公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15
第11巻 p.222-243（DK110040k） ページ画像
明治31年8月20日（1898年）
当会社ハ創立以来成績挙ガラズシテ毎期損失ヲ重ネ、更ニ事業拡張ノ為資本金増加ヲ計リタルモ資金ヲ得ルコト困難ナルニヨリ、遂ニ是日株主総会ヲ開キ事業ノ整理ヲ議決ス。栄一之ニ出席シテ所感ヲ述ブ。後明治三十五年四月ニ至リ当会社解散ス。
株主臨時総会議案 （明治三一年八月二〇日）（DK110040k-0001）
第11巻 p.222-228 ページ画像
株主臨時総会議案 （明治三一年八月二〇日）
株主臨時総会議案
本会社第三十一年度以降ニ於ケル将来ノ整理方針ニ関シ、株主諸君ノ協議ヲ乞ハントス
曩ニ明治三十年十一月廿五日株主臨時総会ヲ開会シ本社ノ事業地タル石垣島近時ノ状態、台湾ノ我版図ニ帰シテヨリ南方ノ交通頻繁ヲ加ヘ八重山群島各地ニ於テ事業ヲ計画スルモノ尠ナカラスシテ、同地ノ物価賃銀共ニ益騰貴シ、為メニ当初設計ノ和洋折衷機械ヲ以テ製糖スルニ於テハ、到底収支相償フコト能ハサルヲ察シ、事業ヲ完全ニ経営センカ為メ設計ヲ改メ、純然タル洋式製糖機械ヲ調製シ之レニ伴フ資本ヲ増加シ、金参拾万円ト為スコトニ決議シ、其方針ニヨリ設計ヲ進行シタリト雖トモ、当時経済界ノ趨勢新ニ資本金ヲ募集スルコト容易ナラス、当局者ニ於テ百方周旋ノ結果、漸ク増資ノ半額金五万円ニ対スル株式引受者ヲ得タリ、依テ更ニ本年一月十九日株主臨時総会ヲ開会シ、前決議ノ旨趣ニ因リ一時五万円ヲ減シ資本総額金弐拾五万円議《（ト）》ナシ、而シテ予算上ノ不足金ハ従前ノ振合ニ準ヒ負債ヲナシ、事業ヲ継続進行シ追テ時機ヲ見斗ラヒ増資塡補スルコトニ決シ、爾来事業ノ為メニ要スル資金ハ専ラ旧新株金払込ヲ促シ、以テ客年十一月暴走ノ為
- 第11巻 p.223 -ページ画像
メニ破壊セラレタル製糖工場ヲ再築シ、且新式機械ヲ据付クルノ予定ナリシト雖トモ今春来経済界ノ形勢益々非ニシテ金融愈々必迫シ、従テ本社ノ融通漸ク閉塞ノ傾キアルノミナラス、旧新株金未払込者モ猶尠ナカラスシテ（予算資金三拾万円、払込金高弐拾壱万弐千四百七拾円、即八万七千五百三拾円金融ヲ欠ク）今日ニ於テハ到底設計ノ事業ヲ進行セシムルノ資金ヲ得ルコト能ハザルカ故ニ、取締役ニ於テモ更ニ沖縄県庁又ハ農工銀行若クハ日本勧業銀行等ヨリ資金調達ノ途ヲ講シ、種々計画、尽力スル所アリシト雖トモ、終ニ其目的ヲ達スル能ハス、然ルニ本会社ノ事業タル前述セシ如ク、在来ノ旧式若クハ和洋折衷機械ヲ以テ製糖スルニ於テハ、到底収利ヲ見ルコト能ハス、今ヤ事業ハ漸ク其緒ニ就キ雇入レタル農夫職工ハ支店所在地ニ永久移住スヘキノ傾向ヲ生シ、事務ニ於テハ農場ト工業トヲ区別シ、既ニ開墾地百六十六町六反歩ノ内九拾六町六反歩ハ、農夫中尤モ精撰シタルモノヲシテ小作法ヲ以テ耕作セシメタルガ故ニ、今日ニ於テハ大ニ農場ノ経費ヲ減省シ得テ、猶進ンテ土人ニハ小作法及自作ヲ以テ蔗作ヲ奨励スルノ方針ヲ採リ、今後新式機械ヲ据付ケ以テ製糖ヲ為スニ於テハ改良設計ノ利潤ヲ得ヘシト雖トモ、本会社今日ノ状態右ニ述ヘシカ如ク新機械ヲ輸送シ、工場ヲ築造スルノ資金ヲ得ルノ途ナキカ故ニ、誠ニ遺憾ニ堪ヘスト雖トモ、此際一時事業ヲ整理シ、三十一年度ヨリ三十三年度迄三季間ヲ限リ、農場及其他ノ物件ヲ会社ニ於テ撰定シタル人ニ保管セシメ、以テ支店地ノ維持ヲ計リ、目下沖縄県下土地整理ニ着手中ナルヲ以テ、追テ現在ノ開墾地及家屋敷地ノ所有権ヲ本会社ニ移転スルコトヲ得テ、固定資産ヲ有スルニ至ラバ亦資金調達ノ一方便ヲ得ヘク、猶右期間内ト雖トモ幸ニ経済界恢復ノ時期到ラハ、其目的ヲ達スルノ方法ヲ得ルコト固《（難）》カラサルヘシ、依テ今日ニ於テハ事業ノ全部ヲ整理シ、其時機ヲ俟ツテ徐ニ再興ノ計ヲ為サント欲ス、即整理ノ方法左ノ如シ
第壱号議案 本会社整理ヲ為スノ件
一、本支店整理
（一）本店
イ、経費ヲ節約スル為メ現在ノ本店事務所ハ本月限リ引払ヒ、仮ニ便宜ナル家宅ノ一部ヲ無償ニテ借リ事務所ニ充ツル事
ロ、取締役及監査役ハ事業再興迄、総テ無報酬ト為スコト
ハ、本会社ノ業務ヲ処理スル為メ要スル実費ハ之ヲ支払フモノトス
（二）支店
農場・建物・牛馬及諸機械其他ノ雑品ハ、左ノ条件ヲ以テ三十一年度ヨリ三季間、無償ニテ他人ニ保管セシムル事
但シ保管人ニ於テ支店事務ヲ代理シ、県庁島庁ニ対シ交渉応答ヲ為シタルトキハ其都度本店ニ報告ヲ為スコト
イ、農場ハ換作若クハ休作ヲ要スル場合ト雖トモ、少クトモ四拾町歩以上ハ毎年甘庶ヲ耕作シ製糖セシムルコト
ロ、保管セシムル総テノ物件ハ荒廃セシメス、会社ニ於テ返戻ヲ求ムル場合ニ於テハ現状ヲ以テ引渡ヲ為サシムルコト
- 第11巻 p.224 -ページ画像
但耕作物ハ此限リニアラス
ハ、保管セシメタル物件ハ契約期間内ト雖トモ、会社ニ於テ引渡ヲ要求シタル場合ニハ之ヲ拒ムコトヲ得サルコト
ニ、保管人ニ於テ委托シタル物件ヲ毀損シ、若シクハ廃滅シタルトキハ之レヲ償ハシム
但天災其他ノ不可抗力ノ原因ニヨリ生シタルモノハ此限リニアラス
右契約ノ締結及其他ノ細項目ニ至テハ取締役会ノ決議ニ一任スルコト
二、前述ノ方針ヲ採ルカ為メニ本会社整理ニ左ノ金額ヲ要ス
金参万六千五百〇四円拾六銭也
内訳
金壱万六千弐百円也
是ハ帝国商業銀行ヨリ借入タル金額ニシテ、第廿五号約束手形金弐千円三十一年八月六日限、第廿六号約束手形金五千円三十一年八月十日限、第廿七号約束手形金四千弐百円三十一年十月十九日限、第廿八号約束手形金五千円九月十六日限リ合計四口ナリ
金六百五拾円也
是ハ借入金壱万六千弐百円ニ対スル利子一日百円ニ付三銭五厘ノ割合ヲ以テ本年十二月三十一日迄算出シタルモ、整理ノ手順十二月以前ニ完結セハ此割合ヲ以テ減スルナリ
金参千七百七拾八円也
是ハ煙突代金ニシテ石川島造船所ヘ可仕払金額也
金壱千円也
是ハ石川島造船所ニ於テ調製シタル機械ヲ一時保存スルガ為メニ、錆止メ保存場等ニ要スル費用見積リ
金壱百拾五円也
是ハ本支店事務員雇入給料
金百弐拾八円也
是ハ取締役四名監査役二名ニ対スル七八月分報酬
金六拾円也
是ハ総会其他整理ノ為ニ要スル諸経費見積リ
金四千九百参円拾六銭
是ハ本年三月ヨリ七月マデ支店支払未済金ナリ
内訳
金百拾七円参拾八銭也
支店長手当六月分迄未払
金千弐百拾四円四拾銭也
