デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治40年4月7日（1907年）

渋沢倉庫部開業十周年紀念園遊会ヲ飛鳥山渋沢邸ニ催ス。

渋沢栄一　日記　明治四〇年
四月七日　晴　暖　起床七時就蓐十二時
○上略午飧後倉庫部ニ於テ催シタル十年紀念園遊会ヲ開ク、来会者無慮四百名許リ、庭中種々ノ摸擬店又余興等アリ、午後四時頃ヨリ来賓ヲ会シテ一場ノ演説ヲ以テ謝辞ト為シ、夫ヨリ立食ヲ開ク、賓主共ニ歓ヲ尽シ夕方ニ至リ散会ス、此日穂積・阪谷・篤二等ノ夫妻悉ク来会シ園遊会畢リテ余談ニ時ヲ移ス

（八十島親徳）　日録　明治四〇年　（八十島親義氏所蔵）
四月四日　晴
例刻出勤、午後四時ヨリ倉庫部ニ至ル、同部ハ去三十年三月卅一日開業以来満十ケ年《（マヽ）》ノ星霜ヲ経タルニ付、来七日ハ得意先ヲ招キテ王子ニテ祝ヒノ園遊会ヲ設クル筈ナルガ、夫ニ先立チ本日ハ支配人ノ名ヲ有スル予ヲ始メ部員・小使・小供・受渡方ニ至ルマデ一列一統ヘ紀念ノ銀盃（渋沢家定紋付キ）ヲ授与セラルヽコトトナリ、一同楼上ニ会シ部長タル若主人ヨリ一同ヘ順次交付ヲ終リ、予ハ一同ヲ代表シテ答辞ヲ陳ブ、此紀念品ヲカク平等ニセシハ予ノ発案ニシテ、殊ニ信用ヲ土台トシテ営業スル所ノ此事業ナドニハ、真実品物ノ撿査及入庫出庫ヲ取扱フ所ノ下方ノ者共ニ十分満足セシメ、益奮励ノ気ヲ生セシムル必要アルニヨル也、尚今夕右終テ銀行クラブニ於テ部長ヨリ部員一同ヘ晩餐ヲ饗セラレ、九時半帰宅
　　　○中略。
四月七日　日曜　晴
昨夜半非常ノ大雨ナリシモ今朝ハ晴天トナリ大愉快也、今日ハ飛鳥山邸ニ於テ渋沢倉庫部開業満十ケ年紀念ノ為園遊会ヲ開クニ付予ハ最一ノ責任者タリ、早朝ヨリ出張、部員利倉・松平以下総員其他邸内ノ諸員皆尽力ス、来賓ハ寄託者・同業者・銀行者・記者等三百人、来客ニハ男爵ノ詠歌ノ末広一本ト絵端書（倉庫・兜町・飛鳥山等ヲ印刷描出セル）トヲ紀念トシテ贈与シ、庭内ニハ紀念ハガキ差出所・すし・薄茶・甘酒・木ノ芽田楽・天ぷら・麦酒・〓酒等ノ露店ヲ設ケ、余興ハ海老一ノ大神楽、貞一ノ手品丈ナリシモ、晴天故百ノ欠点（若アリトスルモ）ヲ蔽ヒ極メテ好都合ナリシ、花ハ未ダナルモ一体ニ春色ヲ呈シ、殊ニ客ハ商人多ク接待ニハ骨ノ折レヌ方、各露店ハ新柳二橋ノ妓三十余名ヲ接待係トナシ客ニ満足ヲ与フ、四時客人ヲ丸庭ニ集メ玆ニ男爵より挨拶アリ川島忠之助氏答辞ヲ陳ヘ、夫ヨリ立食ヲ開ク、立食場ハ七十坪ノテントニシテ天井ハザツトシタルゴー天井トナシ経木ヒモ
 - 第14巻 p.367 -ページ画像 
（彩色）ヲ以テ装リ可也美麗ニ出来ス、料理ハ多賀羅亭ニ命ス、ホテルナドニ比セバ万事安上リ也、客人満足ノ体ニテ四時半頃ヨリ退散
カク十年紀念ノ催モ至テ好都合ニ相済ミ大安神ヲナセリ、夜九時半帰宅ス

