デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

2章 交通
2節 鉄道
29款 鉄道国有問題
■綱文

第9巻 p.579-630(DK090060k) ページ画像

明治39年2月27日(1906年)

是ヨリ先、侯爵西園寺公望内閣ヲ組織シ第二十二回帝国議会ニ臨ムヤ鉄道国有法案ヲ提出スルノ意アリ。栄一、是日首相ト会見シ鉄道国有ニ関スル意見ヲ述ブ。爾後屡々首相及ビ阪谷蔵相ト討議セシノミナラズ伯爵井上馨・豊川良平・園田孝吉等トモ会合シ対策ヲ協議ス。三月二十七日議会該法案ヲ可決シ、同月三十日鉄道国有法公布セラル。


■資料

渋沢栄一 日記 明治三九年(DK090060k-0001)
第9巻 p.579-580 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治三九年
二月六日 晴 軽暖 起床七時就蓐十二時
○上略十時過兜町事務所ニ抵リ、矢野由次郎来リテ鉄道国有ニ関スル意見ノ問ニ答フ○下略
二月二十四日 曇 風ナシ 起床八時就蓐三時
起床後書斎ニ於テ日誌ヲ整理シ新聞紙ヲ一覧ス、九時朝飧ヲ為シ、十時阪谷芳郎ヲ官舎ニ訪ヒ鉄道国有ニ関スル得失ヲ談話ス、十二時第一銀行ニ抵リ午餐ス○下略
二月二十七日 雨 寒 起床八時三十分就蓐十二時
起床後直ニ朝飧ヲ喫ス、長崎氏ヨリ英国皇族ノコトニ関シ電話来ル、十時半東京海上保険会社ニ抵リ重役会ニ出席ス、畢テ十二時西園寺総理大臣ヲ官邸ニ訪ヒ、鉄道国有ニ関スル利害ヲ討議ス、午飧後迄種々ノ談話ヲ為シ、午後二時日本興業銀行株主総会ニ出席ス○中略午後五時
 - 第9巻 p.580 -ページ画像 
築地瓢屋ニ抵リ、井上伯・豊川良平氏ト会シ鉄道国有ニ関スル談話ヲ為ス、夜食後再ヒ事務所ニ抵リ、同族会ヲ開キ決算ノコトヲ承認シ議事ヲ決ス○下略
二月二十八日 雨 寒 起床七時就蓐十一時三十分
○上略正午銀行集会所ニ抵リ、園田・早川・豊川・池田諸氏ト臨時事件公債ノコトヲ協議ス○下略
三月一日 晴 風 起床七時就蓐十二時
○上略午後六時西園寺総理大臣ヲ官邸ニ訪ヒ同業者来会ス、鉄道国有ニ関スル談話アリ、共ニ夜飧ヲ為シ食後モ種々ノ談話アリ、夜十一時帰宿ス
三月二日 晴 風ナシ 起床六時三十分就蓐一時三十分
○上略午前十一時三井集会所ニ抵リ大阪・四日市等ノ紡績会社ヘ書状ヲ裁ス、十一時半井上伯及園田・豊川・早川・安田・池田・相馬・馬越ノ諸氏来会シ、鉄道国有ニ関スル要件ヲ談ス、政府ヘ提出スヘキ覚書ヲ作リ、募債ニ関シテノ申合ヲ為ス○下略
三月七日 晴 風寒シ 起床八時就蓐十二時
○上略正午銀行倶楽部ニ抵リテ午飧ス、園田・早川・豊川・池田其他ノ人々ト曾テ其筋ニ書面ヲ出セシ鉄道国有ノ件及銀行条例改正ノ件ヲ協議ス○下略
三月八日 晴 風寒シ 起床七時就蓐十一時三十分
○上略麻布ニ井上伯ヲ訪ヒ昨日同業者ト協議セシ顛末ヲ報告シ、爾後ノ手続ヲ協議ス○下略
三月九日 晴 風ナシ 起床六時二十分
○上略午前十一時貴族院ニ抵リ、西園寺総理大臣ニ面会シテ鉄道国有ニ関シ公債証書発行ノ時期ヲ談話ス、阪谷大蔵・山県逓信共ニ之ヲ談ス○下略
三月十日 曇 風 起床六時三十分就蓐十二時
起床後井上伯ニ電話ヲ通シ、七時朝飧畢テ書類ヲ一覧ス、九時井上伯ヲ訪ヒ、昨日総理大臣其他ノ大臣ト会見ノコトヲ報告ス○下略


官報 第六八二三号〔明治三九年三月三一日〕 ○法律(DK090060k-0002)
第9巻 p.580-583 ページ画像

官報 第六八二三号〔明治三九年三月三一日〕
  ○法律
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル鉄道国有法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
  御名御璽
   明治三十九年三月三十日
            内閣総理大臣   侯爵 西園寺公望
            陸軍大臣        寺内正毅
            大蔵大臣   法学博士 阪谷芳郎
            逓信大臣        山県伊三郎
法律第十七号
    鉄道国有法
 第一条 一般運送ノ用ニ供スル鉄道ハ総テ国ノ所有トス但シ一地方ノ交通ヲ目的トスル鉄道ハ此ノ限ニ在ラス
 - 第9巻 p.581 -ページ画像 
第二条 政府ハ明治三十九年ヨリ明治四十八年迄ノ間ニ於テ本法ノ規定ニ依リ左ニ掲クル私設鉄道株式会社所属ノ鉄道ヲ買収スヘシ
 一 北海道炭砿鉄道株式会社
 一 北海道鉄道株式会社
 一 日本鉄道株式会社
 一 岩越鉄道株式会社
 一 北越鉄道株式会社
 一 甲武鉄道株式会社
 一 総武鉄道株式会社
 一 房総鉄道株式会社
 一 七尾鉄道株式会社
 一 関西鉄道株式会社
 一 参宮鉄道株式会社
 一 京都鉄道株式会社
 一 西成鉄道株式会社
 一 阪鶴鉄道株式会社
 一 山陽鉄道株式会社
 一 徳島鉄道株式会社
 一 九州鉄道株式会社
 前項ニ掲ケタル各会社ハ他ノ私設鉄道株式会社ト合併シ又ハ他ノ私設鉄道株式会社ノ鉄道ヲ買収スルコトヲ得ス
第三条 前条ニ掲ケタル各鉄道買収ノ期日ハ政府ニ於テ之ヲ指定ス
第四条 政府ハ兼業ニ属スルモノヲ除クノ外買収ノ日ニ於テ会社ノ現ニ有スル権利義務ヲ承継ス但シ会社ノ株主ニ対スル権利義務払込株金ノ支出残額並収益勘定積立金勘定及雑勘定ニ属スルモノハ此ノ限ニ在ラス
第五条 買収価額ハ左ニ掲クルモノトス
 一 会社ノ明治三十五年後半期乃至明治三十八年前半期ノ六営業年度間ニ於ケル建設費ニ対スル益金ノ平均割合ヲ買収ノ日ニ於ケル建設費ニ乗シタル額ヲ二十倍シタル金額
 二 貯蔵物品ノ実費ヲ時価ニ依リ公債券面金額ニ換算シタル金額但シ借入金ヲ以テ購入シタルモノヲ除ク
 前項第一号ニ於テ益金ト称スルハ営業収入ヨリ営業費賞与金及収益勘定以外ノ諸勘定ヨリ生シタル利息ヲ控除シタルモノヲ謂ヒ益金ノ平均割合ト称スルハ明治三十五年後半期乃至明治三十八年前半期ノ毎営業年度ニ於ケル建設費合計ヲ以テ同期間ニ於ケル益金ノ合計ヲ除シタルモノノ二倍ヲ謂フ
第六条 借入金ハ建設費ニ使用シタルモノニ限リ時価ニ依リ公債券面金額ニ換算シ買収価額ヨリ之ヲ控除ス
 会社カ鉄道及附属物件ノ補修ヲ為サス又ハ鉄道建設規程ニ依リ期限内ニ改築若ハ改造ヲ為ササル場合ニ於テハ其ノ補修改築又ハ改造ニ要スル金額ハ前項ノ例ニ依リ買収価額ヨリ之ヲ控除ス
第七条 資本勘定ニ属スル支出ハ借入金ヲ以テシタルモノヲ除クノ外順次ニ建設費及貯蔵物品ニ対シ之ヲ為シタルモノト看做ス
 - 第9巻 p.582 -ページ画像 
 借入金ノ支出ハ前項ノ支出ノ後ニ之ヲ為シタルモノト看做ス
第八条 会社カ明治三十八年前半期ノ営業年度末ニ於テ運輸開始後六営業年度ヲ経過シタル線路ヲ有セサル場合又ハ第五条第一項第一号ノ金額カ建設費ニ達セサル場合ニ於テハ政府ハ其ノ建設費以内ニ於テ協定シタル金額ヲ以テ第五条第一項第一号ノ金額ニ代フ
第九条 左ニ掲クル場合ニ於テハ政府ハ審査委員ヲシテ決定ヲ為サシムヘシ
 一 権利義務ノ承継ニ関シ又ハ計算ニ関シ会社ニ於テ異議アルトキ
 二 前条ノ場合ニ於テ協定調ハサルトキ
 審査委員ノ決定ニ対シ不服アルトキハ会社ハ主務大臣ニ訴願ヲ為スコトヲ得
 審査委員ニ関スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十条 買収ノ執行ハ審査委員ノ審査中ト雖之ヲ停止セス
第十一条 会社カ買収ニ因リテ解散シタルトキハ主務大臣ハ解散ノ登記ヲ登記所ニ嘱託スベシ
第十二条 買収代価ハ買収ノ日ヨリ五箇年以内ニ於テ券面金額ニ依リ五分利付公債証書ヲ以テ之ヲ交付ス但シ五拾円未満ノ端数ハ之ヲ五拾円トス
 会社残余財産ノ分配ハ前項公債証書ヲ以テス
 買収後公債証書ノ交付ヲ終ル迄ニ要スル清算人ノ職務ニ関スル会社ノ費用ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府之ヲ支弁ス
第十三条 政府ハ買収ノ日ヨリ公債証書交付ノ日ニ至ル迄買収価額ニ対シ一箇年百分ノ五ノ割合ニ相当スル金額ヲ従前ノ決算期毎ニ会社ニ交付スヘシ
 前項ニ依リ交付シタル金額ハ清算中ト雖主務大臣ノ認可ヲ受ケ之ヲ株主ニ配当スルコトヲ得
第十四条 政府ハ鉄道買収ノ執行ニ必要ナル額ヲ限度トシ公債ヲ発行ス
第十五条 政府ハ前条ニ依リ発行シタル公債及第四条ニ依リ承継シタル債務ノ整理ニ必要ナル額ヲ限度トシ公債ヲ発行スルコトヲ得前項ノ場合ニ於テ利率募集ノ方法規約据置年限及償還年限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六条 前二条ノ公債ニ関シテハ本法ニ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外整理公債条例ヲ適用ス
第十七条 第五条第一項第二号及第六条ニ規定シタル公債時価ハ買収期日前六箇月間ニ於ケル帝国五分利公債ノ平均相場ニ依ル
 前項平均相場ハ日本銀行ノ証明ニ依リ政府之ヲ定ム
第十八条 買収ヲ受クヘキ会社カ兼業ヲ営ム場合ニ於テハ其ノ兼業ニ属スル資産ヲ併セテ買収スルコトヲ得
 前項ノ場合ニ於テ買収価額ハ協定ニ依ル
 第九条乃至第十六条ノ規定ハ本条ノ場合ニ之ヲ準用ス
   附則
第二条ニ掲クル会社ノ本法発布以後ニ於ケル貯蔵物品ノ購入建設費
 - 第9巻 p.583 -ページ画像 
ノ増減及債務ノ負担ニ付テハ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
前項ノ認可ヲ受ケサルモノニ付テハ政府之ヲ承継セス但シ政府ハ其ノ額ヲ査定シ又ハ相当ノ補償ヲ徴シテ之ヲ承継スルコトヲ得


