デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
8節 製糖業
6款 大日本製糖株式会社
■綱文

第11巻 p.284-305(DK110046k) ページ画像

明治39年11月5日(1906年)

是日、日本精製糖株式会社ハ臨時株主総会ニ於テ日本精糖株式会社ト合併スルノ件ヲ議決シ、新役員ヲ選挙ス。栄一相談役ニ推薦サル。十一日合併成リ社号ヲ大日本製糖株式会社ト攻ム。社長ハ酒匂常明ニシテ栄一ノ推挙スル所ナリ。


■資料

日糖最近廿五年史 第五―九頁〔昭和九年四月〕(DK110046k-0001)
第11巻 p.284-285 ページ画像

日糖最近廿五年史 第五―九頁〔昭和九年四月〕
 ○第一、創業篇
    一、合同非合同
 抑々当社は明治二十九年一月東京市外小名木川畔に於て、故鈴木藤三郎氏の経営せる小規模なる製糖所の組織を改め、日本製糖株式会社《(精脱)》と称し創立せられしものにして、最初の社長は長尾三十郎氏、資本金は僅に三十万円に過ぎぎりしが時運の進歩に伴ひ漸次発展して、明治三十八年一月には資本金四百万円に増加したり。然るに大阪にも亦殆んど同時に創立せられたる日本精糖株式会社あり、九州大里には明治三十六年より神戸鈴木商店の経営せる大里製糖所あり、今こそ我が一工場として働きつゝあれども、当時は内地市場に於て互に競争しつゝありたるを以て、支配人磯村音介氏参事秋山一裕氏等は其の重役に就任以前、大阪の伊藤茂七氏等と気脈を通じ、東京大阪両精糖会社及び大里製糖所を合同して一挙にして内地に於ける独占的地位を獲得せんとする急進主義を高唱し、株主中の同志を糾合して有志団体なるものを組織し、左の五ケ条の実行条件を以て当時の社長たる故鈴木藤三郎氏に迫りたり。
 一、内に競争を止め、外に進行せんが為、内地台湾に於ける既設製糖会社と一大合同を計画する事
 二、精製糖原料供給の為、台南に一大工場を新設する事
 三、清国に於ける販路拡張の為、同国適当の地に一大工場を新設する事
 四、以上の計画を実行せんが為、必要に応じ現在未払込金壱百万円を払込ましむる事
 五、尚ほ必要に応じ、更に資本金を増加して八百万円乃至千万円とする事
 此の時は既に有志団体の株数、鈴木氏等の勢力を凌駕したれば、鈴木氏は明治三十九年七月十日臨時総会を招集して重役改選の件を附議し、右の条件実行時機尚早なるを理由として後事を有志団体に託して自ら辞任を申出で、同列重役と共に退場するや、同日の総会は頗る紛擾を極めたれども、結局旧重役と有志団体と双方より重役を選挙して一先づ閉会せり。
    二、合同計画断行
 - 第11巻 p.285 -ページ画像 
 然るに旧重役と有志団体とは、糖界前途に対する見解を異にし、氷炭相容れざるを以て両立す可くも非ず。旧重役は断然就任を肯ぜざるを以て村井吉兵衛氏の主唱にて大株主会を開き、新重役のみを以て事業経営の衝に当る事に決し、同年九月二十日臨時総会を開き、(一)日本精糖株式会社と合併の件、(二)資本金増加の件、(三)定款改正の件を附議して条件実行に着手し、十月十日継続会を開きて右三件の全部を可決し、愈々左の諸氏を重役に選任せり。
 磯村音介   秋山一裕   伊藤茂七   中村清蔵
 馬越恭平   渡辺福三郎  高津久右衛門 前田亀之助
 (以上取締役)
 後藤長兵衛  鈴木久五郎  福川忠平   恒川新助
 藤本清兵衛  (以上監査役)
 右の中、磯村氏は専務、秋山氏は常務に任じて其の中堅となり、別に男爵渋沢栄一氏を相談役に推戴し、間もなく当時農商務省農商局長たりし農学博士酒匂常明氏を社長に擁立し、明治三十九年十一月愈々大阪の日本精糖株式会社と合併し、資本金一躍、壱千弐百万円に増額し、大日本製糖株式会社と改称したり。而して同年十二月には台湾斗六庁管内に工場設立の許可を得、翌四十年一月藤沢静象氏外職員は工場新設の為め、渡台の途に上り、同年八月社債七百五十万円を募集し六百五十万円の巨費を投じて大里製糖所を買収して、先づ以て所期の目的を達し、明治四十一月四月には横浜・神戸の両精糖会社と製造協定契約を成立せしめ、進んで精糖協同販売契約を結び、又三十九年株式熱の勃興に乗じ計画せられたる名古屋精糖会社の設立は、従来の精糖工場に及ぼす打撃尠からずとし、明治四十一年台湾及び明治の両会社と共同して買潰し、更に東洋製糖会社をも掩有するの計画を樹つる等最も迅速に其の所信を断行し、忽ちにして本邦糖界の覇権を掌握するに至れり。左れど其の間幾多の禍根を培養するに至りぬ。即ち(一)資金の大部分は固定して運転資金は比軟的僅少となりたる事、(二)大里製糖所・名古屋精糖買収費、台湾工場建設費等は総て社債借入金等に求めたる事、(三)預合勘定等は何れも以て一時を糊塗するに足れりと雖も、他日財政難を誘致するは必然の成行なり。而して(四)合同後の各工場総計能力八百五十噸に達し、当時内地市場の消費高の約三倍に当れるが如き過大なる設備は、反比例に会社の基礎を脆弱ならしめたるや疑ふ可からず。
   ○日本精製糖株式会社ハ明治二十八年十二月鈴木藤三郎所有ノ小名木川氷糖工場ヲ買収創立セシ処ニシテ、粗製糖ヲ精製販売スルヲ主タル目的トス。二十九年七月専務取締役鈴木藤三郎ヲ欧米諸国ニ派遣シ、精製糖機械ヲ購入セシム。三十年五月以来機械順次到着シ、三十一年五月新工場完成、運転ヲ開始ス。始メ資本金三十万円ナリシガ、二十九年六月六十万円ニ、三十二年三月二百万円ニ、三十七年十月四百万円ニ増資シタリ。(各回「営業報告」ニ拠ル)


日本精製糖株式会社第二二回営業報告 (自明治三九年六月一日至同年一一月一〇日)(DK110046k-0002)
第11巻 p.285-287 ページ画像

日本精製糖株式会社第二二回営業報告 (自明治三九年六月一日至同年一一月一〇日)
    株主総会
○上略
 - 第11巻 p.286 -ページ画像 
一臨時株主総会 明治三十九年七月十日、当社ニ於テ臨時株主総会ヲ開ク、会スル者弐百九拾六名(内出席者参拾六名委任状送附者弐百六拾名此株数五万弐千五百七拾参株)取締役全員並ニ監査役全員選挙ノ件ヲ附議セシニ、結局指名委員ヲ設ケ、指名選挙ヲ行フコトヽシ、其指名委員ハ議長ニ於テ選定セラレタシトノ多数ノ意見ニ依リ、議長ハ長井越作・小林福太郎・阿部吾市ノ三氏ヲ指名委員ニ指定ス、玆ニ於テ指名委員ハ鈴木藤三郎・磯村音介・益田太郎・藤田四郎・田村武治・秋山一裕・中村清蔵ノ七氏ヲ取締役ニ、後藤長兵衛・鈴木久五郎ノ二氏ヲ監査役ニ推薦シタル旨ヲ議場ニ報告セシニ、満場一致ヲ以テ之ヲ迎ヘタリ
一臨時株主総会 明治三十九年九月二十日当社ニ於テ臨時株主総会ヲ開ク、会スル者参百参拾壱名(内出席者参拾八名委任状送附者弐百九拾参名此株数五万八千九百七拾八株)議案第一号日本精糖株式会社ト合併仮契約締結並ニ之カ履行ニ関スル件、第二号資本金増加ノ件、第三号定款変更ノ件ナリシカ、議事ノ都合ニ依リ第二号議案ヲ先決問題トシテ議セシニ満場異議ナク原案ヲ可決ス、次テ第一号議案ニ移ラントスルヤ、議長ハ在九州株式会社大里精糖所ヨリ合併ノ申込アルヲ以テ、一時本案ヲ延期シ、尚第三号議案モ第一号議案ニ関聯スルヲ以テ是レ亦延期シ、大里精糖所ト合同交渉ヲ遂ケタル上、三社同時ニ合併ノ決議ヲ為サント提議セシニ、満場一致ヲ以テ第一号及第三号議案ヲ来ル十月十日臨時総会迄延期ノコトニ決定セリ
一臨時株主総会 明治三十九年十月十日当社ニ於テ前月二十日臨時株主総会ノ継続会ヲ開キ、曩ニ延期シタル第一号議案(日本精糖株式会社ト合併仮契約承認並ニ之カ履行ニ関スル件)ヲ議事ニ附スルニ当リ、議長ハ先ツ在九州株式会社大里精糖所トノ交渉顛末ヲ報告シタル後、大里精糖所トノ交渉急速ニ其進行ヲ見ル能ハサルヲ以テ一時之カ交渉ヲ延期シ、此際本案提出ノ已ムヲ得サル理由ヲ述ヘ、又第三号議案(定款変更ノ件)モ本案ニ関聯スルヲ以テ同時ニ決議セラレンコトヲ望ミシニ、第一号及第三号議案共全会一致ヲ以テ原案ヲ可決確定セリ
一臨時株主総会 明治三十九年十一月五日東京麹町区有楽町東京商業会議所ニ於テ臨時株主総会ヲ開ク、会スル者参百六拾名(内出席者五拾六名委任状送付者参百四名此株数五万九千四百四拾七株)ニシテ、議案第一号(日本精糖株式会社合併ノ件)、第二号(資本金増加ノ件)、第三号(定款変更ノ件)ハ満場一致ヲ以テ原案ニ可決シ、次テ第四号(役員選挙ノ件)ヲ議事ニ附セントスルヤ、第五号(役員報酬ノ件)ヲ先決問題ト為サントノ動議アリ、満場ノ賛成ヲ以テ先ツ第五号案ヲ議題トシテ議セシニ、役員ノ報酬ハ一箇年弐万円以上参万円以下ト確定シ、然ル後第四号案ニ戻リ附議セシニ該案ハ指名委員ヲ設ケントノ動議アリ、満場異議ナシ依テ議長ハ阿部吾市・小林福太郎・鈴木兵右衛門・仙波太郎右衛門・今田鎌太郎ノ五氏ヲ指名委員ニ指定セリ是ニ於テ指名委員諸氏ハ今回当社ノ為メ斡旋尽力セラレタル男爵渋沢栄一氏ニ与ニ協議セラレンコトヲ乞ヒ、同男爵ノ快諾ヲ得テ審議ノ末遂ニ相談役トシテ渋沢男爵ヲ推薦シ、取締役トシテ磯村音介 
 - 第11巻 p.287 -ページ画像 
秋山一裕・伊藤茂七・中村清蔵、馬越恭平・渡辺福三郎・高津久右衛門・前田亀之助ノ八氏ヲ、監査役トシテ後藤長兵衛・鈴木久五郎・福川忠平・恒川新助・藤本清兵衛ノ五氏ヲ指定シテ、之ヲ報告シ、尚選挙スヘキ取締役一名ニ就テハ渋沢男爵ヨリ報告セラルヘシト述フ、是ニ於テ渋沢男爵ハ之ニ関スル詳細ナル説明ヲ為シ、且ツ新重役ニ対スル将来ノ希望ヲ述ヘラレタリ、依テ右取締役一名ノ選挙ハ同月十五日継続会ヲ当社ニ開キ、選挙スルコトヲ決議シタリ
 本月十五日当社ニ於テ右臨時総会ノ継続会ヲ開キ、取締彼一名選挙ノ件ヲ議事ニ附セシニ、結局渋沢男爵ニ其推薦ヲ一任シタルヲ以テ同男爵ハ酒匂常明氏ヲ推挙セリ、是ニ於テ満場拍手ヲ以テ之ヲ歓迎シ直ニ可決確定シタリ
    重要記事

