デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治7年4月（1874年）

小野組糸方ニ於テ仏国リヨンニ支店ヲ設ケ、生糸ノ直輸出ヲ試ミントシ、生糸外国送荷取扱略則ヲ頒布、渋沢喜作コレガ任ニ当ラントス。蓋シ栄一前年来ノ指導ニ出ヅ。然レドモ事行ハレズシテ止ム。

生糸外国送荷取扱略則（小野組糸方編）　　〔明治七年四月〕
　　　　稟告
蚕糸ハ本邦ノ名産ニシテ諸開港場貿易品ノ第一ニ位シ、中外人民ノ利用ヲ増スモノタルハ更ニ喋々ノ弁ヲ俟タズ、弊店ニ於テモ多年此商業ニ勉力シ、内地出産場ヨリ買集メ、横浜港ヘ輸送シ、欧米各国ノ商人ニ売渡来候得共、倩愚考スルニ、従来ノ商則ニ拠リ、内地限リノ売買ニテハ、欧米各国ニ於テ生糸商業ノ実況ヲ詳知シ得可ラザルハ勿論ニシテ、其品位ノ差等製作ノ巧拙価格ノ昂低モ亦之ヲ分明ニスル能ハズ徒ニ時々各国ヨリ逓送スル文書ト電信トニヨリ、内地各港ノ時価ヲ生ジ、其時価ニ従テ吾人互ニ競奔争趨スルコトナレバ唯全般ノ景況ニ応スルマデニシテ、其品物ノ真理ヲ尽シ、価格ノ実況ヲ究ムルヲ得ザルハ、吾人ノ共ニ亮知スル所ニシテ、豈浩歎ノ至リニ非スヤ、故ニ今般弊店ニ於テ仏蘭西国里昂府ヘ生糸商業ノ為メ開店ノコトヲ決シ、既ニ官府ニ具申シテ其允裁ヲモ得タルニヨリ、本年ヨリ其幹事ノ人ヲ派出シ、里昂府ノ紡織場ニ於テ実業ヲ試験シ、以テ本邦生糸ノ品位ヲ分明ニシ、価格ノ実況ヲ了得セントス、冀クハ四方此業ヲコトトスルモノ弊店ノ微志ニ協同シ、此開店ノ便宜ニ依リテ生糸ヲ彼地ニ輸送シ、其実際ヲ詳悉シテ此業ノ真理ヲ講明シ給ハンコトヲ、若シ其輸送ノ際荷物運搬ノ方法及代価為換受渡シ等ノ如キハ、弊店ニ於テ之ヲ担当シ、毎事誠実ヲ基トシテ、以テ各自ノ便益ヲ増シ、共ニ此業ノ昌盛ヲ稗補スベシ
　　明治七年四月　日　　　　　　　　　東京　小野組糸方
　本文仏蘭西国ヘ派出ノ儀ハ、本年五月ヨリ渡航ノ積ニ付、自然生糸
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外国ヘ輸送御望ノ方ハ、横浜中道五丁目小野組糸方マデ御申込有之度、然時ハ右送荷ニ付タル取扱方ハ当店ニ於テ取設ケアル略則ヲ御披露イタシ、尚巨細便宜ニ従テ御熟議可仕候也
　　生糸外国送荷取扱略則
　　　　第一条
生糸欧洲表エ差送リ、仏国始各国ノ織物場ニ於テ売払方ヲ欲スル方ハ其荷物ノ総高並生産ノ国柄ヲ横浜中通リ五丁目小野組糸方ヘ御申込有之、取扱振御商量有之度候事
　　　　第二条
生糸欧洲表エ運送ヲ望ム方々ハ其生糸品位之等級見込並貫目正何貫風袋何貫製造ノ国郡等毎箇番号ヲ以テ中札ニ相記シ、普通ノ荷造ニ致シ、右中札ノ通記入セシ荷物送状壱通相添ヘ、横浜小野組糸方迄御出荷可被成然時ハ同所着荷之節、送状面ニ照シ箇数貫目等相改、荷物請取証書差出シ可申事
　但貫目送状面等相違ノ節ハ其次第通達ノ上取許可申事
　　　　第三条
横浜港ヨリ欧洲表エ運送方並荷造其他諸事ハ、都テ小野組糸方ニ於テ引請取扱可申事
　　　　第四条
横浜港ヨリ欧洲表エ荷物運送方ハ船車安全請負相立候ニ付、若シ火盗難又ハ難破船等ニテ荷物損害出来候共、都テ郵船又ハ滊車請負ノ規則ニ寄テ、其代価ヲ償弁セシメ、決テ荷主ニ損失ハ相掛ケ間敷候、尤モ右様ノ変事出来候ハヽ、其始末早々荷主ヘ報告可申事