竜門雑誌 第二一三号・第六―八頁〔明治三九年二月二五日〕 ○青淵先生の鉄道国有談(DK090060k-0003)
第9巻 p.583-584 ページ画像

竜門雑誌 第二一三号・第六―八頁〔明治三九年二月二五日〕
    ○青淵先生の鉄道国有談
 本編は青淵先生が時事新報記者に談話せられたるものにして、二月十日の同新聞より転載せり
鉄道国有の事柄は実に久しい問題で、私も度々意見を徴された事がある、併し私は最初から国有論に同意を表さなかつた、其表さない理由は凡そ政府が総ての事業を専売の形に一手に取扱ふと云ふことは或点に於ては便利であるけれども、多くは所謂官の権利を濫用して例へば乗客を圧迫するとか、国民の便否に充分注意せぬとか、或は繁文褥礼の弊を生ずるとか、入費が多く掛るとか、種々なる弊害必ず生じはせぬか、総て事業と云ふものは競争と云ふことが世の便益と改良とを産み出すもので、総ての進歩は競争より外ないものであるから、此鉄道をして国有たらしむる利益も勿論数へられるけれども、其弊害は将来に恐るべきものであると云うことを憂慮して私共は反対したのであります、殆ど明治二十年頃から鉄道を国有にすることは軍事上甚だ必要であると云ふて、或る元帥のお方が頻りに主張された時に、私は大いに反対説を唱へて大変に忌諱に触れたことがあつた位です
爾来国有論は或は起り或は止み、幾度か議論の花を咲かせたが、昨年あたりの有様を見ると前内閣は是非とも鉄道を国有にせんければならぬと云つて総ての閣員が相一致して現内閣に引継がれたと斯う聞えます、畢竟今日の内閣の意見は最初私共が懸念した点は無いでせうけれども、一は戦後経営即ち国の発達を謀るにはドウしても商工業品の運賃等に大いに注意を加へて便益を謀らなければならぬ、例へば重なる輸出品を奨励するには其運賃を安くせんければならぬとか、或は工業の原動力となるべき石炭抔には成たけ便利を与へ、運送の費用を安くして供給せねばならぬ、如何に政府が監督権を有して居つても私設の営利会社に在りては中々政府の命令通りに言ふことを肯かぬ、斯くては満足なる効果を挙ぐることが出来ぬ、寧ろ其れよりは国有にした方が宜かろうと云ふことも今日国有論の重なる理由のやうに聞える、若し斯の如き論拠であるならば、私共も是れには同意を表せざるを得ぬ今日の場合、一意専心保護政策を執り、外国の物品は総て入れぬ、又自国の物品はドンナ粗悪の物でも保護を与へて輸出するが宜いと云ふ程にまで極論はせぬが、併し只其自由貿易と云ふ議論にのみ拘泥することも出来ぬ、此場合少しく輸入に注意し、同じ割合なれば内地の生産品を使ひ、又或は多少試験費抔の損失があらうとも政策上租税若くは其他の補助を与へて之を補ひ、我生産品を奨励して而して輸入を防ぎ併せて輸出品には前に申す如く運賃其他の便宜を与へて輸出を増すと云ふことに努めなければ、殆ど十数年以来の輸出入のバランスの喰違ひは如何にして之を補ふことが出来ませうか、若し現状の儘にて推移せんには極論すれば遂に国家は殆ど不換紙幣ばかりになツて仕舞ひ
 - 第9巻 p.584 -ページ画像 
はせぬかを虞れざるを得ぬ、尤も経済の原則として外国から借金して居る間は輸入超過は免かれぬ、併し其根源を絶てば自ら貿易はバランスを得るやうになるではないか、其れを顧みず保護政策に依て貿易のバランスを合せやうと云ふのは政策の可なるものでないと云ふ、其道理は経済原則としては余り非難は出来ぬでせうけれども、併し現に独逸或は亜米利加でもソウ云ふ学者も相当にあらうけれども、矢張自国の産物を成たけ多く外国に輸出すると同時に成たけ輸入を防ぐと云ふ政策が、論より証拠現に両国の富を造りつゝある所を見れば、英吉利の如き国柄のみを我々が手本にして其他の国は手本にせぬと云ふ考は蓋し思案の到らぬものではないか、現に今日の日本の状態は決して英国を模範とすべき時機ではなからうと思ふ、現政府が若し鉄道政策に依て輸出入抔の上に注意を加へ国力を増進すると云ふ見地から鉄道国有を主張するものなれば止むを得ず、自分等も最初は反対した政策であるけれども今日の場合或は同意せざるを得ぬかと思ふ、但し前に申す通りの弊害は仮令左様の理由であツても屹度免かれまいと思ふ、御覧なさい、政府ならざるも一人一己で占有して居る事業でも、モノポリーになると段々我儘が強くなツて一般に妨害を与へつゝあると云ふ例は現に眼前に歴々と見えて居る、鉄道事業にあれ、其他の事業にあれ、今日他に競争者がないと云ふ事業に於ては土台の勉強心が廃れて改良とか進歩とか云ふ精心も自ら滅却して仕舞ふ、左すれば一方に利益はあるにもせよ、若し私が今述べた如き弊害が伴ふものとすれば、其利益をば抹殺して却て差引弊害が残ると云ふ場合に立到らぬとも云へぬ、若し今日鉄道が国有に為るとすれば、其弊害の強き点に対しては或は世の耳目たる新聞紙とか若くは政事の監督を為すべき議会等が其弊害の在る所を指摘して着々改良せしむるの手段を執り、政府も亦ソウ云ふ場合には胸襟を披いて其説を容れ、モノポリーより生ずる弊害を洗滌するやうに努力して貰ひたい、其買上の方法を如何にするか要するに株券が債券に代る迄の事であるから金融上には変化はあるまいと思ふのです


日本鉄道史 中篇・第八一四―八五〇頁〔大正一〇年八月〕(DK090060k-0004)
第9巻 p.584-593 ページ画像

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東京経済雑誌 第五三巻第一三二五号・第二八〇―二八一頁〔明治三九年二月二四日〕 鉄道の買収価格に就て(日本鉄道会社専務取締役久米良作君談)(DK090060k-0005)
第9巻 p.593-595 ページ画像

