デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治7年12月（1874年）

抄紙会社資金ヲ増シテ金二十五万円ト為ス。

王子製紙株式会社回顧談　（男爵　渋谷栄一）　　第二〇―二一丁
　　　　五、増資と両分社
偖て段々に仕事を進めて行つて見ると新らしい事業だけに予算通りにゆかぬ点もあり、見込違ひを生ずる所もありして、最初の資金拾五万円だけでは迚も足りない。それに発起人中に苦情が起つて株金の払込みをせぬといふ者が出来た為に、忽ち資金の欠乏といふ非運に際会したけれども、百方奔走して漸く其の事に片をつけ、兎も角滞りなく着手した事業は進めることにした。斯くて七年の十月には株主が拾五名で、壱株金壱千円のものが総株数百五拾弐株弐分五厘、金高にして《（衍）》弐拾五万弐千弐百五拾円となつた。株式に弐分五厘といふ数字のあるのは妙であるが、其の頃では今日の商法に「株式ノ金額ハ均一ナル事ヲ要ス」といふ様な制裁があつた訳ではないから、金の都合で一株の半分とか四分一とかいふものを持つたからである。偖て其の歳の十一月横浜の「亜米一」商会へ諸機械代金として払渡した高が合計拾万八千〇七拾弗八拾仙という巨額に上つた。これでは最初通りの資本金では如何ともする訳にゆかぬから、同年の拾弐月資本金を弐拾五万円に増加するといふ相談を整へ、初めの計画よりも更に拾万円を増資したのであつた。

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渋沢子爵家所蔵文書　　黒六之一一
　　　　抄紙器械代及工場新築諸掛リ地所買入等入費概算
一金拾九万八百四拾円弐拾銭四厘四毛
　　　内訳
　一金弐千九百三拾四円六拾六銭　　雇外国人弐人居宅
　一金四千三百弐拾壱円八銭三厘　　破布石炭納屋壱棟
　一金壱万百四拾円　　　　　　　　煉化石百三拾万本
　一金九百九円五拾銭　　　　　　　煙筒　壱ケ所
　一金弐千六百円　　　　　　　　　御影石二百坪
　一金九千八百弐拾四円八拾三銭七厘四毛　工場家根七百三拾壱坪
　一金百八拾弐円七拾五銭　　　　　工場家根足場七百三拾壱坪
　一金弐百弐拾五円　　　　　　　　石神井川々浚
　一金四千八百八拾円四拾八銭　　　工場周リ地形
　一金四千四百五拾円　　　　　　　工場入口窓青石槻板
　一金六百八拾九円五拾五銭　　　　工場銅樋木樋共
　一金六百弐円五拾八銭　　　　　　破布石炭納屋地形
　一金四百五拾円　　　　　　　　　工場地価凡積
　一金百拾九円　　　　　　　　　　同所作物料
　一金六拾七円八拾七銭弐厘　　　　外国人住居地所価
　　　　　　　　　　　　　　　　　本綴器械
　　　　　　　　　　　　　　　　　活字
　一金七千百円拾銭　　　　　　　　印刷器械　凡積
　　　　　　　　　　　　　　　　　同用肉墨
　　　　　　　　　　　　　　　　　同運転機械及肉棒
　　　　　　　　　　　　　　　　　抄紙器械
　一金八万六千四拾四円　　　　　　同上ニ必用ノ諸品凡積
　　　　　　　　　　　　　　　　　同上組立ニ入用諸道具
　一金千六百九拾四円七拾九銭弐厘　竜動ヨリ器械運送手数料襍費電信郵便料書面高凡積
　一金壱万五千円　　　　　　　　　煉化石積手間其外入仕㕝凡積
　一金弐万五千円　　　　　　　　　役所役宅職人長屋土蔵新築凡積
　一金壱万三千六百円　　　　　　　抄紙器械残金
　　〆　　　　　　　　　　　　　　亜米一ヘ可仕払分凡積
　　　　抄紙器械代及工場新築諸掛リ地所買入等
　　　　入費ノ内既ニ払ヒ済ノ分
一金拾壱万九千九百七拾八円拾四銭四厘五毛
　　　内訳
　一金三百七拾三円六拾四銭　　　　工場地価ノ内
　一金六拾七円八拾七銭七厘弐毛　　外国人住居地所
　一同百拾九円　　　　　　　　　　工場作物料
　一同六千七百六拾円　　　　　　　煉化石百三拾万本代金ノ内
　一同千七百七拾弐円四拾四銭　　　外国人居宅新築代金ノ内
　一同千四百四拾円三拾六銭壱厘　　破布石炭納屋新築代金ノ内
　一金千六百弐拾六円八拾弐銭六厘　工場周リ地形代金之内
　一同四千五百円　　　　　　　　　工場家根煙筒御影石代金ノ内
 - 第11巻 p.32 -ページ画像 
　一同千四百八拾四円六拾六銭七厘　工場入口窓青石槻板代金之内
　一同拾万千八百三拾三円三拾三銭三厘三毛
　亜米一ヘ器械代凡積払
〆
積高
払済ト差引
　金七万八百六拾弐円五銭九厘九毛　不足

社事要録　　第一巻　　　　　　　　　（王子製紙株式会社所蔵）
明治七年
十月　株金ノ集額拾五万弐千弐百五拾円此株数百五十二株二五、株主十五名
十一月　諸機械代金トシテ横浜「ウオールスホール」商会ヘ払渡セル高計拾万八千七拾弗八拾仙
十二月　傭外国人ヲ王子亀山ノ新築家屋ニ移住セシム

諸会社綴込　　明治七年　三　　　　　　　　　（東京府庁所蔵）
（別紙）
　　　　御届書
当抄紙会社雇外国人フランクチースメン及トーマスボツトムリー、是迄第一国立銀行ニ住居罷在候処、今般武州豊島郡王子村抄紙工場之傍亀井山ニ於て住館落成ニ付右移転いたし候、此段御届奉申上候也
　　明治七年十二月十二日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　抄紙会社支配人
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　谷敬三
　　　東京府知事　大久保一翁殿
　　○明治七年一月・九月、明治八年六月及ビ明治二十年三月二十七日ノ項ヲ参照。