職員俸給及手当未払
金七拾五円七拾八銭壱厘
小使給料未払
金四百参拾参円四拾六銭四厘
用達店払馬糧及黒糖樽代未払
- 第11巻 p.225 -ページ画像
金壱百七拾八円也
農場及製糖准技手給料未払
金六円也
農夫組長手当未払
金五百九拾八円五拾七銭四厘
定雇夫賃金五月廿六日ヨリ六月十五日マデ分未払
金三百弐拾五円九拾五銭五厘
煉化師舎宅工場建築請負金未払
金八拾円也
農具請負賃金大工未払
金壱百弐拾円也
三十一年七月迄雑費未払
金七拾五円也
煉化職二名手当未払
金弐拾五円也
井戸堀請負金未払
金七拾参円也
職員及労働者ヨリ預金
金参円五拾銭也
石灰取片付賃未払
金四拾五円也
幸堂物置葺替賃未払
金拾五円也
レール直シ賃未払
金拾八円八拾銭也
煉化用砂四升代未払
金弐拾八円四拾銭也
煉化用土二斗八升四合代未払
金拾五円也
煉瓦運搬請負金未払
金三拾円弐拾銭也
屋良武崎ヨリ松取付請負金未払
金壱百九拾弐円也
煉瓦釜屋根代未払
金六拾円也
灌漑滊関小家及番人己家代金未払
金七百五拾円拾弐銭也
農夫六月十六日ヨリ七月三十一日迄分賃金未払
金参百四拾七円九拾四銭四厘
煉瓦職工賃金未払
金七拾四円六拾四銭弐厘
書記赴任旅費日当未払
小以金四千九百〇参円拾六銭也
金参百円也
- 第11巻 p.226 -ページ画像
是ハ支店労働者一ケ月支払高九百円ト見積、八月十日迄ニ事業中止ノ見込ヲ以テ之ヲ三分シタル賃金ナリ
金四百〇八円也
是ハ支店職員八月分給料ナリ
金六百五拾円也
是ハ支店職員十四人解雇旅費外ニ家族十六人分、旅費一人ニ付弐拾壱円六拾六銭弐厘ノ割ナリ
金参千円也
是ハ労働者百六拾五人分解雇旅費外ニ家族三十五人分旅費一人拾五円ノ割ナリ
金三百五十円也
是ハ支店長旅費滞在費見積リ
金七拾円也
是ハ書記出張旅費滞在費見積
金参百円也
是ハ八重山整理ノ為メ出張員二人分経費見積リ
金六百円也
是ハ用達店浜崎ヨリ借入金未払
金四千円也
是ハ甘蔗小作受負人ノ蔗田反別九拾六町六反歩、此受負代金毎反拾弐円ニ買収ノ約ナリ、此内毎反弐円ツヽ苗代荒植手数トシテ会社ニ引去リ、残金拾円ツヽ受負者ニ仕払フヘキ契約ナルヲ以テ、即九拾六町六反歩ニ対スル買上代金九千六百六拾円トナルナリ、今中途ニシテ之レヲ解約スルニ付毎反四円ツヽニ減額セシメ示談ノ見込金本項ノ如シ
三、整理ノ為メニ第二項ニ於テ記載シタル金三万六千五百〇四円拾六銭ヲ要シ、然シテ此金額ハ左ニ掲ケタル項目ニ由リ得ルモノトス
金拾壱万三千五百三拾壱円八拾銭五厘
内訳
金参百参拾円也 銀行預ケ金
金五百円也 砂糖売上残金見積
金七万五千百七拾壱円八拾銭五厘 製糖機械全部
金壱万四百三拾円也 旧株未払込株金総額
金九千六百円也 新株第二、三回未払込株金総額
金壱万七千五百円也 新株払込通知未済金総額
（一）右旧新払込株金徴収ノ方法並ニ製糖機械売却又ハ抵当トシ、其得ル所ノ金員ヲ以テ整理ノ事務ハ便宜専決スルコトヲ取締役ニ一任スルコト
但製糖機械ヲ売却セントスルモ全部ヲ一時ニ売却スルハ、却テ利ナラサルノミナラス或ハ為シ能ハザルノ事タリ、故ニ今其機械ノ中ニ就キ、先ツ滊鑵六台滊機壱台揚水ポンプ滊筩弐台ヲ個々別々ニ相当代価ヲ以テ売却シ、又烟突ハ原
- 第11巻 p.227 -ページ画像
価三千七百七拾八円ナルヲ石川島造船所ニ相当代価ヲ以テ引取方ヲ交渉セントス、其他ノ器械器具類ハ、他日復興ノ際必要ナルモノニシテ、且此際売却スルモ極メテ廉価ニ過キサルニ付保存シ置カントス
（二）右旧新株金徴収並ニ機械ヲ担保トシ若クハ売却シテ得ル所ノ金員ヲ以テ、第二ニ於テ記載シタル整理ノ為メニ要スル見積金参万六千五百〇四円拾六銭ヲ取締役会ノ決議ニ由リ緩急ニ応シテ漸次支払ヒタル後、残ル所ノ金員アル場合ニ於テハ之ヲ銀行ニ預金トナシ置キ他日復興事業ノ資ニ供スルモノトス
右原案ニ決ス
第二号議案 定款第二条ヘ左ノ但書ヲ加フル件
但シ取締役会ノ決議ニヨリ本店ヲ他ニ移転スルコトヲ得
右原案ニ決ス
第三号議案 監査役一名満期改撰外一名補欠撰挙ノ件
監査役渋沢栄一氏ハ満期ニ付改撰シ、同小室信夫氏死亡ニ付補欠撰挙ヲナスモノトス
右監査役渋沢栄一氏満場一致ヲ以テ重任スルコトニ決シ、尚付帯決議トシテ定款第十七条ヲ左ノ通リ改正スルコトニ決シタルヲ以テ、監査役小室信夫氏補欠撰挙ハ挙行セス
第十七条 当会社ニハ左ノ役員ヲ置ク
一取締役 五名
一監査役 二名
以上
（別紙）
通常並臨時総会議事概要
明治三十一年八月廿日午後一時日本橋区浜町一丁目日本橋倶楽部ニ於テ、第三回通常総会及ヒ臨時総会ヲ開キ当日ノ出席左ノ如シ
株主六十一名
株数三千七百十六株
一同着席スルヤ定款第三十六条ニ拠リ取締役会長大江卓氏議長席ニ着キ曰ク、当日ノ御出席者並ニ株数共定款第三十一条ノ定数ニ満チタルヲ以テ是ヨリ第三回通常総会ヲ開キ、専務取締役ヲ以テ当季間ノ事業ヲ報告セシムル旨ヲ演述セラル、因テ専務取締役中川虎之助氏ヨリ一季間ノ事業成績ヲ報告シ、書記ヲシテ諸計算ヲ朗読セシム
右報告了テ富永冬樹氏ヨリ客年風災ノ為メ蒙リシ損害ノ件、並ニ諸計算ニ付質問アリ、専務取締役中川虎之助氏一々之ニ答ヘタリ
右説明了リテ議長ハ第三回貸借対照表・財産目録並ニ損益計算ノ認定可否ヲ問ヒ、全会一致ヲ以テ各原案ニ決ス
是ニ於テ第三回通常総会ヲ結了セリ
議長ハ是レヨリ更ニ臨時総会ヲ開ク旨ヲ述ヘ、書記ヲシテ第一号議案ヨリ第三号議案迄朗読セシメ、議案ニ対スル詳細ハ専務取締役ヨリ説明スヘキ旨ヲ演フ、依テ専務取締役中川虎之助氏第一号議案ニ対シ詳細ニ説明シ、尚ホ議長ヨリ第一号議案ヲ提出スルノ止ヲ得サルニ至リシ理由ヲ弁明シ、其此ニ至ル迄ニハ客年十一月臨時総会ニ於テ決議シ
- 第11巻 p.228 -ページ画像
タル事業拡張設計ヲ進歩セシメンカ為メ、之ニ要スル資金ハ臨時総会ノ決議ニ由リ一時借入金ヲ以テ之ニ充テタリト雖、爾来経済界ノ形勢次第ニ否運ニシテ新ニ借入金ヲ為ス能ハスシテ、且株金未払込者モ猶尠ナカラザルガ故ニ、事業ヲ進行スルノ資金ヲ得ルコト極メテ困難ナルヲ以テ、取締役ニ於テモ日本勧業銀行或ハ沖縄農工銀行、若クハ沖縄県庁ニ就テ借入金ヲ為スノ計画ヲ為シタリト雖、目下本会社ニ於テ担保ニ供スヘキ物件ヲ有セサルカ故ニ交渉容易ニ纏マラス、会一方面ニ於テ借入金ヲ為シ得ル見込立タントシタルモ、大蔵省ノ故障ノ為メニ之ヲ果サスシテ終ニ其目的ヲ達スル能ハス、今日ニ於テハ到底事業ヲ進行スルノ術ナキヲ以テ暫ク整理ノ方法ヲ講シ、時機ノ到来ヲ待テ徐ニ復興ノ計ヲナスコトニ決シ、本案ヲ呈出スルニ至リシハ我々ノ微力株主諸君ニ対シ謝スルノ外ナシト述ヘラル