○上略
一明治三十九年七月二十日
 本月十日臨時株主総会ニ於テ選挙セラレタル取締役中、再選ニ係ハルモノハ総テ就任ヲ承諾セサルヲ以テ、一時新任者ノミヲ以テ事業ヲ経営スルコトヽナリ、本日新任取締役並ニ監査役ノ登録ヲ東京区裁判所小松川出張所ニ申請其登記ヲ了セリ
一明治三十九年八月十五日
 本月七日在大阪日本精糖株式会社合同調査交渉委員ヨリ当社ニ対シ合同ノ交渉アリ、右ハ頗ル重要ノ事項ニ属スルノミナラス、事至急ヲ要スルヲ以テ便宜上臨時株主総会ニ代ヘ本日日本橋倶楽部ニ於テ大株主会ヲ開キ、右ニ関スル協議ヲ遂ケタルニ結局重役ハ株主中ヨリ合同交渉相談役五名ヲ推薦シ、協力シテ合同ノ交渉ヲ為シ、且仮契約ヲモ締結シ得ルコトヲ決議シ、其合同交渉相談役トシテ福川忠平・小林福太郎・恒川新助・阿部吾市・中島伊平ノ五氏ヲ推薦シタリ
一明治三十九年八月十九日
 本日箱根塔ノ沢ニ於テ当社重役並ニ合同交渉相談役ハ在大阪日本精糖株式会社重役並ニ合同調査交渉委員ト第一回ノ会見ヲ為シ、合併ニ関スル仮契約ヲ締結セリ
一明治三十九年八月二十四日
 本日当社重役及合同交渉相談役ハ京都ニ於テ日本精糖株式会社重役及合同調査交渉委員ト第二回ノ会見ヲ為シ、合併ニ関スル重要事項ノ熟議ヲ遂ケタリ