東京経済雑誌　第五五巻第一三八二号・第五九二頁〔明治四〇年四月六日〕
　　　　○渋沢倉庫開業十周年
深川福住町なる渋沢倉庫は開業以来満十周年に相当するにより其祝意を表する為め明七日王子飛鳥山渋沢男邸に於て園遊会を催す由

中外商業新報　第七六一三号〔明治四〇年四月九日〕
　　　　○渋沢倉庫十週年紀念式
深川倉庫は創立以来日に月に繁盛に赴き、今や恰も十周年を迎ふるに至りしかば、七日午後一時より王子の渋沢男爵別邸瞹依村荘に於て平素倉庫業に関係深き貨物寄託者・取引銀行・取引保険会社及同業者諸氏を招待し、紀念園遊会を催したり○下略

竜門雑誌　第二二七号・第四二―四四頁〔明治四〇年四月二五日〕
○渋沢倉庫部開業十週年紀念園遊会　渋沢倉庫は創立十週年に相当するを以て本月七日午後一時より瞹依村荘に於て紀念の為め園遊会を催ふされたり、当日は平素倉庫業に関係深き貨物寄託者・取引銀行・取引保険会社及同業者数百名を招待し、入口には青淵先生を始め倉庫部長たる渋沢篤二君・支配人兼任の八十島親徳君・其他利倉・松平等の部員諸氏立ちて懇ろに来賓を迎へられ、前庭の芝生には天幕張の食堂を設け、後園の方には各種の模擬店を設けて新柳二橋の紅裙数十名其間に斡旋し、陸軍々楽隊の奏楽と共にゑび一の大神楽、貞一の西洋手品等数番の余興あり、何れも来客一同の喝采を博し、夫より三々五々園内を逍遥したる後、午後四時前庭の広場に集まり、先生は起て左の挨拶を為されたり
　来賓諸君に対し失礼ながら此処に於て一言の御挨拶を申上げんとす今日は弊倉庫部開業満十年の紀念として御礼旁々聊心計の園遊会を催し御招待申上たるに、遠路態々尊臨を忝ふしたるは至大の光栄にして厚く感謝する所なり、幸ひ昨日とは打つて変りて快晴軽暖の好天気と相成りたるは何よりの仕合にて、取設けたる御饗応は至て軽微にして恥入る次第なるも、幸ひ此好天気と云ふ天の賜物丈けは諸君の御満足を買ひ得たるかと相考へ心私に大慶に存ずる所なり
　元来此倉庫営業なるものが一般の商業に対して必要の補助機関たるは敢て喋々を要せざる所にして、凡そ一般商工業に取り金融機関たる銀行の最も必要なるは申迄もなきことなれども、之に続いて倉庫業の必要なるは又敢て運送保険等に譲らず、故に一国商工業の真正の発達を図らんとするには必ずや銀行・運送・保険等と共に倉庫業の完全なる発達を計らざる可からざるは予の持論なり、乍去今日此十年の年処を経たる弊倉庫部の事業は敢て斯る大抱負を実行せんとして大に計画したるものには非ず、其始め深川の拙邸構内に古くよ
 - 第14巻 p.368 -ページ画像 