監査役渋沢栄一氏 本会社ノ株主トナリタル由来ヨリ専務取締役中川虎之助氏ノ糖業ニ熱心家ニシニ且自己ノ新事業ヲ好ミ、殊ニ本会社ノ目的糖業事業ナルニ望ヲ属シ、現ニ本会社ノ一役員タリト雖、自己曾テ小笠原島ニ於テ印度藍ヲ移植スルノ事業ヲ目論見タレトモ、終ニ失敗ニ帰セリ、而シテ其原因ノ重ナルモノハ風害ナリシナリ、本会社ノ事業タル農工ヲ兼営スルモノニシテ経営上困難ナランコトハ当初ヨリ懸念ナキニシモアラサリシト雖トモ、事業地ニ於テ客年十一月及本年非常ノ風災ニ罹リ其損害モ尠ナカラズ、前年小笠原島ニ於ケル自己ノ失敗ニ鑑ミ今昔ノ感ナキ能ハザルナリ、本会社ノ不幸ニシテ終ニ今日ノ如キ整理方法ヲ為サヽルヲ得ザルニ至リシハ誠ニ遺憾ナレトモ、自己ニ於テモ事業地ノ事情ヲ詳ニセス、従テ事業将来ノ定見立チ難キガ故ニ本案ノ方法ヲ賛シタルヲ説ケリ
稲生豊次郎氏 本案ハ重役諸君ニ於テモ百方画策セラレタルノ結果、止ヲ得スシテ提出セラレタルモノニシテ我々株主ニ於テモ止ヲ得サルモノト認ムト雖トモ、本会社ノ此ニ至リタル重ナル原因ハ風災ノ為メニ損失ヲ蒙リタルモノニシテ、事業ニ於テハ将来有望ナルモノトスレバ本案ノ方法ヲ採ルハ極メテ遺憾ニ堪ヘサルナリ、依テ此際新ニ株主ヨリ一株ニ付金拾円位ツヽ出資ヲ為シ、当初ノ目的ヲ達シタキヲ説キ重役諸君ニ於ケル意見如何
議長ハ稲生豊次郎氏ノ提議ニ対シ至極尤モノ御説ナレトモ、株主諸氏ノ中一人ニテモ不同意者アレハ義務外ノ事故行ハレス、故ニ此際到底行ハレサル事ト思考セリ
富永冬樹氏 本案ハ止ヲ得サル次第ト思考スルニ付、原案ノ通リニ決シ取締役ニ一任スルコトニ致シタシ、諸君ノ御意見ハ如何ト
議長ハ別ニ御質問モナキ様ナルカ、第一号第二号議案ハ共ニ関聯スルモノナルカ故ニ便宜上合セテ採決致シタシ、異議ナキヤヲ問ヒシニ満場異議ナシ、原案ニ決スルノ外致シ方ナシトテ、二議案共ニ原案ニ決シ、合セテ付帯議案トシ、定款十七条ヲ改正セリ
以上
青淵先生公私履歴台帳（DK110040k-0002）
第11巻 p.228-229 ページ画像
青淵先生公私履歴台帳 （渋沢子爵家所蔵）
民間略歴（明治二十五年以後）
- 第11巻 p.229 -ページ画像
○上略
明治二十八年
一八重山糖業株式会社ノ創立ヲ賛助シ、尋テ監査役ニ選ハレ現ニ其職ニアリ
本会社ハ沖縄県八重山群島ノ石垣島ニ於テ、甘蔗ヲ栽培シ砂糖ヲ製スルヲ以テ目的トスルモノニシテ、友人ノ勧ニ依リ発起人ニ加入シ、其創立ニ尽力シ成立後引続キテ其監査役タリ
○中略
（朱書）
以上明治卅三年五月十日調
備考
現在従事セル諸会社ノ業務其他公私団体等ニ対スル職任ハ左ノ如シ
諸会社銀行等
○中略
一八重山糖業株式会社監査役 （後筆）卅五年四月解散
○中略
以上明治三十三年五月十日調
○当会社解散ニツキテハ他ニ資料ヲ得ズ、右「履歴台帳」ニヨリ明治三十五年四月トナス。
〔参考〕八重山糖業株式会社第二回実際報告 （自明治二九年七月至明治三〇年六月）（DK110040k-0003）
第11巻 p.229-233 ページ画像
八重山糖業株式会社第二回実際報告 （自明治二九年七月至明治三〇年六月）
事業報告
第一 総会
通常総会 明治廿九年八月十日、日本橋区浜町二丁目日本橋倶楽部ニ於テ株主通常総会ヲ開キ、第一回事業ノ要領ヲ報告シ財産目録・貸借対照表ノ認定ヲ了シ損益計算ヲ決議セリ
臨時総会 明治三十年五月十二日、日本橋倶楽部ニ於テ株主臨時総会ヲ開キ、左ノ議案ヲ決議セリ
第一号案
定款第三条但書追加
但シ便宜甘蔗ヲ買収製糖スルコトヲ得
第二号案
定款第八条中五回払込ノ件改正
第五回以下ノ払込ハ明治三十一年三月迄ニ漸次払込モノトス
第三号案
明治三十年五月十二日臨時総会附帯ノ決議
定款第八条株金ノ払込ハ経済界ノ事情ニ因リ一時之ヲ中止シ、他ヨリ借入金ヲ為シ事業進張ノ資金ニ充ツルコトヲ取締役ニ委任スルコト
（理由）現在払込ノ外ニ尚ホ跡金五円宛ノ払込ヲ了シ、其後ノ払込ハ取締役ニ於テ金融界ノ景況ヲ視テ、或ハ之ヲ見合セ他借シテ処弁執行スルコトヲ規定シタルモノナリ
○「第二株金及株式」略ス。
- 第11巻 p.230 -ページ画像
第三 本店所務要領
○上略
一明治廿九年十月一日開墾免許権譲渡ノ義ニ付、左ノ出願ヲナセリ
開墾免許権譲渡願
明治廿六年十二月六日付沖東出第二号ヲ以テ八重山開墾組合中川乕之助外八名ニ対シ、八重山石垣島中宮良川方面轟川方面及名蔵村方面内山林並ニ牧場ニ属スル土地ヲ除キ、支障ナキ場所ニ於テ壱千五百町歩開墾許可相成、即チ支障ナキ場所ニ於テ現地七百三拾弐町九反四畝七歩九合弐勺七才御引渡ヲ受ケ、其内既ニ開墾成功シタル場所モ有之候処、今般都合有之私共組合ヲ解キ開墾地内ノ建物等ハ八重山糖業株式会社ニ譲渡候ニ付テハ、該開墾地免許権モ併テ譲渡仕度、尤モ譲渡ノ上ハ御指令ト共ニ御下附相成居候命令書ハ、譲受人ニ於テ堅ク遵守可仕候ニ付、右御許可被成下度此段譲渡人並ニ譲受人連署ヲ以テ奉願候也
八重山開墾組合総代
譲渡人 小室信夫
八重山糖業株式会社
取締役会長
譲受人 大江卓
同会社専務取締役
同 中川乕之助
同会社取締役
同 鳥海清左衛門
沖縄県知事 男爵奈良原繁殿
○中略
一明治三十年四月廿三日株式会社石川島造船所ヘ製糖器械製造ヲ注文スルニ付契約書ヲ取替セタリ
○下略
第四 支店所務要領
一明治廿九年七月七日拝借地ニ係ル開墾設計書、並ニ予算調製方ノ件ニ付、未タ創業ノ際精確ナル調査難致趣旨ヲ以テ延期ノ出願ヲナシ同年九月四日付ヲ以テ許可セラレタリ
一明治廿九年十一月十日支店長以下二百七名北州丸便ニテ渡来セリ
一明治廿九年十一月廿日加害牛馬防禦ノ件ニ付、蔵元ヘ左ノ上申ヲナセリ
開墾地近辺ノ諸牧場ニ於テ飼養ノ牛馬ニシテ、該牧場ヲ出テ当会社開墾地ニ植付有之甘蔗等ニ、住々損害ヲ加ヘ候ニ付、予テ県達ヲ以テ開墾地付近ニ於テハ牧場外ヘ牛馬放牧不相成筈ニ相成居候処、此頃ニ至リ候テハ右開墾地ヘ屡闖入シ来リ、蔗園ヲ害スル尠カラズ候、尤モ此迄当会社ニ於テ甘蔗植付有之箇所ハ土塁ヲ以テ囲遶致有之ヲ以テ、朝夕各出入口ノ開閉ニ注意シ専ラ防禦致来候得共、目下土塁内ノ開墾ハ疾ク完了シ土塁外ニ於テモ已ニ数十町歩ヲ開拓シ、直ニ蔗苗植付ニ着手ノ計画ニ有之候、然ルニ前顕ノ如ク牛馬ノ為メ、被害ノ患有之候テハ、忽チ事業上ノ支障ト相成