日本精糖株式会社第二二回営業報告 (自明治三九年七月一日至同年一一月一〇日)(DK110046k-0003)
第11巻 p.287-290 ページ画像

日本精糖株式会社第二二回営業報告 (自明治三九年七月一日至同年一一月一〇日)
    株主総会
一明治参拾九年七月弐拾五日 堺卯楼ニ於テ定時及臨時株主総会ヲ開キ、参拾九年上半期間ノ営業報告書・財産目録・貸借対照表・損益計算表承認ノ件並ニ別段積立金処分案ノ件、及臨時総会第壱号議案(定款変更ノ件)第弐号議案(新株式募集規定)第参号議案(取締役選挙ノ件)第四号議案(合同調査交渉委員設置ノ件)等ヲ附議セシニ、議事ノ順序ヲ変更シ臨時総会議案ヲ議決シテ后チ、定時総会
 - 第11巻 p.288 -ページ画像 
ノ議事ニ移ラントノ動機《(議)》アリ、之ニ対スル賛否ノ討議アリ、結局定時総会ノ議案ニ付、議事ノ進行中諸計算中調査ヲ要スヘキモノアリト認ムルニヨリ、其内容調査ノ為メ検査役三名ヲ選任セントノ動議アリ、是亦賛否ノ説交々起リ終ニ議長ハ検査役ノ選任ハ目下必要アリト認メサルニヨリ、現状ノ儘ニテ弐週間延期シ、内容不審ノ点アラハ其期間内ニ会社ニ就キ調査セラルヘシトテ閉会ヲ宣言セリ
一明治参拾九年八月七日 堺卯楼ニ於テ七月弐拾五日延期シタル定時及臨時株主総会ヲ開キ、議長ハ七月弐拾五日ノ延会ニ議事ヲ継続スル旨ヲ宣言セリ、此時臨時総会議案ヲ先キニ議決シ、后チ定時総会ニ移ラントノ動議アリ、満場ノ賛成ヲ得テ先ツ臨時総会第四号議案ヲ附議セシニ、原案ノ合同調査交渉委員五名ヲ七名ニ増加セントノ動議アリ、満場異議ナク七名ニ確定シ、次テ其委員七名ヲ指名スヘキ委員三名ノ指定ヲ株主伊藤茂七氏ニ一任セントノ動議アリ、満場異議ナク依テ伊藤茂七氏ハ森下亀太郎・和泉栄・梶川四三八ノ三氏ヲ指定シ、和泉栄氏ハ指名委員ヲ代表シ、伊藤茂七・磯村音介・橋本善右裾門・河田嘉一郎・高津久右衛門・小西儀助・香野蔵治ノ七氏ヲ指名セリ、議長ハ是ニテ臨時総会ヲ閉シ、定時総会ノ議事ヲ進行スヘキ旨ヲ宣言セリ、此時前回ノ如ク検査役三名ヲ選任シ、其氏名ヲ伊藤茂七氏ニ一任セントノ動議アリ、満場異議ナシ、玆ニ於テ伊藤茂七氏ハ森下亀太郎・梶川四三八・和泉栄ノ三氏ヲ検査役ニ指名セリ、議長ハ検査役ニ於テ参拾日以内ニ検査ヲ終了シ、其報告ニ接シタル上、更ニ定時総会期日ヲ定ムヘシ、依テ現状ノ儘延会スル旨ヲ宣言セリ
一明治参拾九年八月弐拾壱日 臨時株主総会ヲ大阪商業会議所ニ開会取締役五名、監査役参名、補欠選挙ノ件ヲ附議セシニ、投票ヲ省略シ右取締役及監査役指名委員参名ヲ伊藤茂七氏ニ指定セラレタシトノ動議アリ満場異議ナク之ニ決ス、玆ニ於テ伊藤茂七氏ハ和泉栄・梶川四三八・河田嘉一郎ノ三氏ヲ指名委員ニ指定シ、指名委員ハ取締役ニ伊藤茂七・高津久右衛門・小西儀助・湯浅竹之助・橋本善右衛門ノ五氏、監査役ニ樋口六左衛門・香野蔵治・前田亀之助ノ三氏ヲ推薦シタル旨ヲ議場ニ報告セシニ、満場異議ナク之ヲ迎ヘタリ
一明治参拾九年九月弐拾日 定時及臨時株主総会ヲ備一亭ニ開キ、八月七日、延会シタル議案ヲ附議セリ、検査役森下亀太郎・梶川四三八・和泉栄ノ三氏ヨリ交々検査ノ結果ヲ報告シ、和泉栄氏ヨリ計算書ノ修正案ヲ提出シ、其地所価額ノ変更ニ付テハ合同調査交渉委員香野蔵治氏之ヲ説明シ、結局修正案通リ可決確定セリ
 議長ハ是ヨリ臨時総会ニ移ル旨ヲ宣言シ、第壱号議案(増資金額変更ノ件)第弐号議案(新株式募集規定)第参号議案(定款変更ノ件)第四号議案(日本精製糖株式会社ト合併仮契約承認ノ件)ヲ附議セリ、此時日程ヲ変更シテ先ツ第五号議案ヨリ討議セントノ動議成立シ、満場異議ナク原案ノ如ク確定シ、次テ第壱号議案ニ移リ原案通リ確定シ、第弐号議案ニ入リ当会社ノ増資及合併ニ関シ功労アル株主ノ決定及其各自ノ引受株数ハ伊藤茂七・香野蔵治・高津彼面ノ三氏ニ一任セントノ動議成立シ、満場異議ナク之ニ決シ其引受ケ
 - 第11巻 p.289 -ページ画像 
シムヘキ株式ノ数ニ付査定委員五名ヲ設ケ、其査定委員ノ指名ヲ議長ノ指名スル詮衡委員三名ニ一任セントノ動議成立シ、議長ハ宇野賢輔・森下亀太郎・梶川四三八ノ三氏ヲ詮衡委員ニ指名セリ、玆ニ於テ詮衡委員三名ハ長田桃蔵・小笠原誉至夫・鶴見角二、高津宇三郎・酒井鉄之助ノ五氏ヲ、査定委員会ニ推薦シ、査定委員協議ノ結果、功労アル株主ニ引受シムヘキ株数ハ弐千五百株ト査定セル旨ヲ報告シ、異議ナク之ニ決シ、第三号議案亦異議ナク原案ニ確定シ、議長ハ第四号議案ニ付テハ、株式会社大里精糖所ヨリ合併参加ノ申込アリタルヲ以テ、本案ノ決議ヲ来ル拾月拾日迄延会セン事ヲ諮リタルニ、満場異議ナク延会スルコトニ決セリ
一明治参拾九年拾月拾日 臨時株主総会ヲ備一亭ニ開キ、日本精製糖株式会社ト合併ノ件ヲ附議セシニ、満場一致ヲ以テ(当会社ハ明治参拾九年九月弐拾日ノ総会ニ於テ決議シタル合併仮契約ニ依リ、明治参拾九年拾壱月拾壱日ヲ以テ日本精製糖株式会社ト合併スル事)可決セリ
一明治参拾九年拾壱月五日 臨時株主総会ヲ備一亭ニ開キ、第一号議案(明治参拾九年九月弐拾日新株式募業及其払込終了ニ関スル報告ノ件)第弐号議案(日本精製糖株式会社ト合併仮契約書第五条ニ依ル計算ハ、本案決議ノ時ニ於ケル現在取締役及監査役ニ於テ審議確定スヘキモノトス)第参号議案(日本精製糖株式会社ト合併仮契約書第六条第弐項ニ依ル、合併後ノ会社ニ引継ヲ為ササル財産処分行為「配当金・慰労金・手当金・残務取扱委員ノ報酬等ノ金額及其分配割合ノ確定ヲ包含ス」一切ハ残務取扱委員ニ一任スルコト)右残務取扱委員三名ノ選挙(但残務取扱委員ハ処分実行ノ上、其結果ヲ各株主ニ報告スヘキモノトス)ヲ附議セシニ、第壱号議案及ヒ第弐号議案ハ満場一致ヲ以テ可決シ、次テ第参号議案ニ移リ(但シ残務取扱ニ関スル費用及残務取扱委員ノ報酬ハ残余財産ノ拾分ノ壱以下トス)ノ但書ヲ第壱項ノ末ニ附加セントノ動議アリ、異議ナク之ニ決シ、次テ残務取扱委員三名ノ選挙ニ関シテハ議長ニ於テ指名委員二名ヲ指定シ、其指名委員ヨリ選定セントノ動議アリ、満場異議ナク之ニ同意シ、議長ハ指名委員トシテ宇野賢輔・長田桃蔵ノ両氏ヲ指定シ、指名委員ハ高津彼面・岩佐育太郎、小笠原誉至夫ノ三氏ヲ選定シタル旨ヲ報告シ満場異議ナク之ヲ容レタリ
    重要記事
一明治参拾九年七月九日 支配人加藤豊辞任ニ付抹消ノ登記ヲ経タリ
一明治参拾九年八月四日 取締役社長松本重太郎氏辞任書ヲ提出シ取締役野田吉兵衛・同本山彦一、監査役浅田正文・同宗像祐太郎・同井上保次郎ノ五氏ハ本月弐拾壱日限リニテ辞任スル旨申出タリ
一明治参拾九年八月六日 取締役社長松本重太郎辞任ノ登記ヲ了シタリ
一明治参拾九年八月拾九日 本日合同調査交渉委員ハ日本精製糖株式会社重役及合同交渉相談役ト箱根塔ノ沢ニ於テ、第壱回ノ会見ヲ為シ、合同ニ関スル重要事項ヲ議シタリ
一明治参拾九年八月弐拾弐日 八月弐拾壱日ノ臨時総会ニ於テ選任セ
 - 第11巻 p.290 -ページ画像 
ラレタル取締役伊藤茂七・高津久右衛門・小西儀助・湯浅竹之助・橋本善右衛門・監査役樋口六左衛門・香野蔵治・前田亀之助諸氏ノ就任及ヒ取締役野田吉兵衛・本山彦一、監査役井上保次郎・浅田正文・宗像祐太郎辞任抹消ノ登記ヲ経タリ
一明治参拾九年八月弐拾四日 本日合同調査交渉委員ハ京都ニ於テ日本精製糖株式会社重役及ヒ合同交渉相談役ト第弐回ノ会見ヲ為シ、合同ニ関スル仮契約ヲ締結セリ
一明治参拾九年八月弐拾五日 支配人河田嘉一郎就任ノ登記ヲ経タリ
一明治参拾九年拾月弐拾五日 明治参拾九年九月弐拾日臨時株主総会ノ決議ニ基キ、増資新株式ノ申込ハ本日ヲ以テ全部申込ヲ終ヘタリ
一明治参拾九年壱月拾壱日《(拾壱月壱日カ)》 前項増資甲号新株金五拾円、乙号新株々式証拠金弐円五拾銭ハ本日ヲ以テ全部払込ヲ了ヘタリ
一明治参拾九年拾壱月拾日 増資株金全部払込ノ登記申請ヲ経タリ
    営業ノ状況
前期ニ不振ヲ極メタル吾糖業界ハ当期ニ入リテ依然不振ノ悲境ニ沈淪シ、海外ニ於ケル糖価亦低落ノ極ニ達シ此頽勢挽回ノ気運何時到来スルヤ区々ノ気配ナリシカ、盛暑砂糖ノ需用期ニ向ヒタルト外国糖漸次本国高ヲ伝ヘタルヨリ、糖業界玆ニ活気ヲ呈シ糖業者漸ク愁眉ヲ開クニ至レリ、只此ノ間ニ立チ当会社ノ遺憾ニ堪ヘサリシハ原料糖購入量ノ尠カリシト輸出精糖先約高ノ甚多ク、而カモ其売価低廉ナリシヲ以テ予期ノ利益ヲ収ムル事能ハサリシニアリ、然レトモ玆ニ聊カ人意ヲ強フスルニ足ルヘキ事項ハ銀貨ノ騰貴ハ吾国ヨリ清国市場ニ輸出貿易ヲ営ムニ好機ヲ捉ラヘ、砂糖モ亦此ノ大勢ニ包容セラレ頓ニ其ノ需用ヲ増シ、漸ク輸出ノ地歩ヲ固ムルニ至リ多年該国市場ニ横行濶歩セシ香港糖ヲシテ、競争場裡ニ勁敵ノ顕ハレタルヲ覚醒セシムルニ至リシコト之ナリ


竜門雑誌 第二二二号・第四四頁〔明治三九年一一月二五日〕 ○東西両精製糖会社の合併決定(DK110046k-0004)
第11巻 p.290-291 ページ画像

竜門雑誌 第二二二号・第四四頁〔明治三九年一一月二五日〕
○東西両精製糖会社の合併決定 日本精製糖会社にては本月五日午後一時より東京商業会議所に於て臨時株主総会を開き、青淵先生外百余名の株主出席し、左の各案の議決をなせり
 (第一)日本精製糖株式会社・日本精糖株式会社の合併契約に基き、来る十一月十一日を以て日本精糖株式会社を解散し、本会社に合併する件
 (第二)本会社の資本総額を千二百万円に増加する件
 (第三)定款変更の件
 (第四)役員の報酬は一ケ年二万円以上三万円以下とする件
 (第五)従来の役員の任期は明治三十九年十一月十日を以て終り、新に取締役九名、監査役五名、外相談役若干を置くこと
以上の決議終りて役員の選挙を行ひしに左記の諸氏当選したり
 △取締役 磯村音助《(磯村音介)》・秋山一祐《(秋山一裕)》・伊藤茂七・中村清蔵・馬越恭平・渡辺福三郎・高津久右衛門・前田丞之助《(前田亀之助)》
 △監査役 後藤長兵衛・鈴木久五郎・福川忠平・恒川新助・藤本清兵衛
 - 第11巻 p.291 -ページ画像 
尚ほ相談役青淵先生を推挙して賛成を得、取締役一名の推挙は青淵先生に一任し愈々合併の決定を見るに至れり、而して本月十五日の総会に於て農学博士酒匂常明氏を取締役に推し、同時に氏を社長に互撰したりと云ふ


時事新報 第九〇六五号〔明治四一年一二月二七日〕 大日本製糖の前途(渋沢男爵の談)(DK110046k-0005)
第11巻 p.291 ページ画像

時事新報 第九〇六五号〔明治四一年一二月二七日〕
    大日本製糖の前途(渋沢男爵の談)
○上略 余等の同社○日本精糖会社を退くと共に新重役就任し増資合同を行ひて今日の大日本製糖会社を作成せり、然るに新重役は多く新進の諸氏にして再び余の入社を請ひ来れり、余は最早我糖業の前途に対し大なる望を有し居らざるも、又翻て思へば会社は兎も角も千万に余る巨額の納税をなす大会社にして、其の消長は延て我国の財政にも尠からざる関係を有する事なれば、無下に重役諸氏の希望を斥くるも不可なりと思考し、乃ち時の農相蔵相に謀り酒匂氏を推して社長とし、余は相談役として再び内地糖業に指を染むるに至れり○下略
   ○栄一ノ持株ハ明治三十九年十一月現在ニ於テ旧株二〇〇株、同四十年四月現在ニ於テ旧株二〇〇株、新株二〇〇株ニシテ、以後大正四年六月渋沢同族会社渋沢敬三名義トナルマデ増減ナシ。