り在り来れる倉庫を其儘に置くも無益と考へたる位の動機より極めて小規模にて開始したる次第にして、今日とても敢て称するに足る程の経営とは言ふを得ず、併し図らずも十年の星霜を経、其間幾分の発達を見て今日漸く多数の諸君の尊臨を乞ふが如き場合に至りしは、主として諸君の厚き愛顧に因るは勿論なるも、一面は此十年間に駸々として進み来れる一般経済界の発達に随伴せる結果と云はざる可からず、果して然らば諸君に対して厚く御礼申上ぐると同時に我国商工業の至大なる発達進歩に対して諸君と共に満腔の祝意を表せざる可からず、思ふて玆に至れば我微々たる一家業の多少の発達に対する心祝をなすと共に、之れを大にしては邦家の為、又小にしては東京市の発達に向て愉々快々の情実に禁ずる能はざる次第なり
　尚弊倉庫部の営業は自分の名義に係れども、日常の事務は伜以下支配人其他掛りの者共に一任せる次第故定めし不行届勝の事と信ずれども、向後不相変御愛顧御引立の程謹んで御願申上ぐ云々
右に対し来賓を代表して横浜正金銀行取締役川島忠之助氏は左の挨拶を為されたり
　渋沢男爵の御辞に対し不肖が来賓諸君を代表して答辞を陳ぶるが如きは実に不倫を極むる次第なれども、頭髪の純白なるは不肖をして諸君中の最高齢の如き観をなさしむるものありとの仮定に依りて此潜越《（僣）》を恕せられたし
　偖今日は御開業後満十年の御祝宴に列し非常なる御厚遇を忝ふせるは感謝に辞なき所なり、元来倉庫業の一般商工業の補助機関として非常に必要なるは男爵の御高話の通にして、殊に最も厚き信用の基に於てのみ初めて之れが成立発達を見らるべきものなり、随分世間には不信用なる倉庫業者ありて却て経済界に害毒を流せし事其例に乏しからず、此間に於て男の如き最高の人格と最深の信用ある御方によりて此業の経営を見しは我経済界の為め非常の幸慶にして、現に既往十年間日一日と裨益を受くる事少からざるは我々の感謝措かざる処にして、願くは向後益御拡張相成り、更に二十年、三十年、五十年の御祝宴を挙げられん事を今日より切に祈る所なり云々
終て立食堂を開く、宴酣なる頃先生は起て来賓の万歳を三唱し、更に来賓岩出惣兵衛氏先生の万歳を三唱し、各自十二分の歓を尽し退散せるは五時過ぎなりき
当日は紀念として絵端書及末広を来賓に頒たれしが、右末広は先生の揮毫に係る自作和歌二首と、鈴木華村画伯の丹精に成れる百貨幅湊《（輻）》の図とを刷出したるものにして其歌は左の如し
　　天つ日の御旗のひかり世にたかく
　　　　　てりわたるまてみかけあきひと
　　商人のうりはひろめて四方の海の
　　　　　はてもとなりとなれる今日かな
右の内第一は商業発達に対する理想を、又第二は既往に於ける貿易発展の祝意を詠ぜられしものなり
当日来賓の重なるもの左の如し
　阪谷芳郎　　　穂積陳重　　雨宮敬次郎　　川島忠之助
 - 第14巻 p.369 -ページ画像 
　佐々木勇之助　酒匂常明　　浜口吉右衛門　岩出惣兵衛
　早川鉄治　　　加納友之介　佐々木慎思郎　柿沼谷蔵
　渋沢作太郎　　田中長兵衛　中村清蔵　　　臼井儀兵衛
　土岐僙　　　　磯村音介　　山口荘吉　　　太田利兵衛