- 第11巻 p.231 -ページ画像
候、就テハ以後右牧場内ニ於テ飼養ノ牛馬ハ牧場以外ニ解放不相成様、大至急御差止被成下度、若又今後依然田畑原野等ニ解放シ自然当会社耕作物ニ加害候時ハ、当会社ノ所見ヲ以テ適宜ノ防禦可致候間、予メ御了承被成下度、此段併セテ上申候也
八重山糖業株式会社
明治廿九年十一月廿日 支店長 中川乕之助
蔵元御中
一明治廿九年十二月十日製糖及蔗苗植付ニ着手シタリ
一明治三十年一月十日支店長製糖器械購入ノ為メ上京シタリ
一明治三十年三月四日製糖ヲ了ル、抑モ本期栽培ノ甘蔗ハ重ニ蔗苗ニ伐採シタルヲ以テ明治廿九年十二月十日製糖着手ノ日ヨリ、本日即チ終了ノ日迄ニ八十五日ヲ要シタルモ、内三十九日ハ蔗苗植付等ノ為メ休業シ残リ四十六日間中或ハ半日或ハ終日就業シタルモノナレハ、固ヨリ蔗苗ニ伐採シタル残茎ヲ搾汁シタルモノニテ精確ナル計算ハナシ難シ、而テ前季植付反別弐拾七町三反三畝弐拾八歩ヨリ蔗苗ノ残茎ニテ製糖シタルニ白下糖三万弐千六百三拾七斤ヲ穫タリ
一明治三十年四月九日蔗苗ノ植付ヲ完了ス、本季植付ハ前季植付蔗園ノ内弐拾七町三反三畝弐拾八歩ト、四ケ村椎名村竹富島等ニ於テ買入レタル、五町壱反弐畝歩合計三拾弐町四反五畝弐拾八歩ヨリ伐採シタル蔗苗ヲ以テ七拾七町六畝弐拾七歩ヲ植付ケタレハ、前季植付反別弐拾七町三反三畝弐拾八歩ヲ合セ百四町四反弐拾五歩ノ蔗園ヲ得タリ、但植付反別ノ割合少キハ植付後多キハ三回、少キハ一回ノ中植ニ意外ノ蔗苗ヲ要シタルガ為メナリ
一本季間内ニ於テ荒起シノミヲ成シタル土地六拾弐町弐反弐拾壱歩アリ、是ハ本季間ニ植付ノ見込ナリシモ蔗苗不足ノ為メ再墾ヲ見合ス事トナリタリ
一培養 前季植付蔗田及当季植付ノ分共多キハ五回、小キモ二回以上ノ手入済ミタリ、但手入ノ度数ハ其土地柄ト天候トニ依テ必要ヲ生スルカ故ニ、予メ一定シ難シト雖トモ全体ノ蔗田ニ対シ、今後尚二回ノ手入ヲ為スベキ見込ナリ、且ツ蔗田中最モ生長宜シカラザル土地ヘ、少量ノ馬糞及人糞等ノ肥料ヲ施シタリ、未タ本季間ニ於テ其結果ノ良否ヲ知ル能ハズト雖トモ必ズ多少ノ好果ヲ得ベシ
一土塁 牛馬ノ加害ヲ防ク為メ開墾地周囲ノ旧土塁ヲ修築シタルモノ九百四十一間ニシテ、新規ニ建設シタルモノ百八十九間木垣三百五十一間三合合計延長一千四百八十一間三尺《（尺）》ノ修築ヲ了シタリ、右ニテ目下植付済ノ地所及ヒ高原荒起地ノ防禦線ヲ完了シタリ、且該土塁ニテハ猪害ヲ防クコト難出来ニ付、野猪ハ時々鉄砲ヲ以テ駆除スルノ外良策ナシ
一道路 幸堂支店本部ヨリ名蔵農場事務所ニ至ル新道路一千六百七十三間、即チ二十七町五十三間橋梁四ケ所（柳橋勇橋池ノ橋幸堂橋）ト名蔵農場事務所ヨリ東北方御神ニ至ル道路十二町、支線白石御神ニ至ル五町合計十七町ト、幸堂支店本部ヨリ名蔵農場事務所ニ至ル軌道一千六百八十三間、枝線三十間総計延長一千七百十三間ノ布設ヲ竣工シタリ
- 第11巻 p.232 -ページ画像
一建築 製糖工場四棟此坪数二百二十八坪、幸堂農夫舎二棟此坪数六十坪、名蔵農夫舎十二棟此坪数二百五十五坪、同炊事場二棟此坪数十二坪、病院一棟此坪数二十五坪、厩二棟此坪数六十坪ト幸堂物置石灰入仮木屋二棟此坪数二十六坪、名蔵牛馬舎二棟、仕事場一棟、農具置場一棟、農夫舎一棟、炊事場一棟、合計六棟ノ仮木屋此坪数百五十一坪、合計八百十七坪ノ建築ヲ竣工シタリ
一人口 支店在勤者及ビ其家族等支店設置以前ヨリ在留者ト支店設置ノ際渡航シタル者ト、支店設置後来航シタル者トヲ合セ、明治廿九年十一月九日現在ノ人員ハ八十名ニシテ、内支店長一名職員十五名医師一名大工三名木挽四名石工二名鍛冶三名桶屋一名農夫十九名、支店長以下職員及各労働者ノ家族三十一名ナリシカ、十一月十日入港ノ北州丸便ヲ以テ二百六名其後二十名合セテ二百二十六名、内職員五名大工八名船大工一名木挽四名農夫百七十一名職員及各労働者ノ家族三十七名来航総計三百六名、内死亡者十名（職員一名農夫六名家族三名）解雇三十六名（職員四名大工一名木挽一名農夫三十名）帰省十四名（職員二名木挽一名鍛冶一名農夫三名職員及農夫ノ家族七名）ニシテ差引現在数二百四十六名（外ニ職員トシテ雇入レタル土人三名）内支店長一名職員十三名（外ニ土人三名）医師一名大工十一名石工二名木挽六名鍛冶二名桶屋一名農夫百五十一名、支店長職員及各労働者ノ家族五十八名ナリ
一前季植付ノ甘蔗ハ支店設置後着手シタレバ其植付季節ノ手遅レトナリタル為メ、以テ将来ノ比例トナスヲ得スト雖トモ蔗作上施肥灌漑ノ必要ヲ見ンカ為メ、凡ソ同一ノ地味ヲ選ミ栽培ヲ試ミタルニ其成蹟左ノ如シ、但シ同種類ノ甘蔗ヲ試作シタルモノニ非ラザレバ比較ノ完全ナルモノトハ云ヒ難シ
二年株出
一種類 在来種
一反別 弐反〇弐拾八歩
一株出 明治廿九年四月
一収穫 明治廿九年十二月廿日
一生育期間 九ケ月
一灌漑 無
一肥料 無
一手入 草取三回孫刈一回
一総収穫量 二千八百九十一貫八百目
一壱坪ノ収量 四貫六百〇五匁
一壱反歩同 一千三百八十一貫五百目
右ハ肥料灌漑共ニ施用セサレトモ又タ株ノ生ヘ切レアルモ草取等ハ可ナリ行届キ、蔗圃中最モ生立宜シキ箇所ノ収量ナリ
初年植付
一種類 布哇種
一反別 八坪
一植付 明治廿九年五月
一収穫 明治三十年四月
- 第11巻 p.233 -ページ画像
一生育期間 十二ケ月
一灌漑 隔日若クハ毎日
一肥料 豆粕少量及ヒ風呂垢水
一手入 草取三回孫刈一回
一蔗茎 三百二十本
一総収穫量 一百〇八貫八百目
但一本極小九十目極大七百五十目平均三百五十目
一壱坪ノ収量 十三貫六百目
一壱反歩同 四千〇八十貫目
右ハ植付季節ノ手遅レトナリタルニモ拘ハラズ、又初年ノ植付ハ常ニ二年株ノ収量ニ及ハサルモノナルニモ拘ラス、此ニ本成跡《（績）》ヲ得タルハ生育期間ノ長カリシト少量ノ肥料ヲ施用シタル事等、多少ノ関係アルベシト雖モ要スルニ灌漑ノ効ニ依テ斯ク多量収穫ノ好果ヲ得タリ、但今明年ハ灌漑水利ノ工事落成セサルニ付、農場ノ収穫遺憾ナカラ此ノ標準ニ拠ルコトヲ得ズ
第五 職員
一本会社現在ノ職員ハ副支配人一名書記十一名器械技師二名同技手一名農場技師二名農場監督二名同技手二名ニシテ、副支配人栗田代作ヲ願ニ依リ解雇シ、書記浜田三孝ヲ以テ副支配人トス
〔参考〕八重山糖業株式会社第三回実際報告 （自明治三〇年七月至明治三一年六月）（DK110040k-0004）