時事新報 第九〇八四号〔明治四二年一月一五日〕 日糖紛擾に就て(渋沢男爵の談)(DK110046k-0006)
第11巻 p.291 ページ画像

時事新報 第九〇八四号〔明治四二年一月一五日〕
    日糖紛擾に就て(渋沢男爵の談)
○上略 然るに日本精糖《(製脱)》と大阪精糖と合併したる後、秋山・磯村・伊藤の三氏は来りて曰く之を管理するの適歳《(材)》なく老練家なきを以て社長たる可き好人物を得度しとて、従来製糖業に関係ありし余に其の人選を依頼し来りぬ、依つて余は製糖業は租税に大関係あるものなれば、社長たる人は信用ある人格の高き人ならざる可からずと思考し、時の内閣にありし阪谷蔵相並に松岡農相に之を相談したるに、酒匂常明氏を以て適任と認め、両相も之を推薦したれば、酒匂氏は決意して社長たる事を諾せり、之と同時に酒匂氏は余に同社の相談役たらん事を求めたるが故に、余は約するに酒匂氏の在任中は自分も相談役たる事を諾したり、酒匂氏が社長たることを諾したる為め、之を秋山・磯村・伊藤の三氏に告げたるに、三氏は官海に経歴を有し且つ学者たる同氏を社長と戴く事を喜びたり、是れ明治三十九年十一月頃の事に属す○下略


報知新聞 第一一四二〇号 〔明治四二年一月一四日〕 ○渋沢男の日糖談(善後相談拒絶)(DK110046k-0007)
第11巻 p.291-292 ページ画像

報知新聞 第一一四二〇号〔明治四二年一月一四日〕
    ○渋沢男の日糖談(善後相談拒絶)
這回大日本製糖会社の問題に対しては余は素より爰に多くを語るを欲せざるも、抑も余が同社と多少の関係を生ずるに至りたる起因に就て少しく語らんに、嘗て余の経営せし彼の大阪精糖会社が同社に合併せられし後、同社は新たに社長を得んとして其人達に付き余が以前大阪精糖との関係浅からざりし因縁を以て、会社重役より余に向つて人望あり才能に富む社長を推薦し、併せて余に一臂の力を副へんことを切に懇望せられたり、余は当時念ふに大日本製糖会社は精糖界に於ける重鎮にして、一の営利会社たるも国家の納税金額は千二三百万円の巨額に達し、名は民業なりと雖も実は官業にも等しき重要事業なるを以
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て、其の懇請を容れて人物選定に多大なる注意を払ひ、即ち時の農務局長酒匂常明氏を最も適任者なりと信じたるを以て、農商務省とも交渉を重ねし末、遂に同氏を聘し社長に推し同時に予は同社の相談役を承諾するに至れり、之れ即ち予が同社と関係を生じたる権輿にして他に何等特別の事情なし○下略


渋沢栄一 日記 明治四〇年(DK110046k-0008)
第11巻 p.292 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治四〇年
三月十六日 曇 寒 起床七時就蓐十一時三十分
○上略 午後二時日本製糖会社ニ抵リ、重役会ニ列シテ要件ヲ談ス○下略
四月十三日 晴風アリ 暖 起床七時就蓐十二時
○上略 午飧後大日本製糖会社ニ抵リ氷糖製造所ヲ一覧シ、株主一同ニ向テ一場ノ演説ヲ為ス○下略
五月三十日 雨 涼 起床七時就蓐十二時
○上略 朝飧前大日本製糖会社秋山氏ノ来訪ニ接ス○下略
七月二十日 曇 冷 起床就蓐十二時
○上略 午後一時ヨリ事務所ニ於テ大日本製糖会社重役会ヲ開キ、大里精糖所合併ノコトヲ議決ス○下略
九月十八日 雨晩晴 冷 起床七時就蓐十二時
○上略 午後六時山谷八百善ニ抵ル、日本精糖会社ノ招宴ニ応スルナリ、酒匂・馬越・磯村ノ諸氏ヨリ種々ノ饗応アリ○下略
十月二十九日 曇 冷 起床七時就蓐二時
○上略 午後三時大日本製糖会社ニ抵リ、重役会ニ出席シテ同会社将来ノ経営ニ関シ意見ヲ陳述ス○下略


渋沢栄一 日記 明治四一年(DK110046k-0009)
第11巻 p.292-293 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治四一年
一月二十三日 晴 寒
○上略 午後二時帝国ホテルニ抵リ、製糖会社重役会ニ列席ス○下略
三月十七日 半晴 寒
○上略 午後三時大日本製糖会社重役会ニ出席ス○下略
四月八日 曇 寒
○上略 午前○中略十一時日本橋倶楽部ニ抵リ大日本製糖会社重役会ニ出席シ、会社ノ要務ニ関シ意見ヲ開陳ス○下略
四月十日 晴 寒
○上略 午前○中略九時酒匂常明氏来リ製糖会社ノ事業ニ付、詳細ノ談話アリ○下略
七月十三日 晴 暑
○上略 午後○中略六時、酒匂常明氏来リ身上ノコトヲ談ス○下略
七月十四日 晴夕雷雨 暑
○上略 午前十時兜町事務所ニ抵ル、途中平田男爵邸ヲ訪ヒ酒匂常明氏ノ身上ニ付談話ス、十時半事務所ニ抵リ○下略後酒匂常明氏来リ身上ニ関シテ種々ノ談話アリ○下略
七月十五日 曇 暑
○上略 午前十一時製糖会社磯村・秋山二氏来話ス○下略
七月二十五日 曇 暑
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○上略 午後二時大日本製糖会社ノ重役会ニ日本橋倶楽部ニ出席ス、酒匂氏身上ニ関スル過日来ノコトヲ重役ニ談話ス○下略
九月十日 晴 涼
○上略 一時第一銀行ニ抵リ午飧シ食後重役会ヲ開キ要件ヲ議決ス、酒匂常明氏来話ス、製糖会社ノ業務ニ関シテ注意ヲ与フ○下略
九月二十日 雨午後晴 涼
○上略 日本橋倶楽部ニ抵リ大日本製糖会社重役会ニ出席ス、一場ノ注意演説ヲ為ス○下略
十一月十一日 曇 冷
(欄外)
○上略 午前○中略十時半兜町ニテ馬越恭平・酒匂常明二氏ニ接見シ製糖会社ノコトヲ談ス○下略


大日本製糖株式会社第二二回営業報告 自明治三九年六月一日至同年一一月一〇日(DK110046k-0010)
第11巻 p.293 ページ画像

大日本製糖株式会社第二二回営業報告 自明治三九年六月一日至同年一一月一〇日
    営業ノ概況
前期来持続セル糖業界ノ不振ハ今期ニ入リテ遂ニ其極ニ達シ、今ハ或動機ヲ待チテ回復セントスル気配ナリシ折シモ、盂蘭盆会以後引続キ暑気酷烈ヲ極メタルヨリ著シク砂糖ノ需用ヲ喚起シ、加フルニ競争品タル欧洲更目糖亦本国高ヲ伝ヘタルヨリ、糖価ハ回一回毎ニ奔騰ヲ加ヘ、是ニ初春以来ノ頽勢ヲ挽回スルコトヲ得タリ、此間ニ立チテ当社ハ前期末並ニ当期初ニ買入レタル頗ル廉価ノ原料ヲ使用シ、全力ヲ挙ケテ製造ニ従事シ以テ陸続タル需要ニ応シタルヨリ、是ニ尠カラサル利益ヲ収ムルコトヲ得タリ
是ト同時ニ清国市場ノ殷盛ハ銀価ノ騰貴ニ助ケラレテ端ナク、日本糖ノ需要ヲ盛ナラシメタルヨリ当社ハ其機ヲ過タス、一方ニ日本精糖会社トノ合同談ヲ進メテ内地ノ競争ヲ避ケ、他方ニ勉メテ利ヲ薄フシ其注文ニ応シタルヨリ、輸出ハ未曾有ノ盛況ヲ示シ縦横香港糖市場ヲ蹂躙シテ、是ニ愈々将来ノ地歩ヲ固ムルコトヲ得タリ
期末ニ至リ糖界再ヒ不振ニ陥リテ糖価稍低落シタルモコハ例年ノ事トテ、敢テ意トスルニ足ラス、却リテ先約原料糖並ニ持越品ノ評価ニ確実ノ算ヲ立ツルコトヲ得、頼リテ以テ大日本製糖株式会社ノ名ノ下ニ経営セラルヘキ次期ノ営業ヲシテ安固ナラシムルコトヲ得タリ
新設氷糖工場ハ今期ノ半ヨリ作業ヲ開始シタルニ、其成績良好ニシテ製品ハ専ラ清国方面ニ輸出セラレ高評ヲ受ケツヽアリ