東京経済雑誌 第五三巻第一三二五号・第二八〇―二八一頁〔明治三九年二月二四日〕
    鉄道の買収価格に就て(日本鉄道会社専務取締役久米良作君談)
今回政府が大小鉄道を統一せんとするに就て、予輩は素より何等の異議を懐く者に非ず、政府が之を統一するは財政上大に得策なりとするに於ては其統一計画に対して毫も反対すべきものに非ずと信ず、然れども近く政府が議会に提出すべき鉄道国有案の内容なりとして伝ふる所の私設鉄道買収標準に就ては、予輩大に異論を挿まざるを得ざるなり、但し予輩は鉄道の当業者たるの故を以て其統一に向つて反対を叫ぶものに非ず、之を国有とする固より可なり、蓋し鉄道法によれば、私設鉄道が其一定の年限を経過する時は政府は任意に之を買収し得る権能を有するの規定あればなり、然るに政府が私設鉄道会社に賦与したる特許営業年限の未だ経過せざる間に於て、猥りに之を買収せんことを企図し、而も強制的手段に出て、私設鉄道会社の株主に対し損耗を負はしめて、其国有の目的を遂行し是を以て国家の財源を増殖せんとするが如きことあらば、予輩は鼓を鳴らして其非を攻撃せざることを得ざるなり、政府が私設鉄道買収価格を評定するに就ては、明治卅五、卅六、卅七年の三ケ年間に於ける各会社の純益を平均したる額の二十倍の価格を以て買収すべしといふ、今該標準に拠り各鉄道株の価格を附すれば実に左の如し
 日本鉄道株百十七円余、炭礦鉄道株百二十七円余、甲武鉄道株百六十六円余、参宮鉄道株百〇八円余、関西鉄道株五十八円余、九州鉄
 - 第9巻 p.594 -ページ画像 
道株九十一円余、山陽鉄道株九十五円余
政府は三ケ年間の平均利益の二十倍を以て買収すといふに当り、何故に昨三十八年分を除外せられたる乎、其理由頗る曖昧に属するなり、又明治三十五年は我国の不景気の頂点に達したる年にして、翌三十六年に至つては東亜の風雲暗澹として国民は一般に何事も手控へ勝ちなりし為め、総ての事業頗る静沈せる時なりしを以て、各鉄道会社の収益極めて減少したりしと雖も、鉄道が年々其収益の増進するは明白なる事実なりとす、然るに今回政府の国有案なりと称するものを見るに殊更に卅八年を除去して鉄道会社に取分け収益の尠少なりし其以前の三ケ年の純益の平均額を以て標準と定めたるは、是れ其株主に損耗を負はしむる者ならずや、故に予輩は敢て国有案に反対の意を表する者に非ずと雖も、其之を行ふに当り株主の利益をも犠牲に供し、政府独り利益せんとするが如きは、非道の挙措なりと謂はざるを得ず
又各私立鉄道会社が其収益金を算出するに就ては各其計算方法を異にするを以て、各会社が発表したる純益金と称する者を標準と為すは極めて杜撰の方法なりと謂ふべきなり、例へば日本鉄道会社の如きは従来補給関係と財産の鞏固を図るが為め、他の鉄道会社に比して別段の計算法に依り、其設備の如きも改善を為すこと頗る多く、且つ其改善を計るには、概ね純益金を以て支弁するか故に年々其目的の為めに支出する改良準備金の如きは極めて巨額に達せり、是れ必しも収益の増加を主眼とするに非ず、主として財産の安固改善を期するに出てたる者なり、而して他の会社にありては当然興業費として財産に編入し居るものをも営業費に決算し、若くは無代価の儘にて放擲して専ら財産の原価の低廉を図り居るを以て純益金の減少せるもの頗多し、されば是等の事実の存在する以上は単に利益金の平均額を以て買収価格の標準とするに於ては、株主たるもの誰れか之に反対せざる者あらんや
加之、政府が民業を収用するに於ては、特許営業期限に於ける事業の発達より増加し来る利益に値する代償なくして之を強奪するは苛酷不法の措置ならずとせず、即ち日本鉄道の如きは其特許年限に依れば来る明治六十五年迄営業の継続を為すことを得るを以て、将来に於て剰余する年間に於て生すべき利益の代償を、既往の利益増進率を以て之を推算すれば、非常なる巨額の算額を得可く、到底過去三ケ年間の利益の平均額を以て打切り直ちに之を売却し得るものに非ざるべし、既に過去三ケ年を見る以上は、将来も少くも三ケ年間の利益増進率を以て計算すべきは固より当然なるべし、若夫れ此の計算法に拠れば株券の買収価格は上述の推定価格の二倍に達し、日本鉄道株の如きは其買収価格凡そ二百数十円の高価に上る可きや明なり
而して政府が私設鉄道を買収するに当り、公債を発行して以て鉄道株券と交換せん乎、公債は市場に充溢して時価の下落を誘致す可きを以て、政府は相当の割引を要する事は勿論、株主の計算を為すに於ても亦其減額を見込まざる可らず、又鉄道の配当金に対しての所得税は之を会社にて支弁するものなれども、公債にありては其所有者は自ら其所得税を負担せざる可らず、且又鉄道株を以て公債に換ゆるに至らば鉄道株は悉皆市場より撤去せられ、四品取引所の市場より塩を取去り
 - 第9巻 p.595 -ページ画像 
し時の如く、株式取引所の市場は僅に郵船株、紡績株其他多くの公債証券を残留するのみにして頗る落莫なる形勢を呈するに至る可し
惟ふに政府は従来民業たりし煙草業を奪ひ、塩営業を奪ひ、今回又鉄道会社を奪ひ、其勢に乗じて酒も砂糖も皆官営となすに至らば、既に有利なる事業其跡を絶ち、民業の発達は遂に杜塞するに至る可し、国民経済の発展上是れ豈に策の得たるものならんや


東京経済雑誌 第五三巻第一三二七号・第三五三―三五七頁〔明治三九年三月一〇日〕 鉄道買収は断じて非なり(乗竹孝太郎)(DK090060k-0006)
第9巻 p.595-599 ページ画像