第11巻 p.233-239 ページ画像
八重山糖業株式会社第三回実際報告 （自明治三〇年七月至明治三一年六月）
事業報告
第一 総会
通常総会 明治三十年八月廿五日、日本橋区浜町壱丁目日本橋倶楽部ニ於テ株主通常総会ヲ開キ、第二回事業ノ要領ヲ報告シ財産目録・貸借対照表ノ認定ヲ了シ、損益計算ヲ決議セリ
臨時総会 明治三十年十一月廿五日日本橋倶楽部ニ於テ株主臨時総会ヲ開キ、左ノ議案ヲ決議セリ
第一号議案 定款ヲ改正シ監査役一名ヲ増スノ件
定款第十七条ヲ左ノ如ク改正シ、監査役一名ノ選挙ヲナス事
第十七条 当会社ニハ左ノ役員ヲ置ク
一取締役 五名
一監査役 三名
第二号議案 定款ヲ改正シ資本金ヲ参拾万円株式ヲ六千株トスルノ件
定款第四条及ヒ第七条ヲ左ノ如ク改正セントス
第四条 本会社ノ資本総額ハ金参拾万円ト定ム
第七条 本会社ノ資本金ハ之ヲ六千株ニ分チ、一株ヲ金五拾円トシ、株式一個ニ付株券一枚ト定ム
又タ定款第八条ニ左ノ二項ヲ加フ
新株第一回払込一株ニ付金拾弐円五拾銭
右明治三十一年一月廿五日迄ニ払込ムモノトス
新株第二回以下ノ払込ハ事業ノ必要ニ応シ、取締役会ノ決議ニヨリ其払込金高ト払込日時トヲ定メ、明治三十二年六月迄
- 第11巻 p.234 -ページ画像
ニ漸次払込ムモノトス
但毎回ノ払込ハ拾円ヲ超過セサルモノトス
尚ホ事業拡張ノ結果、洋式製糖器械製造費並ニ同諸費用ハ全然株主ニ於テ承諾ナシ置ク事ニ決ス
第三号議案 取締役弐名監査役一名ノ補欠選挙ヲナスコト
右選挙ハ全員一致ヲ以テ左ノ通リ当選ス
取締役 稲井永敏
同 大野利右衛門
監査役 原藤吉
第四号議案 株金払込ニ関スル件
第六回払込分割左ノ如シ
一金五円
右明治三十年十二月廿七日迄ニ払込ムモノトス
一金五円
右明治三十一年一月廿七日迄ニ払込ムモノトス
一金五円
右明治三十一年二月廿五日迄ニ払込ムモノトス
附帯決議 増資新株弐千株募集方法ヲ定ムルコト左ノ如シ
一今回新タニ増加スル資本金拾万円即チ弐千株ハ、之ヲ旧株四千株ニ割当テ旧株二株ニ付、新株一株ヲ引受クルモノトス
一新株ヲ旧株ニ割当テ端数ヲ生シタル等ノ場合ニ於テハ、其処弁方ヲ取締役ニ一任スルモノトス
一新株ヲ引受ケタル者ハ来ル十二月廿日限リ一株ニ付金弐円五拾銭ノ証拠金ヲ添付シ、本会社ニ申込証書ヲ差入ルヽモノトス
但シ旧株主ニテ新株ヲ引受クルヤ否ヤハ便宜ノ為メ十二月十日迄ニ申込ヲナスコトニ決シタリ
臨時総会 明治三十一年一月十九日日本橋倶楽部ニ於テ株主臨時総会ヲ開キ、左ノ議案及附帯議案ヲ決議セリ
定款第四条及ヒ第七条ヲ左ノ如ク改正ス
第四条 本会社ノ資本総額ハ金弐拾五万円ト定ム
第七条 本会社ノ資本金ハ之ヲ五千株ニ分チ、一株ヲ金五拾円トシ、株式一個ニ付株券一枚ト定ム
附帯議案 定款第八条中二項ヲ左ノ如ク改正ス
新株第二回以下ノ払込ハ事業ノ必要ニ応シ取締役会ノ決議ニヨリ、其払込金高ト払込日時トヲ定メ、明治三十一年十二月迄ニ漸次払込ムモノトス
但毎回ノ払込ハ拾円ヲ超過セサルモノトス
○「第二株金及株式」「第三本店処務要領」略ス。
第四 支店所務要領
一九月三十日 風土病ノ予防猪害ノ防禦、及薪炭用ノ為メ名蔵農場附近ノ山林ニ於テ樹木伐採ノ件願出、十月四日付ヲ以テ許可セラレタリ
一十一月三日 ヨリ同四日ニ亘ル大風雨ノ為メ家屋道路橋梁及蔗園
- 第11巻 p.235 -ページ画像
等ノ損害ヲ被ルコト甚シ、其実況左ノ如シ
幸堂事務所ニ属スル分
機械工場 全潰 四棟 弐百弐拾八坪
家屋 全潰 十三棟 四百弐拾坪
同 半潰 壱棟 拾五坪
同 破損 五棟
伝馬船 全潰 三艘
同 半潰 壱艘
此損害金高弐万八百四拾五円参銭九厘
名蔵農場ニ属スル分
家屋 全潰 廿六棟 五百拾五坪五合
同 半潰 三棟 四拾五坪
同 破損 拾壱棟
此損害金高壱千六百弐拾五円七拾五銭七厘
外ニ
儲木・肥料（牛骨）石炭「ダライバン」井戸・甘蔗搾己家・道路・橋梁・土塁及木垣等ノ被害ヲ概算スレバ
此損害見積金高五千円
損害合計金弐万七千四百七拾円七拾九銭六厘
甘蔗ノ被害ハ取調ヘタル処ニテハ平均二割五分位減作ノ見込ナリシモ、其後頗ル良好ノ結果ニテ収穫上一割位ノ損害ニ過キサリシナリ
一風災後復旧工事及製糖用新工事
一幸堂ノ分 舎宅差掛ケ・農夫舎・砂粘仮己家・物上ケ己家・物置己家・風呂場・煉化工場・煉化職舎宅等新築シタルモノ十三棟此坪数二百十四坪五合ニシテ、同修繕シタルモノ支店本部支店長舎宅・職員舎宅・倉庫石炭己家等五棟此坪数三百三十二坪ナリ
一名蔵農場分 農夫舎・牛己家・物置・鍛冶・大工職・工場砂糖仮倉庫・煎糖場・器械場・搾己家・搾粕己家等四十棟此坪数六百四十五坪四合一勺（内搾己家・搾粕己家、合セテ十五棟此坪数二百二十五坪ハ僅ニ製糖中使用ノ見込ヲ以テ築造シタルモノニシテ、殆ント家屋トシテハ計算シ難キ位ノモノナリ）ハ新築シタルモノニシテ、同修繕シタルモノハ職員舎宅・農夫舎・馬己家・馬糧炊事場・農具仮己家等廿棟此坪数三百七十二坪七合五勺ナリ
一道路・橋梁 幸堂橋ヨリ製糖工場ニ至ル新道路二百十間、及該道路上側ニ水抜溝二百十間五尺ノ新工事、並ニ十一月三日大風ノ為メ破損シタル幸堂名蔵間道路凡ソ五十間及ヒ柳橋ノ復旧工事落成セリ
一十一月廿二日 甘蔗苗植付ニ着手シタリ
一同月同日 八重山人ニ甘蔗奨励ノ為メ甘蔗無代価配分ニ付、各村頭ヘ依頼書ヲ発送セリ
一十二月廿日 製糖ニ着手シタリ、但シ風災後製糖ノ準備未タ整ハスシテ極メテ僅少ノ製造ニ過キス
一明治三十一年三月廿二日 蔗苗ノ植付ヲ終ル、本季植付ハ前季植
- 第11巻 p.236 -ページ画像
付蔗園ノ内、拾五町歩ヨリ伐採シタル蔗苗ヲ以テ前季荒起シ地六拾弐町弐反弐拾壱歩ノ内三十三町三反歩ヲ植付ケタレハ、前季植付反別百〇四町四反廿五歩ヲ合セ百三十七町七反廿五歩ノ蔗園ヲ得タリ、但シ荒起シ地悉皆ニ植付得サリシハ、適当ノ蔗苗少ナキト使用人全体ヲ製糖ニ従事セシメタルヲ以テ、人夫ノ手廻リ兼ネタル為メナリ
一本季間ニ於テ荒起シノミヲナシタル土地壱町九畝九歩アリ、是ハ名蔵農場内ニ於テ前季荒起シ地ノ外点々散在セル箇所ヲ越シ得ラルヽ丈ケ開墾シタル結果ナリ、而シテ前季荒起シ地ヲ合セテ六十三町三反歩ノ内、前項ノ事情ニ依リ三拾三町三反歩ニ植付ケ残リ三拾町歩ノ内九町歩ハ成墾、即チ第二回（プラウ）ヲ懸ケ弐拾一町歩ハ荒起シノ儘ニナシ置クコトヽナリタリ