　但横浜港荷着後郵船エ積入前、並仏国表エ着荷船車請負方ヨリ請取後、本文之損害出来候節ハ、時下相当ノ代価ヲ見積、小野組糸方ヨリ償弁可致事
　　　　第五条
右運送船車賃並荷造賃船車請負料且横浜港始各国物品輸出入税金、其他右荷物ヘ相掛リ候諸費ハ、弊店ニ於テ立替仕払置キ、追テ右品売払ニ相成、欧洲表ヨリ代価相廻リ候節、右諸費ヲ決算シ、代価相渡シ可申事
　　　　第六条
生糸売捌ノ方法ハ小野組糸方ヨリ派出之者担当致シ、仏国リヨン表ヲ第一ノ場トシ、伊太里・瑞西ヲ第二トシ、独逸・英国ハ景況ニ寄テ臨気売捌ノ地トナシ、織物場始其筋商人エ申談シ、目下ノ景況相場等視察之上、売捌方致候事
　　　　第七条
欧洲表エ着荷ノ上ニテモ品価ノ高抵景況ニ寄リ馳引モ有之事ニ付、着荷即時又ハ時日遷引等、目下ノ考案ニ従ヒ、売払方遅速可有之事
　但荷主ヨリ別段申通モ有之候分ハ、目下ノ景況ニ不拘、売捌方遅速望ニ位セ可申事
若シ又荷主ノ考案ニヨリテ定限之差直段有之分ハ、其差直ヲ目途トシテ売捌方可取扱、尤モ時下ノ相場下落シテ差直ニ相届キガタク候ハヽ
 - 第14巻 p.461 -ページ画像 
電信ヲ以テ報知之上、其差図ニ従ヒ取扱ヒ可申事
　但右電信料ハ第五条諸費ノ中ニ相加ヒ可申事
　　　　第八条
仏蘭西始各国ニ於テ売捌ニ相成候荷物ノ代価ハ、第二条之通、其口限リ番号ヲ以テ相記シ、郵便船ヲ以テ速ニ荷主ヘ報告可致事
　但右売捌ノ摸様至急ニ承知致度節ハ、出荷ノ砌送状面エ右ノ次第ヲ記入致シ可申、左候得者別ニ電信ヲ以テ報告可申、尤モ電信料ハ第五条諸費ノ通追テ決算ノ事
　　　　第九条
売捌代価ハ各国貨幣トモ其都度英仏両国ノ内バンクエ托シ、為替金ニ取計、右為替手形横浜表エ相廻リ、現物取付ノ上、其時々ノ相場ヲ以テ洋銀ニ交換致シ、相渡可申事
　但右洋銀ヲ御国貨幣ニ交換方ノ儀ハ、荷主ノ望ニ寄テ其時ノ相場ニ従ヒ取許可申事
当店派出ノ者都合ニヨリ右代価ヲ為替ニ不取組、別ニ出張先ノ入用ニ振向候節ハ、右荷物売払相成候日附後、六十日限ヲ以テ其代価荷主ヘ相渡可申事
　但英仏貨幣交換方並洋銀相場等ハ其日限ノ当日相場ニ従ヒ計算可致事
　　　　第十条
仏蘭西表エ差送ルベキ生糸、横浜小野組ノ糸方エ出荷ノ節、荷為替トシテ、金子入用有之候節ハ、右出荷ノ時価ヲ概算シ、目下ノ景況ニ寄リ、概算高ノ二割減シヨリ三割減シ迄ノ金額ハ何時ニテモ立替御用立可申事
　但荷主ノ都合ニヨリテ本文割合ヲ相減シ候儀ハ御随意ノ事
　　　　第十一条
右荷為替金致候分ハ、追テ右荷物仏国其外ニ於テ売捌出来致シ、売払ヒ代価相廻リ候迄、代価相廻リ候義ハ第九条ノ手続通リタルベシ出金ノ当日ヨリ一日ニ元金高三千分ノ一ヨリ弐千四百分ノ一迄ノ利足割合ヲ以テ日歩利足小野組糸方エ請取候
　但右日歩利足ノ高低ハ手元金子ノ有無都合ニ寄リ候事
　　　　第十二条
欧洲表売捌方口銭始其外荷物取扱諸事ノ手数料ハ、物品売捌代価ノ百分ノ弐分五厘ノ割ヲ以テ、代価御渡之節、小野組糸方ヘ御払ヒ可被下候事
右十二条ハ当分物品取扱ノ略則ニシテ、尚欧洲表実際商業施行ノ上ハ諸事便宜ニ従ヒ更革候事モ可有之、且即今相洩候件々モ有之候ハヽ、出荷御望ノ方ト御面議ノ上、夫々書面ヲ以テ御約束致シ、毎事誠実ヲ基トシ取扱ヒ可申ニ付、四方同業ノ諸君ハ当店ヘ御申込ノ上、売捌方御試有之度候也
　　明治　年　月　日　　　　　　　　　　横浜港
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小野組糸方