東京経済雑誌 第五三巻第一三二七号・第三五三―三五七頁〔明治三九年三月一〇日〕
    鉄道買収は断じて非なり (乗竹孝太郎)
西園寺内閣は終に鉄道買収法案を議会に提出したり、今や未曾有なる大戦役の後を承けて、財政の整理及び民業の発展を最も急務とするの時に当り、現内閣が如何なる藩閥内閣、如何なる蛮勇大臣にても、敢て為さゞるほどの、軽挙妄動を是れ事とし、殆ど国利民福を眼中に置かざるの状あるは、余輩国家大計の為めに謀りて、実に浩歎に堪へざるなり、又之を常識に訴へて、大に怪訝せざるを得ざるなり
鉄道買収法案理由書の冒頭に曰く、鉄道は国家自ら経営すべきものにして云々」と、嗚呼何人が之を斯く定めたるや、是れ一箇の臆断たるに過きずして、天の命令にもあらず、憲法の命令にもあらざるなり、鉄道の民有官有は各国多年来の問題なりと雖も、今日に於ては主として実利実益の上より論議せられ、官民の権義に関する純然たる理論の如きは、敢て重視せられざるなり、然るに政府の法案は、全く此の一箇の臆断に基けるものなり、而して西園寺首相の説明演説に依れば、鉄道国有を以て戦後経営の急務中の急務なりと為し、之を実行するには今日を以て逸すべからざるの好機と為せり、余輩玆に至て更に首相の詭弁に驚かざるを得ず、唯議会の多数党に盲従の形勢ある一事の外は、今日を以て実行の好機と為すべき何等の理由なきのみならず、反て其の時機を得ざること今日より甚しきはなきなり、何となれば今や我が内外の国債は非常に激増し、明治四十年度の初には、臨時事件に関する分十八億二千二百万円余、旧来の分五億七千二百万円余、合計約二十四億円の巨額に達せんとするに当り、更に鉄道買収の為めに四億乃至五億円の公債を発行するは、財政の鞏固と国債所有者の利益とを害すること甚だ大なればなり、且他日戦後の財政計画確定するの結果、尚ほ此の外にも国債の増募を必要とすることあるべく、又国民は既に過重の租税負担に呻吟しつゝあるが故に、万一臨時非常の事起るに会せば、国家は殆ど毫も財源を求むるの余地なきに至るべし、余輩は我が国力の将来に関して、決して悲観説を抱くものにあらずと雖も日露の大戦役は我が経済上に何等の悪影響をも与へざりしとは云ふこと能はず、否な其影響を蒙ること甚だ大なりしは、彼の講和談判の大屈辱を意とせざりし、所謂首脳政治家や之に雷同せる輩の最も能く了悉せる所なるにあらずや、然るに何事ぞ、此等政治家は千戈一たび擑まるや、国民に対しては放縦殆ど至らざる所なく、果ては終に鉄道買収法案をも軽々に提出し来り、黒雲を以て実業界を蔽ひ、一世の人心をして、国富を開拓し、実力を涵養するを忘れて、徒に投機攫利の末に走らしめ、民業を擾乱し、財産権を侵害し、以て戦後経営の大成を
 - 第9巻 p.596 -ページ画像 
妨碍するあらんとは、実に惑へるの甚しきものにあらずや、故に鉄道買収は不急務中の不急務にして、今日は決して之が実行を許すべからざる、最悪の時機なりとす
不換紙幣を濫発して其の価格暴落せば、凡そ紙幣を有するものは、其の暴落に応じて財産を失ふべし、是れ明白にして何人も之を疑ふものなかるべし、国債を濫発して其の価格暴落するの場合亦何ぞ之と異ならんや、銀行会社にまれ箇人団体にまれ、凡そ国債を有するものは、為めに其の財産を失はざるを得ざるなり、唯鉄道買収の場合には、国債増加する代りに鉄道株式減少するが故に、自ら其の影響を緩和するに相違なしと雖も、而かも結局国債の下落を招くべきは必然なり、米の供給如何に豊なるも、麦の供給乏ければ、米価下落せずと云ふべきか、是れ決して然らず、両物品互に其の需要者を異にすればなり、今鉄道株式の需要者は、決して悉く国債の需要者にあらざるなり、殊に国債は年々一定の利子を生ずるのみにして、事業の盛衰に従ひ収益増減するが如き妙味なし、況や国債は借替の為めに利子を減少せらるゝの危険あるに於てをや、多少実業思想あるものは、豈晏然として国債を有することを楽まんや、男子の恥游食より大なるはなし、従来鉄道株式を有せるものは、鰥寡孤独と相伍し、事なくして食するに甘んずる無骨者無力者のみと見做すこと能はざるなり、故に此等の株主は国債を売りて他の株式を買ひ、若くは実業を計画するあるべし、加之相場の甚しく下落せざる間に、之を売抜けんとして互に先を競ふあるべし、約五億の国債新に民間に落つる以上は、到底相場の暴落を起し、一般に国債所有者の財産を殺くを免れざるべきなり、外国に於ける我が国債は、投機者の手許に存し、未だ真正所有者の手許に落付かざるもの頗る多額なるが故に、外国人が此の上無限に我が国債を吸収せんことは蓋頼むべからず、而して内国債の外国に輸出せらるゝこと多大なるに従ひ、我が政府今後の外債募集力は益々減少し、金貨年々の流出高は益々増加することを覚悟せざるべからず、首相は漫然鉄道買収を以て、財政の鞏固を計るの良策なりと云ふも、余輩は其の何の故たるを了解する能はざるなり
我が官設鉄道は、明治五年に於ける開業哩数十八哩、益金六万一千円余より、二十七年度に於ける開業哩数一千四百六十一哩、益金一千一百九十四万二千円余に発達し、之に対して私設鉄道は、明治十六年度に於ける六十三哩及び十八万九千円余より、二十七年度に於ける三千二百三十二哩及び二千三十六万三千円余に発達したり、是れ官民鉄道発達の概要なり、而して民設鉄道が此の発達を遂げたるには、経営惨憺辛苦曲折の歴史あり、然るに其の漸く発達して前途益々好望あるに及び、政府一朝之を買収して官営に移さんとす、是れ民業を蹂躙し私設会社の既得権を褫奪するものに非ずして何ぞや、ビスマークが普仏戦争後、日耳曼全帝国の鉄道を官有に統一せんとして失敗するや、独り普露士州に限りて之を決行したり、一千八百七十八年に於ては、同州の鉄道中官有のもの約三千哩、民有官営のもの二千哩余、民有民営のもの六千哩なりしに、漸々之を買収したるが為め、一千八百八十四年に於ては、官有のもの約一万三千哩、民有のもの僅に一千哩となれ
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り、而して政府は価格を評定して、民設鉄道を買上ぐるの権利を保有したるにも拘はらず、実際の買収は協定法を以てし、決して法律上の権利に基き強制するを為さゞりき、又買収代価は概ね四分利公債を以て交付したれども、其の条件は甚だ寛大なるものありき、然るに今我が政府の為さんと欲する所は如何、政府は法律を以て明定せる会社の特許年期未だ尽きざるにも拘はらず、政府所定の条件に依り、強制的に之を買収せんと欲するものにあらずや、是れ株主の財産権と会社員の職業権とを侵害する者にして、彼の鉄血宰相すら為すを憚りたる暴断に出づるものなり、然れども協定法を取るとせんか、薄利なる会社のみ買収に応じ、鞏固なる会社は之に応ぜざるべし、其の結果国庫に非常の不利益を招き、且鉄道統一の目的を達する能はざるは、余輩の既に論したるが如し、強ゐて之を買収せんとせば、非常に寛大なる条件を以てするを要す、而して是れ亦国庫の堪へ難き所なり、然らば則ち強制法固より非なり、妥協法亦非なり、只一の光明ある方針は、全然此の無謀なる法案を抛擲するにあるのみ
首相は鉄道を政府の経営に統一し、運輸の疏通と運搬力の増加とに依り、生産力の勃興を誘導すと云へり、而して此の説に何の根拠あるかを示さゝるなり、今近く我が鉄道の成績を見よ、明治十六年度より三十七年度まての収入百円に対する経費割合を平均すれば、官鉄は四十六円にして、民鉄は四十四円なり、而して明治四年より十五年度までの官鉄の平均経費割合は五十一円十銭なるが故に、之を三十七年度まで通算すれば平均四十八円五十銭となるなり、又三十七年度に於ける鉄道作業局及び北海道鉄道部の職員は二万五千四百二十四人、其の俸給月額は三十九万五千八百五十三円にして、民設諸会社の職員は四万一千十四人、其の俸給月額は五十四万五千四百四十円なり、今之を各自の開業哩数に対照すれば、官鉄は一哩に付十七人四と二百七十円九四とを要し、民鉄は一哩に付十二人六と一百六十八円七六とを要せり此等の事実は歴々として、官鉄の比較的失敗と、民鉄の比較的成功とを証するものにあらずや、官鉄の経費多大と、経営拙劣とを証するものにあらずや、官鉄は東海道の如き利益多き線路を有して尚ほ然り、民鉄競争の健全なる刺激を受けて尚ほ然り、況や全国の各線路政府の掌握に帰したる後に於てをや、官風吏俗忽ちに瀰蔓し、浪費冗員は益益増加し、経営は敏活親切を失ひ、吏員の態度は傲慢不礼となり、改良進歩は殆ど阻止せられ、其の弊害の及ぶ所真に測るべからざるものあらん、而して経験に富み熟練を積みたる民設会社の職員を失ひ、新参の職員各線路に現出すべし、余輩は鉄道「アクシデント」の如きも一事或は増加するあらんを恐るゝなり
又外国の実例を見るに、普露士は官営主義を実行したりと雖も、其の得失は尚ほ試験中に属し、決して官営の優勝を証明したりと云ふを得ず、白耳義に於ては政府自から幹線を建設し、支線及び接続線は往々之を人民の企業に委したりしが、政府は一千八百五十年に於て、其の最初の布設計画完了したるを以て、一時鉄道の建設を中止したり、是に於てか、民設鉄道勃然として起り、官民両鉄道の間に劇烈なる競争行はれたりしが、同国の鉄道経営に著大なる改良発達を告げ、永く其
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の余恵を後年に遺したるは、全く此の競争の結果にてありき、而して政府は終に民鉄の競争に堪ふる能はずして、一千八百七十年以来之が買収に着手し、同八十年に於ては、全国鉄道の大半を掌握するに至れり、然るに統一の結果たるや、経営上活動を失ふて遅鈍となり、収益減少し随て賃率騰貴し、車輛欠乏し、手続上繁文縟礼を加ふるにありき、又伊太利に於ては鉄道会社の困難と政治上の理由との為めに、其の四大鉄道は政府の有に帰したれども、官営の得失如何は多年の難問題となり、終に一千八百七十八年に至り、委員を撰定して之を調査せしめたり、該委員は両三年に亘りて、懇到周密なる調査を遂けたりしが、委員は其の決論に於て、鉄道官営の主義を排斥したり、其の理由の一に曰く、官営は民営に比して一層低廉なりと唱ふるものあれども是れ誤謬にして、事実は全く之に反せり、私設会社は顧客の為めに、政府の為し能はざる所を為し得るなり、政府は実業を奨励するよりも反て之に課税せんと務むるの恐れあり、而して政府にして実業に課税せんと欲せば、民設会社に比して一層大自在力を有し、一層無責任なり、二に曰く、各国に於ける官営と民営との実績に徴するに、官営は民営よりも一層多費なり、三に曰く、官営制度に於ては、政治は鉄道経営を腐敗せしめ、翻て鉄道経営は政治を腐敗せしめ、政治上の危険頗る大なり」と、委員の決論斯の如し、而して更に数年の討議を積み結局政府は官有鉄道の経営を二大会社に委託することとなりしが、其の経費及び収益の分配に関する規定の如きは、極めて複雑なるものなりとす、之に反して英国及び米国は、超然として民営主義を固守し、其の鉄道事業駸々として発達しつゝあるは、著明なる事実なり
叙上の如くなれば、我が国の実験と外国の実例とは、全く首相の所論に反するなり、余輩は大に恐る、不幸にして官営説実行せらるゝあらんには、少なくも当分は鉄道の収益大に減少し、国債の利子をも産むに足らずして、既に窮乏せる国庫に非常の累を及ぼさんことを、而して政府は成るべく此の損失を軽減せんが為めに反て賃率を引上げ、生産力の勃興を挫折するに至るべし、是れ必ず免れざるの結果ならん
官営論者は軍事上の便否を以て、最後の支柱と為すが如し、勿論我が現行の鉄道制度は完全無欠なるにあらず、故に軍事当局者をして之を論せしめば、不便を訴ふべきもの必ず尠なきにあらざるべし、然れども日清戦争に於ても、又今回の日露戦争に於ても、我が鉄道は能く軍隊大輸送の任務を完うし、格別の支障なかりしは、中外の共に認むる所なり、而して官鉄は平生の経営に於て既に民鉄に劣るとせば、何故に戦時に於て之に優るべきか、若し純然たる官営制度に於て非常の大輸送を試むるの機会ありとせば、余輩は軍事当局者が翻然として、官営の一層不便甚しきを悔悟するあらんを信ずるなり、而して官営制度の下に於て斯の如き事変に遭遇せば、商業上産業上の運輸交通は、恐は全然断絶せらるゝに至るべし、且欧洲大陸諸国の如く、其の境界犬牙錯雑するものと、我が国の如く四面海を環らすものとは、敢て同日に論するを得ざるなり
私設鉄道に於ても弊害なきにあらざるは、余輩固より之を認む、一方に於ては専横に流るゝの弊害あり、一方に於ては共通聯絡を欠くの遺
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憾あり、故に法律を以て必要の制裁と監督とを加へ、其の弊害を矯正するは至当なり、英米の如き自由国と雖も、今日に於ては此の主義を採らざるはなし、而して我が国に於ては法律の文字は略ぼ完備し、唯実際の運用に於て遺憾あるのみ、故に全力を尽すべきは実に此の点にあるなり、鉄道の民営に多少の弊害あるを恐れて、忽ち官営を実行せんとするは、所謂る悪魔を怖れて、直に深海に飛込むものなり、此の両極端の間に、必ず濶歩すべき坦々たる大道あるべきなり
余輩は鉄道買収法案が、果して如何なる動機に出でたるかを了解する能はず、或は恐る、是れ政治か鉄道経営を腐敗せしむるの大発端たるにあらざるかを、然れども其の動機は何れにありとするも、要するに是れ非常の悪法案なり、須らく速に之を否決して、実業界を蔽へる妖雲を払拭せざるべからざるなり