竜門雑誌　第二三七号・広告〔明治四一年二月二五日〕

（八十島親徳）　日録　明治四〇年　（八十島親義氏所蔵）
一月四日　快晴
○上略渋沢倉庫部支配人諸井四郎氏ハ東亜製粉会社ノ常務取締役ニ就任ノ為強テ辞任ニ付、新年ト共ニ更任ノコトトシ、逐テ専任ノ後任者ヲ任命スル迄ノ間ハ、予ニ現任ノマヽ倉庫部支配人ヲ兼務スベキ旨去廿九日ノ同族会ニテ任命アリ、尤単ニ名義ノミニテ宜シトノコトナルモ兎モ角時々出頭シテ要点ヲ監視スルノ必要ハアリ、今日更任引継ノ為部長タル若主人同道出頭セシニ、諸井氏不参ノ為単ニ視察ト及ヒ写真撮影トニ留メ、引継ハ来ル七日ノコトトシ、夕刻帰宅ス
　　　○中略。
一月七日　快晴
○上略予ハ午後二時倉庫部ニ至ル、部長立会ノ上諸井氏ヨリ印章、重要書類等ヲ引ツグ、部長ヨリ一同ヘ更迭ノ披露アリ○下略
　　　○中略。
一月二十五日　曇
○上略
夕五時上野精養軒ニ至ル、京浜倉庫同業者ノ会ニシテ、今夕ハ渋沢倉庫ハ幹事トシテ東京倉庫支配人武市利美氏就職満十五年祝賀式ヲ行ヒ若主人ノ祝詞朗読、紀念金時計金鎖ノ贈与式等アリ、終テ丁寧ノ晩餐会アリ、九時散会
 - 第14巻 p.370 -ページ画像 
　　　○中略。
三月十二日　曇
例刻出勤、午後ハ松平隼太郎ト共ニ倉庫部十年紀念品注文ノ為生秀館ニ至ル○下略
　　　○中略。
五月廿日　晴
例刻出勤、午後倉庫ニ至ル、韓国視察員漢城共同倉庫会社員白寅基・金鎮玉等来訪ニ応接ス
○下略
　　　○中略。
八月二十日　快晴
○上略午後倉庫ニ出勤―別条ハ無ケレド米ノ出庫ノ為保管賃物《（貨）》ハ段々減シ、年初ノ三百五六十万ハ今ヤ二百六十万円トナレリ―五時過帰宅ス

渋沢栄一　日記　明治四一年
一月一日　曇　寒甚シ
○上略十時半兼子ト同車シテ兜町邸ニ抵リ、事務所員・倉庫部員及外来人ノ年賀ヲ受ク○下略

（八十島親徳）　日録　明治四一年　（八十島親義氏所蔵）
一月一日　曇　寒シ
○上略予ハ八時半ヨリ○中略回礼ニ出テ、途中浅野総一郎氏方ニ立寄リ、直ニ深川ノ倉庫部ニ至ル、玆ニ部長渋沢篤二殿ト共ニ部員ノ礼ヲ受ケ（部長ノ賀詞予ノ答詞）夫ヨリ兜町事務所○中略ニ至リ、十一時半着邸ノ青淵翁御夫婦ニ賀詞申述フ、門下来集スル人々例年ノ如シ、又本年ハ倉庫部員モ引連レ御前ニ出テ一人々々紹介申上ク、カクシテ翁ニハ二時ノ滊車ニテ国府津ニ赴カレタルカ、予ハ其前辞シテ○中略諸家歴訪夜帰ル○下略