大日本製糖株式会社第二三回営業報告 自明治三九年一一月一一日至明治四〇年四月三〇日(DK110046k-0011)
第11巻 p.293-294 ページ画像

大日本製糖株式会社第二三回営業報告 自明治三九年一一月一一日至明治四〇年四月三〇日
    重要記事
一明治三十九年十一月十四日
 当社ハ本月十一日ヲ以テ大阪日本精糖株式会社ト合併シ、資本金ヲ金六百万円ニ増加シ、商号ヲ大日本製糖株式会社ト変更シ、支店ヲ大阪府東成郡城北村大字友淵百二十一番屋敷ニ設置シ、営業ノ目的ヲ砂糖・氷砂糖、酒精及骨炭ノ製造売買トスト更正シ、且ツ存立期限ヲ廃止シ、公告ノ方法ヲ東京大阪ノ商業登記ヲ公告スル新聞紙ヲ以テスト変更シタルニ付、本日之カ登記ヲ東京区裁判所小松川出張所ニ申請、其登録ヲ了セリ
 - 第11巻 p.294 -ページ画像 
○中略
一明治三十九年十二月二十八日
 当社ハ予テ原料採取区域ノ許可ヲ得タル台湾斗六庁管内ニ原料糖工場ノ設立ヲ出願シタルニ、本日台湾総督府ヨリ許可ノ指令ヲ受ケタリ
○中略
一明治四十年四月十三日
 当社増設氷糖工場ハ昨年八月十一日既ニ製造ヲ開始シタルニ、爾来諸般ノ設備全ク完了ヲ告ケタルヲ以テ本日参拾株以上ノ株主諸氏ヲ招待シ、該工場運転ノ実況ヲ観覧ニ供シ、尚右工場設計者タル前取締役鈴木藤三郎氏ノ氷糖並ニ該機械ニ対スル説明アリ、酒匂社長ハ来賓ニ対スル挨拶及営業上ノ報告ヲ為シ、相談役渋沢男爵モ亦糖業ニ関シテ演説セラルヽ所アリタリ
○下略
    営業ノ概況
本期ハ在大阪日本精糖株式会社トノ合併後ニ於ケル一新紀元ニシテ、当社ノ歴史上特ニ紀念ス可キ時期タリ、依リテ此際諸般ノ経営ヲ改善シ且其統一ヲ計ランカ為メ両社従来ノ状況ニ鑑ミ、相互ノ長短ヲ取捨斟酌シテ業務執行ノ上ニ一大刷新ヲ加ヘ、特ニ諸工場ニハ機械建物ノ改良並ニ拡張ヲモ計画シタリ
抑モ本期ノ初ニ当リテハ財界未曾有ノ活況ヲ示シ、随ヒテ製品ノ売行良好ニシテ相応ナル価位ヲ有シタリシモ、爾後海外市場ニ於ケル糖価ハ稍々軟弱トナリ原料糖ノ如キモ漸次低落ヲ告ケ、且内地モ亦株式暴落ニ伴ヒテ糖況ノ機運一転シ荷捌ハ至リテ捗々シカラサリシモ、幸ニ糖価ハ其打撃ヲ受クルコト軽微ナリシノミナラス、却リテ本期ノ末造ニ至リ再ヒ原糖産地ノ高報ヲ移シ来リタルト共ニ、市況一変シテ売行活溌トナリ僅々一箇月中約五拾銭ノ奔騰ヲ告クルニ至レリ



〔参考〕大日本製糖株式会社第二四回営業報告 自明治四〇年五月一日至同年一〇月三一日(DK110046k-0012)
第11巻 p.294-295 ページ画像

大日本製糖株式会社第二四回営業報告 自明治四〇年五月一日至同年一〇月三一日
    株主総会
○上略
一臨時株主総会 明治四十年八月十日東京商業会議所ニ於テ臨時株主総会ヲ開ク、会スルモノ九百四十五名此株数拾五万弐千〇弐拾弐株酒匂社長会長席ニ著キ株式会社大里精糖所トノ合同ニ関スル顛末ヲ報告シ、大日本製糖株式会社株式会社大里製糖所合同仮契約承認ノ件及ヒ社債金七百五拾万円以内募集ノ件ヲ議事ニ附セシニ、原案ノ通リ可決確定シタリ
○下略
    営業ノ概況
本期間五・六・七ノ三箇月ハ前期以来内地経済界不振ノ影響ヲ受ケ商況沈静ヲ極メタルノミナラス、大里精糖所トノ競争ハ表面ニコソ顕ハレサレ、裏面ニ於テハ日ニ劇烈トナリ採算上面白カラサル現象ヲ呈セシカ、八月ニ至リテハ精糖ノ需要季節ニ入リ、且大里精糖所ト合併成立セシ為メ、売行劇増シ相場モ亦日ニ奔騰シ来リタルニ、同月末関東
 - 第11巻 p.295 -ページ画像 
地方ハ未曾有ノ水害ヲ受ケ当社在荷ノ一部千住倉庫ニアリシモノモ不幸ニシテ之カ損害ヲ被ムルニ至レリ、九月ニ入リテハ瓜哇原料糖騰貴ノ為メ相場愈々強硬トナリ、売行一層活況ヲ呈セントセシニ各地ノ鉄道水害ヲ被ムリシ為メ、一般貨物ノ停滞トナリ、従ヒテ当社製品ノ販売上、非常ノ支障ヲ来タシタリ、十月以降ハ既ニ需要季節ヲ経過シ市況頗ル軟弱トナレルモ、這ハ例年ノ事ニテ止ムヲ得サル所ナリ、而シテ本期間ノ輸出ハ重モナル需要地タル南清方面カ、昨年凶作ノ影響ヲ蒙ムリ一般ノ商況振ハサルノミナラス、本邦精糖ノ為メ大打撃ヲ受ケタル香港精糖カ頽勢ヲ挽回セントシテ、絶ヘス非常ノ廉価ヲ以テ販売セルカ為メ、一層其影響ヲ受クルニ至レリ
上叙ノ如ク第一旧大里精糖トノ劇甚ナル競争、第二稀有ノ水害、第三輸出ノ不振等ノ為メ、本期ノ成績予期ノ如クナラサリシハ頗ル遺憾トスル所ナリ、然リト雖モ大里精糖所合併ノ結果、事業経営上ノ刷新及ヒ各地ニ於ケル販売方法ノ改善等ハ著々進行シ、本期末ニ於テ略々完成シタレハ向後其効果ヲ表ハスニ至ルヘキヤ、蓋シ疑ナカラン


〔参考〕竜門雑誌 第二三一号・第三五―三七頁〔明治四〇年八月二五日〕 ○大日本製糖会社の大里製糖所買収(DK110046k-0013)
第11巻 p.295-296 ページ画像

竜門雑誌 第二三一号・第三五―三七頁〔明治四〇年八月二五日〕
○大日本製糖会社の大里製糖所買収 大日本製糖会社にては七百五十万円を以て大里製糖所を買収することゝなり、本年七月十七日名古屋に於て仮契約を締結せしが本月十日東京商業会議所に於て臨時株主総会を開き、右契約及社債事集の件を可決したり、今右契約の重要なる条項を示せば左の如し(但し甲会社は大日本製糖会社乙会社は大里製糖会社を指す)
 第一条 甲会社は乙会社の有する大里精糖所大里倉庫大里鉄工所の営業権、並に別に定むる目録書の土地建物機械器具什器地上権水利道路鉄道引込線の使用権、桟橋及前記三営業所に於て使用の目的を以て設備したる一切の物件を、金六百五拾万円に評価し下記の条件の下に甲会社と乙会社と合併する事を約し、両会社は之を諾す
 第二条 乙会社は甲会社に引渡すべき土地建物機械器具什器其他一切の設備を現状のまゝ甲会社に引渡すものとす
 第三条 乙会社の所有する精製糖半製品及糖蜜並に乙会社の所有又は買約に係る原料糖、石炭、骨炭、籐油、薬品調帯其他の工場用品にして乙会社の貯蔵せるもの其他建築材料等は時価を以て計算し、即金を以て甲会社に譲渡すものとす
  但本条物件の価格は各品の単価を協定する為め、双方より選出せる各二人の評価人の評定に基き計算をなし受授するものとし、且つ原料糖の評価格は倫敦の時価によるものとす
 第四条 甲会社は以下各条に定むる方法により、第一条の価格金六百五十万円の内金四百万円は甲会社の社債券を以て残金二百五十万円は現金を以て乙会社に交付するものとす
 第五条 前条に基き甲会社の発行する社債券は一枚の額面金一百円及び一千円の二種とし、年七朱の利率を以て三ケ年間は据置きとし三ケ年目後は其八分の一づゝを毎半期末償還するものとす
 - 第11巻 p.296 -ページ画像 
  但利子は毎年六月・十二月に之を支払ふものとす
 第六条 甲会社が将来乙会社株主以外に募集せんとする社債及び工場を担保とすべき借入金の総計額は、第四条によりて先行する社債額と合せて金八百万円以上に超過する場合には、予め乙会社の旧株主たる合名会社鈴木商店の承諾を受くるを要す
 第七条 甲乙両会社は来る八月十日を期し同日に株主総会を開き、此仮契約書全部を株主に承認せしむるものとす
 第八条 甲乙両会社は各株主総会に於て此仮契約を承認したるときは十日以内に之に基きたる本契約を締結す、且つ同時に甲会社は現金を以て交付すべき金二百五十万円を約束手形にて乙会社に渡すべきものとす、但し本条の約束手形は第九条の物件受授迄禁融通たるべし
 第九条 甲乙会社の株主総会に於て仮契約を是認したるときは、十日以内に乙会社は解散の手続を為し其日より五日以内に双方の重役立会の上、物件の受授を為すべし、同時に甲会社は前に渡したる約束手形と引換に現金一百万円並に三ケ月期限の約束手形、金一百五十万円及び社債保証として金四百万円の約束手形を乙会社の旧株主たる合名会社鈴木商店に交附すべし
 第十条 甲会社は株主総会が仮契約を承認したる後、三ケ月以内に社債金四百万円の募集を為すべし、但本社債金四百万円は抽籖を用ひずし《(て脱カ)》、総て乙会社の旧株主に於て引受くるものとす、乙会社旧株主は社債保証として受取りたる金四百万円の約束手形を以て之が払込に充当すべし
猶右の外、乙会社が営業上の或る事項に関し他と契約せし権利義務は甲会社に於て之を継承すること、乙会社が銀行其他に預けたる金銀有価証券及所持現金、有価証券は総て乙会社の所有となすこと、乙会社の旧株主は甲会社の外他の製糖事業に関係せざること、乙会社の旧株主たる鈴木商店には或る地方に於ける一手販売の権利を与ふること等の契約ありと云ふ


〔参考〕大日本製糖株式会社第二五回営業報告 自明治四〇年一一月一日至明治四一年四月三〇日(DK110046k-0014)
第11巻 p.296-297 ページ画像