一同月廿三日 幸堂船囲場新設及幸堂四ケ村間道路修築橋梁架設用材ニ充ンガ為メ、名蔵村拝借地内ニ散在セル松立木払下願書ヲ呈出シタリ
一五月廿三日 名蔵農場ニ小学校分教場ヲ設ケ以テ職員及各労働者ヲシテ永住ニ安セシメンカ為メ、願書ヲ八重山島司ヘ呈出シ設置ノ許可ヲ得タリ
一同月廿五日 幸堂四ケ村間公道及新設ノ件ニ付出願ヲナシタリ
一六月三日大風雨アリ損害左ノ如シ
幸堂事務所ニ属スル分
物置己家 全潰 壱棟
石灰己家 同 弐棟
砂糖囲己家 破損 弐棟
農夫舎 同 弐棟
厩 同 弐棟
名蔵農場ニ属スル分
牛己家 全潰 三棟
臨時夫舎 同 壱棟
物置己家 同 壱棟
農夫舎 同 壱棟
鍛冶職工場 同 壱棟
仮農夫舎 同 壱棟
砂糖囲仮己家 破損 壱棟
農夫舎 同 拾棟
厩 同 弐棟
一六月三日 風雨ノ為メ甘蔗圧搾己家破壊セラレ、且製糖期節ヲ後レタルタメ製糖ヲ中止セリ
一培養 前季植付蔗園及本季植付ノ分共、草取リ一回根寄一回、鍬引一回乃至二回ノ手入済ミタリ、本年六月以降蔗園ノ内九十六町六反歩ヲ請負及小作人廿八名ニ分作セシムルコトヽセリ
一支店現在ノ家屋及伝馬船ハ左ノ如シ
幸堂ノ分
事務所及支店長舎宅 壱棟 六拾六坪
- 第11巻 p.237 -ページ画像
職員舎宅 壱棟 百拾三坪
農夫舎 壱棟 拾七坪七合五勺
倉庫 壱棟 拾五坪
以上本建築
其他農夫舎・物置己家・厩・石灰己家及煉瓦工場等堀立己
家計 拾棟 百九拾八坪五勺
名蔵農場分
事務所 壱棟 五拾三坪二合五勺
職員舎宅 壱棟 拾五坪
農夫舎 拾五陳 二百六拾五坪四合
厩 三棟 百九坪五合
馬糧炊事場 壱棟 三坪
以上本建築
其他農夫舎物置鍛冶職工場煎糖場等堀立己家計
拾八棟 百九拾九坪七合五勺
合計 五拾三棟 壱千五拾六坪一合五勺
伝馬船 四艘
一支店ノ人員 明治三十年六月現在弐百四十六名外ニ本年度来航者製糖技師壱名器械技師壱名器械技手壱名書記弐名桶屋二名左官二名煉瓦積立職七名器械鍛冶壱名鍛冶壱名農夫五十五名職員及ヒ労働者ノ家族三十四名出生二名合計三百五十五名ニシテ、内器械技師壱名書記壱名本店ヘ出張器械技手一名製糖技手一名書記二名木挽一名農夫十四名職員及各労働者ノ家族五名帰省シ、農場技師一名農場技手壱名農場監督一名大工四名木挽四名桶屋一名瓦煉積立職七名器械鍛冶一名農夫七拾名解雇《（煉瓦）》、農夫六名並ニ支店長及農夫ノ家族各一名死亡ニシテ差引現在数ハ二百三十一名（外ニ職員トシテ雇入レタル八重山人一名）内支店長一名職員九名（外ニ八重山人一名）医師一名大工七名石工二名木挽一名鍛冶三名桶屋二名左官二名農夫百十六名支店長職員及労働者ノ家族八十七名ナリ
第五 事業ノ景況
職員及労働者
本会社創設以来年ヲ閲スルコト玆ニ二年余ニシテ、事業漸ク其緒ニ就キ支店職員労働者ノ如キ設立当初ニ於テハ所在地ノ僻遠異習ナルカ為メニ其居ニ安セス、従テ動揺少ナカラスシテ頗ル困難ヲ感シタリト雖トモ、近来ニ於テハ漸次其業ニ安シ殊ニ労働者ノ如キ続々家族ヲ呼寄セ永久事業地ニ移住スベキノ傾向ヲ生シ、八重山人ノ如キモ彼我ノ事情相通スルニ従ヒ、労役其他ノ点ニ於テ事業上便宜ヲ得ルニ至レルカ故ニ今日ニ於テハ事務事業共ニ益整理ニ就ケルナリ
農場及耕作
本会社支店現在ノ開墾地ハ百六十六町六反歩ニシテ、会社自カラ耕作ヲ為セリ雖トモ、今日ニ於テハ労働者漸ク其業ニ安スルニ至リシヲ以テ、本年六月ヨリ農夫若クハ耕作事務員中ヨリ精撰シタルモノ廿八名ヘ、小作又ハ請負作ヲ以テ甘蔗ヲ耕作セシメ、猶残余ノ墾地モ農夫或ハ八重山人ヘ小作セシムルノ方針ヲ採レルガ故ニ、来年度
- 第11巻 p.238 -ページ画像
ヨリハ大ニ農場ノ経費ヲ節減スルコトヲ得ヘキナリ
耕作ニ付テハ専ラ改良ノ法ヲ怠ラスト雖トモ、農作上ノ成蹟ハ少ナクトモ三四年ヲ経過スルニ非サレハ確実ノ結果ヲ得ヘカラス、目下猶肥料及灌漑培養ニ付試験中ニ属セリ、而シテ開墾地ハ追年熟地トナリ且ツ前季来僅少ノ布哇種蔗苗ノ繁殖ヲ計リ、本年度ニ於テハ甘蔗植付反別三十三町二反歩ノ内、弐拾町歩ヘ其蔗苗ヲ植付タル事ヲ得タルガ故ニ、来年度ヨリ植替（三年毎ニ植替ヲナス）ヲ為ス毎ニ漸次改良セハ、終ニ農場一円ヲ布哇種蔗園タラシメ大ニ収穫ヲ増加スルコトヲ得テ利益スル所少ナカラザルノミナラス、本邦甘蔗糖業ニ関スル一進歩ヲ見ルコトヲ得ヘキナリ
製糖
本季製糖ハ十二月廿日ヨリ着手シ、本年六月三日ニ終レリ、然レトモ支店現在ノ小機鑵及旧式牛車ニ由ル製造力極メテ鈍キカ故ニ、当初ハ十一月初旬ヨリ着手スルノ見込ナリシモ、客年十一月三日支店所在地ニ於テ近年稀ナル暴風雨アリ、為メニ家屋ノ破壊農場ノ荒廃セラレタルモノ尠ナカラス、限リアル会社使用ノ労働者ヲ以テ復旧工事ニ多数ノ時日ヲ要シ、為メニ製糖ノ準備ヲ為ス能ハスシテ製糖ノ期間ヲ短縮シ、予定ノ砂糖ヲ製造スルコト能ハス、為メニ収支上損失ヲ被リタルコト尠ナカラサルナリ
本季製糖日数ハ一百六十六日ニシテ蒸気機鑵一台旧式十三台ニテ、甘蔗ヲ圧搾シ煎糖釜三拾七枚ヲ以テ製糖ニ従事シタルモ、此等悉皆ノ諸器械ヲ使用スルニ至ル迄ニハ据付等ニ意外ノ日子ヲ費シ、燃料ノ不足或ハ甘蔗皮剥人夫ノ欠乏ノ支障ヨリ、右一百六十六日ノ内蒸滊機鑵ハ日数百二十一日四分強（一日ノ圧搾平均二千百貫、外ニ蔗苗残茎凡二万五千貫ヲ百二十一日間ニ圧搾セリ）ノ就業ニシテ旧式圧搾十三台ノ就業総延日数八百十八日四分強（一台一日ノ圧搾平均三百貫、外ニ蔗苗残茎凡ソ二万五千貫ヲ八百十八日間ニ圧搾セリ）ナリ
本季収穫ノ甘蔗ハ前季植付ケタル反別百四町四反歩ノ内、虫害及蔗苗トシテ、凡廿四町歩ヲ除キタル八十町歩ヨリ得タルモノニシテ、内右就業ヲ以テ圧搾シタル甘蔗ノ総計ハ五十万四百九十九貫目、此蔗園反別四十五町歩余ナルカ故ニ、凡三十五町歩ノ甘蔗ハ製糖ヲ為ス能ハスシテ耕地ニ残スノ止ムヲ得サルニ至レリ、而シテ此製糖総高ハ一千九百八十四樽、此総斤数廿八万七百七斤ニシテ内白糖五十四樽此斤数六千九十八斤余、白下九百三十四樽此斤数十五万弐千弐百廿三斤余、黒糖九百六十五樽、此斤数十一万七千四百八十五斤、焚込三十一樽此斤数四千九百一斤余ナリ
要スルニ本季間ニ於ケル製糖ハ事業開始ノ初年ニシテ労働者ノ経験充分ナラス、且風災ノ後ヲ承ケ諸般ノ準備整頓ヲ欠キ加フルニ適当ノ期間ニ於テ製糖ヲ終ルコト能ハサルカ為メニ、製造高減少セルノミナラス品質亦佳良ト云フヘカラサルナリ
新調製糖機械及資金運用ノ事
