上三者の孰れにも反対の傾向を示し、益々此傾向を増長せんとしつつあり、即ち
第一 九鉄の収入を以て他社に比較するに於ては稍や勝りたる所ありと雖も、這は畢竟沿道各地貨客の豊富、線路状況の致す所即ち全く他動的発達に外ならずして当局者労務の賜にあらざるや明けし、是れ会社の営業不振に対する世評の既に一致する所なり
第二 経費の減少に至つては最も著るしき反対の結果を見る、現社長は常に鉄道の経費は収入の五割を至当とすと公言せるに拘はらず、他社は則ち四割五分乃至三割五分以上なるに非ずや、是同社の冗費多端なる所以にして特に吾等の喋々を要せず
第三 資本の使用方法に至ては殆んど言語同断たり、看よ連年の報告書を、資本即ち興業費なるもの毎期幾許かの増加を見ざる事なし、其最も顕著なる証拠は三十二年井上伯爵、仲裁報告書に本線二百六十九哩は一哩五万七千三百十円、筑豊線四十一哩四十一鎖は七万八千百三円、金田線二万五千七百万円《(衍)》とありしもの今日は一哩平均十万円以上となり、僅々四箇年を出でずして四割以上の増加となれり、又三十五年下半季の報告書中小倉、戸畑、黒崎間八哩六十二鎖の興業費を看よ、百六十四万三千五百九十八円余にして実に一哩十八万八千九百余円に当れり、加之彼の六百万円の社債を募集し之を既設線路に投入消費する時は尚一層の膨脹を来
 - 第9巻 p.307 -ページ画像 
すべきは明白なり


日本鉄道史 中篇・第四一一頁〔大正一〇年八月〕(DK090028k-0005)
第9巻 p.307 ページ画像

日本鉄道史 中篇・第四一一頁〔大正一〇年八月〕
三十六年四月十二日九州、山陽両鉄道合併ノコトニ関シ、株主今西林三郎外二百二十八名ヨリ臨時株主総会ノ開会ヲ請求シタルニ由リ、五月十二日ヲ以テ総会ノ開会ヲ通告シタリシカ同月九日請求者之カ撤回ヲ申出タルニ由リ開会ヲ取消シタリ


渋沢栄一 日記 明治三六年(DK090028k-0006)
第9巻 p.307 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治三六年
五月廿五日 晴
○上略 岩崎男爵来リテ九州鉄道ノコトヲ談ス