大日本製糖株式会社第二五回営業報告 自明治四〇年一一月一日至明治四一年四月三〇日
    営業ノ概況
本期ノ初十一月ハ例年ノ事トテ不振ノ域ヲ脱スル能ハサリシモ、十二月ニ入リ砂糖消費税増徴ノ声漸ク高マルト共ニ糖価ハ入札毎ニ昂騰ノ気勢ヲ示シ、加フルニ偶々銀価ノ下落ニヨリ香港糖並ニ瓜哇糖ノ見越思惑買各地ニ現レントスルノ形勢アリシヲ以テ、十二・一ノ両月間ニ於テ当社ハ需要ノ有ル限リ供給ニ力メ、以テ外国糖ノ見越思惑買ヲナスノ余地ナカラシメタリ、二月ニ入リテハ増税実施期日モ近キニアリト予想シ得ラレタレハ、玆ニ売止ノ方針ヲ取リ一意製造ニ勉メ同月二十二日ノ増税実施以後ハ、約一箇月間製造ヲ休止シテ糖価ノ昇騰ヲ待ツト共ニ傍ラ機械ノ修繕ヲ施セリ、次イテ三月ニ入リ「キユバ」島ノ糖作、前年ニ比シ収穫著シキ減少ノ為メ原料瓜哇糖相場昂進シ、遂ニ明治三十七年以来ノ高値ヲ告クルニ至リ、随ヒテ精糖ノ市価漸次騰貴スルニ至レリ、期末ニ至リ内地ノ金融ハ益々逼迫シ殆ント其極ニ達シ
 - 第11巻 p.297 -ページ画像 
タルニヨリ、上向一方ナリシ糖価モ頭ヲ押ヘラレ稍々不振ノ状況ナリシカ、原料相場トノ比較上製品相場ノ底意愈々堅ク健全ナル商況ヲ以テ本期ヲ終レリ
銀価ノ暴落ハ対清為替ノ不利トナリ、清国輸出ニ一頓挫ヲ来シタル為メ、香港精糖会社ハ盛ニ此機ヲ利用シ、且消費税増徴ノ為メ日本糖ハ清国輸出ノ余地ナキモノト見做シ頻ニ相場ヲ引上ケタル折シモ、前記瓜哇糖価ノ暴騰ヲ奇貨トシ倍々市価ノ釣上策ヲ講シタルニヨリ、当社ハ其間ニ処シ却リテ販路ヲ拡張スルノ好機会ヲ得タリ
之ヲ要スルニ本期ノ増税ニ際シテハ既往明治三十五年及ヒ三十七年ノ例ニ鑑ミ、先年来三会社ヲ合同シタル今日ナレハ糖業者ヲシテ専ラ当社製品ノ見越買ヲナサシメ、以テ外国糖ノ見越輸入ヲ防遏シ得タル結果、増税実施以後ニ於テモ財界ノ不振ニ関ハラス原料糖価騰貴ノ余勢ト相待チテ、逐次市価ノ昂騰ヲ促シタルハ当社ノ幸慶トスル所ナリ


〔参考〕大日本製糖株式会社第二六回営業報告 自明治四一年五月一日至同年一〇月三一日(DK110046k-0015)
第11巻 p.297-298 ページ画像

大日本製糖株式会社第二六回営業報告 自明治四一年五月一日至同年一〇月三一日
    株主総会
○上略
一臨時株主総会 明治四十一年十月二十四日東京商業会議所ニ於テ臨時株主総会ヲ開ク、会スル者千二百六十一名(委任状共)此株数十二万九千八百八十六株、酒匂社長会長席ニ著キ本社カ横浜・神戸両精糖株式会社ト共同シテ契約ヲ為シタル名古屋精糖株式会社譲受ニ関スル顛末ヲ報告シ、之カ承認並ニ同会社ニ関スル一切ノ処置ハ挙ケテ本社取締役ニ一任スルノ件、及ヒ本社取締役カ本社ト同種ノ営業ヲ目的トスル他会社ノ取締役ニ就任認許ノ件、並ニ定款第二条第三条第五条改正、同四十三条乃至第四十七条削除ノ件ヲ議事ニ附セシニ、総テ原案ノ通リ可決確定シタリ
○下略
    営業ノ概況
前期末ニ於ケル内地金融ノ緊縮ト増税見越品ノ停滞トハ一時糖価ノ向上ヲ押ヘタリシモ、今期ニ入リ金融ハ漸次緩和シ在荷モ亦日ヲ逐フテ市場ニ消化セラレシ為メ、市価昂騰スルニ至レリ、然リト雖モ新消費税率ハ旧税率ニ比シ各種糖税金ノ差額一層甚シク三種・四種、即チ精製糖ハ一種若クハ二種ナル内地粗糖、台湾粗糖又ハ瓜哇黄双等ニ較ヘ増税率荷重ニ失シタルヨリ、需要ハ自然劣等品ナル前記粗糖ニ移リシカ故ニ砂糖需要ノ最盛季節タル七・八両月ニ於テ大ニ販売ニ努メタルモ、予期ノ成績ヲ得ルニ至ラス、玆ニ於テ乎本社カ曩キニ横浜・神戸両精糖株式会社ト協定セル製造製限契約ノ精神ヲ一層拡張セン為メ、九月ニ至リ両会社ト更ニ共同販売ノ協約ヲ締結シ、以テ斯業ノ利益減少ヲ防クノ方針ヲ採リタリ
海外輸出ハ清国商況ノ不振ト引続キタル銀価ノ下落トニ因リ、是レ亦予期ノ効果ヲ収メ得サリシト雖モ、内地製造過剰ノ分ヲ該市場ニ売捌クコトニ努メタリ、又前期ニ於テ製造ヲ開始シタル角砂糖ハ今期ニ至リ次第ニ江湖ノ好評ヲ博シ、随ヒテ販路ヲ拡張シ期末ニ於テハ浦塩港ヘノ輸出取引行ハルヽニ至レリ
 - 第11巻 p.298 -ページ画像 
之ヲ要スルニ今期ニ於テハ消費税率ノ不権衡ト世間一般ノ不景気ト清国市場ノ不振トニ因リ、頗ル精糖需要ノ減退ヲ来タシ販売上多大ノ困難アリシト雖モ、需要季節ニ於ケル奮励ト共同販売協約等ヲ以テ難境ヲ凌キ、且増税前ノ持越品ヲ有利ニ捌キタル結果、今期ノ利益ヲ計算スルニ至レルハ僥倖トスル所ナリ
予テ参百万円ノ資金ヲ投シ新設中ナリシ台湾工場モ既ニ建築其功ヲ竣ハリ、好成績ヲ以テ其試運転ヲ了シ、甘蔗ノ栽培モ亦宜キニ適ヒ本年末ヨリ其製造ヲ開始セントス、故ニ来期ニ至リ始メテ該工場ヨリモ相当収益ヲ挙クルヲ得ヘキハ確信スル所ナリ


〔参考〕東京経済雑誌 第五八巻第一四六一号・第三二頁〔明治四一年一〇月一七日〕 ◎大日本精糖会社《(製)》[大日本製糖会社]の名古屋精糖買収問題(DK110046k-0016)
第11巻 p.298 ページ画像

東京経済雑誌 第五八巻第一四六一号・第三二頁〔明治四一年一〇月一七日〕
    ◎大日本精糖会社《(製)》[大日本製糖会社]の名古屋精糖買収問題
大日本製糖会社は客月末を以て名古屋精糖会社を買収するの契約を締結し、兼て大日本と共同販売を協定せる横浜・神戸の両製糖会社も亦右買収に加入し、事実三社の共有に帰することとなりしが、右に対し大日本製糖会社は去る五日及び八日の両日を以て大株主会を開きて事後承諾を求めたり、即ち全価格五十万円の名古屋精糖を株式二十万八千円、重役慰労金雑費一万二千円、敷地機械二十七万円、合計四十九万円にて買収し、之を同社及び横浜・神戸両製糖に割当つれば大日本は三十七万八千円を負担するものにて、其利子一ケ年一割として三万七千余円に当るといふに在り、之に対して大株主の意見一致を見る能はず、頗る紛擾を極めたるが、遂に委員を挙げて調査せしむることとなり、該委員は夫々調査の上去る十日左の通り報告をなしたるに対して更に大株主の議に付したる処、委員会の協定条件に依り該名古屋製糖買収を承認したり
     委員会議定の条件
 名古屋精糖買収手続に就ては穏当にあらざるも左の条件を付して承認する事
 一、目下の経済状態は整理時期なるを以て今後暫時間は専ら現在の事業を修成し、他会社買収等凡て拡張に関する件を中止する事
 一、今後拡張の必要避くべからざる場合に於ては、予め株主の承認を得たる後実行に着手する事
 一、右会社不成立の場合に於て又は会社財産の処分に関し大日本精糖株式会社《(製糖)》[大日本製糖会社]に損失を生ぜしめたる場合は、取締役は連帯を以て其責に任す可き事
 一、右会社の事業を経営する場合には予め同目論見書及び予算書等を調製し、株主の承認を求むる事
 一、右会社を解散し其事業を廃止する場合には、其顛末及び清算書を作り予め株主の承認を求む可き事
 一、右会社買収に関しては遅滞なく速に其整理を為す可き事


〔参考〕東京経済雑誌 第五八巻第一四六四号・第九―一一頁〔明治四一年一一月七日〕 砂糖共同経営に就て(上)(DK110046k-0017)
第11巻 p.298-302 ページ画像