客年十一月廿五日臨時総会ノ決議ニ依リ事業拡張ノ旨趣ニヨリ、専ラ機械ヲ支店ニ輸送シ十一月暴風雨ノ為メニ破壊セラレタル工場ヲ
- 第11巻 p.239 -ページ画像
築造シ、拡張ノ設計ヲ進行セシムルノ準備ヲ怠ラスシテ、此等事業上ニ要スル資金ハ右臨時総会ノ決議ニ由リ借入金ヲ以テ継続シタリト雖トモ、客秋来金融益々逼迫シ従テ本社ノ融通閉塞ノ傾キヲ生シタルカタメニ、爾来旧新株金払込ヲ促シ借入金一部ノ償却及事業進行ノ資ニ供シタリシモ、株金払込延滞者モ尠ナカラスシテ資金運用ニ付テハ頗ル困難ヲ感シ、現ニ帝国商業銀行ニ於テ大江卓氏ノ裏書ヲ以テ金壱万六千五百円ノ借入金ヲ継続セリ、目下金融界ノ状態ニテハ到底旧新株金払込及借入金ヲ以テ、予定ノ拡張設計ノ資金ヲ得ル能ハサルヲ以テ将来ノ方針ニ関シテハ臨時総会ニ於テ株主諸君ノ協議ヲ乞ハントスル所以ナリ
要之スルニ本季間ニ於ケル事業ノ状況ハ大略右ニ序ヘシカ如ク、客年十一月暴風雨ノ為メニ工場家屋ノ破壊農場ノ荒廃ヨリ此等復旧工事ノ為メニ多クノ費金ト時日トヲ要シ、従テ事業進行上非常ノ障害ヲ来シ製糖高ハ当初ノ予算ニ達セス、加之金融ノ逼迫並ニ株金払込渋滞ノ為メニ運用資金ノ欠乏等、種々ノ原因ヨリ直接ニ被リシ損失尠ナカラズシテ、耕作其他間接無形ニ被リシ所ノ損失モ亦尠ナシトセサルナリ
第六 職員
一本会社現在ノ職員ハ副支配人一名書記十名製糖技師一名同技手一名農場技師二名ナリ
〔参考〕八重山糖業株式会社第四回報告 （自明治三一年七月至明治三二年六月）（DK110040k-0005）
第11巻 p.239-242 ページ画像
八重山糖業株式会社第四回報告 （自明治三一年七月至明治三二年六月）
第三 本店所務要領
○上略
一八月三十日 本月廿日株主臨時総会ノ決議ニ由リ、中川虎之助ト支店農場小作ノ契約ヲ結ヒ、且ツ支店事務ヲ同人ニ委託セリ
○中略
一本会社現今負債ノ総計金弐万四千百拾弐円七拾四銭ノ内、帝国商業銀行ヨリ借入金、壱万六千弐百円、石川島造船所ヨリ借入残金七千円、帝国商業銀行及石川島造船所ヨリノ借入金利子支払ノ為メ大江太氏ヨリ借入金八百拾弐円七拾四銭、外ニトロツク代請求出訴ニ及ヒ強制執行供託金ノ為メ、大江太氏ヨリ借入レタル金壱百円トス、此負債ハ明治三十一年八月廿日臨時総会ノ決議ニ由リ製糖器械等売却代旧新株式未払込株金及新株払込通知未済金ヲ以テ整理セシトナレハ、現今存セサリシ筈ナレトモ金融閉塞ノ結果、諸会社諸製作場共ニ事業ノ縮小若クハ中止ヲ為スモノ而已ニシテ、一トシテ新タニ発企セラルヽモノ無之、為メニ製糖器械及ヒ其付属品共売却スルニ道ナク、僅カニ滊鑵壱個ヲ売却シ石川島造船所ヨリ借入金八千円ノ内ヘ金壱千円ヲ払込ミタルノミ、外ニトロツク拾壱台此代金参百円ヲ以テ売却シタルモ、買取人ニ於テ代金支払ヲ怠リタル為メ、目下訴訟中ニ有之、旧新株式未払込人ニ対シテハ数回催告ヲ為シタルモ払込マサルニ付、已ヲ得ス公売処分ヲナシタル末不足額ノ請求ヲナシタルモ、尚ホ払込マサルニ付出訴中未タ結了ヲ告ケス、且ツ右訴訟ノ完結ヲ告ケサルカ故ニ新株払込通知ヲナスノ順序ニ至ラス為メ
- 第11巻 p.240 -ページ画像
ニ、従来ノ負債ヲ清償スル能ハサルノミナラス、前顕ノ負債ヲ今日ニ存スルニ至ル所以ニシテ、実ニ止ムヲ得サルノ結果ニ出ツルモノトス
第四 支店所務要領
一八月二日 八重山人ニ対シ甘蔗作奨励方ヲ八重山島庁ヘ申込ミタリ
一同月廿二日 本店ヨリ事務整理ノ通知ヲ得タリ
一同月廿三日 各職員及労働者ニ対シ事業整理ノ事ヲ発表シタリ
一九月八日 支店整理ノ為メ整理委員小松竜次郎、前支店長中川虎之助渡来セリ
一同月十日 支店整理ノ方針ヲ定メ同時ニ整理方ニ着手シタリ
一同月十四日 各職員及労働者ヲ解雇シタリ
一十月十五日 各職員ノ給料・労働者ノ賃金・各職員労働者及其家族ノ帰国旅費・用達店支払金・蔗圃分作請負料・煉瓦請負人手当・預リ金等支店ニ係ル一切ノ支払金壱万弐千四百六拾弐円〇弐銭六厘ヲ請求人百六十七名ノ代理人（悉皆代理ノ委任状ヲ徴シ）中川虎之助ヘ支払ヒ、家屋・農具・製糖器械・小滊鑵・牛馬・船・煉瓦・レール等、諸種保存スヘキ物件ニ対シテハ小作人中川虎之助ノ保管証ヲ徴シ、以テ支店ノ整理ヲ結了セリ
第五 事業ノ景況
職員及労働者
支店整理ト共ニ各職員労働者ヲ解雇シ、小作人中川虎之助ニ於テ継続雇入ヲナシ目下総員八拾余名在留セリ
農場及耕作
本会社支店ノ開墾地ハ百六拾六町余ノ内、甘蔗植付地ハ百四拾余町歩ニシテ本季ヨリ分作法ヲ設ケ、右ノ内九拾六町歩余ヲ分作セシメタルニ漸次蔗圃ノ成熟スルニモ由ルヘシト雖トモ、分作者ニ於テ諸般ノ手入ヲ怠ラサルカ為メ頗ル好成蹟ヲ得、支店整理ノ時即チ分作者ヲ解雇シタル時迄ノ生立ハ意外ニ良好ナリシカ、小作人中川虎之助ニ於テハ右ノ内僅ニ五拾町歩余ヲ収穫シ其他ハ収穫ノ余地ナカリシガ故ニ、以後ハ蔗圃ヲ四拾五町歩迄ニ減縮シ、他ハ諸種ノ作物ヲ栽培耕作シ以テ農場ノ維持ヲ図ル事ニ勉メリ
製糖
本季小作人中川虎之助ノ製糖高ハ弐拾九万弐千六百四拾九斤ニシテ、此ノ代金壱万七千弐百八拾参円拾七銭ナリ
第六 本支店整理
一本支店整理ノ件ハ明治三十一年八月廿日ノ臨時総会ニ於テ、前ニ掲ケタル同臨時総会第一号議案ノ如ク決議シタルニ付、其旨趣ニ基キ整理ニ着手セシモ支店ノ如キハ遠隔ノ地タルヲ以テ、其ノ実行ニ多少ノ日子ヲ費シ夫ガ為メ経費ニ於テモ亦タ多少ノ増費ヲ免カルヽ能ハス、而シテ其予算ニ基キ収入スヘキ金員モ意ノ如ク収入スルコト能ハス、為メニ種々ノ困難ヲ極メタリリト雖トモ辛シテ一時金壱万円（金八千円石川島造船所ヨリ金弐千円三十二銀行ヨリ借入レタリ）ノ負債ヲ為シ、漸ク整理事務ヲ終了シ小作人ニ製糖事業ヲ嘱托スルニ至ルヲ得、十月十八日ヲ以テ整理委員ヲ引揚ケタルニ付、其顛末ハ昨年十二月株主諸君ニ報告シ置キ
- 第11巻 p.241 -ページ画像
タリ
一整理予算ニ依レハ支出総額金参万六千五百拾弐円拾六銭、内本店ニ於テ支出スヘキ分弐万千九百参拾壱円、支店ニ於テ支出スヘキ分壱万四千五百八拾壱円拾六銭ニシテ、収入スヘキ総額ハ金拾壱万参千五百参拾壱円八拾銭五厘ナリシカ、経済界ノ不振ナル器械ノ売却モ吐嗟ノ間ニ合ハス、払込延滞株金ノ徴収モ其効ヲ見ルニ至リ得ス、且ツ新株払込ノ通知モ全ク其徴収ヲ了ルノ見込ナキカ故ニ、之ヲ為サスシテ僅ニ金弐万五千四百弐拾円拾壱銭五厘ヲ左ノ項目ニ依テ得タリ
一金弐万五千四百弐拾円拾壱銭五厘
内訳