東京経済雑誌 第五三巻第一三二八号・第四三五―四三六頁〔明治三九年三月一七日〕 ○鉄国案と鉄道業者の意向(DK090060k-0007)
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東京経済雑誌 第五三巻第一三二八号・第四三五―四三六頁〔明治三九年三月一七日〕
    ○鉄国案と鉄道業者の意向
鉄道国有案は、刻下の大問題にして賛否の議論区々として喧しく、昨十六日を以て愈々衆議院の議事日程に上りたるが、委員会は多数にて之を可決したれば、衆議院を通過するは必然なるが如き形勢あり、之に対する鉄道家の意向如何を見るに、去る九日関東・東北の各鉄道会社間に組織せられたる隔月会の人々は逓信大臣を訪問し、鉄国案に付き逐条質問する所あり、要するに
 一、鉄道審査官は之を官民双方より任命し、貴衆両院議員・実業家等をも参加せしむる事
 一、其規模は出来得る丈大にして且つ公平無私なるべきを期す
 一、現に各会社の現業従事者に対しては総て特別任用令を以て官吏の資格を与へ依然職務を執らしむべき事
 一、本法案通過の上は直に施行細則を発布して万遺憾なからしむべき事
 一、買収の前後其他に関しては是亦本案通過後買収局なるものを設け、同局に於て審査したる上之を決定すべき事
等の答弁を得、同五時三十分に至り漸く散会したるが、其結果翌二十日午後五時より、上野精養軒に日本・北海道・総武・甲武・成田・東武・房総(炭砿鉄道を除く)の各鉄道会社の社長・幹事・課長等十数名会合し、左の決議を為せり
 第一 鉄道国有法案附議の場合に於ては
 (一)買収価格の標準は、建設費に対する益金の平均割合を買収当時の建設費に乗じたる二十二倍と為す事
 (二)明治三十八年前半期営業年度末に於て運輸開始後六営業年度経過したる線路を有せざる場合は建設費を以て買収価格と為す事
 (三)買収に対する公債の交附は総て時価に依り公債券面金額に換算したる金額を以てする事
 (四)特許権に対する賠償条項を設定する事
以上四項は該案成立せんとする場合に修正を要する事
若し又該案にして不成立の時は、左の方針を取ることに決せり
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 第二 鉄道国有法不成立の場合に於ては
 (一)出席者中の有志者発起となり、関東・東北・北海道に於ける各鉄道会社の大合同に就て研究する事
  (二)右大合同は略ぼ左の方針に拠る事
  (イ)合同価格及其他一切の計算は鉄道国有法案の示す所に準拠して協定する事
  (ロ)前項に依り計算したる代価の支払は株券を発行して之に充つる事
    ○鉄国案と議員別
鉄国案と衆議院党派別を見るに、昨今の形勢大略左の如しと云ふ

       賛成 百十余名         賛成 十余名《(マヽ)》
 政友会   反対 二十余名     進歩等 反対 八十余名
       曖昧 十四五名         曖昧 三四名

       賛成 十三名          賛否 相半
 政交倶楽部 反対 八十余名     無所属
       曖昧 四五名          曖昧 二三名
大同倶楽部は其の概算すら困難なれども賛成者二十余名、反対者十余名は確実なるべく、進歩党の賛成者を十三名と明記せしは幹部の見込に依る、今之を通算するに賛成者百四十余名、夫れに大同派の二十余名を加へ、百六十余名、反対者は大同派の十余名を加へて百二十余名に過ぎず、尚ほ態度の曖昧なる大同派を除きて三十名内外、仮に之を全然反対と見るも尚ほ賛成者十余名の多数あり、斯く計算し来れば議案の運命を決するは残れる大同派四十余名の向背に依りて左右せらるる訳なるが、兎に角全部反対するか如きは同倶楽部成立当時の事情に鑑みれば決して之れなかるべし、故に之を賛否相半はするものと見るも賛成者尚ほ十余名の多数なるを以て、如何に内輪に見積るも該案は通過すべしと推測するものあり、貴族院に於ても政府側の運動其効を奏すべしと云ふ、果して如何にや
如上記し終りたる後、政友会は去十三日の政務調査会に於て全然原案に賛成することに決し、以て大同派に交渉したるが、大同倶楽部は十四日に至り代議士総会を開き全会一致にて政府案賛成に決し、特り進歩党は反対の態度を取ることゝなれり、随て衆議院の本会議に於ては百余の多数を以て通過せん乎
    ○鉄道国有と財政経済
鉄道国有案委員会に於ては、種々の質問出て、就中財政経済上の影響に関するもの多きことなるが、之に就ては阪谷蔵相親しく答弁せられつゝありて、結局公債を発行するも格段の影響を金融市場に与へざるべしと云ふにあり、而して去三十二年の鉄道国有調査会の求めに応じ時の大蔵省は理財局長松尾臣善氏の名義を以て論じたる中、左の如き言あるを見る
 此の如き時に際して鉄道買上の為め公債を発行して金融市場に動揺を与へざる如きは頗る難事に属するのみならず、強て其発行を為さば之に依りて公債の供給増加することゝなりて、今後既定の計画によりて募集すべき公債の募集に著しき障害を為すの危険あり
 之を要するに私設鉄道の買上に公債を発行して交付するは今日の場合にありては経済上並に財政上安全の方法にあらずと認む
之を今日に比較して果して如何なる結論を生ずるにや、大に慎重の研
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究を要する所なり


東京経済雑誌 第五三巻第一三三〇号・第四九四―四九六頁〔明治三九年三月三一日〕 鉄道買収案の通過(DK090060k-0008)
第9巻 p.601-603 ページ画像

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東京経済雑誌 第五三巻第一三三一号・第五五二―五五五頁〔明治三九年四月七日〕 公債相場の将来(第百銀行取締役池田謙三君談)(DK090060k-0009)
第9巻 p.603-607 ページ画像