生糸商店広告草案　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
 - 第14巻 p.462 -ページ画像 
　　　　広告
生糸ノ義ハは御国之名産にして外国貿易品之第一ニ有之、弊店ニ於ても多年右商業相営御国内出産之地より買集メ横浜港へ輸送し欧米各国之商人へ売渡来候得共、倩愚考仕候ニ従来之商法を以て内地限り売買取扱候而ハ欧羅巴各国ニ於て生糸商業之景況を察知し得ざる事ハ勿論にして、其品位之好悪製法之巧拙価格之区別等も不相分、唯時ニ欧亜各国より逓送する商業上の文書又ハ電信によりて構浜港之時価を生し、其時価之模様ニ従て内地之各商相互ニ競奔趨走いたし候迄にて其品物ニ対し（中絶）
　　○「東京、第一国立銀行」ト印刷セル罫紙ニ記セル栄一自筆ノモノナリ。
　　○渋沢子爵家所蔵文書ニ栄一自筆ノ稟告草案二通及ビ栄一加筆ノ「生糸外国送荷取扱略則草案」アリ、恐ラクハ栄一自ラコノ議ヲ唱導シタルナラン。
　　○明治七年十一月小野組瓦解シタルヲ以テ生糸輸出ノ結末ヲ明カニスルヲ得ズ。

（渋沢喜作）書翰　　渋沢栄一宛（明治七年）六月八日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝誦過夜は甚タ失敬仕候、且生糸荷造規則証書出来難有奉謝候、体裁も至極宜敷様偏ニ御高配之義と奉存候、内藤新宿勧業寮附之場所御見分之処先は可也乍去水質㝡上ニも無之候得共、殊ニ寄り其筋御建場之思召も可有之哉、当節右場之課長は岩山権助之持ニ有之由、乍去古谷は助ニも有之同様相関し居折々同所江出張御願配念も候様子御賢案之通古谷江御談之方都合候事と奉存候、同人宅は本所御蔵橋之脇ニて近頃興場候蒸滊仕掛之米麦抔乏春屋之向ニ有之候、則両国橋之二丁計北大川端之支流ニ御蔵橋有之候、尤も同人も昨日面会候処明日頃発途富丘表江立帰出張之積之様話談有之候、書外拝語可申尽候得共拝復迄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　匆々頓首
　　尚々小子発帖も十七日ニ御話申上置候処、昨日古川とも申談し兼而申上置候陸渡之生糸荷着之都合ニ寄り一船丈も出発ヲ延引候哉も難計、何も明日頃は拝馳可申上候　以上
　　六月八日　　　　　　　　　　　　　　　　　蘆陰拝
　　　　青淵老兄
　　　　　　　　　　玉几下
　　○太政官日誌ニヨレバ古谷簡一ノ勧業助ニ任ゼラレシハ明治七年一月九日ニシテ、同八年九月十八日ニ祭祀料ヲ下賜セラレアルヲ以テ、本書翰ハ明治七年六月八日カ或ハ同八年六月八日ノ執筆ニカヽルモノナルベシ、シカルニ第一国立銀行考課状ニヨレバ、栄一明治八年六月三日ヨリ七月五日マデ旅行中ナルヲ以テ、本書翰ハ明治七年六月八日付ト推定セラル。

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