東京経済雑誌 第五八巻第一四六四号・第九―一一頁〔明治四一年一一月七日〕
    砂糖共同経営に就て(上)
                大日本製糖会社社長 農学博士 酒匂常明君演説
 - 第11巻 p.299 -ページ画像 
砂糖の共同経営と云ふことは今年実行せられた事件でありまするが、是は即ち結果であつて、是には原因があります、其原因に就てちよつと御話をして置きます、砂糖は今、日本で五億斤消費します、丁度一人平均十斤乃至十一斤と云ふ消費であります、是は各国の消費高に比べると大変低い、例へば英吉利の如きは一人平均が七十斤、独逸及仏蘭西は二十二三斤でありませう、北米合衆国が五十斤、さう云ふやうな風に先づ砂糖の消費は殆ど文明の尺度のやうになつて居る、併し日本より低い国もある、例へば、西班牙・伊太利などで、西班牙は五斤位、伊太利は八斤位、兎に角日本より低い、砂糖の点では日本は伊太利より文明国であると云ふことを証拠立て居る、所で此砂糖の消費の経過――進路として、即ち文明が進めば、年々砂糖の消費が増して往きさうな者であるのに、もう疾うから十斤、即ち明治三十五年頃と少しも変らぬ、人口も殖え生計の度も進み、外形も進むのに何故砂糖の消費はさう殖えぬか、是は簡単にして而して極めて有力なる理由である、是は即ち税の関係です、明治三十五年までは無税であつたが今日は百斤十円と云ふ税、一番良い砂糖は無税から十円、此五六年間にさう云ふ変化をして居る、そこで始めて税の掛つた時は低くかつた、同じ無税でありまするならば、今日は或は一人平均十二斤乃至十三斤と云ふものになつて居る、殆ど毎年税が上がる、戦時中は非常に上がつて来ました、戦争が済むだら旧に戻るかと思ふと、非常特別税は普通税になつて仕舞つた、是で済むかと思ふと、今度は又昨年の増税と云ふやうなことでありますから、税が段々著しく毎年上がつて来る、是では幾ら文明が進んでも、砂糖はどうも殖える訳には行かない、殊に昨年の増税の如きは非常特別税を普通税にして、其上一年待たず増税と云ふ、是は無理ではないか、斯う云ふことは甚だ事業の為に宜くないと私は思うて、色々増税の無いことを希望しましたが、却々拙者の運動位では効を奏せぬ、当時若槻大蔵次官が、日本に居られたならば決して斯う云ふことは無かつたらうと思ひますが、悲哉留守でありました為に、復た増税と云ふやうなことになつた、是は実に遺憾に存じて居る所であります、其れが即ち原因である、今年行はれました砂糖共同経営の原因は是に胚胎して居ると言つて宜しい
其れで此共同経営は白砂糖であります、白砂糖ばかりが東京大阪、次に大里――(門司の近所)先づ一昨年東京と大阪と合併した、此合併をして大日本製糖株式会社と云ふものが出来た、其れで私が其事業を主宰することになつたのでありますが、昨年は大里の工場を買収して其れで先づ一時此日本国の白砂糖業と云ふものは、一つになつたやうな姿になりました、此買収と云ふことは、余りどうも面白いことで無い、経済上に於て余り得策とは思はない、と云ふのは余程割合が高く附く、何故なればまるで其事業を抛棄せしむるのでありまするから……例へば大里の如きはあの事業をやつて居りました所の鈴木と云ふ人は将来永く此事業はやらぬ、単り機械不動産実物のみならず、営業権から暖廉代からすつかり込めて先づ此事業は永遠やらぬと云ふ契約をされたのであります、其れも非常に疲弊困難を極めて居る会社ならばイザ知らず、却々隆盛の有様を為して居る所の会社、斯う云ふ会社を
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買収すると云ふことは、甚だ不経済たるを免れぬやうでありますが、併し何故其れでは買収したかと云ふと、其れは第一に勘定が合ふと云ふことゝ、其れから其当時二つの――両雄並立たずで、熟れかを倒さなければならぬ、殆ど競争の有様をなした、さうすれば是はどちらが勝つても非常な大怪我をしなければならぬ、殆ど瀕死の有様で負傷をするかも知れぬ、況んや、負けたならば、死んで仕舞はなければならぬ、デありますから、さう云ふことに至らぬやうに予防をして始末を附ける、其れにはどちらか大きい方が自然に其れを買取ると云ふことになりまして、其れで大日本製糖の方が稍々大きいものでありますから、其方で終に買つて仕舞つた
もう一つの理由は是が普通の株式会社でありますと、合併すれば宜しい、所が此大里精糖会社と云ふ者は殆ど名は株式でも、其実鈴木一家の個人事業である、さうすれば之を合併したならば一個の非常な大株主がそこに出来る訳で、或は三分の一ありまするか、二分の一ありますか、其権利を一人で持つて居る株主が出来ると云ふことは、株式組織として実行が出来ない、さうすれば買収は小さいものを買収すると云ふのは宜いが、斯う云ふのは特別の場合の外、経済上余り取らぬ所であるやうに、私は思うたが、兎に角さう云ふ風で、一時統一が出来た、所が戦後の事業熱と云ふものは尚ほ其他に東亜精糖会社と云ふものが出来た、又横浜精糖会社・名古屋精糖会社と云ふものが出来、神戸精糖会社と云ふものが出来た、斯う云ふ風に出来たが是はどう云ふ考へでありましたか、先づ随分砂糖は売れるし、儲かるであらう、良い事業であると云ふので出来たに違ひ無い、丁度今日肥料業が多くなつて困つて居る、製粉業も多くなつて困つて居る、あれ程ではありませぬが、兎に角砂糖も少し多く出来過ぎて居る、其内で東亜精糖と云ふものは解散して今日は清算中である、其れから横浜精糖と云ふものは成立つて此春から業を始めた、神戸精糖も此春出来て業を始めて居る、名古屋は別の問題でありますが、是はまだ業はやらない、即ち大日本製糖会社の外に横浜神戸と云ふものが出来た、斯くして新しく両会社が製造をして見ると、却々思ふやうに品物が売れない、其れから従来の大日本製糖会社はズンズン売れるかと云ふに、矢張り此新しい会社の品物が出来れば、其れだけ影響を受ける、併し是が若し税が無税である時は無論、又非常に低いと云ふことであれば、需要が進んで今日は一人平均十二三斤にでもなつて居ります、是だけの会社事業は全能力を発揮しても、差支ないのである、所が横浜にしろ、神戸にしろ、折角工場建設中に出し抜けに去年増税と来て、止める訳にも行かない、出来て見た所が此税の増し方が又ひどい、百斤二円五十銭一時に増して来ました、又玖瑪が砂糖の不作の為に、世界の原料糖の価が騰つて、是も百斤一円程、普通平均相場より高くなつて来た、斯う云ふことの為に余程砂糖の直段を騰げなくてはならぬと云ふことになつた、然るに供給は過多にならんとして居りますから、直段がそこに騰らう筈が無い、物は高くなつて来まするし、需要はどうしても減る、是も亦値段の騰らう筈は無い原因になる、さうすると高い税は払はなければならず、原料代を払はなければならぬと云ふ場合になつて来て
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見ますると、勢ひ玆に何等かの解決をしなければ、此事業者は共に不利益を被ると云ふことになる、其が即ち共同経営の主もなる動機と云うて宜しい、其れで第一番に着眼いたしました、是は二期に分れて居ります
最初は製造の協定、次は共同販売、此各会社の製造力と云ふものは、各々一の機密である、機密であるが互に想像して居る、先づ想像でどの会社も全能力を発揮したならば是は供給過多になると云ふものは、何れの会社の人の頭にも出て来る、さうすれば多少是は制限しなくてはならぬ、度合を計らなくてはならぬ、所が己れ単り度合を節減し度合を計つても他が無遠慮に生産をしたならば自分だけ損害を被る、兎も角も己れが全能力を出して生産したならば一時直段は下り、金利は喰ふし、倉敷とか其他非常に損をして儲けが悪るくなる、斯う云ふことになるので、そこに自ら誰か発言するとも無く、詰り空気の媒介で自然そこに意志の疎通と云ふことが出て来る、其れから先づ会社で一緒に飯を喰つて見て、話をして見たりする内に、誰言ふと無くそこにちよつと話が出ると云ふやうなことから、一つ御互に製造を然るべく協定しやうぢやないか、さうして翌月の製造量は今月――毎月翌月の製造量を中旬頃に極めやうではないか、さうして需要供給をどの辺まで保たう、其考へを交換した以上、何等か具体的の結果を見なければならぬ、其予算をしなければならぬ、其れだけの原則を愈々極めるまでには却々手数が掛つた、そこで其れは宜からうと云ふことになつたが、其比例がどうも非常な難問である、例へば大日本製糖会社はどれだけの率を始終持つて往くか、横浜はどれだけの率、神戸はどれだけの率、此率を極ることが非常に困難である、何れの所も余計の率を取りたいことは申すまでも無い、此率を極めるのに、又半月や一月は掛る、何遍会うても其れは多過る、其れでは少ない、此方は少ないと云ひ、向ふでは多過ると言ふので、却々極りが附きませぬ、極りが附きませぬけれども、附けなければ仕方がないと云ふことは、皆の腹にある、色々揉みに揉むで居る内に、到頭謂はゆる二宮尊徳翁の推譲の美徳と私は云ひます、互に譲歩した結果そこに率が極まる、即ち例へば是はもう新聞に出て居りますから敢て秘密にするに及ばぬ、大日本製糖会社は――輸出と内地売と別にしてあります、例へば内地売の為の砂糖は大日本製糖は十五・五の率、さうして横浜製糖は四・五の率、神戸製糖は二・五の率を以て製造する、さう云ふ率が極りましたから来月は例へば百万斤製造しやうと云ふことになると、其百万斤を按分する、又来月は百五十万斤製造するとすれば按分する、さう云ふ勘定をするので面倒は何も無い、是が五月から運んだ、そこでやつて見て居りまする内に、需要供給は其れで察することが出来たが、まだ其れでは面白く無い、何故面白くないと云ふと、まだ互に競争がある、それだけの物を売るには兎に角我が物を早くしやう、善く売らうと云ふ考がありますから、良い自分の得意と鞏固に聯絡を附けて置かなければならぬから、各々夫れ夫れ策略を回らして我が製品を一番好く、一番早く売れる得意との関係が親密になつて、何時此契約を破壊されても宜いと云ふやうに、良い得意と市場に優先権を持つて居ると云ふ考
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へは商売人として無論持つて居る、矢張り製造率を協定した所が競争を絶すことは出来ぬ、競争がありますから入費が掛る、其れは商売をなさる方は皆御承知でありませうが、早く言へば御馳走もしなければならぬ、酒も飲まにやアなるまい、或は又割引の方法もありまして、余計買つて貰へば即ち直段の割引を多くするとか、或は運賃をば何分一は製造者が持つて、何分一は購買者が持つ、其比例などに於ても色色やり方がある、そこで製造者は成るべく譲り譲つて、さうして此購買者の方に便利を附けて我が品を早く売らう、得意との関係を善く附けやうと云ふので、勢ひ直段を高く売れば剰余を得ることが少なくなる、謂はゆる競争費用と云ふものが沢山掛る、其れで税は有り、原料は高いし、斯う云ふ風に競争をして居つては甚だ利益が思ふやうに得られないと云ふ所で、又是も同一商売人で同一利害を有つて居りますから、此考えをずつと電線で空気に媒介されて皆の意思を動かして来た、其れから先刻申上げるやうに翌月の製造数を相談して毎月やる、扨どうも是だけでは面白く無い、もう一歩進まうぢやないかと云ふ話で、其れから到頭此共同販売と云ふことになつた
   ○コノ演説ハ東京経済学協会十月例会ニ於テナサレタルモノナリ。