金参百参拾円也 銀行預ケ金（八月廿日現在）
金壱万九百拾弐円七拾四銭 借入金（金八千円也石川島造船所ヨリ金弐千円也三十二銀行ヨリ九百拾弐円七拾四銭大江太氏ヨリ借入レタリ）
金壱千二百五円也 砂糖売上ケ残金
金六千拾弐円弐拾五銭 払込株金及遅延利子
金九百七拾八円四拾五銭 株式公売処分売得金
金壱千二百五拾円也 滊鑵壱個、金庫壱個売却代金
金弐拾壱円九拾四銭参厘 整理着手ノトキ支店現在金
金六拾八円参拾壱銭 本支店雑収入
金壱千五百八拾五円四拾壱銭七厘 支店諸残品売却代
金壱千七百円也 空樽其他諸物品小作人売戻代金
金八百五拾五円九拾弐銭五厘（支店整理結了ノトキ支払金不足ノ為メ諸請求人代理中川虎之助ヲシテ引受シメタル金員ニシテ即チ請求金総額ノ内示談ノ上該金員ヲ減額セシメタル者ナリ）
金百四拾七円〇五銭六厘 燃込糖残品売却代
金参百五拾参円弐銭四厘 支店前貸金戻リ
此ノ収入金ヲ以テ支出シタル金員ハ即チ左ノ如シ
一金弐万五千四百拾九円弐拾九銭七厘
内訳
金参千円也 （石川島造船所ヨリ借入金八千円ノ内ヘ金壱千円三十二銀行ヨリ借入金弐千円返却ス）
金弐千八百六拾九円参拾弐銭六厘 借入金及砂糖荷為替利
金参千七百七十八円也 煙空代《（突）》（石川島造船所払）
金三百円也 器械保管料（同上）
金五拾七円也 本店事務員給料（十一月三十日迄ノ分）
金三百〇四円四拾四銭四厘 総会其他ノ経費（同上）
金壱万三千九百二十七円六銭五厘 支店整理支出総額
金二百円也 トロツク代未払金請求ニ係ル供托金
金二百六百也《（円カ）》 本店事務負手当《（員）》（十一月以降ノ分）
金五拾円六拾五銭 公売株券無効広告料
金百五拾九円五十銭 （旧新株金未払人ニ対スル不足金請求出訴ニ係ル印紙代及実費）
金四拾円也 （トロツク代未払人出訴ニ係ル印紙代及実費）
金五百二十七円三十一銭二厘 （本支店未払残金及印刷代其他諸雑費）
一前項記載ノ如ク収入総額金二万五千四百二十円十壱銭五厘ヲ以テ、
- 第11巻 p.242 -ページ画像
本店ニ於テ支出スヘキ予算額弐万千九百三十一円ノ内壱万千四百九十二円二十三銭二厘、支店ニ於テ支出スヘキ予算額壱万四千五百八十一円十六銭ノ内壱万三千九百二十七円六銭五厘、合計二万五千四百拾九円弐拾九銭七厘ヲ支払ヒ、僅ニ金八拾壱銭八厘ヲ剰スノミナシ《（レ）》ハ帝国商業銀行ヨリ借入レタル金壱万六千二百円、石川島造船所ヨリ借入レタル金七千円、右借入金ニ係ル利子支払ノ為メ借入レタル金九百拾弐円七拾四銭、返済ノ道無之ヲ以テ其儘トナリ居レリ
第七 職員
一本会社職員ハ明治三十一年八月廿日、臨時総会決議ニ由リ本支店整理ノ際悉皆解雇シ、以後諸般ノ事務処理ノ為メ臨時壱名ノ雇員ヲナセリ
〔参考〕台湾製糖株式会社史 第五〇―五一頁〔昭和一四年九月〕（DK110040k-0006）
第11巻 p.242-243 ページ画像
台湾製糖株式会社史 第五〇―五一頁〔昭和一四年九月〕
○第二節 明治初年より領台前迄の本邦糖業
二 糖業振興策
○上略 甘蔗糖業では、明治二十八年（皇紀二五五五年西暦一八九五年）、沖縄県八重山に八重山糖業株式会社が創立せられた。この会社は前記紋龞製糖株式会社の休止機会を譲受け、之れに英国製の甘蔗圧搾機、蒸発鑵、結晶鑵等を補足したもので、新式製糖業にも進出する計画を立てゝはゐたが、在来法の製糖をなしたのみで、明治三十二年頃にはそれすら休止し、新式機械は設置使用に至らずして、同三十五年遂に解散の憂目を見るに至つた。その紋龞製糖株式会社より譲り受けた機械及び英国製の補足諸機械は、後、更に台湾に送られ台湾最初の新式分蜜製糖工場たる当社の橋仔頭工場に据付けられた。この機械は西暦一八七九年、即ち明治十二年の制作に係り同十三年甜菜糖製造の為め仏国より輸入されてより二十年後、北海道から転々して台湾に設置されるの運命を辿つたものである。○下略
○紋龞製糖株式会社ハ明治十三年政府直営ノ甜菜製糖造トシテ創立サレ、最初紋龞製糖所ト称ス。十九年北海道庁所管トナリ、更ニ翌二十年民間ニ払下ゲラレ、紋龞製糖株式会社ト称シタルモ、収支償ハズ二十九年遂ニ解散ス。
○当会社ニ於テ譲受ケタル紋龞製糖株式会社ノ休止機械ハ一八七九年仏国フイフ・リル会社ノ制作ニ係ル三重効用缶及ビ結晶缶（一日製造能力六噸）ニシテ購入ノ英国製甘蔗圧搾機ハ一九〇一年マコーニーハーヴエー会社製（一時間圧搾能力一万斤）ナリ。（「台湾製糖株式会社史」図版説明ニ拠ル）
○明治三十三年台湾総督府ノ慫慂ニヨリ三井家ニ於テ台湾製糖株式会社ヲ設立スルニ際シ、総督府ヨリ三ケ年間利子ノ補給ヲナスニ対シ「八重山糖業会社ノ製造器械ノ石川島ニ在ルモノヲ三井ニ引受クコト、但、価七万五千円ナル条件提出サレ、三井側ニテ該機械ヲ調査検分ノ結果、効率低クシテ価値不十分ナルコト判明シ、利子補給年限ヲ五ケ年ニ延長スルコトヲ交換条件トシテ之ヲ引受ケタリ。（「台湾製糖株式会社史」（第六九―七四頁）ニ拠ル）
○「紋龞製糖会社は明治二十九年二月、社長三松礼太郎の時、遂に解散しその機械は斉藤定雋等により横浜にその年設立された横浜精糖会社に全部分解運搬されてゐる。従つて同機械はその後神奈川県久良岐に据付られて一時事業を開始した同精糖会社の機械として一部は作業をしてゐた様である又三十年頃大阪在住の中川虎之助が沖縄県八重山島に製糖会社を設立す
- 第11巻 p.243 -ページ画像
べく、紋龞製糖会社の古機械の一部を購入し、解体して八重山に船積の途中暴風の為芝浦に留置中に、台湾製糖株式会社が創立され、同社がこれを購入して橋仔頭工場の一部としたとも云はれてゐる。この機械が紋龞製糖会社のものとすれば、横浜精糖会社へ買却した一部か、或ひは紋龞より直送の分か明かでない。（「本邦糖業史」第二六八―二六九頁〔昭和一〇年三月〕）
〔其他ノ資料〕渋沢栄一 日記 明治三二年（DK110040k-0007）
第11巻 p.243 ページ画像
渋沢栄一 日記 明治三二年
八月二十五日 晴
○上略 三十間堀杉山市松方ニ開キタル、八重山糖業会社株主総会ニ例ス
○下略
〔其他ノ資料〕渋沢栄一 日記 明治三四年（DK110040k-0008）
第11巻 p.243 ページ画像
渋沢栄一 日記 明治三四年
二月一日 晴
○上略 商業会議所ニ抵リ八重山糖業会社ノコトニ付テ重役会ヲ開ク、大江・竹内・梅浦・原藤吉ノ諸氏来会ス○下略