東京経済雑誌 第五三巻第一三三一号・第五五二―五五五頁〔明治三九年四月七日〕
    公債相場の将来 (第百銀行取締役 池田謙三君談)
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政治経済界の重大問題たりし鉄道国有案も、竟に議会を通過し、既に鉄道国有法の公布せられたるに及んでや、政府は其買収の実行に当り陸続巨額の公債を発行するなる可きを以て、今後公債は市場に充満すべきこと明なり、故に数の上より之を見れば公債価格は勢ひ下落するに至らん、見る可し、英国は「トランスヴアール」戦争の為め多額の公債を発行したれども、其需要の大ならざる故にや、現今英国公債の価格は尚下落し居れるを、是を以て推考するも、公債の増発が其価格を下落せしむるの傾向を有するは避くべからざる所なるを知るに足る可し
然れども我国在来の市場のみに、是等多額の公債の取引せらるゝに至らば、是れ或は公債の価格は日に暴落を告げざるを得ざる可し、されど翻つて考ふるに戦後殖産興業の勃興に伴ひ、取引市場も従来に比し面目を一新して益々拡張せられ、其需要者も亦従つて多きを加ふ可きを以て、心配する程に暴落を来すこと無からん乎、蓋し戦争前は戦争後に比すれば、政府の財政も稍余裕あり、予備金の存するあり、国民の負担せる租税も幾分か軽少なりしを以て、当時の公債の価格は当然高価格を保持せざるを得ざりしと雖も、之に反して戦後に於ては急転して租税も重きを加へ、戦争前に五億七千二百万円余なりし公債も、戦争後臨時事件に関する公債十八億二千二百万円余に加ふるに更に鉄道買収の為めに四億乃至五億円の公債を発行する時は、合計二十二億二千二百万円余乃至二十三億二千二百万円余の巨額に激増する所以なるを以て、一見公債の価格は甚だしく暴落せざるを得ざるが如しと雖も、二十億円余と云ふ巨額の公債の増加したりし割合には、甚だしき暴落を誘致すること無かる可しと見得べきなり、何となれば上にも述べたる如く向後新取引市場の増加を来し、大に取引市場の発展を見る可きこと疑なきを以て、能く此の多額の公債を此等市場に供給し得るのみならず、戦捷の効果として近来我公債は倫敦・紐育の市場は更なり、独・仏並に其他の小国に至る迄も其売買を見るに至りしを以て、将来に於て我国公債の需要の減退するものありと断ず可らず、寧ろ其増加を来すべしと信ずればなり
左れど今後政府は、鉄道株券に代ふ可き巨額の公債及び軍人軍族に賦与する多額の公債を発行すべきを以て、全然公債価格の低落を告げずと断言すべからず、其結果多少供給過多に傾ける以上は必ずや公債価格に影響すべければ、是非とも其時に当り、財政経済の信用を鞏固ならしめ、一方に其需要の途を啓くこと亦肝要なりとす、加之ならず、政府が公債を発行するに当りてや、能く其需要者の需要奈何を予測して十分慎重に其需要に適応するだけを供給するの方針に出ん乎、公債奈何に増発し来るも其価格に大なる変化を招致すること無くして止まん、而して又恁くの如く政府が能く民間の経済其他万般の事情を達観して之に耐ふるの公債を発行し毫も濫発の弊なくんば、公債は却て騰貴するに至るべし、若夫れ公債が斯く信用を得昂騰の傾向を有するに至らん乎、頓に其需要者を増加し、価格上れば或者は売却し、或者は争ふて之を買占めんとし、売る者も買ふ者も共に是れ利を得んと競ふを以て、公債価格は益々騰貴するのみなり、之に加ふるに、我財政経
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済の依然として信用を保つに於ては、欧米の資本家は亦之に放資するや明にして、爰に更に層一層の需要者を増加する訳なるを以て、公債価格は盛に昂めらるゝに至る可しと謂はざる可らず
然れども又公債の将来に就て恁くの如く強ち楽観して安んじ得べきにもあらず、将来に於ける軍事上及び財政上の変還奈何《(遷カ)》に拠りて或は其公債価格に多少の低落を起すやも量る可らず、奈何なる風雲を起すや是等の事固より予言し得る所に非ざるなり、故に此際銀行業者は勿論一般国民たる者は宜しく財政経済の鞏固を図ることを努めざる可らずと信ずるなり、然るに政府たる者にして自ら計らず、時の緩急需要の多寡を度外視し、妄りに一時に多額の公債を発行する如きことあらんには、縦令日英同盟なる鎖鑰を有すと雖も、財政の基礎をして紊乱せしめ、外国の信用を失ひ、公債価格の下落するのみならず、遂に外資の流入も杜塞するに至らん
然れども恁くの如く外資流入の杜絶するに至りしとするも、内地に有する在来の資金のみを利用して事業経営に放下すれば足れりと謂ふ者あらば、是れは畢竟小成に甘んずるの人なり、左れども今や我国は戦後新進国として大に飛躍すべき地位を有するに非ずや、然らば即ち大に資本の潤沢なるを要す、資本潤沢ならずば何事も為すこと能はず、我国に於て資本の欠乏するあるは、其利息の高率なるを以て見るも推知すべきなり、故に予輩は一般の金利を低廉にして大に商工業を起し利源開発の道を講せざる可らず、啻に内地に於ける利率の低安を企図し資金の充実を計るのみならず、延いて其資金を海外に放下するの余裕をも生ぜしめんことを冀望して已まざるなり、公債相場の高低は甚だしく商工業に影響を及ぼすのみならず、直接財政に大関繋を有するを以て、予輩は公債相場に就ては一刻も其注意を忽諸に附す可らず、加ふるに公債は国際貿易に大関係を有し、其他あらゆる方面に波動を及ぼす者なれば、弥々益々公債の濫発を警戒せずんばあらず
人或は今後公債の市場に充溢することあらんには、宜しく之に裏書保証を為し海外に輸出すべきなりと論ずる者あれども、予輩の考ふる処にては、公債に裏書して輸出し以て我公債を世界的の者たらしむるは不可なりと思惟するなり、蓋し公債の激増するより侵来すべき其価格の下落を防止するに於ては、該方法も亦一策として妙なるに相違なかる可きも、裏書保証を為すに当りては、其相場を一定せざる可らず、欺く相場を一定するは不利益の場合を生ぜざるを保せず、概して言へば、縦令公債の増加を来すと雖も、裏書保証の必要なしと思惟せらる若し夫れ裏書保証を為さゞる可らざるの必要を感得するに於ては、初めより外債を発行するに如かざる可し、何となれば初めより外債に依れば其計算も明瞭にして便なるを以てなり、然れども是れ予輩が刻下に於て懐抱する見解なれど、今後整理公債・五分利付公債等の増発を見たる後に非ざれば、断然裏書保証の可否を確言すること能はざるなり、今後の成行果して奈何ぞや
    鉄道国有善後策 (原六郎君談)
予輩は素より鉄道国有には反対せる者なれど、今は該法案も苦もなく議会を通過し、鉄道国有法として既に公布せられ、爰に此の重大問題
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の一段落を告ぐるに及んで、更に該法の不法を追及するに及ばざるに似たりと雖も、該問題は尚ほ大に研究すべきものにして、今後政府が執るべき可き方針は重要にして、頗る注意すべきものあるが如し
最初政府が三十二会社の鉄道買収法案を提出したるは一時の権略にして、内心は今回修正せられたる十七会社を望みしならんが、上院の修正に遭ひ忽ち同意したるは本色を現はせり、買収期間は五箇年に過ぎざりしを、貴族院は之を修正して十箇年とし、又其買収代価たる公債証書交附期間の二箇年なりしを延長して、之を五箇年以内とし、以て公債の一時に激増する弊を緩和せんとするの思慮に出でたりと称すと雖も、実際は頗る迂遠なる修正案なりと謂はざるを得ず、五箇年を十箇年とし、二箇年を五箇年間に延長したるも、又延長せざるも結果は均しきものにて、公債増発の結果、其暴落を来すの度は同様なりと信ずるなり、何となれば其買収期間の奈何に係はらず、該国有法案既に議会を通過し法律となり、引続き買収施行の時日決定する場合と同時に、株券は公債となれるものにして、鉄道株券は従前の鉄道株券に非るなり、就ては買収の時日決定せらるれば、即日より鉄道株券は五分利付公債証書と毫も異なる事なしと見做さざるを得ず、故に多額の公債が一時に出るを防ぐ為に買収期間を延長したるも其効なかるべし、何んとなれば今該株券即ち五分利付公債を所有して其利息に甘んじ、或は之を以て世襲財産とし、猶引続き公債を所有せんとする株主は兎も角も、多額の株券を有する所謂事業家は、他に新事業を発見するに及ばゞ、此等の公債は市場に出るものと見做さゞる可らざればなり、故に買収の為め発行すべき公債の増加を調和せん為め、買収期間を延長して十箇年間と修正したるは解すべからざる無益の修正と云はざるを得ず
今後愈満韓・台湾・北海道等の新事業の勃興を見るに至らば、世評の如く公債価格の甚しき暴落は是れ無かるべしと雖も、需給の関係上他の公債と共に多少下落は免れざるべし、若し斯くの如くんば政府の信憑は益々減ずるならん、予輩の見る所にては恁かる経済社会に処するの道としては、公債にして我が国に過剰したる額に対し裏書保証の方法を講じ、以て海外市場に輸出するの途に出でざる可らず、若し如上の方法を執らずんば、必ず公債は一時市場に充溢して、其価格の低落は避く可らざる所なりと信ずるなり
抑々今回政府が私設鉄道を買収するに至りし目的は、運輸の統一軍事上の必要にありと標榜せりと雖も、買収する鉄道は十七会社の鉄道に過ぎずして、其他の鉄道を除外したり、而して政府の買収の目的は、之を揚言せる以外に存するものと思惟せらるゝなり、最初より幹線の最も利益ある鉄道を望みたるは申す迄もなき事にして、除外せられたる十五会社は全く雄鳥に使はれたるなり、日露開戦以来、政府は有らゆる担保を提供し未曾有の国債を負へり、今後再び不幸にして国難に遭遇する場合を慮り、予め債務の担保を造り、又一方には収入の増加を企図するの必要より、竟に国有法案を提出せられたるに至りしにはあらざる歟、且つ政府が自営するも遠き将来はいざ知らず、今後数年間に於て其鉄道の改良拡張等は当分期待し得べきに非ず、将た又運賃
 - 第9巻 p.607 -ページ画像 
の如きも低廉を企図し得べきものに非ず、何となれば政府は私立会社計画の如く必要に応じ、直ちに線路改良拡張等の事業をなすこと甚だ疑はし、譬へば電話架設の如き毎年度の予算不足の為め、政府は之を拡張増加することを得ず、需要者の困難一方ならず、此の一例に拠るも推測する事を得べし、今回政府が買収する鉄道は設備の稍完全なる大鉄道を買収し、辛ふじて営業せる小鉄道は、皆之を除外したりしを以て、従来発達の機運に進みつゝある大鉄道は、爰に姑く其発達に一頓挫を来し、買収せられざる小鉄道は益々悲境に陥るなるべし、政府が稍完備せる大鉄道をのみ買収するに至りしは、大小何れの鉄道にも悪影響を及ぼす者と謂はざるを得ず、今や時運の進歩に伴ひ其の速力も設備等も総て改良拡張せざるべからざる時機に際し、昨年来重なる四五の会社は其準備の為め各多額の借入金契約を為しつゝありしに、今回国有案可決したるに付ては、自今政府に於て夫れ等の設備をなすべき筈なれども、現今の財政にては充分なる改良、並に拡張等は迚も行はれざるものなるべし、故に予輩は私設鉄道が其の鉄道を政府に譲渡するに先んじ政府と協定する所あらん事を望む者なり、其協定とは何ぞや、これ他なし、会社が其鉄道を買収せらるゝ前に政府に申請して、必要の延長複線又拡張等は成べき丈け会社に於て処理し、政府は之を認容する所あるべしと云ふにあり、幸に政府之を認可せば、政府の手に移るまでに会社は不完全なる所を拡張改良すれば、交通運輸の便益々開け、収入も随ふて大に増加すべきは疑ひなし、山陽・九州鉄道の如き本年は大なる改良拡張計画定りたれ共、国有案可決したる上は今更致方なし、然れ共政府は欺の如く進みつゝある民業を買収して今日電話事業の不便を感ぜしむる如く、鉄道にも同じ失望の及ぼさゞらん事を只管希望するのみ