一月四日　晴
○上略夕四時半ヨリ偕楽園ニ於ケル倉庫部新年宴会ニ一寸出席シ○下略
　　　○中略。
二月二十六日　晴
例刻出勤、午後利倉氏ヲ伴ヒ清水方ニ至リ釘吉・一雄・原・岡本・田辺其他幹部一同ニ会シ、倉庫新築ニ関シ各方式利害研究ヲ依頼シ、席上種々談話ヲ交換シ、且此頃兵庫和田岬ニ新築シタル東京倉庫会社ノ鉄筋コンクリート建築ノ実際ヲ始メ、其他阪神地方新築各新式倉庫ノ実況取調ノ為、我倉庫ヨリモ利倉氏ヲ派遣スヘキニ付清水方ヨリモ一人出張ノコトヲ希望シタルガ、結局田辺技師ヲ派遣スルコトニ内決ス○下略
　　　○中略。
三月九日　晴又曇
例刻出向シ、先ツ倉庫部ニ出勤ス○下略
　　　○中略。
三月廿四日　曇
 - 第14巻 p.371 -ページ画像 
例刻出勤、今夕清水方技師工学士田辺氏ノ関西地方倉庫建築法視察慰労且報告聴問ノ為兜町ニ一会ヲ催ス、清水一雄・原・岡本・田中・高橋等ヲモ招キ、部長・予・利倉・松平・川上等列席ス、鉄筋コンクリート式ニ就テハ同技師頗ル賛成スルノ結論ヲ有ス、予等モ可相成此式ニヨリタキ内意ニ付、実地予算ノ取調ヲ依頼ス
三月二十五日　曇雨
○上略午前倉庫部ニ出勤、田辺技師来リ、共ニ旧来ノ倉庫ヲ視察シ、且今回第一着ニ新築ヲ為スヘキ地点ニ付テ説明等ヲ為ス○下略
　　　○中略。
四月六日　曇
例刻出勤、午後ハ倉庫部出勤○下略
　　　○中略。
六月廿日　曇　午後夕立大雨
例刻出勤、夜兜町ヘ清水方ノ田辺工学士及高橋俊太郎ヲ招キ、利倉ヲモ会シ、此度仕様及積リ書出来ノ鉄筋コンクリート倉庫ニ関スル説明ヲナサシム
　　　○中略。
九月廿一日　晴
朝倉庫部ヘ出勤、鉄筋コンクリート第一回建築ノ分基礎工事ヲ終リ、柱ノ鉄筋組立ニ着手セリ
○下略
　　　○中略。
十月八日　曇
○上略夜利倉久吉来ル、倉庫部拡張ノ案（郵船会社七ツ蔵売却ノ様子ナルニツキ）ニ付テ也
　　　○中略。
十月廿三日　晴
○上略夜倉庫部員利倉・松平・木村・川上及□□《（原本欠字）》ノ五名来訪、兼テノ宿題ナル郵船七ツ蔵及茅場町荷捌場等ヲ買入レ、我倉庫ノ発展ヲ企テタシトノ意見陳述ノ為也