〔参考〕東京経済雑誌 第五八巻第一四六五号・第九―一一頁〔明治四一年一一月一四日〕 砂糖共同経営に就て(下)(DK110046k-0018)
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東京経済雑誌 第五八番第一四六五号・第九―一一頁〔明治四一年一一月一四日〕
    砂糖共同経営に就て(下)
                大日本製糖会社社長 農学博士 酒匂常明君演説
共同販売は比軽的話が早い、何故ならば此共同販売の前提として製造率が極つて居りますからです、此製造率を極めずして販売だけやらうとしても到底行はれない、肥料共同販売談もあるが、果して此各社製造数を極めることが要領を得て居なかつたやうである、其れ故に此共同販売が旨く行はれて居らぬやうに伺つて居ります、其れで此根本は即ち各々の製造率と云ふものである、共同経営をする所の根本たる製造率が極つて居りましたから、共同販売は、比較的話が早く進みました、左りながら此細密の所に至りますと、是は又製造率を極めるより困難の場合もあつた、其れが為には実際、朝より夜半まで会議をしたことが幾日か、或は数十日と云つて宜い、集つては散じ、時としてはまるで破裂せんとしたことがあるが、要するに結局極りが附いたのであります、もう既に実行して居る、先づ其組織を簡単に申せば、委員組織にして是は別に法人を設けませぬ、其方針は、総て品物を委託してやる方法であります、販売会社と云ふものを設けて、各会社が株主になつてやるやうなこともありませう、併し私の考へる所では、其れは面白く無い、是は将来は知らず、今日は組合組織が宜しいと云ふので、法人を作らずして組合にして委員を出して居ります、其委員数は矢張り製造率が違ひますから、随つて委員数が違ふ、即ち大日本製糖会社が六人、横浜が五人《(三カ)》、神戸が二人、斯う云ふやうな方法になつて居ります
そこで大問題は委員会で以て決するが、委員が多数決で極めることは此場合に於ては困る、多数決であると、もう既に大日本製糖会社は六名、他は合せて五名になりますから、一切我儘も出来ると云ふことに
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なります、其れでは他が折合はない、デ先づ委員を以て組織して、数はさう極めましたけれども、要するにさう云ふ協議を要する時は決定は一致を要すると云ふことにした、是は甚だむづかしいことで、一致を要するとしても一致せぬ時はどうすると云ふ疑問がありませう、其れは早く言ふと商業徳義と云ふものであります、徳義を根本として製造率を協定し、共同販売をするまでには、時間が沢山掛り議論は喧ましかつたが、結局纏つたではないか、然らば斯う云ふ風に既に共同でやると云ふことを互に決定をした以上は、今後の問題は先づヨリ小さい問題ほか無い、今日二つの重大問題が過ぎた上は、稍々軽いものと見なければならぬ、其れは皆徳義を守つて、互に推譲して往つたならば、必ず一致しない筈は無い、折合が附かぬ筈は無い、斯う云ふ最後の見極めを附けて、さうして先づ全会一致で事をやる、斯う云ふ主意にして居ります
又其十一名の委員中より、更に常務委員と云ふ者を二人づゝ各会社から出して、是が日常の事を扱ふ、其他に各会社から謂はゆる社員、即ち販売係員と云ふ者を出して、実際の商売をやる、其れで組合と云ふものは即ち実費さへあれば宜しい組合が利益をする必要は無い、実費は三社製造率に比例して負担して往くと云ふことにしてあります、其れから品物を販売する方法、是が却々むづかしい問題であると云ふのは各会社製品が違ひ商標も違ふ、又同じく白砂糖と申しましても、夫れ夫れ各会社共に十二三種品物がある、之を兎に角製造協定で、製造率に依つて製造した物を皆能く売つて仕舞ふ、どの会社の分を毎月片附けて仕舞はう、斯う云ふ大問題である、併し是は謂はゆる人の好き好きがありまして、需要供給が、さう旨くいかぬ、或品物は需要に向く、或会社の品物の内で或種類は評判が悪るい、例へば大日本製糖会社の物は古く商標が売れて居るから是は能く売れる、新しい所の物は売れが悪るい、能く売れる方は矢張り売れるだけの権利は保存して置かなければ困る、範囲を定めて其範囲で此方から直段を極めて出して来ると甚だ宜いけれども、容易に一概に、其れに拘泥することは出来ぬ、然らば之をどうする、是非とも之を売終うせて往くことは非常に困難であるが、実際問題で是は多くの数を爾来経ませぬから、玆に十分斯く斯くであると云ふことの御話は出来ませぬ、併し既往数回の販売は誠に都合好く往つて居る、而して此販売します時は入札を行ふ、月に三回、東京で三回、名古屋で三回、各地入札で買ふて居ります、入札の時は品物を各会社から例の製造率を以て某所へ持出して、さうして此品は幾ら、此品は幾ら、此品は幾らでと云ふことを例の各会社の常務委員が決定する、さうして売るのでありまするが、併し一方に於て市場の需要供給を能く見るのは、寧ろ各社の常務委員より砂糖の問屋、即ち購買者である、卸問屋と云ふ所の人が市場の変動とか捌方を能く見て居る、品が良いと威張つて居つても、市場に於て売れぬ、品は悪るくても能く売れる品は割合が大きい、其れは即ち買ふ所の客の方が能く知つて居ります、客の又定める所の直段も大に参考せんければならぬ、其等を綜合して此方で正確なりと認める所を定めて売る売れないで堆積して居つて、此方が思ふやうに売れぬと云ふ時には、
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即ち客の望み通り価を下げるか、若くは下げることが嫌やであれば、次の入札まで之を持越すと云ふやうなことにする、其れから或は各社の委員が此品物は十円であると見て居つても、製造した所では十円五十銭を堅く主張する、其れでは仕方が無い、其代り、其品が売残る、次の時も売れない、又売れないと云ふ場合に於ては、客も他の一般の委員も直段が違ふと云ふのを、強ひて固執した為に売残つた、結局非常に直段を下げて売らせるやうな場合は、其損失は其社自ら負担をすると云ふやうな色々細かい規定がある、経費は分担で負担し、又随つて利益も其率で収得する、而して此品物の代価は委員が組合へ一旦金を集める、金を集めた上で直ちに各会社に其れを分つ、或は倉敷であるとか、倉庫に在る内の品傷み損失は各会社が負担をする、さう云ふやうな細かいことが数十箇条ありますが、要するにさう云ふ方法で共同経営を始めたのであります、是はトラストぢやあ無い、一つ独立で皆やつて居る製品を製造率を相談して極めるので、或はツールとかカルテールの類でありませう、トラストまではいかぬ、そこでもう一つ又問題が出て来る、其れは何れの日か問題になります、原料を共同で購買するや否やと云ふことが、まだ解決しない問題であります、是は各社各々利害がありますからどう云ふ風に解決になるか、其れは更に今日分りませぬ、其れから今一つ三社で最近に実行した事件がある、其れは先刻申しました所の東亜精糖は解散し、残つて居る名古屋精糖と云ふものが此の問題になるです
此名古屋精糖会社と云ふものは今日起りました所で却々此金融の困難の際、百万円の会社で五十万円払込がありまして尚ほ五十万円なければ到底起らぬ、仮りに其五十万円で拵へ了りました所が、どうも今後数年間現在の製造高で既に供給過多である、今後到底利益を得ることは思はれぬ、左れば名古屋精糖会社なるものが、強ひて之を起しても数年間利益の挙る見込は無い、其れは向ふに取つて甚だ詰らぬことである、利益の見込も無し、又現在ある会社から言ひますと、兎に角一つ新たに起れば、其れを仲間に入れるとすれば相互に製造を減じなければならぬ、之を仲間外に置けば失張り直段を二十銭なり十銭なり下げなければ売れぬ、其れで仲間に入るれば、製造の数量に於て損をする、仲間に入れなければ、直段に於て損をすると云ふことになりまして、此方も向も共に損をするのであり、斯う云ふ愚なことは無いと云ふ考が又双方に起つて来た、デ此解決は三社、即ち只今申しました共同経営を為して居る所の三会社の利害問題であるから、三会社共同で此名古屋精糖会社と云ふものを買収した、先刻買収は好まぬと申したが、是は特別の場合で例へば不用のものは合併すると云ふこと、而も直段が廉い、即ち五十万円払込のものを二十二万円で買収した、是は矢張り特別の場合で、一方に直段が廉い事情があります、買収直段を廉くした、結局共同経営の目的は寧ろ積極的と云ふよりは消極的である、損を免れやうと云ふ方の側である、さうしませぬと今日の情態に処することは十分に出来ない、其れで吾々の考へは直段を騰げると云ふことは面白く無い、其為に需要は先刻申します通り増さない、其上に又唯だ利益のみに拘泥して、直段を騰げることに努めたならば需要
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が減ずる、其れで直段を低くして需要を増す、直段を低うするには生産費を減ずるより仕方が無い、其生産費を減ずると云ふのが此共同経営を為すに至つたのであります、生産費を減じて直段を廉くし、需要を多くしてさうして相当の利益を得たいと云ふのであります、大躰やつて居る現在の方法等は斯の如きことであります(拍手)