東京経済雑誌 第五三巻第一三三二号・第五九五―五九六頁〔明治三九年四月一四日〕 鉄道国有法案に就て(福田太一)(DK090060k-0010)
第9巻 p.607-609 ページ画像

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東京経済雑誌 第五三巻第一三三二号・第五八九―五九〇頁〔明治三九年四月一四日〕 鉄道株券に替るべき公債(一五銀行頭取園田孝吉君談)(DK090060k-0011)
第9巻 p.609-611 ページ画像

東京経済雑誌 第五三巻第一三三二号・第五八九―五九〇頁〔明治三九年四月一四日〕
  鉄道株券に替るべき公債(一五銀行頭取 園田孝吉君談)
既に鉄道国有法の公布せられたるの時に方り、該問題の可否を評隲するは徒に無益の言論を弄するに過ぎず、唯々予輩が該問題に関聯して今後尚攻究を要するの点は、従来予輩が資産として所有せる鉄道株券が公債と交換せらるゝ場合に於て、如何にして該新資産の晏然なる保護を為し得るやにあり、今後鉄道株に替るべき公債の増発に就ては或は悲観し、或は楽観し、諸説紛々たるが如しと雖、予輩の見解を以てすれば、政府が私設鉄道を買収するに当りてや、非常なる多額の公債を発行するにあるを以て、市場に於ける其数の激増は之を如何に見るも、其価格に多少の下落を免かるべからず、故に予輩は今よりして其覚悟なかる可らずと信ずるなり、左れど我十五銀行は、従来多額の鉄道株券を所有して其資産と為し、之より生ずる収益を以て鞏固なるものとなせしが、今後株券に換ふるに公債を以て資産とせば、猶能く之を以て鞏固なる資産とし、之より生ずる収益を以て、確実なる収入と見做し得べき乎、是れ予輩が講究を要する所なりとす、今若し予輩の考ふる所を明にせんが為め、其例証を日本鉄道株に執らん乎、該会社最近の利益配当の割合を見るに、実に一割二分なりしを以て、払込五十円株に対し六円の利益配当に該当す、然るに既往七八年間に於ける日本鉄道株の平均相場は凡そ七八拾円余なる可きを以て、予輩の銀行に於ては、其平均相場を以て計算し、以て其資産を見積り居れり、若夫れ翻つて今回発布せられたる鉄道国有法によれば、該払込五拾円の株券に対し、大略百二拾円の公債と交換せられ、而して該公債たるや五朱利付なるを以て、一見株主に取りては急に其収益を減退せしめたるが如しと雖、払込五拾円株に対し、二倍以上の価格を有する公債に替るにあるを以て、其利付僅に五朱なるに拘はらず、株主の収得する所は依然として一割二分の配当を受くるに均しく、矢張六円の利益を獲得することを得べし、加之ならず、之を銀行の資産として見る時に於て、将来公債価格の暴落を来し、仮りに其価格の三割の下落を告げたりとせん乎、百二拾円の価格を有せし公債が、八拾余円の相場と為るに外ならざるを以て、此の割合を以て銀行の資産を算するに至らば
 - 第9巻 p.610 -ページ画像 
頓に其資産の減少を来し、銀行に取りては甚だしき恐慌を来さゞるやの如く推測せらる可しと雖、是亦恁る杞憂を抱く可きに非ず、何となれば曩に述べたる如く、銀行は既往七八年間の平均相場を以て株券の価格を定め、其価格を標準として銀行の資産を算せるなれば公債暴落し、為に百二拾円の公債が僅に八拾余円の価格を保つに過ぎざるに及ぶも、尚能く銀行資産の見積標準たる七八年間の株券の平均相場を保持するを以て、縦令公債が株券に替ると雖、之を収入の点より見るも将又資産の鞏固を維持継続する点より見るも、株主たる銀行には何等の影響を与ふ所なしと謂はざる可らず、且又該公債価格が三割の下落を告ぐるが如きは、予輩の慮外とする所なれども、若し更に四割五割の暴落を告ぐることあらん乎、是れ我が国一般の経済社会に大激変を涌出したるの時にして、政府は公債利子を支払ふ余力なく、国民は租税を納むるの資力なきの時なり、依然として今日の如き政府の財政鞏固を以てするに於ては、三割以下の下落を為すが如きことは万無かる可しと信ずるなり
政府の株券買上に就ては、先づ叙上の如き計算を得るを以て、予輩は別に政府の買上措置に異議を挿まず、是を以て能く予輩の資産の鞏固を保つことを得べきなり、加之ならず鉄道株券に替へて公債を所有するは、其確実なること毫も鉄道株券と相譲る所なしとす、抑々鉄道事業は年を逐ふて進歩するを以て、其進運に伴ひ其収益の増加し行くは明白なりと雖、素より私設鉄道は営利を目的とし、其事業に就ては株主の意思により左右せらるゝに拘はらず、一面より見れば鉄道なるものは国家の公道なるを以て、国民の便益を図らざる可らざれば、向後に於ても猶一割五分乃至二割の配当を為し得べきや否や、予輩は頗る之を疑はんとす、されば鉄道が多分の収益ありとするも、其利益を悉く是れ貪らんとし、諸般の改良を施すことなくんば社会公益上不徳の誹謗を免れざる可し、故に一割二分の配当あらは、配当の上乗なるものとして甘ぜざる可からず、欺く思考し来れば、鉄道株券に替ふるに公債を所持するに至りたりとて、敢て不平を言ふ可きに非ず、而も鉄道は国家の公道なり、政府は国民の代表なり、故に鉄道株券を所有するも、公債を有するも、何れも是れ安全なるものなりと謂はざるを得ず、唯々国有と為すに及んで運賃の低廉、設備の改善を施し得るや否や将来実験に徴せざれば予知し得べからずと雖、予輩は切に斯くあらんことを冀望に堪へさるなり、又政府の発行する公債も種々目的を異にし、或は新事業を興すが為にするものあり、或は軍事上の為に発するものもあらん、然るに新事業を起さんが為に発行する公債と、今回の鉄道株券に替るべき公債とは、其確実なる点に於て、宵壌《(霄)》の差ある可し、何となれば、新事業を起すが如きは、是れ固より容易の業に非ず、其前途に於て果して能く成功するや否やを知るべからず、恁る事業の為に発行する公債は勢ひ其価格の下落を為し易しと雖、鉄道株券に換ふるの公債の如きは、将来の収益明なるものゝ為に発行する者なれば、該公債所有者も安堵して能く之を所有す可きを以て、公債価格の甚だしき下落を来すことなかる可しと思惟するなり、然るに該公債の多額を有するは多く事業家なり、故に新事業起らば直ちに之を売却
 - 第9巻 p.611 -ページ画像 
すべきを以て、爰に公債の暴落を招致すべしと憂ふる者ありと雖、是れ亦謬見たらざるを得ず、新事業の勃興の為め該公債を売却する程ならば、鉄道株券を所有し居るも、猶之を売却するなる可し、之を以て公債下落の原因と為すに足らず、されば予輩の銀行に於ても、今後鉄道株券に交替して公債を所有するに至るも、別に之を売却す可しとも企図せず、猶鉄道株券の如く公債を以て銀行資産の一部を形成せしめんとす