（八十島親徳）　日録　明治四二年　（八十島親義氏所蔵）
一月一日　晴　北ノ烈風
○上略兜町ニハ内輪ノ人々ハ素ヨリ倉庫部ノ役員等モ打揃ヒ、又平素別懇ノ人々打湊ヒテ男爵ノ来着ヲ待チ、十一時半男爵ノ着セラルヽヤ一同ソレソレ礼ヲオエ、来客ハ思ヒ思ヒニ退散○下略
　　　○中略。
一月三十日　晴　烈寒風
早起、滊車ニテ王子ニ至ル、今日ハ午前十時ヨリ同族会議アリ○中略夕方迄ニ一ト通リ結了、大部分散会セラレシモ予ハ居残リ、男爵ニ対シ○中略又倉庫部拡張トシテ郵船会社所轄茅場町倉庫買入案等篤ト御協議シ、何レモ同意ヲ得、積日ノ熱望ヲ稍達シタルハ愉快也○下略
二月一日　晴
朝例刻出勤、午後郵船会社ニ原田金之祐氏ヲ訪ヒ、南茅場町倉庫ヲ我
 - 第14巻 p.372 -ページ画像 
倉庫部ニ於テ譲受タキ旨公然申込ヲ為ス○下略
　　　○中略。
二月十八日　曇
例刻出勤、午前原田金之祐氏兜町ヘ来訪茅場町倉庫之件ニ付テ也○下略
　　　○中略。
二月廿八日　日曜　雨
午前男爵ノ書状ヲ携ヘ原田金之祐氏ヲ訪ヒ、南茅場町倉庫ノ件重ネテ依頼ヲ為ス○下略
　　　○中略。
五月廿二日　晴
朝久シブリ倉庫部ヘ出勤シ常務ヲ視ル、鉄筋コンクリート蔵ハ百坪一棟ノ内（三戸前）二戸前完成シ、残ルハ一戸前ノ屋根丈也、近来幸ニ米ノ手回リ多ク稍繁忙ヲ呈セリ、池埋立跡ヘ土丹《（亜鉛）》ノ納屋凡ソ二百坪ヲ新築ス、雑貨包蔵ノ為也、坪約十二三円、鉄筋コンクリートノ坪百四五十円ニ比スレハ非常ノ差ナリトイウベシ○下略
　　　○中略。
五月二十五日　晴
○上略
一昨年来予カ兼任スル渋沢倉庫部ハ旧状維持ニテハ他同業競争圧迫ノ為自然萎縮ヲ免レズ、発展セントセハ随分又困難忍耐ヲ覚悟セサルヘカラズ、併シ苛クモ事ニ当ル以上ハ発展ヲ期スルヲ可トストノ立論ヨリ、幸ヒ日本郵船南茅場町荷捌所地所家屋売却ニ際シ十五六万円ニテ譲受ケタシト去一二月ノ交以来交渉中ノ処、三菱ノ横槍ニヨリ終ニ東京倉庫・帝国倉庫及渋沢倉庫ノ入札ニ附セラルヽコトトナリ、今日入札ス、実ハ昨夕男爵ノ指図ヲ仰キシナリ、到底東京倉庫ノモノナルベシトハ乍思モ、大奮発ニテ十八万千五百九十円ト入札セシニ、一万四千円ノ差ニテ落札スルコトヲ得タリ、先ツ先ツ好都合乍ラ一喜一憂ニシテ、将来予ガ双肩ノ責任ハ容易ナラヌコトトナレリ
五月二十九日　晴
朝出勤、夕五時ヨリ兜町ニ於テ同族会開会、茅場町倉庫買入大体ノ方針ニ付テハ去一月内話アリシ丈ニテ、本日ハ事後承諾ノ提案トナリ、両博士等ヨリ異論アリ（事ノヨシアシニ非ス手続ニ付テ也）将来経営上ニツキ予等ノ責任益大ヲ加フ○下略
五月三十一日　晴
朝原田金之祐氏方立寄リ兜町ニ出ツ、第一銀行ニ佐々木氏ヲ訪ヒ、倉庫部向後ノ経営法ニツキ協議ス、同氏モ大分力ヲ入レテ考ヘ呉レラル
○下略
六月一日　晴
朝阪谷男爵ヲ訪ヒ、倉庫部組織変更方針ニ就キ内談ス○下略
六月二日　晴
例刻兜町ヘ出勤、倉庫ヲ会社組織ニナスニ付テ定款ノ調ハ昨日済、今日ハ利倉ヲ招キ予算調ヲ為ス
○下略
六月三日晴
 - 第14巻 p.373 -ページ画像 
例刻出勤、倉庫部組織変更ノ件ハ第一銀行ガ加入シ、株式ノ半高引受重役双方ヨリ撰出迄ノ内談（佐々木氏ヨリ）アリシニ、本日諸調書持参ノ際恰石井健吾上京同席トナリ、同人ハ銀行ガ此経営ニ干与スルノ利害ニツキ所説アリ、為ニ佐々木氏ノ意動ク、話ハ聊アト戻ノ気味トナル
南茅場町倉庫買受ノ件ハ本日愈十八万千余円ヲ払渡シ、地所建物共引取リタリ
○下略
　　　○中略。
六月二十一日　雨
○上略
倉庫部ノ組織ヲ改メテ株式会社トナシ、第一銀行ヲシテ株主タラシメントノ希望ハ、此程佐々木氏公然承諾シタルニ付、夫々案ヲ立テタレハ、今夜阪谷男ヲ訪ヒ、詳カニ申述ヘ賛成ヲ得タリ○下略
六月二十三日　曇　雨
○上略
十一時穂積博士ヲ牛込ノ邸ニ訪フ、竜門社雑誌編纂ヲ矢野由次郎ニ嘱托シタキノ一案及倉庫部組織変更案ニ付テノ相談ノ為也○下略
　　　○中略。
六月三十日　晴　夕ヨリ雨
朝出勤、夕兜町ニテ同族会開催、倉庫部ヲ株式会社トナスノ件、具体的ニ決議ヲ経先ツ一安心○下略