東京経済雑誌 第五三巻第一三三三号・第六三六―六三七頁〔明治三九年四月二一日〕 公債及び株式の現況(東京株式取引所理事伊藤幹一君談)(DK090060k-0012)
第9巻 p.611 ページ画像

東京経済雑誌 第五三巻第一三三三号・第六三六―六三七頁〔明治三九年四月二一日〕
公債及び株式の現況(東京株式取引所理事 伊藤幹一君談)
公債 目下の株式市況は頗る沈睡閑散にして、更に捗々しき取引を見ず、従来九十五円の相場を保ちたる公債は昨今に至り低落して遂に九十二円の相場となれり、是れ果して如何なる原因に由る乎、蓋し九十二円の相場は寧ろ相当の相場にして、従来公債相場が九十五円台に居りしは、思ふに或銀行筋が九十五円以上の相場を以て常に買占め居り、買方は其相場の低廉なるを欲し、売方は成る可く高価に売却せんとし双方に於て互に躊躇する所ありしを以て、其相場は自然高直にして、九十五円以上の価格を保ちしなり、故に向後我が経済界に於て金融の逼迫を招致することあらん乎、更に公債の下落を見るべし、されど目今の金融界は頗る静穏無事にして、別に資金の需要を起すことも無かるべければ、昨今の九十二円は先以て恰好の相場にして、当分持続するなる可し
鉄道株 国有法案の議会に提出せられたる前後に於て、一時百十円以上に昂騰したりし日本鉄道株も昨今に至りては、頓に其勢力を挫き下落して百五六円となり、同じく其当時百十円近く迄暴騰したる炭砿鉄道株は、是亦低落して百三四円となれり、恁く鉄道株が下落するに至りし所以を考ふるに、鉄道は今に於て予想するが如き有益なる価格を以て買収せらるゝ者なるや否や、其買収価格一定せず、単に予想に過ぎざるを以て、頗る懸念あり、又一方には政府が鉄道買収を実行するに方り、其買収より五ケ年以内に公債を以て其株券に換ふることと為り居るを以て、鉄道株券に換ふるに公債を以てしたる場合に、公債が果して其価格を持続し得べきや否や疑惑する所あり、是を以て鉄道株は何れも下落を告げたるなり○下略


東京経済雑誌 第五六巻第一四一四号・第九〇七頁〔明治四〇年一一月一六日〕 ○鉄道国有審査会と被買収会社(DK090060k-0013)
第9巻 p.611-612 ページ画像

東京経済雑誌 第五六巻第一四一四号・第九〇七頁〔明治四〇年一一月一六日〕
    ○鉄道国有審査会と被買収会社
買収鉄道に関する例の六問題に就ては、当局者と被買収会社との交渉到底無事に纏まる見込立たざるを以て、政府は近々審査会を開設すべき模様あり、就ては被買収十七会社の幹事会社は去る七日左の件々を当局者に覚書として提出したり
 一、審査委員会は官吏のみを以て組織せらるゝ事なく、例へば官吏、貴衆両院議員の職に在る者、商業会議所議員、銀行業又は鉄道業に経験ある者の類の如き各方面の有力者を公平に配合せらるゝ様致度事
 二、審査委員会は裁判所の判決文の如く国有準備局被買収会社双方申立の趣旨を
 - 第9巻 p.612 -ページ画像 
列記したる決定書を公表せらるゝ様致度事
 三、審査委員会は委員全数の三分の二以上の出席を以て開会せらるゝ様致度事
 四、審査委員会は出席委員の三分の二以上を以て採決せらるゝ様致度事
    ○買収鉄道公債下附建議
東京手形交換所が去る五日の例会に於て買収鉄道公債下附の建議を大蔵、逓信両大臣に提出することに決したることは既報したる処なるが右建議書は愈よ去る九日を以て提出し、同時に大阪外四ケ所の手形交換所へ建議の次第を通知したり、建議書全文左の如し
   建議書
 本年四月東京外五ケ所手形交換所聯合会の決議を以て私設鉄道買収公債証書御交附方の儀及建議候処、爾来買収概算額御決定益金御下附の儀は御処分相成来り候得共、各私設鉄道買収の実額及公債証書御下附の時期等は未だ窺知するの場合に至らず、是等の遅滞遷延は徒らに旧会社株主をして疑懼の念を懐かしめ候而已ならず延て金融の円滑を欠き一般経済界に及ぼす影響尠少ならざるもの有之候に付此際速に買収実額御確定の上公債証書御交附相成候様致度、右現下経済界の状況に鑑み当交換所組合銀行全会一致の決議に依り更に建議仕候也
  明治四十年十一月九日       東京交換所委員長 豊川良平
    大蔵大臣 法学博士 男爵 阪谷芳郎殿
    逓信大臣      山県 伊三郎殿


明治史第五編交通発達史(「太陽」臨時増刊)第一五三―一六一頁〔明治三九年一一月〕(DK090060k-0014)
第9巻 p.612-620 ページ画像

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運輸五十年史 第一二〇頁(DK090060k-0015)
第9巻 p.620-621 ページ画像

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〔参考〕加藤高明(加藤伯伝記編纂委員会) 上巻・第五六三―五八一頁〔昭和四年一月〕(DK090060k-0016)
第9巻 p.621-628 ページ画像

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〔参考〕園田孝吉伝 第二六七―二六八頁(DK090060k-0017)
第9巻 p.628 ページ画像

園田孝吉伝 第二六七―二六八頁
○上略明治四十一年政府は全国の各営利会社経営の鉄道全部を買収し鉄道院の管下に属せしめて国家の事業とする策を建てた。その事業の実業界に及ぼす影響が大きいだけに可否の議論も区々てあつたが、単に十五銀行の立場から見ると事の成否は同行の発展計画上実に至深至大の関係を有するのであつた。従つて西園寺内閣成立と共に愈々鉄道国有断行を発表すると、例の十五銀行経営といつてもよい程の持て余し物であつた日本鉄道株式会社の全権利が劈頭第一に絶好の有利条件で買収されることになり、其際十五銀行がその持株に対して受領した鉄道公債額面実に三千百四十八万四千円の巨額を示したのである。玆に於て同行株主三十年の苦心は遂に報いられ創立の主旨は遂にその実を挙げたと同時に、園田氏の計画に成る根本的革新もこの時を以て名実共に完成の域に入つたのであつた。○下略


〔参考〕井上角五郎君略伝 第二〇七―二〇九頁〔大正八年一一月〕(DK090060k-0018)
第9巻 p.628-629 ページ画像

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〔参考〕竜門雑誌 第四四九号・第五八―五九頁〔大正一五年二月二五日〕 鉄道国有当時の回顧(中)(山田英太郎)(DK090060k-0019)
第9巻 p.629-630 ページ画像

竜門雑誌 第四四九号・第五八―五九頁〔大正一五年二月二五日〕
    鉄道国有当時の回顧(中)(山田英太郎)
○上略明治三十九年二月、政府が鉄道国有法案を議会に提出したる当初に在ては戦勝の余勢、事業勃興、株式沸騰、諸公債の価額は何れも高値を保ちて帝国五分利公債の如き九十七円の時価に在りしを以て、政府が鉄道買収に関する諸計算を為すに当りても新規に発行すべき買収公債の時価を九十円と仮定し、夫以下の低落を予想せざりし様子であつた。然るに鉄道国有法両院を通過し発布せられて未だ幾何もなきに諸株崩落の時期に会し、買収公債は未だ一枚も発行せられざるに諸公債は早く已に一斉崩落の道程をたどり、帝国五分利公債の如き三十九年内に於て業に已に九十円に下落し、四十年に入りては八十円台と為り、四十一年に至りては低落の勢益々凄じく、遂に七十八九円に激落すると云ふ惨状を呈した。是に於て朝野の論難、一層の噪然を来した計りではない、政府各般の経営に齟齬を生じ、一般財政の経理に困難を来し、之が弥縫に苦慮の情あり、殊に被買収十七会社の当事者は相結んで聯合研究会なるものを組織し、鉄道公債価額維持問題を標榜し下の二ケ条を政府に要請する事を決議した。
  一、鉄道公債の価額九十円以下に低落する場合には政府をして之を買上げしむる事
  二、鉄道公債には左の通り裏書を為さしむる事
   甲、鉄道公債は鉄道益金を担保と為す事
   乙、鉄道公債の元利は金貨を以て支払を為す事
 而して尚ほ渋沢・豊川・原・園田・早川諸氏等重立たる銀行家と謀り西園寺首相に迫りて悃言するに至れり、是れ四十一年五六月の事にして、当時東京手形交換所及商業会議所聯合会に於ても各々其の立場立場として建議する所ある等、物情常ならざるものあり。是より先き四月頃であつたか政府部内に於ても、山県逓信・阪谷大蔵の二相、議
 - 第9巻 p.630 -ページ画像 
相諧はざるものありしやに伝へられ、相共に辞職せられたが、七月十四日に及びては、遂に西園寺内閣の総辞職、桂内閣の再現を見るに至つた。そして此時に及でも鉄道公債は未だ一枚も発行せられざりしは勿論、一面買収価額の計算に就ても政府側と会社側との間、多般の違議あり、双方間の協議調ひて価額の決定を見たるは、同四十一年の四月の事であつた、根本の立法当時から無理な力任せでやつてのけた仕事は末始終六ケ敷ものと見える。